●リプレイ本文
●準備
UPCからの急な要請に応えたのは8名の傭兵たちだった。
「機体の修理も終わらない内に‥‥か、あちらさんも必死と見える」
そう言いながら、数枚の紙を手にしてやって来たのはゲシュペンスト(
ga5579)。調達してきたのは、戦場となるドームの見取り図だ。1枚を残し、7枚を受け取ったアルヴァイム(
ga5051)がそれを今作戦参加者に配りつつ
「生身班は設置が予想される爆弾への対処と、一般人の退避支援を行います。照明銃が退避完了の合図です」
と一同に連絡する。はーい、と明るく返事をしたのは山下・美千子(
gb7775)。
「あたしはキメラ専門。榊原アサキは突入班に任せた!」
ルノア・アラバスター(
gb5133)が隣で途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「アサキ‥‥。あぁ、随分前に、配下の方、戦いましたっけ‥‥」
それを聞いているルナフィリア・天剣(
ga8313)は、
(三姉妹のアサキねぇ。誰だか知らんがまぁいいや、撃ってくるなら敵、敵なら倒すだけだし)
と思いながら見取り図に目を通す。敵の素性にはまるで興味の無いルナフィリア。逆に興味津々で、もう何度もアサキと顔を合わせているのはミリハナク(
gc4008)だ。
「是非ともアサキちゃんの悔しがる顔が見たいですわ」
ふふっ、と艶やかな笑声を溢す。それを眺める宗太郎=シルエイト(
ga4261)はあまり表情を変えず、しかし捕らわれた人々を思って
「何はともあれ人質に被害は出したくないですが、さて‥‥」
と嘆息する。そして口調が変わった。
「そういやぁ敵さん、槍で突撃かけるんだっけか? なら、なおさら負けられねぇな」
その顔は闘志を隠さない。覚醒した宗太郎の言葉に頷くのはハンフリー(
gc3092)。短く、言った。
「目に物見せてくれよう」
いざ、虎口へ飛び込まん。
●突入
KVに搭乗した6名はタイミングを合わせ、ドーム出入口5か所のうち3か所へ接近。巨大な狼型キメラたちがそれに気付いた時にはもう、KVが各所で斉射。巨大な敵から弾丸とレーザーの雨を浴びて怯んだ数体のキメラを狙い、突破口を開いた。
ルナフィリア機とハンフリー機はその勢いを殺さず、進路前方に居るキメラにのみ攻撃。ドーム内部への進入を果たす。
ゲシュペンスト機も、美千子機の攻撃で撹乱されるキメラを銃撃で散らして突破、ドーム内部へ。
また、騒音、轟音の間を縫うように走り抜けた者たちが居た。ミリハナク、アルヴァイムの2名である。美千子機・竜牙が尾を振り脚爪を踏み鳴らす中、ミリハナクが後ろにアルヴァイムを乗せ、バイクで出入口まで急接近。そのまま乗り捨て、ドーム施設内へ。
宗太郎機とルノア機はキメラ掃討を優先。宗太郎機は剣と銃を使い分け、施設への誤射が無いよう狙いを付ける。ルノア機は盾を構え、出入口と狼キメラの間に無理やり割って入った。施設を背にして守りつつ自動攻撃バルカンや剣でキメラの動きを止めていく。
死角に回り込んだ1体の巨大なキメラが体当たりしてきて体勢を崩すも、冷静に丁寧な動きを徹底するルノア機の敵ではなく。華麗な動きで立ち直ったルノア機はその勢いを殺さず、飛び掛ろうとしたキメラにとどめをさした。周囲は沈黙。
宗太郎機は出入口を離れ、それを見送ったルノア機は出入口に残って付近調査を開始した。これが終われば避難誘導、やることは多い。
アルヴァイムは施設の見取り図を元に、構造上重要と思われる柱や設備を確認、施設裏側の狭い通路を注意深く進む。
ミリハナクは肩に大掛かりな武器を担いで、周囲へ優雅に視線を巡らしながら広い通路を進む。
ふと、ミリハナクの耳に話し声が届いた。見取り図を見やると、ドーム内の会議室や更衣室などが集まる場所のようだ。そちらへ向かうと、客席から退避してきた人々が室内や通路に溢れかえっていた。
ミリハナクはその中から警備員を探し出す。救出にきたことを伝え、避難する人々に声をかけたいと頼み、人々が集まる場所を順に訪ね、彼女は人々に話しかけた。
「皆様安心してください。悪い人達はすぐにいなくなって解放されます」
本当に? という声にも、ミリハナクは確信のこもった声、表情、仕草で頷き、答える。
「はい。ですから、落ち着いて、もう少しだけ辛抱してくださいね」
そのとき、競技フィールドのほうから重く速い銃撃音が響いてきた。KVと、タロス・ティターンの交戦開始である。耳を打つ戦闘の音に恐怖や不安の表情を浮かべる者は少なくない。しかし、ミリハナクは微笑んだ。
「敵は別の戦闘で機体に損傷を受けたまま来ています。自由に動けない機体など、ただの大きな的ですわ」
そして続ける。
「皆様は焦らず、誘導の声があればしっかりと耳を傾けて頂けますね?」
多くの者が、それを聞き届けて頷いた。
ハンフリーのヴァダーナフ。
ルナフィリアのパピルサグ。
ゲシュペンストのスレイヤー。
競技場内へ通じる広い入口が無かったことと、施設損壊を回避する傭兵たちの方針上、突入は細めに開いたドームの屋根からのみとなった。ブーストで跳躍した3機。
敵機は楕円型のドームの隅に、カスタム・ティターンをタロス5機が囲む形で待ち構えていた。
ばらけて突入するKV3機、タロスは3機・2機に分かれ、前者はその場で射撃を開始。榊原アサキのカスタム・ティターンは動かない。
「敵機に遠距離武器は無い、が‥‥ここは敢えて!!」
ゲシュペンスト機がその身を躍らせ客席を飛び越え前進。動きの速さを警戒したか、タロス2機が両方ともゲシュペンスト機の接近戦に応じた。タロスの巨大なハルバードが打ち下ろされる。
「2機でその程度か」
斧はゲシュペンスト機が構えた二振りの機剣へと噛み付くだけに終わった。ゲシュペンストは愛機に命じる。
「切り刻め、ゲシュペンスト・アイゼン!!」
機剣が閃く。それは左のタロスの肩を抉り、右のタロスから斧を叩き落とした。
直後浴びせかけられた鞭の打撃、淡い水色の熱線、そして炎によろめくタロス。敵を減らす速さを優先し、援護に来たルナフィリア機とハンフリー機、そしてたった今到着した宗太郎機によるものだ。ノイズで聞き取りにくい中、通信が交わされる。
「こち‥‥が蹴散ら‥‥番だ」
「おう‥‥っさと潰しちまおう‥‥動きづら‥‥かなわねぇ」
2対4となり、一瞬劣勢になりかけた戦況が瞬く間に持ち直す。互いに近付いてようやく通信が繋がるようなこの状況下で、見事な連携。
しかし、それでも赤紫色のティターンは、まだ動かない。
●一掃
一般市民を落ち着かせ、警備員から情報を得たミリハナクが奇襲の為に移動しつつ、黒子ことアルヴァイムに連絡を入れた。
敵が時限爆弾を設置していること。
警備員は一般市民を一か所に集めておくように命令されたこと。
軍へ情報を流したら殺すと言われ口止めされていたこと。
「‥‥成る程」
ノイズが多く聞き取りづらい音声を伝える無線を手に、呟くアルヴァイム。
既に手際良く発見していた爆弾を前にしてスキル「電子魔術師」を併用し、爆弾の解析を始めた。バグアとは、他人の知識を奪って利用する存在。この時限爆弾が人間の作るものとよく似ている可能性は高い。であれば‥‥。
その思惑は的中。抵抗か悪あがきのようなノイズが多数発生して解析を阻害するものの、時間をかけて時限爆弾の細部は解かれ、やがて沈黙。
アルヴァイムは(先程の情報で既に設置場所の見当が付いている)次の爆弾を解体すべく、その場を去るのだった。
一方、ドーム外のそれぞれの出入口でキメラ対応に専念するのは、美千子機。
美千子は竜牙に乗って、巨大な狼型キメラたちを率いる存在が無いか観察しながら、出入口に集まる狼たちを倒し、1か所ずつ解放していた。
「どれかな? これじゃないよね、雑魚っぽいし‥‥」
突き刺した剣をズッと引き抜き、素早く下がって敵をまとめて視界に入れ、不意打ちを避ける。ヒット&アウェイを繰り返し、4体目にとどめをさす。
敵が完全に沈黙したのを確認し、別の出入口へ移動。すると遠吠えらしき物音をセンサーが感知した。
「見ーつけた」
ひときわ大きな狼型キメラが座っている。体長はホッキョクグマほどか。竜牙の巨体にも怯まず、のそりと立ち上がり一声吼えるとキメラたちが散開。おまけに、まだ行っていない出入口からも狼が援軍に駆けつけた。
美千子機は近くのキメラに攻撃、と同時に、横から奇襲しようとしたリーダーのキメラ。だが美千子はその動きを読んでいて、ブン、と振った竜牙の尾でキメラの横っ面を張り飛ばした。ドウ、と地響きを立てて倒れる敵。美千子機はすかさず接近、脚爪で踏みつけ、オフェンス・アクセラレータを起動、機剣でその首を刎ねた。
後に残るは烏合の衆。美千子の竜牙「マックス」の独壇場だ。千切っては投げ、蹴り飛ばしては撃ち殺す。数体に飛びつかれたところで振り落とし、或いは切り捨てる。そして、立っているのは「マックス」だけとなったのだった。
ドーム内部、競技場内。
そこでは間断無く攻撃の応酬が繰り広げられていた。
アサキ機は相変わらずドーム最奧に立って禍々しい姿で待ち構えている。それを守るように並び立つタロス3機。幾閃ものフェザー砲。
傭兵たちはそれらをかいくぐり、或いは盾でなんとか防ぎながら、ドームの反対側でタロス2機の息の根を止めたところである。
『意外に頑張るわね』
大破したタロス2機を見遣った赤紫色のティターンからと思しき榊原アサキの声が、競技場内のKV各機に届いた。
『そろそろ暴れさせてもらおうかしら』
アサキはそう言って、カスタム・ティターンが右に槍、左に盾を構える。
そのとき。
照明弾が打ち上げられた。アルヴァイムの行動完了の合図だ。
何事かと注意をそらされた敵。ほんの数秒だが、その短い時間は戦況を一変させた。
ルナフィリア機は待ってましたとばかりに主武装を鞭からレーザー砲に変更、攻撃開始。
撃ち終わると同時にゲシュペンスト機がブーストで一足飛びに肉薄、アサキ機正面のタロスに突撃。
宗太郎機も重量のある槍を担いだまま接近に成功。
ハンフリー機も、ゲシュペンスト機がよろめかせたタロス1機にレーザーを浴びせ、競技場の土に膝を付かせた。
膝をついたタロスは立ち上がる時間も惜しんで迎撃。健在の2機もそれに続こうとしたが、背後に聞こえた着弾の轟音に戸惑った。
ミリハナクの奇襲である。
『どこからッ!』
カスタム・ティターンに直撃した攻撃の主は、既に姿を消している。代わりに見えたのは回転する巨大なドリル。
「究極ゥゥゥゥゥッ! ゲェェシュペンストォォォォォッッ! キィィィィィィィッック!!!!」
『どっかで見た技ねっ! ‥‥ッ?』
前回の戦闘で食らったドリルを今回は易々と回避したアサキ機だが、直後に襲った衝撃に言葉を詰まらせる。パイルバンカー‥‥機杭「白龍」 がティターンの肩に食らい付いたのだ。
「同じ手使うなら、破られた時の手を考えとくのは常識だろ?」
ゲシュペンストが笑む。
『ぐ、ハッ‥‥この、程度じゃ、落ちやしないわよッ』
肩に刺さっていた杭が外れ、ティターンはお返しとばかりにスパークニードルを構える。が、そこを宗太郎機の重槍が唸った。最大速力の突撃。
「ウイング展開、ブースト全開! 貫け、ストライダー!」
機槍「ルーネ・グングニル」が、外れた杭と同じ場所に深々と突き刺さった。と同時に穂先から放出された火薬が爆発。ティターンの片腕が地に落ちた。バランスが崩れたか、軋んで前傾する赤紫の敵機。
直後、KV各機に無線連絡が入る。競技場まで出てきていたアルヴァイムだ。
「機槍突撃、来るぞ」
それを聞いて動いたのはハンフリー機。突撃進路上へ移動、機体能力も上乗せした銃撃で脚部を狙う。ハンフリー機はそこから動かない。
『これもどこかで見た光景ね‥‥』
赤紫の閃光が走り出す。
ぶつかっていくハンフリー機。
ハンフリー機の低く構えた機剣が狙うはティターンの脚。
閃光が止まることは、無かった。
衝突。衝撃。
剣の切っ先は脚をかすめ、装甲を剥ぐ。ほんの僅かに突撃の軌道から逸れていたハンフリー機だったが、弾き飛ばされ、人形のように宙を舞った。
「終わらせるかよ」
地響きの中でゲシュペンスト機が動いた。突撃後のティターンの背に、レーザーによる砲撃を浴びせる。
『やってくれるじゃない‥‥っ』
傾いだ敵機から少女の声が届く。
更に、生身のミリハナクが別の位置から再び奇襲を掛け、ティターンの脚部を遂に破壊した。
『ッ!!』
地に膝を付くティターン。
『‥‥仕方無い、撤退よ』
そこまで来て、今更のようにタロス3機が動いた。正確には漸く動けるようになったというべきか。全力の移動でティターンとKVの間に割り込む。ゲシュペンスト機、宗太郎機が対応、接近。
「邪魔だ、落ちろ!」
「俺の武器は‥‥槍だけじゃ、無ぇ!」
ゲシュペンスト機は機杭「白龍」を構え、躍りかかる。
宗太郎機は槍を捨て練機刀「白桜舞」を構えた。
「絆の居合、羅刹・風牙!!」
並んだ敵3機はティターンを背に庇う形でKVの攻撃を受ける。近接武装を持たぬゆえか、ほぼ一方的な展開。
アルヴァイムは違和感を覚え、気付く。
「タロスは囮か目隠しだ、ティターンを狙え」
それを聞いたルナフィリアが反応。
彼女のパピルサグはその巨体にDR−2荷電粒子砲を構え、アサルトフォーミュラB起動。
「これが私のジョーカー‥‥切ったからには逃す気はないっ!」
タロスではなくティターンに狙いを定め、渾身の4連射を叩き込んだ。
標的を切り替えた宗太郎機とゲシュペンスト機も、荷電粒子砲に焼かれたティターンの背や、機槍を持つ腕にダメージを重ね、敵は力を失っていった。
●始末
もはや身動きも取れぬ禍々しい色の怪物。
怪物の腕がタロスを掴む。
死なば諸共と地獄へ引きずり込むように掴んだタロスを、KVからの攻撃にぶつけ、盾にした。
2つ、3つ、4つと続く爆発音。
屋根まで届かんばかりの煙がドームの半分近くを埋めた。
そして妙に濃く広がった煙の中を、何かが飛び去っていった。
結論から言うと、今回の依頼は文句をつけるのが難しいほどの戦果であった。
敵機は全て撃墜、対する傭兵側は重傷者1名のみ、キメラは全出入口から一掃され、軍の知らなかった爆弾も全て排除、人質は戦闘が終わるより先に(戦闘後も輝きを失わぬKVに護衛されながら)救出されており、ドーム設備の損壊も最小限に留められていた。
今回最大の敵には逃げられてしまった‥‥とはいえ、重傷を負わせたことは明らか。これまで多大な被害をもたらしてきたカスタム・ティターンも灰になった。周囲の士気は鰻上りであるという。
榊原アサキ撃破への期待と共に、最大限の感謝と報酬が傭兵8名に渡されたのだった。