タイトル:【VA】悔い無き様にマスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/16 18:53

●オープニング本文


「は? 艦長‥‥、ですか?」
 昨年の傷も、もうすっかり癒えたマウル・ロベル大尉は、現在の直属上官であるブラット准将の言葉に、思わず問い返した。
「新造艦の指揮官に、君を任命する。艦名はまだ未定だが、ヴァルキリー級量産型飛行空母の一番艦だ」
 先のBV作戦で奪取された慣性制御装置の一つが、その建造に使われるという話はマウルも聞いている。性能としては、小型かつ個艦性能が劣るものの量産性の高いUK、と認識していた。
「傭兵との共同作戦も多いと想像されるが、君ならば問題ないという判断だ」
 ブラットの目を見返して、マウルは迷い無く頷く。
「わかりました。マウル・ロベル大尉、拝命します」
「よし。明日づけで君は少佐だ。こちらが、乗員の予定リストになるが‥‥」
 急なことで、まだ幹部クラスは手配が済んでいないという。そう告げる時のブラットの表情を、マウルは見逃しはしなかった。
「‥‥自分で連絡を取るように、と言う事ですね」

――――――

(「航空管制官は白瀬か‥無事に了承してくれるかしらね」)

 そう考えながら、メールボックスを開くマウル。
 そこには、白瀬留美(gz0248)からの返事が届いていた。

「航空管制官としての配属はオリム様からも聞いてるの。
配属は問題ないけど、一つ条件があるの。
士官学校の最終試験問題‥あれを、マウルさんが選んだ人たちでクリアして欲しいの。
私の成績を超えて、指揮官としてふさわしい所を見せて欲しいの」

「‥‥‥こんな挑戦を送ってくるなんて、何を考えているのかしらね」

 呟きながらも、マウルはその試験問題――いや、模擬戦シミュレーションのシナリオ、と言ったほうがいいか――を引っ張り出し、考え始める。

 状況自体は単純明快。目的は、テロリストに占拠された5階立ての海上客船で、できるだけ犠牲者なしにテロリストを制圧する事。
 ただ、面倒なのは、どれか一階でも連絡が取れなくなれば、他の階のテロリストは全員自分の隣に居る人質を殺害すると言っているのだ。

 過去の記録を漁るうち、マウルはとある記録にたどり着いた

(「ベストスコア、白瀬留美‥‥犠牲者1名。つまり、条件を満たすには‥犠牲者なしで制圧する必要がある訳か‥
ここは、やはり傭兵たちの助けが要るかしらね」)

 こういった特殊な作戦では、ULT所属の傭兵たちの方が正規の軍人よりも色々な技能を持っている分、適している。
 そう考えたマウルは、ULTに依頼を出した。

――――――

(「マウルさんが選んだ人なら、若しかしたら犠牲者が1名もなしに、あれをクリアできるかもしれないの。
そう言った命を大切にする姿勢が、艦長には必要だと思うの」)

 パタン、とファイルを閉じ、白瀬留美もシミュレーションを観戦するため‥‥部屋を出た。

●参加者一覧

麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
ジン・レイカー(gb5813
19歳・♂・AA
アリステア・ラムゼイ(gb6304
19歳・♂・ER
楊江(gb6949
24歳・♂・EP
YU・RI・NE(gb8890
32歳・♀・EP
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC

●リプレイ本文

●Open Combat
「ステップは全部覚えたか?」

 目標の客船へと向かうKV、ビーストソウルの中で、ジン・レイカー(gb5813)が軍から派遣された操縦者へと確認を取る。
 ビーストソウルの操縦者がそれに対し、静かに頷く。

 ―――雲が月を覆ったその一瞬、ビーストソウルが船の後方へ接舷する。
 と同時に―――

「皆さん、時計の設定をお願いします」

 アリステア・ラムゼイ(gb6304)を筆頭に、傭兵各員は時計を一斉に0時0分に合わせ、そして後方から縄梯子を利用し船へと搭乗する。
 直後、各々の担当階へと散っていった。

 テロリストの人数が少なかったのが幸いし、前方展望台からは見えない階段から‥‥傭兵たちは、それぞれの位置に着く事に成功する。
 そして、皆の時計が十五分を刻んだ、その一瞬――――

 ―――轟音と共に、船が揺れた。

「どうした!何が起こった!?」
「分かりません、この深さで座礁はありえませんので、何かがこの船に体当たりしたとしか―――」

 船長に銃を突きつけたテロリストのリーダー。だが然し、次の瞬間‥‥傭兵たちによる制圧は始まっていた。


●Level 1 〜In The Darkness〜
「さて、行きましょうか」

 暗視ゴーグルを目の前まで下げ、自らの身を黒いマントに包み‥‥貨物室に通じるハッチを静かに開けるリア・フローレンス(gb4312)。

「誰だっ!?」

 ハッチの開放される物音、及びそこから漏れる外光(忘れてはいけない。甲板上‥‥つまりハッチの外は、明るく照らされているのだ)により異常を感じ、銃を人質に突きつけたテロリスト。
 然し、次の瞬間、顎への強烈な衝撃によって、そのテロリストは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「必殺‥‥トンファーキック、一度やってみたかったんだよねぇこれ」

 リアが、猛然とスライディングし、停止する。迅雷を使用して一瞬で間合いを詰め、強烈な蹴りを叩き込んだのである。壁にもたれかかりながらも改めて人質のほうに銃を向けたテロリストの顔面に、ゾウキンシールドが降りかかり、その視界を覆った。

「人質を取って立て篭もりですか。昔能力者になる前にフリーの傭兵をやっていた事があるんですがね、僕も似た様な事をやった事がありましたよ。まぁ、その時の結果は‥‥聞かないでくださいね」

 迅雷で壁を駆け、、「抜刀・瞬」でアーミーナイフに装備を変えながらも接近したリアの振り下ろした右踵が銃を叩き落し、テロリストの喉にナイフが突きつけられる。
 流石に抵抗も出来ず‥テロリストは降伏した。

「こちら一階、リア。制圧と人質の救出、完了したねぇ」

 トランシーバーを通し、リアは仲間たちに連絡を入れた。


●Level 2 〜Behind The Window〜

 同時刻―――

「そこですか‥こちらを見ていないのが勝機と言った所ですね」

 事前に展開したGooDLuckと併せ、楊江(gb6949)の展開した探査の眼が、前方テラスに居る人質とテロリストの位置を捉える。
 息を潜め、力を溜め‥‥一瞬で窓を蹴り破る。
 大量のガラスが人質とテロリストに降り注ぎ、怯ませる。その隙に、楊江は全速で詰め寄り、銃を抜き―――テロリストの足を打ち抜く!

「ぐぁぁぁぁ!」

 痛みを耐えながら尚も人質に銃を向けるテロリスト。

「させません」

 腕に一撃を入れ、銃を叩き飛ばし、能力者の怪力を以ってしてその腕を折る。
 そして、押さえたまま口に雑物を詰め込み‥叫べなくした。

 馬乗りになったまま、楊江は機械剣で人質を縛っていた縄を切り裂く。
 周囲を改めて探査の眼で確認し、トランシーバーに手を伸ばす。

「二階、制圧終わりました」


●Level 3 〜Separated Rooms〜

 船が揺れた瞬間、テロリストが人質を拘束した両客室には、それぞれ麻宮 光(ga9696)と抹竹(gb1405)が突入していた。

「さて、これで一気にチェックメイトまで持っていこうか」

 既にピンを抜いてあった閃光手榴弾を投擲し、閃光を右腕とサングラスで遮断し、室内の全ての他の者の目が眩んだ隙を狙って一瞬で瞬天速で、テロリストの付近へと詰め寄る。そして、背を向けるような形で、全力で体当たりを行いテロリストを壁にぶつける!

「がっ‥‥!?」

 壁に背中をぶつけ、肺から息を吐き出したテロリスト。そこへ、更に追撃の拳を腹部に叩き込む光。
 だが、テロリストはこの一撃を食らいながらも、強引に右手を持ち上げ、光の右目に向かってトリガーを引いた!

「っ!!」

 疾風脚を使用し僅かに右にステップを踏んだ光の頬を、銃弾が掠める。

「懲りないな」

 高速の裏拳で銃を叩き落すと共に、頭突きを叩き込み一時的に平衡感覚を奪う。そして、裏拳を放った手で月詠を抜き放ち、テロリストの喉元に突きつける。

「このまま斬られたくなかったら、大人しくしていな」

―――――

 一方、抹竹サイド―――

(「流石に‥‥緊張しますね」)

 彼は突入前から警戒装置、罠に注意しながら前進していたため、作戦開始前に既に相当精神を磨り減らせていた。
 それでも、閃光手榴弾を抜き放ち‥‥突入の構えを取る。

 奇しくも、抹竹が取った作戦は、光の物と全く同じである。
 ドアを蹴り開け、閃光手榴弾を投げ込む。閃光で目が眩んだ一瞬を突き、拳銃ラグウェルでルーム内で唯一立っていた人物に向かって乱射を加える。

 だが、このテロリストは閃光からこのような事が来るのを想定していたのか、横に跳びベッドの裏に隠れる事で銃弾を回避した。

「くっ、外したか!?」

 素早く前へ駆け出し、テロリストが閃光から立ち直る前に人質を背中に隠しテロリストから遠ざける。
 そして、同様に人質を確保しようとテロリストが這って来た所へ――

「‥後輩の手前、失敗は無しで‥ね」

 銃のトリガーを引いた。そして――

「三階、部屋B‥制圧完了」


●Level 4 〜Final Bet〜 
「んじゃ、時間だし始めようか」

 ジンの言葉に、YU・RI・NE(gb8890)とアリステアが頷く。

「‥やはりこちらが唯一の入り口ですので、警戒されていますね」

 小さな鏡を使用し、カジノ内部の状況を伺うアリステア。テロリストたちがちゃんと『こちらを向いている』という事を確認し、ユリネが閃光手榴弾のピンを抜いた暫し後。揺れが船を襲うと共に、閃光手榴弾は投げ込まれた!
 閃光が一帯の視界を多い、その中をアリステアのパイドロスが猛然と竜の翼を使用し、テロリストに詰め寄る。

 ―――だが、ここで一つの誤算があった。

 テーブルなど、障害物が多い地帯で‥‥サイズが大きく出力も高いAU−KVが全速で移動すれば、どうなるだろうか。
 案の定、アリステアは付近のテーブルなどを全て突き飛ばす事となり‥それらは巨大な弾丸と化し、テロリストと人質たちに襲い掛かった!

「しまっ‥!」
「おいおい‥!!」

 ジンが素早く前に駆け込んでテーブルの下方へ滑り込み、裏拳でテーブルを逆に殴り飛ばす。
 だが、奇しくもこのテーブル砲弾が囮となり、テロリストの注意が人質から自らの身を守る事に逸れる。
 この機を逃さず‥ユリネの銃撃が、テロリストの一人の利き手に放たれ、その者が持っていた銃を打ち抜く。

「野郎‥!!」

 反応したテロリストのもう一人が人質を殺害しようと銃に手を伸ばすが、その腕は掴まれる。

「‥‥遊んでる暇はねぇんだ、おとなしく眠ってもらうぜ?」

 ボディブローを始動とした連続パンチを腹部に叩き込まれ、最後に頭部を壁に叩きつけられ、テロリストが気絶する。
 残った最後の一人の前には、アリステアが立ちふさがった。

「対テロリストの基本って‥‥妥協するな、容赦するな‥‥でいいですよね?」

 微笑むと共に、スコーピオンの銃撃が、そのテロリストの両手両足を打ち抜く。
 そこで、先ほどの銃を無くしたテロリストを片足で踏みつけているユリネが、トランシーバーで連絡を入れる。

「四階、制圧完了ね」

 その後、内通を疑ったユリネによって、人質の一人――カジノのディーラーがこってり絞られたが、それはまた後の話である。


●Level 5 〜Command Assault〜

 5階、芹佳(gc0928)が、手に持った蛍火を握り締める。
 もう直ぐ定刻、船が揺れれば‥その一瞬を突き、瞬間移動でテロリストを暗殺。それで終わるはずだった。だが―――

「‥誰だ!?」

 テロリストが人質である船長に銃を突きつけながら四方を伺う。
 どうやら直感――即ち探知能力に優れるスナイパーの能力者だったため、周囲に誰か居る事に気づいたようだ。
 隠蔽スキルを持たない芹佳には、探知を避ける手段はなかったのだ。

「さっさと出て来い。出てこなければこの場でコイツを――」

 どうするか決めかねていた所へ、船を揺れが襲う。
 この一瞬‥‥僅かにテロリストのリーダーの足元がグラついた隙を突き、芹佳は迅雷を発動し、居合いで横に武器狙いで薙ぎ払う!
 然し、テロリストは後ろへ仰向けに倒れるようにしながらも、両手の銃で刀を挟み込むようにして受け止める!
 武器同士が衝突し、火花が散るが――流れるような動きで芹佳は逆手の小太刀をで突きを放つ。しかしテロリストは挟み込んでいた銃の片方で刀を押さえつけ、もう片方の銃で小太刀に射撃し、その衝撃によって突きの軌道を弾くと共に蹴りを放ち距離を離す。

「能力者か。ならば交渉は破裂。このまま人質を――」
「させないっ!」

 片手の銃を人質に向けるテロリストに、芹佳は再度迅雷を発動、天井を駆ける様にしてテロリストの頭上へ移動、飛び降りるようにしてその銃に切り下ろしを加える!
 銃を破壊されはしなかったが、余りの衝撃力にテロリストはそれを手放してしまう。
 だが、そのまま振り返り横薙ぎに斬ろうとした芹佳の肩を一発の銃弾が打ち抜き、小太刀を手放してしまう事となる。その隙に、テロリストは片腕で船長を掴み、銃を突きつける。

「これで形勢逆転だな――っ!?」

 次の瞬間、テロリストは背後から撃たれていた。
 その一瞬で芹佳はまるで視界から消失したかのように急激に姿勢を低くし、スライディングでテロリストの足を払い‥首に向かって蛍火を振りぬいた。
 テロリストリーダー、『死亡判定』である。

「抹竹さん、ありがとう」
「心配になったから見に来て良かった」

 後方からテロリストリーダーを撃った抹竹が銃を仕舞い、改めてトランシーバーを取り出す。

「5階、制圧完了」


●Life of All
「皆、よくやったわね」

 マウル大尉が喜びの表情を浮かべ、傭兵たちを迎える。
 傭兵たち‥‥特に大尉を姉のように慕うアリステアや、光などは、微笑んでそれに返す。

「あなたも、これなら文句はないでしょ?」

 振り向いて聞かれた先に居た白瀬留美は――

「はいなの。これで、最後の心残りもなくなったの。皆様ありがとうなの」

 ぺこりと一礼する留美。

「さて‥肝が冷えましたので、暖めるために一献‥」

 と、ウォッカを飲もうとする抹竹だが‥‥「ちょ!」「それは不味いかもだよ」と、知り合いである光、芹佳に止められる事となる。
 ここでもう一つの『惨劇』を引き起こす訳には、行かないのだ。


 尚、追記しておくと、今回の演習において『負傷』『死亡』した各員は全て審判判定による物であり、実際にその状態に至っている訳ではないので、安心してほしい。