●リプレイ本文
●ジェシカvsチョビりんズ
ラスト・ホープから北アメリカ西海岸へ向かう高速移動艇の中。
「リアーネさんから、キメラの資料として、ジェシカの写真をもらってきました」
ファイターの蒼羅 玲(
ga1092)がULTのオペレーター、リネーア・ベリィルンド(gz0006)より、今回の依頼に必要だと言ってジェシカの写真をもらってきた。
「「「「「「かわいい〜」」」」」」
スナイパーのラン 桐生(
ga0382)を除く女性陣が、一斉に感嘆の息を漏らした。
「ペンギン自体は可愛いのじゃがな。それのキメラとはの」
「こんな可愛いペンギンをキメラに仕立てるとは、バグアも酷い事をするのじゃ。全く持って許す事は出来ん!」
「水族館、楽しいよね♪ 綺麗な魚とか沢山いて‥‥ボクもちっちゃい頃良く連れていってもらって、凄く楽しかった‥‥だから、今回バグアのやった事は余計に許せないよ」
グラップラーの綾嶺・桜(
ga3143)とスナイパーのヒカル・スローター(
ga0535)、グラップラーの潮彩 ろまん(
ga3425)は、怒りを露わにした。
桜は神社の巫女を自称しており、普段着として巫女装束を着用している。
バグアとの戦いは何時終わるか分からない。だからこそ、休める時に休むのも傭兵の務め。ヒカルは依頼の合間を縫って、久しぶりに水族館に行ってみようと思った矢先の依頼だった。これから向かう水族館が無料公開中にペンギンを目で愛で、あわよくば握手したりキスしたり抱っこさせてもらえるかも‥‥と淡い期待を抱きつつ、さっさと依頼を片付けようと気合い十分だ。
ろまんは、ペンギンのいる水槽は寒いかもしれないと、ブラの上にピーコートを羽織り、ベレー帽姿で、いつもの麦わら帽子よりちょっぴりおめかししている。
「ペンギンは可愛いけど‥‥巨大で凶暴なのはちょっと、ね」
「普通の大きさであれば可愛いですが、3mを越えると流石に恐いですよね‥‥目が逆三角で吊り上がって凶悪だったり、角が生えてたりしてそうですし」
グラップラーの銀野 すばる(
ga0472)とスナイパーの霞澄 セラフィエル(
ga0495)は、未だ見ぬビッグペンギンの姿を想像し、お互いに苦笑し合う。
すばるはグラップラーらしく、ブラにショートパンツ姿、その上からピーコートを羽織り、艶やかな黒髪を戦いの邪魔にならないようポニーテールに結っている。
一方、霞澄はブレザーの制服を折り目正しく纏い、フィンランド人と日本人とのハーフの証たる白銀の髪をヘアバンドで留めつつ、ストレートに流している。
「どうせ水族館に来るなら、女の子とデートで来たいとこだなー。ビッグペンギン退治ってのも、どーにもサマになりそうもないし」
唯一の男性、スナイパーのエミール・ゲイジ(
ga0181)は、滑り止めバンドを革靴に装着し、感触を確かめていた。
「ま、今回は嬉しい事に、周りが可愛い女の子ばっかりだし、いっちょ頑張るとしますか!」
ペンギンの観賞用水槽は、ペンギンを飼育しているだけに滑ると考えられる。緑一点としてええかっこししたいし。転ばぬ先の杖だ。
さて、先程、1人、ジェシカに反応しなかったランはというと‥‥。
「ペンギンより、我が隊の“チョビりんズ”の方が遥かに威力が高いよ」
玲と桜、ろまんの3人の組み合わせを見ながら、恍惚とした表情を浮かべている。彼女の周りにはほわわんと幸福のオーラが満ち、ランの姿は霞掛かっているかのように見える。
「じゃーん、竹刀だと効かないみたいだから、ちゃんと刀を用意してきたんだ!」
「可愛いうにゃ〜〜〜」
自分の背丈の半分以上はあろうか、刀を抜いてみせるろまん。小学一年生がランドセルに背負われているような、そんな可愛さだ。
その可愛さに腑抜け、生命力が全回復して漲りすぎ、鼻血が垂れるくらい癒されるラン桐生さん、サバ読んで25歳の秋だった。
「だ、大丈夫ですか!? 鼻血が止まりませんが!?」
突然、ランが鼻血を吹き出し、ビックリする玲。着物の袖からハンケチを取り出してランの鼻血を拭くも、ますます漲ってしまい、ランにとって却って鼻血が止まらないという逆効果をもたらした。
●万全のバックアップ
高速移動艇は水族館のある市の外れに着いた。そこには市長が用意した出迎えの警察車両が待機していた。
「びっぷ待遇だね」
「手際の良さは、この市にとって、それだけ今回の依頼が死活問題という事じゃろうて」
高速移動艇より警察車両へ乗り込むろまんと桜。報酬こそ少ないが、厚遇なのは悪くない。
「移動艇の中でも話し合いましたが、今回の作戦の確認をしましょう」
水族館の資料が全員に行き渡ったのを確認すると、セラフィエルが切り出した。
先ず、玲と桜がペンギンの餌で偽ジェシカを屋外の観賞用水槽へ誘い出し。そこでエミールとラン、セラフィエルとヒカルが偽ジェシカへ一斉射を仕掛けて足止めをし。最後にすばるとろまんを加えた桜達が偽ジェシカの周りを取り囲んで攻撃、エミール達は誤射を避ける為、偽ジェシカ頭部を狙う‥‥という、今回の作戦はシンプルに「囮作戦」だ。
「うむ、この2人になら、偽ジェシカも確実に食いつくはずだ!」
「‥‥その根拠のない自信はどこから来るのかな‥‥」
チョビりんズの玲と桜を見ながら、ランが自信を持って深々と頷く。すばるは、そんな彼女の根拠のない(というか欲望丸出し?)自信に苦笑した。
作戦を再確認し終えると、水族館へ着いた。
数日前までは家族連れやカップルで賑わっていた水族館は、偽ジェシカ1匹の為だけに閉館に追い込まれ、今は非常線が張られ、警察が警戒に当たっている、物々しい雰囲気の中にあった。
「へぇ。魚の数は多くはないし、シャチやイルカのショーといった目玉もないって聞いてたけど、なかなか小綺麗な建物だな。今度、妹を連れてきたら喜びそうだ」
「先程聞いたのですが、偽ジェシカを退治したら、報酬とは別に無料の招待券を下さるそうですよ」
「招待券じゃと!? もしかして、ペンギンと握手や接吻ができたり、ペンギンを抱っこしてもいいのかの!?」
規模こそ大きくはないが、小綺麗な建物に、エミールは感想を漏らす。玲が金銭的な報酬とは別に、成功した暁にはこの水族館のペア招待券も付いてくる事を話すと、ヒカルのメガネ越しの目の色が変わった。
「ジェシカの飼育係の人はいるかな? ペンギンの飼育係の人でも良いけど」
すばるが聞くと、出迎えた水族館のスタッフの内、数名が手を上げた。
「水槽内の温度って上げられないかな? 水槽内での調整が無理なら、館内のエアコンを利用して温風を送り込む、とかでも構わないんだけど。偽ジェシカが暑さに弱いペンギンなら、上手く行けば弱らせたり、屋外の観賞用水槽の方を涼しくして、追い込みやすく事もできるかもしれないしね」
偽ジェシカは囮と餌で屋外観賞用の水槽まで誘き寄せる手筈になっているが、彼女は念には念を入れ、偽ジェシカがペンギンの飼育用の水槽に居たくない環境を作り出そうと考えた。
ペンギンの飼育係達は、水槽内の温度は水槽内で調整可能だが水量193tと大きい為、時間が掛かると応えた。
「屋外の観賞用水槽と、それに続く飼育用水槽の通路は滑りますか?」
玲は今履いているジャングルブーツを見せながら、ペンギンの飼育係の1人に聞いた。彼女は囮になるので、滑って転け、距離を詰められては意味がない。
水槽は共に温度が低く設定されており、且つ濡れている為、滑りやすいが、ジャングルブーツやエミールが付けている滑り止めなら問題ないと応えた。
「わしもエミールが用意した滑り止めを着けるが、念の為、玲の勧めに従って滑り止めの砂を飼育用水槽へ行くまでに撒いておいた方がよいの」
エミールから渡された滑り止めをシューズに着ける桜。万一が起こると作戦に支障をきたすので、滑り止めの砂を用意してもらう事にした。
飼育用水槽に近付くにつれ、地響きとも、破砕音とも取れる音が、ろまん達の耳に届いた。
飼育用水槽の半円状の観賞用ガラスに沿って、水族館にあるありったけの物資でバリケードが築かれ、中にいる偽ジェシカが逃げ出すのを防いでいる。
セラフィエルの目から見ても、バリケードは後半日保たないだろう。それだけひれ状になった翼――フリッパー――の破壊力を暗に物語っている。
バリケードの隙間から、飼育用水槽の中を覗く事が出来た。そこには全長3mを越す巨大なマカロニペンギンの姿があった。ちなみにマカロニとは、イタリア料理で使われるパスタではなく、18世紀のイギリスの言葉で「伊達男」や「洒落者」という意味がある。偽ジェシカも頭部にオレンジ色の派手な羽飾りを持っている。
「可愛くない‥‥3mのペンギンさんだって聞いたら、普通、誰だって期待するよね? ね? ‥‥それなのに、あんな姿なんて、ボク、絶対に許さないから!」
やはりペンギンは小さい方が可愛いようで、ろまんは偽ジェシカを見て、バグアに怒りを感じた。
●水槽内の攻防
「ここがフォルトゥナ・マヨールーの射程ギリギリで、客席がいい遮蔽になる絶好の狙撃ポイントだな」
エミールとラン、セラフィエルとヒカルが、屋外の観賞用水槽に設けられた段々になっている観客席から、各々の得物に合った狙撃ポイントを見出し、陣取った。
飼育用水槽へ通じる通路とは別の、客がペンギンと触れ合う為に入る出入口に、すばるとろまんが待機する。
桜と玲が、マカロニペンギンの餌となるイカやオキアミを持って飼育用水槽へ入った。
「ほれ、こっちじゃ! さっさと追ってくるのじゃ」
「数日間、餌を食べていないのですから、効果は抜群のようですね」
「というか、キメラって元となる生物と同じ食べ物をエネルギーにしているのじゃろうか‥‥」
偽ジェシカは桜目掛けて飛んでくると、フリッパーの一撃を繰り出す。彼女が間一髪避けると、そのまま滑って突進してくる。玲が間に割って入り、ロングスピアで突進を受け流した。
しかし、カウンターを狙おうにも、体重差がありすぎた。踏ん張りが利いたとしても、今の突進にロングスピアでカウンターを合わせたら、弾かれるのは玲の方かも知れない。
手筈通り、イカやオキアミを撒きながら、飼育用水槽から通路を伝って屋外の観賞用水槽へ誘き寄せてゆく。餌だけではなく、水槽内が暖かくなった事もあり、偽ジェシカはあっさりと付いてきた。
「場所が場所じゃ、逃げられないよう注意を払うぞ! ペンギンとはいえ相手はキメラじゃ、飛べないという先入観は油断に繋がる、捨てるのじゃ!!」
「ようこそペンギンさん。歓迎の鉛弾は遠慮せず受け取れよ?」
「自分より先に“チョビりんズ”に手ぇ出したら許さないよ!」
「巨大ペンギンでも、そのままスケールを大きくしただけのようですから、足はやっぱり短いんですね‥‥」
桜、玲、と観賞用水槽へ姿を現し、一拍遅れて偽ジェシカが現れる。
ヒカルの掛け声と共に、彼女のアサルトライフルと、エミールとランのフォルトゥナ・マヨールー、セラフィエルのアーチェリーボウから一斉射が放たれた。
ヒカルの言うように、ペンギンとは言え相手はバグアが作り出したキメラだ。もしかしたら空が飛べるかも知れない。
ヒカルはフリッパーを、エミールとセラフィエルは足を、ランは上半身を、鋭覚狙撃で狙う。
「くっ、ペンギンの可愛い形(なり)をしているが、体力は人一倍のようじゃな。フリッパーの一撃は健在、洒落にならないのじゃ。流石にこれは食らう訳にはいかないのじゃ‥‥とはいえ、わしも爪でなく薙刀の方が得意なんじゃがな。無いからしょうがないのじゃ」
ラン達の集中砲火を浴びても、偽ジェシカの動きは鈍る事なく、桜へフリッパーを繰り出してくる。彼女は辛うじてかわし、ファングを突き立てる。
フォースフィールドを破るものの、厚い肉の感触がファングを阻む。
「ペンギンキメラって長くて言いにくいよね‥‥よし、今からあいつの事は、略して“ペギラ”って呼ぼうよ、ペギラ! ダメ?」
「どこぞの怪獣じゃないんだから‥‥ビッグペンギンでいいんじゃない?」
瞬天速で一気に距離を詰め、刀を振るうろまん。一方すばるは、観賞用水槽内は滑りやすいが、それを逆に利用してローラーシューズで滑走しながらジャブを放つ。
「離れて下さい!」
「上半身も肩も足も、狙撃の効果はあまり出てないけど‥‥体力は削れるよね」
「頭部を集中して狙って、撹乱するしかないの」
セラフィエルの掛け声に合わせて玲達は偽ジェシカから離れ、ランやヒカル達が再び一斉射を行う。
「えーい! こて! めん! どーう! ‥‥それからおまけで、『波斬剣』!!」
射撃が終わると、ろまんが再び距離を詰め、刀を竹刀の感覚で峰打ちから始まり、最後に刀を返して上段から必殺の『波斬剣』を繰り出す。しかし、刀は派手な羽飾りに引っ掛かってしまう。
迫り来るフリッパー!
「わわわ!?」
「危ないです!」
「女の子に手ぇ上げてんじゃねぇよ!」
玲がロングスピアでカバーリングに入ると同時に、エミールの一撃が羽飾りを貫き、間一髪、ろまんはフリッパーの一撃を避けた。
「これで終わりだよ!!」
滑走したスピードに、全体重を乗せたすばるのコークスクリューブローが、偽ジェシカへの止めとなった。
偽ジェシカは後処理に来たUPC北中央軍の隊員が引き取っていった。
また、本物のジェシカは、後日、高速移動艇が着陸した市の外れ付近を彷徨っているところを保護された。迷子になっていたのか、それとも偽ジェシカが倒された事でバグアが開放したのかは定かではないが‥‥。
「やはりペンギンは和みますね‥‥」
飼育用水槽の被害は大きかったが、観賞用水槽はそれ程でもなかったので、ジェシカを始め、ペンギン達はしばらく観賞用水槽で飼育される事になった。
セラフィエルは観客席に腰掛け、紅茶を片手にペンギン達を眺めてリラックスムード。
「ビッグペンギンの写真を頼まれたけど、流石に戦闘中に撮る余裕はなかったしなぁ‥‥かと言って、死骸の写真は見るに耐えないだろうし。普通のペンギンの写真を撮らせてもらいますか」
「エミールさん、ボクとペンギン達の記念写真撮ってよ!」
「私も頼むぞ。接吻をしているところを所望するのじゃ!」
「OKOK。俺との2人っきりの記念撮影も行っちゃおー!」
カメラを持ってきたが為に、ペンギン達と触れ合うろまんやヒカルの記念撮影をする為になったエミール。ちゃかりペンギン達を抱っこして楽しんでいる玲や桜、すばる達とピンナップ写真を撮ったのは役得か。
「嗚呼、“チョビりんズ”がメイド服を着てご奉仕してくれれば、いくらでも癒されるんだけどなぁ‥‥エミール、“チョビりんズ”の激写は自分にも焼き増しよろしく!」
ランにとっての癒しはペンギンではなく、最後まで“チョビりんズ”だった。