●リプレイ本文
●ユニヴァースナイト・ブリッジ
艦長のミハイル・ツォイコフ中佐は艦長席に座りながら、最大望遠で映し出されているモニターを凝視していた。まだステアーと追われている友軍機の姿は見えない。
彼の傍らには鍵付きのトランクケースが置いてある。ベルリンを出航する際、手渡されたもので、ツォイコフ中佐に開ける権限はなく、メトロニウム製コンテナ同様、ラスト・ホープへ運ぶ任を受けていた。
『今、換装中だから、もう少し待っててね、中佐のおじさん』
「‥‥水理君、作戦行動中は中佐と呼んで欲しい」
グラップラーの水理 和奏(
ga1500)がツォイコフ中佐へ通信を入れてきた。艦載機運用区画では彼女の愛機PM−J8アンジェリカを始め、グラップラーのハルカ(
ga0640)の愛機R−01改等の換装が進められている。
「ステアーと交戦している模様の友軍機の援護だが‥‥どうも‥‥な」
「いくら戦線が入り組んでいるとはいえ、何故この様な場所にステアーが単独でいて、ナイトフォーゲルと戦闘になっているのでしょうか?」
ブリッジと友軍機との通信の遣り取りを聞く限り、ファイターの真田 一(
ga0039)とダークファイターのヤヨイ・T・カーディル(
ga8532)はどうも解せない。
「‥‥戦闘光すら見えない? いくらなんでもステアー相手に牽制すらせず、ただ逃げ回っているだけなんて‥‥」
「ステアーが友軍機をまったく攻撃していないで追い掛けているのも、変じゃないか?」
(「‥‥もっともあの娘なら‥‥子供が昆虫をいたぶるように‥‥逃げているナイトフォーゲルを‥‥ただ追い掛けて楽しんでいるとも‥‥思えなくはないですぅ‥‥」)
エキスパートのメティス・ステンノー(
ga8243)の愛機FG−106ディスタンのモニターに映る、ユニヴァースナイトの最大望遠の映像からは、戦闘の光は一切見られない。エキスパートの来栖 祐輝(
ga8839)も納得がいかない様子だ。
スナイパーの幸臼・小鳥(
ga0067)の脳裏に、不意にステアーを駆る1人の少女の姿が過ぎった。
「レーダーから割り出されたステアーへ行う砲撃ラインに重ならないよう、進路を変更するように連絡しても動きは無いのですね? ‥‥友軍の識別信号の確認を最新コードで行って下さい」
ファイターの麓みゆり(
ga2049)の要請に、ブリッジの女性通信士が応じた。
「‥‥和奏ちゃん、あれを!!」
「え!? あれってわかなスペシャルバイパー!?」
ユニヴァースナイトの最大望遠が捉えたF−104バイパーの機体を見てみゆりが声を上げる。和奏も目を見張った。そこには彼女のパーソナルエンブレムが貼られていた。
先の五大湖解放戦で撃墜された和奏のバイパーだった。
「誘われていると感じましたが、全機鹵獲機だったとは!? 手の込んだマネをしてくれます」
「こんな子供じみた罠‥‥俺らに通用するかっての!!」
「ふふ、効果は抜群だけど、手の内を知っている娘がいたのが運の尽きね。手品はトリックがばれたら終わりだもの」
「とはいえ、和奏とみゆりがいなかったら、案外あっさり騙されて、敵の術中に填っていたかも知れないがな」
ヤヨイの言葉に祐輝は両頬を叩いて気合いを入れ、メティスはほくそ笑む。しかし、一は至って冷静に発進シークエンスを進めてゆく。
「ミユお姉さまの為に頑張る〜」
「張り切るのは悪い事ではないけど、引き際が肝心よ」
換装を終えた愛機へ乗り込もうとするハルカのおでこへ、ミユ・ベルナール(gz0022)が『無事に生還できるおまじない』と唇を落とした。
●騎士vsお姫様
8機のナイトフォーゲルがユニヴァースナイトより出撃し、ミユのアンジェリカが歩行形態でユニヴァースナイトの甲板へ姿を現した。その背にはアンジェリカ用のレーザー兵装の試作品、低反動ツインショルダーキャノンが着けられていた。
「さて。かなり慣らしていると聞いたが、ミユ社長のお手並み拝見、と‥‥気を引き締めていこう。更にステアーを鹵獲できれば言う事無いんだろうが‥‥」
『撃墜させるつもりでいかないと‥‥こっちが‥‥やられてしまいますぅ‥‥!』
ミユ機を横目に一が呟くと、ステアーと実際に戦った事があり、その強さと恐さを実感している小鳥が窘めた。
「ユニヴァースナイトからの最後の呼び掛けにも、私からの警告にも、応答は相変わらず『助けてくれ』の一点張りなのだ」
『それに‥‥動きが機械みたいに遊びがないわね』
『攻撃を許可する。合わせて本艦は進路を北へ取り、最大船速で100秒後に戦闘空域を離脱する』
ハルカの警告を無視し、メティスが目視した限りでは機械的な動きをする物証から、ツォイコフ中佐も攻撃許可を出した。
祐輝機のレーダーが敵機を捉える。ステアー、H−114岩龍、XN−01ナイチンゲール、わかなスペシャルバイパー、そしてR−01の1機。
「いっけえええええ!!!」
裂帛の気合いと共にブレス・ノウVer.2を発動させ、K−01小型ホーミングミサイルを一射した。250発もの小型ミサイルが白煙を上げながらS−01Hより放たれる。
合わせて小鳥のバイパーがスナイパーライフルD−02を、和奏機がG放電装置をステアーへ向けて撃つ。
ホーミングミサイルはステアー以外に全弾命中。D−02とG放電装置の初撃もステアーにかわされてしまう。
『いきなり味方撃つって、どういう神経してるのよ!? 味方機がピンチなら助けるのが正義の味方でしょ!?』
「その声はリリアンちゃん‥‥まさかここでまた‥‥会うとは思わなかったですぅ‥‥」
各機の通信機にあどけない女の子の怒声が割り込んでくる。小鳥と和奏は聞き覚えがあった。間違いない、リリアン・ドースンだ。
『まぁ、いいよ。またユニヴァースナイトと会えたのも私達惹き合う運命のようだし、私達のお人形さんは返してもらうから。さぁ、あなた達のお人形さんと踊りなさい!』
(「自分で作戦バラしてるところをみると、まだまだおこちゃまなのだ」)
『ユニヴァースナイトと運命だなんて‥‥中佐のおじさんには僕がいるんだから、リリアンちゃんには釣り合わないよ! 中佐のおじさん、ミユお姉様に惑わされないくらい、小さいのも好きなんだよ!!』
(「メティスさんとミユ社長を見てたら、何だか自信が無くなってきちゃったけど‥‥そうですよね、小さい方が好みの男の人もいますよね!」)
『大丈夫、一生懸命な和奏ちゃんを嫌いになる人なんていないから、戦闘に集中しましょう!』
リリアンの詰めの甘さに、ハルカは内心突っ込みを入れた。ところが和奏が逆上してしまい、売り言葉に買い言葉とばかりに挑発紛いの台詞を返す。ツォイコフ中佐がユミの魔乳に惑わされていない様子でご機嫌だった事が窺える。
その台詞に何故かヤヨイは自信を取り戻していた。
みゆりが和奏に優しく声を掛けて落ち着きを取り戻させつつ、各機にフォーメーションの展開を指示した。
(「さっきのわかなスペシャルバイパーも僕1人だったら気付けなかったかもだけど、みゆりお姉さんがいてくれるから‥‥」)
みゆりが側でいつも保護者のように見守ってくれているから、和奏も落ち着いて戦闘に臨む事が出来た。
「先ずはステアーから鹵獲機を引き離す」
『味方の時は頼もしいだけに、岩龍のジャミングが厄介だわ』
一の愛機アンジェリカが、試作型G放電装置をステアーと鹵獲岩龍の間に撃ち込み、2機を引き離した。ヤヨイも間髪入れず愛機のアンジェリカよりUK−10AAMを発射し、ステアーと鹵獲機を合流させない。
ステアーへの初撃が全弾回避されたのも、鹵獲岩龍の特殊電子波長装置の所為だと踏んだメティスは、鹵獲岩龍を集中して狙ってゆく。
慣性制御装置を組み込まれたのであろう鹵獲岩龍は、ヘルメットワームと同様に慣性制御を駆使して減速無しの停止や旋回を繰り返してメティス機の追撃を逃れようとする。しかし、祐輝がS−01Hの機動力を活かしてメティス機のフォローに回り、127mm2連装ロケット弾ランチャーを叩き込んでゆく。
それに機動性は基本的な岩龍の域を出ておらず、動きに慣れてきたメティスは先を読んで攻撃を仕掛け、鹵獲岩龍を撃破した。
「メティスの読み通りだな。岩龍のジャミングが敵に回るとじわじわ効く。しかし、あそこから命中させるとは、ミユ社長が単身ユニヴァースナイトへ乗り込んだのも、自信の現れ、か」
初撃で祐輝機がダメージを与えた鹵獲R−01へ、3.2cm高分子レーザー砲を撃っていた一は、わずかだが先程よりかわされにくくなったと実感した。
ユニヴァースナイトの側面の高分子レーザー砲による艦砲射撃の他、甲板上よりミユ機から低反動ツインショルダーキャノンの援護射撃が飛んでくる。ミユもヘルメットワームの慣性制御に慣れているようで、その弾道は実に的確だ。
「和奏ちゃんの機体をこの以上利用はさせません」
「リリアンの悪趣味な人形遊びはきっちり終わらせないとな!」
ヤヨイはSESエンハンサーを起動させると、右側面から一撃離脱を仕掛ける祐輝機に合わせて、左側面から3.2cm高分子レーザー砲を撃つ。高出力化したレーザーが、わかなスペシャルバイパーを射抜いた。
●リリアンの奥の手
「『突撃機動小隊【魔弾】』‥‥皆の想いを‥‥背負っているんですぅ‥‥! 隊長の‥‥いえ、小隊の皆の為にも‥‥負ける訳にはいかないのですぅ!」
『ああ、不用意に近付いちゃダメだよ!』
鹵獲ナイトフォーゲルが引き離され、単機になったリリアン機へ小鳥機が3.2cm高分子レーザー砲を連射する。小鳥には因縁があったが、敵の多いリリアンはいちいち覚えていないようで、小鳥の独り相撲になっているように和奏には思えた。
みゆりのR−01がラージフレアを展開し、ハルカ機が突撃仕様ガドリング砲で、和奏は2連装レーザーライフルで援護射撃を行うが、リリアン機には全く隙が生じない。小鳥の3.2cm高分子レーザー砲は1発もかすりもしなかった。
しかもリリアン機は、多目標誘導小型ミサイルを囮にプロトン砲を撃ってくるので、和奏機と小鳥機は被弾率が上がっていた。
「こうなったら多少強引にでも隙を作るのだ〜。みゆりさん、背中は任せたよ!」
ハルカはブーストを吹かせると、和奏機・小鳥機を追い抜いて一気にリリアン機を肉薄し、直前でM−122煙幕装置を発動させた。
「おじさんは、リリアンちゃんには絶対あげないからねv」
和奏もブーストを吹かせながらSESエンハンサーを起動、わかな粒子砲(=M−12強化型帯電粒子加速砲)を放った。小鳥もブースト空戦スタビライザーを発動させ、煙幕の中のリリアン機へ撃てる限りの兵装を叩き込む。
ステアーが激しく揺れる。さしものリリアンもこれは避けられなかった。
『‥‥私のお人形さんに傷を付けるなんて‥‥許さないんだから!!』
「リリアンちゃんの性格からして‥‥1人で何もなしで‥‥来るとは思えないですが‥‥」
激昂したリリアンの声が音割れを伴って小鳥達に聞こえると、一達が牽制していた鹵獲ナイトフォーゲルが一斉にユニヴァースナイト目掛けてブーストを使用し始めたではないか!
『ヘルメットワームの十八番、特攻自爆か!?』
「(皆が必死の思いで鹵獲した機体なんだ、易々と取り返させられてたまるか‥‥)させるか!!」
『お気に入りをちょっと傷物にされたくらいで怒るなんて、ケツが青い良い証拠よ、お嬢ちゃん』
一の声と同時に祐輝が残りのホーミングミサイルを放つが、無傷の機体も少なくなく撃墜するには至らない。
アクセル・コーティングを展開させたメティス機が、歩行形態へ変形しながら鹵獲S−01に取り付く。失速した鹵獲S−01は大爆発を起こした。
「ダメです、SESエンハンサーでも‥‥こうなったら!」
一とヤヨイはそれぞれSESエンハンサーで高出力化させたM−12帯電粒子加速砲と試作型G放電装置を撃って1機撃墜するが、残りは2機。
ヤヨイはブースト空戦スタビライザーを使ってメティス同様鹵獲S−01に取り付いた。こちらもユニヴァースナイト到達前に失速し、大爆発を起こす。
「UKには‥‥攻撃させません!」
「リカの一撃、もう1回当たれば、ステアーだって無事じゃすまないはず!」
みゆりがラージフレアを、ハルカがM−122煙幕装置を使って再度隙を作り、わかな粒子砲と小鳥が3.2cm高分子レーザー砲を叩き込む。
だが、ころころとリリアンの笑い声が聞こえると、煙幕の中から紫色の光線が迸り、和奏機と小鳥機を直撃した。
『ちょっと遊びすぎたかな? 今日のところはこれで許してあげる』
ユニヴァースナイトは既にステアーの射程外、戦闘空域から離脱していた。リリアン機は撤退していった。
みゆり達はいつでも迎撃できる状態でリリアン機を見送り、戦闘空域を離脱したのを確認すると、ミユもW−01テンタクルスを出して撃墜されたメティス機とヤヨイ機、和奏機と小鳥機を回収し、ユニヴァースナイトへ帰還した。
●悩める乙女のπタッチ
鹵獲ナイチンゲール1機の特攻を許したユニヴァースナイトの被弾率は19%。3機の特攻を許していれば、ベルリンへ帰還せざるを得なかっただろう。
尚、撃墜された機体はドローム社が責任を持って修理するし、使用した煙幕等はミユが補給してくれるという至れり尽くせりだ。
「任務完了!! みんなお疲れ!! んじゃ、みんなで飯食いに行こうぜ!!」
「反省点もあるし、ミーティングを開いて次の戦いへ繋げたいところだ」
「‥‥ったく、こんな良い女がいるのに飯の話や反省会なの? 社長、私達はパーッと飲みに行かない?」
「‥‥むにっ‥‥むにっ‥‥じーっ‥‥ぺたっ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「というか、2人を見た後で私を見ないで下さいー」
格納庫へ帰還した祐輝は、一達を食堂へ誘う。真面目に応える一に、メティスは肩を竦めてミユを呑みに誘った。メティスとミユに挟まれる形となった小鳥は、おもむろに右の豊乳と左の魔乳を触り、正面のヤヨイの微乳を見て、最後に自分のぺったんを触り、燃え尽きたかのように真っ白になって崩れ落ちた。一度は自信を取り戻したヤヨイもこれには苦笑いを浮かべるしかない。
「無事に帰ってきてくれてありがとう」
ハルカ達の姿を認めると、ミユは和奏にでこちゅーを、ハルカにほっぺちゅーをして無事を喜んだ。
「一度お話できたらって、思っていたの。飛行機の事お話しませんか?」
「いいですね。私、飛行機大好きです」
「みゆりさんとミユお姉様、趣味が合いそうだね。2人が仲良しになってくれたら僕も嬉しいv」
「私達もご一緒してもいいですか?」
みゆりと和奏は呑みに行くミユとメティスに便乗し、ハルカとヤヨイ、項垂れている小鳥に声を掛け、一と祐輝らに食堂へ向かった。
ちょっとした祝賀会兼反省会が開かれる事となった。