タイトル:【LC】天まであがれ?マスター:きっこ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/28 16:44

●オープニング本文



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 私、流風・アイゼリア・シャルトローゼ少尉はちょっと長めの休暇をいただいていました。
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 たった一人の身内であるおばあさまの看病のためです。
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 おかげでおばあさまも良くなり戻ってきたのですが、
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 いつぞやの『とらぴょん』の広報責任者さんからの依頼が来ていたそうです。
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 表紙に『日誌』と書かれたファンシーなカエルノートにまんまるっちい文字を書き連ねていた流風はふと顔を上げ、ノートをのぞき込むような位置に腰を下ろしたプチリアルなカエルのマスコット人形に微笑む。
「ねぇ、雨康。広報責任者のおねえさん、私が復帰するまで待っていてくれたんだって。なんだかすっごくうれしいよね」
 再び流風はペンを走らせる。
「『これからご挨拶に行って、もし必要ならそのままお仕事をして来ようと思います』‥‥っと。よしっ、行こうか雨康!」
 両手にジャストサイズな雨康の胴体を抱えあげ胸のポケットに納めると、振り向き椅子の足につまづき盛大に転んだ流風は打ちつけた膝をさすりながらUPC総合対策部の小さな一室を後にした。



 日本某都市。
 日本を中心に多岐に渡って企業展開しているグループがある。そのファンシー部門のイベントが社屋に隣接する公園の広場を利用して行われていた。
「わぁっ、とらぴょんも新しいぬいぐるみが出たんですね!」
 流風は積み上げられた大小のぬいぐるみの一つを抱える。
 耳はぴょんと長く尾もふさふさと丸い。しかし笑顔に開かれた口に生えた牙や指先の爪。身体の模様は紛れも無く虎。今は国内での認知度も伸びているこのキャラクターが『とらぴょん』なのだ
「あれ? 心なしか毛足が長くなっている気がします」
「そう。これから寒くなるから冬毛仕様で、もふもふ度がアップしているの! とらぴょんのおなかにゆたんぽが入るものもあるのよ」
 力説する広報責任者の語尾は悲鳴にかき消された。
 振り向いた二人の視線の先、逃げ惑う来場客を追いかけて先が筒型に広がった細い管が宙を舞い、先から人頭大の透明な球体を無数に放ち公園内の施設や木々を破壊している。
「皆さん、落ち着いて係の方の指示に従って避難してくださいっ!」
 一般人を庇うようにして、流風は愛用の拳銃『黒猫』を抜きつつ駆け出す。気配を感じ横に跳んだ流風を襲ったのは巨大な輪だ。2mはあろうかという輪の下には柄らしきものがついている。
 巨大な輪に掬われた。と思えば、弾力性のある透明な球体に閉じこめられてしまったのだ。しかも球体はふわりとゆっくり上空へ昇っていく。
「はわっ!? と、とりあえず脱出しないとっ」
 球体の一角──周囲に被害が及ばぬよう上空へ向けて発砲する。
 弾丸は透明な膜に食い込みそれを付き破──らず。
「ひやあぁぁっ!?」
 受け止めた勢いをそのままに跳ね返された弾は球体内を駆け巡り、同じく球体内で飛び回って弾を避けていた流風が反射的に翳した銃にめり込んで止まった。
 何とか危機は乗り切ったが銃はもう使い物にならず、それ以外の武器は持ち合わせがない。
 周囲では細身の管と柄のついた輪が広場に集まった人々を次々と襲っている。
「あれって、しゃぼんだまの、アレ?」
 ふと気が付いた流風が零した通り、子供の頃に遊んだアレによく似ている。
「はっ!? それよりも‥‥すみませーん、すぐにUPCに応援を頼んでくださーい!!」
 イベントスタッフや社員に向けて叫ぶが、周囲の音が流風に届かないように流風の声もまた外には届かなかった。
 当然流風が頼むまでもなく、UPCには正体不明のキメラ討伐の依頼が舞い込んできたのだった。

●参加者一覧

狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
フィオナ・フレーバー(gb0176
21歳・♀・ER
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
秋津玲司(gb5395
19歳・♂・HD
殺(gc0726
26歳・♂・FC
ゲンブ(gc4315
18歳・♂・CA

●リプレイ本文


 現場は大混乱に陥っていた。一般人はUPC軍と警察が避難誘導してはいるが、シャボン玉に閉じこめられた人数は報告よりも増えているようだ。
「こんな街中までキメラが入って来るなんて‥‥って、なんだアレ」
 言葉を失う殺(gc0726)に次いで孫六 兼元(gb5331)も呆れ顔だ。
「これは‥‥シャボン玉で飛ぶとは、えらくファンタジーな光景だな!」
 そう言う兼元自身も、白銀の武者鎧「柊」で全身を固めておりどこか浮き世離れした姿である。
「夢でならやってみたい事かもしれませんが、現実じゃ夢見心地とは行かないでしょう」
 狭霧 雷(ga6900)の言うとおり、閉じこめられ何とか脱出せんと半狂乱になる者や、ぐったりと動かない者もいる。
 浮かぶシャボン玉の高さはまちまちだが、その中の一つに流風の姿があった。
「少尉‥‥!」
 菱美 雫(ga7479)がそれを見つけたと同時に、流風も皆の姿を見つけた。声は聞こえないがどうやら謝り倒しているようだ。
「ひ、久しぶりに流風少尉にお会いできると思ったら‥‥な、なんだかまた厄介ごとに巻き込まれてるなんて‥‥!」
 流風らしいと言えば流風らしいのだが、いちいちそれに付き合わされている方は大変だろう。しかし雫は飛び回っているシャボン玉キメラをきっと睨みつける。
「待ってて下さいね、少尉‥‥すぐに、助けますから‥‥!」
「さて、ワシらはキメラを引き付けるとしよう!」
 兼元は2mもある大剣を構える。一般人の避難と救出を潤滑に行うべく、この四人でキメラに向かうのだ。
「あちら側にキメラを誘導しましょう」
 白い竜人の姿をした雷がある一角を指す。そこは既にストロー型の高速シャボンにより広場に設置されたブースや広場外周の木々が破壊されている。そこならばそれ以上被害が広がる心配もない上、広場内のキメラ達の位置からしてもそこが一番適切と判断したのだ。
「これで『シャボーーン』とか鳴いたら、漫画かアニメだな! ガッハッハ!」
 豪快な笑い声を上げながら駆けていく兼元に雷と殺が、その後ろから雫がエネルギーガンを手に続く。
「援護します‥‥!」
 雫が発動したスキルで、先行する三人の武器が光に包まれていく。
 避難する一般人を庇う位置に割り込むや否や、数体のストローがこちらを向き高速シャボンを発射する。
 背後からあがる悲鳴を聞きながら雷は獣人の力を解放する。
「流石に、そう何度も持ちませんけどね!」
「これならどうだ! 雷遁!」
 横合いから殺が腰に提げた巻物をかざす。発生した電磁波、そして雫と兼元の迎撃に減数したシャボンを、皮膚の強度を高めた雷が盾となり受け止めた。
 すかさず雫が錬成治療を施す。
「さぁて、この数どう捌く?」
 キメラに視線を巡らせながら殺は呟き、捕縛に来る輪型のシャボンを迅雷でかわして誘導先へ向けて駆ける。
「モットだ、モットこっちに来い!!」


 討伐班がキメラを抑えている間に、他の四人は宙に浮くシャボン玉に向かう。
 AU−KVを装着した秋津玲司(gb5395)はエナジーガンを片手に駆ける。
「シャボン玉キメラとは‥‥相変わらずバグアは何を考えているのかよく分からんな」
「シャボン玉かぁ‥‥」
 ぽつりと呟くフィオナ・フレーバー(gb0176)にゲンブ(gc4315)が言う。
「人々が困っているなら、見過ごせません。必ず助けましょう」
「ん? う‥‥うん、そうだねっ」
 慌てて相槌を打つフィオナ。浮いているシャボン玉の中が楽しそうだと羨んでいたなどとはとても言えない。
「さぁて‥‥何時も通り遂行するかね」
 気合い十分に皆に続くのは紅月・焔(gb1386)だ。
「くくく‥‥覚悟しやがれキメラ野郎!」
 言ってやたらと好戦的に機械剣βを突きつけたガスマスク男だが、その先は浮かぶシャボン玉。彼ら四人の仕事は閉じこめられた人達の救出である。
「シャボン玉は僅かずつだが上昇しているようです。急がなくては」
 周囲を警戒しつつ言うゲンブにフィオナは頭上を見上げ、
「助ける人は今のところ〜‥‥八人、だね。シャボン玉の位置が高い人から助けないと」
 現在一番高い位置にあるシャボン玉は流風が入っているそれである。すなわち流風が真っ先に閉じこめられたという事だ。
「少尉、油断したな‥‥こんな面白キメラに捕まるとは」
 焔が見上げた流風は何か訴えているようだが、シャボンを隔てた内側の音はこちらには届かない。
「まあ、安心すると良い‥‥すぐに助け‥‥おや?」
 やけに静かになったと思ったら、いつの間にか自身もシャボン玉の中に。呆れ顔の仲間の声は焔には届かない。
「いや、俺ね‥‥一度で良いからシャボン玉に入って浮かんでみたいって‥‥子供の頃からの夢でさ‥‥」
 そんな焔の負け惜しみも当然誰にも聞こえていない。しかも高速シャボン弾に被弾した焔のシャボン玉は弾かれてすっ飛ばされた。
 その様子を無言で見送った三人は、何事も無かったように救助を再開する。
「まずは流風ちゃんのシャボンで安全に壊れるか試さないと」
 そう言いながらも、フィオナの表情には申し訳ない気持ちが表れている。その思いを汲んで玲司が、
「一般人に万が一が有ってはいけないからな。‥‥少尉で実験するという形になるのが少々アレだが、しかたあるまい」
 外部からシャボン玉へ攻撃を加えた際になにが起こるかわからない以上、破壊可能かどうか試すには流風のシャボン玉で試すのが妥当と言えよう。
 それがわかっているからこそ、雷も雫も心配ではあるが止めたりはしない。
「くれぐれも少尉に攻撃を当てないように、気をつけて下さいね‥‥?」
 雫の一言に、フィオナは任せてとウインクしてみせる。そして、
「んー。ん、閃いた!」
 突然ゲンブに何事かを耳打ちする。難しい顔でそれを聞いていたゲンブだが、ふと気がついてフィオナを振り向く。
「──え? それ、私がやるんですか?」
「他にだれがいるの。いいから早くっ!」
 強引に促すフィオナに、ゲンブは半信半疑ながらも彼女から距離をとる。そして頭上に両腕で大きな輪を作るとふらふらと歩き出す。
 両手を大きく振って流風の注意を引いたフィオナは西部劇よろしく腰から銃を抜き回転させる仕草をし、指で作った銃でゲンブの輪に狙いを定める。
 発射した銃口に息を吹きかけると同時に、ゲンブは両腕を大きく解き放つ。
 救出時にキメラの攻撃が及ばぬよう警戒しつつ、それを見ていた玲司が呟く。
「なるほど、少尉にシャボン玉を破壊する事を伝えるのか」
「よし、伝わったみたいね!」
 フィオナはぐっと拳を握ったが、流風は無邪気に拍手を贈っている。
「本当に伝わったのでしょうか?」
 ゲンブの心配を余所にフィオナは満面の笑みでエネルギーガンを流風のシャボン玉に向ける。
「いくよー。気をつけてね〜」
 破壊に成功さえすれば、下でゲンブが受け止めてくれる。彼を信じ引金を引いた。発射されたエネルギーがシャボン玉の上端を掠め、透明な皮膜は弾けて消えた。
「えっ、ひゃ‥‥はわわっ!?」
 予想していなかった事態に真っ逆様に落下する流風をゲンブが受け止める。
「大丈夫ですか!」
 しっかり受け止めたにもかかわらずさっと血の気が引くゲンブにフィオナが気づく。
「ああ、触ってるでしょ!」
 フィオナの言う通り、ゲンブの両手はしっかりと流風のぺた胸をキャッチしていた。
「な、何という不覚! シャルトローゼさん、申し訳ありませんっ」
「はう‥‥あのその、こちらこそ助けていただいてっ、これはそのお気になさらずっ」
 赤面した両者がペコペコと頭を下げ合うのを遠目に、雷がぽつりと呟く。
「‥‥後でお仕置きですね。」
 彼から発する怒りのオーラに、雫は密かに戦闘後の治療の必要性も念頭に置いた。


 一悶着(?)あったものの、無事に救出された流風は皆と合流する。
「すみません、皆さんっ。ありがとうございます!」
「よ、よかった‥‥! 少尉、ご無事で何よりです‥‥!」
 走ってきた流風に雫が駆け寄り思わず抱きしめかけた手をふと止め、流風に怪我がないかを確認する。
「どこも痛くありませんか?」
「はい、大丈夫ですっ。でも、私のクロちゃんが──あ‥‥孫六さん、お久しぶりです!」
 使い物にならなくなった拳銃「黒猫」を手にした流風が見上げた先で、兼元は流風に拳銃「スピエガンド」を差し出している。
「子供を戦わせるのは本意では無いが、非常時では仕方ない! 手伝ってくれ!」
 初対面の者は大概小学生と思わざるを得ない容姿の流風だが、兼元は数度面識があるにも関わらず彼女が外見通りの年齢だと信じて疑わない。
 当の流風も慣れたもので特に否定もせずに銃を受け取る。
「もちろんです!」
(やはり少尉にこれは少々大きいからな‥‥)
 玲司は流風に貸そうとしていたシエルクラインをそっとしまった。
 その間も殺はストロー型キメラを重点的に相手取る。迅雷で一気に相手の間合いに踏み込み、その勢いのままに右の忍刀「颯颯」を閃かせた。
 弧を描く一閃。高い金属音が鳴り、硬質なストローの表皮には浅い傷が生じたのみ。
「ならば──!」
 左手の機械剣「ライトピラー」の両刀で細い筒型の身体を切断する。
「知覚攻撃の方が有効的のようだな」
「なるほど、では‥‥!」
 殺の声に、輪型を相手取っていた雷の二刀小太刀「松風水月」が紅い光を発する。日本刀の鞘尻に隠されていた小太刀を抜き、交差させた両刃で輪の部分を挟み込む。
「これでもうシャボン玉を作ることはできないでしょう」
 鋏の要領で輪を切断したのだ。
「一体ずつ潰すよりも、まずはシャボンの生成を封じる作戦か!」
 感心した様子で兼元が言う。
「シャボンが作れなくなればただのガラクタだな!」
 さらに加えて雫が錬成弱体を飛ばし、そこに兼元が堕剣「ルシファー」を叩き込めばひとたまりもなかった。


 救出班は流風を救出後、同じ要領で囚われた一般人の救出を試みる。
「内部は完全に密閉状態だ。長く閉じこめれられている者は息苦しくなってきているだろう」
 そう言うのはついさっきまで実際に中に閉じこめられていた焔だ。いつの間にか機械剣βでシャボン玉を破り脱出してきたらしい。
「シャボンを割る人と受け止める人の連携が重要そうだね」
 フィオナが言い、玲司が頷く。
「ああ。高さが無くてもきちんと着地できなければ怪我を負う」
「じゃあお願いね、ゲンブくん!」
 エネルギーガンで、現状最も高い位置にあるシャボンをフィオナが狙い撃つ。
 シャボン玉が割れて悲鳴と共に落下してきた女性を、ゲンブはいろんな意味で細心の注意を払って受け止める。
「荒々しい救出法で申し訳ありません」
 受け止める役を焔とゲンブが担い、そうして二人三人と助け出していく。
 討伐班がこちらにキメラやその攻撃が及ばないようにしてくれているが、さらに重ねて玲司がエナジーガンでキメラへの牽制とAU−KVの装甲を生かして盾となり護衛を務める。
「──! 時計塔が!」
 流風の声に皆が振り向く。キメラ出現時に打撃を受けていた時計塔が自重に耐えきれず倒壊する。
「伏せて下さいっ」
 流風が銃を連射し大きな瓦礫を粉砕していく。降り注ぐ礫は玲司のバハムートとゲンブが身を挺して防ぐ。
「AUーKVは図体がでかい分盾にはちょうどいいからな」
「ふー‥‥危機一髪でしたね。お怪我はありませんか?」
「って、そう言うゲンブ君が怪我してるじゃないの!」
 すかさずフィオナが錬成治療を施す。
「お、お嬢さん‥‥俺にも治療‥‥」 
 焔は救助に徹し──ているフィオナをガン見していたため、見事時計塔の崩落に巻き込まれていた。
 ストロー型へ殺が二刀流による連撃、雫がエナジーガンの追撃を食らわせる。
「どういう目的があるのか、知らないけど‥‥少尉たちに酷いことをして‥‥許さない‥‥!」
「まだ行ける。次だ!!」
 殺はストロー型最後の一体へと向かう。
 輪型の方も一体を残すのみとなっていた。
「屋根まで飛んで──」
 兼元の強力な一撃が輪型を空中へと打ち上げる。落下してきたそれに横一閃斬りつけた。
「壊れて消えろ!」
 救出した一般人を護衛・避難させた救出班も加わり、程なくキメラは一掃された。


 その場に居合わせた人々に重傷者はおらず、事態は無事収拾された。
「初めまして。皆助かって良かったね」
 殺の呼びかけに流風はほにゃりと笑顔を返す。
「あ、はじめましてですっ。来ていただいて本当に助かりました!」
 きょろきょろと視線を動かし落ち着きがない流風だったが、探していた姿を見つけてぱっと笑顔で駆け寄る。
「狭霧さん、どこに行ってたんですか?」
「‥‥すみません」
 人目を避けて覚醒を解いていたのだが、雷は微笑と短い言葉だけを返した。
(人が変化するさまは、見ていてあまり気分の良いものでもないですしね)
 その後荒れた公園内を整備し、ブースを移してイベントの再開までを皆で手伝った。
 殺は積極的にスタッフに声掛けをして作業を担い、焔は一心に作業をしつつもガスマスクの奥の双眸は鋭く女性スタッフの姿を捉えていた。痛い目を見ても懲りていないようである。
 無事にイベントが再開できたのを見届け、流風はほっと息を吐く。
「良かった‥‥でも、最初に私がもっとちゃんと対応できてたら‥‥」
 しゅんとなる流風に、雷が来場者を見ながら言う。
「大丈夫、皆の笑顔を見て下さい。こんな時こそ笑顔になれることが大切ですから」
「そうそう、流風ちゃんもがんばったもんね〜」
 フィオナは満面の笑みで流風を抱きしめ頭を撫で回す。完全に子供として可愛がっているようだ。
「こんな兵器を造るとは‥‥まさか‥‥やつが動きだした、のか‥‥? くそ! バグアめ!」
 焔の呟きを聞き玲司が尋ねる。
「心当たりがあるんですか?」
「え、いや‥‥ちょっと言ってみたかっただけなんだけどね‥‥」
「キメラはアレだったが、これを貰えたのが収穫だったな! ガッハッハ!」
 兼元の手にはとらぴょんの冬毛仕様ぬいぐるみがある。広報担当者からお礼にと全員が押しつ──貰ったものだった。兼元は密かにとらぴょんが気になっていたのである。
「出来れば着ぐるみが欲しかったんだがな」
「と、とらぴょんの、着ぐるみは‥‥小さい人じゃないと‥‥入れないみたいです、よ?」
 雫はとらぴょんの着ぐるみサイズの流風に柔らかな視線を送りながら言う。
 1mはあろうかというとらぴょんを抱えてはしゃぐ流風に、フィオナがススッと近づき耳打ちする。
「‥‥気をつけて‥‥っ。涼しい顔して実はごにょごにょ‥‥」
 驚き思わずあからさまに振り向いた流風に、ゲンブも驚く。
「フィオナさん、何を言ったんですか!? シャルトローゼさん、きっと嘘ですから。信じないでくださいっ」
 慌てふためく後輩の姿にフィオナは実に楽しそうな笑顔を浮かべた。