●リプレイ本文
●出撃前のひととき
ユニヴァースナイト弐番艦のナイトフォーゲルハンガーは、まだ真新しい鉄の臭いがした。
(「ミユお姉様の様子が少し変だった‥‥あの状態で戦場に出して大丈夫かな?」)
グラップラーの水理 和奏(
ga1500)は、PM−J8アンジェリカのコックピットの多機能ディスプレイの一部にブリッジの様子を映し出していた。そこにはユニヴァースナイト弐番艦の艦長覇道平八郎と真剣な面持ちで遣り取りをする、ミユ・ベルナール(gz0022)の横顔が映っている。
外見にこそ出さないものの、姉と慕うミユの様子がここのところおかしいのは肌で感じていた。
原因は2つ考えられる。1つはカプロイア伯爵だ。
ナイトフォーゲルハンガーには、ミユの愛機のアンジェリカの他にもう1機、彼女の機体と説明されたナイトフォーゲルが格納されている。和奏もサイエンティストの明星 那由他(
ga4081)も見た事のない機体だ。
「大規模な作戦は‥‥目立つのもあるからなのか、大体新型機が出てくる。それに‥‥このユニヴァースナイト弐番艦にはドローム社が大きく関わったから、あると思うんだ、イビルアイズ‥‥」
那由他はその機体をR−01Eイビルアイズだと踏んで、おっかなびっくり見たり触っている。しかし、その黒塗りの機体にR−01の面影は微塵も感じられない。開発中の別の機体と考えられた。
それに、カプロイア伯爵の事を話すミユはどこか上の空で、どちらかといえば幸せそうな表情をしている。
もう1つの理由は、リリア・ベルナールだ。ミユは詳しく話してくれないが、数年前に亡くなった実の妹だという。ミユが和奏のように妹のような存在を作るのは、リリアへの贖罪、もしくはリリアを失った悲しみを埋める為なのかもしれない。
「壱番艦の時みたいに、初飛行早々ケチ付けられる訳にはいかないからねー。しゃっちょさんのお顔に塗っていーのは泥パックの方だよー」
「聞いた話だと、社長、エステに月に30万Cは使うそうよ」
「なるほど、あの魔乳を維持するのも並々ならぬ努力の賜物なんだね‥‥僕もどうやったらあんなに大きくなるのかな‥‥」
「乳は揉めば大きくなるけど、子虎のはそれ以上大きくできへんやろ」
スナイパーのヴィス・Y・エーン(
ga0087)は、S−01改の無線をオープンチャンネルにして話していた。エキスパートのメティス・ステンノー(
ga8243)とファイターの神崎・子虎(
ga0513)が反応した。流石は“乳揉みハンター”のダークファイター烏谷・小町(
gb0765)。子虎君、大変可愛いのだが、女装っ子だと一目で見抜いた。
「それにしても‥‥ホントにドリル付けちゃったんですね‥‥」
「デカくてゴツくてぎゅんぎゅん唸るドリルかぁ‥‥何や、見とるとカラダが疼いてくるなぁ♪ あんなん挿にゅ」
「‥‥仁奈さん、那由他ちゃんや和奏ちゃんのような子供もいるんですよ?」
「大鑑巨砲ならぬ大鑑巨錐‥‥とでもいえばいいのか‥‥な? どれだけ科学を進歩させても、結局‥‥質量攻撃が一番威力を出しやすいのかもしれないな‥‥」
「‥‥ちゅうのはさておき、この出撃は絶対成功させよな! ほんで唸るドリルを見るんや!」
ダークファイターのヤヨイ・T・カーディル(
ga8532)が胸の話題を変えようと、ユニヴァースナイト弐番艦の艦首に搭載された対艦対ドリルについて振ると、グラップラーの相沢 仁奈(
ga0099)が右斜め45度から食いついてきた。ヤヨイはやんわりと釘を刺したが、当の那由他はそれ程気にしている様子はなかった。
ブリッジから戦闘空域に入ったという連絡が入る。那由他も愛機へ戻るとハンガーの床がスライドし、各機を遠心カタパルトへ誘導していく。
「Silver Star、S−01改、出る!」
「相沢仁奈、XF−08Aミカガミ、イク! イっちゃう!!」
「神崎・子虎、F−104改、いっきまーす♪」
「烏谷小町、F−108ディアブロ、行くで!」
「水理和奏、わかなでりしゃすアンジェリカ、行ってくるよ!」
「明星那由他、H−114改岩龍‥‥お手柔らかに‥‥お願いします」
「メティス・ステンノー、FG−106ディスタン――行くわよ」
「ヤヨイ・T・カーディル、PM−J8アンジェリカ、行きまーす!」
先端のアームが機体を掴むと、艦底部に取り付けられた遠心カタパルトが回転する。艦の正面に来るタイミングでアームが開き、遠心力を利用して突撃班のナイトフォーゲルから戦闘空域へ投げていった。
●波乗りゴーレム
「敵機を‥‥確認しました。キューブワーム4、小型ヘルメットワーム8、中型ヘルメットワーム4、大型ヘルメットワーム1、ゴーレム1です‥‥」
『キューブワームは早めに倒すんが肝要や。ジャミングと頭痛の種を消す為に行くでー!!』
『大型ヘルメットワームの上に乗ってるゴーレム‥‥放っとくと拙い気がする! 五大湖戦で長射程高火力武器で、壱番艦が落された時のように‥‥』
『でも奴(やっこ)さんも、キューブワームやゴーレムが倒されないよう、小型と中型でガッチリ前面を固めてるから、私達突撃班の攻撃だけで穿てるかは難しいよ』
那由他が岩龍のレーダーで捉えた敵影から機種を識別し、各機へ転送する。一番厄介なのは、小町の言うようにキューブワームだ。岩龍の特殊電子波長装置に加え、ユニヴァースナイト弐番艦のジャミング中和が利いており、いつもよりかなりマシだが、完全に頭痛が治まる訳ではない。
和奏は更に指揮官機らしいゴーレムも警戒していた。ゴーレムは固定武装を持つヘルメットワームと異なり、ナイトフォーゲル並の兵装の換装が可能だからだ。
しかし、ヴィスが指摘するようにキューブワームやゴーレムは後方に位置している。
『先ずはキューブワームを撃墜する突撃班が行動し易いよう、私達が援護射撃を行います。弐番艦も敵陣形を崩す為に艦砲射撃の援護をお願いできますか?』
ヤヨイの申し出に女性オペレーターが応えると、ユニヴァースナイト弐番艦より長射程ミサイルの第2陣と副砲の三連装衝撃砲が発射され、小型ヘルメットワームを食らってゆく。
「まずは頭痛の種のCWからだ〜♪ いっけー!!」
ユニヴァースナイト弐番艦が穿った綻びを、スナイパーライフルを構えた子虎機を始め、ヴィス機がスナイパーライフルRで、小町機が試作型「スラスターライフル」で広げてゆく。間髪入れずに仁奈機がラージフレアを展開、その直後にブーストを起動させ、一気にキューブワームとの距離を詰めると、突撃仕様ガドリング砲で攻撃した。小町機、ヴィス機、子虎機もその後に続く。
「ふふ、一度貫かれてしまったら、もう後戻りは出来ないものよ? 貫かれたくなければ守るしかないのに、あなた達はそれが出来なかったのだから、せいぜい後悔するといいわ」
『ななな何をこんな時に言っているのですか!?』
「ナニって、崩れた陣形に決まっているじゃない。ふふ、慌てちゃって可愛い。ナニを妄想していたのか、帰還したらたっぷりと聞きたいわ」
(「わわ、何かオトナの女の人の会話だなぁ」)
『和奏は気にしなくていいのよ』
「はい、お姉様‥‥うわ、レーザー砲だとギリギリ射程が足りない!? ここでわかな粒子砲を使うのはもったいないけど、背に腹は代えられない!」
粉砕された小型ヘルメットワームの隙間を埋めようとする大型ヘルメットワームと中型ヘルメットワームの進路を、メティス機と那由他機のスナイパーライフルRと、ヤヨイ機のスナイパーライフルG−03、わかなでりしゃすアンジェリカの試作型帯電粒子加速砲が塞ぎ、合流を許さない。
和奏の思っている事を察してか、長射程ミサイルと連装パルスレーザーで弾幕を張り、小型ヘルメットワームを寄せ付けないユニヴァースナイト弐番艦より、ミユの通信が彼女のみに入る。
「うし! キューブワーム掃討終了♪」
『各機の‥‥被弾率は20%未満です‥‥弐番艦は10%未満‥‥』
『ならだいじょーぶだね! キューブワームさえいなくなればミサイルだって使えるもん! 大物の前に小物を食べちゃおう♪ 美少女からのお土産‥‥ちゃんと受け取ってね☆』
キューブワームを殲滅した時点で小町達突撃班の機体の被弾率は、ラージフレアの効果に援護班の支援もあって、突出していながら2割以下に抑えられている。
子虎は那由他から被弾率の報告を受け、これなら作戦続行は問題ないし、こちらに勢いがあるからそれを大切にしようと、突撃班へ反転を促す。
子虎機と仁奈機、ヴィス機と小町機がそれぞれロッテを組み、子虎機が小型ヘルメットワームへH12ミサイルポッドやUK−10AAMといったありったけのミサイルを叩き込んで外装にダメージを与え、脆くなったところへ、仁奈機が突撃仕様ガドリング砲で止めを刺す戦法で、着実に1機ずつ撃墜していった。
「弐番艦には行かせないよ!」
ヴィス機はユニヴァースナイト弐番艦の射線に入らない程度に、可能な限りユニヴァースナイト弐番艦を背にする位置取りでホーミングミサイルを放つ。動きが鈍った小型ヘルメットワームへ、小町機がブーストを掛けてソードウィングで斬り裂いてゆく。
一方、援護班もヤヨイ機とメティス機が前衛、那由他機とわかなでりしゃすアンジェリカが後衛と陣形を編成し直し、大型ヘルメットワームと中型ヘルメットワームへ攻撃を始めた。
厄介なのはゴーレムだ。目視した限りでは、特殊強化サーベルといった近接戦闘武器の類は装備しておらず、兵装は両腕にそれぞれ収束フェザー砲と背負ったプロトン砲1門のみだ。しかし、収束フェザー砲の射程はスラスターライフルのそれより長いようで、合流できないとなると距離を取って中型ヘルメットワームの援護に徹した。
「‥‥あの臨機応変な対応‥‥AI機ではなく有人機のようです‥‥大型ヘルメットワームの動き‥‥ゴーレムが土台も操っているようですね‥‥」
『差詰め、波乗りゴーレムって訳? バグアにも洒落の分かる奴がいるようね。だけど、ユニヴァースナイト弐番艦という波はか・な・り荒いわよ、ふふ』
『『将を射んとせばまず馬を〜』って言葉の通り、大型ヘルメットワームを狙うおう!』
『ですね、先に足場から崩しましょう! ミユ社長、中型は弐番艦に任せられますか?』
那由他の分析を聞いたメティスが、その外見から“波乗りゴーレム”と呼称する。和奏がセオリー通りに馬ならぬ土台の大型ヘルメットワームから倒そうと告げると、ヤヨイが戦闘空域の敵の残存数を即座に確認し、小型ヘルメットワームは仁奈達突撃班に任せられると踏み、ユニヴァースナイト弐番艦に後方支援を頼んだ。
メティス機が口火を切り、ブーストを吹かして一気に距離を詰めると、大型ヘルメットワームへP−115mm高初速滑腔砲を叩き込む。それはかわされてしまうが、避けたところへ那由他機が残していた127mm2連装ロケット弾ランチャーを発射していた。
更にヤヨイ機が8式螺旋弾頭ミサイルで回避コースを塞ぎ、そこへわかなでりしゃすアンジェリカがSESエンハンサーを起動させ、チャージを終えた必殺わかな粒子砲をお見舞いした。
連携の取れた波状攻撃の前に、ゴーレムの両腕の収束フェザー砲も追い付かず、最後はSESエンハンサーによって強化された、ヤヨイ機の試作型G放電装置によって撃墜されたのだった。
「後は小型ヘルメットワームの殲滅だけやな」
『戦いは派手に‥‥でも確実に、だよ♪』
指揮官機が撃破された為、残った小型ヘルメットワームは撤退を開始するが、仁奈や子虎達突撃班はそれを許さない。弱っている機体に残ったホーミングミサイルやH12ミサイルポッドの中身を全て撃ち込んだり、スラスターライフルで確実に仕留めてゆく。
「ここまで物理特化しとると、レーザーを積む意味は完全に命中のある予備武器みたいなもんやなぁ‥‥でも、アグレッシブ・フォースがあるから、両方万遍なく使えるけど」
そこがディアブロの利点だと、小町は撤退する小型ヘルメットワームを見ながら思った。
ヴィス機が全機に声を掛ける。
ユニヴァースナイト弐番艦は前方の全敵影の駆逐を確認すると、対艦対ドリルを起動させた。
轟音が辺りを劈(つんざ)く。
仁奈機達は小型ギガワームへ吶喊するユニヴァースナイト弐番艦を囲むようにフォーメーションを組み直し、脇腹を衝かれないよう周囲の索敵を怠らない。
重力制御エンジンが唸りを上げ、ユニヴァースナイト弐番艦は一気に最大船速へ達すると、仁奈機達は離脱して小型ギガワームの周囲を守る敵機の迎撃に当たる。
ユニヴァースナイト弐番艦はそのまま小型ギガワームの砲撃をものともせず、その前面に突貫し、見事、一撃の下に貫いたのだった。
●北米へとんぼ返り
ユニヴァースナイト弐番艦はこの後、UPC北中央軍による『ハリウッド奪還作戦』に参加する為、グラナダでの勝利の美酒に酔いしれる暇もなく、北米への進路を取った。
ユニヴァースナイト弐番艦へ帰還したヴィス達を、ナイトフォーゲルハンガーでミユが出迎えた。
「作戦が終わった後だけど、改めて初めまして♪ にしても話の通り大きいねー‥‥」
「91cmってとこやね」
子虎がやっぱり気になるのか、挨拶もそこそこに胸の話を振ると、乳揉みハンターの血が疼いた小町が触診する。
「あーあ、汗でベトベトだー。しゃっちょさんも一緒にどーぉ?」
フライトジャケットの胸元を開けてぱたぱたと襟で仰ぐヴィスだが、ミユはまだやる事があるからと断られてしまった。
「女同士の裸のつき合いなら、うちもご相伴に預からせてもらうかな」
「私を見ないで下さい‥‥うぅ、汗は掻いてますけど、どうせ胸の話になるんですから‥‥」
ヴィスは仁奈とヤヨイ、子虎と小町を誘ってシャワールームへ行った。
「あのね‥‥何があっても僕味方だから‥‥お姉様1人じゃないから‥‥(一緒に乗り越えていこうね!)」
和奏はミユの目を見ながらそれだけを言うと、ヤヨイ達の後を追いかけてゆく。
「ねぇ社長、ドロームでナイトフォーゲルの拡張パーツとか作る計画ってないの? 私の乗るディスタンって足が遅いじゃない? 素早い移動を求められる作戦とかの場合どうしても遅れがちになるのよ‥‥だから移動力増加系のブースターとか作ってくれたら需要もあるだろうし助かるなぁ‥‥って」
「造れない事もありませんが、ショップで普通に販売される事はないでしょうね」
残ったメティスと立ち話に興じるミユ。行きと同じくナイトフォーゲルハンガーを見て回っていた那由他は、積んであった黒塗りの機体が無くなっているのに気付いた。
「あれはA−1ロングボウという機体です。カプロイア伯爵に設計をご依頼し、ドローム社で製造しているナイトフォーゲルです」
ロングボウの試作機が完成したので、カプロイア伯爵に届けたのだとミユは話した。