●リプレイ本文
●ミーティング
「‥‥なかなか難しい条件ですね。村の方をどうひきつけるか‥‥」
「村人にばれないように――か。難しいな‥‥」
依頼内容を見ながら、フィルト=リンク(
gb5706)とサルファ(
ga9419)が頭を捻る。
今回の依頼は、どちらかと言うとキメラ自体よりも「村人に気づかれない」と言う条件の方が問題に
なるのだ。
「だから、田舎は嫌いなんだよ‥‥」
と、愚痴を漏らすのは須佐 武流(
ga1461)。愚痴を言いながらも依頼に参加しているのは、彼なり
に何か、思う物があったのだろう。
「けひゃひゃ、我輩には関係のない事であるね〜。見つからなければいいからね」
怪しげな笑みを浮かべるのはドクター・ウェスト(
ga0241)。
私設の研究所を持つ彼は、どうやら今回のキメラを研究するために訪れたようだ。
実に個性的な傭兵たち4名であるが、いざ依頼となれば流石はプロ。
事前にサルファが要請した周辺の地図を囲み、各員意見を述べる。が‥‥
「この地図、余りにお粗末ではないかね」
ドクターの評価通り、地図はそれほど詳しくはなく、周辺の大体の地形が記されていただけである。
無理もない。この周辺は、余りの移動の困難さから開発が殆ど進められていない地域だ。詳細な地図が
作られた事など、一度もないのだ。
「ともかく、今はこれを基準にして、大体の作戦を決めていくしかないでしょう」
傭兵各員は、各々の潜入方法を他の者に教えた後、自分が決めたルートで森に入っていった―――――
●とある商社マンの場合
須佐 武流。20歳。会社員である。
…と言うのは冗談。
今回の依頼に際し、武流は会社員として、薬草の製品化の調査、と言う名目で村に潜入する事にした
。
だが、来意を告げると、心なしか村人たちの目が冷たい。
「どうかしたのか?結構普通の格好をしてきたつもりなんだが」
こっそりと、今回の依頼人であり、案内してくれている村長に聞く。
村長いわく、以前にも森の薬草の資源を開発しようとしている者が来た事があり、その時に採用した
手法が自然資源を著しく破壊する物だったため、以来ビジネス系の人は忌み嫌われているそうだ。
「あちゃー。この変装はまずかったかな。」
ため息を付いた武流の後ろから、石飛礫が飛来する。
「金しか目にないよそ者は、出てけー!!」
との叫びと共に、一人の村人が放ったものである。
歴戦の傭兵である武流には、後ろから飛来したその飛礫をかわすこと、受け止める事、投げ返す事で
さえも他愛のない事だったが、それをやってしまえば自分の『会社員』と言う仮の身分があっけなく破
れる事になる。
「いてっ」
飛礫を当てられた頭をさすりながら、武流は「事を荒立てないように」と村長に目配せする。飛礫を
投げたらしい、10代の青年は村長に思いっきり睨まれ、「ひいっ」っと引っ込んでしまった。
「さて、それじゃあ、サンプルを採ってくるかな」
わざと周りの皆に聞こえるように言い、武流は森の奥へと消えていく。
●とある観光者の場合
ラフな格好、そして大きなバッグ。
サルファの外観は、いかにも旅行者であった。大きなバッグは、サバイバル道具が入っているように
見えて、実は得物であるバトルアートや機械刀が入っている。使い捨てカメラを首から下げ、観光者と
して、色々な物に好奇心を示すような素振りをしながら、村を通過する。
と、その背中から呼びかけてくる者がいる。
「お兄ちゃん、外のひとー?」
「ねぇ、外の世界はどんな感じー?」
サルファの格好に興味を示した子供たちが集まってきたようだ。目をキラキラさせて、返答を待って
いる。
‥‥流石に無視する訳にもいくまい。そう判断したサルファは、子供たちを相手に外の話を始めた。
「外の世界はね‥‥」
流石にキメラや能力者などについての話は伏せておいて、サルファは子供たちが好きそうな物を色々
と紹介していく。
「ふう‥‥」
1時間後。
満足そうに家へ帰る子供たちを見送りながら、サルファは森への道を歩き出した――
●とある新聞報道者の場合
フィルト=リンクは、報道関係者である。
‥‥正確には、新聞記者を装っているだけである。とは言っても、既存の報道機関に存在する記者の
名前を調べ上げ、それを使用しているため、外界への連絡が取りにくいこの村でバレる可能性はほぼな
い。
が、それでも先に村を通らずに森に向かい、キメラの居場所を探索する事にした。
枝上を伝い、まるで忍者のように移動する。20分ほど移動した所で、『それ』は現れた。
「ッ!?」
足元の穴の中から、ツタが伸び、足首に絡みつく。そして、そのまま木の上から引きずりおろされる
。
‥‥天然の落とし穴があると言う事は聞いていたが、まさかキメラ自体がその中に潜んでいるとは予
測しなかった。そのまま、伸びてくる別のツタの一撃を応龍の盾で受け流すが、更に背後から別のツタ
の一撃を受ける事となる。
(服に傷をつけて、襲われたように『見せかける』だけのつもりでしたが‥‥)
木の上を移動するのに重量が邪魔になる事、また村人に見つかっては言い訳が出来ない事‥‥この2
点から、フィルトはドラグーンの特徴である装備、AU−KVを置いてきたのだ。
AU−KVなしでは、ドラグーンの能力は他のクラスに比べて低くなる。この点が、フィルトとキメ
ラの戦闘を著しく不利な物にしていた。
(そろそろ、引き時でしょうか)
銀色のショートソードを引き抜き、足首に絡みついたツタを切り離す。
そして、全速力で村の方へ走る。
植物キメラも、せっかくの獲物をみすみす見逃すほど甘くはない。隠れていた穴から這い出し、フィ
ルトの後を追うが、その前に、人影が立ち塞がった――
●とある科学者の場合
「けひゃひゃ、こうも早くキメラを見つけられるとは、我が輩は実に運がいいね〜」
白衣をはためかせ、キメラの前に立ち塞がったのはドクター・ウェスト。
フィルトと同様に敢えて村には立ち寄らず、直接森に侵入した彼は、見事フィルトを追っていたキメ
ラと鉢合わせとなる。
「まずは正体を確かめないとね〜」
身近にあった小石を拾い上げ、キメラに向かって投擲。赤い光と共に、小石が弾かれる。
「うむ、キメラだね〜。大きさは大、能力はツタによる攻撃と――」
セルガード白衣で、素早く、吐いて来た酸の霧を振り払う。
「――酸の霧であるね〜。FF強度は中といったところかね〜」
伸びてきたツタを、機械剣で薙ぎ払って切断する。
「さて、研究材料になってもらうとするかね」
体勢を立て直し、機械剣の光の刃の切っ先を、キメラの中心に向けた――
●とある報道関係者の勧告
「すみません、ここら辺で『妖怪』が出ると言う話を聞いて、取材に来たのですが」
「ああ、確かに出るさ。あんたも近づかない方がいいよ」
「‥‥実際に先程入ってみたのですが、一度襲われました。」
フィルトは村人に、端が少し破れた服を見せ付ける。なんとなくエロティックな雰囲気が浮かんだの
は気にしてはいけない。また、傷の一部は、退却時、落とし穴に落ちかけたときに引っ掛けて破れた物
である。
「ほう、よくあれから逃げ切れたな」
「ええ、運が良かったので‥‥ともかく、あれは本物の妖怪です。近づいてはいけません」
そして、もう少しこの村で休ませてほしいと申し込む。村長の口ぞえもあり、無事に村に滞在させて
もらえる事になった。
人が外へ出ようとするたびに、今回の経験を話し、やめて貰おうという作戦である。キメラとの戦闘
中に通常装備に戻る者が多い中、その誰もが村人に気づかれなかったのは、フィルトのこの行動による
物が大きいのだ。
●とある商社マンの戦い
武流は、丁度獲物を探して出歩いていたらしき植物キメラと対峙していた。会社員の変装ではなく、
フルの戦闘装備である。
高速で前に走り寄り、そのままタイガーファングの刃部分ですれ違いざまに植物キメラの横を斬り付
ける。そしてそのまま後ろまわし蹴りで茎の部分を刹那の爪で切りつけた。
だが、流石にサイズに比例して生命力は高いらしく、この程度では植物キメラは倒れない。
吐き出される酸液を、武流はバック転して回避する。
「流石にあれを武器で受けるのは無理かな」
武器を溶かされるリスクを犯すわけにも行かない。大人しく回避するのが良だと判断したのだ。
幸い、巨体ゆえに植物キメラの動きは遅く、回避するのは簡単である。が、穴に落ちないよう、気を
つけなければいけないと言うのであれば、別だ。
「ッ!?」
薙ぎ払われるツタを横に大きく跳んで避ける。後ろに下がらなかったのは、直ぐ後ろの土が軟らかく
、そこに落とし穴があった可能性があるからである。
「一気にやるしかないか」
思いっきりジャンプし、体を回転させる。キメラが酸の霧を吐き出して接近を阻止しようとしてくる
が、回転の風圧で無理やりそれを吹き飛ばす。
「強引に‥‥ねじこんでやるぜ!」
急所突きを併用した全力の蹴りは、植物キメラの花部分の中央に命中する。
「オラオラオラァ!」
そのまま計6発の連続蹴りを受けたキメラは、ズーンと言う地響きと共に、その場に倒れ伏した。
●とある旅行者の受難
武流の戦闘と同時期。サルファもまた、別のキメラと交戦していた。
「ちっ‥‥流石にリーチの違いがあるか」
ツタの攻撃を警戒し、リーチが短い武器しか携行していないサルファは攻めあぐねていた。ダークファイターである彼はグラップラーである武流の様に速度を生かして強引にツタの攻撃を抜けることは出来ない。しかも不運な事に、ステップで攻撃をかわしていくうちに誤って落とし穴に踏み込んだのである。
「っと、危ない危ない。あれには落ちたくないね」
サルファが端を掴んで落下を防いだ落とし穴の下には、植物キメラが長時間潜伏していたせいか‥‥酸液の水溜りができていた。
落ちれば能力者と言えども重傷は免れないだろう。
そこへ、更なるツタ攻撃が襲い掛かる。
「待ってました、っと」
素早く龍宮籠手をつけた手を伸ばし、ツタを掴んで籠手に巻きつける。そして、そのまま引っ張る事により、落とし穴を脱出する。
そのまま猛進し、バトルアーツや籠手で襲い繰るツタを弾き、ツタを巻きつけた右手で酸液を弾く。
どうやら自身は溶かさないようになっているらしく、ツタが酸で溶ける事はない。
「これでトドメかな」
思いっきりツタを引っ張り、その力で自身をキメラの本体に向けて加速させ、試作型機械刀を横薙ぎに振る。その一撃ではキメラを倒すのには不十分だったが、懐の死角に入ったサルファに対しキメラは有効打を与える事は出来ず、激戦の末試作型機械刀を突き刺され、倒れ伏した。
●とある科学者の研究
「まいったね〜これはちょっと疲れる事になりそうだね〜」
ドクターは、機械剣で襲い来るツタを切り払いながら毒づいた。
酸の霧や毒液は素早く振り払ったため大した効果を成していないが、ツタだけは非戦闘型のサイエンティストクラスには少々不利。グラップラーの武流の様に回避しながら進む事も出来ないし、ダークファイターのサルファの様に力で強引に押し進む事も出来ない。機械剣で切り払って防御するしかないのである。
‥‥それでも一発も直撃を受けていないのは、ドクターの技術の成せる業であったが。
連続でエネルギーガンを撃ち込み、怯んだところで前進する。近づいた瞬間、電波増幅を上乗せした機械剣が、植物キメラを断ち切る。
‥‥侮る勿れ。知覚兵装を扱うドクター出せる最大威力は、圧倒的なのだ。3発当たればキメラが沈むと言うほどに。
「まだいるかもしれないぞ‥‥」
と、暫く辺りを警戒していたが、次のキメラが出てくる様子はない。
周囲の探索をし、安全を確保すると、
「さて‥‥研究はこの辺で十分かね〜」
サンプルを回収し、帰還するドクターは、村からこっそり出てきたらしき子供に鉢合わせになる。フィルトの勧告は大人たちには十分な威嚇効果を持っていたが、好奇心旺盛の子供たちには効果が薄かったのだ。‥‥幸いな事に、子供たちが出たのは、傭兵たちが3体全てのキメラを退治した後である。
「おじさん、何してるのー?」
「ああ、我が輩はここら辺の植物を研究しているのだよ」
「ふーん、面白い物はあったー?」
結局、30分ほど子供に絡まれる事になったドクターである。
●自然の足跡
(どうやら、全てのキメラの退治が終わったようですね。)
(これであの村も平和になるといいんだが。本当の目的が見つかる前に出て行くのが吉だ。)
傭兵たちは、静かに村を去っていた。
村人たちは何時の間にか妖怪が出なくなった事に気づき、普段の生活に戻っていった。
願わくば、このまま平穏が続く事を―――
追記。武流が持ち帰ろうとした薬草は、色々な原因(検疫など)で、没収とされてしまいました。