●リプレイ本文
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北米某所。
都市と都市を繋ぐ国道を走る二台の車があった。
乗り古された感のある二台のバンには、キメラ討伐のため派遣された傭兵達が乗り合わせていた。
「ははは、快走ですね」
左側を走る車を運転する弧磁魔(
gb5248)はにこやかに言う。作戦前には『許せません! キメラにこんな愛くるしい姿をさせて、そんな恐ろしい事をさせるなんて!』と怒りを燃やしていたが、今はキメラを掃討するべく平常心を保っている。
「パンダに続いてプレーリー‥‥意地が悪い元がいるわね」
小さく呟いたのは巳乃木 沙耶(
gb6323)。ついこの間パンダ型キメラの討伐を果たしてきたばかりである。プレーリードックが人を襲うと聞き、確認を兼ねて今回の依頼に参加していた。
バグアの研究者は愛らしい動物が好きなのか、はたまたただの嫌がらせなのか。
「ああ見えて結構気性荒いからな‥‥縄張り争いで相手生き埋めにしたりとか。案外その辺の理由でキメラ化されたか?」
沙耶の言に乗って九十九 嵐導(
ga0051)が言う。しかし、バグアの考える事など及びもつかない。今は人々を苦しめる害獣を退治するだけだ。
「可愛くても‥‥キメラ‥‥。油断はできないと、思う‥‥けど‥‥。少尉は‥‥大丈夫‥‥かな‥‥?」
幡多野 克(
ga0444)は資料で確認したプレーリーキメラの画像を思い出しながら、隣を走る車内にいる流風へ視線を向けた。
右側を走る車に乗り合わせたB班に対し、もう一台に乗るのはA班の五人だ。
助手席で流風は、写真のプレーリーキメラとにらめっこを続けていた。
隣でハンドルを握る菱美 雫(
ga7479)が写真を横目に言う。
「た、確かに‥‥見た目は、可愛いですけど‥‥やってることは、冷静に考えれば、かなり残酷‥‥です‥‥。このまま、ほったらかしには‥‥できません‥‥」
「そうですよねっ。人を集団リンチにして穴に引き込んで食べちゃうなんて‥‥こんなに可愛いのに」
「流風少尉、頑張りましょう、ね」
雫は以前流風と任務に当たったことがある。
敵は多勢。ミイラ取りがミイラにならないようにと気を引き締めながらも、流風と共に任務に当たれるのは楽しみでもあった。そんな彼女に流風も微笑を返す。
「はいっ。私も、お会いした事のある方がいてくれて心強いです! 頑張りましょうね、紅月さん」
「よ〜し‥‥こいつが相手か。上〜等〜じゃねぇかぁ‥‥」
後ろを振り向いた流風が持つ写真を手に取り、被ったガスマスクの下からくぐもった声を出す紅月・焔(
gb1386)。妙にテンションを上げた様子なのは、女性陣が半数を切るこの依頼に向けての空元気である。
「えっと、それは‥‥?」
「ん? ああ、これ? ‥‥もぐら叩き」
焔の手には100tハンマーが握られている。キメラがプレーリーであることを説明する流風を改めて見、ユウ・エメルスン(
ga7691)が呟く。
「‥‥本当に成人してんのか?」
「あっ、聞こえましたよ! ちゃんと24歳ですっ」
必死に免許証を見せる流風に、ユウは「はいはい」とそっけない返事を返す。
そんな賑やかなA班の車の後ろを走るAU−KVには秋津玲司(
gb5395)が乗っている。
プレーリー型のキメラとは‥‥その可愛さに気が抜けた一瞬の隙を突くというコンセプトなのだろうか。
(「まぁ、私は敵ならば外見など関係なく容赦はしませんが‥‥」)
果たして流風はどうだろうか。日頃から雨康と名づけたカエルのマスコットを連れ歩くなど、可愛いものには目が無さそうだ。
(「まぁ大丈夫だとは思いますが‥‥フォローは出来るようにしておきますか」)
左右に広がる平原を突っ切る道の先に、通行止めの柵が見え始めていた。
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キメラが出現するという一定区間は通行止めとなっている。進入禁止区域に入ってから、二台の車とAU−KVは対向二車線の道を併走しキメラの出現へ備える。
「‥‥キメラへの警戒‥‥お願いします‥‥」
言いつつ、雫は運転に専念する。運転しながら確認できる前方の注意は怠らない。
賑やかだった車内は一転、緊張した空気に包まれていた。隣を行くB班の車内も同じだった。
嵐導は双眼鏡で車外を確認する。プレーリードッグは巣穴脇に直立し周囲を警戒する習性がある。キメラが同じ習性を持つとは限らないが、歩哨がいる可能性はある。
「この辺り、出そうですね」
克も同じく双眼鏡を使い敵影を探る。奇襲されては、先程すれ違った被害者の車の二の舞になりかねない。また敵に警戒されないよう、武器が外から見えぬように気を配る。
「あれは‥‥」
平野に所々見え始めた穴の一つに、小さな黒い影が見えた。倍率を変えて確認すると、それは間違いなくプレーリー型のキメラだった。
「‥‥いました。こちらへ向かっています‥‥」
覚醒した克がS−01を構えると同時に、嵐導はA班に知らせるべく無線機を取った。刹那、A班の車が大きく揺らいだ。
「くっ‥‥タイヤを、やられた‥‥?」
破裂音と共にハンドルを取られ制御を失った車を、雫は何とか停車させた。
B班の方では巣穴を次々と出て駆け寄ってくるキメラに、嵐導が車内から鋭覚狙撃を乗せた弾頭矢を放つ。命中した一体が爆発に弾き飛ばされたが、キメラ達は進軍を止めることはない。
A班は降車し押し寄せるキメラ達に備える。
雫は後衛で超機械ζを構え、同班のメンバーに練成強化を発動させていく。
「流風少尉。雨康君、落とさないように‥‥注意、です‥‥」
「はっ、そうでした!」
少し前にも、雨康が落下した事で惨事となった経験がある流風である。慌てて雨康在中の胸ポケットのボタンを閉めるため俯いた拍子に、道路の端にひょこりと顔を出したプレーリーと目が合った。
時が止まった‥‥のは流風だけだった。即座に襲い掛かろうとしたキメラとその後続を打ち抜く銃弾の嵐。M−121ガトリング砲を放ったのは、AU−KV「バハムート」を装着した玲司だ。
「流風さん、油断は禁物だ」
「は、はいっ」
我に返った流風は覚醒し愛銃「黒猫」を構え、近づいてくるキメラ群へ狙いをつける。
相手は地上を駆けるだけでなく、地中を移動し突如として開いた穴から顔を出す。足元からの奇襲を避けるために、道路上に陣取り群れを迎えうつ。
「手前ぇらが余計な事してるからこんな事になるんだ、このもぐら野郎!」
焔は穴から現れるプレーリーをメインに片っ端から100tハンマーを叩きつけていく。ハンマーを握る手に込められているのは怒り。それもメンバーに女性陣が少ない事に対するもの‥‥プレーリーからすれば、明らかに謂れのない八つ当たりである。
キメラ達は素早く既成の穴に潜り込みこちらの攻撃をやり過ごす。
「まったく、はた迷惑なキメラだ。少しは時期ってモンを考えてくんねぇかな? ‥‥まぁ、かわいいのは認めるがな。閃光、行くぞ」
車上に立ったユウは味方に合図を送り、薄青に発光した右腕に握ったものをキメラ群の中心に投げつけた。皆が目を伏せた直後の一瞬、辺りが白に塗り替えられる。
「確かに可愛らしいな、だが容赦はしない‥‥」
閃光手榴弾に視界を奪われた地上のキメラに、玲司はガトリング砲を掃射した。
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一方道路の左側を担当するB班も車を降り、プレーリー達との戦いを繰り広げていた。
弧磁魔は超機械「ミルトス」を群れへ向けて発動させ、地上にいるキメラが地中に逃れる前に電磁波で足止めをする。
「中々すばしこいですね。しかしその足も私には通用しませんよ!」
そこへ沙耶がM−121ガトリング砲を浴びせ、自分に言い聞かせるように呟く。
「プレーリー型とはいえ、相手はキメラよ」
「犠牲が出てるんだ。手加減は‥‥しない!」
克は月詠で、続々と跳びかかってくるキメラを側面へ回り込んでかわし、即座に渾身の一撃を叩き込む。豪破斬撃を乗せたそれは見事キメラを両断した。
長弓で弾頭矢を放ち群れの中心を狙っていた嵐導が敵の変化に気付く。
「動きが、変わった‥‥?」
それはすぐに全員に知れた。積極的に近づく個体が減り、ほとんどが穴の中へ潜り込んでいく。
「逃がさん!」
即射を発動し、嵐導は連続して矢を放つ。二体を仕留める事に成功したが、残りは全て穴の中へと逃れた。それをいぶかしむ間もなく、穴から次々顔を出したプレーリーから銃弾が発射された。
沙耶がバリア代わりにと、ガトリング砲の弾幕を張る。彼女の銃弾に当たったそれは誘爆もせず砕け散る。
「石の、飛礫‥‥」
良く見ると、それはプレーリーの口から高速で発射されている。地中にもぐった時に体内に溜め込んだ石を連射する能力を備えているらしい。
全員が銃で迎撃、もしくはかわして対応するが、180度方々から打ち込まれるそれを避けきれるものではなく。さらに穴にもぐられてはこちらの攻撃も届かない。
それに加えて足元の穴からも跳び出し爪と牙で攻撃してくるのだ。
「くっ‥‥!」
沙耶は弾倉が空になったガトリング砲を足元に捨て、持ち替えたS−01で足元のキメラを迎え撃つ。
「‥‥となれば、これの出番ですね。ちょっと煙いですよ」
弧磁魔は狙い定め、比較的遠くの穴に筒を投擲していく。見事穴に落ちた発煙筒からもうもうと上がる煙が地中の敵を燻り出す。幸いこちらから見て追い風だ。煙は奥へと逃げていく。
「いくわよ、気を付けて」
たまらず穴から出てきたところへ、沙耶が閃光手榴弾を食らわせる。眩む眼にキィキィと悲鳴を上げるプレーリーの姿だけを見ると心が痛む。
が、その隙に沙耶はガトリング砲を再装填し、弧磁魔は練成治療で仲間の傷を回復させる。次いで効果の切れた練成強化を再び付与していきながら、皆に向けて声をかけた。
「もうひとふんばりです。頑張りましょう」
弧磁魔の言うとおり、キメラの数は確実に減ってきている。
同じ頃、A班も石の飛礫と爪・牙による近接攻撃を受けていた。キメラが既に空けた穴だけではなく、何もない地面からも突然キメラが沸いてくる。
道路に立っていた流風の足元が突然沈んだ。
「流風少尉‥‥!」
時間を掛け、アスファルトを掘ったのだろう。不意打ちに留意していた雫は、咄嗟に駆け出し流風を抱え上げる。そのまま、流風は小銃「フリージア」を左手に、左右の銃からの連撃を放った。さらに車上からユウのS−01による豪破斬撃が打ち込まれ、キメラは力なく倒れた。
「まったく、厄介な奴らだな」
ユウは自らを狙う飛礫を銃で迎撃しつつ、味方の視界を遮らない位置を極力狙いながら穴へ発煙筒を投げ込んでいく。穴から出て来るキメラを叩くのはもちろんこの人。
「くくく‥‥緑色の悪魔がくれたこのハンマー‥‥ハイスコアを叩きだしてくれる」
覚醒時はアイスマンと名乗る人格に切り替わる焔なのだが、今回は彼の半分を構成する煩悩が勝ったらしい。覚醒しても焔本人のままである。
「紅月流抜刀術‥‥くらいやがれ!」
即興で編み出した抜ハンマー術がプレーリーを高く打ち上げた。そもそもハンマーに鞘はないのだがその辺にこだわりはないらしい。
更に言えば、車内での流風の説明も空しく未だプレーリーはもぐら扱いである。
「見かけは可愛くても‥‥キメラは、キメラ‥‥一匹も、逃がさない‥‥!」
雫はバグアへの憎しみを込めて、流風が狙いを定める方向へ超機械を放つ。二人の武器は射程が共通している。雫が電磁波で敵を攻撃、倒れずに残った敵を流風が仕留める。
頻繁に穴に出入りする上にどの個体も見た目上区別が付かないため、キメラ群は実際よりも多く感じられた。しかし閃光と煙による動きの制限と皆の連携が功を奏し、やがて動くプレーリーの姿は視界から消えたのだった。
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嵐導は周囲を見回し弓を下ろした。
「ひとまず殲滅、か」
「後は撃ち漏らしがないかの確認ですね」
玲司も一旦覚醒を解いて言う。皆の受けた傷は、弧磁魔と雫が粗方治療してくれている。
嵐導は残り少ない発煙筒に、打ち捨てられた被害者の車から拝借した発煙筒を加えて道路を出る。
「少尉は、その‥‥待っていて貰った方が‥‥」
克は言葉の合間に『ドジっ子そうなので』という部分を口ごもった。待つ理由がわからず流風がきょとんとしていた流風だったが、快くその申し出を受けた。
「わかりました。沙耶さんも一緒に残りましょう?」
流風が声を掛けたのも道理、沙耶の顔からは血の気がすっかり引いている。いくらキメラとはいえ、動物好きにとっては精神的に苦しい戦いだった
ユウが言う。
「なら俺も残るぜ」
流風達だけでは危険‥‥というわけではなく、単にプレーリーに飽きただけである。
結局、嵐導、克、弧磁魔、玲司の四人が巣穴の調査に向かう。
生き残りに足元から引き込まれてはたまらない。地面の変化に注意しながら、嵐導は煙筒を穴に投げ込んでいく。何度目かの巣穴で三体程が跳び出してきたが、閃光・一斉攻撃の連携にさして手間も掛からずに片付いた。
それを待つ間、待機組は石飛礫に打ち抜かれたA班車両のタイヤを交換し、いつでも調査組のフォローに駆けつける体勢で待つ。
そんな中、焔は装着しているのとは別にガスマスクを取り出し流風に差し出す。
「これ成功祈願。隊か胸か背が大きくなったら目を書いてネ?」
さらりとセクハラ紛いの事をぬかしているが、流風は眼を輝かせて受け取った。
「これで成就するんですねっ!? 帰ったら片目を入れます!」
三つの内どれの成就を願っているのかは本人のみぞ知る。
そうこうしているうちに残党処理も終了し、再び全員が合流した。弧磁魔は持参したリンゴジュースを一気に呷る。
「ああ‥‥甘い」
仕事後の甘い一杯は超甘党を自負する彼にとって欠かせない。
「これでこの道も使えるようになりますね」
装甲を解いた玲司は、ほっと息をついた。
「プレーリードッグは可愛いけど‥‥北米では‥‥害獣扱いなんだよね‥‥」
克は言う。調査中、キメラではないプレーリーの巣を発見した。巣の主は逃げ出したか、おそらくキメラに‥‥。
「ここなら畑もないし‥‥駆除されることも‥‥なさそう‥‥。また‥‥戻ってきてくれれば‥‥いいけど‥‥」
「そうですね‥‥私も野生のプレーリーに会いたいです」
笑顔で頷く流風に、嵐導が言う。
「少尉、一つだけ‥‥野生のプレーリードッグを見かけても近づかない方が良いぞ? ペスト等を媒介している可能性もあるから」
「えっ! き、気をつけます‥‥」
沙耶の顔色もずいぶん良くなったようだ。煙草の煙を吐き出し、小さく呟く。
「‥‥今度は本物に生まれなさい」
「可愛い顔して、というやつでしたね。中々バグアもえげつないですねぇ」
玲司の言葉に、流風は目が合ったプレーリーのつぶらな瞳を思い出す。
今後も可愛いキメラが生み出されるのだろうか‥‥。そんな予感を抱きながらも傭兵達は任務を終えた平原を後にするのだった。