タイトル:ブート・X・フォースマスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/29 17:12

●オープニング本文


「まんざらでも無さそうだな、デルカルロ軍曹」
「そりゃ、コレだけ続けてやってれば、慣れてくるもんでさ」

 UPC軍曹、ショーン・デルカルロは、いつもの通り上官にタメ口で返す。
 ただ、いつもと違うのは、今回は嫌そうな顔をしていない、と言う事である。流石に2、3回も行えば慣れて来るのか、今回の依頼――能力者への新兵訓練――に対しては、寧ろ積極的に見える。

「それで、今回の訓練内容は、どうする予定なのかね?」
「へい、まぁ今回はサバイバルエリアをお借りしたいんですがね」
「ほう、野戦の訓練か?」
「いや、強化人間との交戦の訓練ですぜ」

 デルカルロ軍曹が新人能力者たちについて最も危惧していたのは、強化人間との戦闘であった。
 対キメラ戦術がそれなりに確立され、能力者たちの平均能力、装備等が精良となっている今。キメラとの戦いで致命的なダメージを受ける可能性はかなり減っている。
 だが然し、強化人間になると、違ってくるのだ。その圧倒的なパワーと、一部が持つトリッキーな特殊能力のため、未だ危険性は高い。

「勝てなくても、せめて引くタイミングを見極めれるくらいの考えは身につけて貰いてぇな」
「‥‥用途は分かった。サバイバルエリアの使用を許可しよう。しかし、誰がその仮想敵になるのかね? まさか本当に強化人間を捕獲してくるわけにもいくまい」
「そこらへんの心配はいりませんぜ」

 ガン、と両拳を打ち合わせるデルカルロ。

「俺が直々に稽古をつけてやりますよ。」

――――

 バタンと閉まった扉の後ろで、上官の男はため息をつく。

「‥‥自分が暴れたかっただけ、じゃないかね?」


 かくして、奇妙な新人訓練が、ULTに依頼として張り出されることになる。


「新兵訓練の参加者募集」

●参加者一覧

霞倉 那美(ga5121
16歳・♀・DF
ヘルヴォール・ルディア(gc3038
20歳・♀・CA
桃代 龍牙(gc4290
32歳・♂・CA
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA
ジュナス・フォリッド(gc5583
19歳・♂・SF
アルテミス(gc6467
17歳・♂・JG

●リプレイ本文

●Let the Battle Begin

今回の新兵訓練のために集まった傭兵達を、軍曹が満足そうに見回す。

「ま、新兵ったぁ言えないヤツも居るみたいだが、訓練には違いねぇ。皆、気を抜くなよ?」

 唯一の上級職であるエシック・ランカスター(gc4778)を見ながら、軍曹は自分への戒めとも言える台詞を言う。
 そして、軍曹と傭兵達はそれぞれ、エリアの反対側へ移動。各々準備を始めた‥‥


(なんかおかしい、確か兄貴を強化人間に見立てて(俺得に)楽しく模擬戦だった筈なのに、アニキが本気だ)

不穏な思考を浮かべながらも、桃代 龍牙(gc4290)は弓を構える用意をする。

「訓練訓練♪ 狩人さんはお仕事かんばるよ♪」

 同様に弓を扱うアルテミス(gc6467)も、迷彩のためのカメレオンウェアを着込む。

「‥‥ふむ、結局あの肉ダルm‥‥もとい、軍曹は本気でこちらと相対する事になったか。‥‥正直、鬱陶しいが‥‥別に命まで取られる訳じゃないし、玉砕覚悟で胸を借りるとしようか」

 皆の準備が出来た所で、ヘルヴォール・ルディア(gc3038)の一言を合図に、傭兵たちは森へと侵入していく。
 ジュナス・フォリッド(gc5583)は、念のためにGoodLuckを発動して、である。




●幕間〜Paint it Up〜

 一方、軍曹の方はと言うと‥‥

「アニキ、持って来ましたが‥‥こんなもんどうするんですかい?」

 目の前に置かれたのは。バケツ一杯の迷彩染料。それを軍曹は――

「こうするのよ!」

 頭から、自分に染料をぶっ掛けたのだった。



●Search

森の中を1km強進んだ頃。傭兵たちは突如停止した。

「それじゃ、予定通り、ここで待ち伏せですね‥‥」
「ああ、探索を頼む」

 傭兵たちは予定通りの位置につく。
 バイブレーションセンサーで探索フィールドを展開する霞倉 那美(ga5121)を中心に、アルテミスとヘルヴォールはそれぞれ地面の木の葉の中と木の後ろへ隠蔽。
 エシックは、暗視スコープ装備で熱源探査を行おうとしたが‥‥

「ダメだ、日光があると使い物にならん」

 日光も熱を持つので、熱探査能力は役に立たなかった。
 そのため、四方に発見してもらうための足跡を残し、帰還しジュナスと共に四方を警戒。
 長距離武器を持つ龍牙は、ボディガードの如く那美の横で警戒していた。


 一方その頃。軍曹は、丁度2km地点‥‥フィールドの中央で、細かく木の上を移動しながら、周囲を伺っていた。
 こちらは、万一にも下を通過しようなら、飛び降りて襲撃を仕掛けるという魂胆である。

 2チームの間の距離、凡そ700m。
 だが、木が生え繁る森林内であった事が災いし、お互い相手のことには気づかなかった。

「そろそろ那美さんも疲れて来てるし、誘い出すべき?」

 一分程経った頃、疲労の表れた那美の顔を見て、アルテミスが呟く。このままバイブレーションセンサーを展開し続けていれば、後一分も那美の練力は持たないだろう。
 皆がそれに頷くと、アルテミスは照明銃を打ち上げた。


「ま、見え透いた罠だが、乗ってやらねぇとはじまらねぇ」

 その光を見た軍曹は、木の上を渡り‥‥光が放たれた位置へと向かっていった。


 流石にこれ以上展開するのは無理があるので、那美はバイブレーションセンサーを解除する。
 残りの練力は1割ほど。やや不安だ。

 そして、探査能力を解除したことが、ここでは大きな痛手となる。

「っ‥‥上ですっ‥‥!?」

 バイブレーションセンサーなしでも、直感値が高かった那美は、僅かな葉揺れの音を聞く。
 その直後、頭上に伸びていた木の枝から、軍曹が猛然と落下してくる!



●Warzone

 回避は間に合わない‥‥そう那美が思った瞬間、

「弓だからって護れないってことは無いんだよ」

 龍牙が『ボディガード』を発動、那美を突き飛ばし、代わりに軍曹の落下からのハンマーパンチを受ける。
 それなりのダメージを受けるが、救出した那美がそのままほしくずの唄を放つ。それは軍曹に直撃し‥‥

「ぐっ、景色が‥!?」

 どうやらバランス感覚が乱れたようで、軍曹が怯み、龍牙はこの隙に体勢を立て直す。
 その隙にヘルヴォールを前に、ジュナスとエシックが接近する。
 ジュナスの超機械からの電磁波が軍曹を焼く物の、それは同時に――

「そこかぁぁ!!」

 軍曹に自らの位置を晒す事をも意味していた。
 瞬即撃を発動した軍曹が、最前線に居たヘルヴォールを掴みあげる!
 受けられなければ『弾き飛ばし』も意味はないのだ。

「ふう、やっと視界が戻ってきたぜ。新クラスってのは意外と厄介なもんだ」
「離して貰おうか‥!」

 掴まれたヘルヴォールは後ろ手に隠し持っていた小型超機械で攻撃を放つ。

「っと、いってぇ‥‥なら、お望み通り離してやるよ!」

 やはり小型。大きなダメージには至らなかったが、軍曹に手を放させる事には成功した。
 ‥‥投げ飛ばされることによって。

 投げ飛ばされた先に居たのはエシックとジュナス。エシックはヘルヴォールと衝突してしまい足が止まる事になるが、ジュナスは幸運にもそれを回避することに成功。
 軍曹に肉薄する。

「来いよひよっこ‥‥どわっ!?」

 自信ありげな微笑み浮かべ、ジュナスを迎撃しようとした軍曹の背後に、影撃ち付きの矢が直撃する。

「狙って──穿つ! 必殺技名とか叫びたいけど、狩人さんは静かにこそこそ獲物を狩らなくっちゃね」

 ずっと隠密潜行で隙を伺っていたアルテミスの行動である。そして更に、

「少し、足止めてもらっていいですか‥‥」
「ぐっ‥‥動けねぇ!?」

 呪歌を歌った那美によって、軍曹の動きが完全に止まる。

「貰った‥‥今‥‥俺がどこまでやれるか‥‥‥試させてもらいます!!」

 ジュナスの天剣の一撃が、軍曹に直撃する。と同時に、エシックの天地撃が軍曹の足を払う。転倒した軍曹の首に大鋸切を当てようとするエシックだが――


「へっ‥‥中々やってくれるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!」

 豪快な咆哮と共に、動きを止められたはずの軍曹がまた動き出す。
 武器を当てるためしゃがみ込むエシックの一瞬の隙を突き、両足でその腹部を蹴り距離を離す。

「ならもう一度‥‥!?」

 再度呪歌で軍曹の動きを止めようとした那美。だが、呪歌は発動しなかった。
 バイブレーションセンサーの展開の時に練力を大量に消費したため、もはや練力が残っていなかったのである。

 軍曹の起き上がりの回転キックを回避するため距離を離したジュナスは、振り向きざま再度超機械で電波を放つが‥‥振り向いた時には、既にそこに軍曹の姿はなかった。

「嬢ちゃん、てめぇがここでは一番の脅威だ。先に叩かせてもらうぜ」

 瞬天速で木の上まで走行、そこから猛然と那美の方に向かう軍曹。隠れていたアルテミスはそれに向かって連続で矢を放つ物の、瞬天速のスピードには付いていけずヒットしなかった。
 同じく弓で迎撃していた龍牙は、再度那美を守るため立ちはだかる!

「同じ手は食わねぇぜ?」

 瞬即撃を使った軍曹の腕は龍牙のガードを掻い潜り、掴むことに成功する。そして‥‥

「一対多の別のやり方を見せてやるぜ!!」

 龍牙の巨体を軽々と持ち上げ、まるで巨大な盾の如く扱い、軍曹が猛然と突進する!
 味方を盾に使われているため手を出せない傭兵達。
 その中で唯一、ヘルヴォールは自身の仕掛けた『罠』が有効に働くことを確信していたが‥‥

 草を結び、転ばすために作られた罠は‥‥覚醒した身体能力を持つ能力者たちの前では、細糸程の強度しかない。
 まるで何もなかったかのように、罠を無視して突進する軍曹。

 ジュナス、そして隠蔽を行っていたが、伏せたためにまともに回避が行えなかったアルテミスを弾き飛ばし、那美に迫るこの暴走列車を止めたのは――

「ここは通しません」

 軽く笑い、正面から軍曹と龍牙を受け止めるエシック。

「俺も少々体力に自信があります」

 やや押されてはいる物の、ほぼ互角に、軍曹と押し合っている。だが、体勢を崩すには至っていない。だが、挟まれた龍牙はたまったものではない。
 実は彼、今まで軍曹につかまれたのをいい事にそのままぎゅっと抱きしめて「アニキ俺よりちっちゃい?」等で勝手にショックを受けていたりしたのだが、流石に二人の怪力に押しつぶされる危機とあらば黙ってはいられない。
 隠し持っていた煙管刀を、軍曹の右腕に突き刺した!

「ぐあっ!」

 右手の力が緩まる軍曹。この機に押し込むエシックだが――

「体勢崩したいんなら、押すんじゃなくて引くんだな!」

 そのまま右手の力を全て撤回し、回転するようにして龍牙ごとエシックを投げ、木に叩きつける。

「‥‥少し重いのですが」
「ああごめん、直ぐに退くよ」

 ‥‥ギャグのような一幕はさておき、改めて迫りくる軍曹に対して、那美は超機械で電磁波を放射する。 そして、ヘルヴォールがその前に立ちはだかる物の‥‥

「遅ぇ!」

 瞬天速にて回避され、軍曹は那美の右側に出現。そのまま低姿勢からの足払いを仕掛け転倒させる。

「そうそう何度も‥‥!!」

 ジュナスが援護しようと超機械を構えるが、軍曹はそのまま那美を掴み、盾のようにする。
 仲間を打つ訳にはいかないジュナス。軍曹は、

「これでやっと一人目だ。ギリギリの練力でよくがんばったもんだ、嬢ちゃん」

 那美、戦闘不能判定。



●Fight or Run

「くっ‥やっぱ、一筋縄ではいかないよな‥‥」

 歯軋りするジュナス。だが、その目の前で、自分に向かってきた、と思われた軍曹の姿が一瞬掻き消える。
 迎撃しようとしたエシック、龍牙共々、直ぐに四方を警戒したが‥‥軍曹の狙いは一人だけやや離れたアルテミスであった。

「ええっ、何で分かったの!?」

 隠蔽していたアルテミスだが、一度隠蔽を解除され、注意が向いた後に再隠蔽するのは困難である。
 弓を連射して迎え撃つが、瞬天速併用のステップで回避されてしまう。

「さーて観念しな。さっきの矢、結構痛かったんだぜ?」

 アルテミスの首を掴んで木に押し付けた軍曹はにやりと笑う。
 アルテミス、戦闘不能判定。


 ここで、不利を感じた傭兵たちは、選択を迫られることとなる。
 予定通り撤退するか、それとも交戦するか。

 目配せ、ハンドサインによる相談の結果‥‥傭兵たちは「撤退」を選ぶ。

「逃がすかよ!!」

 と駆け寄る軍曹だが、ヘルヴォールが投げた閃光手榴弾により視界を遮られる。
 視界が戻った時、傭兵たちの姿はなかった。だが、足跡が残っていた。
 最初にエシックが踏み荒らした足跡によって隠されている物の、一本だけ、足跡が4つ同じ方向へ向かっている物があるのだ。

「まだまだひよっこだな。ばらばらに逃げりゃもうちっと苦労したもんだぜ」

 瞬天速を駆使し、全力で追っていく軍曹であった。



●Last Fight

 軍曹が猛然と土煙、そして葉っぱを巻き上げながら追ってくるのを見たエシック。

「ここは俺が食い止めます」

 振り向き、武器を構える。龍牙も同様にその場で立ち止まる。ジュナスはそれを見て‥‥
 静かに頷き、二人に練成強化を施す。そして、ヘルヴォールと共に出口へ向かう。


「二人だけで俺を止めようってか?いい度胸じゃねぇか」

 立ち止まった龍牙とエシックを見てもスピードを落とさず、一直線に突進する軍曹。

「兄貴相手にどうにかできてるの‥‥か?どちらにしろ、ここは通さないよ」

 と軍曹の前に立ちはだかる。
 今回も瞬即撃を使用し、ガードを掻い潜り龍牙を掴む軍曹だが、その一瞬に流し切りを使用した横薙ぎのエシックの大鋸切が迫る!

「甘ぇよ!」

 龍牙の巨体をまたもや盾のように使い、大鋸切にぶつける。
 エシックの強烈な一撃を受けた事になった、龍牙には‥‥戦闘不能判定が下された。

 そしてその一瞬を突きスライディングでエシックのバランスを崩した軍曹だったが‥‥ここで終了のサイレンが鳴り響く。
 ヘルヴォールとジュナスが、見事森の外へ脱出したのだ。
 殿を務め、軍曹を足止めするのが目的だったエシックと龍牙は、見事その役割を果たした事になる。


●After

 試合後、軍曹は

「ぐんそー、ぐんそー、身体触っていい? すごい筋肉〜♪」

 と迫ってくるアルテミスに身の危険を感じたのか、

「あー、ちとこのペイント洗い落とさなきゃいけねぇからな。そんじゃあとでな!!」

 いそいそと何処かへ逃げ去っていく事になる。

(あーあ、一番不味かった行動とよかった行動とか、聞いておきたかったのになぁ)

 と残念がるジュナスであったが、それは後日、レポートという名で、傭兵たちにそれぞれ届けられた文書により果たされる事となる。



●Evaluation

 総評
 戦術は悪くなかったぜ。だが、待ち伏せるんなら、先に照明弾打ち上げてから探査すべきだったな。
 相手も待ち伏せを考えた場合にゃ、持久戦になっちまうからな。


 霞倉 那美
 一番俺にとっては脅威だった。あのまま縛られ続けてたら負けたかも知れねぇな。
 ただ、ハーモナーに成り立てだったからか、バイブレーションセンサーの燃費の悪さ、気づかなかったみてぇだな。
 ありゃ全力で展開するもんじゃねぇ。ある程度「来てるって言う見立てがついてからやるもんだと俺は思うぜ。


 ヘルヴォール・ルディア
 トラップって発想は悪くねぇ。ただ、能力者の身体能力、考えとくべきだったな。
 後はちょいと、盾としては俺の注意を引く方法が少なかったくらいかな。隠し武器で攻撃ってのは良かったぜ


 桃代 龍牙:
 受け無効の技を計算に入れてなかったみてぇだな。ボディガードで身代わりになるなら、相当防御能力、上げていないときついぜ。
 ま、後衛を守るのに専念するのは、キャルバリーらしいがな。


 エシック・ランカスター
 正面から力比べをするのはちょいとマズかったと思うぜ。暗視スコープもだが、アレは知らなかったからしかたねぇな。
 転ばされたのは、流石だったがな。


 ジュナス・フォリッド
 常に距離を保つのは戦術として正解だったが、それだったら天剣持ってる意味がねぇな。
 援護に専念すべきだったと思うぜ。


 アルテミス
 隙を伺ってるだけじゃ仲間がどんどん不利になっちまう。隙がなかったら作るくらいの気概がねぇとな。
 後は‥‥気配消しても体はきえねぇ。無差別攻撃食らえば位置が暴かれるぜ。隠れて奇襲を狙うアイデア自体はよかったぜ。



 文字は、激しく豪快だった。しかも毛筆だった。
 苦笑いするしかない傭兵たちであった。