●リプレイ本文
●ラスト・アマゾネスな人々
「スナイパーの緑川安則です‥‥まぁ覚醒時はフェンリルと名乗りますが」
「ボートの操縦なら俺に任せてくれ」
ラスト・ホープにある高速移動艇の発着所。集まったスナイパーの緑川 安則(
ga0157)やサイエンティストのツィレル・トネリカリフ(
ga0217)達能力者は、ラスト・アマゾネスへの補給物資が高速移動艇へ積み込まれる傍らで自己紹介し合う。
騎士道を信奉している安則にとって、レディ・ファーストは当たり前。ファイターの空間 明衣(
ga0220)が高速移動艇へ乗り込む時は、進んで道を譲った。
「女の人だけの部隊が、深いジャングルの奥でバグアと戦っとるんか‥‥どないな人らなんやろ?」
「ラスト・アマゾネスの部隊表、見ますか?」
「ギャハ、見せて見せてぇ」
グラップラーの相沢 仁奈(
ga0099)が、高速移動艇へ積み込まれる荷物をぼーっと見ながらふと呟くと、経験を活かして補給物資のチェックを自ら買って出ていたサイエンティストの里見・さやか(
ga0153)が、手に持っていたクリップボードを1つを差し出した。
アマゾン川の流域は、支流も含めると6400kmといわれている。その中から1部隊を探すのだから、少なくともメンバーの容姿は知っておく必要がある。さやかはUPC(国際平和維持組織)へ依頼遂行の為に必要な資料だと打診し、ラスト・アマゾネスの部隊表を入手していた。
グラップラーのブラッディ・ハウンド(
ga0089)が、仁奈の横からクリップボードをかすめ取る。ブラッディもラスト・アマゾネスの隊員がどのような女性達なのか興味があった。
「ギャハハ! なぁんかお嬢様ばっかりだねぇ。この娘なんかドリルだしぃ。よぉし、この娘はドリルちゃんって呼ぼうぉ」
「ラスト・アマゾネスというくらいですから、正直、もっと厳つい女の人を想像していましたけど‥‥僕とたいして変わらない女の子達も多いですね」
「能力者に大人も子供も関係ないからね」
「最初、ミスコンの資料を間違えて渡されたかと思ったで。ラスト・アマゾネスに入隊するのって、容姿審査もありそうやなぁ」
ブラッディは縦ロールの少女がツボに来たようだ。しかも、彼女がドリルちゃんと名付けた少女は、ファイターの伊知朗(
ga0867)とたいして変わらない年頃だ。
明衣が言うように、能力者には大人も子供も関係ない。能力者だけがバグアと戦える、人類の唯一の希望だ。だからこそ伊知朗のように、一介の高校生でも能力者として覚醒すれば戦場へ駆り出される。
ようやく部隊表を見た仁奈が目を丸くする。ラスト・アマゾネスの女性達は容姿で選んでいるのではないかと思うくらい、ファイルに添付されている顔写真は一様に美女・美少女揃いだった。
「アマゾンで戦う友軍への補給任務。非力な身ではありますが、全力を尽くさせて戴きます」
その間にさやかが補給物資のチェックを終え、任務の復唱と共に敬礼を以て、最後に高速移動艇の中へ入っていった。
●アマゾン川流域
「密林での戦闘は弾の消費が激しい。特にスナイパーは、無駄な弾を使わないように」
安則が愛用のスコーピオンとハンドガンのチェックを行いながら、スナイパーのジャングルでの心掛けを語る。
伊知朗は彼の言葉に耳を傾けながら、愛刀の手入れをしていた。これが初任務だし、能力者とはいえ、さやかのように軍で訓練を受けた訳でも、安則のように将来は軍人を目指して軍事知識や戦術を学んでいた訳でもない。趣味の読書で軍記物や歴史書を読んだくらいだ。
「ボーイスカウトの知識は役立つかな‥‥」
伊知朗は窓から緑の絨毯が見えくると、愛刀の手入れを終えた。
高速移動艇はさやかの指示した場所へ着いた。
出発前に、ラスト・アマゾネスが最後に物資補給を打電した場所をUPCの受付に聞いていた。1日に徒歩で移動出来る距離を144km(時速6km計算)として、1ヶ月間に移動出来る距離はおよそ4320km。バグアとの戦闘を行いながら移動すれば、移動距離はこれよりも少なくなる。さやかはラスト・アマゾネスが最後に打電した場所からの行動範囲を絞ったのだ。
「補給物資を待っているのでしたら、打電した場所からそれ程移動いないと思われますが‥‥」
「分かりやすい痕跡を残しているとは思わないけどね」
「ギャハ、違いないねぇ‥‥さぁて、女の為なぁらちょっとは頑張ってみようかぁね」
明衣が、ツィレルの操船するボートの準備を手伝いながら言うと、食料に飲み物、応急手当の道具を移動の邪魔にならないよう纏めていたブラッディが応えた。
「敵を振り切るなどの指示がないなら、戦いやすいように船体の維持を優先させるから、そのつもりでな」
ツィレルが操船し、補給物資を満載したボートはアマゾン川を上る。自ら買って出ただけの事はあり、彼の操船技術はなかなかのものだ。
迷彩服を着た安則がスコーピオンを携え、何時上空からバグアの襲撃があってもいいよう警戒している。ブラッディは川面を眺め、水中からバグアに奇襲されないよう注意を払っている。
「あの辺り、木が薙ぎ倒されていて不自然ではないか?」
しばらく上ると、ツィレルが川辺に戦闘の痕跡のような場所を見付ける。
「私とハウンドさん、緑川さんと里見さんで見てくるから、伊知朗さんと相沢さん、トネリカリフさんは船で待機していてくれ」
高速移動艇の中で班分けを話し合っており、明衣達が船から下りた。
「索敵線を形成するなんて、60年前の、しかも海戦での偵察方法ですが‥‥有効である事を祈るばかりです」
『索敵線』とは、起点(ボート)より出発し、鋭角なU字型を辿って起点へと帰着して索敵する方法だ。さやかの提案だが、闇雲に探すより効率的と言える。
その間、ツィレルが周囲を警戒し、伊知朗が、安則が用意した偽装網で船を一時的に隠していた。
「‥‥にしても、胸きっついなぁ‥‥あつくて汗でベトベトするし、目の前に川があっても、ヘビの生殺しやで‥‥」
「‥‥!?」
「‥‥夜になれば水浴びも出来るだろう。今は‥‥慎め」
「‥‥? あはは、見られても減るモンやないけど、伊知朗ちゃんにはちょっと刺激が強かったようやね」
仁奈が片手のファングを外し、迷彩服の胸元を開けっ広げてパタパタと扇ぐ。熱帯雨林だけあって、アマゾンの暑さはなかなか堪える。
すると、小麦色のたわわに実った2つの果実を目の前で見てしまった伊知朗が、たちまち顔を赤くして慌てて目を逸らした。その反応に気付いたツィレルが、仁奈の気持ちを汲みつつ軽く窘めると、彼女はちろっと悪戯っぽく舌を出して迷彩服の胸元を正した。
2時間経ってブラッディ達が戻ってくる。戦闘の跡はあったが、それ程新しいものではなかったようだ。
次の活動の痕跡を目指して遡上を再開する。また痕跡らしきものを見付けると、今度は仁奈達が索敵線を形成しながら調べ、明衣達が船を守る。
これを繰り返し、日が暮れたら野営を張り、2人組で2時間交替で見張りに立った。
「トネリカネフさんの操船技術、凄いですね。今度、僕にも教えて下さい」
「‥‥依頼を遂行してラスト・ポープに帰還したら、な」
昼間の探索も同じ班という事もあって、伊知朗とツィレルは大分打ち解けていた。
ツィレルと伊知朗が交わした約束は、「生きてラスト・ポープへ帰る事」の裏返しでもあった。
(「青春やねぇ」)
次の見張りに立つ仁奈は既に起きており、2人のやり取りを耳にしてほくそ笑んだ。
って、仁奈さんも十分青春中では?
●合流なるか!?
アマゾン川を遡上する事4日。未だ、ラスト・アマゾネスと合流を果たせていなかった。
明日には高速移動艇もラスト・ポープへ帰還してしまう。今日中に補給物資が渡せなければ、依頼は失敗だ。
「真新しい戦闘の跡だぁね。そこそこしか隠してない感じぃ?」
「ラスト・アマゾネスが交戦していると考えると、連戦の可能性もあるな。ただですら乏しい物資が底を付く可能性もある」
「班を更に二分するのは得策ではありません。私が相沢さん達を呼びに行きますので、空間さん達は先行して下さい」
8時間の捜索時間も残りわずかという時、ブラッディは出来て間もないであろう、戦闘の跡を見付けた。盛り土などをしてキメラの死骸を隠してはいるが、あまりカムフラージュ出来ていなかった。
この一帯で作戦行動を取っている隊は、彼女達とラスト・アマゾネスのみだ。となれば、この戦闘の跡は自ずからラスト・アマゾネスに因るもの、と安則は分析する。
縁の下の力持ちをモットーとするさやかが船で待機している仁奈達を呼びに行き、明衣達は先行した。
「‥‥!? 銃声だ!」
明衣は愛刀を片手に覚醒する。髪が鮮やかな緋色に輝き、まるで炎が揺らぐかのように揺れる。
その先では、十名近くの少女達が巨大なカブトムシと戦っていた。巨大なカブトムシは、ゆうに1mを越える巨体を持ちながら、鬱蒼と生い茂る木々の隙間を上手く縫って飛行し、体当たりを仕掛けたり、角で突いたり、6本の足で少女を抱えて木に叩き付けたりしている。
最年長と思しき女性がハンドガンで応戦するも、その弾丸は硬い甲羅に弾かれ、有効打を与えていない。
しかも、数発撃っただけで無情にも撃鉄の金属音だけが虚しく鳴る。
女性へ迫る巨大カブトムシ。少女の1人が半ば刃の欠けたバトルアクスの柄を上下に構え、突進を身を挺して防ぐ。
別の少女が弦の切れたアーチェリーボウで殴り掛かろうとすると。
「ラスト・ホープから支援要請を請けてやってきた宅配便です。必要な武器弾薬はこちらに届ければいいでしょうか?」
スコーピオンから放たれた弾丸が直撃し、巨大カブトムシは明後日の方向へ吹き飛ばされた。
「ギャハ! 痛いのも痛くするのぉもダイスキだぁねぇ!! 来いよベイビィ!?」
「‥‥あなた達は?」
「騎兵隊さ。騎兵隊は女性の危機に駆け付ける」
ファングを振り被りながら、ブラッディが弾かれた巨大カブトムシと女性の間に割って入る。覚醒を示すように全身に彫られた刺青が淡く赤色に光っている。
その姿から、ラスト・アマゾネス達はブラッディ達が能力者だと分かったようだ。女性に手を貸しながら、明衣が安則に感化されたのか、軽くジョークを交えながら事情を掻い摘んで説明した。
「すぐ治療致します!」
「敵か。任務内容が内容なんで遭いたくは無かったが‥‥倒しておけば戦線維持に役立つか」
駆け付けたさやかとツィレルが、負傷が激しいラスト・アマゾネスのメンバーから練成治療を施してゆく。
その前で安則が弾幕を張り、巨大カブトムシを近付けさせない。
「相沢さん、行きますよ!」
「応! 往生しぃや!」
覚醒して目立つ事もあって、ブラッディが疾風脚を使い囮になった。ブラッディの眼前に巨大カブトムシが迫ったところへ、伊知朗と仁奈が刀とファングで左右から同時に攻撃を仕掛けた。さしもの硬い甲殻も、これには堪らず砕け散る。
「緋焔の舞をお見せしよう。『紅疾風(べにはやて)』!」
豪破斬撃を使用した、明衣の縦の半円を描くような大振りの一撃が、巨大カブトムシに止めの一撃を与えたのだった。
「ありがとう、助かりましたわ」
(「こないなジャングルの中でも美人は美人なんやなぁ‥‥一番綺麗なトコ、機会あったら見させて欲しいなぁ」)
最年長故、自動的にラスト・アマゾネスの隊長になった女性が、仁奈達に礼の述べ、握手を交わしてゆく。薄汚れているが、それでも尚美しい女性に、仁奈は同性ながら見とれてしまう。内側から凛とした美しさが滲み出ているのだろう。
「治療を終えたラスト・アマゾネスの皆さんがいれば、物資の搬出を手伝ってもらいたいのですが」
ここはバグアとの競合地域だ。戦線が複雑に入り組んでおり、先程のように、何時、敵襲があるか分からないので、レディ・ファーストを掲げるものの、ラスト・アマゾネスの手も借りて、早急に船から物資を運び込みたいのが安則の本音だ。
さやかとツィレルの治療を受け、ある程度回復したラスト・アマゾネスの少女達も加わって、補給物資の積み卸しが行われた。
ラスト・アマゾネスのメンバー達の武器は、先程の戦いで粗方消耗しきっていたので、ほぼ新品同様の武器や防具を手に入れる事となった。
「バグアが戦局を拡大してくるから、UPCも対応に追われていてね。遅延分の補填がないのは勘弁してやってくれ。ところで、その場にあるもので延命処置した武器とかあるなら是非見せて欲しい」
サイエンティストの性だろうか。「現地改修型」に素敵な響きを感じるツィレルは、ジャングルにあるもので補修されたバトルアクスやアーチェリーボウを、喜々とした少年のように輝く瞳で見せてもらっている。
「お疲れさんだったぁね、ドリルちゃん。俺がマッサージでぇもやってあげよぉか?」
「ど、ドリルちゃん!?」
ブラッディは部隊表で目を付けていたツインドリル‥‥もとい、縦ロールの少女に念入りにマッサージを始めた。初対面の女性にそんな呼ばれ方をされるのは不本意、とばかりに、縦ロールの少女は唇を尖らせながらもちゃっかりマッサージは受けた。
「本部に伝える事はないか? 援軍も難しいかも知れないが伝言は受け付けるぞ」
「僕は今回が初任務だったのですけど、アマゾンがこんなにも混沌とした戦況だとは思いもしませんでした」
「この辺り一帯はバグア軍が多くないとはいえ、わたくし達の隊だけで戦線を維持しているようなものですし‥‥UPCも軍勢を割けないなら、定期的な補給を希望しますわ」
その横では明衣と伊知朗が、ラスト・アマゾネスの隊長とアマゾンの戦線について情報を交換し合った。
「補給の大切さは理解しているつもりです。帰投しましたら、可能な限り打診してみます」
武器が発達すればする程、補給の重要性も増す。特に銃器は弾丸が必要だし、斧や弓矢のように現地で調達、という訳にもいかない。さやかはラスト・アマゾネスへの定期的な補給を打診するつもりだ。
「どうぞ‥‥ご無事で」
「また共に闘えるよう頑張ろうな。御武運をお祈りする」
「また会えたらいいですね」
「それでは見目麗しき戦乙女たち。貴公らの勝利を願っているよ。もし何かあればラスト・ホープに連絡を。出来れば、だが、いつかはデートに誘いたいものですね。戦場ではない場所での」
「ドリルちゃん達、まぁた休みの時でぇも遊ぼぉねぇ?」
物資の補給と情報の交換を終えたさやか、明衣、伊知朗、安則、ブラッディ達は、ラスト・アマゾネスのメンバーと別れて高速移動艇への帰路に付いた。
「‥‥にしても、今回俺達補給部隊だろ? 三位一体攻撃仕掛けてくるバグアとか出なくて良かったさ」
「その点は大丈夫やろ。自分が結婚間近とか、初恋の人がいなければ」
何故か胸を撫で下ろすツィレルに、仁奈がそんな突っ込みを入れたとか。