タイトル:始動! 総合対策部マスター:きっこ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/07 22:56

●オープニング本文


---------------------------------------------------------------------------------------------
 4月吉日。
---------------------------------------------------------------------------------------------
 私、流風・アイゼリア・シャルトローゼ少尉は本日付でUPC総合対策課に配属。
---------------------------------------------------------------------------------------------
 配属初日、総合対策班の任務は
---------------------------------------------------------------------------------------------


 日誌にそこまで書き込んで、流風(ルカ)は手を止めた。
 おもむろに首をかしげると、背中まである長い黒髪が肩から滑り落ちる。青味を帯びた銀色の瞳が、答えを求めるように狭い室内をぐるりと見回した。
 小さな明り取り程度の窓が一つだけある、小さな部屋。壁際に置かれたたった一つの机を前に、彼女は座っている。
 机の上には新しい日誌‥‥と本人は呼んでいるが、かわいらしいカエルのキャラクターが描かれたファンシーなノートが広げられ。
 それを前にした流風本人も、ノートにふさわしい容姿と年齢に見える。全身を包むUPC仕官服がなければ、彼女はそこらの小中学生と間違われるに違いない。
「任務は‥‥何なんだろうね、雨康?」
 呟く声は、殺風景な部屋に空しく響く。部屋には、流風一人しかいない。総合対策課は、流風一人だけの課なのだから。
 そこへ、通信を知らせるアラームが鳴り響いた。
 流風は慌てて立ち上がろうとし、見事に椅子から転がり落ちた。
 床にぶつけた肘をさすりながら通信機の前まで半ば這うように移動し、スイッチを入れた。
『シャルトローゼ少尉か?』
 通信機越しの、気難しそうな中年男性の声。流風の直属の上官に当たる谷崎哲夫中尉のものだ。どうやら外からの通信らしく、慌しい現場の音声が紛れ込んでいる。
 流風は直立し敬礼しかけて、転んだ時に曲がった帽子を直して再度敬礼した。
「谷崎中尉! 流風・アイゼリア・シャルトローゼ少尉、本日付でUPC総合対策課に‥‥」
『挨拶はいい! お前に仕事だ』
 丁度尋ねようと思っていた事を切り出され、流風は内心胸を撫で下ろした。こちらから尋ねたりしたら、中尉の雷が落ちる事は目に見えているからだ。
 そんな流風の様子もお構いなしに、中尉は早口で話し始める。
『今我々が作戦を展開している区域の近くで、キメラが目撃されたという情報が入った。民間人の目撃証言であり、キメラが存在すると言う確証は無い。だが、キメラにおびえる民間人を放っておく事はできん!』
 谷崎中尉らしからぬ勇敢で立派な発言に流風が密かに驚いていると、『しかしだ!』と中尉は先を続けた。
『大事な作戦に向けて、確証の無いキメラ情報に我々の戦力を割くわけにはいかん‥‥シャルトローゼ少尉!!』
「はいっ!!」
 谷崎中尉の怒声に対する条件反射で、流風は姿勢を正し元気な返事を返す。
『総合対策課に命じる。現場周辺のキメラの捜索、発見次第殲滅せよ!』
『中尉、時間です』
『わかった、今行く。‥‥以上だ』
「ちょっ、中尉! 待ってください、ちゅういー!!」
『うるさい、作戦開始時間だ』
「だって、任務に向かうにしても私一人なんて無理ですよぅ!」
『だったらULTの何でも屋の連中にでも頼めばいいだろう!』
 プツリ、と。通信は一方的に途絶えた。
 通信機にかぶりついていた流風は力なく座り込んだ。
 つまり。
 いるかいないかもわからないようなキメラに戦力を割いて、作戦が失敗したらどうするんだ。そんなのは、あいつにでもやらせておけばいい。
 という事なのだろう。
 流風は、ぽつりと呟いた。
「何でも屋、さん?」
 そんな中尉の思惑に気づく事もなく、流風は机まで戻り電話の受話器を取った。
「あ、もしもし。ULTの人ですか? えっと、何でも屋さんってそちらにいらっしゃいますか?」
『‥‥はいぃ? 何でも屋さん、ですかぁ?』
 その後、電話口のお姉さんにキメラの捜索や討伐に向かう増援が欲しい事などを相談し。お姉さんが親切に対応してくれたおかげで、ようやく中尉の言わんとしていたことを理解した。
「いろんなお仕事に向かってる傭兵さんだから、『何でも屋さん』なんだ。なるほどっ! ‥‥でもそれならそうと、中尉も『傭兵さんに頼め』って言ってくれればいいのに」
 流風はUPC本部内にある、ULT斡旋所を訪れていた。オペレーター嬢のいるカウンターまで、あと数メートルという所で足を止め、大きく深呼吸。
「新しい職場での最初の任務なんだから、頑張らなきゃ! ‥‥よしっ。行こう、雨康!」
 流風は勢い込んでカウンターに向かい、自分の足につまづいて転んだ。

●参加者一覧

ハルトマン(ga6603
14歳・♀・JG
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
美環 玲(gb5471
16歳・♀・EP
桃ノ宮 遊(gb5984
25歳・♀・GP

●リプレイ本文


 出発準備の整った高速飛行艇の前で待っていると、時間ぎりぎりに流風が現れた。
「すみません〜、道に迷ってしまって‥‥でも頼まれていた物は忘れず持ってきましたっ」
 差し出したのは、綾野断真(ga6621)と狭霧雷(ga6900)から申請を引き受けていた現地の地図や方位磁石、軍用無線機などである。
 流風は慌てて乗り込もうとして転びそうになる。
「‥‥そ、その‥‥大丈夫ですか?」
 声を掛けたドッグ・ラブラード(gb2486)は、出しかけた手を貸そうとしたり引っ込めたり。
 流風のドジっぷり対して不安と親近感と女性恐怖症とが入り混じった複雑な心境である。
 そうしているうち美環響(gb2863)が手を差し出した。
「お手をどうぞ、流風さん」
「すみません、ありがとうございます」
 響のエスコートにお礼を言う流風に対して、彼はレインボーローズを片手に優雅な微笑みを返した。
「女性に対する当然の礼儀ですから」
「可愛らしい少尉さんですのね」
 すぐ後に乗り込んできた美環玲(gb5471)を振り向き、前の響を見。
「双子、さん‥‥ですか??」
「『A secret make a woman woman』。秘密は女を綺麗にする、という言葉をご存知かしら。どのような関係なのかは秘密です」
 軽く混乱する流風に、玲は流麗な英語で告げ悪戯っぽく微笑んだ。
「少尉はん、こっちこっち!」
 桃ノ宮遊(gb5984)の声に振り向けば、遊とハルトマン(ga6603)が二人の間の空席を指して手招きしている。
「よかったら、お話しませんか?」
 ハルトマンが少し恥ずかしそうに言うと、流風は笑顔で駆け寄りちょこんと腰掛けた。
 遊は流風の肩を叩いて言う。
「お互い頑張ろうな」
 遊は流風のフォローができるだけの余裕がない事を自分で分かっている。このエール交換がせめてもの支援だ。
「はいっ! 頑張りますっ」
 遊に元気な返事を返す流風に、アーク・ウイング(gb4432)が問いかけた。
「シャルトローゼ少尉。総合対策部って、どんな部署なんですか?」
「それが‥‥私もまだ良くわかってないんです。上官の谷崎中尉の直属の部署なんですけど‥‥なんだか私しかいないみたいだし」
 不安気な流風に、断真が言う。
「なんともあやふやな印象のする部署ですね。少尉さん一人の部署という事は、これから私達とご一緒する事も増えるでしょう。幸先良くいくよう頑張りましょうか」
「すみません。よろしくお願いします」
 流風は皆に向かって深々と頭を下げた。
 現地に到着し、最後に降りるアークは少尉の頼りなさそうな後姿を見ながら呟く。
「左遷か、厄介払いかな? まあ、依頼を受けた以上は全力を尽くすけどね」
「蜂型との事ですから、集団で襲ってくる可能性が高いですね。キメラは素体の習性を真似る傾向がありますから」
 山の奥に入る前に、雷が皆に注意を促す。
 少尉を含めた九人は二つの班に分かれ、蜂キメラの捜索へと向かう。
 A班はハルトマン、雷、響、アーク、流風。
 B班は断真、ドッグ、玲、遊。
 移動艇の中で事前に収集しておいた蜂の目撃者や山に詳しい人の情報も合わせて、戦闘に適した場所をいくつか見繕ってあった。
「発見時は、合流ポイントに蜂を誘い込む作戦で行きましょう」
 断真が言えば、雷もB班の面々に告げた。
「発見時は、もう一方の班へ一番近いポイントからの方角と距離を伝えてください」
「一刻も早くキメラを見つけて見せますわ!」
「わ、私も頑張りますっ」
 可愛く気合を入れる玲に、負けじと気合を入れる流風。
「む、むちゃだけは、しないように、してくださいよ!」
 覚醒前のドッグはやや挙動不審に言い残して、B班の皆の背中を追いかけていった。
 

 こちらはA班。
 何があっても――例えばそれが少尉が引き起こす事だとしても――すぐに対応できるよう、ハルトマンは覚醒状態を保っていた。
 まだ見ぬ蜂に備えて緊張した面持ちでとことこ歩く流風の隣を、同じくとことこと進んでいく。
 同じように歩いているように見えて、ハルトマンはしっかり上空からの強襲に備えている。
「足元に気をつけてくださいね、流風さん」
 響は流風に時折声をかける。見た目どおりの年齢ではないと分かっていても、ついおせっかいを焼いてしまう。
 アークは双眼鏡で周囲の様子を調べ、雷は地図と方位磁針を頼りに現在位置を見失わぬよう進む。
 定距離を進んでは足を止め、探査の眼を使用し蜂の奇襲と痕跡に留意しながら進む響を中心に安全確認をし。藪があれば雷が流風に頼んでおいた長い棒で探り、蜂が潜んでいないかを確かめる。
 異常が無ければ再び移動を開始する。静止する時間があれば、蜂の羽音もより敏感に察知することができるはずだ。
 雷はB班に時折無線で連絡を取り、地図に何かを書き込んでいる。
「お互いの位置が判っていた方が、どちらが蜂に遭遇したとしても即座に対応できますからね」
 流風が覗き込むと、A班だけでなくB班の位置もマッピングされていた。

 一方B班。
 探査の眼を使用している玲を索敵のメインに据えて、聴覚視覚をフルに活用して手がかりを探す。
 A班からの定期連絡に答えながら、断真はしんがりを務めながら後方を中心に警戒を続ける。
「蜂のキメラと言う事は跳んでる限り羽音がしますし、かなり大きいようですから気配を探るのも難しくはないでしょう」
 それから少しもしないうちに、全員がほぼ同時にどこからか響く微かな羽音を感じ取った。
 ドッグは再びGooDLuckを発動し、一人祈りを捧げる。
「我等に、死に行く魂に幸いを」
 不規則に立ち並ぶ木々に見え隠れしながら、黄と黒の硬質な装甲に身を包んだ巨大蜂の群れが急速に近付いてきている。
 玲はスカートの端を摘んで、距離を詰める蜂に向かって優雅にお辞儀をして見せた。
「ごきげんよう。これから旅立つあなた達に名乗る名はありませんが、私の剣技をその身に刻み付ける栄誉を差し上げますわ」
 言って機械剣のレーザーを発動する間に、彼女に急接近する蜂を遊が両拳に宿した黒爪・ゼロで殴り飛ばす。
「そないな事言うてる場合かいな! めっさ来とるで!」
「あら、失礼」
 あくまでもマイペースに、玲は逆側から迫る蜂を機械剣で薙ぐ。
 ドッグが照明弾を打ち上げると同時に、断真がA班への無線連絡を入れる。
「一番近い合流ポイントまでそう遠くはありません。蜂を惹き付けながら誘い込みましょう」
 周囲を包む羽音に負けないよう、大きめの声で断真が告げた。S−01を構え、前衛を務めるドッグと遊の援護しつつ移動を始めた。

 照明弾と無線による連絡を受け、A班は雷の地図に記されたB班のマークを頼りに林間を駆ける。
「ぁわっ!?」
 木の根に足を取られつまづきそうになった流風を支えた雷は、そのまま流風を抱き上げた。
「ごめんなさい、このまま走ります」
 転ばれたり藪に絡み取られたりされるより、こっちの方がよっぽど早い。



 体長1mはあろうかという蜂達は、顎をカチカチと鳴らしながら敵意をむき出しに襲い掛かってくる。誘導に乗らない事も心配されたが、杞憂だったようだ。
 広く開けた川沿いに蜂達を誘導することに成功していた。川幅も無く、深さもそれほどではない。何より川周辺に木々が無く、十分な視界を確保できる。
 ドッグは蜂の毒針による攻撃をプロテクトシールドで受け、その尻に機械剣「莫邪宝剣」の一撃を見舞う。毒針を切り落とされた蜂は、強靭な顎による攻撃に切り替えた。
 盾で蜂の胴を押さえ、その顎に突き入れたのは機械剣の柄。
「一瞬だ」
 声と共に作動させた機械剣のレーザーに、蜂は瞬時に絶命した。
「これが私の、せめての優しさだ」
 同じく前衛で戦う遊に、左右から蜂が同時に襲い掛かる。勢い良く飛来した蜂は互いに衝突し地面に落ちた。
「危なっ! 間一髪や」
 瞬天速で移動した遊は数メートル離れた位置で、羽根を失い地面に無様に転がる蜂の無防備な背中に黒い爪を突き立てる。
「落としてくれるとやりやすいわ」
 遊の言葉は断真に向けられたもの。
 狙い澄ました断真の銃弾が、飛翔する蜂の羽の根元を狙って飛翔能力を奪っているのだ。
「いつまでも飛び回られると厄介ですからね。地面に落ちてしまえば、それほど怖い相手ではありません」
 ここまで誘導する間にも、群れの半分ほどは片付いていた。もしかすると、A班の合流を待たずに片が付くかもしれない。
 誰もがそう思った時。
 林の方から響いたのは、新たな羽音――。
 今残っている蜂の二倍程の数が、傭兵達を囲みこむ。
「くっ‥‥!」
 玲は自身障壁を使用し顎の攻撃をいなし、突きを入れる。横合いから針を向ける蜂に剣を薙いだ直後、死角に蜂の気配を感じた。
(「避けられない!?」)
 予想していた衝撃は、銃声と蜂の落下にすり替わった。振り向いた先に、玲は響の姿を見た。
「皆さん、閃光行きます。目線に気をつけて!」
 全員に注意喚起し、アークが蜂の密集地めがけて放るのは閃光手榴弾。炸裂する白に飲み込まれた蜂達は、次々地面に落下していく。
 両班合わせて蜂を囲い込むように展開する。
 蜂の間を駆ける響と玲の視線が交錯した。
「汝の魂に幸いあれ」
 響の身体が炎のオーラに包まれる。紅蓮衝撃を載せた影撃ちで瞬時に放たれた銃弾は蜂の後頭部を貫き。同時に玲の剣がその胴を切り裂く。
「縁があったら、来世でお会いしましょう」
 玲は冷ややかな微笑を地に落ちた蜂に手向けた。
 ハルトマンは落下した蜂達めがけ、M−121ガトリング砲を腰溜めに構える。
「弾丸の嵐を見舞ってやるのです」
 高速で発射される弾幕は、低空で飛んでいる蜂も含めて文字通り蜂の巣にしていく。同時に彼女の隣で影撃ちを放つ流風に蜂が近寄らないよう、時折牽制の銃弾を周囲に放つ。
 雷は飛び交う味方の銃弾の中を、瞬速縮地で自在に動き回り敵を翻弄する。
 狙いを定められない蜂に対し獣突の拳を叩き込み、後方に迫っていた蜂にはSES搭載ドラゴンレッグでの後ろ回し蹴りがヒットした。
「通用するか正直未知数でしたが‥‥」
 成果は上々。落下した蜂に、両手を包む白竜の正拳がとどめを刺した。
 複数同時に発射された毒針を避けきれず腕に針を受けた遊と蜂の間に、構えた盾ごと身体をぶつけるようにドッグが滑り込む。体勢を崩した蜂に、複眼を狙った急所突き。
「引き受けよう」
 ドッグの援護を受けて後退し、自ら毒針を抜く遊の受けた傷を、アークの練成治療が回復させた。
「毒は無理ですけど、傷は癒せますから」
「おおきに。助かるわ」
 毒を受けて思うように動けない遊に蜂達が近付かないよう、超機械αで攻撃する。発生した電磁波の範囲に囚われた数匹の蜂が、立て続けに地面へ落ちる。
 ハルトマンの弾丸が蜂の胸と腹の間――甲殻の継目を狙って放たれた。次いで同じ場所に打ち込まれた影撃ちが、蜂の身体を分断する。
「ハルトマンさん、すごいですっ! 私も頑張らなきゃ‥‥行くよ、雨康!」
 流風も負けじと奮戦する。流風が無難に戦えているのも、ハルトマンだけでなく断真も流風の援護を行なっているからこそ。
(「初陣から怪我をさせる訳にはいきませんからね」)
 全員が互いにフォローしあい連携を取って展開された掃討戦は、巨大蜂の群れを着実に屠っていく。
 何匹目かわからない蜂を流風が撃ち落した時、川原に動く蜂は一つもいなくなっていた。


 蜂の群れの対処をドッグが無線で要請する。本来ならば埋葬してやりたいのだが、数が多く困難だと判断したからだ。
「ピコハン、全然効かんかったなー‥‥どれ」
 素早い蜂に当てられなかった巨大ピコピコハンマーを、遊は流風の頭に落とした。
「痛いっ!? 結構痛いですっ」
「あはは、ごめんごめん」
 そんなやり取りの横で、今後の相談がされていた。
「もしかしたら、蜂キメラの巣があるかも知れないのです」
 ハルトマンが言うと、ドッグも同意する。
「蜂型という事は巣のようなものを形成している可能性があるだろう」
「一度の戦闘で気は抜けません。まだ残っている蜂もいるかもしれませんし、巣の駆除も視野に入れて確実に殲滅しましょう」
 その雷の言葉に、すっかり気の抜けていた流風は気を引き締めた。
「じゃ、じゃあ、また班毎に分かれて捜索ですねっ」
「もし見つかったら、うちのこの【フリーガーシュレック】で木っ端微塵にしてあげます」
 小型ロケット砲を見せて息巻くハルトマンだったが、その出番は訪れなかった。
 捜索の結果、単独で斥候を行なっていたと思われる蜂と幾度か遭遇しただけで、巣らしきものは見つからなかったのだ。
 かわりに発見したのは、山肌に半ば埋もれていた無数のカプセルポッド。蜂達はこれを使ってバグアの手によって上空から投下されたのだろう。

「皆さん、本当ーにありがとうございました!」
 帰りの移動艇内で、流風は小さな身体を半分に折るほどにお辞儀をした。
「おかげで無事に任務を達成することができました。何とお礼を言って良いやら‥‥」
 余程嬉しいのか終始満面の笑みを浮かべる流風に、響は得意の奇術でどこからとも無く紙吹雪を舞わせ。
「あなたと、僕達の勝利を祝って」
 驚く流風に、響は差し出した手に現れた小さなブーケを手渡す。
「ありがとうございますっ。皆さんが来てくれなかったら、私、きっと蜂に食べられちゃってました」
 流風が言うと、冗談に聞こえない。あえて例は挙げないが、同行したA班は移動中苦労が絶えなかったのだ。
「総合対策部を、実質的な傭兵運用のための部署にするのはどうでしょう?」
 雷の提案に、流風はぽんと手を打った。
「なるほどっ。そうしたらいつも傭兵の皆さんとご一緒できますもんね! 帰ったら中尉にお願いしてみようか、雨康?」
 いや、厳密にはそういう意図ではないのだが‥‥すごくぼかせば間違っていないし本人が嬉しそうなのであえて突っ込まず。
 ふとハルトマンは流風に尋ねた。
「そういえば、時々少尉さんが言う『雨康』ってなんなのです?」
「あ、この子です」
 流風はUPC服の胸ポケットから、緑色のもふもふしたものを取り出す。それは掌大のぷちリアルな直立したカエルのぬいぐるみだった。
「小さい頃からのお守りなんですよー。私、カエルが大好きで」
 ほにゃ、と微笑む流風。
「本当に少尉さんは可愛過ぎますわ!」
 玲はたまらず流風を抱きしめた。
 かなりドジな所もあるが、それも含めてこの少尉の魅力なのだろう。UPC、特に谷崎中尉にとってはお荷物なのかもしれないが、玲は流風に変わらずにいて欲しいと思う。
 そんな様子を端から眺めて、アークはひとり呟く。
「シャルトローゼ少尉の未来はあまり明るくなさそうだけど、なんか愉快な人生を送りそうな感じではあるかな」
 傭兵達の助力で開けた流風の道がどのようなものになるのか‥‥。
 UPC総合対策部は、まだ始動したばかりである。