●リプレイ本文
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闇の中に強く輝きを放つ光の前に、一人立つ者がいる。彼は近付く足音達を振り向いた。白を基調としたスーツに身を包んでいるように見えるが、背にした光が強く明確な姿は確認できない。
「ヴァーミリオン・ナイア、報告を」
「はい、大首領バグ様。オーララウズの回収中、強い力を持つ者達に妨害されました」
男の声に命じられ、口元以外を覆うフルミラーのマスクをつけた女が経緯を詳細に伝える。
エナメルとレザーのプロテクター付きスーツにサイハイ・ブーツ、ロンググローブを身につけ、黒一色の中で紅のロングマフラーが目を惹く。
「ふむ‥‥幻装天鎧に幻神ですか。地球はコーヒーが苦いだけじゃなかったんですな、BOSS」
闇の端から聞こえた声。弱光が、使い終わった包帯を巻く手元とサルビアブルーのドレスを浮かび上がらせている。
雷鳴が鳴ったと思うと、バグは瞬時に白黒のピエロ装束に身を包んだ男の前に移動していた。ぐっと近づけた顔の、笑顔を張り付けた口元だけが画面に映る。
「ねぇ、ラドル。その人間達は強かった?」
「彼らは人間とは思えぬ力でネ。おかげで私もこのザマ」
包帯を巻いた両腕を上げておどけてみせるが、白塗りの化粧を施した顔に宿る双眸は強い敵意を漲らせている。何時にも増して饒舌なのも、それを隠さんとするためだ。
「‥‥今後、彼らは我々の野望の壁となるでしょう」
「そのような壁、この双尖肩で砕いてくれるわ!」
機械的な声と闇に煌めくドリルの先端を見て、バグは小さく笑った。
「頼もしいね。じゃあ早速行ってもらおうかな」
「──! オーララウズ脈が見つかったのか!?」
食いついたのは背に三対の翼持つ青年、祠堂青燈だ。首に提げたラウズライトによく似た結晶が光を反射する。
ラドル達と共に訪れてから初めて反応を示した彼にバグは言う。
「やる気があるのは良いことだ。それじゃあ回収の方は任せたよ。ああ、ラドルは程々にね。一番深手を負ってたんだから、回収に専念して」
「承知、しましたヨ‥‥首領どの‥‥」
密かに両の拳を握りしめ。納得行かない様子ながらも返事をするラドルの声を聞き、バグは雷鳴と共に巻き起こった雷渦と共に何処かへ姿を消した。
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「よく来たな! 俺がこの部隊を率いる事になった原嶋多聞だ。階級は少将、役職は特殊部隊統括。よろしく頼むぜ」
司令室に集まった皆に告げたのは三十歳半ばの男性将校だ。
「まあ隊長とは言っても俺自身は変身できねえしなぁ。せいぜいがココからの指示やら応援するぐらいだな。黄色い声は出ないけどよ」
快活に笑う多聞に促され、若い青年が自己紹介する。
「俺は橘紅狗。階級は少尉。第八部隊所属‥‥だった」
それを聞いて、紅狗より少し年上の男が眉を上げた。
「第八部隊‥‥隊長の祠堂がバグアバグに寝返ったってのは、本当か?」
「ああ‥‥」
紅狗の内に信頼を裏切られた痛みが蘇った。それを悟って追求はせず、男が名乗る。
「黒木時定大尉‥‥いや、また中慰になったのか。元は第四部隊の隊長やってた」
「あんた、その軍服‥‥噂通りなんだな第四部隊は」
紅狗が呆れ半分に時定を見た。黒の改造軍服の背には『悪即斬』と銀糸刺繍が施されている。功績と軍紀違反の天秤で昇進降格を繰り返しているのだ。
「ま、細かい事は気にするな」
笑い飛ばす多聞も士官服を着崩している。こちらも優秀ながら態度や言動が災いしての異動である。
「で、そちらのお嬢ちゃんは?」
壁にもたれていた白いジャケットとマイクロミニ姿の少女は身を起こす。多聞と時定に歩み寄るとホログラムの女性を見せた。
「アナタ達、この女を知らない? ‥‥そう、知らないなら結構。失礼」
出ていこうとするアイナを多聞が止める
「おいおい、いきなり隊長を困らせるなよ」
「──っ! 酒臭い‥‥」
「そりゃあ、今朝も迎え酒だったからなぁ」
カラカラと笑う多聞を押し退けて、少女は指令室の自動扉の前に立ち振り返る。
「私一人の方がマシ。今までだって一人で戦ってきたの。好きにさせて貰うよ」
「おい、アイナ!」
紅狗の呼び掛けに振り返ることもなく、アイナは指令室を出る。
「一人で戦ってきたって、どういう事だ?」
時定が呟くが、紅狗は怒りを露わにする。
「勝手な事ばかり言いやがって‥‥!」
突如室内に響くアラームに多聞が言う。
「早速、敵さんのお出ましか。二人になっちまったが、部隊としての初出動だ! 気張って行けよ。怪我したら許さんからな」
「了解! 出動だァッ!」
勇んで飛び出す紅狗に時定も続く。その頃アイナは自身のバイクで基地を後にしていた。
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バグアバグが現れたのは港湾工業地帯だ。
奥地へと駆けていった二人は、オーララウズをラウズライトに結晶化させるラドルの姿を捉えた。
「見つけたぞ、バグアバグ!」
紅狗の声に、ラドルは芝居掛かった仕草で振り向き一礼して見せる。
「これはこれは、お久しぶりですね‥‥と、そちらの方はどちらさまで?」
視線を向けられた時定は身構え言い放つ。
「地球の害悪‥‥即ちお前達を斬りに来た男だ」
「てめぇらの野望なんざ打ち砕いてやるぜ。幻神天装!」
紅狗の声に、足の爪先──幻神を宿した位置から発した赤い光は、狙った獲物を絶対に逃がさない運命の猟犬ライラプスの姿を浮かび上がらせた。そのオーラは赤いリンドヴルムにアヌビスの頭部を持つ装甲を作り出していく。
「悪を見つけりゃ捕らえて砕く。ライララウザー、参上!」
時定の幻神天装の声に応じ、彼の右腕から黒い光が発生する。北欧の戦神オーディンの姿を顕したオーラは、黒の破曉に洋風の全身鎧を思わせるデザインを組み合わせた装甲で彼を包んだ。
「手にする槍は神の正義、オーディラウザー推参! 神槍グングニルの威力を見よ!」
槍を手に地を蹴ったオーディの一撃を、ラドルはひらりとかわす。
「おっと。今日はご遠慮しますヨ。他に優秀な人がいることですし‥‥チョッピリ不安ですが」
参戦出来ない事に対する不満が滲むその言葉を待っていたかのように、下がったラドルと入れ替わって前に出た尖った影。
両肩にそびえる一対の大型ドリルを背負った巨漢――いやモグラ男、だった。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそは強者を求めし者、土竜獣人モグドリルっ」
ラウザーの二人を指した指先も、十本すべてがドリルとなっている。
「ドリルと比べられる物など、この世に無いっ。D(ドリル)ミサイル!」
指先から発射された小型ドリルをオーディは槍を回転させ弾き。ライラは爪先から脛までを覆うグリーヴ、ライラキッカーの跳躍でかわしながら言う。
「バグアバグのキマイラか‥‥奇襲せず正々堂々とはいい度胸だ。そのドリル愛、俺が試してやる!」
ライラが着地と同時にモグドリルへ駆ける。
「きゃああぁぁ!」
突如聞こえたのは幼い少女の悲鳴。積まれたコンテナの影から走り出たのは、サルビアブルーのドレスに黒いコートを羽織った少女。トカゲ人間のキマイラに追われている。
悲鳴とその光景が、オーディの過去の傷を抉る。
「止めろぉ!」
オーディはなりふり構わず少女とキマイラの間に滑り込む。振り下ろした槍の一閃が、キマイラを倒した。刹那、
「悪い奴らは天使の顔して心で爪を磨いでる物と、相場が決まっているのですよッ!」
「ぐっ」
オーディの肩で小爆発が起こる。振り向いた彼の目の前で、救った少女は3mの長刀二振りを構え後方に跳んで間合いを取った。
「私はバグアバグ幹部‥‥暗黒闘士フェリアスッ!」
一気に間合いを詰めたフェリアスが振るう国士無双を柄で受け止めるが、その隙にもう一刀がオーディを襲う。
ライラが助走をつけて跳び上がると、ライラキッカーが赤い光を放つ。
「ライラキック!」
「FDB(ファイナルドリルブレイク)!」
肩の大型ドリルを両手に装着したモグドリルとの間に激しい火花が散り、ライラキックの威力は相殺された。
「くっ、やるじゃないか」
「刺し、抉り、貫くっ それがFDBの力だっ」
モグドリルが誇らしげにドリルを掲げたその時だった。
「‥‥ハッ、隊長!? いや、ベリアラウザー! そこを動くなよ!?」
ライラはモグドリルを置きざりに駆け出す。青燈もライラの姿を見つけ、幻神へと呼びかけた。
「幻神天装‥‥!」
青燈の肩胛骨から青いオーラが広がり、堕天使ベリアルの姿を顕した。アンジェリカカラーのディアブロ装甲のマスクから、脛まで伸びた髪が広がる。
「‥‥天を穿つ堕翼の双刃、ベリアラウザー‥‥」
三対の翼の一対を双剣ドミニオンエッジに変え、逆手に構えたそれでライラの蹴りの連撃を防いでいく。
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「幻装天鎧のデータは取れたので後はナッちゃんにお任せ! 光の速さで一足お先!」
オーディと戦っていたフェリアスは、言い終わらない内に脱兎の如く戦線離脱。代わりにオーディの前に現れたのは、
「我が名、闇の焔、ヴァーミリオン。オーディラウザーよ! バグアバグの力を知れ!」
「ちぃ! やり辛い!」
オーディの突きを素早くかいくぐって繰り出されるクローの攻撃は、槍の間合いとは相性が悪い。
戦いを傍観しているモグドリルに、ラドルが言う。
「君、モグラなら地面から奇襲かけるとかサ‥‥」
「我がドリルを土で汚すなど言語道断っ」
モグドリルが見つめる先、ライラも蹴りの悉くが防がれ苦戦していた。
「くそっ、ライラキック!」
「‥‥神風」
「何っ!?」
蹴り抜いたのは残像だった。ベリアは無数の残像を残しながらライラを刻む。
「うわあっ!」
ベリアが双剣を合わせると、それは一振りの大剣となる。
「迷いのある攻撃で俺が倒せると思うな──ラグナロク!」
「お前達個々の力など、恐るるに足らん! 喰らえ、ナイトメア・プロミネンス!」
ベリアの衝撃波纏う斬撃と、ヴァーミリオンが抜き放った剣、フォーマルハウトから繰り出されるフレア弾と上空から降り注ぐ火焔がライラとオーディを襲う。
煙が晴れ、地に膝をついた二人にベリアが言い放つ。
「同胞も守れぬ者に人類を救うなど絵空事だ」
彼は双剣を翼へ戻し舞い上がる。
「お前達の英雄ごっこに付き合うのは終わりだ‥‥俺の使命は別にある」
ベリアが飛び去るのを見て、進み出ようとしたモグドリルの足下に、上から飛来したカードが突き立つ。
「お遊びは此処までよ! 幻神天装!」
コンテナの上から飛び降りたアイナの頭部から白い光が放たれる。弁財天サラスヴァティが与える力が、背光を思わせるリングを背負った白い装甲へ変わる。
「その力貰ったわ」
ヴァティのシャクティナックルがドリルへと姿を変えた。ヴァーミリオンに向けて繰り出すドリルと、それを受け攻撃するクローとの激しい応酬が続く。
その間にライラとオーディが体勢を立て直す。
「くそっ、敵対してまで隊長に教わるとはな‥‥」
「バカやったな‥‥まぁ今から取り返すか!」
ヴァティのドリルを見、モグドリルは怒りに任せて突進する。
「おのれ、我が唯一無二のドリルを真似るとは!」
「俺が相手だっ!」
ライラがその行く手を塞ぐ。
空中に飛び上がったオーディは詠唱を始める。言葉が紡がれるに従い、槍を握った右腕の光が強くなっていく。
「汝己が身の罪を知れ。我は神の代行者。我が友オーディンの名に代わり汝を断罪せし者なり‥‥」
その間、ヴァティはドリルを解いてオーラを打ち込む光の拳を放つ。
「魂よ燃えろ‥‥必殺閃光拳!」
「ライラキック!」
ヴァティとライラの攻撃によりモグドリルとヴァーミリオンが同じ位置に吹き飛ばされたのは偶然ではなかった。「ザドキエル!」
オーディの投じたグングニルが一条の光となってその場所に爆発を巻き起こす。
「く‥‥」
煙の中からよろめき出たヴァーミリオンをラドルが迎える。
「オヤオヤ、大丈夫ですか? ‥‥綺麗なお顔に傷でもついたら大変ダ」
そう言いながら傷を受けた彼女の身体は気にした様子もなく、ミラーマスクを確認する。傷が無いのを確認してから、軽くマスクをつつく。
「触レ、ルナ‥‥ッ」
ヴァーミリオンが機械仕掛けの動作で手を払いのけると、ラドルは納得した様子で頷いた。
「ん、問題なし。ですかね? 地球での活動限界も近いですし‥‥モグラ君、帰りますよ」
ラドルとヴァーミリオンは闇に溶けるように姿を消した。
「否っ、このドリルに賭けて勝つっ」
一人残り、満身創痍ながら双肩のドリルを腕に装着するモグドリル。
「はっ! まだバテてないだろうな!?」
オーディが言うと、ライラが拳を握る。
「おうよ! 運命は、俺を導いている!」
二人の幻想天鎧からオーラが立ち昇った。
「十字を切って己の罪を悔いなさいな‥‥」
モグドリルに言うヴァティからも。三色のオーラが生み出したラウズリングを三人が握る。
「ラウズユニゾン!」
声と共にリングは巨大剣へと姿を変えた。
「うおお、FDB!!!」
モグドリルは残る全ての力をドリルに乗せて突進する。
「ブレイソォォオオオオドッ!」
ライラの声と共に、巨大剣の刃とドリルが交錯した。
「ふふふっ、はーはっははっ。汝ら強者なり〜っ」
爆発するモグドリルに背を向け、サムズアップしたヴァティが言う。
「カッコイイとはこういう事よ」
「あーんモグ様が死んだー! くすんドリル薄命だー! とかいってないでっと」
唐突に現れたフェリアスが、モグドリルの残骸ドリルを素早く拾い去っていく。
「さらばだスーパーヒーロー達よ! 来週もお楽しみなのです!」
幻装を解いた三人は呆気にとられて見送ったが、気を取り直して時定が言う。
「任務完了、基地に戻るか」
「仲良し倶楽部に入るつもりはないよ」
アイナはバイクに跨り、仲間を案じる心を押し隠して走り去った。
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研究室にいる多聞はよれて汚れた白衣で二人を迎えた。「‥‥ま、ともあれ初陣を勝利で飾れて何よりだ」
戦功よりも皆無事で戦いを終えた事が喜ばしいのだが、気恥ずかしさから表に出すことはない。
「幻装戦隊、悪くない。また楽しくなりそうだ」
多聞と杯を交わし時定が呟くと、紅狗が駆け込んで来た。モニターを点けTV放送に切替える。
「おい、これ見てくれ」
「アイナです、私のデビュー曲『ミラージュ』を聞いてください!」
歌番組に出演しているアイナを見、多聞と時定が酒を噴いた。
アイナが歌うED曲にテロップが流れる。
黒木時定(オーディ)/如月(
ga4636)
アイナ(ヴァティ)/鬼道・麗那(
gb1939)
橘紅狗(ライラ)/フーノ・タチバナ(
gb8011)
原嶋多聞/桂木穣治(
gb5595)
フェリアス/フェリア(
ga9011)
ラドル/ドッグ・ラブラード(
gb2486)
モグドリル/白蓮(
gb8102)
ヴァーミリオン・ナイア/伊達 士(
gb8462)
祠堂青燈(ベリア)/CHAOS(
gb9428)
バグ、トカゲキマイラ/日下部 司(
gc0551)