●リプレイ本文
●エアスライド
ビルの上空へ向かう輸送ヘリ内部。緊張した面持ちの傭兵たちは、それぞれ突入に向けての最終チェックを行っていた。
「‥最短ルートは、やはりこれでしょうか‥」
地図を見て突入ルートを確認する鳴神 伊織(
ga0421)。
「この形だと‥少し情報が足りないでしょうね」
コンソールの情報を見る篠崎 公司(
ga2413)。だが、流石に社外秘情報になっているのか、資料が不足しており、完全には操作法は掴めなかった。
そうこうしている間に、ヘリはビルの頂上に滞空する形となる。
「こちらデルカルロ。‥おう、それならこっちも行動を開始するぜ」
ピッとトランシーバーを切ると、デルカルロ軍曹は傭兵達へ向き直る。
「どうやら陽動班が動き始めたようだぜ。俺たちも降りねぇとな」
「空挺強襲‥軍での訓練以来です」
元軍人であったセレスタ・レネンティア(
gb1731)は、しかし慣れた手つきで縄梯子を滑り降りる。
傭兵たちが次々と屋上に着地、最後にショーン・デルカルロ軍曹がずしんと着陸する。
「さーて、んじゃまぁ、おっぱじめるとしますか!」
軍曹の一言を機に、傭兵たちはフォーメーションを組んで、屋上から続く階段を下りていった。
●激走
「右にレーザー2、注意してくれよ?」
傭兵達は探査の眼が使えるミステイク(
gb2775)を中心としたフォーメーションを組んでいた。
そのミステイクが発見したトラップを、公司と抹竹(
gb1405)が狙撃で破壊していく。
前方から出現する敵は―――
「体勢を崩す‥っ!」
御沙霧 茉静(
gb4448)がまずエアスラッシュで先制攻撃を仕掛け防御若しくは回避させ、その間に―――
「邪魔ですね」
「足止めされる訳には行かない」
伊織とベーオウルフ(
ga3640)の剣閃が、キメラを3段に解体していた。
だが、同時に、横道に潜んでいたのか、傭兵たちの後方から3体のテロリストが出現する。
「近づかせるわけには行きません‥皆さん、急いで!」
サブマシンガンの掃射でテロリストを威嚇するセレスタ・レネンティア(
gb1731)。
弾丸を回避するためテロリストたちが横道へ引っ込んだ隙に、前の仲間に前進を促す。
「意外と敵が多いな。下のやつら、しくじってんのか?」
やや前衛寄りで伊織とベーオウルフが取りこぼした敵を鉄槌のような拳打で叩き潰すデルカルロ軍曹の表情にも苛立ちの色が浮かぶ。
できるだけ早くセキュリティ室を制圧しようとする傭兵達は、ここで強行突破を選ぶ。
「ちっ‥多すぎるんだよ‥!!」
元より傭兵としての実戦経験は薄いミステイク。高速で前進する本隊のスピードについていきながら、精神を集中させてトラップを識別するのは並大抵ではない精神力を消耗する。
そしてそれは、探査の眼の精度の低下を意味した。
「しまっ‥!?」
自らを狙うレーザー発射口を確認するのが、一瞬遅れていた。
だが、放たれた光条はしかし、ミステイクを貫くことは無かった。
―――抹竹が、身を盾にしてレーザーを防いだのだ。
「エキスパートの目、頼りにさせてもらわなきゃいけねぇからな」
そのまま小銃「シエルクライン」でレーザー装置を破壊する。
だが、この一瞬だけは、ミステイクの探査の眼の援護が受けられず‥傭兵達全員が、トラップに対して無防備になっていた。
「ぐっ‥」
4本のレーザーの光条が伊織の両肩をそれぞれ焼く。普段ならばこの程度のレーザー、防御装備を着込んだ彼女には効果はない筈なのだが‥
――そこに、5、6本目の光条――サイエンティストのエネルギーガンが加わっていなければ。
「バクア側の能力者、ですか。無駄な殺生は好みませんが‥邪魔をするなら相応の対応を取らせて頂きます」
負傷を物ともせず、鬼蛍を横に振りぬき一瞬で自分を撃ったサイエンティスト2名を血霧と化す。
「ったくめんどくせぇ事になってきやがったなぁ‥ん?」
天井に腕をつけ押した反動力と、落下の勢いで敵の能力者‥グラップラーだろうか、を文字通り『踏み潰した』デルカルロ軍曹は、トランシーバーからの声に気づく。
「あん?どうした。‥ったぁ、そりゃまた面倒だな」
トランシーバーを切り、周囲の傭兵たちに内容を伝える。
「下のやつら、2階付近で足止めされてるって話だ。急いでセキュリティ解除しなきゃまずいぜ‥ってもうそこか」
傭兵達の目の前には、セキュリティ室の扉が見えていた。
●ファースト・ストライク
「今のうちです!」
セレスタがサブマシンガンの残りの弾丸を全弾ばら撒き、一時的に追手を各通路に隠れさせる事に成功する。
公司が長弓での狙撃を曲がり角に当て、こちらを伺う敵を牽制する。‥目の前に矢が突き刺されば、人間多少はビビるものである。
その間に、残りのメンバーはドアの両側に隠れ、抹竹のみが閃光手榴弾を構えドアに近づいた。
「抹竹、あぶない!」
探査の眼で異様を感知したミステイクの叫びは、然し僅かに遅かった。
―――爆音と共にセキュリティ室の鋼鉄製のドアが吹っ飛び、それが巨大な空飛ぶ壁となり抹竹に衝突して壁に叩きつけたのだ。
「やれやれ。敵に気づかれている場合、可能な限り全ての無駄を省いて攻めこむと昔言ったはずですが?のんびりと閃光を構えさせるとは、何を考えているのでしょうかね?ショーン」
ドアの影から出てきた白衣の男は、金属質のグローブを嵌めた右手を前に真っ直ぐに掲げている。突如の奇襲を予測していなかった傭兵たちは、僅かの間、一斉に硬直していた。
最も、名指しをされた当人、ショーン・デルカルロ軍曹は、違う理由だったが。
「フェル‥!フェルナンデス・グローリア‥!!てめぇ‥なんでここに‥」
「‥忘れたとは言わせませんよ。アリスが、どう死んだのかを‥!」
問答の間に僅かに歪んだ白衣の男の表情を隙と見たか、水無月 神楽(
gb4304)とベーオウルフが両側へ一瞬で移動し、周囲の機械にダメージを与えないため最小限にそれぞれ武器を振るう。
だが、縦に振るわれたベーオウルフの屠龍刀は後ろへ僅かに歩をずらした白衣の男によってかわされ、神楽の横へなぎ払った雲隠は白衣の男の右手の金属質のグローブに止められていた。
「話す時間も無いようですね‥」
まるで見えない壁に押されたように、神楽も吹き飛ばされる。
だが、その下方に、低姿勢で駆け寄る伊織の姿があった。
「ゆっくり相手をしている暇は無いので‥これで終わりにしましょう」
伊織が振るう足を刈るように薙がれた刃に向かい白衣の男がグローブをかざすと、刀に何かに当たったような阻力が生まれる。だが、更に力を込めると、伊織の刀――鬼桜はそれを貫通した。
とっさに後退したため白衣の裾を切断されただけの白衣の男は、僅かながら驚愕の色を浮かべていた。
(「まさかアレを貫通するほどの威力とは‥少々旗色が悪いでしょうか」)
しかし、それは伊織も同じであった。
(「先ほど肩に受けたレーザーのせいで力が入りません。迂闊でしたか」)
そう、今の一刀は、男の足を切断するつもりで放ったのだ。
体勢を立て直した白衣の男は、その装束――科学者とは思えない動きで、急激に伊織に突進する。
伊織は迎撃しようと鬼桜を構えるが、肩の痛みのため僅かに動きが鈍る!
「が‥はっ!?」
掌打と同時に、先ほどの神楽と同様に見えない壁に押されたかのように吹き飛ばされる伊織。だが、その体が壁に叩きつけられる前に、大きな手によってキャッチされていた。
●制圧
「こいつぁ一筋縄では行かないぜ」
突進の速度を殺さずに受け流すようにキャッチした軍曹はそのまま伊織を下ろし、左前方から白衣の男を襲う。攻撃の直後だった白衣の男は僅かに遅れて手を軍曹の前に突き出す。が――
「甘ぇよフェル。手の内を見せちまったてめぇが、近距離戦で俺に勝てるかよ!」
片手の裏拳で白衣の男の腕の軌道を逸らし、そのまま逆側の手で首を掴み、突進の勢いのまま壁に叩きつける!何か見えない攻撃にさらされた横の壁と、男の後ろの壁が同時にへこむ。幸い、モニターや精
密機器には直撃していなかったが‥
「嘗めないでほしいものです」
壁に叩きつけられた白衣の男は、そのまま両手で首を掴んだデルカルロ軍曹の腕を挟みこむ。グローブが光ると共に、骨の折れる嫌な音が一帯に響く。
「ぐお‥引っかかったな‥?」
「何っ‥!?」
腕を抑えながらジャンプし飛び退いた軍曹の後ろからは‥横一列に銃を構えたセレスタ、公司が居る。やや前方中央で、茉静が上段に剣を構えていた。
「軍曹に注意を取られすぎでしたね。排除させてもらいましょう」
公司の声と共に、弾丸と衝撃波の雨が白衣の男に降り注ぐ。それは男の白衣を蜂の巣にし―――
「やれやれ。これは流石に分が悪い。一度、放棄するとしましょうか」
(「義理は、果たしたことですしね‥‥」)
白衣を脱ぎ捨て、身代わりにした男が、そのままセキュリティ室の入り口から逃走する。
鉄塊と化した扉を押しのけた抹竹が旋棍「砕天」を振るい、奇襲するが天井すれすれのムーンサルトにより回避され、追おうとした傭兵達は、しかし後方の横道に隠れて弾丸の雨をやり過ごした敵に阻まれる
。
「‥‥ここは素早く制圧してしまうに限ります」
公司と抹竹はアイコンタクトを交わし、セキュリティ室の機械に取り掛かる。
―――3分後。
ビルの全セキュリティシステムは、傭兵達の掌握下にあった。
先ほどまで自分たちの邪魔になっていたシステムを利用し、とりあえずこの階に居た敵をレーザーやマシンガンで排除していく。
‥最も、来るまでの道中でシステムを破壊して回ったため、完全にセキュリティだけで敵を完全排除することはできなかったが、それでも敵の総数を減らすことには成功した。
それを確認した各傭兵達は、それぞれの方法で下の―――人質が居る階へ、向かおうとした。
「‥ぐ、硬いなこれ‥どうなってるんだ?このビルは」
ビルの床をぶち抜いて直接降りようとしたベーオウルフは、床に刃が通らないことに気づく。
「そりゃそうだろ。このセキュリティレベルを考えればなぁ。ま、そんな方法で降りて敵のど真ん中に飛び込んでも問題だけどな!」
「動かないでください軍曹。傷に障りますよ。‥これで大丈夫です」
伊織に手当てしてもらったデルカルロ軍曹が立ち上がる。‥‥まだ左腕は動かせない状態だが、とりあえず痛みは引いたようだ。
「こっちゃ随時モニターしてるんでな。ナビゲーションは任せとけ」
公司と共に監視カメラのモニターに向かっている抹竹が合図を出すと、伊織、ベーオウルフはエレベーターへ‥‥セレスタ、ミステイク、神楽、茉静は階段から下層へ向かった。
●Bliz Rescue
階段から向かった4人は道中、余り敵の抵抗を受けることは無かった。それもその筈で、公司と抹竹が戦闘の援護をしており‥またこの時点では大部分の敵が階下へ向かっていたからだ。
それでも、奇襲防止のため探査の眼を起動したミステイクを前に、追撃を防ぐためにサブマシンガンを構えたセレスタが殿に付き、慎重に階下へと向かっていく。
エレベーターに向かっていた2人はと言うと‥‥
「確かにこっちの方が簡単だな」
伊織に薦められ、シャフトを降りずにエレベーターの『天井』の上に乗って降りるベーオウルフ。
目標の階をエレベーターが通り過ぎた直後、ドアに向かってジャンプするこのペア。‥タイミングよくドアが開き、二人は10階に転がり込むこととなる。
‥‥セキュリティ室にいた抹竹の操作である。
それと同時に、階段から、ミステイクの姿が現れる。その階に居た敵が驚愕、硬直している間に、傭兵達は一斉に襲い掛かった。
「フリーズ! なんて銃置くわけねーよな‥んじゃ目つぶさせてもらうぞ!」
ミステイクが投げた閃光手榴弾で傭兵達以外の全員(人質含む)の目が眩んでいる内に――
「さっさと離れろ」
茉静が迅雷で人質とテロリストの間に入り、剣の柄で殴り飛ばす。それを、同様に瞬天速で接近していたベーオウルフがそのままの勢いで空中で一閃。両断した。
「くっ‥」
命を殺める事に抵抗がある茉静が僅かに唇を噛むが、仕方ない。斬らなければ人質が危険に晒される可能性があるのだ。
セレスタとミステイクの銃撃が周囲の敵を一時的に横道に追い込み、神楽と伊織が人質を連れてエレベーター側へ向かう。
―――だが、ここでどんどん敵が増えているのが、傭兵達には分かった。
「おい、どーなってんだ?こっちゃ敵がどんどん増えてやがるぜ?」
軍曹が通信機に向かって怒鳴る。暫くして、下層は2階辺りで手間取り、その間に下へ向かおうとした3−10階の敵が異変に気づき上に向かってきたらしい。
抹竹と公司がセキュリティシステムを使って妨害している物の、如何せん絶対数が多く完全には止めきれないようだ。
「くっ‥急いでください‥っ!?」
密集した弾幕に、後方で殿を務めていたセレスタと神楽が一時的に横道に入ることを余儀なくされる。伊織、茉静も人質を連れて回避しようとするが――
「危なっ―――!!!」
人質の一人が、僅かな床の段差に躓いて転ぶ。茉静がそれに手を伸ばすが、僅かの差で―――無数の弾丸が、突き刺さった。
「くっ‥‥」
「止まるな!急いでエレベーターに入れ!!」
悔やむ茉静を軍曹が促す。急いで死亡した人質の遺体を担ぎ、残りの人質と共に傭兵達はエレベーターに進入した。
「ここは通行止めってな!」
セキュリティ室の抹竹がボタンを操作する。エレベーターのドアが閉まり、両方のレーザー砲が一斉に光の軌跡を描き、敵の進撃を阻む。
「さて、それでは私たちも合流すべきですね」
「そうだな」
直後、セキュリティ室から公司と抹竹の姿は消えていた。
●Vision of Ruins
逃走用のヘリ。人質を一人失ったとは言え、その大半をレスキューしたため作戦は成功したと言っていい。それでも浮かない顔なのは、命の重さからかそれとも―――
「軍曹。先ほどのあの敵とはご知り合いのようでしたが‥」
元から面識のあった伊織が軍曹に声をかける。
「ああ、ヤツは‥フェルナンデス・グローリア。昔俺の副官で、幼馴染だったヤツだな。失踪してたが、まさかバクアに付いていたとはな」
笑いを浮かべる軍曹の顔は、それでもどこか寂しそうで。
下を見れば、1階から味方が手を振っている。人質が救出された以上、本格的な軍の突入が可能となる。直ぐにこのビルも取り返される事だろう。
だが、それでも、声を上げて笑うには‥余りに多くの問題があった。