タイトル:【幻装戦隊】ACT.3マスター:きっこ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/21 08:34

●オープニング本文


前回のリプレイを見る



──日本某所、イツメパイユ社長室。
「KV☆のヒーローショーの時にも、ラウズブレイバーのはやらないのって聞かれるんですよ! KV☆くらいの人気になるといいね」
 社長室の入口側に置かれた応接セットのソファから嬉しそうに言ったのは水瀬春花。
 ヒーローショーの司会をしている彼女もそうだが、低迷期のイツメパイユを支えてきた第一人者が社長のデスク前にいる真壁秋良だ。プロジェクトマネージャーとして放送二回目にして人気シリーズへと成りつつある『幻装戦隊◆ラウズブレイバー』を手掛けている秋良は、こちらに背を向けている社長椅子に呼びかける。
「そのためにも、今後の綿密な計画を──」
 ゆっくりと椅子が回転する。腰掛けていた社長もずいぶんと若い。キュートに外ハネした金髪に青い瞳。ヒーローへの愛と夢をもって、日本人である父親が残した倒産寸前の会社を引き継いだ彼は、手に直径50cm程のリングを手にしていた。
「二人とも見たまえ。まだ発売前の新製品『ラウズリング』だ! リングを握る人数や体温を感知して異なる音と光を発するそうだよ」
「えっ、やりたーい! 秋良ちゃんも‥‥」
 ダッシュしてリングを掴んだ春花が振り向いた時、秋良のは既に社長室外の廊下に出ている。秋良が去った後の室内ではラウズユニゾンの掛け声と電子音が響いていた。


──ラスト・ホープ、UPC本部。
「え〜、第二回はラウズブレイバー側をメインとした物語だったのですが〜。今回は逆にバグアバグ側をメインとした物語になるそうです〜」
 いつものように資料を配りながら、オペレーターの小野路 綾音(gz0247)が言う。
「前回はラウズブレイバーの『友情』をテーマとしていましたが〜、今回はバグアバグの皆さんの『思惑』がテーマとなるとか〜」
 バグアバグ全体としては『何故オーララウズを集めているのか』『バグアバグは何者なのか』等。それ以外に個々の思惑もあるだろう。
「つまりバグアバグはどんな組織なのかをより明確にしたいという事ですねぇ」
 室内の照明が落とされ、プロジェクターが作動する。
「これがACT.3の冒頭で流れる映像です〜」

 ラウズブレイバーのテーマ曲に載せてタイトルロゴが表示されると、ACT.2のハイライトをバックにナレーションが流れる。
『結束力不足と個々の弱点を突かれ、戦力を分断されたラウズブレイバー。しかし』
 ラウズユニゾンによって発動した協力技が、戦闘態勢のラドルと冥土キャットを打ち破る。
『力を合わせ放たれた協力技・ラウズハリケーンによってバグアバグを退け、ラウズブレイバーは結束を深めたのであった。しかし‥‥』
 闇と光に満たされた空間に大首領バグが佇んでいる。白を基調としたスーツに身を包んだ後姿。その手には以前ラウズブレイバーに敗れたモグドリルのドリルがある。
 眼前の巨大な光球の中心にあるのは、先の戦いで象徴武器である尻尾鞭を破壊され力尽きた冥土キャットの身体だ。
「これが新しい象徴武器だよ」
 ドリルを光の中に押し込み光が一層強まる中、バグは背後を振り向いた。張り付けたような笑みを浮かべたその顔は逆光に陰る。
「君にも、頑張ってもらわないとね? 我々には沢山のオーララウズが必要なんだから」
「‥‥案ずるな。利害が一致している以上、俺はバグアバグを裏切らない」
 踵を返す青燈の首から提げられたラウズライトの如き結晶がキマイラ創造の光を反射する。
「予想通りいいデータが取れてますな‥‥クス‥‥クスクスクス‥‥」
 自室で端末を叩きながら妖しい笑みを零すのは暗黒闘士フェリアスだ。
「ラウズブレイバーのの弱点克服後のデータ、そして幹部全員のデータ。これら総てを組み合わせ、作る‥‥ッ! 私だけの、究極の幻装天鎧をッ!」
 叫ぶ彼女のぐっと握り締めた拳にカメラが寄る。
『バグアバグがオーララウズを集める目的とは‥‥? 各々思惑を抱きながらも、幹部達は新たなキマイラを引き連れて地球を襲撃する。ラウズブレイバー達は地球を守ることができるのか‥‥!?』


【幻装戦隊◆ラウズブレイバー】
 地球軍所属特殊部隊。普段は軍服着用。
 敵組織により、体内に『オーララウズ』を宿した箇所を奪われた。そこに宿った幻神の力が奪われた箇所を構成、人知を越える力を得た戦士。
 通常時は常人の二倍(敵雑魚を蹴散らす程度)、変身後はさらに数倍の力(幹部等と戦闘可能)を発揮。
「幻神天装!」の声と共に、幻神の姿とKV(AU−KV)をミックスした装甲『幻装天鎧(ゲンソウテンガイ)』を瞬着。

 幻神(地球に伝承される幻獣や神)は和洋問わず。
 奪われた箇所は身体のパーツのうちどこか一つ。武器は基本的に奪われた箇所に準拠する物を考案。
『奪われた部位』『幻神の姿や能力』『武器と必殺技』の三つがリンクしているのが理想。
 オーラ、及び幻装天鎧の色は個体毎に異なる。

・最終武器ラウズリング
 ラウズライトをはめ込んだ直径50cm程のリング。
 ラウザー達の呼びかけに降臨し、皆で握り幻神の力を共鳴させると巨大武器へと姿を変える。
 顕現済:『ラウザーマグナム』『ブレイソード』『ラウズハリケーン』

・登場済(変身登場順)
 ライララウザー(ライラプス・赤)/橘 紅狗(少尉)
 ラジエルラウザー(ラジエル・橙)/天野 鈴奈
 ヘルフィラウザー(ヘルフィヨトル・緑)/碧川 霧
 ヴァティラウザー(サラスヴァティ・白)/アイナ
 オーディラウザー(オーディン・黒)/黒木 時定(中尉)

 ベリアラウザー(ベリアル・青)/祠堂 青燈<敵側ラウザー>

・統括隊長:原嶋 多聞(少佐)


【バグアバグ】
 突如として地球に現れた悪の組織。
 謎の生命体キマイラを操り地球の征服をもくろむ。
 侵略の目的は稀少エネルギー『オーララウズ』を得るため。幹部クラスはオーララウズを結晶化する技術を有している。
 オーララウズは様々な場所や物に、時には人体にも宿っている。結晶化したものは『ラウズライト』と呼ぶ。

 幹部は人型。衣装+悪役メイク。地球では時間的活動限界がある。
 キマイラは獣人型(トラキマイラ、サメキマイラ等)。着ぐるみ着用。少量のラウズライトを含む象徴武器を持ち、それを破壊されると死に至る。
 敵雑魚はキメラ(TV版ではCG)

・登場済幹部(登場順)
 大首領バグ<ボス>
 ヴァーミリオン・ナイア<幹部>
 ラドル<幹部>
 醒凰鬼イスフェネクス<幹部>
 暗黒闘士フェリアス<幹部>

・故キマイラ
 モグドリル
 冥土キャット


【その他の役】
・キマイラ(スーツアクター)
・未登場幻神の精神体(ラウザー達のサポートキャラクター)

 など。
 上記は案であり、それ以外も可。

【第三話】
・バグアバグの組織としての目的や個々の思惑を主軸にした物語
・ラウズブレイバーは前回での結束向上を踏まえて上記を生かす立ち回りを

●参加者一覧

如月(ga4636
20歳・♂・GP
フェリア(ga9011
10歳・♀・AA
鬼道・麗那(gb1939
16歳・♀・HD
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
白蓮(gb8102
18歳・♀・PN
伊達 士(gb8462
20歳・♀・DG
CHAOS(gb9428
16歳・♂・SF
日下部 司(gc0551
17歳・♂・FC

●リプレイ本文


 背後からの気配を察知し身を翻すと、真空の刃が青燈のいた場所を突き抜けた。
 風刃を放ったバグはゆっくりと歩み寄る。
「流石だね、でもどうしてだろう。キマイラを通して見た赤の力は、まだ君よりも劣っているよね?」
「‥‥何が言いたい?」
「どうして、今の内に仕留めないのかな?」
「奴には利用価値がある。白と黒のラウザーと違って、存外飼い主には従順だ」
 真意を探ろうとする視線を送る青燈にバグは顔を寄せる。
「考えがあるなら、手を貸すよ」
「はい、バグ神様! 例のアレが完成しました」
 そこに現れたフェリアスが手を挙げて報告すると、青燈が言う。
「後はオーララウズと‥‥生きの良いサンプルが必要だな」
 一方別の部屋では。
 モノトーンの道化装束の男が黒い光を生み出す。手にしたミラーマスクが黒い輝きを全て吸収し終えると、ラドルは白塗りに星や涙を描いた顔に意味ありげな笑みを浮かべた。
「ま、これで大丈夫でしょう‥‥相変わらず綺麗なお顔だ‥‥」
 立った状態で半生体の管や機器に繋がれたナイア。顔が映される前に、マスクがラドルの手によって装着される。
「能力も高めてありますから、出陣の際はあの邪魔な女を任せましたヨ?」
 調整を終えて立ち去るラドルと入れ替わりに、フェリアスが姿を見せた。
 ふと気づき、眠ったままのナイアに近づく。
「愛してた筈の者さえも、罪という名の仮面で忘れていく‥‥何故だか切ないですな‥‥」
 差し伸べた手は、ミラーマスクの下に伝う雫を拭った。


──ラウズブレイバー指令室
 改造軍服の階級章が中尉から大尉に戻った時定だが、始末書を書いているのは相変わらずである。
「しっかし何で俺が第四部隊の分まで書かにゃならん‥‥って、なんか調子狂うな」
 いつもであれば『気にするな』と笑い飛ばす多聞は、より乱れた軍服姿で椅子の背もたれに身体を預けぐったりとしている。その原因は周囲に散らばった大量の空酒瓶で一目瞭然である。
 元々酒好きで二日酔いはしょっちゅうだが、この所日毎に量が増えている。
 うたた寝しかけていた多聞が目を開けると、アイナが紅狗と時定に険しい表情で吐き捨てた。
「バグアバグは侵略者ではない‥‥無尽の略奪者、無限の破壊者」
 画面が暗転し闇に煌めく無数のドリルが映し出される。
 身体を覆う黒い獣毛は冥土キャットのそれだ。勇猛な獅子の顔にモグドリルの象徴武器だったドリルが鬣として並ぶ。
「至上最強のキマイラ、合成獣人ドリレオン。今ここに、誕生なのです!」
 バグが生み出した新たなキマイラの前に躍り出たフェリアス。
「ほーれネコジャラシだぞー」
「にゃっ!」
 思わず動いてしまった手を即座に腕組みし、ドリレオンが言う。
「い、今のは乗ってやっただけなんだからね!」
「皆集まったようだね」
 闇の中に煌々と灯る光を背に、バグが幹部達を見回す。
「遊びの時間は終わりだよ。そろそろ本腰を入れようか」
 これまでも、決して手を抜いていた訳ではない。しかし地球での活動時間制限も含め、予定通りに事が運んでいないのは事実。
 その苛立ちと達成への決意を化粧と笑みに隠しラドルが言う。
「首領殿と世界の為──地球のオーララウズを我らのものにしてみせますヨ」
「生命の再生。生と死の輪廻すらも超越する伝説の力‥‥それこそがオーララウズ!」
 フェリアスの言葉にバグは頷く。
「邪魔する者は蹴散らし、ただ無慈悲に搾取するんだ。その行いがどれだけ矛盾しようと間違っていようと。全ては全生命の再生の為に‥‥それが僕の、バグアバグの存在理由なのだから」
 バグが幹部達に背を向けると輝きは一層強まり、画面を白く塗りつぶす。光が消え、再び司令室へと場面が戻る。
「なんだかなぁ、俺の理解の範疇を超えてるわな。意味わからん」
「へぇ、オーララウズって、そんなことも出来ちまうのかぁ」
 アイナからバグアバグの目的を聞かされても時定はいつもと変わらず、紅狗は目的よりもオーララウズの力の方に感心があるようだ。
 その時、激しく机を叩く音が響き皆が振り向い驚いた。普段滅多に怒りを見せない多聞が拳を握り締め怒声を発する。
「今ある命を蔑ろにして何が再生だ‥‥! 勝手なことほざきやがって」
 ドクン、と。怒りに呼応し脈打つ力に胸を掴み崩れそうになるのをこらえる。
 同時に鳴ったアラームのおかげで皆に気づかれ無かったのを幸いと、笑顔をつくり三人を送り出す。
「言ったそばから奴らのお出ましか。地球を奴らの好きにさせるわけにいかないからな、皆行ってこい!」
「なんにしても、要はぶっ潰せばいいわけだ。目的なんざ二の次だぜ」
 最後に紅狗が出ていって扉が閉じた瞬間、多聞は中身の残っている酒瓶を捜し当て一気に呷る。
「まだだ――頼むからもう少しおとなしくしていてくれよ‥‥」
 体内で収まっていく躍動を感じながら、多聞はもう一度酒瓶を傾けた。


 リーゼントに尖ったサングラスをつけたトカゲキマイラが振るった鉄パイプはオーディの槍に跳ね飛ばされ、ヴァティのトランプ手裏剣にサングラスを割られ。本体はライラのキックに吹き飛ばされた。
「雑魚に用はねぇ」
「幹部はどこだ!」
「あそこ!」
 ヴァティが指す先を見てライラが言う。
「なんでぇ、またドリルかよ!」
「自分は、ドリレオン。貴様らに倒されたキマイラの怨念かもしれないんだからね!」
「その声は冥土キャット?」
 オーディが呟いた直後にドリレオンが言う。
「ふふ、覚えているぞ、貴様らへの想いが我が身を対ラウザー専用キマイラとして蘇らせた」
 ドリレオンの隣にいるフェリアスはいつものドレスではなく、幻装天鎧に良く似た鎧を装着している。
「この幻装魔鎧ダークネスーツの力の前には幻装天鎧など塵も積もって山より高い壁を超えられるのか私・・・・」
 いきなり諦めモードなのは重くて動きにくいからだ。
 収集したデータを元にした完璧なる再現。しかし肝心の中身――幻神の力が付与されていないのだ。
 疾走するドリレオンに三人が向かうが、紅狗だけが横をすり抜けてフェリアスへ駆けた。
「幻装魔鎧だぁ? んなパチもん、ぶっ壊してやる!」
「こうなればッ!」
 フェリアスは偽ラウズリングで巨大剣を作り出す。振り下ろされたそれは威力を発揮する事無く。
「お、折れたぁー!」
「くらえ、ライラキック!」
 いきなりの必殺技から繰り出される連続攻撃に幻装魔鎧が次々と砕け散る。
「オ・ノーレー!」
 欠けて軽くなったのを幸いと、左犬歯も欠けたズタボロのフェリアスは得意の逃げ足で何処かへ駆け去った。
「ま、こんなもんでしょうね」
 遠目にそれを確認し軽口を叩くラドルだが、胸には熱いものを秘めている。
 必ず目的を達しなくては。あの時守れなかったものの為に――。
 双眸が赤く輝くと肌が黒く染まり行き、全身は黒い甲冑に包まれた。
「俺が相手だぁぁ!」
 ラドルはドリレオンの爪をかわしたオーディ目掛け突撃する。
 オーディは槍の柄で拳を受けた。
「さぁ殺ろうか、ラドル。お互い似た者同士みてぇだしな‥‥!」
 言う間にも間合いを離さずさらに詰め寄るラドルの攻撃を穂先で二、三度払い、隙をついて鋭く突き入れる。
「望む所!」
 強い踏み込みで穂先を抜けて一気に間合いに入ると同時に繰り出されるラドルの正拳。跳んでかわしたオーディに、ブースターで迫ったラドルが高速で回し蹴りを放つ。
「くっ!」
 オーディは空中で体勢を立て直し着地する。さらにブーストを全開に地上へと滑るラドルが叫ぶ。
「ちっぽけな正義を掲げようと! 大義ある我らには勝てんのだ!」
「正義? 知らねぇよ。俺はな、俺の信念のために戦うだけだ!!」
 真に本気での討ち合い。見るものさえ息詰まるような熱戦が繰り広げられる。強敵と出会えた喜びを胸に二人は一旦間合いを取った。
「ラドル、俺はこの槍に誓おう。この命にかけても、俺の手で貴様を必ず貫くと」
 グングニルにかけて誓ったことは破ってはならない。それは自身の幻神との誓いでもあった。


 ドリレオンとの戦いにライラが戻ったその時、
「跳んで!」
 ヴァティの声にライラも逆側へ跳ぶ。そこに降り注いだメテオ弾は、余波で二人を弾き飛ばす程に威力を増していた。
「手加減していたとはいえ、かわすとは見上げたものだな」
 言葉とは裏腹に嘲るような声の主はナイアだった。
 ヴァティは前回肖像を見せた際のナイアの様子を思い出し、立体映像を投影して見せる。
「もう一度聞くけど、貴女‥‥」
「シ・ラ・ナいって言っただろう? ソンナ事も覚えていないのか」
 問いかけを遮った声には機械的な倍音が入り混じる。ミラーマスクから唯一覗く素顔の口元に艶やかな笑みを浮かべた。
「前にも言ったはずだ。知らない、と」
 両拳のクローを構えたナイアが地を蹴り、ヴァティのシャクティナックルがナイアのクローをトレースする。
「今回は盾になってくれるキマイラはいないのよ!」
 ヴァティが前方に跳んだ瞬間、
「行け、フォーマルハウト&アルビレオ!」
 ナイアの背から飛び出した双剣の直線の軌道をヴァティは難なくかわす。が、
「な!?」
「フォーマルハウト・ミラージュ!」
 ナイアの声を合図に、双剣はそれぞれ高速移動の残像により三本に分身し、意志を持って軌道を変えヴァティを爆発に包んだ。
 爆煙から現れたヴァティは、左腕の装甲が溶ける程の傷を受けていた。
「避けた筈なのに‥‥やるわね」
 ドリレオンとライラ、ラドルとオーディ、ナイアとヴァティという三つの戦いを上空から見ていたのはベリアルの翼を持つ青燈だ。
 首から提げた結晶を強く握り締める彼の脳裏に、過去の記憶が蘇る。
 それは青燈に向けて微笑む長い髪の女性の姿。常に近くにあるはずだったその命は打ち砕かれ、儚く消えた。
 失われた命さえも、再生させる力――。
「‥‥もう少しだ。待っててくれ、姉さん‥‥幻神天装!」
 急降下するベリアラウザーが目指すのはドリレオンと戦うライラだ。
「ベリア!? ぐっ――!」
 落下の勢いを乗せた強撃に弾き飛ばされたライラは空中で回転し、着地する。
「今日こそ、決着つけてやる。行くぞベリアァッ!」
 発光するライラグリーヴで初速からトップスピードで駆けてベリアと衝突した。
 ここ数回は自ら退く事の多かったベリアだが、今回は容赦ない斬撃を次々と浴びせる。
 ライラも一方的にやられていた初戦と違い、ベリアの剣をギリギリで見切りつつ鋭い蹴りを多方向から繰り出す。
「腕を上げたか橘。上司として誇らしいぞ?」
「今更上司ヅラすんなっ!」
 ベリアの言葉に逆上したライラは渾身の力を込めて放つが、それが大きな隙となる。身を沈めたベリアが軸足に放った水面蹴りでライラは転倒した。逃れようとするより早く、ベリアが身体を踏みつけた。
「迂闊だったな、単細胞」
 ベリアは外した首飾りをライラのグリーヴ――幻神が宿る位置に近づけた。
「うあああぁぁ!」
 グリーヴを中心に強い光が発せられ、伴う痛みにたまらず声を上げる。幻神天装を逆回ししたようにライラの幻装天鎧は赤いオーラへと変わり、ベリアが持つ結晶の中へと取り込まれた。
 同じ頃、ヴァティも窮地に立たされていた。
 身軽さを生かして猛攻を凌いではいたものの、装甲には無数の傷が生じている。
 ナイアの視界とリンクしその様子を見ていたバグは満足そうに口端を上げた。
「さすがラドル、調整はまずまずだね。ふふ、ラウザー7の亡霊達か」
 そんなバグの動きを知らず、ヴァティは辛うじて立ち上がる。
 体力的にも限界が近い。相手が仕掛けるのを待つヴァティだが、ナイアは動かない。
 糸が切れてしまった操り人形のように佇む彼女はゆっくりとマスクを取る。手にしたミラーマスクに映るその顔は――。
「そ‥‥んな‥‥貴女――」
 ヴァティの愕然とした声が零れ落ちた。


 ベリアは意識を失った紅狗の手足を透明な結晶を具現化し拘束すると、その肩に担ぎ上げた。
「大人しくしてろよ? ワンちゃん。――撤収する。残りは任せたぞ」
 後半の言葉を投げられたドリレオンは面白く無さそうに鼻を鳴らす。
「言われずともわかっている」
 紅狗の悲鳴で危機を察したオーディが、遠目に見た光景に反射的に駆け出した。
「紅狗!! 祠堂、貴様! 自分の部下に何をする気だ!?」
「貴様‥‥! また俺に背を向けるのかぁぁぁ!」
 ラドルの激昂に、彼の眼と口の紅い輝きが燃え盛る。好敵手と認めた相手だけに、自分との戦いを投げ出すオーディへの怒りは大きい。
 後を追って駆け出したラドルは足を止めた。オーディが向かった先、すなわちベリアの行く手に黒い光が空間を開くのが見えたからだ。
 光の中からバグの声が響く。
「うまく捕まえたみたいだね」
「中々の収穫だ。それなりに楽しめた」
 言って、ベリアはバグが開いたゲートの中に踏み込んだ。
「あの約束、忘れていないだろうな?」
 すれ違い様に囁くと、常に変わらぬ笑みを浮かべたバグの口元が映る。
「もちろん。君がちゃんと役割を果たしてくれていれば、ね」
 言って、バグはすっと手を動かした。何気ない動作のように見えたそれから放たれた衝撃が、ゲートに突入しようとしていたオーディを弾き飛ばす。
「閃光拳‥‥だと!? お前は一体‥‥」
 吹き飛ばされ派手に地面を転がったオーディが身体を起こし見たものは、ドリレオンの鬣を形作る全てのドリルが一つの巨大ドリルへと融合する様だった。
 ドリレオンの中に残されたモグドリルと冥土キャットがラウズブレイバーに倒された時の断片的な記憶がフラッシュバックする。
「この無念、この怒り、思い知れ! バニシングドリル!!」
 発射されたドリルは高速回転で旋風を纏い、オーディとヴァティを巻き込んで大爆発を起こす。
 抉り取られた地面に二人が落下する。幻装天鎧も解け、立ち上がろうにも動けない二人をドリレオンはせせら笑う。
「この程度なら、殺す必要すらない。生かしてあげる。だからもっと強くなると良い。この手に完全なる力を。その礎になるために――」
 背を向けゲートへと向かうドリレオンに、ナイアを連れたラドルも続く。途中、時定の横を通るが見向きもせず。
「己を賭した戦いの最中に敵に背を向けるとは‥‥貴様もその程度の男か。我らが新世界を築くのを指をくわえて見ているがいい」
 それだけ言い残して閉じゆくゲートの中へ姿を消した。



黒木時定(オーディ)/如月(ga4636
アイナ(ヴァティ)/鬼道・麗那(gb1939
橘紅狗(ライラ)/フーノ・タチバナ(gb8011
原嶋多聞/桂木穣治(gb5595

フェリアス/フェリア(ga9011
ラドル/ドッグ・ラブラード(gb2486
ドリレオン/白蓮(gb8102
ヴァーミリオン・ナイア/伊達 士(gb8462
祠堂青燈(ベリア)/CHAOS(gb9428
バグ トカゲキマイラ(二役)/日下部 司(gc0551