●リプレイ本文
●Silence before ‥‥ Snow
クリスマスの朝。デルカルロ軍曹は、予定された来客の名簿を見、薄ら笑いを浮かべていた。
「残念だったな! 令! それほど人はこねぇようだぜ!!」
「‥‥別に問題はありませんが。パーティはどちらにしろ、執り行いますので」
「‥‥チッ」
何故か軍曹は不満そうである。それもそのはず、彼は以前、それがどういう物かを知っていながらも、クリスマスを祝うという習慣が無く、何故この日に大騒ぎするのか理解できないのだ。
「3人の内二人は前の模擬戦の参加者か。ま、退屈せずに済みそうで良いんだが」
このクリスマスパーティの裏で、とある『陰謀』が計画されていた事を、この時の軍曹は知らなかった―――
●Deploy Conspiracy
「問題ありません。こちらもその様に協力しておきましょう」
「ありがとうな。んじゃ、行って来る」
ピッ、と携帯電話の電源を切ったのは紫藤 文(
ga9763)。パーティーの場で『とある企画』を実行する予定だった彼は、とりあえず今回の依頼者‥‥つまりはパーティーの企画者である、令 精武に連絡を取り、協力してもらう事にしていたのだ。
その令から、買出しに出かけた3名―――武 飛、王 天居、章 文徳の行動ルートを聞き、その途上同じくパーティ参加者であり、『計画』の参加者でもあるウラキ(
gb4922)と共に、『偶然を装って』顔をあわせた。
「よっ、久しぶりだな」
「‥‥前の模擬戦以来だな。久しぶり」
先ずは以前の模擬戦で交戦した事のある文と、王がお互いに気づき、挨拶する。
その後、自分たちがパーティに出席する事をウラキと文は3人に告げ、共に帰途につく。
その帰途上にて、『計画』に必要な品を買うため寄り道をしたのは、また別の話であるが‥‥
●Welcome to the party!
「うーさみぃ。んでもまだマシな方か‥お、来たか」
早朝から、来ると思われる3名の傭兵たちを迎えるべく会場の外で待機していたデルカルロ軍曹。何故か半シャツ一枚であるのは敢えて突っ込まないで置こう。その前に、最初に到着したのは‥‥
「料理、するのも食べるのも楽しみ〜!」
「ま、楽しんで貰えるのはありがたいが、客だかんな。あんまり無理すんじゃねぇぞ?」
軍曹に厨房に案内されていった藤田あやこ(
ga0204)である。
が、まだ買出しの3名が帰ってきていないので、材料が無く手持ち無沙汰である。
そんな彼女が厨房で思い浮かべたのは、入り口で迎えてくれた軍曹の姿だ。
(「あの人と‥‥似ているわね‥‥」)
失った過去の幻影が、軍曹の姿に重なる。
北京の一戦に置いて亡くなった彼氏の、その姿が‥‥
(「‥違うわね、軍曹はあの人じゃないわ。はぁ‥疲れているのかしらね」)
日々の家族とのすれ違い。恋人を失った痛み。それが今になって響いてきたのだろうか。
だが、そんな考えを遮るかのように、入り口から荷物を運ぶ音が聞こえる。
運びこまれた食材を確認すべく、あやこも入り口へ向かった―――
●Rush
「メリークリスマス 良い子にしてたかね野郎共!」
サンタ姿の文が、物資をプレゼントのように巨大バッグで担ぎながら入ってくる。それを見て買出し組のうち、武と王の二人は「やれやれ‥」と言った表情を浮かべ、章は苦笑いしながら物資を中に運び込んでいる。
あの軍曹までもがポカーンとなっているのを見てにやりとした文であったが、直後、横から振り下ろされた巨大ハリセンが直撃する。
「ったく、なーにやってんだい!」
声(と、ハリセン)の主は鉄 虹。バカやってないでさっさと荷物を運び込め、とてきぱきした指示を出す鉄に、一番後ろで入ってきたウラキは急いでトナカイ角のアクセサリーを取り外した。
(「相変わらず怖いね」)
それでも、変わりないその姿を見て安堵する。
●Lunch Time〜あやこの場合〜
昼時。あやこは厨房にて昼食の手伝いを、ウラキはウェイトレス姿の鉄と雑談中。文と男3人組は、再度買い出し中である。このグループだけは昼食が遅くなるスケジュールのようだ。そんな中、厨房の様子は―――
「きゃー蟹よぉ!蟹じゃないの!!」
一々食材を目前にして騒ぐあやこ。一日料理番である範はただ気にしないよう苦笑いするだけだったが、軍曹は――
「だぁぁ!厨房居るならいい加減に料理手伝えぃ!」
ぶち切れたようだ。
「はーい。それじゃやりますわね」
先ほどの騒ぎようからは到底想像できないほど、慣れた手つきで先ずは鰤を捌いて行く。
「ほーお。中々やるじゃねぇか」
まるでショーのように切り、炒め、盛り付けを行うあやこに、軍曹が感嘆の声を漏らす。
最も、こちらも手は止まっていない。ゴツい外見とは裏腹に、丁寧にりんごの皮を剥いていく。そして一気にサーモンを捌き、塩をまぶして下準備を行った。
不思議そうに見る範の目線を感じたのか―――
「俺ぁ中国出身じゃねぇからな。外国の料理知ってて当然だろ?」
言いたい事を察し、先に返した。
そこへ鰤料理を2種作り終えたあやこも見学に入る。慣れた手つきでサーモンを並べる軍曹の横では、何故かフライパンが3つ。
「ま、いっぺんに焼いた方が早いからな」
フライパン3つの柄を指の間に、まるでカードでも持つかのような軽さで挟み‥コンロに火をつけ、3つ一斉に焼き始めた軍曹。並外れた腕力をこんな所に使うとは‥
●Lunch Time〜ウラキの場合〜
飾りつけが終了し、休憩を取り料理を食べ始めていた鉄 虹に、ウラキが声をかけた。
同席を鉄は快く了承し、食事しながらの雑談と相成った。そこへ、令がドリンクを運んできた。
「鉄は氷水ですか。ウラキさんもそれで問題ありませんでしょうか」
ウラキが頷くと、令は氷水2杯をテーブルに置き、バー台のポジションへと戻る。
「酒は飲まないのかな?」と聞くウラキに対し、
「判断が鈍っちゃうからね。飲む習慣はないんだ」と答える鉄。
「真面目なんだね‥あ、さっきの服、似合ってたよ」
「‥ありがとう」
褒められる事には慣れていないのか、心なしか少しだけ鉄が恥ずかしがっているのは‥気のせいかもしれない。
「前の模擬戦以来、皆さんは元気だったのかな?」
「うん。特に大きな事件も無かったからね。 章、範の二人もそれなりに経験つけてきたし。福は相変わらずだけど、後方支援だからそれほど危険なわけじゃないね」
言ってる傍から「うわわーぁ!」と飾り付けをするために立っていた椅子から転び落ちそうだった福を横目で見、二人ともクスリと笑いを漏らす。
「多忙で、皆家には帰れなかったしね。ま、ここが皆の家みたいなもんだ」
「そうか‥」
微妙な表情を浮かべたウラキの表情を目の当たりにし、鉄は話を続ける。
「あたしらにゃ家族が残ってないのも多いのさ。帰ったとて、誰もいないからね」
●Lunch Time〜文の場合〜
買出しに出かけた3人は、手分けして必要な品を買い集める事に。
その内、文は王と共に、飲み物類の追加購入へと向かった。
「こうやって話すのも久しぶりだな。前回は直後に出撃する事になって余り会話できなかったからな」
「あーそういやそうだな。前回のあれは、引き分けってとこか?」
「いや、そちらの勝ちだ。模擬戦と言う物は、そもそも実戦と近い条件であるべきだからな。実戦だったらこちらが爆死していた事は確実だ」
「んじゃ、そういう事にしとこうか‥あれからも色々あったんだ。カメルで片翼とレドーム削られてなー、着艦した時の視線が痛いのなんの」
「それはまた‥よく生きて帰れたもんだ。まぁこっちのチームはそもそもKV戦はしないからな」
雑談しながら、酒類を買い集める二人。
「所で、『アレ』の準備はどうなってんすか?」
「ああ、既に令が準備中だ。たぶん、大丈夫だ」
「そりゃ、楽しみっすね‥」
二人は、お互い顔を見合わせ‥にやりと、笑った。
●The Ultimate Prank
時刻は6時辺りだろうか。歩きながら、夕食にあやこが作った鰤と胡麻を配した丼物を食べていた軍曹を、令が呼び止める。
「ん、どうした、令」
「実は非常に申し訳ありませんが‥(ごにょごにょ」
「なっ!? やらん!! 俺はやらんぞ!!」
「残念ながらそういうわけにも行かないのですよ」
―――――――――――――――
それから約20分後。ホールで談笑していた傭兵たちと部隊メンバーの前に、赤い服の巨大なシルエットが現れる。
ムキムキマッチョなその髭サンタの姿を見て、ホールが爆笑の渦に包まれたのは言うまでも無い。
「くっそぉぉぉ、令、覚えてろよ!!」
「いえいえ、軍曹、似合ってるっすよ」
キッと睨みつけられても、怖さよりも面白さが上回った文は思わず吹き出してしまった。
しきりに皆が笑った後、パーティは次の段階に移った。
●Drink War
「てめぇらが酔いつぶれるまでやめねぇからなぁぁぁぁ!!」
先ほどの悪戯でサンタ服を着せられてしまった軍曹。衣装を着替えもせず、飲み会の開始を宣言した。
参加者は傭兵側は文とあやこ。ウラキは自分でコーヒーを入れて飲んでいる。
部隊側からは、武、王、軍曹の3人。新人3人は掃除しており、鉄は酒を飲まない性格でウラキにコーヒーを入れてもらい飲んでいる。そして、令は審判と‥酒を運ぶ係であった。
「うえー。軍曹のこの筋肉質がまたいいのよね〜」
「こら、くっつくな!!」
開戦前から既に飲み始めていたあやこは絡み酒になり‥暫くして、ダウン。
「もう無理‥だ」
1日荷物運びもしていた武も疲れが溜まったせいで、ダウンした。
「やれやれ、飲みすぎで体を壊すわけにもいかない。ここで投降する」
王は暫くして降参、ウラキと鉄と共に観戦側へと入る。
残るは文と軍曹の一騎打ちとなった訳だが―――
「なぁ、この一戦、どう見るかな?」
「んーあたしゃ、うちの軍曹が勝つと思うけどね」
「それはどうだろうか。最近、軍曹は精神的に参っているように見える。精神的に問題があるなら、酔いも回り安いだろう」
傍観者の台詞も、その耳には届かず。決闘中の二人は豪快に飲み続けていた。
「おらおらぁ!その程度かぁぁぁ!!」
「‥まだまだっすよ」
「こりゃしばらくは決着つきそうにはないな(苦笑」
「そーだなぁ。んじゃ、のんびりと見てるとすっかね」
その夜。おおよそ8L分の酒を消耗した血戦は、軍曹の勝利で終了した。
●Morning Sunrise
「あー、まだ頭痛いっす」
「そりゃ俺も同じだ。あぁまでに苦戦したのは、おめぇが初めてだかんな」
頭を押さえながら帰っていく文を見送る軍曹。王はそんな文にそっと酔い止めの薬を差し出す。
「一日程度、余り動かずに休む事だ」
それを受け取った文は、手を振って帰途につく。
それに続いてあやこも、(特に軍曹に)激しく手を振ってから、後に続く。
そして―――
「また暇があったら遊びに来るよ」
「おう。任務中じゃなきゃいつでも大丈夫だね」
鉄と歓談したウラキも、また同様に帰途についた―――