●リプレイ本文
●ストラテジー
街の一角、作戦室として借り出された場所。そこのガレージで傭兵たちは、夜に向けての作戦を相談していた。
何故夜といえば、傭兵たちの間で目的のキメラが現れるのは多分夜のみ、と言う認識があり、何故ガレージなのかは‥
「闇を利用しているから、昼間には現れないキメラだろう」
「‥‥色々と裏がありそうなキメラですね‥‥」
木場・純平(
ga3277)が相談しながら、車の整備をしているからだ。水無月 春奈(
gb4000)も、報告書を読みながら道具を渡したりして手伝っている。
‥まあ、整備と言っても、ライト周辺をプラ版で覆ったり、保護シールを貼ったりしているだけなのだが。
「そうですね‥‥情報は僅かですが、可能な限り推測してみましょう」
シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)が自前のパソコンで、現在までに知らされている情報を入力し、推測を行う。その隣ではフェイス(
gb2501)がキメラの出現場所を基に、地図をチェックして探索ルートを考えていた。
「敵の能力は‥‥エネルギー吸収、スピーカーによる幻覚などの可能性がありますね。凍傷から冷気を放つ可能性もありますし‥もう一度、現場を調査した方がいいでしょうか。」
「それなら、俺が行きます」
「あ、私も付いていきますね」
蓮角(
ga9810)が、武器を持って外へ歩いていく。その後にセシル シルメリア(
gb4275)が続いた。
だが、既に現場が研究者たちに一度調べられた事もあり、二人の調査は、大して新しい情報は得られなかった。
「この街は既に夜は外出禁止令が出ているそうですね。一般人が夜歩き回ることは無さそうです」
警察に確認を取っていたフェイスからの情報である。
●オープン・ナイト・コンバット
夜。
傭兵たちは、フェイスが事前に考案したルートを元に、街を巡回していた。先頭では5人が照明道具を持って歩き、後方からは純平が車を運転していた。
何事も無く、街を約半週した頃。
「「「「「っ!?」」」」」
突如として、道の角の路地から人影が現れ、黒いボールがその場にあった全てのライトに向けて投擲された。
ボールが弾け、黒いペイントがライトを覆う。一瞬にして、辺り一帯が暗黒に包まれる。
「お出まし‥‥ですね。」
蓮角が舌打ちする。
「あっちの路地ですかね‥‥?」
ライトが消える前の僅かな人影を見たフェイスを先頭に、傭兵たちは狭い路地へ押し寄せる。
「チッ、外したか。完全な闇‥‥厄介だな。」
先ず、蓮角が四方に向かい蛍火と風火輪を振り、事前に張り巡らされているであろうワイヤーを切ろうとするが、全く手ごたえが無い。どうやら、この時点ではまだワイヤーは展開されていないようだ。
春奈がAU−KVのライトを付けるが、この状態ではやや暗い。そこへ、運転していた純平は車を素早くターンさせライトを路地の中へ向け、車のライトについていた保護シールをペイントごと剥がした。
明るい光が路地の中を照らし出すが‥
「またかっ!?」
素早く、路地の中からペイントボールが3つ投擲され、寸分違わず春奈のAU−KVのライトと純平の車のライトに直撃し、覆う。
またもや、辺り一帯が闇に覆われる。そこへ、風切り音が聞こえる。
「春奈さん、左です」
シンの声がトランシーバーから響く。それに反応した春奈が、左側へプリトウェンを構え、飛んできたカードを弾く。
「木場さん、右上からです」
木場も、反応してしゃがみ、右上から飛来したカードを回避する。
シンは、ライトが消えた直後から隠密潜行を使用し、路地の角に隠れていたのだ。そこから、パソコンを開き、デジカメの赤外モードを開いて目標を状況を分析していたのである。
その情報を基に、仲間たちにキメラの攻撃や位置を知らせている。
「位置さえ分かれば‥」
純平が疾風脚と限界突破を使い、シンが確認したキメラの場所へと突進する。春奈も、龍の鱗を使い、その後に続く。
だが、二人とも足に痛みを感じ、その場に立ち止まった。
「ワイヤーか!?」
春奈と純平の足元のワイヤーは、どうやら、キメラが二人が突進したのを確認してから仕掛けた物のようだ。金属で出来ているワイヤーは、細さと低温である事から、赤外モードのデジカメには写らなかったのである。
「チッ、流石にそう都合良くはいかねぇか‥!」
蓮角が素早く前に出、蛍火と風火輪を使い足元のワイヤーを両断する。
だが、後ろへ下がろうとした瞬間、右側に新たに張られていたワイヤーに右腕を少し切られる。
「まさか、無限にワイヤーが張れるのでしょうか?」
観察していたシンが呟く。
「手札は色々お持ちの様で‥‥好きにさせる心算はないですよ?」
暗視スコープを装着したフェイスが、照明弾を打ち上げる。その光の反射により、周囲のワイヤーが一瞬照らし出される。
蓮角が全てのワイヤーを切り裂き、直ぐ後に続いて再度春奈と純平がキメラに向かって突進する。
二人の接近を確認し、キメラは今度はシルクハットを取り外し、そこから冷気を放ったのである。コートを着ていた純平と、AU−KVを装着していた春奈以外の全員が、寒さによって一瞬怯む。
急いで地面を転がり、冷気範囲から脱出した蓮角がキメラの居た場所に向かい風火輪で蹴りを放つが、その攻撃は空を切る。
「どこへ行った!?」
「‥‥気づかれましたか!?」
周囲を見渡す蓮角。
角に隠れていたシンのデジカメは、自分の方へ一直線に向かってくるキメラを捉えていた。そう。この暗闇の中で、パソコンのスクリーンの光と言う物は、非常に『目立つ』のである。
パソコンを展開し、座ったままでは咄嗟の回避行動も不可能。ステッキの刃がシンに向かって振りかざされるが――
「俺の相手をしていてもらおう」
冷気の影響を受けなかった純平が横からキメラに体当たりし、押し倒す。
そのまま押さえ込もうとした純平の肩に、ワイヤーを通して操作されたステッキの刃が食い込んだ。
「ぐっ‥‥」
純平は痛みに耐えながら、肩に刺さったステッキを抜き、そのまま奪い取る。蓮角が、ステッキとキメラ本体を繋いでいたワイヤーを切断する。これで、キメラは二つの武器を失った事となる。
武器が無くなり不利と判断したのか、キメラは再度傭兵たちから遠ざかり、闇に紛れ込む。追撃しようとした蓮角は、左右から同時に風切り音を聞いた。
音が聞こえたのならば、それの反対側に向かって迎撃するつもりだった蓮角だが、両方から同時に音が響いては判断のしようが無かった。
「チッ、流石にそう都合良くはいかねぇか‥!」
一か八かで、左に向かい蛍火を振るう、だが、淡い光をたたえた剣先は、空を切っただけであった。
右からの黒塗りのカードが、首に迫る。
「私がなんとかします!」
そう叫び、セシルが槍を回転させ蓮角の後ろに立ち塞がり、飛んできたカードを打ち落とす。
「やはり、明かりがないとやりにくいでしょうね‥‥っ!?」
状況を確認したフェイスが、再度照明弾を打ち上げようと構える。が、その手に持っていた照明弾は飛来したカードによって打ち落とされた。
だが、キメラの注意がフェイスに向いた所でセシルが照明弾を取り出し、打ち上げていた。これによりキメラの居場所が判明する。
「セシルさん、ありがとう。‥見えているうちに‥すべてを斬り捨てれば良いだけです」
春奈が、キメラに向かい飛び込み、周囲を斬りまくる。手ごたえは3回。この戦闘が始まってから初めて、キメラに大きなな打撃が与えられる事となった。だが、その代償も大きい。
「くっ‥そのような豆鉄砲でやられはしませんよ」
背後に2枚のカードが突き刺さる。だが、春奈はそれでもキメラに対し余裕のある微笑みを浮かべた。
それに怒ったかの如く、更に3つの風切り音。だが、その全てはセシルの槍回しに阻まれていた。
「春奈さんにばかり無理はさせれません!」
そう言って春奈に向かって微笑むセシル。その間に、春奈は龍の血を使い、戦闘力を取り戻す。
「‥‥さぁ、第2ラウンドと参りましょうか」
盾を構え、春奈がカードの飛んできた方角に向かい突進する。そのまま横にラジエルで薙ぎ払うが、闇に覆われた状況ではキメラを捉える事は出来なかった。
この状況を打開するため、再度フェイスが照明銃を構える。今度は打ち落とされないよう、盾を構えた春奈の後ろからである。
打ち上げた照明弾によって、キメラが照らし出された一瞬を、純平は見逃さなかった。シン、フェイスが展開した弾幕の援護を受け、キメラを再度タックルし、押し倒す。そこへ、蓮角が風火輪で踵落とし。この一撃により、キメラの首を切断した。
「強かった、ですね。帰路で襲撃されたのが自分だったらと思うと・・ぞっとしますね。」
●エンド・ゲーム
「とりあえず落着ですか。夜明けの缶コーヒーも悪くないかな」
タバコをとコーヒーを取り出し、一服するフェイス。その横でセシルはもう一度槍をキメラに突き刺し、死亡を確認していた。
「ああ、コイツは持ち帰って研究しないと‥‥んなっ!?」
純平がキメラの死体を抱え上げた瞬間。路地から青い光がほどばしり、死体を灰にしてしまったのである。
‥‥無論、キメラの装備なども含め、一つ残らず。
「‥‥見ているのは分かっています。出てきたらどうですか?」
春奈が、冷ややかな目で路地の更に中を見る。
やれやれ、と言った感じで手を振りながら、研究者風の男が一人、歩み出る。
「流石に、大切な研究成果を持ち帰られてはたまりませんのでね。こうやって消しておいた次第ではあるのですが‥はてさて」
「‥‥やるというのでしたら、いつでもお付き合いしますよ。ただではやられません。最低でも腕の一本はいただきますから」
身構える春奈と純平。だが、研究者風の男はあくまでも余裕たっぷりの笑みを崩さなかった。
「折角研究にご協力いただいたのですからね。ここであなたたちを消すつもりは、まだございません。」
そう言って、立ち去ろうとして、振り返る。
「ああ、種明かしと言ってはなんですが、このキメラの能力は‥『暗視』。その唯一つですよ。他は装備ですからねぇ‥‥」
そして、闇の中へ消える。
「では皆さん、御機嫌よう」
その唯一つの言葉を残して。