タイトル:【十三】大蛇の幻マスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/27 14:26

●オープニング本文


「室長。『迦具土』のプロトタイプの測定スペックデータが届きました」
「‥3日前に完成したばかりだと言うのに、さすが効率がいいですね。他の各部のデータは?」
「殆ど取れました。後は組み立ててプロトタイプをテストするだけです。完成が楽しみですよね‥‥」

 部下の男の声に、開発室内の研究者が一斉にうれしそうな表情を浮かべる。
 厄介者として、ここに送られてきた彼らにとっては、自分たちの力のみで完成させたこの機体は誇るべき物なのだ。

 然し、その中でも唯一、室長‥音桐 令斗だけは、表情を変えなかった。

「‥‥直ぐにこのデータを基に、シミュレーターデータを作成してください。後ほど、傭兵たちに依頼を出し‥シミュレーターでの模擬演習を行って、反応を見ます」

 その一言に、開発室内のゆるんだ空気が一瞬にして、普段の緊迫した空気に戻る。
 各開発者たちは、せわしなくキーボードやコンソールの操作をこなしていく。それを見て、音桐は思いを巡らす。

(「この機体は直接戦闘向けではありませんが‥果たして、どうやってテストしたら良いでしょうか」)

 暫く考えた後、音桐の頭の中に、とあるシミュレーターの設定が浮かんだ。

 ――――

 後日。

「室長。残念ながら、シミュレーターの4基にしか、データは実装できませんでした。流石に作業量が‥‥」

 既にこの3日で、疲労によって開発室の三分の一の開発員がダウンしている。これ以上強行すれば、テストのデータ採取に支障が出る可能性もある。

「‥仕方ありませんね。模擬戦形式で、残りの4基には傭兵たち自身の機体データをコピーしてもらいましょう」
「それでは、余りにも性能差が出ませんか?」
「‥オロチのデータに、相手に応じた改造度を追加すれば問題はありません」
「了解です」

そう言って、部下の男はまた設定の為にシミュレーター室へと向かった。

●参加者一覧

大河・剣(ga5065
24歳・♀・BM
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
アキ・ミスティリア(gb1811
27歳・♂・SN
賢木 幸介(gb5011
12歳・♂・EL
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
有栖 真宵(gc0162
17歳・♀・SF

●リプレイ本文

●Open the Field
「僕自身諜報畑が出身なものだから、火力より支援に興味が湧くのでね。宜しく頼むね」

 音桐とは初対面となる錦織・長郎(ga8268)、先ず挨拶する。
 他にも既に面識がある守原有希(ga8582)が前回同様屋台でせっせと料理の準備を始めている。
 音桐はそれを見て、屋台の上にある「ある物」に興味を持ち―――
 『ぬいぐるみ」に手を伸ばしかけた所で、有希がそれを素早くひったくる。

「え‥‥あ‥早うご飯食わせんばね!」

 しどろもどろになって料理して誤魔化す。見られたくない物だったらしい。
 その隣から、賢木 幸介(gb5011)が歩み寄る。

「シュミレーターまで来たんだな‥完成まで漕ぎつけりゃいいな」
「そうですね‥パーツが揃えば‥」

 ここで、研究員の一人が扉を開け、大声を張り上げる。

「室長! シミュレーターの準備ができましたよ!」
「やっとですか‥‥それでは皆様、行きましょう」

 その後ろから、もう一人の整備士風の男が‥‥同じく整備士の格好をした、夢守 ルキア(gb9436)を丁度首根っこを掴む形で連行してきた。

「室長。コイツがどーしても新型機の整備、見せてもらいたいんでさ」
「‥それは困りました。まだエンジン他のパーツがこちらに到着していないので‥‥」

しょんぼりするルキアの肩を、音桐がぽんと叩く。

「まぁ、その分、シミュレーターでこの機体のよさ、体験してもらうとしましょう」



「各システムチェック。計器類から問題はありません」

 アキ・ミスティリア(gb1811)がシミュレーターの状況をチェックする。

「それは良かったです。新型データ使用のお二方はどうでしょうか?」
「特に問題は見当たらないね」
「大丈夫、好調だぜ」

 新型機搭乗の二人、長郎と大河・剣(ga5065)がそれぞれ返事を返す。

「行こうかイクシオン―――私はイクシオンの手助け、イクシオンは私の手助けだよ!」

 掛け声と共に、ルキアはシミュレーター内の自機を発進させる。
 それを合図に、他の3機も次々と発進していく。


●Aerial Hydra

 発進直後、緩速で中距離を維持しようとしているアキに対し、ルキアは一直線に猛進する。

「来たみたいだぜ」

 カメラを使うまでもなくそれを発見した、開始直後から空中に居た大河は味方の盾になるべくアキの前方へ移動。アキ機は大河機を囮にし、ルキア機に対し対空機関砲で掃射を加えた。
 が、然し、流石に回避に優れる骸龍をベースにしたルキア機『イクシオン』、その攻撃を右ロールで回避し、急激な方向転換で逆方向へ揺れるように動いて大河のシールドガンによる攻撃をも回避する。
 ここで、味方を援護する為、長郎がこの機体の特殊装備の一つ‥炸裂ブースター「迦具土」を発動。

「くっ‥流石の加速だね‥っ」

 巨大な爆発音と共に、新型機が急速で加速され‥多大なGがコックピットに居る長郎に掛かる。
 ‥能力者だからこそ耐えうる加速である。一般人ならば、ただでは済まなかっただろう。
 急激な加速で水面を突き破り、水面から出た瞬間翼を広げターンし、ルキア機の横に取り付くようにして合流する。
 僚機の合流を確認したルキアはそのまま――

「これでどう?」

 煙幕弾を射出し、そのまま突撃を仕掛ける。
 が、同時にアキも煙幕下での煙幕銃を発射。直ちに一帯は大量の煙に包まれる事となった。

「流石にこうも煙が濃いとね。‥予測によると、そこですかね」

 カメラによる継続的な撮影は濃煙によって遮られた物の、長郎は演算システムを起動、現在までに記録した機動によって大体の敵の場所を計算しようと試みる。
 その情報を受け取ったルキアのRP1マシンガン掃射が‥‥機動能力で劣るアキのウーフーを捕らえる!

「くっ‥当たりましたか」

 直後、機動能力に任せ大きくループを描いて掃射範囲から脱出した大河が、カメラで煙幕内に不自然な場所を発見。
 データリンクを通じてアキと情報を共有すると、シールドガンとミサイルをタンデムで前方に大きく突出している方の機影‥‥ルキアのイクシオンに向かって発射した!

「っ! あれ‥‥あんまり揺れない?」

 何発かルキア機を直撃した弾丸は、然し大したダメージには至っていない。
 新型は元々攻撃用に調整されている訳ではないため、SESの出力は低いのだ。
 続いて襲来するホーミングミサイルは、長郎が機体の腹を向けたままルキア機の前方を横切り、代わりに受ける。
 シールドガンよりも威力が低い攻撃であった事も相まって、新型機の装甲にかすり傷が付いた、程度のダメージでしかなかった。

 ここで、煙幕が海上に吹く海風により晴れる。
 同時に、新型両機のカメラに捉えられた映像も、より鮮明になる。
 自らのスクリーンにも映し出された映像と、その後の移動予測図を見て、アキは――

(「ほう‥全機の機動予測ができるのですか」)

 その予測に則り、長郎がルキアの前方を離れた直後、発射したレーザーカノンの光条がルキア機を捉え、大ダメージを与える。バランスを崩したルキアのイクシオンに更に追撃を加えようとするアキだったが、下方、丁度大河機からはアキ機によって死角になっていた場所から、スラスターライフルを連射しながら長郎機が突進する。
 それでもアキ機の装甲に傷をつけた程度だが、機体自体を揺らし、照準をずらす事に成功する。
 そして、ソードウィングごと体当たりを仕掛け、ダメージと共にアキ機のバランスを大きく崩す。
 ここで体勢を立て直したルキアがアキ機に戦車砲で追撃しようとすると‥大河が強引に機体を盾にし、戦車砲を防ぐ。
 機体へのダメージは低かった物の、衝撃で機体が大きく揺れ、そのままアキ機に突っ込んでしまう。

 好機と見て追撃しようとした長郎だったが、直後――

「練力切れ、ですか」

 初期に迦具土を起動し練力を消耗した長郎機は、連続で撮影システムを使い続けた事も相まって、練力が底をついたのであった。
 ルキアも状況が不利だと見て撤退した直後――

「こっちもギリギリかよ‥」

 大河機の練力も、20%を切っていた。


●Intermission

「お疲れー。とりあえず食事でも」

 鯛の塩釜とご飯を抱え、有希がやってくる。
 が、

「僕は遠慮しておくね」

 試作機の迦具土による強烈な加速を味わった長郎は、とても飯が喉を通らず、

「俺はコーヒーでいいよ」

 迦具土を使わなかった大河も、とりあえず食事はせずにコーヒーを飲むだけとした。

「それでは、水中戦の方々、どうぞ」

 役割が入れ替わり、ルキア、アキ等はそのまま食事をしながら、スクリーンからシミュレーターの様子を見る事となった。


「準備、できました。特に異常は見当たりません」
「こっちも大丈夫っぽいな」

 次は水中戦のテスト。先ずは新型機に乗り込む古河 甚五郎(ga6412)と幸介が、それぞれシミュレーターが正常に動作している事を確認した。

「こちらも大丈夫ですね」
「ボクの方も確認済みです。では賢木さん、ナイト役よろしくお願いしますね」

 自分の機体にそのまま乗る有栖 真宵(gc0162)と有希も計器類のチェックを完了させる。

「それでは、水中戦シミュレーション、スタート」

 音桐室長の合図と共に、シミュレーションが開始された。


●Ocean Hydra
「とりあえず、様子を見ようか」

 水中キット装備による移動力低下のため、真宵、幸介組みはその場に留まり、両機のカメラ、センサー、ソナー類の全てをリンクさせて索敵に専念する。
 一方、両方共に水中機である甚五郎、有希組みは、深海へと潜行、甚五郎はカメラ用の練力を節約する為全センサー、ソナーを有希側と同調する動作を取った。

「流石に遅いっぽいですね」

 深海でのオロチの緩慢な前進に、甚五郎がやや苛立つ。
 この時点での実測速度は、水中キットとダイバーフレームを装備した真宵機と変わらない事が、外部からの音桐の測定で分かった。

 両チームがお互いをソナーに捉えたのはほぼ同時。

(「この水深では水が濁っていて、カメラシステムはソナーほどのサーチ距離は出ないな」)

 この時点でも、幸介機のカメラは目標を明確に捉えることはできなかった。

「カメラがまだ捉えられてないんでソナーのデータ頼りだが、予測データを送る」
「了解。そのポイントへ攻撃を仕掛けます」

 真宵のブリュンヒルデはDM5B4重量魚雷を転送されたポイントへ発射。有希は回避行動を取るが、完全には回避しきれず一撃を受けてしまう。
 が、然し、真宵のブリュンヒルデは元より物理攻撃には適しておらず、有希のRumbleEdgeに大きなダメージを与えるまでは至っていない。

「深水域では回避能力が低くなるので不利ですからな。浮上しましょう」

 オロチのペナルティを軽減させるべく両機共に浅水域へ浮上。二チームの間の距離が大きく減少する事となり、近距離兵器の射程内になる。
 ソナーでカメラの有効範囲内である事を確認した甚五郎は撮影システムを起動するが、常時カメラを起動させていた幸介の方が先に甚五郎、有希を同時に捉え、予測データと共に真宵へ転送する!

「先に叩かせてもらいますよ!」

 高分子レーザークローを起動して、有希機へ一撃を叩き込む。
 SESエンハンサーを起動しようとした物の、空陸用機体のSESシステムでは十分な空気を取り込めず失敗した。
 が、それでも高分子レーザークローはRumbleEdgeの装甲を切り裂く事に成功した。元から機動力が余り高くない機体なのだ。更に演算システムで予測されていれば、その一撃を回避するのは困難極まりない事である。
 アンジェリカの高い知覚能力が如何せんなく発揮され、大きなダメージを与える。

 ――だが、攻撃を受けた一瞬と言うのは、同時に反撃のチャンスでもあるのだ。
変形し、スクリュードライバーを猛回転させ、RumbleEdgeの腕が猛烈な機体の加速を伴って突き出される。
 幸介機を盾にしようと真宵のブリュンヒルデが移動するものの――

「隙、ありすぎですな」

 撮影システムを展開した甚五郎のガウスガンが移動を阻害するように射出され、行動予測データを受け取った有希機がスクリュードライバーの軌道を曲げ、激しくアンジェリカの装甲を削る!
 この一合での被害は、ほぼ痛み分け。
 両者とも相手側の命中力に対して機動力が劣っていた為、撮影システムの効果はそれほど良く判断できなかったが。

「今が追い込み時だな」

 この状況を見た幸介が、大量の熱源感知型ホーミングミサイルを有希機に向かって発射。直撃を受けた有希機は、ダメージがそれほど深刻ではない事を確認し、こちらもホーミングミサイルで撃ち返す。
 練力節約の為、甚五郎が一度演算装置を切ったのが災いしたのか、これは幸介機に回避されてしまう結果となる。しかし――

「‥最初から飛ばしすぎたか」

 ここで、ずっと演算装置を酷使し続けた幸介機の練力が底を付いた。行動不能となった幸介機は、シミュレーターから排除される。
 続いて、甚五郎が新型機と言う盾を失った真宵機に向かってガウスガンで牽制射撃。真宵機は水中用アサルトライフルで応戦するが、演算システムのサポートを失った状態では高機動の新型機に当てる事は出来なかったようだ。
 応戦に気を取られたブリュンヒルデの下方から、潜行していた有希機が変形、スクリュードライバーを突き出し一直線に上昇する!

「きゃぁぁ!?」

 奇襲の直撃を受けたブリュンヒルデの損傷度は50%を超えていた。
 ここで戦況を見て、甚五郎、有希側の優勢を確信した音桐は、シミュレーション中止の命令を下した。


●Personal Hydra

 午後。各員休憩と食事を取った後、希望者による新型機の試乗テストが順番に行われた。

 甚五郎は、各種の実戦シチュエーションに合わせた試験を希望していた。
 開発室側は可能な限りそれに協力した物の、味方機やソナーブイの情報をシミュレーター内で完全に再現するのは難しく、部分的なデータしか取れなかった。
 パッシブソナーで伏撃するシナリオは成功した物の、迦具土の稼動音の大きさから予想以上に大範囲の敵を呼び寄せてしまったようではある。
 参番艦が浮上するシナリオに於いては、無事海上戦へ移行、特に問題もなかったようだ。

 長郎は主に水中でのブースト関連のテストに重点を置き、水中での機動性を確認する。
 ただ、やはりスラスター閉鎖が影響しているのか、ブーストしても速度はあまり上がらなかった。

 アキは、模擬戦では行われなかった、空中からの着水のテストをする。
 やはり空中から水中へ侵入する際は著しい減速が必要で‥丁度通常のKVが着陸する時と同様、と言う事らしい。
 また、水中では可視度が著しく下がる為、水中模擬戦の際にもあった「かなり近づかないとカメラが相手を捉えられない」と言う問題が存在していた。


●Wish List

 その後、傭兵たちから、順に音桐に対して提案が上がる。
 有希とアキは、深水域における機動性の低下が気になるようだ。

「支援機とはいえ前線に立たされる機体ですし、現行軍を行う際に支障が出る程だと少々実用性に疑問が生まれますね‥‥回避に関しては妥協範囲だと思っています」
「移動低下は孤立化をも招き、命取りになりかねません。移動だけでも低下阻止をお願いします。」

「‥分かりました。スラスターの調整で何とかしてみましょう。その場合は、更に回避機動に支障が出る可能性はありますが‥」


「思ったんだけどこれって、データの蓄積で更に回避を下げるって、出来ねえかな」

 とは、幸介の意見。が、音桐はスクリーンに、とあるグラフを映し出す。

「現時点の計算領域使用率です。既に90%を超えていますので、これ以上の計算を詰め込むのは、やや無理があるかと思いますよ」
「そうか‥」

 残念そうにしながらも、幸介は引き下がる。

 次に甚五郎。

「『投下魚雷』を推奨兵器で切望します。爆雷積むの、きついですからね」
「検討はしてみますが‥‥必要性が余り見当たりません。と言うのも、この機体ですから、水中からそのまま魚雷を放てばいいかと思いますが‥」

 最後に、ルキア。

「練力がもっと欲しいかなぁ、思ったより練力使うみたいだし」
「現在練力タンクの拡張については研究しています。が、他に影響が出る可能性もありますので‥」
「武器と言えば‥ねー、空と海と使える武器とかどうかなぁーと、言うのを武器開発のヒトに言っちゃって!」
「無論、研究していますよ。ただ、模擬戦で見れた通り、SES出力が非常に低いです。なので、主に煙幕弾など補助用の武器を考えていますよ」

 有希が作った料理を食べながら、その後も討論は続いていく――


●Name the Machine
 別れ際、音桐が、傭兵たちから受け取った、投票結果を発表する。

「‥微差ですが、オロチ4、ワダヅミ3、棄権1で、正式名称がオロチとなります」

 パタンとファイルを閉じ―――

「完成まであと少しですので‥開発室一同、努力していきますよ」