●リプレイ本文
●Misty Field
「うーむ、ここまで寒いと、ホットミルクが飲みたいなあ」
探索中、突然翠の肥満(
ga2348)が呟く。
何時キメラが襲い来るか分からないこの緊張感の中、尚且つ余裕を持っている彼は、よほどの大物だろうか。
「タロットカード13番、死神。終末、転じると再スタートかしら‥‥けれど、村人によりますと、ここは常に霧に覆われていますわ。再スタートには似合いませんわね」
事前調査を済ませているメシア・ローザリア(
gb6467)はその結果を報告する。
彼女の他に、水無月 春奈(
gb4000)が足跡の調査を行っていた物の、これまた濃すぎる霧により何も発見できなかった。
『俺が死んだら誰にも伝えないでくれ。誰も悲しみはしないだろうしな』
「却下。道化は事実を告げるのみだぁ。それに、お前は自分を過小評価してると思うよぉ」
片やホワイトボード、片や普通に言葉で会話を交わしているのは、赤月 腕(
gc2839)とレインウォーカー(
gc2524)。重い会話であったが、そこへ、レインを恩師と慕う滝沢タキトゥス(
gc4659)が駆け寄る。
「レインウォーカーさん、必ず無事に生還しましょう!」
図らずしも彼の干渉により、重くなっていた場の空気が、少し和らぐ。
赤月が、エッグタルトを取り出し、噛り付こうとした瞬間‥‥
「‥‥‥来てます」
後衛で探査の目を展開していたリズレット・ベイヤール(
gc4816)の警告とを聞いた瞬間、3人は改めて警戒態勢を取る。
レインと赤月は、赤外線スコープを覗き込むが、何も見当たらない。
リズは場所を絞り込もうと探査の目に集中する物の、霧のためか、正確な位置は感知できない。
(ふむ‥‥どうした物でしょうか)
考え込むシン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)の背後に、黒い影が現れる!
●In and Out
予め自分が狙われると想定していたシンは、素早く横に転がり、縦振りの鎌の一撃を回避する。
その一撃は地面を深々と抉り、跡を残す。横振りであったならば回避しきれなかっただろうが、ここは「運が良かった」と思うべきだろう。
(予めかけておいた保険が利きましたか)
地面の抉られた跡を見て、シンの冷静な顔に、一筋の汗が走る。事前にGooDLuckを展開して回避したからいい物の、無防備の状態から直撃すれば一撃で重傷、下手すればそのまま命を刈り取られていた可能性もあるのだ。
この隙に、後衛保護を担当していた滝沢がキメラとシンの間に滑り込み、防御陣形を展開。再度鎌を振り下ろそうとしたキメラに、 御守 剣清(
gb6210)が迅雷で飛び込み、柄の部分を刀で打つ事により軌道を逸らした!
「そう何度も思い通りには、ッ!」
体勢を崩したかに見えたキメラ。そこを、龍の翼を展開した春奈が急襲。
「少し前線で支えますね。その間に、対応策を考えてくださいね」
そのまま天剣「ラジエル」で横一閃になぎ払う! キメラは後退し、それをかわそうとするが、龍の翼のスピードには勝てず、そのまま真っ二つに――
そう、誰もかが思った瞬間である。
「なっ!?」
確かに、布を引き裂いたような感触は感じた。然し、実体に直撃した手ごたえは無い。
完全に胴の部分を両断したはず‥‥疑惑を感じた春奈は、一旦後退する。
入れ替わりに前進したレインは、赤外スコープを解除していた。
「あのキメラ、何故か赤外線スコープに写らないみたいだねぇ。‥‥ここで使っても意味は無いねぇ」
そして上半身へ、挟み込むような一撃を放つが、春奈の急襲を受けたキメラは既に次の攻撃を警戒したようで、後退し素早く霧に紛れ込む。
●Analysis
周辺を春奈、リズ、美具・ザム・ツバイ(
gc0857)や滝沢が警戒する中、シンと翠は第一ラウンドで得られた情報を整理していた。
「カメラの画像にも写ってるでっせ。精神的な幻覚じゃなさそうでなぁ」
「赤外線スコープにも写りませんでしたし‥‥やはり、この霧に何か秘密があるのでしょうか。‥‥リズさん。次に『アレ』をお願いします」
「分かりました、シン様」
緊迫した空気の中、傭兵たちは何処から来るとも知れない、次の攻撃に備えていた。
そして‥‥黒い影が現れたのは、リズの背後!探査の目でギリギリ発見には成功した物の、既に余りに接近しすぎており‥‥回避は間に合わない!
そこへ滑り込んだのは、滝沢。「ボディガード」を使い、リズの代わりに一撃を受ける!
「ぐぁ‥‥」
だが、ボディガードのペナルティである防御の半減は余りに大きかった。渾身防御でもそのペナルティを打ち消すには至らず、元より通常防御力は余り高い方ではない滝沢は肩から強烈な斬撃を受けてしまう事になる。
渾身防御を使用する前に薙いだマチェットが僅かに鎌の力を殺いでいなければ、真っ二つにされていた可能性もある。殺いだ今でも、重傷は免れていないのだ。
「‥‥! 滝沢‥‥様!?」
惨状を見、歯を食いしばるリズ。纏めてトドメを刺そうと、尚も鎌を斜めに振り下ろしてきたキメラに、リズは最後の賭けに出る!
本来は呼び笛で仲間に知らせるつもりだったが、この状況下に於いてはそんな時間は無い。滝沢を突き飛ばし、自己障壁を展開。
盾で鎌を受け、鎌が盾を両断した瞬間の僅かな隙に――リズは、キメラの懐に入り込み、超機械「扇嵐」を起動した!
巻き起こる風。霧が一時的に散ると共に、キメラの姿が揺らぐ。
「‥そう言う事でしたか」
「そんなトリックだったか」
観察に重みを置いていた翠とシンが、同時にこのキメラのトリックを見破る。
「皆さん!あのキメラは内蔵の光源で、影を霧に映してるんでっせ――」
仲間に発見を知らせようとした翠は、然しそれに気を取られすぎて‥‥僅かに回避が遅れた。
いや、若しもキメラの攻撃が「見た目通り」だったのならば、回避は成功していたのだろう。傍目からは空振りのように見えたキメラの一撃は、翠の胸元を裂いていた。
幸いにもヒットアンドアウェイ戦法の「後退」中だったがために、重傷には至らなかったが‥‥
至近距離からキメラに風を浴びせたリズはと言うと、大量の「冷気」を浴びてしまい、僅かにダメージを受ける事になる。
「なるほど、赤外線スコープに引っかからなかったのは、マント内に大量の冷気を内包して周囲の冷たい霧と一体化していたから、でしょうか」
重傷となった滝沢を応急セットで手当てする赤月を中心に、傭兵たちは再度周囲警戒の態勢に入る。
先ほどのリズの一撃は一時的に霧を吹き飛ばした物の、マント内の冷気を散らかしてしまったがために、更に霧が濃くなったのだ。
隣にいる仲間も見えないほどの濃霧の中。赤月は、手当てしながらも、偶に赤外線スコープを覗き込み確認する。
(!!)
赤月は赤外線スコープから、冷気を放出してしまったが為に写るようになったキメラを発見する。
だが、声が出せず、何時も会話に使うホワイトボードもこの濃霧の中では他人から見えない。彼には、それを他人に知らせる術はなかった。
既に彼の知り合いの後ろで大きく横に鎌を振り上げたキメラ。
(‥‥!)
猛然と突進し、彼の友人――レインウォーカーを、突き飛ばす。振り下ろされた剣をライフルで受け流そうとする物の、そのまま武器を両断されてしまう!
「赤月!!」
引き返すレインは、敵が後ろにいると気づいたメシアと共に、同時攻撃を仕掛ける。
メシアの後ろ回し蹴りはマントを引っ掛けるだけだった物の、マントがメシアの足に絡まり動きが鈍ったキメラを、「鋭刃」を使用した、レインの右の小太刀が捉えた!
雪の中へ、何かが音も無く落下する。よく見れば、それはまるでガラスの、細い棒のような腕であった。
●DeathMatch
「光源で影を黒いマントを羽織った自身に見せかけ、更に極限まで細めた体で攻撃を回避する。それがこのキメラに攻撃が当たらない原因ですか」
冷静に、シンが分析を述べる。
相手の正体が解明された以上、これ以上の調査は必要はない。
身構え、次の襲撃のための準備を行う傭兵たち。だが、先のレインの一撃に恐れをなしたのか、中々キメラは再度出現してはくれない。
「‥‥このままではラチが開かぬ。攻撃の瞬間を狙うしかないじゃろうて」
美具は、敢えて自然体に戻り、目を閉じる。
そして一人、仲間たちの前へ出る。
美具の作戦を察したほかの傭兵たちは、それを止めず‥‥四方より、援護の構えを取る。
5秒‥‥10秒‥‥
美具が前に出てから30秒になろうとした所で、その右から、黒い影が接近。
(まだだ‥‥もう少し引き付けて‥‥)
キメラは、その大鎌を斜め後ろに振りかぶり――
「今じゃぞ!」
『流し斬り』『二段撃』『紅蓮衝撃』を起動した美具の両手の炎剣が、大鎌が美具に届くと同時にキメラに襲い掛かる!
キメラは胴を両断された物の、鎌の直撃を受けてしまった美具も、無事では居られなかった。
上半身だけで吹き飛びながらも、尚且つ最後の足掻きとして鎌を投擲する構えに入ったキメラ。
「おおっと、そうはさせないで」
翠が放った一発の銃弾が鎌を弾き飛ばし、
「往生際、悪いですねぇ」
迅雷で懐に入り込んだ剣清の、『刹那』の抜刀術が、今度こそキメラを完全に『断ち切った』。
落下する大鎌を、春奈はラジエルで柄の部分を両断する。
「あのバグアであるなら、偵察機材が仕込んである可能性があるかもしれませんからね」
だが、その予想に反して、特殊な装置は鎌からは出ては来なかった。
周囲に敵の気配が無い事を確認した傭兵たちは、重傷者3名を連れて、帰途についたのだった。
●End Game
「フェルナンデス‥‥」
「なんでしょうか」
「随分長い間、貴様の好きにさせて来たが‥‥量産可能なキメラ、未だ開発はできないようだな」
「ええ、多くの実験の果てにこそ、優秀なキメラが開発できると思っておりますので」
「‥‥それも、もう終わりだ」
「何故‥でしょうか」
「量産できぬと言うのなら、それは我等にとって不要だから、だ」