タイトル:蛇の穴 緊急救助要請マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/13 19:52

●オープニング本文



 グリーンランド。
 進路を考えとけ、と言われていたリミン(gz0469)は丸々一ヶ月悩み抜いた末、職員募集が行われ始めたグリーンランド内陸のとある施設への就職を選んだ。そこは、用意されたレールの上を進みながら生きてきた人々の、終の棲家。
「強化人間のホスピス、ほぉー‥‥」
「私と、似てるなぁって思って。あと、強化人間の中には、自分でそれを望んだ人も、そうじゃなかった人も、色々居るんでしょ?」
「‥‥そうだなー」
「いろんな人達に会って、何ができるのか勉強しに行くの」
「‥‥‥‥」
 仁王立ちで宣言したリミンに、教師は暫く黙る。そしてひとつ頷き、言った。
「忙しくなる前に挨拶やら面接やら済ませろー」
「忙しくなる?」
 首を傾げるリミン。教師は面倒くさそうに説明する。
「学園内組織の再編、その準備が近々始まるんだー。お前が就職予定なら今のうちにさっさと済ませて、学園側の手伝いに回れー」
「えー」
 なんでー、と文句を垂れるリミンだが今度は教師も引かなかった。
「うちの嫁に叱られたくなけりゃさっさと行けー」
「よめ?」
「‥‥そういや言ってなかったか、モアは俺の家内だー」
「うそー!? モア先生がー!?」
「嘘言ってどーするー、わかったらとっとと支度しろー。移動用に、ヘルヘブン手配しとくぞー」
「へるへぶ‥‥や、やだあああああ!! なななんでKVなのー!?!!」
「KV訓練時間が凄まじく足りてない奴、挙手ー」
「‥‥‥はぁーい‥‥」

 話を逸らされた気がする。
 が、何はともあれ自分の考えと決意が実現に向けて動き出す。胸が高鳴るのを感じ、両手を握り締めるリミンなのであった。(高鳴りの半分は『KVコワイ』による動悸だったかもしれないが。) 


 ナイトフォーゲルHL17500改ヘルヘブンRR『サムライ』‥‥四脚大型装輪、地上の走行に特化したこのKVが、なぜか時速20kmの超安全運転で、寒風吹きすさぶ荒地を進んでいた。
 パイロットはリミン。彼女は以前、不運な事故に遭ったために、KVでの地上走行が物凄く苦手だった。多くの人の協力によりどうにか再び乗れるようになったのだ。

 そんなこんなで、地下都市ゴッドホープ内・カンパネラ分校から、「KV操縦の補講」兼「施設見学」兼「就職面接」のために現在移動中。また、今日は外出許可を得て引率者と街へ出ているハーモニウム・セカンド2名がおり、彼らと途中で落ち合うことになっていた。
 ‥‥の、だが。

『‥‥キメ に襲わ‥‥籠城‥‥ ホス‥‥セカン‥‥ 救‥‥』

 合流場所が見えて安堵の息を吐いていたリミンの耳に届いたのは、ノイズだらけの無線通信。
 辛うじて拾い上げた言葉の切れ端から、待ち合わせている人達が、合流場所から救援を求めていることに気づき、数秒悩む。

 戻って援軍を呼ぶか。‥‥周辺に離陸できそうな場所はない。移動は全力の地上走行となろう。正直怖い。
 ではこのまま乗り込んで援護するか。‥‥だが敵の規模は不明、殲滅する自信があるわけでもない。

 逡巡の後、顔を上げ、リミンは無線機に言った。
「こちら、リミン。今、待ち合わせ場所の近く。ノイズが酷い、大急ぎで援軍連れてくる。2時間、待てる?」
『‥‥そらく、それくら‥‥なら』
「わかった、待ってて、持ちこたえて!」

 覚醒し、巡航状態から高速二輪モードへ移行、全力の移動を開始。
 少しでも道のある場所ではブーストも使って瞬間最高速度750km/hを叩き出し、不整地でも全速力の300km/hで駆け抜けた。何度転倒しそうになったか。へし折った木や吹き飛ばした岩など数知れず。
 だが。閉じ込められ、動けない場所を敵が包囲する恐怖をリミンは知っている。脳の隅に焼きついているその恐怖を。だから彼女はヘルヘブンを飛ぶような速さで走らせる。最早これは綱渡りと言えよう。天国と地獄に挟まれた曲芸を始める決意をした数分前の自分を心の底から呪いながらも、同じくらい強い気持ちでこれを成功させたいと思っていた。

 そうして燃料切れまであと数分、というぎりぎりの状態でついにゴッドホープへ帰還。何事かと出てきた教師に状況を伝え、緊張の糸が切れたリミンはそのままぱたりと気を失い、医務室へ運ばれたのだった。


 カンパネラ学園は傭兵による援護を依頼。
 それを見た斡旋所の職員の一人が、以前同じような場所でキメラ討伐依頼があったことを思い出し、資料を確認した。その結果、小規模のキメラプラントが存在する可能性アリ、と判断が下され、依頼内容にプラントの発見及び破壊が加えられた。

 プラントのある場所として考えられるのは隣接の林か建物内部だが、いずれも過去の簡単な調査では異常なしとされている。
 隣接の林、というのは建物の北側に広がる直径200m程度の小さな林のことで、元々岩だらけだった場所にどうにかこうにか植樹して出来た人口の防風林だ。
 建物のほうは石造りで、2階がある。これは街と街の中間地点にあり、建物から半径5kmは荒地。昔は通信所だったが今は使われておらず廃墟と化している。機能していた頃の図面なら入手可能だが、現状と異なる部分は多いと思われる。

 遠目に数体視認したというリミンの報告では、キメラは蛇型、体長50cm程度。
 これらの特徴は、過去の依頼で出現したものと一致。過去の依頼資料によれば個体は発熱しており、能力者でも直接触れれば火傷するという。気温マイナス30度でも関係なく活動できている所以かもしれない。また、体自体は強靭ではないものの、毒を持ち危険。
 過去には軽く20体を超える数が出現したらしいが、倒しても倒しても減らない、などの現象は見られなかった。

 これらの情報を足された依頼が1件、斡旋所の一覧に追加されたのである。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文



「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
 高らかに言って仁王立ちするのは三段型の雪だるま‥‥姿の、ドクター・ウェスト(ga0241)。相変わらずだなぁ、という顔で雪だるまを見ながら横に立っているのは、軍用外套やボアブーツ等で防寒対策済の夢守 ルキア(gb9436)だ。
「今日はよろしくね」
 彼女がそう言うのと同時に高速艇が発進した。

「自分の知りたいことがある場所へ行く‥‥リミンさんらしい『区切り』です」
 小さく言ったのは遠倉 雨音(gb0338)。四国で行動を共にした少女が、グリーンランドへ戻るか否か悩んだ際に相談に乗ったことを思い出す。同じく相談相手になっていた智久 百合歌(ga4980)や最上 憐 (gb0002)が頷いた。彼女らもまた、この極寒の中で戦うため防寒具を十全に整えている。
「応援を呼んだ彼女の判断と、苦手なKVを疾駆させた気概には応えなきゃね」
 ふふ、と笑って話す百合歌。
 話題にされているリミンはというと、 
「みぎゃぎゃ!」
「みぎゃー?」
「みーっぎゃっ」
「みぎゃー!」
 ‥‥竜の着ぐるみとおしゃべりをしていた。
 えへん、と胸をそらしている竜(中身はミリハナク(gc4008))を見て、よくわからないまま何か感動しているリミン。意思疎通ができているようには見えないが、その辺はあまり気にしていないらしい。

 場所は変わって、岩の多い小さな防風林。
 竜の声が、木々の間に響き渡る。
「みぎゃぎゃー!」
 それは宣戦布告の声。‥‥である、たぶん。着ぐるみ姿のミリハナクは、遭難者と合流しに行った他の傭兵たちと一旦分かれて林へ到着。意気揚々と蛇型キメラの姿を探し始めた。

 石造りの小さな廃墟。
 離れた場所からそれを指してリミンが言う。
「あれが、合流の目印だった場所」
 その周囲に太い蛇の姿が10と少し、捜すまでもなく地を這う姿が認められた。直径10cm程。
「‥‥今、色が変わりませんでしたか?」
 双眼鏡で観察していた雨音が、不意に首をかしげながら言った。よくよく見ていると蛇はまるでカメレオンのように、周囲の色と対応して体色が若干変化するようだ。雨音から双眼鏡を借りてじっと見つめ、頷いたのは憐。
「‥‥ん。変わった。近づかれてるのを。見逃さない。ように。気を付けるべき。だろうね」
 そんなキメラを前にして、傭兵たちは自分の装備を確認。
 超機械を駆使するはドクター。銃使いはルキアと雨音だ。刀にサブウェポンのショットガンを提げているのは百合歌。大鎌を担いだ憐の隣には、エネルギーガン一丁を抱えるリミン。
 エネルギーガンをギュッと持つリミンの肩を百合歌が叩く。
「貴方は被害者の気持ちが分かる人。忘れたい記憶でしょうけれど、忘れない事も大切なのかもしれないわね」
「‥‥私も、そう思う」
 頷いたリミンに百合歌は微笑み、頷き返す。
「それじゃ、超特急で救助に行きましょうか」

 一斉射撃。電磁波や火炎弾がキメラへ降り注ぎ、煙を上げながら掃討されていく。
 数分と経たずに地を這うものは焼き消された。残る敵がいないことを確認し、傭兵たちは建物へと進む。

 古びた石壁のあちこちから隙間風が吹き込んできた。が、どこかで暖房が稼働しているかの如く、屋内には温もりもあった。熱を発する蛇キメラによるものらしい。
「‥‥ん。リミン。この中の。どこで合流とか。決まってた?」
「ううん、この建物自体が目印だったから、この中は全然知らない」
 首を振るリミン。
 百合歌が図面を取り出し、
「とりあえず、これを見ながら捜索場所を決めましょう」
 と言って傭兵たちを呼ぶ。この建物の古い図面だ。当時と今とでは違う部分も多かろうが、無いよりずっと良い。
 現在地にマークする雨音、それを見てルキアがペイント弾を床に撃った。パン、と良い音がしてルキアの足元が黄色く染まる。隙間だらけ、壊れた壁や廊下だらけの廃墟を眺めて苦笑。
「ここは玄関だったんだろーけど、玄関になっちゃいそうな場所は他にもいっぱいあるっぽいからね」
 それを聞いて、背高のっぽの雪だるまがぼやく。
「あ〜あ、ひとまとめに爆破してしまえば話は簡単だというのに〜」
「デューク君てば、物騒なこと言わないの。無茶苦茶したらスブロフ飲ますよ?」
「フン」
 救出対象に対してあまり好感を抱いていないドクターはルキアに顔を覗きこまれてそっぽを向く。ドクターの内心をある程度知っているルキアだが、度数の高いアルコール飲料が入った瓶を振り、軽い調子ながらもしっかりと釘をさす。無論、ドクターも仕事を引き受けた以上は周囲と協力するつもりのようだ。
「リミン君。我輩は忙しいから、救助と護衛は任せたよ〜」
「わかった、よろしく」
 リミンが頷いたのを確認し、雪だるまなドクターは丸い体へ両手を一旦引っ込める。しゅぱっと出した手にはエネルギーガン。
「何はともあれ進もうか〜」
 言って、天井から無用心に落ちてきた蛇キメラを1体、その場で消し炭にしたのだった。


 百合歌が無線を使い、遭難者たちとの通信を試みる。リミンが最初に遭難者たちと通信した時のチャンネルを彼女に伝え、百合歌は暫くノイズの海を進む。ザザザ、という音が減った。マイクに話しかける。
「こちら、傭兵による救助チームです。リミンさんからの要請で先ほど到着しました。聞こえますか? どうぞ」
『良かっ‥‥2階の一番奥の部屋に‥‥ってる、負傷者2名、片‥‥毒で体力が‥‥ぞ』
「2階の一番奥、負傷者2名、了解。これから向かいます、あと少し頑張って」

 途切れ気味な通信を終えた一行は、時折物陰から飛び出すキメラに数秒の足止めを食らいつつも上階へ。前に立って曲がり角から様子を窺ってきた雨音が戻り、
「敵数20前後。目的の部屋と思われるドアの前に集まっていました」
 それを聞いて少し体を固くしたリミン。気付いた憐が
「‥‥ん。合流まで。あと少し。ファイト。ココが。踏ん張り所だよ」
 と小声で言う。続けて雨音や百合歌に伝える。
「‥‥ん。じゃあ。先に斬り込む。引き付けるから。援護よろしく」

 それを聞いて、ドクターが何も言わずに先見の目を使用。エミタ経由で周辺情報を他の4人に伝達。
 と、ほぼ同時に風を纏う猛禽の如く飛び出して、蛇の群れを急襲したのは小柄な姿。大鎌の柄が風を切って鳴き、その刃が数体の蛇を寸断した。動きの乱れた群れの中から、憐は素早く場所を移す。
 彼女が居た場所を埋めたのは弾幕。百合歌と雨音のショットガンとサブマシンガンが銃撃音を石壁へ大反響させながら、廊下を広く穿って群れの動きを制した。
 常人であれば耳がおかしくなるような轟音の中、弾幕の面と面の隙間に逃れたキメラを素早く焼くのはドクターとリミン。止めをさして回る憐を邪魔せぬよう、的確に狙って射抜いていった。


「みぎゃ」
 大反響は外の林まで届いていた。
 見つけた蛇には手当たり次第重機関銃を向け、近づかれたら遠慮なく踏んづけていたミリハナク。盛大にばらまかれる弾丸の音に気付いて、顔を上げた。
「みぎゃぁ」(始まったかしら)
 狭いところで大変そー、と思いながら、踏んづけた蛇がしっかり潰れたか確認していたが、すぐ銃撃音は止んだ。
「‥‥み?」(もう?)
 あんまり居なかったのかしら、とも思ったが建物突入組の顔ぶれや武装を思い出し、こんなもんかしらね、と思い直す。そうして竜は、噛み付いてくる生意気な蛇を踏み潰すお仕事を再開したのだった。


 キメラを一掃、部屋へ向かう一行。
 ノックしたドアを開けたのは壮齡の女性。部屋の中には少女が2人。気の強そうな少女が壁に背を預けて座り、その腕に色白な少女を抱きしめながら、傭兵たちを見つめていた。
 ドアを開けた女性‥‥ハーモニウム・セカンドたちの引率者が、色白の少女の傍に戻りながら助けを求める。毒を受けたようで消耗が激しい、と話す彼女自身も能力者であり、練成治療はできるものの解毒手段は持ち合わせていないという。
 ルキアが進み出て、ぐったりと目を閉じている少女の前に屈んだ。微笑む少女が、目を開けない少女にそっと触れる。ふわり、と赤い輝きが少女を包む。ふわり、ふわり、と幾度か煌きを放った。
 少女の瞼が震え、薄く目を開き。
「大丈夫? 気が付いた?」
 笑みを深めたルキアに、ようやく焦点の合った目で少女が頷いた。
 それを確認し、傭兵たちが動き出す。
 憐は引率者の女性に尋ねる。
「‥‥ん。合流予定場所は。外だった。って聞いた。どうして。ここまで?」
「キメラに車を壊されてしまって、咄嗟にここへ逃げ込んだんです。でも、中も蛇だらけで‥‥階段には蛇が少ないように思ってこちらへ上がり、どうにか立て篭もりました」
「‥‥ん。この部屋は。安全?」
「今のところは。敵影は有りませんし、隙間など無いかも確認しましたが、見当たりませんね‥‥一番しっかりした部屋に飛び込めたのかも」
 その話に頷いて、憐は後ろを振り返る。自分の荷物から袋をいくつかリミンに渡し、
「‥‥ん。リミンは。護衛だね。危険を感じたら。避難も考えること。しばらくはチョコとか。カレーでも。食べてて」
「チョコ!」
「リミンさん、これは栄養補給のための物なのを忘れないでね?」
「‥‥はぁい」
「‥‥緊張してる?」
「‥‥‥少し」
「大丈夫よ。私達は周りでキメラを食い止める。それにリミンさんもちゃんと戦って来たんだもの、落ち着いてね?」
「うん」
 そんな会話を小さく微笑みながら背中で聞きつつ、雨音は外へ出る装備の確認をする。
 また、ルキアは遭難者らの治療を済ませ、今は石の壁に耳を付けて音や振動の類が感知できないか試みていた。しかし冷たい石から伝わってくるのはこの場にいる者たちの足音、物音ばかり。
「うーん、音は聞こえないね」
 その横で、『強化人間など‥‥』と舌打ちせんばかりの雪だるま‥‥もといドクター。少女たちを視界に入れないようにしながら、ルキアに
「そろそろ行こうじゃないかね〜」
 と声をかけた。頷くルキア。
「そーだね。とりあえず、数の多い1階に戻ろうか」


 ドクター、ルキア、そして百合歌は建物内でプラント捜索。
 それに対し、憐と雨音は林へ行ってミリハナクと連絡を取る。が、まるっこい竜が散々暴れた林にはもうほとんどキメラは残っていなかった。ミリハナクからの無線連絡を受ける憐と雨音。
『あとは地下があるかどうかだと思いますの。捜索よろしくお願いしますわ』

 建物捜索組の3人は、蛇の多い方へ、多い方へと進んでいく。
 丁寧に、時に景気よく、蛇キメラを殲滅しながら進むがプラントらしきものは見つからない。しかし、その途中で無線機に入ったミリハナクの言葉に、ルキアが少し立ち止まる。
「地下、ねぇ‥‥」
 ふむ、とどこか楽しげに微笑みながら考えるルキアに、百合歌が手元の図を見つめて呟いた。
「図面上は無いようですが‥‥」
「‥‥隠し階、とか?」
「‥‥有るかもしれません」
 蛇の多い場所、床、壁を入念に探る。そして遂に、ドクターが当たりを引いた。
 ひときわキメラが溜まっていた部屋の隅に、ほんの少し動く石畳があり、注意深くそれを持ち上げるとそこには小さなレバー。
「おやおや、これがバグアの工場への扉かね〜?」
 いちにのさん。

 ゴゴゴゴゴ、ズドン、ドカン、バキン、と何か大きな物が壊れ崩れる物音が足元で鳴り出した。

「‥‥?」
 てっきり、隠し階段でも現れるのかと思ったがそのような気配は無い。
 ルキアが大声で呼んだ。
「デューク君てば何ぽかんとしてんの、逃げるよー! ドアノブじゃなくて自壊スイッチ押しちゃったみたいだね!」
「なに〜!?」
 想定外の出来事に、口から魂がひょろろんと飛び出したドクター。
 ルキアは含み笑いをしながらその首根っこを掴み、無線機片手に出口を確保している百合歌のほうへ駆け出した。百合歌は部屋の周辺の安全を確認しながら、無線のマイクに呼びかける。
「リミンさん聞こえる? 今プラント発見したんだけど、自壊も始まったの。危ないから今すぐ外へ退避して」


 林捜索組と、一足早く建物から離脱した建物捜索組が外で待つ中、リミンと引率者がそれぞれ少女を抱き上げて建物から飛び出してきた。
 途中、崩れるブロックの直撃を被ったらしく引率者の上着が大きく裂けている。ルキアが気付き、ぬるま湯(すぐ冷えて水になるのだ)と消毒薬で素早く清潔にして練成治療を施し、防寒シートをかけてやった。
 その横で、リミンがハーモニウム・セカンドたちにチョコを割って渡している。ちゃっかり自分も齧りながら、
「体、どう? 歩ける?」
 と体調を問う。
「うん」
「へいき」
 少女たちは、まだ顔色こそ悪いもののだいぶ回復した様子だった。
「そっか。よかった。‥‥こんなとこ、合流場所にしなきゃよかったな‥‥ごめんね」
「あなたがわるいの?」
 気の強そうな、黒いワンピース姿の少女が問うた。純粋な疑問として、その問いを唇に乗せる。
「あなたのせい?」
「私がキメラを、けしかけたわけじゃないけど。でも、確認しないでここ選んだのは、私だったから」
 だからごめんね、とリミンは少女たちと引率者に謝った。ぺこりと下げたリミンの頭を、少女たちが、いいこいいこ、と撫でる。

 そんな彼らを眺める傭兵たちの心境は様々。
 強化人間など見たくもない‥‥とそっぽを向いている者、余所を向いている者の心境を考えてみる者、リミンの変化を感じる者、彼女のこれからを思う者、お腹すいた‥‥と携帯品をあさる者、自分の着ぐるみを自慢しに行く者。
 例え摂氏−30度の極寒の中であろうと、人の思いは凍えることなく灯るのだった。


 後の細かい分析で、蛇の穴は敵の攻撃を感知すると一時停止し身を潜め、敵のプラント侵入によって自壊する物、として作られていたことが判明した。自壊したプラントは完全にキメラ生成機能を失っており、彼の地には漸く冷たい平穏が訪れたことをここに付記する。