●リプレイ本文
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舞台裏で、秋良がスイッチをオンにする。KV☆(ナイトフォーゲル・スター)のメインテーマ曲が流れ、会場から子供達の歓声があがった。
隣に向けて、指でカウントダウンしながらボリュームを絞る。彼女のゴーサインで、Observer(
gb5401)はナレーションを読み上げた。
――地球は今、宇宙から来た『クラッシュ・バグ』の脅威に晒されている。
クラッシュバグに対抗すべくテラ・ネットワーク財団が生み出したヒーローがKV☆STARである。
財団所有のKV☆養成所では、地球の平和を守るための戦士達が日夜訓練を重ねている。
『クラッシュ・バグ』が現れた時は、KV☆を呼ぼう!
KV☆は必ず来てくれる――
舞台袖から、春花が一気に中央まで走り出る。
「みなさーん! こーんにーちは〜!」
客席からまばらに返事が返る。
「声が小さいなぁ〜。もっと大きな声でいこう! こーんにーちは〜!!」
大きな挨拶に、春花は満面の笑顔を見せた。
「良くできました〜! 今日はKV☆に会うために集まってくれてありがとう」
春花の前説の最中に、突然ハードなメロディが疾走を始める。舞台の方々から噴出すスモークに悲鳴を上げた春花は、舞台左袖から走り出た戦闘員二人に捕まってしまう。
同じく左袖からおもむろに登場する犬塚綾音(
ga0176)。黒いミニスカートにボンテージのビスチェ。へそ出しルックに赤い海賊風の上着と髑髏付キャプテンハットを被った彼女は、いかにも悪の女幹部といった紫のアイメイクを施している。
「ふははは、ご機嫌よう地球の諸君!この会場は悪の組織『クラッシュ・バグ』が頂いた!」
「クラッシュ・バグの幹部、クリムゾン船長だよ! みんな、言う事を聞いちゃダメ!」
「黙れ!」
クリムゾン船長は刀の柄を春花の喉元に突きつけ。ゆっくりと客席側へ向かう。
「地球の子供達から新たな戦闘員を募集する。なりたいやつはいるか!?」
「はーい!」
ひときわ元気に手を上げた一人に、クリムゾン船長は刀の柄を向けた。
「地球の子供は元気があってよろしい‥‥って、貴様流氷のアャ〜コじゃないか!」
手を上げていたのは、前から数列目に座っていた藤田あやこ(
ga0204)だった。
子供に擬態するため白紺の体操服を身につけ、しかしその顔はクリムゾン船長に負けずとも劣らぬ青い悪役メイクでばっちり決めている。
「ほほほ、先手を打って潜んで居た訳。さ、二人とも私達の部下になるのよ〜!」
高らかに笑い、アャ〜コは両脇の子供の手を繋いで舞台へ上がった。
舞台に上げたうちの一人は、何と青海流真(
gb3715)だった。
綾音がこっそり「何してんだよ、クマは!?」と聞くと、「ボクもショーを見たかったんだもん」と返す流真。「いいじゃない。このくらい」とあやこが小声で割り込み、そのまま何事も無かったかのように戦闘員訓練が開始された。
「さぁ、まずは基礎訓練! 二人とも縄跳びはできるかしら? ‥‥まあ、すごい! 将来有能な戦闘員になれるわ〜」
良くできたご褒美にとお菓子を渡すアャ〜コに、クリムゾン船長が春花を前に突き出す。
「こいつはどうする」
「そうねぇ‥‥『演歌ロイド・歌声遥』に改造しましょう。売り出して資金を調達するのよ〜!」
「えぇっ!?」
驚く春花を、子供達の隣に並ばせる。
「さぁ、まずは発声練習よ! 海に向かってクラ・バグ万歳とお叫び!」
ステージ壁面のディスプレイに映し出された冬の海に向かって三人を叫ばせ始めた。
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何度やっても子供達は誉められ、春花は二人に罵倒される。
「そんな声で演歌が歌えるか!」
「ほら、もっとコブシを回すのよ!」
「えーん、こんなの台本に無かったのに〜」
泣き言を漏らす春花に、父母の笑い声が起こる。実際はもちろん打ち合わせ済みである。
春花は客席のみんなに向けて訴えた。
「こうなったら、KV☆STARの助けを呼ぼう! せーの」
「「たすけて、KV☆〜!!」」
しーん。
クリムゾン船長はあざけるように笑う。
「どうやら来ないようだな。戦闘員の増えた我々の力に怖気付いたか!」
「そこまでだ!」
どこからか響く声と同時に、軽快な音楽が鳴り響く。舞台袖から駆け出した柿原ミズキ(
ga9347)が凛々しく身構える。その身は、既にシュルテンを模した機翼のある黒い装甲・KVテクターに包まれている。
「子供達を返してもらおう!」
一歩後ろを駆けてきた鬼道・麗那(
gb1939)は、白い翔幻のKVテクターを身につけていた。
「クラッシュ・バグの好きにはさせませんわ!」
「スターブラックにスターホワイト! この流氷のアャ〜コが相手よ!」
スモークが吹き上がり、その中で隠してあった幹部服を身につける。再びステージ上に姿を見せた彼女は、巨大注射器を担ぎ、右手には鞭。その身はメタリックにアレンジされた白衣を纏っている。ただし、その中は体操服のままである。
「大人の事情(時間不足)でこれが限界よ♪ さぁ、戦闘員ども。やっておしまい!」
戦闘員三人が、キーキー言いながらブラックとホワイトに襲い掛かる。
ホワイトは手にしたスターバトンを華麗に回転させて戦闘員をいなす。その隙にステージを走り抜けたブラックが子供と流真を救出した。
「さぁ、ここから逃げるんだ!」
舞台脇の階段から客席に戻すブラックに、ホワイトが腕組みをして講義する。
「子供達は私が助けるはずでしたのに! これだから一般庶民は‥‥」
「そんな事言ってる場合か! だから金持ちのお嬢ってのは気に食わないんだよ」
言い合いながらも戦闘に戻る二人。ブラックが腰から引き抜いた警棒が、大鎌に変化する。
「喰らえ、フラッシュスマッシャー!」
大鎌・スターサイズを一閃。電撃音が響き渡り、戦闘員二人が爆発と共にステージ袖へと吹き飛んでいく。
――スターサイズに黒い電流を宿らせ敵を斬りつける。それがスターブラックの必殺技、フラッシュスマッシャーだ!
「女王様(鞭)の出番が無いじゃない!」
悔しそうに床を鞭打つアャ〜コは巨大注射器を構えた。
「こうなったら、この注射器ミサイルで‥‥」
「ホワイト、プリティハリケーン!」
ホワイトの必殺技名を叫びながらの覚醒。その身体からオーラが放出される。
――スターホワイトの必殺技、プリティハリケーン。そのオーラを受けた者は幻影にメロメロになるのだ!
ナレーションの直後、アャ〜コはミサイルを取り落とし、彼女の場所に爆発の花火が起こる。
「一発屋で終わるなんて〜‥‥」
狙い通り客席の笑いを誘う台詞と同時にフェードアウトするアャ〜コ。
爆発に巻き込まれたブラックがホワイトに詰め寄る。
「ボクがいるのに攻撃するなんて、危ないだろ!」
「あら、御免なさい」
言い争う二人の元に、舞台袖からKVテクターをつけた狐月銀子(
gb2552)とカイト・レグナンス(
gb5581)が合流する。
銀子のKVテクターはシルバーピンクのシュルテン。カイトは青いS−01だ。
先刻ブラックにやられた戦闘員二人が、銀子とカイトだったのだ。袖からはけて、戦闘員服から養成所の制服とKVテクターに着替えて出てきたのである。
「も〜、こんな時に喧嘩してる場合じゃないでしょ〜」
間に割って入ると、ホワイトが驚く。
「ピンク、ブルー!」
「クラッシュ・バグはどうした?」
黒一点のブルーが尋ねる。ブラックとホワイトが舞台を見回すが、既に誰の姿もない。
「しまった、春花が‥‥」
悔しそうに呟くブラック。二人にブルーが告げる。
「二人が仲間割れなどしているからだ。敵と戦うには、力を合わせなくては」
その言葉に、リーダーであるブラックが折れた。
「悪かった、ホワイト。今はそんな場合ではないのに」
「そうね、今回だけは大目に見て差し上げようかしら‥‥ゴ・メ・ン」
「解ったら、ね。仲直りよ♪」
ピンクは二人の手を取り握手させる。
その時、両袖からスモークが流れ出し、おどろおどろしい曲と共に舞台の上に横になった門松が吊り下がってきた。ブラックがそれを指して叫ぶ。
「あれは、クラッシュ・バグの要塞カドマツ! みんな、行くぞ!」
「「おう!」」
4人は舞台の右袖に走り去っていく。
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――KV☆は各自KVに乗り込み、要塞カドマツへと向かう。果たして春花を救出できるのか!?
要塞カドマツに向けて、バイパーが飛来する。実はあやこが、持参したバイパーの模型と門松ブラスターを吊るして空中戦を演じているのだ。
スモークが濃くなり、要塞とバイパーが消える。
――クラッシュ・バグは決着をつけるべく要塞カドマツを着陸させた。
スモークが消えた時、背景は岩場に変わっていた。
左袖から、春花を連れたクリムゾン船長が戦闘員一名を連れて現れる。
右袖から、白と銀を基調とした養成所のジャケットにブーツを身につけたカイトと銀子が姿を見せ名乗りを上げる。
「KV☆、天野ユウリ!」
「同じく、春風サクラ!」
「二人だけか。見くびられたものだ」
クリムゾン船長は春花を捕まえたまま、腰の刀を抜いた。
「ディアボロス・ウェイブ!」
刀を一閃、スクリーンに炎のエフェクトが浮かび上がり、ユウリとサクラは花火の爆発と共に吹き飛ぶ。
その隙に、左袖から現れたミズキと麗那がクリムゾン船長から春花を奪い返し、ユウリ、サクラと並ぶ。ミズキと麗那も役名を名乗る。
「KV☆黒木メイ!」
「同じく、吹雪レイナですわ!」
四人が横に並び、声を合わせて腕時計型のスイッチを押した。
「地球(テラ)パワー、セット!」
同時にメインテーマが流れ出し、ステージの縁からスモークが勢い良く吹き上がる。
ジャケットやブーツの装飾に隠れるように装着したパーツが、スイッチで装甲を展開する。スモークが消えると、そこにいるのは四人のKV☆。
「悪を狩る黒き雷光。漆黒の翼、スターブラック!」
「輝く白は乙女の純心。純情可憐、スターホワイト!」
「大空を翔る自由の翼。蒼天の剣、 スターブルー!」
「貴方を包む春の風。恋の魔法使いスターピンク♪」
各人がポーズを決めて名乗りを上げると、全員が集まってポーズを決める。
「正義の翼で悪を討つ、地球戦隊・KV☆STAR!」
「おのれ、KV☆‥‥出でよ、クマバグラ!」
クリムゾン船長の声に召喚されたのは、熊を改造した魔獣、クマバグラ。のきぐるみを着た流真だ。
(「ようやく出番だ〜。よーし、がんばるぞ!」)
ロボパーツ混じりの凶悪な熊という外見に反して、その動きはどこか愛らしい。客席からも「かわいいー!」など声援が上がる。
「なんだか、攻撃しにくいわね」
躊躇うピンクの元にやってきたクマバグラ。突然その爪を閃かせ、両の腕を広げて素早く回転した。
「きゃっ!?」
「ピンク、しっかり!」
「危ない、ホワイト!」
ブラックはピンクを助け起すホワイトへの攻撃を、スターサイズで受け止めた。
「大丈夫か?」
「これだから‥‥一般庶民も素敵ですわ」
クマはそのまま力で押し切ろうとする。その咆哮に、KV☆を花火が包む。吹き飛び、倒れるKV☆に子供達の声援が飛ぶ。
「くっ‥‥負けたりはしない。ボクたちは、一人じゃないんだ!」
立ち上がるブラックの声に、全員が立ち上がる。
「力を合わせて戦えば、どんな敵にも負けはしない!」
ブルーがスターブレイドをかざして一回転する。クマに向けた剣は、元来の刀身と水で作り出された曲刀を両側に持つ、スターブレイド最終形態。
「行くぞ、スプラッシュブレイド!」
――スターブルーの必殺技、スプラッシュブレイド。スターブレイドに作り出した水の刃が炸裂する!
「スターブレスレット!」
ピンクが両手首に装着したブレスレットを掲げ、胸元で交錯させる。
桃色の噴煙が上がり、メロドラマチックな曲が流れる中、クマとピンクが両手を広げスローモーションで駆け寄っていく。
そのまま抱き合うかと思いきや。
「この、浮気者おおお!!」
ピンクの拳がクマを殴り飛ばした。
――スターブレスレットの魔力で敵をラブラブにさせての鉄拳制裁、ジェラシークラッシュ! 恐るべきピンクの必殺技である。
クマがふらふらとよろめいた所に、ブルーが叫ぶ。
「今だ、ブラックの武器に皆のパワーを集めるんだ!」
全員がブラックの元へ集まり、武器を頭上にかざす。
ブラックのKVテクターの中で覚醒し、ソニックブームを発動。スターサイズが赤く輝く。
「吹き飛べ! スターインパクト!!」
スクリーンにビッグバンの映像とステージ全体に花火が上がる。
それが収まった時、敵はクリムゾン船長一人となっていた。
「今日の所は退いてやろう‥‥覚えていろ、KV☆STAR!」
クリムゾン船長が走り去ると同時に、中央で横一列に並ぶ四人に春花が駆け寄ってくる。
「ありがとう、KV☆。皆もお礼を言ってね〜、せーの」
「「ありがとうKV☆ー!」」
両袖から湧き上がるスモークに紛れて、全員がステージをはける。噴煙中にObserverのナレーションが入る。
――4人の友情の力が悪を退けた。だが戦いはまだ終わらない。戦えKV☆! 地球に平和が訪れるその日まで‥‥!
煙幕が晴れ、舞台の掃除をしているメイクを落としたあやこ。背景はKV☆養成所のものだ。
右袖から銀子扮するサクラとカイト扮するユウリが登場する。
「喉渇いちゃった〜。あ、レイ、紅茶と桜餅買ってきて」
「そんなの自分で買って来いよ」
あやこ扮するレイにねだるサクラをユウリが諌める。
レイは立ち上がって両手を胸元で組んだ。
「買ってきます! これも修行の内、頑張って五人目のKV☆になるの。良い子のみんなも、ちゃんとお手伝いするのよ〜」
――ホワイトの純心パワーを受けて、流氷のアャ〜コは下部戸レイとしてKV☆養成所の一員となった。無事にKV☆になれるのか。それは次回のKV☆を待て!
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ショーが終わっての握手・撮影会は長蛇の列となっていた。
流真は「ボクがクマさんだったんだよ〜」とクマ耳のカチューシャをつけて子供達と握手し、麗那は商魂たくましく自分のCDの宣伝もしている。
最期の子供の頬に銀子がキスをあげて見送る。
「皆も、愛の力を忘れちゃダメよ♪ あたし達とのお約束〜」
控え室に戻って、秋良が皆に言った。
「お疲れ様! こんなに楽しいショーは久しぶりだったよ。ナレーションも助かった。ナレーションはやっぱり男の方がいいよな」
秋良に言われ、Observerは「自分の役割を果たしたまでです」と眼鏡を直した。
「次は劇場で公演かしらね?」
笑顔で告げる麗那に、秋良は頷いた。
「社長に掛け合ってみるよ。あたしも見てみたいしね」
「その時はよろしくね!」
春花が仏頂面のままのカイトに声を掛けると、彼はそっけなく答える。
「暇ならな‥‥」
しかしその声はどこか楽しそうで。
観客のみならず、役者、裏方までもが楽しめたKV☆のショーは、言うまでも無く大成功に終わったのだった。