●リプレイ本文
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『イツメパイユ』の所在地であり舞台KV☆が行なわれてきた某都市では特に、劇場版に対しての期待は大きい。
各所上映施設は全て満席。その一つである舞台公演を行なっていた演劇場には、主演メンバーの有志による被戦災児招待席『フェアリー・シート』も設置され、子供達は映画の上演を今か今かと待ちわびている。
彼らの手には小さなペンライトが握られていた。電池ボックスに差し込まれた絶縁フィルムから続く小さな紙片にはこう書かれている。
『悪を倒す為には、愛の力が必要だ。時が来たら、このエンジェルライトの封印を解き、君の愛を転送するのだ』
やがて上演を知らせるブザーと共に場内の照明が落とされ、『劇場版KV☆・最後の飛翔』が幕を開けた。
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強化型Dテクターを身につけたドクター・ウォッシュを退けクラッシュ・バグの基地を破壊して以来、地球には平和な日々が訪れていた。
メイが談話室にいる皆に新人の少年を紹介する。
「こいつは空口カケル。オレの仲間で、ついこの間KV☆に採用されたんだ」
「‥‥先輩方、よろしくお願いします‥‥」
頭を下げる物静かな新人を見て、訳知り顔でレイナが言う。
「ふぅん、この方の為に私の屋敷でメイドを‥‥」
「なっ、レイナそれは‥‥!」
「メイド??」
慌てて遮るメイに皆の視線が集まる。
「メイ姉さん‥‥僕の治療費の為に‥‥?」
カケルはクラッシュ・バグから逃れる際に重傷を負い、意識不明となっていた。奇跡的に意識を取り戻した時に、側にいてくれたのがメイだったのだ。
同じ頃、移動式基地のエンジンルームに白い電子少女・アリスがうずくまっていた。
「またお兄ちゃんに言えなかったよ。あたしの記憶がだんだん薄くなってる事」
アリスの機械の身体に新たに積み重ねられていく記憶‥‥メモリが限界で、組み込まれた星川ありすの記憶との共存が難しくなっている。
必要なのは、不要なデータの消去。消されてしまうのはおそらく――。
アリスははっと顔を上げた。
「何だろう。この信号‥‥もしかして!?」
突如、養成所内に久方ぶりの緊急招集アラームが鳴り響く。
指令会議室に集合した皆にアリスが問う。
「皆、スターレッドの事は聞いたことあるよね?」
「ああ。最初に誕生したKV☆の戦士だろう? ここに映っている、クラッシュ・バグの尖兵を率いた幹部、アンドロイド・ウィングと戦った」
ユウリが答えると、アヤメが継ぐ。
「でも、その戦いで酷い怪我をして戦線を退いたって聞いてるけど?」
「そう。戦えなくなったレッドは、極秘裏にクラッシュ・バグ諜報員として宇宙で活動していたの。でも、地球に帰ってくるという通信が途中で切れてしまった。原因はこれだよ」
壁面ディスプレイに表示された夜空に輝く流星群。拡大されたそれは黒い球状の物体だった。
「これは‥‥姉さん」
レイナが振り向いた先にいるルミナは、制服ではなく白地に金糸の紋様が織り込まれた巫女服姿だ。
「‥‥ええ。バグ星の輸送カプセル」
「二人はクラッシュ皇帝にバグ星を追われた王族だったな‥‥星の場所は?」
訪ねるユウリにレイナが首を横に振る。
「既にかつての場所からは移動してしまっているはず」
アリスが皆に言う。
「レッドを着陸予定エリアまで迎えに行くよ。それじゃ、出撃!」
「了解!」
全員が声を揃え、出動すべく駆け出した。
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巨大な黒い球状の物体は世界各地に着陸し都市を破壊した。さらに開かれたカプセルから流出するレドキリア、アノマロカリスなどの古代生物を模った無数の魔獣達が人々を襲い始めたのだ。
半壊した都市で逃げ惑う人々をUDFの部隊が誘導している中、KV☆達はエビにも似た頭部に二本の角状の触手を持つアノマロカリス魔獣数体と遭遇する。奥に垣間見えるのは財団の宇宙飛航艇。
「地球パワー、セット!」
腕のテクター発動装置を押すと同時に、全員の身体がまばゆい光に包まれる。光は鋼の装甲となって皆の身体を包み込む。
ユウリは青いS−01を纏い、左腰から抜き放った西洋剣型の武器、スターブレイドを構える。
「大空を翔る自由の翼。蒼天の剣 スターブルー!」
ショウキが纏うのは銀色のロビン。白銀の両刃斧、スターゲイザーを翳した。
「天翔る不屈の銀狼、スターシルバー!」
オレンジのノーヴィ・ロジーナに緑のラインが入っているそれを纏い、アヤメは片手持ちの戦斧スターアックスを軽快に振るう。
「暗雲切り裂く一陣の光。KV☆、スターオレンジ!」
アリスは蒼いミカガミを装着し、スターハンマーを肩に担ぐ。
「蒼き電子の守り手、スターシアン!」
ソラコの群青色だった翔幻のテクターはスカイブルーへのグラデーションに染まり、クリスタルのついたステッキで前方を指す。
「光り輝くこの翼で飛翔、シャイニングラピス!」
ルミナの身体を包む金色のフェニックスの装甲。武器でもあるスノーストームの翼を日輪の如く広げる。
「数多を照らす恵みの光、シャインゴールド!」
レイナが纏う純白のウーフーには、金色の豪奢な装飾が施されている。プリンセスリングを数個に分裂させ念力で周囲を舞わせた。
「煌めく光は王家の証、絶対王聖スタープリンセス!」
メイはファームライドを模した機体にシュテルンの黒いパーツをちりばめたテクターを纏い、薙刀状の武器ダーククレイブを構える。
「闇をもって悪を狩る。黒き雷光暁の翼、ダークルージュ!」
カケルが身につけたテクターは藍色のアヌビスだ。ライフルを片手に持ち一閃すると、銃身から銃剣が飛び出した。
「‥‥スターインディゴ」
集合ポーズを決めたその背後に、無数の機翼を合わせたような鳥の翼が一対浮かび上がった。
「正義の翼で悪を討つ。地球戦隊KV☆STAR!!」
薙刀を振るい、ルージュが敵の中へ切り込んでいく。それを追って藍色のアヌビスを纏ったインディゴが武器を構える。獣を模した頭部のセンサーが的確に魔獣の位置を把握する。
「‥‥ベイオネット!」
銃剣付きライフルで、ルージュや彼女に続く皆の死角を補うように魔獣を狙い撃っていく。
その援護を受けながらシアンとブルーがアンモナイトに襲い掛かり、プリンセスが牽制した魔獣達にはゴールドの刃の翼・クサナギが斬り込む。
「魔獣と言えど実力は下級。しかしこの数では‥‥」
思うように開けない道にゴールドが呟いた瞬間、魔獣群の後方で爆発が起こった。なだれ込んで来たのはシラヌイのテクター軍だ。
先頭に立って二刀を振るうのは、碧色のシラヌイSテクターを装着した大柄な戦士。彼は比較的近くにいたシルバーとオレンジに言う。
「UDFとテラ・ネットワーク財団が共同開発した量産テクターの力はどうだ!」
「その声‥‥」
「八坂教官!?」
驚く二人に、彼は休む事無く刀を振るいながら、
「この八坂トモエ、養成所からUDFに引き抜かれ今では軍曹でありトルーパー隊隊長よ! さぁ、行け!」
魔獣を退けた後、船中から姿を見せたのは真面目な雰囲気の中に静かな熱意を秘めた少年だ。
「俺はスターレッド・暁カズトだ。今回の侵攻はまだ序の口に過ぎない‥‥既に第二第三の侵略軍が放たれている」
その時、どこからとも無く聞き覚えのある声が夜空に響き渡った。
『隷属セヨ。否定スルナラバ滅ビヲ与エヨウ』
空をスクリーン代わりに映し出されたのは、カブトガニ型の魔獣だ。
「カニバグラ! 生きてたのか‥‥」
「侵略を止めるには本星のクラッシュ皇帝を倒すしかない。行くぞ」
カズトは踵を返し、宇宙飛航艇へ向かった。
その背中を見ながらブルーが言う。
「しかし、地球は――」
「俺達が死守する!!」
ブルーの声を遮り八坂軍曹が叫んだ。
「KV☆ばかりに活躍されて来たが、俺達が名誉挽回する絶好の機会だ。だがお前ら、絶対勝って戻って来いよ」
彼の言葉に全員が頷き飛航艇へ向かう。
「私――地球に残る!」
開いたままのハッチの向こうで驚く皆に、オレンジは必死に訴える。
「こんな状態の地球を置いて宇宙へは行けない」
飛航艇は離陸を始めている。シルバーは、閉まりかけたハッチから飛び降りた。
「僕も残る‥‥君一人置いて行けないだろ?」
「お兄ちゃん!」
「アリス、地球で待ってるぞ!」
シルバーの言葉に頷くシアンの姿は、閉じたハッチの向こうに消えた。
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バグ星に降り立ったKV☆達は、プリンセス達の案内で侵入者を排除しようとする魔獣達と戦いながら王城を目指した。
何とか王城のロビーとたどり着いたその時。
「よく来たね、KV☆諸君! 初めまして‥‥いや、お久しぶりかな」
「‥‥そんな、まさか‥‥!」
愕然とするゴールドをはじめ皆が見上げる吹き抜けのロビーの上、二階廊下の手すりの向こうに佇む長身の影。黒いスーツを纏ったその背にはマントを羽織り。衣服は違えど、その姿は紛れもなく――。
「ドクター・ウォッシュ!?」
「その通り。地球にいたウォッシュが体験した全ては、等しく私の体験でもある。君達の事を調査する為に地球へ降り立った彼は‥‥私のクローンだ」
「クローン‥‥!?」
ショックを隠せないゴールド。地球にいた彼と違い、眼鏡も眼の下の赤いラインも無く。青い瞳のウォッシュは実に残念そうに首を横に振った。
「彼はとんでもない失敗作だったよ。情という無駄なものが芽生えてしまうとはね。このクローン達は、どれだけ役に立ってくれるかな?」
彼が指を鳴らすと、テクターを纏った戦士達がKV☆の前に立ちはだかった。
「これはDテクター!? だけど形はまるで‥‥」
「皆のKVテクターと全く同じ物だ」
シアンとカズトが言う通り、敵が纏っているのはダークメタリックな色彩をしているものの、二人以外のKV☆のコピーとも言うべき存在がそこにいる。バイザーの奥に見える素顔まで瓜二つだ。
「まさかオレ自身と戦う事になるとはな。面白い、やってやるよ」
ルージュの声を皮切りに戦いが繰り広げられた。
しかし実力は本物には及ばず。次々とクローンが倒されていくというのに、ウォッシュは嬉々として手元の端末を叩く。
「素晴らしい! おかげで良いデータが取れたよ。あとは君に任せよう!」
ウォッシュの声に応じて姿を見せた人型の機械鎧の戦士を、カズトは信じられない思いで睨みつける。
「アンドロイド・ウィンド‥‥あの時、俺が破壊したはず」
「私が修復したのだよ。更なる改良を加えてね」
『デリート‥‥ターゲット、KV☆‥‥』
ウィンドのバイザーの奥、眼の如く光る赤い発光体が僅かに明滅し、片言の合成音声を発する。
両手の甲とブーツから鷲のそれに酷似した鉤爪が飛び出し、ウィンドは背中に収納していた機翼を広げた。
動いたと思ったその瞬間に速度は光速まで達し、通過した石の床が衝撃破によりめくれ上がる。一瞬にしてKV☆達の中へ飛び込み重力を感じさせない動きで縦横無尽に回転する。
『メガ・ソニックロー!』
「うわぁあっ!」
「きゃあ!?」
鉤爪と機翼の鋼刃による無数の斬撃に、ブルーとラピスは爆発と共に吹き飛ぶ。
「メーザーアイ!」
バイザーの発光体が強い光を放ち、収束した熱線がルージュを襲った。融けた肩パーツを押さえて膝をつくルージュにインディゴが駆け寄る。
「‥‥姉さんは無茶しすぎるよ‥‥僕は心配してばっかりだ‥‥」
プリンセスの前に宙を舞ったウィンドが先回りする。弧を描き振るわれた鉤爪から庇うように、ゴールドが立ちふさがる。
「姉さん!!」
プリンセスが悲鳴に似た声を上げた。鉤爪はルミナを穿つ直前で止められ、バイザー奥の光が不規則に明滅する。
『‥‥ア・ナ・タ・ハ‥‥?』
ウィンドのメモリに消去されたはずのデータがフラッシュバックする。それはバグ王妃と幼き日のルミナとレイナの姿――。
動きを止めたウィンドをすり抜け、皆は逃げようとするウォッシュを囲む。
「邪魔だ、スパークミスト!」
ウォッシュの手から放たれた電撃が周囲に満ちる。ダメージを受けながらも攻撃を仕掛けるが、どの攻撃も全く効いている気配が無い。
「くっ、閃光拳!」
彼女の全身から発したオーラを拳に宿らせ、超音速で叩き付けた。しかしそれすらもウォッシュの身体に触れた瞬間に全ての威力が霧散してしまうのだ。
ウォッシュが得意気に講釈する。
「君達のデータは全て解析済。それに基づいて私の身体も改造済なのだよ」
「ならば、地球にいなかった俺の攻撃ならば通るはず」
レッドは、テクターの発動スイッチに手を掛ける。
かつて死の瀬戸際まで追い込まれたカズトの身体を保っているのは、テクターを利用した生命維持装置だ。テクターを発動すれば、生命維持機能は停止してしまう。
「地球を救う為ならこの命、惜しくは無い。地球パワー、セット!」
光と共に赤いムラサメが彼の身体を包み、手にした光線剣・レッドライザーを薙ぐ。
「野望を蹴散らす炎の翼! KV☆、スターレッド!!」
渾身の力を込めた光線剣の一撃がウォッシュの肩を切り裂いた。
「ぐああっ! 何をしているウィンド、スターレッドを倒せ!」
よろめきながら命じるウォッシュの声に、ウィンドはレッドの前に立ちはだかった。
『‥‥ターゲット、スターレッド』
「なるほど、データに無い力ならば‥‥バーニングモード!!」
ブルーもリミッターを外し生命力を力へと変えウォッシュに向かう。
「プリンセス、お前達は皇帝を!」
「‥‥ここは庶民の皆様に譲って差し上げますわ!」
ラピスと共に奥へと向かうプリンセスは足を止め動かない姉を振り向いた。
「必ず、追いつきます‥‥」
彼女の言葉と決意を秘めた瞳に無言で頷き返し、二人は奥の間へと向かう。王の間へと続く長い廊下の先、開かれた扉の向こうに――。
「見つけた‥‥宇宙の歪み」
プリンセスの言葉の先、玉座に腰掛けたクラッシュ皇帝の姿があった。
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スターレッドと共にKV☆が宇宙へと旅立ってからも、UDFトルーパー隊各小隊と世界各地を担当するKV☆が協力体制を取り、クラッシュバグ侵略軍に立ち向かっていた。
ディノミスクス――長い柄の先にチューリップに似た本体を持つ宙に浮く魔獣が、花弁のような部分から胞子のようなものを撒く。それに触れたUDF兵達の視界に映る周囲の生物は全て魔獣に見えてしまうのだ。同士討ちを始める一般兵を、KV☆やトルーパー隊が取り押さえている。
加えてアンモナイトの放つジャミングに攪乱される中、攻め寄せるレドキリア、アノマロカリス、新たに加わった量産型カブトガニ魔獣達と戦わなくてはならないのだ。
地球連合軍の前に、再び侵略軍指揮官であるカニバグラの姿が投影された。
『恨ムナラ、反抗ヲ続ケルKV☆ヲ恨ムガ良イ。KV☆ヨ。抵抗ヲ止メ地球ヲ我ラニ渡スノナラ、地球人ドモノ命ハ助ケテヤロウ』
カニバグラは嘲笑うように身体を揺する。
『ソウデナケレバ地球人ドモヨ。己ガ生ミ出シタ物ノ手デ滅ベ』
この通信により、民間ではKV☆の活動停止を訴える声が急増し、果てはUFD軍内部にさえもKV☆をクラッシュ・バグに差し出せという者まで出始めていた。
カニバグラの心理作戦によりKV☆は孤立化していく。今や力を貸しているのは八坂軍曹の小隊のみ。
『憐レダナKV☆。守ルベキモノ達ニ憎マレル気持チハドウダ』
これまで聞こえていた投影のものとは異なる近い声に、二人はそちらを振り向いた。そこには魔獣の群れを率いたカニバグラの姿が。
身体を丸め突進してくるカニバグラの甲羅から生えた刃と衝撃が仲間のKV☆達を蹴散らしていく。シルバーはスターゲイザーにエネルギーを収束させる。
「纏めて片付ける! フェンリルレイジングサイクロン!」
吹き荒れる烈風が手下の魔獣を散らす中、オレンジは走りながらスターアックスの柄を伸ばす。
「R−45!」
45度の傾斜で斬り上げたアックスが甲羅に当たり弾き返された。
『無駄ダ。我ノ甲殻ハソノ程度デハ‥‥』
が、彼女の脳波をキャッチし発動したブーストが返す刀でカニバグラの節部分を直撃する。
『みかんノKV☆‥‥アクマデ抵抗ヲ続ケルカ? オトナシク降レバ、よめニシテヤッタモノヲ』
「ヨメ‥‥嫁ぇ!? 私にはショウキがいるんだから!」
『ナラバ覚悟セヨ』
カニバグラの発した光にカブトガニ魔獣達が吸い寄せられ、その塊が大きくなるに連れて光も増していく。直視できないほど強まった光が止んだ時。体長20mはあろうかという巨大カニバグラがそこにいた。
「こうなったらアレを持って来い!」
八坂軍曹が通信して間もなく、UDFの運搬車が到着した。
「この量産型テクターと同じく共同開発の戦闘用機人だ。アヤメ、もう一機はお前が動かせ。マシンとのシンクロ能力は、お前の方が優秀だったはずだ」
八坂軍曹の雷電とアヤメのノーヴィ・ロジーナがカニバグラの前に立ちはだかった。
「うおおおっ!」
雷電はヘビーガトリングで牽制しながら間合いを詰め、半月刀・弦月を振り下ろす。それに合わせるように、ロジーナもアックスを振るう。しかし赤く光る障壁がそれを防いだ。
『地球人ガKV☆ヲ恨ム負ノえねるぎーヲ、本星カラノちからニヨリ変換スル。ソレガ我ノちからトナルノダ』
八坂機の攻撃を左の爪でいなしながら、アヤメ機の振るうアックスを右の二番目の爪で受け止めた。
「ああっ!?」
さらにその上の爪を振り下ろし、アックスの柄は砕かれてしまう。そこにカニバグラの回転攻撃を受け、二機は廃墟のビルをなぎ倒しながら地面を転がった。
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バーニングモードで能力を底上げしたブルーの攻撃を確実に当てる為、効かないとわかっていても果敢にウォッシュを攻めるルージュ。
「くっ‥‥邪魔だ!」
ウォッシュのスパークミストに吹き飛ぶKV☆。ルージュへの衝撃が少なかったのは、インディゴが咄嗟に庇ったからだ。
「無茶をするな、カケル」
「‥‥好きな人の背中くらい守りたいよ‥‥僕だって男だもの‥‥」
小さな呟きが届かなかったルージュが言う。
「一か八か、あの技に掛けるしかない」
「‥‥援護するよ‥‥好きに行って‥‥!」
インディゴはベイオネットを構えルージュに続いた。
機翼のブーストを交えた素早い格闘攻撃を繰り広げるウィンド相手に、レッドは互角の戦いを繰り広げる。
「今の俺を動かす力は命の炎だ。そう簡単に吹き消せると思うな!」
勝負を急ぐのは、残された命の灯火が消えかけているから。一旦距離を取り、二人はそれぞれに力を高める。
「バーニングダイナミック!!」
「‥‥パワー、マックス‥‥メガ・ソニックロー!」
光速で迫るウィンドとレッドが大上段から振り下ろした炎を纏う光線剣がぶつかり激しい爆発が起こった。爆煙が晴れ、立っていたレッドが倒れているウィンドの前に崩れ落ちる。
「レッド‥‥!」
彼に駆け寄ったゴールドは見た。ウィンドの破壊されたバイザーの向こうの、見覚えのある少女型アンドロイドの素顔を。
「貴女は、メロディ‥‥」
王族を守護するガードロボットの一人として、常に姉妹を護ってくれていた。バグ星が奪われた際に、ウォッシュの手でメモリを抹消され、より戦闘に特化した姿へと改造されたのだ。
『王女‥‥すみません――‥‥王jo‥‥wo‥‥』
レッドに受けた衝撃でカットされていたAI連結回路が一時的に戻ったのだろう。瞳から一筋のオイルを流し動かなくなった彼女に、ウォッシュは吐き捨てた。
「役立たずの木偶の坊が!」
その言葉で、ゴールドは残された迷いの欠片をついに振り切り立ち上がる。
「違う‥‥私の知っているドクターは――ドクター‥‥私に力を貸してください‥‥! シャインアーマーパージ」
ゴールドのフェニックスの装甲は内から漏れる静かな光に融け、スノーストームへと変化していく。
「闇戦士ルナゴールド!」
「Dテクターだと‥‥想定外だ!」
初めて焦りの色を見せるウォッシュに、アロー、エッジ、シールドと自在に変化するクレセントムーンを駆使し攻撃する。ブルー、ルージュ、インディゴも加えた連携攻撃にウォッシュは次第に追い詰められていく。
「くそっ、何故計算どおり行かない。改造で高め続けた肉体、それにより数百年を生きた知識をもって究極の生命体となる未来を迎える私が――負ける筈が無いのだ!!」
両手で最大出力にまで高めた電撃を蓄積するウォッシュを前に、ルナはクレセントムーンをバスターモードへ切り替える。
「月の狂気よ‥‥もう一度だけ私に力を。ルナティック‥‥バスター!」
「スパークシュート!」
月光の衝撃と直線的に放たれた紫電砲がぶつかる。力が拮抗した瞬間、狙い打つインディゴがベイオネットの引金を引く。
「エッジファランクス!」
連続で放たれた光弾が一点集中でウォッシュを襲う。
「ぐっ‥‥」
電撃の威力が弱まった隙に、ブルーが刀身に集めた水の力を解き放つ。
「スプレッドエッジ!」
ルージュは両の手にシャドウクローを填めてそれを見つめた。
(「結局消息はわからなかったけど‥‥力を貸してくれ、シャドウ」)
体内のシャドウの力と自らの電撃によって反物質の球体を両手に生み、放つ。
「シャドウブレイズ!」
三つの力が絡み合い紫電砲を撃ち砕きウォッシュに直撃した。
「うおおおっ!?」
大爆発に倒れたウォッシュは呻き声を上げた。ルナがバイザーを上げ、身構える皆を押し留める。
「‥‥ドクター?」
「ルナ、ゴールド‥‥」
ウォッシュの瞳は黒い色へと変わっていた。取り込まれていたクローンの記憶が表に表れたのだ。
「KV☆‥‥地球での貴様らとの戦い、実に‥‥充実した日々だった‥‥ルミナ‥‥」
言いかけた言葉を飲み込み、ウォッシュは笑みを浮かべた。
「いや‥‥達者でな‥‥」
事切れたウォッシュを前にゴールドは両手で悲鳴を塞いだが、抑え切れない涙が頬を伝った。
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クラッシュ皇帝は地球人に良く似たバグ星人とは思えないほど巨大な体躯に皇衣を纏い、鋼鉄のような肌と強力な念力でレッドとシアンを除いて合流したKV☆達を翻弄していた。
その力の根源となっている黒い思念を感じ取ったプリンセスは、傷つきながらも尚意志の光を宿す瞳でクラッシュを睨む。
「貴方は母様への想いが叶わず、それを憎しみに変えてしまった。歪んだ心に囚われ、邪悪な意志に屈した‥‥哀れな人」
「黙れ!!」
クラッシュの放った衝撃波を渾身の力を込めた念で受け止め、プリンセスが言う。
「皆、武器を!」
集めた武器で巨大砲を組上げ、放つ。
「スターキャノン!!」
「ぐおあぁぁああ!!」
全員の色彩が絡み合う光の力にクラッシュの身体は霧散し、闇渦巻く黒い塊へと変化した。
「正体を現したな、宇宙の邪悪なる魂ダークマター‥‥!」
プリンセスの声に反応するかのように、ダークマターは凍えるような灼けつくような次元を超越した力でKV☆を襲う。
『矮小なる者共よ、我に楯突いた事を後悔するが良い』
傷つき動けなくなったレッドを背負ってシアンが玉座を訪れた時、KV☆達は倒れ伏していた。
「皆! ‥‥この力、使ってしまえばあたしは消えてしまう‥‥皆お願い、お兄ちゃんを‥‥地球を救って。スターリジェネレイト!」
アンジェリカに変わったシアンのテクターが光となり飛び散る。それはKV☆全員の身体に吸収され、アリスが倒れたのと引き換えに全員が‥‥レッドさえも力を取り戻した。
『何故だ!?』
「全ての愛の為、何度でも立ち上がる‥‥それがKV☆! 庶民の皆さん、私達が奴を封印します。何とか時間を!」
プリンセスの願いを受けてレッド、ブルー、ルージュ、インディゴがダークマターへと立ち向かう。
「地球の皆さん、バグ星と地球を救う為に、どうか力を分けてください!」
両手を組み祈るプリンセス同様、ゴールドも両手と機翼を広げる。
「今こそ、愛の力を私達に‥‥」
劇場で観客達がエンジェルライトを灯した。無数の光が姉妹へと集まり、プリンセスの背に八枚の光の翼が。
「今こそ封印の時よ!」
プリンセスの声にラピスの身体が光を放ち、その光が翼を形作り彼女の身体を宙へ舞わせた。
レイナ・ルミナと共にバグ星を逃れた生き残りだったにも関わらず、レイナに出会うまではそうとも知らずに孤独な暮らしを送っていた。
だけど、出会うことができた。希望に‥‥仲間に――!
「今のあたしには護るものがあるから! 信じるものがあるから! 負けられないッ!!」
二人の光をその身に受け、ラピスは印を切る。
「巫女の血による封印を――エインシェント・ウィッシュ!」
まばゆい輝きは七色の光となりダークマターを包み込む。断末魔の悲鳴を上げるダークマターは光の渦に呑まれ、視界は白一色に染まった。
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巨大カニバグラ相手に、二機は良く凌いでいた。戦場から離れた地上でも、ショウキが仲間と共に魔獣の掃討に奔走している。
雷電は既に片腕が動かず、ノーヴィ・ロジーナもコクピット内に限界を知らせる警告音とディスプレイの明滅が絶え間なく続いていた。
「ロジーナ君、初出陣なのにこんな戦い方しか出来なくてごめんね‥‥」
テクターとロジーナを数本のコードで繋いだオレンジは、操縦桿に力を込めながら呟く。
武器を失った今、格闘戦で立ち向かうしかない。しかしこれまで収集したデータに無いオレンジの肉弾戦が、幸いにもカニバグラを戸惑わせている。
「絶対に勝って見せる!」
オレンジは気合の声と共にロジーナと疾走した。カニバグラの鋭い爪の突きが脇腹を突くが、腹部が崩壊するのも構わず引き剥がす。
「うあああっ!」
ロジーナとリンクした感覚から伝わる痛みを堪えながら、素早く後方へ回り込みカニバグラを羽交い絞めにする。
「教官、今の内に!」
「いい覚悟だ! ギガンティックブレイカー!」
八坂軍曹は雷電の左手が握る半月刀を上段から最大出力で叩きつけた。その瞬間、
『バグ星カラノちからノ転送ガ途絶エ‥‥』
切っ先はロジーナを掠めカニバグラを両断した。閃光と爆発の中、足元から塵へと崩れていく。
『馬鹿ナ。憎シミヤ恨ミヲ上回ル‥‥貴様ラノちからノ源ハ何ダ?』
風に消えていくカニバグラと膝をついた雷電を最後に、メインモニターはシャットダウンした。
「愛‥‥かな? たくさんの大好きなもの、失いたくないから――」
オレンジはシートにぐったりと倒れる。
「二人とも‥‥良く頑張ったよね‥‥?」
停止したロジーナへ呼びかけたのを最後に、オレンジもそのまま動かなくなった。
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エンディング曲に乗せてテロップが流れる中、その後の様子が映し出される。
動かなくなったロジーナによじ登ったショウキがコクピットをこじ開けた。
「アヤメ!! ‥‥アヤメ」
意識を失っているだけだという事を確認し安堵すると、彼女を抱き上げコクピットから降ろす。
枯れ果てていた大地に緑が戻ったバグ星には住民が戻って来ていた。王女を求める声にレイナが言う。
「こんな星に私を縛り付けるなんてナンセンスですわ! ‥‥皆に好かれる姉さんこそ、この星に相応しい」
「‥‥わかりました。この星は私が護って行きます」
王女となる決意を固めたルミナにラピスが微笑む。
「あたしもね!」
平和を取り戻した地球でショウキとアヤメ、八坂軍曹が皆を迎えた。
表情の乏しくなったアリスに気づいたショウキに、彼女は残された最後のメモリを投影する。生前の姿のありすがそこには映っていた。
『シュラとアリスの事お願い。アヤメを幸せにしなきゃ許さないんだから。大好きだよ、お兄ちゃん』
映像が消え、赤い瞳が青く変化したアリスが言う。
「ありすがいなくなっちゃった」
「そんな――嘘だろ!?」
メイ、ユウリ、カズト、カケルが泣き崩れるショウキにバグ星でのアリスの戦いぶりを伝える。
「マスター‥‥」
ありすの記憶を失い感情が無いはずのアリスが涙を零す。
「お兄ちゃんて呼んでもいい? 記憶は失ったけど、この心はありすがくれた大切なものだから」
「‥‥ああ、そうだね。これからも変わらず家族だよ、アリス」
涙を流しながらも微笑み頷くショウキの手を、アヤメがそっと握り締めた。
黒木メイ(ダークルージュ)/柿原ミズキ(
ga9347)
天野ユウリ(スターブルー)/カイト・レグナンス(
gb5581)
星川ショウキ(スターシルバー)柿原 錬(
gb1931)
時雨アヤメ(スターオレンジ)/シャーミィ・マクシミリ(
gb5241)
アリス(スターシアン)/雪代 蛍(
gb3625)
空口カケル(スターインディゴ)/イスル・イェーガー(
gb0925)
暁カズト(スターレッド)/嵐 一人(
gb1968)
吹雪レイナ(スタープリンセス)/鬼道・麗那(
gb1939)
陽ノ下ルミナ(シャインゴールド)/天戸 るみ(
gb2004)
青野ソラコ(シャイニングラピス)/桜井 蒼生(
gb5452)
八坂トモエ/金城 ヘクト(
gb0701)
カニバグラ/ジャンガリアン・公星(
ga8929)
アンドロイド・ウィンド/鷹崎 空音(
ga7068)
ドクター・ウォッシュ/桂木穣治(
gb5595)
「おしまい‥‥これが宇宙を救った勇者達のお話」
既にベッドでは幼い少女が寝息を立てている。
微笑み、厚い本を静かに閉じると愛娘の頬にキスを贈る。
「おやすみ、アイナ」
耳元で囁きベッドサイドの灯りを消すと、彼女は部屋のドアへと向かう。
ドアを閉めるべく振り向いたのは十年後のレイナの姿。
部屋に差し込む灯りと共に、閉じられた扉の向こうに消え。
物語は終幕した。
●
大団円を迎えたKV☆の物語を見届けて、晴れやかな顔で劇場を後にする観客達。子供達は皆、笑顔と未来への希望に満ちていた。
彼はしばらくの間、劇場の出入口で皆の表情を満足げに見つめていた。
半年間の思い出と共にエンジェルライトをポケットにしまい込むと、ジャンガリアンは観客の波に紛れて劇場を後にした。
地球戦隊・KV☆STARに関わった全ての人に、愛と感謝を――。