●リプレイ本文
●Lure Out
(「‥なかなか面倒なことですが‥敵の足場が多いところで戦うのは、ちょっと面倒ですからね」)
「春奈です。目標を発見しました。適した場所の座標をください」
「こちらフーノ。既に待機済み。座標は―――」
破壊活動を続けるキメラを発見するのは、それ程難しくはなかった。寧ろアレだけ目立つ物を目に入れない方が難しい。
キメラに近づく三人の傭兵のうちの一人――水無月 春奈(
gb4000)が仲間のフーノ・タチバナ(
gb8011)に連絡を入れ、皆が待機している座標を聞いた直後―――藤村 瑠亥(
ga3862)が、キメラへ仕
掛けた。
洋弓「アルファル」で矢を放つ。その矢がキメラの背後に突き刺さり、キメラの注意を引き寄せる。
「さて‥まずは鬼ごっこだ‥」
直ぐに二刀小太刀を持ち直し、そのまま付近の公園――フーノが指定した場所へと、走り出す。
壁を這いながら追いかけてくるキメラに対し、瑠亥の後ろをバイクで走行していたロジーナ=シュルツ(
gb3044)が、バイクに急ブレーキを掛けガンポッドで榴弾を射出、キメラの足場を崩す。
この一撃によってキメラのターゲットがロジーナに移るが、傭兵たちの計画に変更は全くなく‥‥キメラは傭兵たちの選んだ戦場である公園に誘い込まれた。
「待ってたぜ!」
隠したAU−KVを変形、装着し、茂みを割り飛び出しそのままキメラを殴りつけるフーノ。
奇襲の一撃を顔面に食らったキメラは少し後方へ仰け反り、更に低姿勢で後方の足元から接近した湊 獅子鷹(
gc0233)が――
「さあ、始めようぜ、俺が爆発する前にな!」
膝裏へと狙い済ましたなぎ払いを放つ。同時に前面から、春奈が逆の足を狙って突きを放つ。関節部分を打ち抜き、行動を阻害しようと言う寸法だ。
●幕間〜Tarot Card Trap〜
「ふむ。確かに、重装甲のキメラでも、装甲の隙間を狙われれば弱いな」
「心配はいりません。昔、私の友がとある技を教えてくれた事がありまして‥‥この弱点を克服する物となっております」
「ふむ。確かに、何時までも同じ技にやられるのは、らしくない。‥‥若しかしてそれは、ロサンゼルスの一戦での『フルアロイ』の‥‥!?」
「はい。あの技をデータ化し、フルアロイに教えたのは私ですからね‥‥フフフ‥‥」
●Throw Out
「てめぇら、武器を引きやがれ!!」
叫ぶと共に、瞬天速でデルカルロ軍曹が前進する。
だが、その声が届くのは一歩遅く、上下の装甲鱗板により、春奈と獅子鷹の武器は挟み込まれ‥‥動きが止められてしまう。
そのまま両手をそれぞれ伸ばすキメラへ向かい、ロジーナはガンポッドを掲げるが‥‥爆発系の武器では止められている仲間二人に当たる可能性もあり、手を止める。
そこへ‥‥
「ったく、全く同じ技使いやがって‥‥」
両拳で、まるでキメラの腕を突き出す軌道を読んでいたかのように、その腕を弾く。
同時にしゃがむと共に、背後から一条の光が飛来する!
「あら、気が早いわ」
そのまま、カンタレラ(
gb9927)の雷光鞭による電磁波ががキメラの胸部を焼く。
「デルカルロ様を模写した敵ですか、悪趣味ですね‥一寸やりにくいけど、やるからにはボコボコにしてやります」
と共に、瑠亥が背後からキメラの腰部、二条 更紗(
gb1862)が胸部を遠心力を利用した横薙ぎで強打、装甲による挟み込みを離させ、春奈と獅子鷹がその隙に一旦後退する。そこへ、ランダムに撃っているよう
に見えたソウマ(
gc0505)の矢が、四方の瓦礫によって跳ね返り、一斉にキメラに向かい飛んでいく。驚異的な強運である。
「これが、キョウ運だよ」
弾頭矢による弾幕により爆発で視界を遮られた所へ、竜の爪を使用したフーノが猛進、背後に向かって拳を叩き込む。だが、拳を引き戻す前に、その腕はキメラに掴まれていた。――然し、それですらフーノの計算内
だった。
「今だ! 皆、攻撃は頼んだ!!」
自ら竜の鱗を使い、一撃を受けて相手の隙を作ろうとしたフーノ。
そのチャンスを無駄にしないため、総攻撃を仕掛ける傭兵たち。
四方から刀が、電磁波が、槍が、榴弾が、矢が―― 一斉にキメラに飛来する。
だが、しかし―――
攻撃がその場に着いたとき、既にそこにキメラの姿はなかった。
「ジャンプした、だとぉ!?」
デルカルロ軍曹が横を見ると、キメラは既に付近にあった、ブランコの上に『張り付き』の技術を使用し立っていた。無論、フーノを掴んでいたままである。
「こうすれば黄色いけどぶんぶんしなくなるよぉ。後は皆に頑張ってもらうもん」
非常に理解しにくい台詞を放ちながら、ガンポッドをキメラが足場にしていたブランコに向けて発射。
爆発と共に、ブランコが崩れ落ち‥そこにキメラの姿は無かった。
「嬢ちゃんあぶねぇ!!」
デルカルロ軍曹がロジーナを庇うようにしてタックルし、その場から移動させると、直後その場に向けてフーノを下にした状態で猛烈に落下する。肘をフーノの胸に当てて、エルボードロップのような技を掛けながら‥‥であ
る。
それは地面に小さなクレーターを作り‥‥フーノの受けたダメージは、推して知るべきだろう。
「うぇ‥‥やだよぉ、あれ怖い。ボク、帰っていい?」
「怖いなら、私の後ろに、ね」
素早くカンタレラの後ろに隠れたロジーナ。それをなだめているロジーナを見て、苦笑いする軍曹。
落下した直後、更にフーノに攻撃を加えようとするキメラに対し、外側から回り込むようにしてキメラの首の後ろに向かい片方の刀を振るう。
同様に、更紗も竜の翼でキメラの背後に飛び込み、背後に向かって突き刺す。両手甲それぞれでブロックしたキメラだが‥‥更紗の一撃には『竜の咆哮』が込められていたが為に、見事に吹き飛ばされる。
この隙にフーノは後退し、救急セットを使用する。
「あら、怪我かな?」
同時に練成治療をカンタレラが施す。
●Limited Force
‥‥ここに来て、傭兵たちが選んだフィールドのアドバンテージが露呈する。
プロレス技には空中から重力を利用する技が多いため、ブランコが破壊され、付近に高い場所がない状態では、その威力を100%発揮する事はできないのだ。
「オラオラ、がら空きだぜ?」
喉に向かって突きを放つ獅子鷹。それを拳で横に弾く。カウンターで突き出された腕を、瑠亥が中に割り込み、剣撃で腕を弾くと共に、大きく体を捻ってしゃがむ。
「ほーら、ビックリ箱よ!」
そこを狙って、カンタレラの雷光鞭がまたしてもキメラの顔面を直撃。さらに――
「‥‥捕まれると、厄介ですね‥‥」
竜の翼を起動、捕縛されないように盾を前にして突進、盾の影から再度腹部に向かって一突きする春奈。
同時に背後から、頭部にまるで飛び乗るようにして掴みかかったのは獅子鷹。
「ここだったら、挟み込んで防御もできねぇな?」
そのまま首に向かって二刀小太刀「月下美人」で挟み込むように切り付ける。
ざっくりと肉に食い込んだ刃に、流石に危険を感じたのか、周囲の他の攻撃を一切無視して両腕で獅子鷹を投げ飛ばそうとする!
流石に攻撃の最中では防御は出来ず、猛烈なGで振り回され、投げ飛ばされる獅子鷹。
受身を取った直後――
「あら、これ以上転がらないでね」
むぎゅっと、カンタレラに踏まれて止められる。無論、攻撃する為ではなく、治癒を施す為だったが。
その直後、再度キメラの足元へ向かって大量の弾頭矢が降り注ぐ。ソウマが発射した物だ。後方へ下がろうとするキメラの後ろで、榴弾が2発が炸裂する。
●Final Blow
「‥‥逃げられたらもっと怖い事になる‥‥ここで‥‥爆発してもらう‥」
煙に紛れ、最後の‥‥本命の一発が飛来する!竜の爪のかかったその一撃が大きく炸裂し、キメラの胸部の鉄鱗にヒビが入る。
ダメージもさることながら、この煙が、近接の傭兵たちに、大きなアドバンテージを提供する事となった。
「ったく、きもちわりぃが‥‥まだ技の練度がたりねぇ。出直してきな!」
キメラの両腕を掴み封じ、そのまま頭突きで一撃を加え平衡感覚を崩す。
「腕が封じられてるなら、防御も出来んだろ‥‥」
遠慮なく、先ほど獅子鷹が斬った首の跡を再度斬りつける。蹴りで抵抗されたため、そのまま首を弾くまではが‥
片足を上げて蹴りつけたその瞬間を狙い、更紗のなぎ払いがもう片方の足を薙ぎ、キメラのバランスを崩す。
バランスを崩されたその瞬間を、掴んでいる軍曹が見逃すはずはなかった。
「てぇぇい!」
気合の一声と共に、両手を一瞬離し、ドロップキックを放ちキメラを蹴り飛ばす。
「こっち来やがったな!」
機械槍「ロータス」をぶん回し、前に突き出す。固定された杭に突っ込むように、キメラが槍にぶつかる。先ほど榴弾でヒビが入った胸部鱗板が終に割れ、胸を貫くようにしてレーザーの槍が貫通する。
止めとばかりに、反対側から竜の翼での猛突進から、天剣「ラジエル」で同じ場所を貫く春奈。
このコンボによって、キメラは完全に機能を停止した。
●When Friends Turn into Enemies
「あっちの黒い方の大きい人はすっごく黄色かったけど、あなたはそうじゃないかも‥‥」
「そりゃよかった。子供怖がらせんのは、俺も好きじゃねぇからな」
最初は軍曹を怖がっていたロジーナも、一回助けられた事で、少しは打ち解け始めたようだ。
「受け流し、それを利用すらできんか‥‥さて、いつまでの自分だ軍曹?」
スブロフを掛け、キメラを焼却しながら軍曹に聞く瑠亥。
「‥‥この状態の俺を知ってるのは、今生き残ってるヤツじゃぁ‥昔の部下しかいねぇな。もしも俺が想像してる通りだったら――」
「誰か来てる」
ソウマの警告に、傭兵たちは一斉に臨戦態勢に戻る。
‥‥暫くして、傭兵たちの前に、白コートの男が現れた。
「やはり、てめぇか‥‥フェル」
最初に口を開いたのは軍曹だった。
「軍曹、お知り合いですか?」
「ああ、まぁな」
と、春奈の問いには軽く答える。
「久しぶりですね、ショーン。‥‥人質救出の一件以来、でしょうか。どうですか?『贈り物』は喜んでいただけましたか?」
「ああ、悪趣味極まりなかったぜ‥‥まだ、アリスの事を引きずってんのか?」
「当たり前でしょう。‥‥忘れられはしませんからね」
白衣の男は暫く軍曹と言葉の応酬を交わすと、灰になったキメラを一目見‥
「さて、技術を盗まれない為の破壊の手間も省けましたし、戻るとしましょう。‥‥また逢う事を楽しみにしていますよ。ショーン」
コートを翻し、後ろを向いて歩き出す。
「足りねえ‥まだ足りねえな」
と、獅子鷹が追おうとするが、それを軍曹は止める。
「‥‥やめとけ。こういう時アイツぁ特殊な装備を持ってきてるはずだ。うかつに手を出すと痛い目に逢うぜ」
「貴方のその個性的な顔は覚えました。次に会う時がとても楽しみですよ」
歯噛みしながら、ソウマは白衣の男の後姿に向かって、言い放った。
●End Game
白衣の男が帰ってから暫くして、おずおずと春奈が尋ねる。
「‥‥あのキメラの製作者とはお知り合いなのですか?差しさわりの無い所だけでも、お話していただけますか?」
暫く口をつぐんでから、口を開ける軍曹。
「ま、前も聞かれたかんな。今更隠す事もねぇか。 ‥‥アイツぁフェルナンデス・グローリア‥‥昔、俺の副官で、妹のフィアンセだった男だ」
「妹‥‥ですか?軍曹に妹が居たという話は聞きませんけど‥‥」
「軍の演習中に、死んだかんな。‥‥それがアイツが軍を辞めた原因だけど、まさかバクアに下ってたぁってな」
そうして、口をつぐむ。
「何れ、決着はつけなきゃ、ならねぇだろうな」
見上げた空からは、ポツポツと、雨が降り始めていた。