タイトル:【TG】魔術師マスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/01 18:00

●オープニング本文


 夜道とは、古今東西問わず、危険な物とされている場合が多い。
 視界の悪さもさることながら、何より「人が通らず、助けを呼びにくい」と言う事がある。
 そのため、一人で歩かず、他人と共に歩くのが常套手段とされているが‥‥

 ある日の夜中の事。飲み会に出席した男女、計6人は、帰途についていた。
 6人共に家がお互いに近く、また完全に酔ってしまった者も居たための措置である。

「なぁ‥‥何かこの道だけ暗くね?」
「おめぇが酔ってるだけなんじゃねぇの?」

 ジョークを飛ばしあいながら、6人は小道を進んでいく。
 が、然し、半分ほど進んだ時点で、その道の照明は突如、完全に『消えた』のである。
 慌てふためいて付近を見回しても、その暗さから何も見えない。
 暗闇の中で恐怖だけが増えていく。そしてそれは、一人の悲鳴を機に頂点に達する――

●悪魔の目から見た光景
 黒塗りのスペードの『K』のカードが飛ぶ。男の首を一閃し、手元に帰ってくる。
 悲鳴に恐怖したのか、一人の女が逃げようと踵を返す。が、その足を、杖から伸ばし、壁や電柱に絡めたワイヤーが両断した。

「うわぁぁぁ!!」

 杖を半分に分け、音を頼りに突進した男の胸に杖の片方の刃を突き立てる。
 返す刃で、地面に放られた女二人の、首を一閃する。

「くっ‥‥修二、健、優香!! ‥‥皆、皆…やられてしまったのか…!?」

 最後の男には、多少か何かの武術の心得があったようだ。風斬り音を聞き、素早く投げつけられたダイヤの「A」のカードを回避する。そして、髪の色が蒼から赤に変わったかと思うと、急にその男の動きは変わった。

「野郎‥‥仲間たちの命を、返せぇぇぇぇぇぇ!」

 素早く壁や柱を蹴りながら、唯一携行していたSES搭載装備であるナイフを構える。
 男は僅かな音を頼りに、キメラに肉薄する。正面から振り下ろしたナイフは、キメラを両断したかと思われたが――

「なっ!?」

 機械的な手ごたえがあった。だが、それは敵の想定されるサイズに比べ、余りにも小さい。
 そして、自分の後ろから吹いてくる冷気が、敵がまだ生きている事を物語っていた。
 急いで回避行動を取るが、冷気により怯んだ事で、僅かにそれが遅れる。
 頭の後ろにひんやりとした刃が突き刺さる感覚と共に、男の意識は絶たれた。

 暫くした後、影から監視していたらしき、白衣の男が出てくる。

「ふむ。‥‥やはり、前回の反省を生かし、力よりも知能に傾けたのは正しい、と言う事ですか」

 足で、動かなくなった最後の男の体に蹴りを入れる。

「シンプルな能力しか付加していないのに、能力者を倒せたのですから」

●ブリーフィング
 何時もの仏頂面なオペレーターが、傭兵たちを出迎える。

「今回は、とある街で発生した連続通り魔事件の調査です。能力者も被害にあっている事から、キメラによる仕業と言うのが一般的な認識です」

 スクリーンに、黒く染まった街の路地が映し出される。

「ここが最新の事件現場です。被害者は飲み帰りの能力者1名を含む6名。死因は能力者が後頭部への刃物による一突き、女性のうち2名が刃物による頭部切断、1名が足を『周囲から』切られたことによるショック及び失血死。そして残りの男性2名は、1名が喉を斬られ、もう一名が胸部への突きです」

 ぱらりと、資料のページをめくる。

「現場全域が、道傍のライトを含め、黒い粘着性のペイントのような物で覆われておりました。粘着性が高く専門の除去班でも除去には時間がかかっており、また光を完全に遮断、吸収する物質のようです」

 ここで、傭兵の一人が手を上げ、犯人の手がかりになるような物が無いか、と聞く。

「ふむ‥‥付近に、機械部品が落ちていました。鑑識曰く構造から一種の小型スピーカーのようなものだそうですが‥‥破壊されておりますので、それ以上の詳細は分からなかったそうです」

 もう一度、ページをめくる。

「ああ、後一つ。能力者の体には、僅かながら凍傷の形跡が見られたそうです。軽度ですので、致命的になると言う事はないそうですけど‥‥」

 そう言って、傭兵たちの反応を観察してから、資料を閉じる。

「皆様、今回の敵は、何時ものキメラの行動とは違うようです。くれぐれも‥‥お気をつけください」

●参加者一覧

木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
セシル シルメリア(gb4275
17歳・♀・ST

●リプレイ本文

●ストラテジー
 街の一角、作戦室として借り出された場所。そこのガレージで傭兵たちは、夜に向けての作戦を相談していた。
 何故夜といえば、傭兵たちの間で目的のキメラが現れるのは多分夜のみ、と言う認識があり、何故ガレージなのかは‥

「闇を利用しているから、昼間には現れないキメラだろう」
「‥‥色々と裏がありそうなキメラですね‥‥」
 木場・純平(ga3277)が相談しながら、車の整備をしているからだ。水無月 春奈(gb4000)も、報告書を読みながら道具を渡したりして手伝っている。
 ‥まあ、整備と言っても、ライト周辺をプラ版で覆ったり、保護シールを貼ったりしているだけなのだが。

「そうですね‥‥情報は僅かですが、可能な限り推測してみましょう」

 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が自前のパソコンで、現在までに知らされている情報を入力し、推測を行う。その隣ではフェイス(gb2501)がキメラの出現場所を基に、地図をチェックして探索ルートを考えていた。

「敵の能力は‥‥エネルギー吸収、スピーカーによる幻覚などの可能性がありますね。凍傷から冷気を放つ可能性もありますし‥もう一度、現場を調査した方がいいでしょうか。」
「それなら、俺が行きます」
「あ、私も付いていきますね」

 蓮角(ga9810)が、武器を持って外へ歩いていく。その後にセシル シルメリア(gb4275)が続いた。
 だが、既に現場が研究者たちに一度調べられた事もあり、二人の調査は、大して新しい情報は得られなかった。

「この街は既に夜は外出禁止令が出ているそうですね。一般人が夜歩き回ることは無さそうです」

 警察に確認を取っていたフェイスからの情報である。


●オープン・ナイト・コンバット
 夜。
 傭兵たちは、フェイスが事前に考案したルートを元に、街を巡回していた。先頭では5人が照明道具を持って歩き、後方からは純平が車を運転していた。
 何事も無く、街を約半週した頃。

「「「「「っ!?」」」」」

 突如として、道の角の路地から人影が現れ、黒いボールがその場にあった全てのライトに向けて投擲された。
 ボールが弾け、黒いペイントがライトを覆う。一瞬にして、辺り一帯が暗黒に包まれる。

「お出まし‥‥ですね。」

 蓮角が舌打ちする。

「あっちの路地ですかね‥‥?」

 ライトが消える前の僅かな人影を見たフェイスを先頭に、傭兵たちは狭い路地へ押し寄せる。

「チッ、外したか。完全な闇‥‥厄介だな。」

 先ず、蓮角が四方に向かい蛍火と風火輪を振り、事前に張り巡らされているであろうワイヤーを切ろうとするが、全く手ごたえが無い。どうやら、この時点ではまだワイヤーは展開されていないようだ。
 春奈がAU−KVのライトを付けるが、この状態ではやや暗い。そこへ、運転していた純平は車を素早くターンさせライトを路地の中へ向け、車のライトについていた保護シールをペイントごと剥がした。
 明るい光が路地の中を照らし出すが‥

「またかっ!?」

 素早く、路地の中からペイントボールが3つ投擲され、寸分違わず春奈のAU−KVのライトと純平の車のライトに直撃し、覆う。
 またもや、辺り一帯が闇に覆われる。そこへ、風切り音が聞こえる。

「春奈さん、左です」

 シンの声がトランシーバーから響く。それに反応した春奈が、左側へプリトウェンを構え、飛んできたカードを弾く。

「木場さん、右上からです」

 木場も、反応してしゃがみ、右上から飛来したカードを回避する。
 シンは、ライトが消えた直後から隠密潜行を使用し、路地の角に隠れていたのだ。そこから、パソコンを開き、デジカメの赤外モードを開いて目標を状況を分析していたのである。
 その情報を基に、仲間たちにキメラの攻撃や位置を知らせている。

「位置さえ分かれば‥」

 純平が疾風脚と限界突破を使い、シンが確認したキメラの場所へと突進する。春奈も、龍の鱗を使い、その後に続く。
 だが、二人とも足に痛みを感じ、その場に立ち止まった。

「ワイヤーか!?」

 春奈と純平の足元のワイヤーは、どうやら、キメラが二人が突進したのを確認してから仕掛けた物のようだ。金属で出来ているワイヤーは、細さと低温である事から、赤外モードのデジカメには写らなかったのである。

「チッ、流石にそう都合良くはいかねぇか‥!」

 蓮角が素早く前に出、蛍火と風火輪を使い足元のワイヤーを両断する。
 だが、後ろへ下がろうとした瞬間、右側に新たに張られていたワイヤーに右腕を少し切られる。

「まさか、無限にワイヤーが張れるのでしょうか?」

 観察していたシンが呟く。

「手札は色々お持ちの様で‥‥好きにさせる心算はないですよ?」

 暗視スコープを装着したフェイスが、照明弾を打ち上げる。その光の反射により、周囲のワイヤーが一瞬照らし出される。
 蓮角が全てのワイヤーを切り裂き、直ぐ後に続いて再度春奈と純平がキメラに向かって突進する。
 二人の接近を確認し、キメラは今度はシルクハットを取り外し、そこから冷気を放ったのである。コートを着ていた純平と、AU−KVを装着していた春奈以外の全員が、寒さによって一瞬怯む。
 急いで地面を転がり、冷気範囲から脱出した蓮角がキメラの居た場所に向かい風火輪で蹴りを放つが、その攻撃は空を切る。

「どこへ行った!?」
「‥‥気づかれましたか!?」

 周囲を見渡す蓮角。
 角に隠れていたシンのデジカメは、自分の方へ一直線に向かってくるキメラを捉えていた。そう。この暗闇の中で、パソコンのスクリーンの光と言う物は、非常に『目立つ』のである。
 パソコンを展開し、座ったままでは咄嗟の回避行動も不可能。ステッキの刃がシンに向かって振りかざされるが――

「俺の相手をしていてもらおう」

 冷気の影響を受けなかった純平が横からキメラに体当たりし、押し倒す。
 そのまま押さえ込もうとした純平の肩に、ワイヤーを通して操作されたステッキの刃が食い込んだ。

「ぐっ‥‥」

 純平は痛みに耐えながら、肩に刺さったステッキを抜き、そのまま奪い取る。蓮角が、ステッキとキメラ本体を繋いでいたワイヤーを切断する。これで、キメラは二つの武器を失った事となる。
 武器が無くなり不利と判断したのか、キメラは再度傭兵たちから遠ざかり、闇に紛れ込む。追撃しようとした蓮角は、左右から同時に風切り音を聞いた。
 音が聞こえたのならば、それの反対側に向かって迎撃するつもりだった蓮角だが、両方から同時に音が響いては判断のしようが無かった。

「チッ、流石にそう都合良くはいかねぇか‥!」

 一か八かで、左に向かい蛍火を振るう、だが、淡い光をたたえた剣先は、空を切っただけであった。
 右からの黒塗りのカードが、首に迫る。

「私がなんとかします!」

 そう叫び、セシルが槍を回転させ蓮角の後ろに立ち塞がり、飛んできたカードを打ち落とす。

「やはり、明かりがないとやりにくいでしょうね‥‥っ!?」

 状況を確認したフェイスが、再度照明弾を打ち上げようと構える。が、その手に持っていた照明弾は飛来したカードによって打ち落とされた。
 だが、キメラの注意がフェイスに向いた所でセシルが照明弾を取り出し、打ち上げていた。これによりキメラの居場所が判明する。

「セシルさん、ありがとう。‥見えているうちに‥すべてを斬り捨てれば良いだけです」

 春奈が、キメラに向かい飛び込み、周囲を斬りまくる。手ごたえは3回。この戦闘が始まってから初めて、キメラに大きなな打撃が与えられる事となった。だが、その代償も大きい。

「くっ‥そのような豆鉄砲でやられはしませんよ」

 背後に2枚のカードが突き刺さる。だが、春奈はそれでもキメラに対し余裕のある微笑みを浮かべた。
 それに怒ったかの如く、更に3つの風切り音。だが、その全てはセシルの槍回しに阻まれていた。

「春奈さんにばかり無理はさせれません!」

 そう言って春奈に向かって微笑むセシル。その間に、春奈は龍の血を使い、戦闘力を取り戻す。

「‥‥さぁ、第2ラウンドと参りましょうか」

 盾を構え、春奈がカードの飛んできた方角に向かい突進する。そのまま横にラジエルで薙ぎ払うが、闇に覆われた状況ではキメラを捉える事は出来なかった。
 この状況を打開するため、再度フェイスが照明銃を構える。今度は打ち落とされないよう、盾を構えた春奈の後ろからである。
 打ち上げた照明弾によって、キメラが照らし出された一瞬を、純平は見逃さなかった。シン、フェイスが展開した弾幕の援護を受け、キメラを再度タックルし、押し倒す。そこへ、蓮角が風火輪で踵落とし。この一撃により、キメラの首を切断した。

「強かった、ですね。帰路で襲撃されたのが自分だったらと思うと・・ぞっとしますね。」


●エンド・ゲーム
「とりあえず落着ですか。夜明けの缶コーヒーも悪くないかな」

 タバコをとコーヒーを取り出し、一服するフェイス。その横でセシルはもう一度槍をキメラに突き刺し、死亡を確認していた。

「ああ、コイツは持ち帰って研究しないと‥‥んなっ!?」

 純平がキメラの死体を抱え上げた瞬間。路地から青い光がほどばしり、死体を灰にしてしまったのである。
 ‥‥無論、キメラの装備なども含め、一つ残らず。

「‥‥見ているのは分かっています。出てきたらどうですか?」

 春奈が、冷ややかな目で路地の更に中を見る。
 やれやれ、と言った感じで手を振りながら、研究者風の男が一人、歩み出る。

「流石に、大切な研究成果を持ち帰られてはたまりませんのでね。こうやって消しておいた次第ではあるのですが‥はてさて」
「‥‥やるというのでしたら、いつでもお付き合いしますよ。ただではやられません。最低でも腕の一本はいただきますから」

 身構える春奈と純平。だが、研究者風の男はあくまでも余裕たっぷりの笑みを崩さなかった。

「折角研究にご協力いただいたのですからね。ここであなたたちを消すつもりは、まだございません。」

 そう言って、立ち去ろうとして、振り返る。

「ああ、種明かしと言ってはなんですが、このキメラの能力は‥『暗視』。その唯一つですよ。他は装備ですからねぇ‥‥」

 そして、闇の中へ消える。

「では皆さん、御機嫌よう」

 その唯一つの言葉を残して。