タイトル:【LC】とらとらとらマスター:きっこ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/24 13:14

●オープニング本文



 UPC本部内の隅っこにある一室。
『UPC総合対策部 ご自由にどうぞ』
 まんまるっちぃ字が書かれているのはアヌビスをディフォルメしたウェルカムボードだ。
「失礼します〜、少尉はいらっしゃいますかぁ?」
 ノックし扉を開けたのは、オペレーターの小野路綾音である。
 彼女に対して返事を返す者はなく、小ぢんまりとした室内には誰も居なかった。
 室内に一つだけの机に歩み寄ると、開きっぱなしのノートが目に留まる。可愛らしいカエルのキャラクターが満載のファンシーノートには、ウェルカムボードと同じ丸い文字が書き連ねてある。


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 私、流風・アイゼリア・シャルトローゼ少尉は、甘味大博覧会の護衛のお仕事に行ってきました。
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 名前の通り、おいしそうなスイーツがたっくさん並んでいる素敵なイベントです。
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 それなのに、ブースの中にスイーツの姿をしたキメラが紛れ込んでいたのでびっくり! 
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 傭兵の皆さんと協力して来場者を避難させ、キメラを掃討。イベントも無事に再開できました。
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 何とその時の主催者さんからまたご招待をいただきました。張り切って行ってきます!
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「そうですかぁ、少尉は新年早々お仕事だったんですねぇ。お疲れ様です〜」
 綾音はその場に流風がいるかのように微笑むと、そっと部屋を後にした。


 その流風は、山間の湖畔に来ていた。
 日本は今時期、冬真っ只中である。山間の湖畔と言えば、山から吹き降ろす風が遮るもののない湖上を駆け抜け。その寒さたるや中々のものだ。
「ラスト・ホープは年中暖かいけど、やっぱりこういう方が冬って感じでいいよね、雨康?」
 パイプ椅子に腰掛けた流風は、目の前の椅子に腰掛けているものに微笑みかけた。そこには誰もおらず‥‥少し視線を下げると15cm程のぷちリアルなカエルのマスコットが鎮座している。
 天幕を風が煽っているが、ヒーターが置かれたテントの中は暖かい。
「流風さん、お疲れ様ですー!」
 入口から中に入って来たのは、暖かそうなダウンコートに身を包んだ若い女性だ。彼女は日本を中心に多岐に渡って企業展開しているグループのファンシー部門広報担当である。
「いやー、流風さんが来てくれておお助かりです! 何しろ大きい人だと駄目なもので。おかげで『とらぴょん』は大人気ですよー! あ、はいこれ差し入れです!」
「あ、どうもあり‥‥」
 流風が湯気の昇る紙コップを受け取り、礼も言い終わらないうちに広報嬢は再び話し始める。
「それで、そろそろ二回目のイベントが始まりますので! それを飲み終わっちゃったらスタンバイお願いしますねー!」
「は、はいっ」
 流風はカップに数回息を吹きかけ、極力急いで飲み進める。
(「あ、甘くて温かくて美味しい」)
 飲み終わった流風は脇に置いてあった黄色くて黒くてもふもふしたものに手足と身体を入れ、胴体と繋がった大き目の頭部に頭を入れると、広報嬢に背中のチャックを閉めてもらう。
 テントから出てきたのは、虎のきぐるみ‥‥のように見えて、微妙に違う。
 何が違うかというと、耳はぴょんと長く尾もふさふさと丸い。しかし笑顔に開かれた口に生えた牙や指先の爪。身体の模様は紛れも無く虎である。
 それがファンシー部門の新キャラクター『とらぴょん』なのだ。
 流風は司会進行のお姉さんが呼ぶのに合わせて、両手を挙げて手を振りながら集まった子供達の前に駆けていく。
 今、湖上は完全に凍っており、大小様々な氷像が展示された『湖氷まつり』の会場となっている。『うさぴょん』を生んだグループがスポンサーとなっており、その中に入るはずだったスタッフが高熱を出した。そのため流風が代役を買って出たのだった。
「あれあれー? とらぴょん、どうしたのかなー?」
 お姉さんの言葉通り、とらぴょんに異変が起こった。ふらふらとした千鳥足でステージとは逆方向に向かっていく。
(「あ、あれ‥‥なんだろ? なんだか眼が回る、ような‥‥?」)
 顔が熱い上に外の景色がうねうねと歪んで見える。しかも、自分以外にとらぴょんが沢山見えるような‥‥。
(「あ、そうかぁ。とらぴょんの代わりの人が来てくれたのかな‥‥」)
 のどかな流風の脳内とは裏腹に、会場にいた人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。沢山のとらぴょんに喜んで駆け寄った子供が、とらぴょんの中に取り込まれたのだ。
 スタッフ達が来場者を避難させる中、広報嬢は群れるとらぴょんを遠巻きに眺める。
「えー、流風さんはどこにいっちゃったのー!?」
 その流風は、というと――。
(「わぁー皆の喜ぶ声が聞こえるかも‥‥私も他のとらぴょんに負けないように頑張らないとっ」)
 大量のとらぴょんに混ざって逃げる人を追いかけていた。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
リュウナ・セルフィン(gb4746
12歳・♀・SN
東青 龍牙(gb5019
16歳・♀・EP
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
ブロンズ(gb9972
21歳・♂・EL

●リプレイ本文


 イベント会場の端、一時避難所となっている施設の中に白衣の男が現れた。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜。このイベントの責任者は何処かね?」
 私設異種生物対策研究所所長、ドクター・ウェスト(ga0241)その人である。
「なにぃ! 子供が取り込まれているだと!」
 関係者の話を聞いたドクターの怒声が響く。激昂のままに覚醒したその両眼は強い輝きを放った。自らの良心を繋ぎ留めている十字架のネックレスは、この依頼に発つ前に外している。
「とにかく、巻き込まれてる人を保護するのが最優先ですね」
 狭霧 雷(ga6900)の言葉に、エイミ・シーン(gb9420)も考え頷く。
「そう‥‥ですね。取り込まれた子供達は危険なので‥‥」
 しかし、単身キメラの群内にいる流風に危険が全く無いわけではない。結果、雷と菱美 雫(ga7479)が流風の捜索に、残りの皆で子供の救出に当たる事となった。
 弓亜 石榴(ga0468)はその作戦に笑顔を覗かせる。
「流風さんを保護してくれる人がいるなら、私はサボ‥‥」
 言い掛けた瞬間にドクターの殺人ビーム的眼光を受けて、石榴はさっと視線を逸らす。
「他のとらぴょんを片づけようかなー」
 湖上では相変わらず虎だか兎だか判然としない三頭身がひしめいていた。それらを前に、東青 龍牙(gb5019)が勇ましく名乗りを上げる。
「東青龍牙! 青龍神様の命により! ヌイグルミ型キメラの排除、及び流風少尉と取り込まれた子供達を救出します!」
「にゃー! リュウナ・セルフィン! 黒龍神の命により! モフモフ‥‥じゃなかった、キメラの撃退とキメラに取り込まれた子達の救出をするなり!」
 それに続いたリュウナ・セルフィン(gb4746)は動物等の毛の生えたものには目がない。瞳を輝かせるリュウナに向き直った龍牙が、彼女に防寒マフラーを巻きつつ言う。
「リュウナ様? ちゃんとマフラーを着けないと風邪をひいてしまいます。あと、相手がモフモフだからってモフモフしてはいけませんよ?」
「と‥‥とらぴょん‥‥? み、見た目は可愛いですけど‥‥あ、あれ、キメラ‥‥なんですよね‥‥?」
 いろんな意味で圧倒的な光景に、雫が思わず目を瞬かせる。
 そんな外見で、もきゅもきゅと愛くるしい声を出していようと人を襲う。その中に同じ外見の流風が紛れているのだ。
 エイミは群れに視線を走らせるが、どれも全く同じに見える。
「スタッフの方々に聞いてみましたけど、気づいた時にはもう少尉は群れの中に呑まれていたそうで‥‥巻き込まれた辺りを聞けたら良かったんですけど」
「少尉は万一取り込まれていても多少は保つだろうが、一般人が取り込まれたら流石に危ないか。急いで助けないとな‥‥」
 ブロンズ(gb9972)は、返事を返さないエイミの雰囲気がいつもと違う事に気がついた。彼女自身も気づかぬうちに呟きを漏らす。
「‥‥無事救わないと、子供達と少尉は、絶対助けないと」
(エイミ‥‥? あまり無茶しないといいが‥‥)
 その後ろ姿に不安を覚えながら、ブロンズは彼女に続いて足を踏み出した。


 湖上への進入者を察知したとらぴょん達は、こちらめがけて一斉に駆け出してくる。
 それに向けてエイミは、どこかにいるであろう流風めがけて叫ぶ。
「流風少尉、何をしてますか! しっかりなさい!」
 凛と叱りつけた声に、反応は返らない。エイミは思わず苦笑を零す。
「むぅ、やっぱりダメ‥‥か」
 日頃から何かと上官に叱られる機会の多い流風の事、もしかしたら反応があるかと思ったのだが。聞こえていないのだろうか。
「と、とにかく‥‥流風少尉を探し出さないと‥‥!」
 雫は超機械ζを持つ手に力を込める。
 キメラを討伐するにしても、下手に攻撃をしては流風を巻き込んでしまう。
「流風さん! 聞こえていたら返事をしてください!!」
「少尉、どこですか‥‥っ!」
 雷と雫は流風に呼び掛けながら群れの奥へと踏み込んでいく。
「それにしても数が多いなー。囲まれないように気をつけないと──っ!」
 石榴は後ろから襲ってきたとらぴょんを半身にかわしたが、横に迫るもう一体が両手を広げて吼えた。
「きゅうぅぅん!」
「わっ、何コレ!?」
 とらぴょんの発する音が、痛みを伴い身の内に反響する。
「電波による攻撃のようだね〜。因みに君の周りにいる五体は全てキメラだ」
 ドクターだけでなく、皆、雪球や氷の欠片をとらぴょんめがけて投げつけてFFの発動でキメラである事を確認しているのだ。
「今すぐ‥‥子供達を返しなさい!!」
 エイミが叫ぶと同時に、解けて風に舞った髪は金色に変わった。感情をコントロールできず単身群れの中心へと突っ込んで行く。
 中に子供が取り込まれているか否か、外見からでは全く判別がつかない。
 気づけば四方を囲まれ、引き倒されると同時にねっとりとした不快な感触が全身を包む。ブロンズの声が聞こえた気がしたが、闇に閉ざされ音も振動も伝わらない。
「エイミ!」
 ブロンズは機械剣αを構え、エイミを取り込んだとらぴょんの背に備わったチャックを引き下ろした。
「キシャアアァァ!」
 不気味な声と節くれ立った数本の足が中から飛び出してきた。足先の鋭い爪に肩を裂かれながらも、中心──長い足の結合部に光刃をねじ込む。
 チャックの奥から出てきたモノは破裂し粉々に散る。直後、
「もきゅっ!?」
 悲鳴(?)をあげるとらぴょんの腹を機械剣βが内側から斬り裂き、その切目からエイミが飛び出して来る。
「ごめん」
 体勢を立て直しながら短く言うエイミは通常の覚醒状態に戻っていた。その間のフォローに入っていたブロンズが答える。
「油断しすぎなんだよ、あんまり無茶はするな」
「あの中、消化袋みたいになってて‥‥しかも外から見るより広く感じた」
 その証拠に、エイミの皮膚も僅かではあるが薬品で焼けたような痕がある。
「外見から判断がつかないのはそのためという訳か」
 舌打ちするドクターに、石榴が言う。
「じゃ、チャック開けたらそっから助けられないかな?」
 石榴は自らを捕らえようと駆け寄るとらぴょんに向けたビーチパラソルを開く。
 視界を遮られたとらぴょんが一瞬足を止めた隙に素早く背後を取り、チャックを下ろす。パラソルの柄に仕込まれた刀を抜き放ち、出てきた中身(?)を仕留める。
「こいつさえぶった切ればきぐるみは抜け殻でしょ」
 チャックを押し広げて中を確認するが、そこは浅く終わっており消化袋と繋がってはいないようだ。しかも、
「って、こいつまだ動いてんの!?」
 動きは鈍くなったものの、とらぴょんは不自然な動きで石榴に襲いかかってくる。
「早く子供達を助けないと──っ! リュウナ様!!」
 龍牙の声に振り向いたリュウナは、一体の腹部に呑み込まれた。
 変に外から攻撃してリュウナの身にどんな影響があるか知れない。龍牙は自身障壁と紅炎の槍イグニートを駆使し、周囲のとらぴょんを退けながらリュウナが自ら脱するを待つ。
 数分にも感じられる数秒の後、リュウナはアーミーナイフ片手にとらぴょんの腹を破り外界へと逃れてきた。
「大丈夫です、必ず助けます!」
 覚醒し、大人びた口調となったリュウナのもう一方の手には幼い少年が抱えられている。
「リュウナ様、さがってください! やあっ!!」
 龍牙はリュウナが脱した後のとらぴょんを目に留まらぬほどの突きで貫いた。
 ブロンズと戦闘中のとらぴょんの、背後に回り込んだドクターがチャックを下ろす。
「む、コレの中身は不在なのか?」
 様子を見ても反応の無いチャック内上部を、伝統のメス型シルバーナイフで横に裂く。
「もきゅーん!」
 痛みを訴えるとらぴょんの背から液体が流れ出し、垂れ下がった内膜の奥に捕らわれた子供の姿が見えた。
 ドクターが子供を一気に引き出す。直後、とらぴょん内部の後頭部辺りから軋む声を上げて中身が這いだしてくる。奪われた餌を取り戻そうとする長足から抱えた子供を護りながらドクターが皆に言う。
「消化袋を使用している間、中身は頭部に移動している可能性がある! 片っ端からキメラのチャックを開けてみるのだ」
 

「これは──違う‥‥!」
 雫は襲い来る中身は倒し、動きの鈍った外側だけを残して次のキメラを求め身を翻す。
 その眼前に迫ろうとしていたとらぴょんとの間に、白き竜人と化した雷の背が割り込んだ。振り下ろされたパンチを受け流し、回り込んでチャックを開ける。
 隙間から鋭く突き出された爪を白銀の篭手「白竜」で受け、もう一方の手で掴んだそれを引きずり出す。
 高足蟹か足長蜘蛛のような姿のそれは以外と大きく、足を広げれば2m近くまであるだろう。その姿を晒したのも一瞬、雷の拳による一撃に破裂した。
 二人は子供が囚われているとらぴょんを探すのと平行して、FFを持たないとらぴょん──流風を探していた。
「大丈夫か、しっかりしろ!」
 近くで少女を助け出したブロンズの声が聞こえる。雫は駆け寄って少女の傷の具合を診る。
「‥‥このくらいなら、そう痕は残らないはず‥‥」
 錬成治療により傷を癒し、ブロンズを避難所へ送り出す。その後を追おうとしたとらぴょん達の行く手をエイミと石榴が塞いだ。
「早くその子を!」
「こっから先は行かせないよ!」
 その時、群れの奥からドクターの声が聞こえた。
「ルカ君を発見したぞ〜! 今ペイント弾でマークを──」
 言っている傍から、彼の眼前をペイント済とらぴょんがよぎる。リュウナと龍牙が驚き振り返った。
「え、キメラの方にペイント弾で‥‥」
「目印を付けるんじゃ無かったでしたっけ‥‥?」
「な、なんと‥‥!」
 脱力するドクターの口から、昇天する魂が見える。流風は他の印付きとらぴょんに紛れてしまっていた。
「それでも‥‥ある程度目星はつけられますね‥‥」
「ええ。ペイントされていて、チャックの開いていないものを調べていきましょう」
 雫と雷はペイントされたとらぴょんに狙いを絞りチャックを開けていく。
「中身がいない‥‥狭霧さん‥‥!」
 雫に呼ばれ、雷がアーミーナイフで消化袋を斬り裂くと、その奥に見えたのは黄と黒の毛。それを掴んで引きずり出すが、出てきたとらぴょんは僅かも動かない。
「少尉‥‥っ。偽者は‥‥さっさと、どっかに行って下さい‥‥!」
 雫はチャックから出てきた中身を外側もろとも超機械の電磁波を浴びせ、雷と流風を護る。
 中から出てきた流風はぐったりと動かない。
「──! 流風さんっ」
 彼女を両の腕に抱え上げた雷は、安堵の息を漏らす。流風はぐっすりと熟睡していたのだった。
 流風が無事に保護された頃、行方不明となっていた子供五人も全て救出を終えていた。
「さてと‥‥救出も完了したし、後はキメラを殲滅するだけか‥‥」
 ブロンズが手にした大鎌「アズラエル」は紅い光を放つ。
 ドクターも錬成強化で皆を、電波増幅で自らの力を底上げしながらエネルギーガンを構えて笑う。
「けひゃひゃ、これで思う存分データが取れるというものだね〜」
「よくも子供達と少尉をいじめてくれましたね!」
 エイミの機械本「ダンダリオン」と「ザフィエル」による範囲攻撃に怯んだとらぴょん達を、ブロンズのアズラエルが大きく薙払う。
「いいなこの武器、なかなかしっくりくる。気分は死神‥‥か、悪くない」
 雫も錬成強化と錬成治療で皆を援護し、流風を施設内へ安置してきた雷も加わる。
 キメラ自体は外側も中身もさしたる強さはなく、無事にとらぴょんの群れは討伐されたのであった。



「寒いなり〜」
「寒いですね、リュウナ様♪」
 リュウナと龍牙は急いで施設に駆け込む。
「とらのきぐるみねー‥‥まさか他にも、ねずみんとかうっしーとかいう名前で十二支全部揃ってたりして」
 溶けかかったとらぴょんのきぐるみを棒でつつく石榴に、広報嬢が詰め寄り熱弁する。
「とらぴょんはとらじゃありません! とらの勇ましさとうさぎの愛らしさを兼ね備えた‥‥」
 流風が保護されたのは奥の一室だった。
「んあっ、ごめんなさい谷崎中尉っ!?」
 叫び声を上げて跳ね起きた流風が最初に見たのは、驚いた雫の顔だった。
「あ、あれ‥‥雫さん? 狭霧さんにエイミさんも‥‥どうして??」
「どうしたもこうしたもありませんわ! わたくし、心配していましたのよ!?」
「ご、ごめんなさい‥‥?」
 いつもと口調の違うエイミにさらに混乱する流風に、雷が経緯を説明する。
「じゃあ、あのたくさんのとらぴょんはキメラだったんですか!?」
「君が酔っている間、君の目の前でノーマル(一般人)が被害に遭っている。能力者としての自覚はあるかね?」
 じろりとドクターに睨まれ、流風はしょんぼりうなだれた。
「‥‥ごめんなさい‥‥」
「まぁまぁ‥‥流風さんはきぐるみを着た状態でキメラと戦った、と言う事で‥‥」
 雷が微笑むのとほぼ同時に広報嬢が走り寄ってくる。
「流風さーん! 具合が悪くなっていたのに、倒れるまでキメラと戦ってくれるなんて、私感激ですー!!」
 どうやら関係者には、雷がそのように報告したらしい。「ふん。甘やかすのは彼女の為にならんと思うのだがね〜」
 そう言いつつも、ドクターはそれ以上追求せず部屋を出た。
 研究所ではFFの分析・無効化を研究しているが、自身の研究対象は多岐に渡る。破裂した中身の破片と倒れたとらぴょんから細胞サンプルを採取、視察データやFFの強度等、調べられるだけ調べたので満足している。
「ジャパニーズホットドリンクかね〜。我輩も一つ頂こう〜」
 テーブルにおかれたカップに手を伸ばし、一口。刹那、瞬時に顔が真っ赤に染まる。
「‥‥む、コレはアルコールが入っている〜」
 その場に倒れたドクターの向こうで、お嬢様口調のエイミが暴れかけているのをブロンズが宥めている。流風と同じくアルコールは全くダメな二人だった。
 雨康とも無事合流し笑顔を見せ始めた流風に、雫が笑みを零す。
「ふふ‥‥少尉‥‥その姿、似合ってますよ‥‥」
「えっ」
 雫が開いたコンパクトミラーには、黒髪にトラ耳をぴょこんと立てた流風が映っていた。いつの間にかトラ尻尾までつけられて、トラっ娘にされている。
 その犯人は──。
「子供達よ、ニセとらぴょんはこのとらぴょんが退治したぞ!」
 予備のきぐるみの中に入って、帰宅待ちの子供達に囲まれていた。取り込まれた子供達も命に別状は無く、怪我も軽傷で済んでいた。
(この遊びがしたくてココに来たんだもんね。これで思い残す事は無いよ♪ )
 石榴は身長オーバーでギュウギュウのきぐるみの中でほくそ笑む。
「リュウナ様、帰りますよ?」
「モフモフにゃ〜!」
 促す龍牙の声も聞かず、子供達に紛れてとらぴょんにモフモフするリュウナだった。