タイトル:【TG】恋人マスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/20 23:47

●オープニング本文


「‥これは、また奇妙な技術を使った物だな。フェルナンデス」
「‥お褒めに預かり、光栄ですよ。‥‥力だけを追い求める方々には、その力が己に戻ってくる場合はどう対応するのか‥興味がありますからね‥愛は熱き物、と言いますし、ね」
「貴様自身が、その力に溺れない様祈るよ」
「忠告として、受け取っておきますよ」

――――

 街郊外。
 先行するパトロール隊から「キメラを発見した」と言う連絡を受け、急行した能力者の1隊は、そこに奇妙な‥女性の形をしたキメラを発見する。
 パトロール隊からの重火器による攻撃を既に受けていたのか、多少その体表にはダメージの跡がある。
‥然し、そのパトロール隊のなりの果てと推測される、大量の焼き焦げた遺体が‥このキメラの危険性を示していた。

「強力な熱線攻撃みたいだな‥気をつけないと」
「打つ前に真っ二つにしちゃえばいいんだよ!」
「おい、まて!」

 若い能力者の男が飛び出す。隊長風の能力者の制止をも気にせずに、一直線にキメラに駆け寄り、スキルを発動して巨大な斧を横になぎ払う!
 その斧は呆気なくキメラの脇腹に食い込み‥キメラは苦悶の表情を浮かべた。
 然し、勝利を確信した能力者の男の微笑みは、次の瞬間、頭部と共に巨大なエネルギーによって消し飛ばされていた。
 その熱線は一帯をなぎ払い、能力者の全員に、重傷を負わせたのだ。

(「まさか‥こんな能力だったとはな。急いで本部に知らせねば‥っ」)

 隊長風の男は、本部宛てにメッセージを送る。
 直後‥キメラは男の背後に歩み寄り‥、槍になった右腕で心臓を一刺しにした。

 全滅したチームの最後のメッセージ‥「敵の能力は衝撃の熱への転換」を受け取ったULT本部は、それを踏まえて、再度討伐チームを募る。



 ―――一方、第1隊を壊滅させたキメラの体表の傷は‥既に、治り始めていた。

●参加者一覧

蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
メビウス イグゼクス(gb3858
20歳・♂・GD
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
夜刀(gb9204
17歳・♂・AA
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG

●リプレイ本文

●Ashes

 街の郊外。緩慢に前進していたキメラの前に、3人の能力者が現れる。

「エネルギーを跳ね返す‥‥単純な敵ほど対処が難しいものですね‥‥」

 ため息をつきながら、天剣「ラジエル」を一層きつく握り、水無月 春奈(gb4000)がキメラを睨み付ける。
 同じくその後方では、ファタ・モルガナ(gc0598)も同じ感想を持ったようだ。

「こいつは‥‥‥厄介だねぇ。自分の力が返ってくる‥‥正に因果、って奴だね」

 ため息を付いた二人に、ゆっくりと、然し確実に接近していくキメラ。が、その歩みは、蒼河 拓人(gb2873)による番天印での威嚇射撃によって、止まる事になる。

「‥これ以上は、させないよ」

 キメラにエネルギーを溜めさせないよう、ワザと直撃しないように発射した弾丸。
 直撃させない事を気にしすぎたせいか、掠りもしなかったのだが、それでもキメラの注意を引く事に成功した。
 キメラが自分たちの方に接近する事を確認して‥‥傭兵たちは、少しずつ、じりじりと‥後退を始めた。


●DigDug

 一方、何故キメラの前に現れた傭兵が『三人』だったのかと言うと―――

 ―――残りの三人は、『穴を掘っていた』からである。

「‥‥アフリカ、復興、ニ、必要、ナ、スキル、デス‥」

 せっせと事前に付近の街の建築会社から借りてきたスコップを振るい、地面を掘っているムーグ・リード(gc0402)。
 ‥どうやったら穴掘りがアフリカの復興に繋がるのかは良く分からないが。

「少し退いてください。一気に掘れないか試してみます」

 両断剣を使い、メビウス イグゼクス(gb3858)は大地を叩き割るようにして天剣「ウラノス」を振り下ろすが――
 その剣は、地面にヒビを入れたものの、とても塹壕と言える幅ではなかった。

「やっぱ地道にやるしかないな」

 その結果を見て、夜刀(gb9204)は穴掘りを続行する。
 できるだけ日当たりのない遮蔽物の多い所で行いたかったのだが、あいにく人気の少ない郊外では、その様な場所は少なかったのだ。
 斥候班が接敵する遥か前から開始した甲斐があり、斥候班がキメラと接触してから十分程の頃、六人が隠れるには十分すぎるほどの塹壕が出来上がった。

「さて、こんな物でしょうか」

 成果を確認したメビウスは、無線機を取り出し、もう片方の班に連絡を入れた。


●Pull!
「危ないっ!?」

 プリトウェンを掲げ、発射された熱線を弾く春奈。
 傭兵たちは直撃を入れていないが、周囲の光、熱を吸収したキメラは、そのエネルギーで1発、熱線を発射したのだ。
 ‥‥最も、衝撃を受けていないので威力は低く、春奈に簡単に弾かれたが。

 そこへ、メビウスからの連絡が拓人のトランシーバーに届く。

「準備は出来ました。こちらへ引いてください」

 それを聞いた拓人は残りの二人にハンドサインで引くよう伝え‥‥春奈は盾を構えたまま後退する。
 槍のような腕で追撃しようとしたキメラだったが、ファタの援護射撃がそれを阻み‥‥その間に春奈は槍の射程範囲外に脱出した。

 熱線が発射できるようになるまではまだエネルギーを溜めなければいけない。手札が尽きたキメラは、緩慢に、撤退していく傭兵たちの後を追うしかなかったのである。
 そしてその遥か前方に、先ほど傭兵たちが掘った塹壕が見え始めて―――


●Let the Fight Begin
「今です!」

 メビウスの号令と共に、今まで塹壕掘りに徹していた三人が飛び出し、キメラに接触する。

「キメラとはいえ、女性を斬るのは気が引けますね‥‥が、先ずは、その槍から置いていただきましょうか。」

 キメラの槍状の腕を狙い天剣「ウラノス」を横になぎ払う。
 が、金属音と共にその攻撃は弾かれる。

 ‥仮にも能力者の防具を貫き、殺害した武器である。そう簡単に切断はできないようだ。
 しかし、それでも重い一撃は、キメラの体を横に吹き飛ばす事には成功した。この隙に、斥候班の三人は塹壕へとダイブ、拓人が救急セットで先ほど熱線での一撃を受けた春奈に治療を施す。
 吹き飛ばされたキメラに向かって、事前に掘った連絡路を通り横の塹壕から出現したムーグが、大量の弾丸を浴びせる。エネルギー転換帰還など、明らかな弱点がないかを調べる魂胆だ。
 が、弾丸を浴びせても、キメラはそれ程怯んだ様子はない。どうやら外部から届く場所に弱点はない模様だ。

 一方、ファタと共に足を狙い前進を止めていた夜刀は――

「そろそろ来る‥‥後退しよう!」

 キメラが立ち止まったのを見て、塹壕へと引っ込む。
 それとと同時に、キメラから灼熱の熱線が放たれた!
 近接攻撃を行っていた為退避が他より遅かったメビウスの襟を掠めて地面を直撃した熱線。傭兵たち全員、その直撃を避けた物の‥‥ここで予想外の事態が発生する。

「皆、壁に触らないで!」

 急いで手当て中だった春奈を壁から引き離す拓人。
 そう。熱線の膨大な熱が周辺の地面を伝い‥‥塹壕の壁を驚異的な温度にまで熱していたのだ。
 しかも、ムーグやファタ、夜刀の散射と、メビウスの重い打撃で相当な衝撃エネルギーを溜め込んでいたらしく、掃射の如く放たれた熱線は止まらない。

「アフリカ、ノ、砂漠、ナミニ、熱、イ、デス」

 アフリカ出身のムーグでも慣れないほどの高温の中、傭兵たちの体力は少しずつ削られていく。
 頭上を熱線の掃射が通過しているため、脱出も不可能。‥最も、それが無くても、塹壕の壁を触れない為、脱出は難しいのだが。
 永遠とも思える一時の後、熱線が止む。

「流石に強烈ですね。被害が広がる前に倒さなければ‥」

 ある程度冷めた塹壕から、夜刀とメビウスが同時に飛び出す。
 メビウスは活性化を使用しながら、低姿勢でスライディングと共に大剣を横にし、キメラに引っ掛けるようにして切りつける!
 足を切断こそされなかったものの、大きくよろけたキメラをムーグの制圧射撃が襲い、更に強弾撃を掛けたファタの一撃が打ち据える!

「こっからが本番! モグラ叩きに付き合って貰うよ!」
「‥皆様、ニ、楽しイ、脳筋、ヲ、デス‥」

「人体の急所だ、ここを刺されたらどうかな‥?」

 完全に体勢を崩したキメラを次に襲ったのは夜刀。壱式を用いて、キメラの胸部に一直線に突き刺す!
 背後まで刀は突きぬけ、キメラの血が背後へ噴出するが、それでも絶命はしていなかったらしく、槍のような腕を振り上げる!

「しまったっ!?」

 刀が刺さった状態では回避行動もまともに取れない。夜刀は一撃を受けるのを覚悟したが‥‥

「やらせません!」

 春奈が、竜の翼を使用し接近し、天剣「ラジエル」を振るい槍を受け止める。その間に夜刀は退避に成功するものの‥‥連続で攻撃を受けたキメラは、またもエネルギーが十分に充填されていた。

「「っ!」」

 ファタの援護射撃が僅かにキメラの射線をずらした隙に、春奈は熱線を弾くようにして盾で防御、そのまま竜の翼を起動して塹壕に飛び込む。
 最初の一撃ほどのエネルギーは溜め込んでいなかったためか、今回の熱線発射は結構早く終了した。
 その間に先ほどムーグが通った連絡路でキメラの背後側まで移動したメビウスが、熱線終了と共に飛び出す!

「これで終わらせますよ‥セイクリッド‥‥ブラストッ!」

 十字型に放たれた衝撃波がキメラの背後に刻み込まれると共に、体当たりするように竜の翼で懐に飛び込んだ春奈も剣をキメラの体に突き刺し、動きを止める。
 そして――

「終わりだよ」

 貫通弾を装填した拓人のアラスカ454が、キメラの頭部を撃ちぬいた。


●End in Dust
「回収に行かなくていいのか?」
「‥‥その必要はありません。斃れた雷火龍が、私に良いアイデアをくれましたから。ご覧ください」

 キメラに接近し、回収可能な状態かどうかを調べようとした春奈。
 その目の前で、「ボン」と言う小さな爆発音と共に‥‥一瞬にして、キメラの体は灰と化した。

「毎度毎度、回収に行っては私も骨が折れますので。この機構のデータは、既にありますから」

 そう言って、小さなアンプルを隣の男に見せる、研究員、フェルナンデス・グローリア。

「なるほどな。それが例の男から提供されたものか」
「ええ。雷火龍の戦闘データを提供しただけの価値はありましたよ」

 そう言って、傭兵たちが映し出されたスクリーンを見つめるフェルナンデス。

(「実験もそろそろ大詰め‥‥もう少し、『協力』していただきましょう‥」)

 邪悪な笑いが、暗い研究室に木霊した。