タイトル:【銃医】戦場で救うものマスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/03 10:44

●オープニング本文


「全く、最近はつくづく不運だな」

 毒づきながら、傭兵たちと共に医者、呉 方正が山道を駆け上る。
患者の一人が、どうやら診療所に向かう途中で倒れたらしいのだ。‥‥‥最悪な事に、キメラ出現地域の端の方で。
 方正はまた一人でそこへ向かおうとしていたが、前回の事件(【銃医】病に冒されても)を鑑みた看護婦の胡が急いでULTに連絡し、派遣された傭兵たちが途中で方正と合流する事に成功。今まさに、患者が通るべきルートを逆に向かい、探している最中だった。
 とある木で囲まれた道角を曲がった瞬間、方正と傭兵たちはその患者を発見する。

「‥‥まずいな。これは手術をする必要があるかも知れん」

 更に容態を検査する呉の横で、傭兵たちの一人が武器を構える。
 近くに、自分たちではない、他の足音が聞こえたからである。

「‥この山道では、運んでいる間に確実に死亡するだろう。‥‥この場で手術をするしかあるまい」
「気をつけてください。キメラが迫っているかもしれません」
「‥残念ながら、ここで手術する他、選択肢はない。‥‥キメラは任せた」

 そう言って消毒道具を取り出し始める方正。
 傭兵たちは、それぞれ武器を構え‥‥周囲から襲い来るキメラたちとの戦いに備えたのだった。
 手術を開始した方正の背中のポケットには、二丁の銀に光る拳銃があった。

●参加者一覧

虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
エイラ・リトヴァク(gb9458
16歳・♀・ER
9A(gb9900
30歳・♀・FC

●リプレイ本文

●To Save the Lives
「来たみたいだね。武器を振るうだけじゃない戦い方……見せてあげるよ。みんな、頼むよ!」

 蒼河 拓人(gb2873)の号令と共に、傭兵たちが一斉に陣形を組む。彼は前の依頼で重傷を負っていたため、今回は司令塔の役割を買って出たのだ。前衛の二人は前後、遊撃の二人は左右やや内側に、そして後衛の四人は近距離で呉医師を取り囲んだ。

「オーケー、承ったぜ。あんたはあんたの仕事に集中しな。周りの事は任せとけ。頂く報酬分、きっちり働いてやっから」
「そっちの方が、こちらも後腐れもなくやり易い。が、少しでも干渉が入れば手術失敗、報酬もパーだ。覚えておいてくれよ?」

 と、軽口を飛ばしてきたウェイケル・クスペリア(gb9006)に返す方正。

「それでは、本格的に始める。そうだな‥専念できれば、30分といった所か。」
「任せるか‥言ってくれるな。いいだろう、手術が終わるまではもたせてやる。手早く済ませるのダー」
「‥良いだろう。頼んだぞ」

 指示に応じ、銀の拳銃をコート下に隠し、手術を開始する方正。
 その周囲からは、手術による『血の匂い』を嗅ぎつけたのかキメラの影が増え始めていた。


●Open Combat
(「とにかく呉君が手術に専念出来る様、盾にならないと‥‥!」)

 陣形内で遊撃担当であった9A(gb9900)は、覚醒し‥髪を『警戒』を意味する黄色に変え、両手でそれぞれ武器を抜き素早く迅雷を発動。
 高速で戦闘の犬キメラ3体の間を低姿勢で駆け抜け、すれ違いざまに忍刀「颯颯」で足を断つ。滑りながら転倒したキメラの内、二体はヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)が掃射したガトリングシールドの弾丸によって完全に倒れ、残りの一体は――

「命を救うのは医者先生の仕事、その医者先生を守るのは俺達の仕事だ!」

 事前に使用した『GoodLuck』の効果か、丁度館山 西土朗(gb8573)の目前に滑り込むキメラ。西土朗は遠慮なくメイスを振りかぶり‥‥『打ち返した』。ホームランである。

「おー、ずいぶん飛んだねぇ」

 と遥か遠くを見るのは、丁度のタイミングで練成強化を西土朗にかけたエイラ・リトヴァク(gb9458)。だが、のんびり言葉を交わしている暇は無い。更に大量のキメラが、四方から同時に襲来する。

「先生の無茶は計算済みですか‥‥胡さん、良い判断です」

 ヴェロニクがまたもや掃射で蛇型キメラを一瞬怯ませ、その瞬間にレベッカ・マーエン(gb4204)がエネルギーガンでキメラの頭部を打ち抜く。

「悪ぃけど、あんま近寄らねーでくれるか。つい殴り倒しちまうからよぉ?」

 ウェイケルがそのままキメラに挑発のポーズを取り、二つの扇を構える。無論、キメラに言葉が通じるわけも無いが、そのポーズ、構えから意を察したのか、蛇キメラが一斉にどくろを巻いて‥直後、バネのように飛び掛る!

「くっ‥流石にこうも多いと‥!」

 大量に飛び掛る蛇に回避は無理と判断し、盾扇を展開して受け止める。
が、塵も積もれば山となる。一体一体の衝撃力はそれほど高くなくとも、大量の蛇が一斉に衝突すれば‥‥その重量によって押し倒される事は目に見えている。
 押し倒されそうになったウェイケルを救ったのは――

「フォローに入る!」

 電磁波が、光線が、蛇キメラを焼いていく。後衛のレベッカ・マーエン(gb4204)と虎牙 こうき(ga8763)の援護攻撃だ。これによってウェイケルはピンチを逃れたが、攻撃に気を取られた後衛の二人に、空中から羽を持った虫キメラがまるで弾丸のようダイブする! 後方には呉先生と患者がいる。回避行動を取る訳にはいかないのだ。

「全く、割に合わないな…、が、一度言ったことはやり通す。ここから先は通さないのダー」

 動きを止め、ダメージ覚悟で防御する二人。拓人がペイント弾で目潰しをかけるが、既に目標を定め直線で飛来していた虫キメラに効果は無く、エイラは超機械「ラミエル」の電磁波で焼きにかかるが、それでも2、3体は焼ききれなかったようで、こうきとレベッカの身を挺した防御で方正と患者への直撃をやっと避けた所だ。

「俺達が、守り抜きます!」

 アイアンナックルで自らに突っ込んだ虫キメラを掴み投げ飛ばし、そのまま超機械で焼くこうき。エネルギーガンでは虫キメラのような小さい目標を狙うのは困難であるため、ポリカーボネートで押し戻し、援護を要請するレベッカ。

「すまん、手を貸してくれ!」

 それを聞いた前衛、ウェイケルが身を翻し、そのまま鉄扇を上から振り下ろす。
ハエ叩きのように振るわれた鉄扇は見事に虫キメラを捕らえ、地に叩きつけて粉砕した。


●Second Wave

 無数とも思えるキメラをその場に屠った傭兵たちであったが、血の匂いにまだ惹かれているのか、その数は一向に減る様子は無い。
 傭兵たちの顔にも、疲れの色が見えてきている。特に常時探査の眼を展開し続けていた西土朗と、最初からスキルを全開にして敵の注意を引いていたウェイケルはそれが顕著である。指揮を執る拓人は、その二人を下がらせ後衛の包囲圏に組み込む作戦を取る。が、これは同時に遊撃の二人の負担を増加させる事をも意味した。

(「ちょっと、疲れてきたかな」)

 迅雷を使い、近づく敵から順に迎撃していった9Aの顔にも疲れの色が見える。迅雷による高速移動はあくまでも移動を速めているのであり、『疲れないで移動できる』と言うことではないのだ。
 地を摺るように忍刀を構え、そのまま地を這う蛇キメラの中でも大き目の物を両断する。だが、疲労が集中力に影響したのか、石に躓いて転んでしまう。その9A目掛けて、犬キメラが飛び掛るが―――

「大丈夫ですか!?」

 ヴェロニクのガトリングの弾幕が犬キメラの前進を阻み、その直後から飛んできたレベッカが放った光弾を回避するためキメラは後退する。が、その後更に放たれた連射ガトリング弾により、絶命する事となる。
 この隙に9Aは後ろに転がる形で立ち上がり、危険を脱する事に成功する。

 一方、後方に下がった西土朗を狙い、またもや空中から虫キメラが襲来する。先ほどこのタイプの襲撃にはペイント弾は効かないと確認した拓人は閃光手榴弾を握り締める。

「止めろ! 今はダメだ!」

 後ろから、方正の罵声が飛ぶ。そう。途中で停止できない処置の途中で、閃光で目線を遮られればどうなるか?考えれば分かった事である。
 代わりに、西土朗は護防陣を構え衝撃に備え、こうきとエイラが超機械の斉射で電磁波の壁を作り出し虫キメラの数を減らす。電磁波の壁を突破でき、護防陣で勢いを殺がれた虫キメラに向かって、西土朗はメイスを振り上げ、そのまま地面に虫キメラを叩きつけ、文字通り『潰した』のだった。

「おぅ、お医者センセー。どれくらいで済むよ?」

 後方の方正に声をかけるウェイケル。口調とは裏腹に、その顔に浮かぶ汗から、疲労が容易に見て取れる。

「もう縫合に入った。もう直ぐで動かせる状態になるはずだ‥‥っ!」

 覚醒の証である青い髪をした、方正の顔にも汗は浮かんでいる。元より外科手術というものは著しく集中力を消耗する。こうやって何時背後にキメラの爪が食い込むか分からない状態でそれを行うのは、並大抵の精神力では耐えられないだろう。‥それが覚醒状態で行うものなら、尚更だ。
 もう手術が終わりに近づいていると言う方正の言に、傭兵たちの顔に希望の色が浮かぶ。が、そこで、西土朗の探査の眼が反応した。

「‥来たみたいだぜ」

 傭兵たちの前に現れたのは、人二人分はあろうと言う巨大な熊だった。しかも、それが挟み撃ちのような状態で、『両側』から出現していたのである。

「ちぃっ! 援護頼むぜ」

 叫ぶと共に、西土朗が片方の熊キメラに向かう。もう片方には9Aが迅雷の機動力を利用して取り付いた。ここが恐らく最後の山場、そう感じた後衛のサイエンティスト三人は、一斉に練成強化で武器を強化する。


●Final Crash〜Front Side〜
「ブッた斬れろよ、このォォォォォォッ!」

 9Aはとにかく直接打ち合うのを避け、迅雷で隙を突き、円閃で隙を突く。だが――

「しまった!?」

 練力切れにより、迅雷の発動が不可能となる。足が止まった9Aに熊が体当たりし、横に吹き飛ばされる。

「ええい、こっちゃ報酬かけてんだっ」

 素早く横からウェイケルが牽制の役目を引き継ぐ。9Aはそのまま吹き飛ばされた勢いを利用し、後衛に入り休憩を取る。
 後方からレベッカの放った光弾がキメラの頭を直撃し、仰け反らせる。そのままウェイケルが二つの扇子をあわせ、棒のようにし、後ろからソニックブームでキメラの足をなぎ払う。倒れたキメラは、直後大量の光弾に直撃される事となる。
 だが、それでもキメラは立ち上がった。更に全スキルを込めてトドメを刺そうとしたウェイケルを殴り飛ばし、方正に向かって猛進する。正面からヴェロニクが吹き飛ばされながらも盾でその突進を遅れさせた一瞬の隙に、レベッカのエネルギーガンが再度頭部に直撃。今度こそ、熊キメラは地に倒れ伏した。
 吹き飛ばされたヴェロニクは、レベッカとエイラがキャッチした。


●Final Crash〜Rear Side〜

 反対側。
 正面からジャンプし、熊の頭部にメイスを振り下ろす西土朗。ガン、と鈍い音がしたが‥‥

「硬ぇ!?」

 全力で叩いた故に手がしびれる。どうやら、このキメラは防御力も相当高いようだ。後方からエイラとこうきが電磁波を浴びせるが、熊キメラはそれを物ともせずに前進する。

(「使うなら‥今かな」)

 熊キメラの対応に気を取られ、他のキメラに対する対応が疎かになっているため、じわりじわりと防衛線が狭まっている。そう判断した拓人は目線で呉医師に確認を取り、閃光手榴弾のピンを抜いた。

「みんな、閃光行くよ! 気をつけて!!」

 叫ぶと、真上に放り投げる。次の瞬間、周囲を轟音と閃光が包んだ。
 ‥‥‥目を開けた西土朗が見たのは、自分に一直線に猛進してくる熊キメラの姿だった。そう、閃光により目を潰された熊キメラが取った行動は「最後に見えた敵の位置に向かって突進」だったのだ。

「ぐおっ!?」

 突き飛ばされる西土朗。キメラは西土朗を盾にし、そのまま方正と患者の居場所に向かい猛進する!

「ちょいと我慢してくれよ!」
「すまねぇな、ちっと退いてもらうぜ!」
「ちょっと退くのダー」

 流石に味方ごと武器で攻撃する訳にはいかない。こうき、エイラ、レベッカの三人が、西土朗と熊に体当たりする。が――

「何っ!?」
「押されてるのダー」

 三人分のパワーを以ってしても、熊の突進の勢いは止められなかったらしい。三人とも純粋な力では劣るサイエンティストであった事も一因である。
 あわや、全員まとめて方正に突っ込むと言う時。犬キメラを相手にしていたヴェロニクがそれを見て、自らの相手をガトリングシールドで押し出し、蛍火を抜き放ち熊キメラの方に龍の咆哮を連発。軌道を逸らし、皆纏めて方正に突っ込む事を避けたのだ。
 吹き飛ばされたこうきは、そのまま熊キメラの上に乗り、練成強化でアイアンナックルを強化。そのまま乱打する。そしてレベッカ、エイラと三人一斉に超機械をキメラに押し当て、トリガーを引いた。


●Let’s Run

 こうきたちが熊キメラを灰塵に化したのと同時に、方正も縫合を終わらせ、汗をぬぐう。

「脱出するぞ!」

 その一言で拓人、9Aが車に患者を慎重に運び込み、他の全員も順に乗り込む。ウェイケルが剣を振り上げソニックブームを放ち、大量の砂塵を巻き上げた機に、西土朗がメイスを大きく横に薙ぎ距離を取り、同様に車に乗り込む。

 山道を走り降りる車に横でAU−KVで併走していたヴェロニクが、後ろを振り返る。

「追ってきてますね‥」

 然し、呉 方正はにやりと微笑を浮かべ‥‥

「手術中で無ければどうとでもなる。まぁ見ているといい」

 そして、もう少し走った頃‥

「頃合か‥‥」

 方正が左手に握ったスイッチを押す。ドコン、と爆発音がすると共に‥地面に巨大な穴が開き、追ってきたキメラたちは全てその中へ落下した。

「何時の間に仕掛けたんだろう?」

 怪訝そうに思う拓人に方正が答える。

「事前に患者を捜索している間ですよ」

 後日、患者は無事回復し、元の生活に戻ったと言う報が、依頼に参加した全ての傭兵たちの元に届いた―――