●リプレイ本文
●ドローム社
グラップラーの新条 拓那(
ga1294)達は、今回が初めての依頼となるビーストマンのデューク フラガ(
ga4792)とUPC本部のロビーで待ち合わせをし、全員でラスト・ホープ内にあるドローム社へ向かった。
「ドローム社の奥へ入るのは、これが初めてだな」
「セキュリティは万全のようだから、能力者でもおいそれと奥へ入れねぇんじゃないのか?」
グラップラーのゲック・W・カーン(
ga0078)は、愛機のナイトフォーゲルR−01の改造でドローム社自体は訪れているが、奥に入るのは初めてだ。デュークが用件を告げると、受付嬢がカードキーを差し出した。このカードキーで開く部屋で、依頼主のドローム社社長ミユ・ベルナール(gz0022)が待っているという。
ファイターの真田 一(
ga0039)が、試しに他の部屋の入口に備え付けられたカードスロットにカードキーを差し込んでみたが、赤いランプが点いてエラー表示が出るだけで扉が開く気配はない。
「‥‥僕、最初にバイパーのテストに参加して、その時から、ずっとずぅっとバイパーに憧れてたんだ‥‥その後、頑張ってお金貯めて‥‥名古屋防衛戦でボロボロになっちゃったR−01とのお別れは辛かったけど、ようやくバイパー乗れるようになったんだ!」
グラップラーの水理 和奏(
ga1500)は道すがら、バイパーへの想いをサイエンティストのツィレル・トネリカリフ(
ga0217)達へ身振り手振りを交えて話す。聞いているグラップラーのメアリー・エッセンバル(
ga0194)達にも、彼女がどれだけバイパーを愛しているか伝わってくる。
気が付けばミユの待つ部屋の前に着いた。
「そのバイパーを作った、ドローム社の社長さんに会えるんだ‥‥! わくわくするっ‥‥どんな人なんだろう?」
胸の鼓動を抑えながら和奏がカードキーをカードスロットへ差し込むと、青のランプが点きロックが解除された。
部屋の外壁がガラス張りになっており、陽の光を取り入れて明るかった。部屋の中央にはゆうに10人は掛けられるだろう、円卓が置かれてある。
「ようこそ、ドローム社へ」
(「お、大きい‥‥!」)
ミユが円卓の前で待っており、デューク達に好きな席へ座るよう手で示した。
それが和奏のミユを見た第一印象だ。スーツが内側から弾けてしまうのではないかと思うくらい張り詰めた巨乳は形も美しく、同性でも思わず目が行ってしまう。和奏はメアリーと陽子の“それ”と見比べてしまった。
彼女達の視線を平然と受けているので、ミユは慣れっこなのか、それとも意外と本人からセックスアピールを狙っているのかも知れない。
(「円卓、ね。ドローム社は内部の権力争いが凄そうですから、会議1つを取ってもこういう配慮が必要なのでしょうね」)
円卓は会議の参加者が上座や下座といった席順による序列にこだわらずに、対等の関係で自由に発言できる会議を行う時に場合に用いられる事が多い。
ファイターの月神陽子(
ga5549)の推測だが、ミニディスプレイなどがセッティングされた円卓を見ると、あながち間違っていないだろう。
●スカイスクレイパー
「今日はナイトフォーゲルを実際に使用されている能力者の皆さんの、LM−01、スカイスクレイパーへの忌憚ない意見を聞かせて下さい」
ゲック達全員が思い思いの席に着くと、ミユがコンソールを操作する。席の前のミニディスプレイに、開発中のナイトフォーゲル、LM−01『スカイスクレイパー』のCG画像が表示された。スペックは公開されていないが、手元のコンソールを操作すると、プロトタイプレーシンガー形態とロボット形態の画像や武装が見られた。
「‥‥またある意味キワモノな機体だな‥‥」
「私は忍者っぽくて気に入りましたけど」
「陸戦型はあった方が、作戦の幅も出てきて助かると思うが?」
「まぁな。もっとも、俺も嫌いな訳じゃないがな」
陽子と一の言葉に、ゲックは微苦笑して頬を掻く。
「運用側の1人としては、LM−01は非常に有用だと考えます。考案して下さったミユ社長以下、ドローム社の皆さんに感謝を。ですが‥‥見せて戴いたコンセプトのままでは、器用貧乏になりかねません」
「そうだな。低コストの上に、2人乗りによる役割分担が可能。現行のR−01といったナイトフォーゲルでは変形が不可な地形でも、変形が可能なのは魅力的だし、なにより車だから戦闘機型のナイトフォーゲルより操縦スキルの高さを必要としないのがいい」
拓耶が開発コンセプトを支持しつつ、危惧している点の告げると、ゲックがメリットを指折り数えてゆく。
「僕の身長でも大丈夫なんだ。そっか、僕よりちっちゃい子もいるもんね。座席をずらせばへっちゃらだよね、えへへ‥‥」
「非常時を除いて、能力者といえども免許をお持ちでない方は公道は走れないかもしれませんが」
スカイスクレイパーの操縦系統は、基本的にはレーシングカーだ。座席をずらせば和奏でも操縦できるが、運転するには免許が必要になるかもしれないとミユが付け加えた。
「問題は車、という点だな。装備の選択の幅が限られるし、長距離の移動時間はR−01に比べればかなり長くなる。加えて、2人乗りによる運用人員の確保の問題もあるし、ある程度整地された場所でしか車形態で移動できないのも痛い‥‥まぁ、簡単に抜き出したにしてもこれだけ直ぐに思いつけるとは結構面倒だ」
「そうでしょうか? 私はコンセプト・仕様共に、現行のままで良いと考えています。私が求める『隊長機』は『全体の戦局を見て的確な指示を出せる機体』であり、攻撃や防御は他の人に頼って問題無いはずです。また、副座も、隊員の誰かが撃墜された時に被撃墜者を安全な場所に一時的に避難させる事が出来る、という点から賛成です」
「バイパーも強いんだけれど、残念だけど回避性能は並‥‥だから、コンセプトもスナイパーさんみたいな遠距離タイプなんだよね。それでね、バイパーは空中や遠距離、スカイスクレイパーは地上の近距離って使い分けられたらいいなって思ってるんだ」
ゲックがデメリットを挙げてゆくと、メアリーと和奏が反論した。ナイトフォーゲルは単機で運用される事は少なく、他の能力者と編隊を組む方が多い。攻撃はバイパーといった機体に任せ、スカイスクレイパーは隊長機としての役目を果たせばいいのではないだろうか。
「高性能レーダーを搭載しつつ白兵戦にも対応となると、少々手を広げていると思われます。支援機として割り切った機体に仕上げる方がよろしいかと思われます」
「いっその事、火器管制や電子兵装の扱いはAIを搭載して任せ、パイロットはナイトフォーゲルの操縦だけに集中した方が良いかもしれん。それに都市内や近郊でならば、先に挙げたように車の方が戦闘機よりは展開しやすいだろうから、拠点防衛用として割り切るのも1つの手だな」
索敵及び遠距離からの先制・支援射撃用の機体とする事をツィレルが提案すると、ゲックも賛同した。
「支援機作るなら、ヘリに変形できる電子戦型ナイトフォーゲル作った方が良くねぇか? 高速戦闘には向かないが、地上に限定すれば、離発着に滑走がいらない分便利だと思うぜ。レーダーが広範囲なら空中もカバーできそうだしよ」
「ヘリコプターの場合、デュークさんが仰るように、高速戦闘が出来ないのが問題になってきますね。慣性制御が可能なヘルメットワームとの戦闘は厳しいでしょう」
今まで聞き手に回っていたデュークが、ここでヘリコプター型のナイトフォーゲルの開発案を挙げた。しかし、ツィレルがヘリ型ナイトフォーゲルの欠点を指摘した。
「空が飛べない以上、輸送の問題もあると思うが、その辺はどうなってんだ?」
「皆さんが依頼に向かう時に使用する高速移動艇に搭載します。必要であればユニヴァースナイトによる運搬も考えています」
「どうやって現地まで輸送するか、俺も気になっていたが‥‥ナイトフォーゲル用の輸送機を造らなくても、高速移動艇が使えるのなら問題ないかな」
デュークの質問に、ミユはコンソールを操作しながら応える。ミニディスプレイに、進水式を控えたユニヴァースナイトの画像が映し出された。一は納得したように頷いた。
「局地戦を想定する上で外せないのが砂漠とジャングルだ。砂や泥沼で足を取られないか。市街地戦でも建物の破片でタイヤがパンクしないかが心配だ」
「従来のRV車と同程度、もしくはやや上程度の走破性しか車両形態に期待出来ないなら、変形機構自体をオミットすれば、整備性や耐久性の向上、コストの面でもその分を他に回せるんじゃねぇか? そうすれば機体全体の性能向上を計れると思うぜ」
「コスト下げるという意味では、変形機能は不要かもしれません」
「根底から否定しかねないのですが‥‥いっその事、ナイトフォーゲルにするの、止めちゃいません?」
「主力を謳うなら支援機じゃなくて、前線で戦える機体が欲しいのが本音だしな」
一がスカイスクレイパーの走破性について疑問を投げ掛けると、デュークとメアリーが変形機構の不要説を唱える。拓那も微苦笑しつつも、変形機構を完全に取り払い、「車両」扱いで売り込む案を推した。デュークもスカイスクレイパーのような支援機ではなく、バグアの新機体シェイドに対抗できる主力機が欲しいと、本音を告げた。
「レーシングカー形態で走破出来ない場所は人型へ変形して通過するのも、スカイスクレイパーのコンセプトです。それに先程ツィレルさんが仰ったように、変形できなければ、スカイスクレイパーといえどヘルメットワームの格好の的となるだけです。逆に言えば、人型へ変形できるからこそ、ワームに太刀打ちできる兵器なのです」
これはミユが、少なくとも慣性制御が可能なワームを相手にする為には、ナイトフォーゲルも変形する事でその動きについて行けなければならないと告げた。
事実、UPC北中央軍が保有するMR−101M1主力戦車は、ワーム相手では的でしかない。
「たかが数値上のスペックになど興味はありません。多様な戦術性こそ数値を超える力となるのです」
すると、陽子がミユに目配せをし、手渡した改良案をミニディスプレイに映し出させた。
「障害物の多い場所で電磁迷彩によりジッと身を潜め、レーダーで敵を捕捉したら高い白兵戦能力を持って奇襲にて敵を倒す。高い隠密性を駆使して偵察を行い、敵に発見されたら煙幕を撒いて逃げる。これが改良案の意味ですわ。夜間戦闘能力と消音性能の向上はその補足ですわね」
「なるほど。陸戦ポテンシャルを重視した、高性能陸戦機化は俺も賛成ですね」
「走行時や戦闘時の消音性能の向上は私達開発陣の努力次第ですが、煙幕の発生装置や電磁迷彩については実現可能です。ただ、スカイスクレイパーは緊急回避用のブースターを搭載しますので、これらが標準搭載できるかどうかは分かりませんが‥‥」
陽子の案には拓耶も納得するも、ミユはスカイスクレイパーに標準搭載出来るかどうかは分からないが、実現可能だと応えた。スカイスクレイパーがロールアウトされた後、オプションとして追加されるだろう。
「パイルドライバーは魅力的だが、もう少し小型で隠密性のある武器‥‥ワイヤーとかはできないか?」
「ワームが人型であれば有効かも知れませんが、現時点ではワイヤーはワームには有効な武器とはいえないでしょう」
一が隠密性の高い武器の例を挙げると、ミユは左右に頭を振った。
その後、デュークから脚部にスラスター、背部に補助ブースターなどを設け、ジャンプやジャンプ時の空中姿勢制御を行い、3次元戦闘の実用化、もしくは滑空の案が出されるが、現時点のナイトフォーゲルの技術では、人型形態を飛ばせる事は無理だとミユは告げた。
また、メアリーからは、推進機能付きホバーボードの開発が提案された。これは先のデュークの案同様、陸戦では実現不可能だが、水上戦闘の際の移動手段や足場の役割としてのナイトフォーゲル用サーフボードについては、十分可能だとミユは応えた。
●既存のナイトフォーゲル改良案
「あのね、テスト機のFX−104Bっていうバイパーの改良型が出るって聞いたんだけれど」
「はい、バイパーの改良案は私のところにも申請が来ています」
スカイスクレイパーの話し合いが一通り終わり、ミユとメアリーが淹れた紅茶を飲みながら歓談していた時の事だ。
和奏が寂しそうな表情でミユにそう切り出した。
「それが出ると、今のバイパーって用済みになっちゃうのかな‥‥? それだと悲しいな‥‥今のバイパーをそのままバージョンアップさせたりできないのかな? ‥‥ごめんなさい、僕のわがままかもだけど、今のバイパー、大好きだからっ‥‥」
「私もバイパーは好きですよ。それにバイパーの基本スペックはかなり高いですから、少なくとも次期主力ナイトフォーゲルが開発されるまでは用済みになる事はないでしょう」
ミユはにっこりと笑い、和奏を安心させるように言う。実際、バイパーはキャパシティが高く、能力者が改良すれば、長い間乗る事のできる機体だ。
「内情を知らぬ一傭兵の戯言に過ぎないかもしれませんが‥‥その内に型落ちになるであろうS−01、R−01の延命処置案と、砂漠での戦闘に適応する為の案を提出します」
ツィレルも温めていたS−01改、R−01改及び、防塵装置と砂漠戦用ナイトフォーゲルの案をミユに提出した。
「先にも述べたように、変形機構のオミットはワームに対抗できるナイトフォーゲルのメリットそのものを打ち消してしまうので出来ませんが、S−01、R−01それぞれの長所を伸ばす改良案は私も賛成です。砂漠戦用ナイトフォーゲルは‥‥正直なところ、必要に迫られなければ開発されないでしょう」
「ダメ元でお願いしたいのですが。次の大規模作戦時に試験運用を兼ね、『ガーデン』隊長機としてLM−01を期間限定で貸し出してもらえないでしょうか?」
「確約はできません。ですが、メアリーさん達の意見を元に、大規模作戦に間に合うようスカイスクレイパーの開発を進めるつもりです」
「今回のような、ある種日の目を見れそうに無い付き抜けたコンセプトのナイトフォーゲルを作って行くなら、今後とも付き合いを続けていきたい」
「ミユお姉さん、社長さんって難しい事たくさんあって大変そう‥‥だけど僕、応援してるから!」
「ありがとうございます。ここだけの話ですが、先程デュークさんが前線で戦える機体が欲しい、と仰いましたが、スカイスクレイパーは対シェイド用ではなく、おそらくバグアが近いうちに投入して来るであろう陸戦型ワームに対抗する為のものなのです」
メアリーとゲック、和奏にミユはそう応えた。
ドローム社はバグアの情報をどこまで知り得ているのだろうか‥‥。