タイトル:【TG】正義マスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/03 02:21

●オープニング本文


 数の暴力だと悪? 否―――勝てば正義なのだよ―――

――――――――――――――――――――――――――――――

「‥ん?どうした。服がボロボロだが」
「いえ、先ほどの立て篭もりの援護で、少々やられてしまいましてね。キメラを連れて行かなかったのが悔やまれますよ」
「それは貴様が悪い。元々直接交戦は得意ではないのだろう?」
「いやはや、全くその通りです。その代わり‥今回も、実験をがんばるとしましょう」


●銀の鎧の意味する物

 パトロール隊の隊長には、目の前に起こっている光景が信じられなかった。
 きっかけは、パトロール中にキメラを目撃した事である。昼間にもかかわらず目標は単独で行動し、特殊な遠隔兵装も外見からは見当たらない。いざとなれば逃げて増援を呼べばいい。そう考えた隊長の判断は、然しこの状況では‥‥惨劇を招く結果となったのだ。

「うわぁぁぁ―――!?」

 兵士の一人が、一瞬で『蒸発』する。爆発によって『粉砕』された訳ではない。文字通り『蒸発』したのだ。
 ―――その理由は、四週に浮かぶ無数の鎧片にある。
 戦闘開始と共に、パトロール隊は榴弾砲などで先制攻撃を仕掛けたのだが、それは鎧騎士のような姿をしたキメラの表面装甲を散らかした。
 そして、散らかった装甲片が‥まるでそれぞれの意思があるかのごとく、四周を飛び回り‥ある物は切断、ある物は太陽光を鏡のように反射して、攻撃してきたのだ。
 この無数の空飛ぶ凶器の前に、パトロール隊は成すすべもなく全滅した。数の暴力で、逃げることすら間々ならなかったのだ。

このパトロール隊からの最後の連絡を頼りに‥傭兵たちに、依頼が出されたのだ。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
旭(ga6764
26歳・♂・AA
城田二三男(gb0620
21歳・♂・DF
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
流月 翔子(gb8970
20歳・♀・SN

●リプレイ本文

●Silence before Storm
「蒸発‥ですか‥よほどの熱量を出せるようですねぇ‥。破片も襲ってくるみたいですし‥厄介なものですね‥」

 偵察隊からのデータを読んでいた水無月 春奈(gb4000)は、最後まで読むと、報告書を閉じ黙祷する。
 サンディ(gb4343)も、それに習い手を合わせた。

「勝てば正義?負ければ悪?あのキメラと戦って、命を落としていった兵士達は、皆悪だって言うの?」

 怒りに唇を噛み、剣を握り締める。

「彼等にも守るものがあったはず、正義があったはず。それを踏みにじり、悪だと決め付ける事は私が絶対に許さない!」

 そして、ファブニール(gb4785)も、同様に思う所があったようだ。

「守りたいものを守る為に戦う。それが僕の正義‥だから‥負けるわけにはいかない!」


一方、やや前方では――
「‥‥何もかも分からんとこだらけ、か、まぁ、今に始まったことでもないか」

 城田二三男(gb0620)は、使い終わった双眼鏡を元の持ち主、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)に返す。
 流月 翔子(gb8970)はデータを元に作戦を立てようとしていたが、如何せん相手の能力には不明瞭な点が多すぎて、確実なものは作れなかった。

「後は、実際に戦ってみるしかありませんね」

 旭(ga6764)がそう言い放つと、傭兵たちはそれぞれの事前に相談した役割に従い、キメラの周囲に展開した。


●Assault Painters
草むらから銃口が覗く。
その銃の、更に後ろにいたのはウラキ(gb4922)。スナイパーライフルにサプレッサーを装着し、静かに獲物を狙う狩人である。

「‥狙撃支援を開始するよ」

 そうトランシーバーに呟くと、スナイパーライフルでペイント弾をキメラのボディ目掛けて発射した。
 それを合図に、別の方向から今度は翔子が同様にペイント弾を放つ。
 この2発はそれぞれ違う方向からキメラのボディと腕を直撃し、その部分を紅に染めた。

「さて‥と。荒野を彷徨える亡霊騎士の正体や如何に、だな」

最後に近くの遮蔽物から、ホアキンが小銃「ルナ」の銃口を出し、同様にペイント弾を発射するが‥

「これは警戒されていたか」

 前の二人が隠密状態から射撃したのに対し、ホアキンはそのスキルを持っておらず、キメラに射撃を気づかれてしまったのだ。
 キメラは剣を振り真空波を作り出し、ペイント弾を空中で打ち落とすと、そのまま一直線にホアキンの方に向かう。そして剣を振り下ろすが‥

「こっち、だな」

 そこに既にホアキンの姿は無く、見れば10mほど先に移動していた。流石は歴戦の傭兵にして、「闘牛士」である。
 『猛牛』の扱い方は心得ているようだ。
 それを更に追いかけたキメラには、この時点では、いつの間にか傭兵たちの包囲圏に誘い込まれた事を知る由はなかった。


●Blade Swarm
 キメラがホアキンに気を取られた隙に、春奈は低姿勢で盾と天剣「ラジエル」を構え、猛然と突進した。
 そして、剣を、キメラの胸に向かい‥一直線に突き刺したのである。

「鎧が壊れなかった場合‥さぁ、どうでます?」

 にやりと笑い、更に剣先をキメラの鎧の中へ押し込む。
 だが、ここで春奈は手ごたえに少し違和感を感じていた。

(「余りにも手ごたえが無さ過ぎますね。中は空洞でしょうか」)

 これとと同時に、ファブニールが右側からキメラに盾ごと体当たりを仕掛け、剣で受ける事を余儀なくしてキメラの右腕を封じ、旭が逆側から腕の関節部を狙い突きを放つ。何れの攻撃も命中し、身動きが取れなくなったキメラは、僅かに体を揺らした。その瞬間、春奈の剣が突き刺さっている所から急にヒビが走り始めたのを、旭は見逃さなかった。

「破片来るよ!」

 と同時に、剣と盾を交差して構え後退する。
 次の瞬間、キメラの胸部が爆ぜ、破片が前衛の三人を襲った。元々盾を前にして体当たりしたファブニールと、最初からこの事態を警戒していた旭はすばやく盾での防御に成功し、ダメージを最小限に抑えていたが、剣をキメラに突き刺していたが故に片腕が盾の外に露出していた春奈はそうは行かなかったのだ。

「くっ‥やってくれましたね」

 竜の鱗を発動していたとはいえ、前衛3人のうち最もダメージが大きかった春奈は、一旦竜の翼で攻撃範囲から脱出し竜の血で回復を始める。
 それを追って一部の破片が飛来するが、春奈と破片の間に、二人の人影が立ちはだかる。

「ハルナはやらせはしない!」

 機械剣を振るい、飛来する破片を切りつけるサンディ。だが、空中に浮いている破片を切るのは至難の技である。と言うのも、押し付けた瞬間、風圧に押されるかのように破片は後退するのだ。いわば空中に浮かんでいる紙や葉っぱを斬ろうとしている状態である。だが、それでも破片を『遠ざける』と言う役目は果たせた。

「っちぃ! 考えたくないことというのはあっさり起きるもんだな‥切れないなら叩き潰すまでだ!」

 超機械による電磁波をぶつけ、続けざまに大上段から棍棒を振り下ろし破片を地面に叩き付けた二三男。
 破片自体に目立った損傷は無かったが、何故かそれっきり動かなくなっていた。

(「‥?」)

 不思議に思っていた二三男の隣に、空中を舞う破片を銃で迎撃しながら移動していたホアキンが近づいてくる。

「これは‥まさか‥」

 ホアキンが、金属片を裏返すと、その裏には小さな虫のようなキメラがくっついていた。

「一体ではなく『群れ』か? しかしそれならば、動かす元はあの鎧の中のどこかにあるはず」

 二三男は、その事実をトランシーバーを通し、傭兵たち全員に伝達した。


●Leader of the Pack
 その頃、残りの前衛の二人‥ファブニールと旭と、それを後方から支援していたウラキ、遊撃に回っていた翔子は、予想外の事態に驚愕していた。
 鎧キメラは、少しずつ破片と化して行き‥ついには完全に解体されてしまったのだ。残ったのは、空を舞う無数の破片のみ。

「敵の正体見破ったり‥ですわね」
「面倒な事には変わりないけどね」

 確実に一体ずつ破片を打ち落としていくウラキだったが、スナイパーライフルはこの様に対多数の状態に置いては余りに不向き。
 そのうち、射線から位置を把握されたのか、ウラキの上方に20枚程の破片が集う。

「‥‥‥ッ!!」
「危ない!」

 素早くファブニールがその間に滑り込み、護防陣で収縮された太陽光を防御する。だが、その熱量は大きく、じわじわと体力を削られていく。
 旭が援護に駆けつけようとするが、付近の破片が集結し、剣の形を成しソニックブームを放ったため防御せざるをえなくなる。

 その中で唯一自由に動けた翔子は、影撃ちを付加した弾丸3発をウラキとファブニール頭上の破片の群れに乱射する。これにより破片2個が操作していた虫を倒され落下し、フォーメーションが崩れ熱線が弱まる。
 その直後、ウラキがファブニールの護防陣の横から銃口を伸ばし、一発の弾丸を発射する。
 狙ったのは何の変哲もない破片。
 だが、何故か、周囲の破片は一斉にその破片の前に集結し、かばう様な体勢を取る。ウラキの弾丸はそのうち5枚を貫いたが、6枚目の装甲で止められた。

「あの破片が怪しいですわね」
「ああ、そうだな。ホアキンさんたちに連絡を」


●Queens Death
「‥恐らくあれが、群れを統括している女王のような存在なのだろう」

 二三男とホアキンは襲い来る破片を迎撃しながら、一番高い所に構えている破片を見、相談する。

「ならば‥」

 しばらく後、傭兵たちは集中攻撃に出る。
 先ず、旭が剣、盾など武装をフル活用し、スキルを使い破片を追い払う。

「3カウントで狙撃する――カウント開始‥」

 その直後、ウラキが狙撃眼を起動し、女王破片に狙いをつけ、同時に春奈が竜の翼で付近の斜面へと走りこむ。
 狙撃に集中しているウラキに向かい一部の破片が襲来するが――

「ふむ、悪くはない、な‥‥やはり、こういった方法のほうが好みだ」
「さあ、行きましょうか。鋼鉄の砲手達の力…見せてやりましょう!」

 それは全てファブニールと二三男により、地に叩きつけられたり押し付けられたりする事となる。

「さぁ来い‥」

 そして、サンディがホアキンに向かいジャンプするのと同時に、ホアキンは両腕に力を込め、全力でサンディを上方に投げる。

「ハルナ、お願い!」
「任せてください」

 更に空中で――斜面に竜の翼を使い、ジャンプした春奈が、サンディを更に一度押し上げる。これで完全に、女王破片の上を取った事となる。
 ここで空中で回避行動が取れないサンディに向かって破片たちが押し寄せる。が――

「援護します」

 翔子が援護射撃で破片たちを駆逐し、

「このまま打ち抜かれたいのかな?」

 ウラキが女王破片に向かい弾を放ち、周囲の破片に防御を余儀なくさせる。
 少なくなった破片の中、目を閉じたサンディの感覚は、確実に女王破片を捉えていた。

「兵士たちの無念‥今ここで晴らす!」

 手首をひねった突剣の一撃が、女王破片を貫くと同時に、全ての破片が地へ落ちていく。


●For Someones Justice
「主よ。死者に等しき安らぎを与えたまえ」

 兵士たちに黙祷を捧げるサンディ。その横で、

「正体が分かればなんてことなかったですわ」

 と、余裕そうな翔子。
 だが、その言葉は、突如放たれた一言によって凍りついた。

「正体がばれたのは、運とも言えなくはありませんが‥あなた方の勝ちという事は確かでしょう」

 突如現れた白衣の男に、春奈は素早くエネルギーガンを向ける。

「今回は‥投げ返せませんよ。大人しくしていただけたらと思いますが‥」
「投げ返すつもりはありませんよ。既に破片の回収も済んだことですし、『悪』の勢力を減らす事もできましたしね」

 見れば、確かにいつの間にか散乱していた破片たちはなくなっている。

「さて、お役目も終わった事ですし、私はここで――」
「待て!ここで亡くなった兵士たち‥その正義を踏みにじったあなたを、私は――!」

 その言葉に、ピクりと男が反応する。

「正義、ですって‥?」

 キッと、サンディの方を睨み付ける。その顔には、今まで見せる事のなかった、怒りの表情が見て取れる。

「同じ人間に、自分の一番大切なものを壊されても‥!!まだ同じ言葉が言えるのか、見てみたい物ですね‥!!」

 それだけ言うと、男は傭兵たちと逆の方向に歩き始める。春奈はすかさずエネルギーガンのトリガーを引くが、男が白衣を後ろへ投げると‥その姿は、消えていた。
 春奈の一撃は、男の白衣の心臓部分を抜き、黒く焦がしていた―――