●リプレイ本文
「これでもう模擬戦ったぁ三度目だがな。ま、見ねぇ顔も多いみてぇだし、よろしくお願いすっぜ」
軍曹の軽い挨拶と共に、各ペアがそれぞれの相手へと散る。
今回は前二回と違い、SES出力を弱めているとは言え、それを切らず、各員が寸止めする事に賭けたある意味危険な勝負である。そのため、メディックが横に控えており、またいざと言う時に止めに入るため、他の隊からも応援を呼んでいるのだ。
●武、章vs時枝、桐生
第一組。傭兵側の希望で障害物が全く無いフラットなステージに立ったのは、時枝・悠(
ga8810)と桐生 水面(
gb0679)。そして反対側から上がってきたのは、軍曹の小隊でも近接攻撃に長けた、武 飛と、章 文徳の二名だ。
「お手柔らかに頼むよ、お兄さん?」
「おいおい、俺は兎も角‥コイツはお前たちと同年代だぜ?」
章を指して、武が薄く笑う。ここで意外な事実が判明した。章は意外と若いらしい。
「ま、無駄口叩いてないで、さっさと始めようか」
「そんじゃ、まずはうちから仕掛けるで!」
そう言うと、水面は小銃「ルナ」を抜き、武に向け射撃を加える。素早く体を捻って回し、それを回避する武。その隙に猛然と章が突進し水面を狙うが――
「通しはしない!」
悠、流し斬りをかけた紅炎を横に振り、章の突進を阻む。そのまま、強大な力で章を押し返す。
「へぇ‥中々やるじゃないの」
それを見た武が、前進しながら剣の間の鎖で章をキャッチ。そのまま地面についた章と共に、両側から悠に襲い掛かる。流石に両方からの同時攻撃には、悠の流れ斬りでも対応しきれない。だが、水面がルナで章を迎撃、その間に悠が武の攻撃を受け止める事で耐えた。少なくとも、一瞬はそう見えた。
「オラァァァァァァァァァ!!」
ルナでの迎撃どころか、悠の二段撃で手数を増やし、余った手数を回してきた剣撃すら気にせず、章は一直線に水面に双剣ごと体当たりを仕掛ける。
「くう‥ッ!」
自身障壁を展開、身体能力を強化して章の体当たりを受け止める。が、ファイターの豪力発現まで注ぎ込んだ体当たりを無傷で受けれるはずはなく、そのまま地に押し倒されてしまう。
「桐生!」
「余所見はいけないぞ?」
僅かにそちらに気を取られた一瞬に、武の持つ剣の間の鎖により紅炎を持つ腕を絡め取られた悠。直ぐに逆手の月詠で鎖を払うが、その間に脇腹、及び肩を一回ずつ刺される結果となる。
「まだまだ!」
だが、それは大したダメージを与えてなかったようだ。直ぐに交差で二刀を横に払い、武を弾き飛ばした。二刀を鋏のようにして首を狙い、水面の小銃と鍔迫り合いを繰り広げていた章だったが、流石に無防備の背後から剣を振り下ろされたら避ける、程度の分別はできていたようだ。バク転して、ぎりぎりで振り下ろされた悠の剣を回避する。
「そろそろ時間や、時枝さん!」
飛び起きた水面は叫ぶと共に、作戦の最初にピンを抜いておき‥‥隠しておいた『閃光手榴弾』を真上に投げる。閃光と轟音が辺り一帯を包み、事前に対策を行っていなかった武、章はそれぞれ怯む。そこを狙って、悠と水面はそれぞれ別の相手を狙って走り出す。水面は、近接武器である双剣「ピルツ」を抜き払った状態だ。
「ちぃっ‥!」
閃光手榴弾で視覚のみでなく、聴覚をも潰された武は、自分にだけ聞こえる舌打ちを漏らす。そして、心を落ち着かせ、静かに周囲の風圧を感じる為「触覚」にのみ精神を集中させる。そして――
「そこかっ!?」
流石に触覚しか頼れない状態で、武器での受けの成功率は低い。そう判断した武は、敢えて右足を盾にして、低姿勢で襲い掛かる水面の斬撃を受ける。足に激痛が走るが‥‥
「‥これで十分、場所が分かるってもんだ!」
そのまま両方の剣で刺すように下に向かって突き下ろす。
「小細工なしやからな!!ガンガン行くでっ!」
「残念。こっちは小細工、あるんだよ」
応じて双剣で瞬即撃を使い突き上げた水面の双剣を、武は回避しようともせず、『両肩で受けた』
「やっと目が見えてきたぜ」
武器を両肩に突き刺したままの水面に対し、武はそのまま鎖を首にかける。
「鎖ってのは、こう使う事も可能なんだよ!」
そのまま一本背負いの形で、鎖を水面の首に引っ掛け、地面に向かって投げ倒す!覚醒した能力者にとって、SES搭載でも無い、地面に衝突したくらいで大きなダメージを受けることはない。が、それでも同じ能力者のパワーで投げられれば、その衝突のショックで短時間動けなくなる事はある。
そのまま剣を振ろうとした武だったが、その首筋には悠の紅炎が突きつけられていた。
「‥‥こりゃ参った。俺たちの負けだな」
見れば、章は既に近くで倒れ伏している。攻撃に優れているとはいえ、総合実力で上回る悠と最初に負傷した状態で1対1で戦うのは、流石に荷が重かったようだ。2対2の勝負ならばまた連携などで違っていたかもしれないが、この様に連携を引き剥がしたのが、悠、水面ペアの勝因と言えよう。
●令、デルカルロvsレイヴァー、セレスタ
「今回はよろしくお願いしますね」
「あん時の銀髪の嬢ちゃんか。手加減はしねぇぜ?」
先ずはお互い面識があるセレスタ・レネンティア(
gb1731)とデルカルロ軍曹がフィールドに入り、その後に続いて令、レイヴァー(
gb0805)の2名がそれぞれ上がる。
拳をグキグキ鳴らし、特製のグローブを嵌めてからウォームアップを行っている軍曹とは対照的に、令は飽くまでも自然体のまま、その場に立っている。それを見つめるレイヴァーの目には、静かな火が灯っていた。
開戦の合図と共に、二手に分かれて傭兵側と距離を縮めようとする軍曹と令。レイヴァーは苦無を連投、セレスタはライフルで射撃する事により、傭兵側はその前進を阻害する。
「ちっ‥近づかせないつもりか。令! 『Rail Train』だ!!」
軍曹がそう呼ぶと、令は静かに頷き、軍曹の『背後』へ走りこむ。そして軍曹は両腕を目前に構え、ボクシングのガードのポーズを取って急所を護ると、令と共にそれぞれ『瞬天速』『迅雷』を発動。まるで高速列車のように、一瞬でセレスタの目の前へ猛進する!
「嬢ちゃん、悪いがさっさと退場してもらうぜ!」
軍曹が両手でそれぞれ腹と顔狙いの貫手――空手で言う『山突き』の変則版のようなものか――を繰り出すと同時に、軍曹の背後から令が迅雷でセレスタの背後へ移動、肘から隠した刃を出し、肘撃ちのような形でセレスタを狙う。この二面同時攻撃を回避できる方法は――
「前回の雪辱、晴らさせて頂きたいので。まずは僕にお付き合い願いますよ」
前回の模擬戦で令に一敗を喫したレイヴァーが、素早く間に割って入り、二本の蛇剋で令の刃を受け止める。同時にセレスタも、ライフルを大きく振り上げ、軍曹の両手を同時に弾く。
「伊達に軍で訓練を受けたわけではありません」
そのままライフルを投げ捨て、セレスタは素手での軍曹との格闘戦に移行する。
令の刃を受け止めたレイヴァーは、二本の蛇剋を怒涛のように振り回し、手数で令を圧しようとする。が、動き自体はレイヴァーよりも緩慢とは言え、武器の『数』では、令の方が圧倒的に有利である。それでも、レイヴァーとて一度相手の手の内を見ている以上、刃の場所は大体把握しており、前回のように不意打ちを受けることも無い。
二人の交戦は、お互い相手の防御を打ち崩せず、体力を消耗しあう膠着戦に陥った。
セレスタと軍曹の方は、流石に軍曹の方が無手での格闘戦に一日の長があるようだ。しかも、軍曹の方はSES兵器である手袋をつけているのに対し、セレスタの方は完全に素手。そのせいで、段々とセレスタの方が押されていた。
(「流石ですね‥ですが!」)
セレスタの目的は、素手での格闘で軍曹を圧倒する事ではない。
軍曹が自分の首を掴みに来たその一瞬を狙い、両手で軍曹の腕をそれぞれ掴む。そして、腕を掴まれ軍曹が無防備になったその一瞬こそが、セレスタ、レイヴァーペアの狙いだったのだ。
(「今がチャンス‥!」)
事前から令と軍曹の間‥つまり『令よりも軍曹に近い』位置に陣取るよう立ち回っていたレイヴァーは即座に反転。瞬天速で軍曹に詰めより、首を狙う! その動きに気づいた令も同時に反転するが、距離、及び反応速度の差から、僅かに遅れる。 令も接近してくるのに気づいたセレスタは、クルメタルP−38‥は持ってきてないのでハンドガンを抜き、令を迎撃する。
―――銃を抜く為に、掴んだ軍曹の左手を離して。
「危ねぇ危ねぇ‥そうら、よそ見しねぇほうがいいぜ!」
間一髪で、セレスタが離した左手で、喉元に迫ったレイヴァーの蛇剋を持った手を掴んだ軍曹。令を連射で撃退し、振り向いた直後のセレスタに向かいレイヴァーを投げつける!
急遽頭を逸らし、レイヴァーとの衝突を避けたセレスタだが、直後その目前には、軍曹の頭が迫っていた。
「手掴んだからって、甘く見るんじゃねぇぞぉぉ!」
連続の頭突きにより、軍曹の右手を掴んでいる手も一瞬緩まる。――本来は『豪力発現』を使用して掴むはずだったのだが、そのスキルをセットしていなかったので、掴む力が弱かったようだ。右手をもロックから抜け出させた軍曹は、そのままセレスタの首を掴んで、背負い投げに持ち込んだ!
受身を取り、足で着地する事により衝撃を減らしたセレスタ。ククリナイフを抜き、体勢を立て直す。だが、視界内に軍曹の姿はない。
「ここだぜ!」
上空から響く声に振り向くと、軍曹が上から重量を乗せた踏み潰しをしてきた所だった。ククリナイフで蹴りを受けとめ、軍曹の頭に向かって射撃する。が、それを頭を逸らして回避され、そのまま地面に押し付けられ拳を突きつけられる。ここにて、セレスタのリタイアが確定した。
「‥っ!」
瞬天速で至近距離に詰めより、蹴りで令を吹き飛ばし、反動で再度軍曹に襲撃するレイヴァー。セレスタを投降させた直後の僅かな隙を突き、軍曹に一撃を入れ、そのまま首に剣を当てることに成功する。
だが、直後に瞬天速を再度起動した令により背後に詰め寄られ、ハサミのように両手の刃で首を挟まれる事になる。
「ま、普通なら引き分けでもよさそうなもんだがな。残念だが、ここで全員が動けば‥令だけが生き残るだろうからな。」
「軍曹がそう命じれば、私は戸惑いなくこの刃で斬りますよ」
かくして、この勝負は、軍曹側の勝利となった。意表をついての奇襲は良かったのだが、セレスタの装備、スキルのセットミス、及び令を迎撃する為片手を離してしまった事が敗因となった形である。
●鉄、王vsクラリア、ナンナ
一方、クラリア・レスタント(
gb4258)、ナンナ・オンスロート(
gb5838)の二人は、鉄 虹、王 天居とそれぞれ相対していた。
フィールドは、クラリアの希望により、コンテナをまるでジャングルのように大量に配置した、人工的な迷路状態だ。
このフィールドで、クラリアは鉄、ナンナは王と相対していた。これは、最初に鉄が段々と盾を構えて前進していた所で、ナンナが竜の咆哮で鉄を弾き飛ばし、直後王に迫ったからである。
(「力さえあれば、死なない。力さえあれば‥『あの人』もきっと護れる」)
クラリアは、地形を十分に利用し、大盾を持つ鉄が素早く動けないのを利用し、奇襲を仕掛ける。先ずは小銃S−01で弾幕を張った直後‥‥スキルをフルに使用し、一瞬で目の前に迫り、烈風のような攻撃を仕掛ける。それを最小限の盾の移動でギリギリで防御するが‥
「そう簡単には捉えさせない」
「‥一撃離脱か‥!」
直ぐに迅雷で離脱し、障害物の裏に隠れたクラリア。それに対し、鉄はゆっくり近づくが‥
「甘い‥!」
鉄に完全に道を塞がれる前に、クラリアは再度同様の手段を以って襲撃を仕掛ける。
それを再度防ぐと共に、鉄はクラリアの行き先に向かい、盾を前にして体当たりを行う!
「‥っ!」
迅雷の移動速度に追いつけるはずがなく、鉄はクラリアの隠れたコンテナに轟音を上げて衝突する。その威力を見たクラリアは汗を拭くと、コンテナの背後で次の仕掛けに入る。
直後、僅かな動きを察知した鉄は――
「そこか!」
猛烈に突進し、角に向かって盾のブレードをなぎ払う。が、バンと言う音と共に盾に何かぶつかっただけで、そこにクラリアの姿はなかった。
「花火‥!?」
(「成功したね」)
既にその場から離れ、ナンナとの合流に向かっていたクラリアは、微笑を浮かべた。
一方、ナンナを相手にした王は、それ以上に苦戦していた。AU−KVの装甲に包まれ、それなりの防御力を持つナンナは、装輪走行で重戦車のようにコンテナのジャングルを回る。障害物のせいで最高速度は出せないとは言え、近距離に近寄られ狙撃銃が使用できない王にとっては、十分脅威であった。
実際、今も狙撃銃から分離させた二丁拳銃でギリギリでナンナの太刀筋をずらし、受けているのだが‥銃は元々受けに適した武器ではない。それでも致命打を受けていないのは、軍曹直伝である『受け流し』の技術のお陰である。
(「‥まるで亀を引こうとする鼠の如く、手の出しようがないな」)
中国のことわざを脳内に浮かべながら、王は次の策を思案する。
そして、意を決すると、ナンナがUターンし、再度突っ込んできた所へ、足元にあった狙撃銃をナンナの顔面に向かって蹴りつけた!
「っ!」
視界を覆われたナンナは、急いでその狙撃銃を大剣で叩き落す。が、そこに王の姿は既になかった。
(「武器を囮にした価値は‥あるな」)
その一瞬に横のコンテナ裏に飛び込むと同時に『隠密潜行』を起動、気配を消した王。静かに、先ほど聞こえた戦闘音を頼りに、鉄に合流する為前進していく。
この状態に至ると、ナンナがクラリアの行動音を隠す為あえて調整しなかったAU−KVの稼動音が仇となる。ナンナは王の気配が察知できないのに、王はその稼動音からナンナの位置が大体判明できるからだ。
コンテナの上方に上り、一瞬王の位置を確認しても、重量による上り下りの遅さ、及び移動スキルの欠如によって、そこにたどり着く頃には、既に王は別の場所へ移動していたのだ。
そして‥
「王。狙撃銃どーした」
「囮に使った。どうせこの場面では使えないからな」
鉄と王が合流し、
「すみません、取り逃がしてしまいました」
「仕方ないよ、地形を利用して逃げるとは思わなかった」
ナンナもクラリアと合流する。
以降、お互い遭遇戦を繰り広げるが、ナンナのSMG掃射では鉄の防御は破れず‥‥王は銃撃の対象をクラリアに絞り、奇襲されることを阻害するが、クラリアもナンナの後方に隠れる事によりそれを回避する。戦闘はこのまま膠着状態に入り、終には‥‥
「引き分けだなこりゃ。このままじゃマジで日が暮れちまうぜ」
軍曹が戦闘中止の指令を下し、この一試合は引き分けとなった。