●リプレイ本文
●ザ・プラン
早朝4時。作戦に参加する傭兵たちは、オペレータと共に高速艇に搭乗していた。
流石にこの時間帯は堪えるようで、まだまだ眠そうな目をしている者も多い。
そんな中、竜王 まり絵(
ga5231)が、モニターを通し、町の責任者とコンタクトを取っていた。
「地図と設備図を、送っていただけませんかしら? また、可能であればサイズ推移の写真も頂きたいですわ」
「図面関係は今から転送いたします。ただ、避難に手を取られていたせいで‥‥写真は無理ですな」
うーん、とかわいらしく頬に指を当て、まり絵が考え込む。その間に、 遠石 一千風(
ga3970)とシーヴ・フェルセン(
ga5638)がスライム周辺の電気の遮断を依頼する。
更に、天宮(
gb4665)、アリステア・ラムゼイ(
gb6304)の2名は、周辺一帯全てのインフラを遮断するよう依頼した。
「これで少しでも時間が稼げればいいんだけど‥どうせやるなら、出来る事を全部、だ‥!」
「キメラ討伐の為です。不便は重々承知ですがご協力願います」
「‥‥了解いたしました。緊急事態ですので、急いで遮断するよう命じます」
「ご協力、感謝いたしますわ。それで、代わりに照明車などはご用意できますでしょうか?」
まり絵のリクエストに、責任者は苦笑いする。
「元々照明車と言う贅沢なもの、この街には一台しかありませんからな‥‥それに、長い間使っておりませんので、今から充電を開始したとしても、半分くらいまでしか‥‥」
「それで十分ですわ。また、スライムが噴き出す粘液を吸収するために‥‥土嚢や、ホースなどは用意していただけませんかしら?」
「すみません、それも現在、町内には残念ながらありませんので‥‥」
申し訳なさそうに、責任者が頭を下げた。
いえいえ、と了承するまり絵を余所目に、沢辺 麗奈(
ga4489)は‥‥
「とりあえず、ぬるぬる対策用に着替えとかんとな〜」
着替えようとしていた。 が、ここで重大な問題が発覚する。
「ああー!? 着替え持ってくるの忘れてしもうたわ‥‥」
更衣室で、服を脱ぎかけた時点の事である。
流石に裸でスライムキメラを叩きに行くわけにも行かないので、3分後に服を着直した麗奈が更衣室から出てきたと言う。
●モーニングラッシュ
1時間後、傭兵たちが目標の街へ到着する。
まり絵が街側から送られた映像を見ると、キメラのサイズは約9m。
30分ほどインフラ停止の作業に取られたせいでまた3mほど大きくなっていたが、とりあえずそれ以上の成長は止めれたようだ。
「‥‥先に攻撃を始める」
高速艇から降り次第、御山・アキラ(
ga0532)は覚醒し、足に力を込め『瞬天速』を発動。瞬間移動の様な動きを繰り返し、一気に巨大スライムキメラの居場所へ向かう。
他の全員も、その後に続いた。
先頭に立っていたアキラは、路地を丸ごと包み込んだスライムキメラに向かい跳躍、正面から空中前転の勢いでミラージュブレイドを振り、縦一文字に切り裂く。
そのまま、壁を蹴り、ミラージュブレイドを横に持ってスライムを引き裂きながら、スライムと反対側の壁のわずかな隙間から横の狭い路地へ滑り込む。正面の開けた場所を、メンバー中最も攻撃力があるシーヴに譲るためである。
横に引き裂いた切り口から大量の粘液が噴き出し、アキラはそれをまともに被ってしまうが、体に付いた粘液を気にする様子はない。足元に注意し、軽快にステップを踏んで粘液の無い所にしっかりと立ったのみだった。
「確かに不快だが、気にするほどではない。それよりも‥‥解体するのに手間がかかりそうだ」
アキラの攻撃は傷を付けたのは確かだが、スライムの生命力が衰える様子は無い。‥‥最も、あったとしても、見分けが付かないのだが。
そこへ、まり絵が事前に要求した照明用車に乗って他の傭兵たちが到着。
車のドアが開くと、傭兵たちが一斉に飛び出てくる。
「さあ、皆さんの出番ですよ!」
先手を取ったのは弧磁魔(
gb5248)。試作型超機械を構え、『練成弱体』をキメラに放つ。
それを合図として、全員が一斉にキメラに向かい攻撃を開始した。
●ザ・ヒュージブレイダーズ
コンユンクシオの巨大な刀身を振り回し、シーヴがアキラの空けた広いスペースに移動する。
「一般的なスライムにゃ物理攻撃は効き難いでありやがるですが‥‥それでも叩き斬る、です」
『紅蓮衝撃』の赤いオーラを纏い、思いっきり後ろに身を引く。そして、『急所突き』を発動し、半円状に振り下ろす。
コンユンクシオの刃はスライムを切り裂き、その切り口から粘液が大量に噴出した。
シーヴはこの事態を事前に予測しており、ビニール合羽を着用していたが、粘液は「切り裂いたと同時に」噴き出すものである。
コンユンクシオの重さから引き戻してガードは不可能であり、辛うじて片腕でビニール合羽がカバーできない顔部分をガードするが、隙間や袖口から粘液が入る結果となる。
「ネバネバして動きづれぇです」
とりあえず、腕に付いた分だけはらい、『豪破斬撃』を起動して、袈裟斬りに斬り下ろした。
同時に大鎌「蝙蝠」の刃を赤く輝かせ、一千風がスライムの横から接近する。だが、流石に狭い路地。大鎌を横に振れるほどのスペースは無く、縦振りにせざるを得ない状況であった。
「こんな危険な置き土産は即刻取り除くよ」
それでも手数を生かし、縦に斬り付け続ける。頭を逸らし、顔に向かって噴出された粘液をギリギリで避ける。が、それでも少し頬にかかってしまい、ねばねばして気持ち悪い。
「くっ‥‥、このくらいでで怯んではいられない」
不快さを強引に我慢し、表情を少しゆがめながらも、一千風は攻撃を続けた。
●ザ・ミニナイブス
まり絵には、今回のキメラが、属性攻撃を全て吸収するのではないかと言う心配があった。
故に、先に火属性のアーミーナイフを取り出し、キメラを突き刺した。
おそるおそる見上げてみると‥‥
「大丈夫のよう、ですわね」
キメラが巨大化する形跡も自己修復する形跡もなし。それを確認したまり絵は、微笑みながら貫通弾を銃に装填した。
一方、麗奈はロエティシアでまるでモグラのようにスライムを削り、中に少しずつ進んでいた。だが、それは即ち周囲全方向から粘液を浴びることになる訳で――
「やっぱ着替えとけばよかったやないかな‥‥?」
着替えを忘れた事を激しく後悔していた。まぁ、着替えていても、濡れる服が変わるだけで、恐らくは同じ状況になっていただろうが‥‥
●セカンドラウンド
戦況を見守っており、そろそろ『練成弱体』が切れる頃合だと感じた弧磁魔は、再度『練成弱体』を発動する。
「そろそろ練力が残り少ないですね。これ以上は‥‥」
練力がそろそろ底を付く弧磁魔は、いったん退避した。入れ替わりに、アリステアが狭い路地からそこへ回り込む。
彼の持つ斬馬刀も、狭い路地では扱いにくかったのだ。
広めのスペースを利用し、斬馬刀の刀身を垂直に立て、『竜の翼』を起動する。AU―KVの脚部にスパークが走る。
「‥‥いきます。‥‥刺し穿ち‥‥切り裂くっ!」
一気に突進する。加速度を乗せ、斬馬刀を振り上げる。噴き出す粘液を物ともせず、大きく裂かれた切り口目掛け、更に『竜の爪』を使用し、突き入れ、捻る。
これが肉体であれば、想像を絶する痛みを伴う残酷技であっただろう。が、然し、表情も動きも無いスライムから、それを知る方法は無い。
が、反撃しないスライムである。如何様に叩いても問題は無く、故にアリステアの多彩な技は全てが直撃していた。
打撃をも織り交ぜていたが、軟体のスライムに打撃が効く筈はなく、やはり斬撃や突きメインに戻る羽目となった。
同一時間、アリステアの反対側で攻撃を加えていた天宮は、ライフルで打ち込んで止まった弾を、更に鎌で押し込む戦法を取っていた。
彼の持つ鎌は、両側が刃になっているため、振り回さずとも外側の刃で突く様な攻撃が可能だった。
「当たれ!」
叫びと共に、天宮の持つ鎌の外側の刃が打ち込んだ弾にヒットし、更に深く弾を中に押し込んでいく。
●デイブレイク
銃に貫通弾を装填して構えなおしたまり絵は、ある事実に気づいた。
「あれ‥‥先ほどより、大きくなっておりませんかしら‥‥?」
すぐさま一千風の持っていたトランシーバーを通し、離れた場所から望遠カメラで監視していた街の対策班に連絡する。
暫くして、「写真を比べたら、確かにわずかながら大きくなっていた」と言う答えが返ってきた。
「‥‥そんな、どこからエネルギーを吸っていたと言うのですの?」
インフラ遮断直後の30分の状況から見て、エネルギーなしで成長する事はありえない。
周りの味方を見回しても、知覚兵器を使って攻撃している者はいない。知覚兵器しか持ってない弧磁魔は、既に練力切れのため後方に下がり休憩している。
考え込むまり絵。その答えは、一千風がスライムの透明な体を通し、遠くの屋上に置いてある発電用ソーラーパネルを見かけたことによって氷解した。
「光も、エネルギー‥‥じゃなかったか?」
ハッとまり絵は、自分の後ろにある照明車を見やる。
そう。戦闘を容易にするために持ってきた、この車が、皮肉にもキメラにエネルギーを与えていたのである。
急いで、車の照明を止める。そして、空を見上げ、もう一つの問題に気づく事となる。
「皆様、急いでくださいませ。夜明けで太陽が出れば、エネルギーの供給が再開されますわ!」
叫びながら、まり絵は貫通弾を先ほど自分がナイフで刺した箇所へ打ち込む。
他の全員も、それぞれ節約を止め、全力を出しはじめる。
一千風が限界突破を使用し、まるで餅つきのように連続で鎌を振り下ろす。
天宮が銃撃し、さらに鎌で引き裂いた傷口に、アリステアが剣を突きいれ更に開く。
アキラが横一文字に引き裂いた傷口に、麗奈とシーヴが突きを加える。
「くっ、臨界がくる前になんとしてでも討伐しなくては!」
「まだか‥‥、一体残りどれ程‥‥」
一千風に焦りが現れたころ、急にスライムキメラはブルっと震えたかと思うと、萎み始めた。
そして、30cmほどの大きさに、縮まってしまった。
「やった‥‥のか?」
行動が止まったキメラを前に、傭兵たちは武器を降ろした。
が、これが初戦闘であったアリステアは武器を下ろす時、気が抜けたのか武器が重かったのか‥‥思いっきり、スライムキメラのど真ん中を叩き切る形となる。
後ろでフルーツ牛乳を飲んでいた弧磁魔は、噴出した液体をまともにかぶってしまう形となった。
「‥‥もう、これは飲めませんね」
苦笑いするしかない事態である。
●アフター・ザ・ディザスター
「この度はインフラを切断してしまったことをまことにお詫び申し上げます。おかげでキメラを撃破することが出来ました」
「いいってことよ。どうせ俺らは避難しなきゃいけなくて、大した不便にはなってないさ」
「ところで、キメラ設置前に不審な人物などを見かけませんでしたか?」
「いや‥‥まぁ、夜中だったからな。起きてる人すら居なかったと思うぜ」
キメラが撃破された後、天宮と弧磁魔は、住民に謝るついでに、怪しい人影が無かったかを聞いて回っていた。
が、時間帯が時間帯である。起きている人間すら少ない状態では、目撃情報は無かった。
「熱いお風呂に入って、このネバネバしたのを洗い流すべきですわね」
「流石に、恥ずかしい‥‥」
まり絵と一千風は、風呂と洗濯の手配を行っていた。
結果、街を救ったヒーローである傭兵たちのため、大浴場を開放してもらえる事となった。
男性陣3人がまず先に男湯へ入っていき(アリステアが女湯側に引きずり込まれかけると言うアクシデントがあった物の)、ゆっくりお湯に浸かる。
女性陣は、中々帰ってこないアキラとシーヴを心配していた。
「遅いですわね‥‥」
●ボム・ボム・ボム
動けないスライムが、如何にして現場に来たのか。
それを考えていたシーヴは、スライムを仕掛けたと思われる不審人物がまだ居ないか、アキラと共にパトロールしながら探していた。
そんな中、シーヴのトランシーバーに連絡が入る。
「‥‥こちら‥‥第‥‥チーム。3番道路‥‥不審‥‥発見、‥‥頼む」
爆発音、そしてノイズが混じった連絡を聞き、アキラ、シーヴはお互いに顔を見合わせ、現場へ急行した。
現場に到着すると、辺りに散乱するいろいろな物の破片と共に、負傷したパトロール隊員が倒れていた。
そして、その前方には、黒服の男が一人だけ、立っていた。
「やれやれ。直接交戦するつもりは無かったのだが‥‥この者たちの運が悪かったのか、それとも私を探せと命じた者の考えが足りなかったのか‥‥」
「お前が、スライムの仕掛け人か」
冷たく言い放ち、アキラがミラージュブレイドを抜き放ち構える。
キッと睨まれても、男は余裕ある微笑みを崩さなかった。
「ああ、あれはただの実験だからな。まぁ、時間がかかりすぎると言うわけで、失敗作だったが」
受け答えの間に、アキラは、いつの間にか男の背後に回り込んでいたシーヴに目配せした。
「覚悟してお縄に付きやがれ、です」
背後からシーヴが、男の首を狙い、峰打ちでコンユンクシオを横に振る。だが然し、それは男の拳によって阻まれ、直後、拳と剣の接触点が『爆発した』。
アキラが飛び込み、シーヴと共に爆煙を振り払うと、男はいつの間にか30m程先の場所に立って、右手をさも痛そうに振っている。
「いてて‥‥ボムグローブで衝撃殺してもこんなに痛いとは、なんつー馬鹿力だ。ま、今回はこれ以上やりあうつもりはねぇな」
「‥‥逃がすか」
「おっと、その手は食わないぜ」
アキラが『瞬天速』を使い、男に詰め寄る。が、寸前で、男の持っていたスーツケースが開き、大量の小型爆弾がばら撒かれる。
「くっ‥‥」
「俺の名前は『雷火龍』。ま、また会う事を楽しみにしているぜ」
爆弾の雲に突っ込む形となったアキラは、それでも咄嗟にガードし、ダメージを最低限まで減らす。あの距離で爆発を受けては、男も無事では済まなかったはずだが‥‥男の前には、FFの赤い光が点っていた。
勢いを殺がれた状態でアキラが男に追いつくことは出来ず‥‥にやりと笑いを浮かべながら、男は、夜の闇へ消えていった。
●バス・パーティ
帰還したシーヴとアキラを迎えた女性陣は、ゆっくりと風呂に浸かっていた。
2名から、『雷火龍』と自称した犯人の情報を聞き、ゆっくりと話し合う。
「また仕掛けられたりしても、何度でも取り除いてみせるよ」
自信ありげに、一千風が言う。
一方、男湯の更衣室。弧磁魔の前には、大量のフルーツ牛乳が積まれていた。
――次の日、満足そうな顔をした弧磁魔が見れたとの事である。
(尚、弧磁魔が飲んだフルーツ牛乳、及びまり絵が使用した貫通弾は街の方から代用品が渡された)