タイトル:【弐番艦】湖中の狙撃手マスター:菊池五郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 8 人
リプレイ完成日時:
2008/11/18 06:11

●オープニング本文


 ――ラスト・ホープにあるドローム社。
 緑溢れる敷地には、ナイトフォーゲルの整備工場を兼ねた社屋を挟むように、ハの字に滑走路が延びている。
 ハの字の右側の長い滑走路に、武装巨大輸送機ガリーニンとS−01Hが停められていた。
「ブラッド准将のお力添えには感謝の言葉もありませんわ」
 青いビジネススーツに身を包んだミユ・ベルナール(gz0022)は、整備工場からガリーニンへ運ばれるメトロニウム製のコンテナを、感慨深く見つめていた。
「主力であるUPC北中央軍の戦力が大幅に増強されるのであれば、本部も協力は惜しみません」
「ようやく未来研から届いた重力制御エンジン。これをオタワまで運ぶのは、高速移動艇では心許ないですからね」
 メトロニウム製のコンテナの中身は、未来科学研究所より提供された一機の重力制御エンジンだ。これをハインリッヒ・ブラット(gz0100)がチャーターしたガリーニンでUPC北中央軍の本部オタワまで運ぶのだ。
「流石に3機のガリーニンをこちらへ回すのは容易ではありませんでしたが」
 彼の口振りから、UPC北中央軍のヴァレッタ・オリム中将もUPC本部へ何らかの圧力を掛けたと思われた。
「指示通りに、1機のガリーニンはサンフランシスコ・ベイエリアへ回しましたが、重力制御エンジンの他のパーツも、同時にオタワへ運ばれるのですね」
「ええ。サンフランシスコ・ベイエリアで開発した艦首ドリルと、製造プラントで完成させた副砲、これにオタワで復元を終えたSoLCを搭載すれば、『ユニヴァースナイト弐番艦』は完成します」
 これらのパーツは、オタワでバグア側に秘密裏に建造されているユニヴァースナイト弐番艦の主武装だ。
 ユニヴァースナイト壱番艦は各メガコーポレーションの共同開発だが、弐番艦はドローム社とUPC北中央軍とで開発している。その為、大きさは壱番艦の4分の1程度であり、重力制御エンジンも一機のみの搭載だ。
 オリム中将からすれば、UPC北中央軍の戦力を増強する事が最優先であり、だからこそドローム社がユニヴァースナイト弐番艦の建造を打診した時、二つ返事で承諾したのだろう。

 ラスト・ホープより重力制御エンジンがオタワへ運ばれると同時に、サンフランシスコ・ベイエリアより艦首ドリルが、ドローム社の製造プラントより副砲もオタワへ向けて輸送される。
 ドローム社はこれらの輸送隊に能力者の護衛を付ける事とした。


 ――北米、メトロポリタンX頭上、ギガ・ワーム内。
 南北アメリカに展開しているバグア軍の総司令官が座す前に、一台のストレッチャーが置かれていた。
「あのジャック・スナイプともあろう者が、無様な姿ですね」
 ストレッチャーにはジャック・スナイプが横たえられている。生命維持装置に繋がれ、点滴を打たれている彼の頬は痩け、顔は蒼白で、半ば開かれた瞳に殺意の光も覇気すらもない。
 先日、UPC北南中央軍の混成部隊の総攻撃を受け、落日を迎えた南米アマゾンは西部の独立国家エルドラドの君主もまた、国の後を追おうとしていた。
 UPC北南中央軍はエルドラドを調査しているが、未だジャック・スナイプとファームライドは発見されていない。それもそのはず、彼とファームライドは総攻撃のどさくさに紛れて、こうして北米のギガ・ワームへ運ばれていたからだ。
「‥‥無様な姿かも知れませんが‥‥私にしてみれば、この姿こそ誇りと言えます‥‥」
「ゾディアックでありながら私達の命令を無視し続け、エルドラドを造り上げたその強靱な精神力は称賛に値します。それ程にエルドラドは大切ですか?」
「‥‥少なくとも今まで大切なものがなかった私にとって、初めてできた大切なものです‥‥1つだけ約束して下さい。あなたの命令を聞く代わりに、バグアは今後エルドラドに一切手を出さない、と」
「‥‥いいでしょう。死に逝く者のせめてもの手向けに、今後私達はエルドラドに一切手を出しませんし、今、エルドラド近辺に配備しているキメラも、可能な限り撤退させましょう」
 総司令官の言葉を聞いたジャック・スナイプは弱々しく微笑んだ。
 彼を乗せたストレッチャーが司令室から出ていった後、総司令官は窓から眼下のメトロポリタンXを見下ろした。
「新しいユニヴァースナイトなどと‥‥ミユ、あなたは私に盾突こうというのですか‥‥」

 総司令官との遣り取りをUPC軍は知る由もないが、ジャック・スナイプの命を賭した願いにより、後日、エルドラドからバグアが撤退する事になる。


 ――オタワ。UPC北中央軍総司令部。
 ヴァレッタ・オリム中将はすこぶる機嫌が悪かった。
 ユニヴァースナイト弐番艦の各兵装が、ラスト・ホープとサンフランシスコ・ベイエリア、ドローム社の製造プラントより輸送が開始された連絡は受けている。
 オタワでは、ユニヴァースナイト弐番艦の船体はほぼ完成しており、主砲の対衛星砲『SoLC』――自由の女神砲――も搭載を終え、後は重力制御エンジンと艦首ドリル、副砲の到着を待つばかりだった。
 バグア側も気付いたのか、防衛線を強化している。大規模な輸送になる為、それを見越して輸送隊も囮部隊を多数用意したが、五大湖の1つ、ミシガン湖近辺の囮部隊の消息が立て続けに途絶えてしまっていた。
 最期の報告から、ミシガン湖にバグアが狙撃手を配置していると推測された。
 ミシガン湖の湖畔は競合地域で、南寄りに進路を取ればバグアの勢力下が近く、北寄りに進路を取ればオタワに遠回りになり、囮部隊の意味を成さなくなってしまう。
 絶好の狙撃ポイントをバグアに抑えられてしまった事が、オリム中将のすこぶる機嫌が悪い理由だった。
「えぇ〜!? 私が囮になるんですか〜!?」
 “触らぬ神に祟りなし”と言うが、触らなければならない時もある。
 UPC南中央軍より、先のエルドラドへの総攻撃の事後処理でUPC北中央軍へ出向していたアミー・ライナ(gz0082)大尉は、オリム中将へ報告書を持っていったがために、白羽の矢を当てられてしまう。
「でもでも〜、私の機体〜、ボンコツ‥‥じゃなくて、ディスタン・カスタムですよ〜?」
 アミーの愛機はディスタンだが、両腕はバイパーのものが付けられている。補給路が確保できず、物資が不足しがちな南米のアマゾン戦線では、この手のカスタム機は当たり前だ。
 彼女の隊ではカスタム機を“ボンコツ”と呼んでいた。
 カスタム機とはいえ、ディスタンの防御力はナイトフォーゲルの中でもトップクラスだ。湖中の狙撃手を誘き寄せる囮としては適任だと、オリム中将直々に命令が下されてしまったのだった。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG

●リプレイ本文


●姿無き狙撃手
 ミシガン湖の湖面は陽の光にキラキラと輝き、静かなさざ波が揺れている。
「アミーお姉ちゃん今回はよろしくにゃ♪ 一緒に頑張ろうにゃ♪ ‥‥85点?」
『ななな、何で私のバストサイズ、知ってるんですか〜!?』
 西村・千佳(ga4714)の駆るPM−J8アンジェリカからの通信に、アミー・ライナ(gz0082)のGF−106Cディスタン・カスタムから慌てふためいた返答が返ってくる。千佳は先程アミーと挨拶を交わした際に抱き付き、エキスパート用のバトルスーツの上から女らしさを主張している胸のふくらみに顔を埋めていた。
 艶を消した漆黒のK−111改に搭乗するUNKNOWN(ga4276)達は、UPC北中央軍の囮部隊が消息絶った大まかな位置から、湖中に潜んでいるであろう狙撃兵の位置を推測し、ラシード・アル・ラハル(ga6190)のEF−006ワイバーンと4機編隊で湖上を飛行していた。
 高坂聖のH−114岩龍やルアム フロンティアのES−008ウーフーのジャミング中和は効いている。
(「ミシガン湖‥‥そういえば、傭兵になって2度目の依頼が、ここだったっけ‥‥あの頃は、凍ってて‥‥初めてのナイトフォーゲル戦で、緊張してて‥‥懐かしい、な。あれから、半年‥‥僕、ちゃんと、成長できてる、かな?」)
『答えはYes、Noだけではない‥‥可能性と確率、だよ』
「え!? ‥‥そう、だね。今度も、できる事を、できる限り‥‥それだけ」
 五大湖解放戦からもう半年以上が経っている。ワイバーンの多機能ディスプレイの一角に画面ウィンドウとして映しているミシガン湖の映像を、青い瞳で感慨深く見つめるラシードにUNKNOWNから通信が入った。
「‥‥ここら辺りか‥‥」
『そろそろ狙撃があったと予測された地点だにゃ。爆雷投下なのにゃ―――――!?』
『千佳!? ッ!?』
 UNKNOWNの言葉に千佳が応え、彼女は有効水深限界の200mに起爆水深をセットした空対潜ミサイル「爆雷」の投下スイッチに手を掛ける。
 レーダーが高熱源を感知した。同時に湖中より二筋の閃光が迸り、千佳機を回避前に貫く! 即座にラシードが回避運動に入るが間に合わず、彼女の機体も二筋の閃光に焼かれてしまう。
「――来た、な」
 アミーとUNKNOWNは高度を上げ、回避に専念する。UNKNOWNは三度目の光をかわす。だが、彼の機体が回避したそこへ、まるで狙い澄ましたかのようにもう一条の光が放たれていた。
『最初の、砲撃はダミー、だというの‥‥? わざとかわさせて、そこへ、本命を叩き込む、この、射撃精度‥‥! 並のエースじゃ、ない‥‥!』
『敵の兵装は初撃は大口径プロトン砲、2撃目はポジトロン砲のようだよ〜。違う武器だから、別々の敵機から発射されていると考えるべきだけど、射程が半端じゃないよ〜』
「まだにゃ、まだ終わらないにゃ! 誘導地点で爆雷を投下して、後は水中班に任せてから離脱するにゃー」
 ラシード機の画面ウィンドウは警告だらけだ。爆雷投下に支障はないものの、今の攻撃だけで機体は中破していた。千佳機もUNKNOWN機もダメージに大差はない。
 アミーが機体に受けたダメージから敵の兵装を推測し、撤退を促す。しかし、千佳は多機能ディスプレイに顔面をしこたまぶつけ、鼻血が止まらない鼻をさすりながら、とにかく敵の次の攻撃が来る前に爆雷を落とそうと告げる。
 UNKNOWNも賛同し、3機は搭載した爆雷を落として、フォル=アヴィンのXF−08D雷電達が守備に就いている補給部隊の待つ地点まで撤退していった。
『ブーストを使う暇すら与えない‥‥終夜。――ジャック・スナイプかもしれん』
「あれが‥‥ジャック・スナイプ‥‥なの?」
 UNKNOWNは帽子を被り直し、煙草をくわえながら終夜・無月(ga3084)に連絡を入れた。彼の操縦技術は傭兵の中でも群を抜いている。そのUNKNOWNを手玉に取った狙撃手は、ゾディアック山羊座のジャック・スナイプだというのだ。
 ラシードは戦慄を覚えていた。


●タートルワームの使い方
「ジャック‥‥ジャック・スナイプ‥‥」
 愛機BR−196ビーストソウルで湖畔に待機している無月はその名を繰り返し呟いた。
 哨戒中のファファルのウーフーとエレナ・クルックの岩龍、そして湖畔を調査していたエメラルド・イーグルから、鯨井昼寝(ga0488)のKF−14改へ通信が入る。
 ファファルとエレナは、先程の大口径プロトン砲とポジトロン砲の角度と廃熱から、おおよその射撃点を割り出していた。また、敵機は地上を経由して湖中へ潜ったと考えたエメラルドは、単身、移動の痕跡を調べ、そこから敵機がゴーレムタイプ1機にタートル・ワームタイプ2機だと見当を付けた。
「水の中からの超長距離狙撃か‥‥厄介なのは間違いないけど、オレらにもそういう武器があればなぁ」
 W−01改テンタクルスへ送られてくる情報を見ながら、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)は素直に羨ましく思った。無い物ねだりだと分かっているが、各メガコーポレーション共、魚雷といった実弾がメインであり、水中で使用できる長射程の非物理兵装は開発に至っていない。水中でポジトロン砲が使えるなんて、バグア脅威のメカニズムは反則もいいところだ。奪えるものなら奪って使用したいと本気で考えていた。
 更にシェリル・シンクレアの岩龍が、さざ波とは別の波長の湖面の揺れを観測した。
「この波長は爆雷による爆発ね。湖中の何かに当たって爆発したか、或いは敵が撃ち落としたか‥‥」
『おそらくは前者でしょう。イーグルさんの推測通りなら、敵機は3機です。状況から水中砲撃仕様のようで、些か手数が多いようですが、ラハルさん達を攻撃した後に、あのタイミングで投下した爆雷を迎撃できるとは考えにくいです』
『僕も硯さんと同じ意見だよ。千佳さん達が爆雷を決めてくれた今が突入の時だよ』
「‥‥そうね。全機発進!」
 KF−14改で待機する鏑木 硯(ga0280)が爆雷の効果を推測し、BR−196ビーストソウルに乗る水理 和奏(ga1500)も同意する。
 湖畔で待機していた5機が潜水を開始した。
 ミシガン湖の透明度は2〜12m。ソナー(レーダー)と赤外線探知が頼りだが、それらが敵影を捉える。数は2。
「敵さんが待ち受けている分、先手を取られるのは必至だ。初手をまともに全弾食らわないよう、いつでも散開できるようにしておかないとな」
 テンタクルスとKF−14改の限界深度、水深75mのところに、ジュエルが言うように2機のタートル・ワームがいた。しかし、ポジトロン砲を持っているであろうゴーレムの姿はない。
「タートル・ワームの限界水深も、俺達の機体と同じ、と捉えるべきですね」
『だな。タートル・ワームだけ先行させる必要性は、あまりねぇよな。隠れんぼが好きなら、オレらで派手に探してやりますか!』
『お約束のキューブワームはいないようだけど、戦闘終了後に少しでも弾薬が残っていたなんて出し惜しみは禁物よ! ありったけを叩き込みなさい!!』
『うん。みゆりお姉さんが側にいるみたいだから大丈夫だよ‥‥えへへ。わかな魚雷☆発射!』
 昼寝機とジュエル機が熱源感知型ホーミングミサイルを全弾、硯機と和奏機がDM5B4重量魚雷をタートル・ワームへ発射する。
 まだ麓みゆり機のジャミング中和が効いている事を確認すると、和奏はみゆりが側で支えてくれているような、心がぽかぽかした気持ちになった。
 爆発の中から大口径プロトン砲が放たれるが、ジュエル機達は散開して回避する。タイミングを合わせて接近した無月機が水中用試作剣「蛍雪」を振るう。
 深淵とも思える黒き湖中より、閃光が奔る。無月が気付いた時には、彼の機体も近くにいた和奏機もレーザーの直撃を受け、タートル・ワームから弾かれた。しかし、衝撃だけで機体にダメージは無い?
「‥‥その腕前‥‥やはりジャック・スナイプですね‥‥」
 その名前をUNKNOWNより聞いた時から、無月は予感めいた、否、因縁を感じていた。タートル・ワームを囮に使った狙撃の癖と腕、何より長く続く因縁が、無月に敵がジャックだと確信させた。
『その声は‥‥無月ですか‥‥』
 無月機に、オープンチャンネルで聞き覚えのある声が届く。ジャミングのせいか、酷く途切れ途切れに聞こえるが、間違いない、ジャックの声だ。
 ゆっくりと敵影が現れる。超長距離用狙撃ポジトロン砲を背中に備え付けたゴーレムだった。
「ま、積もる話は当人達にお任せして、オレらは露払いといきますか!」
 昼寝機がニードルガンで牽制し、ジュエル機が変形すると高分子レーザークローをタートル・ワームに振るう。ところが、鈍重に見えるタートル・ワームは、水中では水を得た魚のように回避するではないか。
「‥‥亀って器用そうには見えないからバレルロールとかしないと思っていましたけど‥‥」
 それは硯も同じで、無月機と連携して試作型水中用ガウスガンで装甲の薄いと思われる腹部を狙おうとするが、こちらもかわされてしまう。
「今だよ、わかな魚雷☆発‥‥きゃう!! ‥‥え!? わかなビーストソウルがおかしいよ!?」
 和奏機がゴーレムを足止めしようとDM5B4重量魚雷を発射する。しかし、ゴーレムは軽やかに回避し、拡散フェザー砲を和奏機へ放っていた。一撃の損傷が大きい。情報ディスプレイが機体の装甲の異常を伝える。先程のクリプトンレーザーによって装甲系の計器類が狂わされたようだ。
 ジャックは収束フェザー砲と拡散フェザー砲を巧みに使い分け、和奏機の足止めをものともせず、無月機達のダメージを着実に増やしていった。
「エースゴーレムに使う手を、亀に使う事になるとは、俺にも焼きが回ってきたな!」
 ジュエル機は情報ディスプレイも警告だらけだ。損傷が50%を越えている。
 テンタクルスを戦闘機形態へ変形させ、残った熱源感知型ホーミングミサイルを放ちつつ、体当たりして攪乱に徹する。昼寝が隙を見て、高分子レーザークローを叩き込み、ようやくタートル・ワームを破壊した。
 無月機、硯機、昼寝機、和奏機、ジュエル機の5機でジャックのゴーレムを取り囲んでいるものの、全く勝てる気がしなかった。
 硯達は数を活かして立体的な戦闘で的を絞らせないように攻め立てるが、ジャックは四方八方からの攻撃を、威力の低いものは敢えて受け、高分子レーザークローや蛍雪には収束フェザー砲でカウンターを叩き込み、威力の高いもののみかわして拡散フェザー砲を直撃させてくる。
 数の上での優位など、微塵も感じさせなかった。
「(さっきのレーザーで装甲がやられちゃってるから、わかなビーストソウルは後1、2回攻撃を受けたら大破しちゃう‥‥なら!)見せてあげる‥‥あなたのお父さんに、ジェームス・シンプソンさんに、僕が初めて請けた依頼、戦闘講座で、子供達に、僕に、教えてくれた‥‥危険を回避する事を!!」
 和奏はブーストを起動させると、ゴーレムの背後へ回り込み、そのまま押し上げ始めた。
『ジェームス・シンプソンは‥‥父は死にましたよ‥‥自らの命を絶って‥‥』
 拡散フェザー砲の直撃を受け、和奏機もただでは済まない。それでも強装アクチュエータ『サーベイジ』を起動、水中用太刀「氷雨」で斬り付けた。
「ここでゴーレムを乗機に選んだセンス、嫌いじゃないわよ」
 昼寝はオープンチャンネルで言った。負け惜しみではない。自分の機体を含め、硯機達の大破寸前の機体を見れば分かる。悔しいが、ジャック・スナイプには、水中戦のみでカタを付けられないと認めた。
「(陸や空ならともかく、水中で鯨が何を恐れると言うの!)‥‥まだまだ‥‥こんな楽しい勝負‥‥そんな簡単に、止めちゃうワケ、ないでしょッ!!」
 硯機とジュエル機が囮になり、高分子レーザークローによる裂帛の気合いの一撃は、ゴーレムの胸部へ深々と突き刺さる。そのままブースト全開で、一気に湖面へと加速する。
 拡散フェザー砲で装甲を穿たれ、大破をものともせず、昼寝はゴーレムを湖面へ押し上げた。
『僕だって、やれることがある‥‥! もう、それを知ってるから‥‥!』
『エースでもゾディアックでも悪い事する人は、マジカル♪シスターズがお仕置きなのにゃー! 落ちるのにゃー!!』
「――ジャック。私は『死んで』人として生きろと伝えただろう。『生きて』死んだ人生を送るな‥‥逃げろ。バグアからも人類からも。人として生きろ‥‥命尽きる日まで」
『‥‥一粒の麦だ‥‥今の私は‥‥』
 ラシード機とSESエンハンサーを起動させた千佳機が3.2cm高分子レーザー砲を撃ち、UNKNOWN機が機槍「グングニル」を、無月機が練剣「雪村」を突き刺し、ゴーレムはようやくその動きを止めた。
 1年続いた無月とジャック・スナイプとの因縁は、遂に絶たれたのだった。


●ジャック・スナイプの最期
 大破した機体を補給部隊に預け、硯と昼寝、和奏とジュエル、千佳とラシード、そしてアミーはゴーレムを遠巻きに囲む。
「‥‥何故、帰ってきた」
 UNKNOWNの言葉に、ゴーレムのコックピットが開いた。
 全員が息を呑んだ。そこには生命維持装置に繋がれ、骨と皮だけの痩せ衰えた見るも無惨なジャックの姿があった。
「‥‥先程、『今の自分は一粒の麦』‥‥だと言いましたよね‥‥?」
「‥‥エルドラドは本当の意味での‥‥この地上の黄金郷になりました‥‥私にとってのエルドラドが‥‥そうであったように‥‥ね‥‥」
 UNKNOWNの隣で、無月はジャックがこの身体を押して出撃したのは、バグアとエルドラドについて何らかの取り引きをしたのだと悟った。
「‥‥あなた達は‥‥たかだか人口2000人の‥‥エルドラドを戯言だと笑うでしょう‥‥でも人殺ししか取り柄のない私は‥‥エルドラドを‥‥第2の故郷‥‥安住の地‥‥にしたかった‥‥」
「ジャック‥‥エルドラドは私達がなんとかする」
 ジャックはUNKNOWNを弱々しく蹴り飛ばした。
 最早、その足に力は入っておらず、UNKNOWNは蹌踉けて無月の身体に手を掛けて支えたが、直後にゴーレムが爆発し、彼らは間一髪、爆発の直撃を免れた。
「子供達に会いに行くの、約束してたな‥‥ジェームスさんの安否を伝えに行かなきゃ‥‥」
 爆発するゴーレムを見る和奏の視界は、徐々に涙で見えなくなっていった。


●ユニヴァースナイト弐番艦
 ラスト・ホープより重力制御エンジンが、サンフランシスコ・ベイエリアより艦首ドリルが、ドローム社の製造プラントより副砲の三連装衝撃砲が、オタワへ届けられた。
 潜水と飛行を可能にし、単騎でメトロポリタンX頭上のギガ・ワーム攻略を想定した攻撃特化型万能戦闘母艦ユニヴァースナイト弐番艦は完成し、出航の時を待っていた。