●リプレイ本文
●会議室
「皆が頑張ってるけどバラバラ‥‥その原因は、個々が全体を理解できていないから。というのと。全体の方針が行き渡っていないから。の二つだと私は思うアルよ」
四国復興支援NPO「フロラ」の活動拠点。
その会議室で、フロラ代表の壮年の女性と、癖のある口調のカンパネラ学生‥‥芦川・皐月(
ga8290)が、向かい合って座っていた。フロラ代表は皐月の話の続きを促す。
「解決するには、ひとつの組織にすれば良いアル。ただ、統一するだけでは各方面からの反発がありそうアルね。そこで、組合制にして皆に加入してもらうアル」
彼女は、四国復興の仕組み作りとして、四国の様々な組織を組合制に組み込む、というものを提案していた。フロラ代表はそれを聞いて深く頷き、静かに言葉を紡ぐ。
「ただ、まとめ役は必要です。それについては、何かお考えですか?」
「代表とかは選ばず、『連絡係』みたいな形にすれば良いと思うアル」
「ほう‥‥あくまで裏方に徹する、情報担当といったものでまとめ役とするわけですね?」
「そんな感じアルよ」
難しい話は苦手という皐月だが、今は熱心に立案、説明中。自分の将来がかかっている、目指せ新生徒会役員、目指せバラ色の上場企業就職、と、かなりやる気満々だ。そんな若者の話に耳を傾けるフロラ代表も、事細かにメモを取り、時に質問を投げかけ、時に自分の考えを述べ、終始真剣に応じる。
しばらくすると、外出していたフロラメンバー数名が二人の話に加わり、資料や連絡先の束なども引っ張り出してきて、本格的な検討へ発展していったのだった。
●瓦礫分別作業場
「そっちの山は確認済みですから、分けちゃって大丈夫ですよ!」
土佐市南部。
埋立てられた広い空き地には、瓦礫の山々が連なっている。その中で働くのは、数機のKV、大型トラック、そしてヘルメット姿の人々。
瓦礫のひと山を指しながら、トランシーバーに元気よく声をかけているのは最上 空(
gb3976)だ。探査の眼やGooDLuckを使って、危険物や再利用できそうなものが紛れていないか探している。
「空は向こう確認してきますね! ここは頼みます!」
情報共有で好感度を上げ、周りに動いてもらいやすくすることで、自分の指揮能力などが審査で評価されないかな、と考えていたりいなかったりする空。今後は傭兵を続けながら、将来のために少々本格的に勉強をするつもりらしく、この審査に受かり、いち早く学園内での権力を手に入れようと狙っているらしい。
『‥‥ん。ちょっと。多いかな。悠。手伝ってくれる?』
『はいはい、今行く』
瓦礫の山を前にした最上 憐 (
gb0002)の要請に、時枝・悠(
ga8810) が答える。元の姿が思い出せなくなるような、赤くごっつく改造されたアンジェリカ‥‥その名も「デアボリカ」が、大斧を担いで方向転換。憐のウサ耳ナイチンゲール「オホソラ」の前にそびえる山まで移動して、分別作業を開始した。
KVの巨体が、鉄筋や街路樹の残骸などを抱え、三つの山に分けていくのを見ているのは「ヨツモト運搬」元社長とリミン。
「強力な戦闘機として見てきたが、こうして作業をしているとなにやら可愛らしい」
笑い含みに話す元社長に、運搬ルートを尋ねに来ていたリミンも笑顔で頷く。
「ところでお嬢さん、あれは戦闘用に見えるのだが」
その言葉に、リミンはもう一度頷いた。
「うん。あ、でも、戦闘の仕事じゃないから、今は武器として使えないように設定してあるよ」
やっぱり持ち込み禁止にしたほうが良かったかな‥‥と表情を曇らせたリミンだが、いやいや、と手を横に振られ、首をかしげた。
「嫌悪感がどうの、という話ではないんだ。ただ、その、あれは邪魔ではないのかね?」
作業用のピックでも使ったほうが楽だろうに、という話だったようだ。ああ、と頷くリミン。
「あの人、あれ持ってないと、調子出ないんだって」
「そんなもんなのか」
「そんなもんみたい」
そんな会話がされているとは露知らず、悠はコンクリートの塊をKVの片腕で掴み、引っかかっていた家屋の残骸を大斧でどける。コンクリートは憐のアンジェリカに渡し、残骸は別の山へ。
今日は、連携の仕組み作りのほうは得意な人に任せようそうしよう、と難しいことは考えず瓦礫分別の作業をしに来た悠。彼女はカンパネラ学生ではなく、LHへ来る前に世話になった親戚宅へ挨拶がてら、小銭でも稼ごうという気楽な参加だ。
そんな彼女は単純作業を黙々とこなしながら、少しだけ物思いに耽る。カンパネラ学園に聴講生として通った頃のことや、いつから足が遠のいたのだったろう、カンパネラが宇宙へ上がった頃か、だとか。
「あの学園も随分と変わったもんだなあ」
大地から宇宙へ上がった学び舎は、宇宙要塞という名で今は知られる。もちろん、変わらずそこで勉学に励む者もいるが、自分はそうではなく。
「‥‥ほんと、変わったよな」
長きに渡り戦斧を振るってきた山羊の手は、今はカンパネラ学生に指示されながら壊れた電柱をKVの腕で持ち上げ、不燃物の山に移しているのだった。
そんなこんなで数時間働き、作業現場の面々に若干の疲れが見え始めた頃、休憩のため一旦集合となった。
集合用のテントに集まった能力者及び作業員たち。もっぎゅもっぎゅと早くも口を動かしてエネルギー補給をしているのは憐。その手にはしっかり食料袋。横では姉の空がマシュマロの袋をしっかり持って、同じくもっぎゅもっぎゅと甘い物補給中。
そんな姉妹の様子には今更驚きもせず、審査員として来ているリミンは書類の束と睨めっこ。近くに悠が来ているのにはまだ気付いていない。
「休憩取らないのか?」
「へ?」
悠に声をかけられ、初めて顔を上げたリミン。
「休憩。忙しいだろうけど適度な休みも忘れずに」
そう言ってお茶の入ったコップを渡す悠。
「ところで、リミンと言ったっけか。この辺でさ、土産物を買うのに良い店とか、飯の美味い店とかある?」
「お土産はあんまりわかんないけど、パンケーキの美味しいお店なら知ってる!」
「それはリミンが今食べたいだけだと思います!」
横から空のツッコミが入り、えへへと笑って誤魔化すリミン。悠には改めて、ヨツモト運搬の人なら詳しいと思うよと言って元社長を呼ぶ。
「土産物か‥‥そうだな、鰹のたたきとか、その辺りかな。作ってる店が機能してるか確認できたら都合してやっても構わないが」
「それは助かる」
「どれくらい必要だ、5kgぐらいか?」
「‥‥いや、個人用なんで」
などと話しながら休憩時間が過ぎ、作業再開となった。
●再び、会議室
「組合制の活用方法としては、活動把握の他に何かありますか?」
フロラ拠点の会議室では、組合制についての話が進んでいた。
各地に支所を作り、組合員に復興に必要な物や資金を貸したり、安く売ったりする組織。しかしまだ他に出来ることは無いだろうか?
皐月が資料を眺め、話す。
「状況がわかるってことは、人手不足の場所もわかるアルね」
「そうなりますね」
「仕事の欲しい人にその仕事を回せれば、働き口の世話になると思うアル」
「なるほど、仕事の斡旋ですか。では仕事に必要な、知識や能力を身につける場があれば尚良さそうです」
「職業訓練アルか」
「すぐには始められないかもしれませんが」
と話すフロラ代表に、皐月は胸を張る。
「すぐ始められるようにするための組合制、アル」
「ふふ、そうですね」
自信たっぷりな皐月の言葉に笑顔で頷く代表。皐月は更に、
「広報とかで投稿を募ったり、イベントを開いたりして皆がお互いを知る機会を作れるアル」
と話す。そして、
「私が思いつくのはこれくらいアル。組合制、一体感が出て、良いことづくめアルよ!」
と笑顔で自分の提案を締めくくった。代表も笑顔を返し、
「この案、更に詰めていこうと思います。ありがとうございます」
少し驚く皐月。
「え、採用アルか?」
「全ては実現しないかもしれませんが、是非使わせていただきたいですね」
これは冗談でも、社交辞令などでもありません、と代表。
「正直なところ、目の前の仕事が膨大で、こういった繋がり作りまで頭が回らなかったのです」
「そんなに忙しいアルか」
「ええ。ですから今日は、本当に、ありがとうございました。‥‥あ、カンパネラへは悪くない報告ができると思いますよ」
ふふ、といたずらっぽく笑った代表。皐月の熱心さの由来が「目指せ高得点!」であることまで察した上で、重ね重ね、心からの謝辞を述べるのだった。
●再び、作業現場
「そこ、窪みがあるから気をつけて下さ‥‥‥不審物発見!」
空は、分別が進む瓦礫の山々の間から爆弾らしき物を発見し、警告。そして審査側へ指示を求める。
「不発弾と思われる爆弾を見つけましたよ! 処理はどうしましょうか!」
『今は非戦闘員が多い。作業員の安全確保と、爆弾の隔離を最優先に』
無線から、ヨツモト運搬の元社長から返答があった。空は了解の意を伝え、
「KV以外は、空き地の西側へ移動して下さい、慌てなくていいですよ!」
と明るく、しかし的確に周囲へ連絡。続けて、
「憐、悠はコンクリ山と木材山の南側へ、海側を回って来て下さい!」
分別された山を移動の目印にして伝える。憐から、
『‥‥ん。爆弾の。位置は?』
「金属山から南西へ50m程度、周囲には物が少ないですが、万が一にも金属山は吹き飛ばないようにしたいところです!」
悠からも無線の声が届く。
『なら、バリケードも兼ねた柵でも作るか』
「そうしましょう!」
バリケード作りに悠と憐の両機が奔走し、空はその支援。そうして30分ほどが過ぎ、隔離完了。
そんな騒動がありつつも事故や怪我などは無く、辺りが暗くなって作業終了となった。
「‥‥ん。リミン。お疲れ様」
「おつかれさま。‥‥あれ、そういえば、憐はなんで準備会に興味持ったの?」
憐が役員って意外な感じ、とリミン。問われた憐はといえば、目をそらしながら、
「‥‥ん。生徒会に。入って。学園の。カレーを。増量させようとか。考えて。ないよ」
などと嘯いている。
「あはは。‥‥カンパネラを、よろしくね」
どこかしんみりと言うリミンに、憐は頷いた。
「‥‥ん。私は。暫く。学園に。居ると。思うので。寂しくなったら。遊びに。くれば良い」
「うん、行けたらいいな」
「‥‥ん。それに。私も。リミンの。所に。遊びに。行くから。大丈夫」
「ほんと?」
きらきら。
「‥‥ん。本当。でも。リミン。新天地では。頑張りすぎない様にね。体壊してたら。遊べない」
釘をさすのも忘れない憐。
「はーい!」
「‥‥ん。困った。ことが。あれば。依頼を。出して。くれれば。手伝いに。行くよ」
「うん、ありがとう。頼りにしてるね!」
「‥‥ん。それじゃあ。また。会おう。ソレまで。元気でね」
●審査結果
カンパネラの学生として参加した芦川・皐月、最上 憐、最上 空は、それぞれに行動が評価を受け、三名とも審査通過。新しく編成されるカンパネラ学園の、新生徒会・準備会役員に任命された。(学生ではない悠にも役員任命処理が行われ、後日リミンが大慌てで「ごめんなさい!!」と悠へ修正・お詫びの連絡をしていたこともここに付記する。)
大戦争の終わった世界。そこで、新たな学び舎が形作られていくことだろう。新たな世代を歩む者たちへ、この言葉が贈られた。
鐘楼は、君に託す。と。