●リプレイ本文
●跳梁する者
ビルの狭間を飛び移り、移動する黒い影。今回の目標のキメラである。
高みから地上を見渡している姿は、まるで次の挑戦者を待つ群れの王であった。
「面倒そうなキメラですわね‥‥」
と感想を漏らすミルファリア・クラウソナス(
gb4229)の横で、
「‥単体の強化‥実に正攻法というキメラですね。それだけに厄介ですが」
作戦の資料を実物と見比べながら、水無月 春奈(
gb4000)が呟く。
「まるで人工のジャングルのような地形ですが、やるしかありませんね」
風雪 時雨(
gb3678)の一言を合図に、傭兵たちは2班に分かれキメラに向かって攻撃を開始する。
●地を覆う震動
「‥‥久しぶりの戦闘だ‥‥存分にやらせてもらうよ」
戦闘はエル・デイビッド(
gb4145)によって放たれたエネルギーガンの攻撃によって開始された。だが、着弾する前に、キメラは素早く次のビルに飛び移る事によってそれを回避する。
「動き回られるのは面倒だから」
「まずは、降りてもらいますわね」
白雪(
gb2228)とミルファリアが、それぞれキメラの足元と周囲のビルに向かって銃撃とエアスマッシュで攻撃を始める。
足元へ向けられた白雪の攻撃をジャンプで回避し、次のビルに飛び移ったキメラであったが、そこを丁度ミルファリアのエアスマッシュが足元にヒットし‥足場を踏み外したキメラは、そのまま地面に向かって落下する。
これをチャンスだと見た春奈、時雨、 優(
ga8480)はそのまま御山・アキラ(
ga0532)の放ったドロームSMGでの弾幕を囮にキメラの着地点を狙って接近し‥一歩遅れて足場崩しの一撃を放ったミルファリアも接近を開始する。
‥だが、此処で誤算が一つあった。キメラは、両腕を下にして落下して来たのだ。
地面にキメラの腕が接触した瞬間、キメラの全重量を転換した衝撃波が全周囲に放たれる!!
「「「「くっ!?」」」」
傭兵たちはそれぞれの方法で回避、防御行動を取る。時雨は竜の翼で建物の間の隙間に滑り込み、盾を構えたまま前進していた春奈はそのまま龍の翼で進行方向を急反転、盾を構えたまま急後退する。ミルファリアは全力で迅雷で後退し、優は通常のダッシュで後退する。
この一撃で、急速後退と障害物や盾での防御を行った春奈と時雨は殆どダメージを受けず、普通に走った優がやや大きなダメージを受ける事となる。やはり、能力者と言えども衝撃波とほぼ同じ速度で走るのは無理なのだ。
(「‥頃合か」)
キメラの拳が地面にめり込んだのを見て、アキラは落下時ににピンを抜いた閃光手榴弾を取り出す。
そして、前衛4名が下がった直後、衝撃波が止んだ一瞬の隙に‥瞬天速で接近する!
「閃光だ! 気をつけろ!」
叫ぶと共に、閃光手榴弾を地面に転がす。と同時に、全傭兵が一斉に目を覆ったり、後ろを向いたりする。
‥直後、閃光と轟音が一帯を覆う。閃光が止んだ後‥
「シン君、今よ!」
(「これで‥行けるはずです‥!」)
白雪の声と共に、この時点まで隠密潜行で隠れ、壁沿いに前進していたシン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)が、エネルギーガンでキメラの頭に狙いをつける。
そして狙い済まされた一撃は、見事にキメラの頭部に突き刺さる。
痛みにより暴れまわるキメラは‥四周の地面に、『両腕で乱打し始めた』。
「うぐっ!?」
衝撃波の乱撃により、まだ範囲内に居たシンは煽られ吹き飛ばされてしまう。
‥攻撃後直ぐ隠密していたのだが、目が見えない状態でのキメラの無差別攻撃には隠密してもしなくても余り変化はない。
「大丈夫ですか? シン君」
「ええ、ありがとうございます。白雪君」
吹き飛ばされたシンを、白雪がキャッチしていた。
その間に、アキラが事前に用意した貫通弾を詰めた弾倉を装着。掃射するが、乱打によって起こされた衝撃波の壁に阻まれる事になる。
●一点突破
「皆さん、私についてきてください」
白雪がキメラを睨みつけ、そう言うと、優、春奈、ミルファリア、時雨が白雪の後方に並ぶ。
「こっち向いて‥もらう、よ!」
弾切れでリロード中のアキラに代わり、エルが先ず竜の角を使用したエネルギーガンでキメラの注意をひきつける。
そして―――
「謳い嘶け、宵姫・暁姫! そして‥貫け!」
二本の剣を同時に振るい、それぞれからソニックブームを繰り出す。二本の衝撃波が交差し、キメラから放たれた壁のような衝撃波と衝突した瞬間、両者が消滅する。
これを繰り返し、列車のように少しずつキメラに近づく前衛隊。後10m程度まで近づいた時、ミルファリアが白雪の背後から飛び出す。そしてその直後、練力を著しく消耗した白雪は後退する。
「その足、お一つ貰っていきますわ‥‥」
ミルファリアが『クラウ・ソラス』を砲丸投げのように横に振るい、足の付け根を薙ぎ払いで狙う。
‥僅かに早ければ、この攻撃は決まっていた。この時点では既に、キメラの視覚は戻っていたからだ。
地面にたたきつけていた両腕を横に戻し、片腕でミルファリアの一撃をブロックする。その衝突で生まれた衝撃波がミルファリアを横へ吹き飛ばし、キメラに反対側から流し斬りを込めた優の一撃をブロックする余裕を与える。優の武器はミルファリアの物より軽く、足を止めず斬り抜けしたため衝突の衝撃波による影響を受けなかったが、キメラに致命打は与えられなかった。
だが、両腕を防御に使ってしまったキメラに残された、攻撃をブロックする術は極めて限られていた。
盾の影に隠れながら、天剣「ラジエル」を後ろに引いた状態で突進する春奈。盾の影から竜の角を使用し、全力でキメラの肩を狙い突き刺す!
「――――――!!」
発声機能はないのか、キメラから声は出ていない。だが、その表情が僅かに苦悶に歪む。そして、刺されたのと反対の腕を振り上げ、拳を握り振り下ろす!
「っ!?」
再度竜の翼で離脱を試みる春奈。だが今度は0距離からの後退であり、竜の翼を持ってしても、地面に叩きつけられた腕から放たれた衝撃波の範囲から、完全に脱出する事は出来なかった。
「くっ‥流石に‥ダメージよりも距離をとられるほうが厄介ですね‥」
衝撃によって押し流されるのを、ラジエルを地面に突き立てる事により辛うじて食い止める。同時に、超機械「カタストロフィ」で攻撃を仕掛けるため接近したエルも、同様に体勢を低くし衝撃波に耐えていた。
‥最も、こちらは地面に突き立てられる兵装を持っていなかったため、10mほど多く吹き飛ばされたのだが。
●崩れゆく序曲
振り下ろしを見切り、建物の間に滑り込み衝撃波をやりすごした時雨は、再度そこから名刀「国士無双」二本を構え突進する。
そして、胸を狙い、刀を交差させて斬りつける。両腕を地面に着けたキメラに防御する術は―――
―――カキンと、金属音がする。見れば、キメラは両腕を支えにして、硬化した両足でそれぞれ刀の腹の部分を蹴り、軌道を逸らしたのだ。僅かにその過程中刃の部分に触れていたのか、硬化した鱗の部分がひび割れている。どうやらさっきの春奈の一撃はやや浅かったらしく、キメラにダメージを与えたものの腕を動かなくする事は出来なかったようだ。
そのまま蹴りの反動で空中へ舞い上がるキメラ。そして両腕を回し、時雨の頭上から縦回転のハンマーパンチを振り下ろす。反動で両刀を横に逸らされ、防御が出来ない時雨は―――
「問題ありません、戦闘を続行します」
叩きつけられ、吹き飛ばされたのは空っぽのAU−KVである。
‥時雨は、直撃の直前に刀ごとAU−KVを解除し、キメラの脇下へダイブし背後に回りこんだのだ。そして、二丁の小銃を取り出しキメラの首へ背後から射撃を加える!
僅かに血を首から噴出したキメラであったが、その痛みから凶暴性を刺激され‥背後に倒れこむような動作でハンマーパンチを逆に、頭上を超えるように動かす!
轟音と共に、拳が時雨を地面に叩きつける。拳自体の衝撃と衝撃波の二重攻撃により、周囲の地面までがひび割れている。
「それ以上はやらせませんわ‥‥」
尚も攻撃を続けようとするキメラに対し、ミルファリアが迅雷で滑り込み、着ていたロングコート『雷雲の衣』を目の前に投擲して視界を覆い、その隙に更に迅雷で重傷の時雨を救出する。
地面を叩き付け、衝撃波でロングコートを吹き飛ばしたキメラに、ミラージュブレイドに武装を切り替えたアキラが急接近する!
「これが見えるかな」
もう一つ、閃光手榴弾を取り出し、ちらつかせる。怯んだり目をガードしたりしている隙に横から隙を伺っているシンが各所の傷を狙い射撃し、手足などを動作不能に追い込む作戦だ。
だが、ここで誤算だったのは‥キメラは目を防御するような事はせず、直接両腕で地面を乱打し始めたのだ。
‥閃光手榴弾が飛んできたら衝撃波で打ち返そうという魂胆である。アキラは実際にはその手榴弾のピンを抜いていなかったためキメラの狙いは果たされなかったが、アキラ本人は全ての衝撃波の壁を回避しきれずに吹き飛ばされ、10m地点で辛うじてミラージュブレイドを地面に突き立てて停止する。また、余波により‥再度、隠れていたシンの潜伏が解かれる事になる。
(「この分では石などを投げても同じ事になりそう」)
と、白雪は構えた閃光手榴弾サイズの石を下ろす。
一方――
「しまった‥っ!?」
発見されたシンは後退して再度潜伏しようとするが、その前にキメラが、シンの真上へジャンプしていた。
ドロームSMGに装備を切り替え掃射するアキラの攻撃を片腕でガードし、更に狙ってきたエルのエネルギーガンの一撃を強引に受ける。傷ついた腕の鱗が焦げ始めたのを気にせず、強引にもう片方の腕に落下の勢いを乗せ、シンに叩きつける!
「シン君!」
友人が傷つけられたのを見て、白雪が練力が少ないにも関わらずソニックブームを使用して、衝撃波の壁を相殺しながらキメラに突進し、先ほどエルのエネルギーガンや春奈のラジエルにより傷ついた腕に‥二段撃を使用して連続で斬りつける!
流石に3回もの強烈な攻撃には耐えられず、キメラの片腕は切断された。
「―――――!!」
痛みに凶暴性を更に刺激されたキメラは、拳を横にボディブローのように白雪に叩きつける。
「彼の災厄より我が身を護れ‥っ!?」
ガントレットと血桜を交差させ、強引にキメラの拳の一撃を受け止める。
‥流石歴戦の傭兵。拳自体によるダメージは、この防御により低く抑えられた。だが、『拳』と『武器』が衝突した衝撃波は、そのまま『武器』を伝わり、白雪を直撃した。
●エスケープ・ルート
戦況は此処に至って悪化していた。
キメラは片腕を切断され、また随所から血が流れている物の、致命的なダメージではない。対する傭兵側は3名が既に戦闘不能状態に陥っており、残りの5名も多少なりともダメージを受けている状況であった。
優とアキラが一撃離脱で牽制し、その間にエルがエネルギーガンでダメージを与え、ミルファリアと春奈がそれぞれ白雪とシンを救出したものの、離脱手段を持たない優は更に何発か衝撃波を食らってしまう事となる。
だが、キメラの方は違う状況の見方をしていたようだ。地面に残った片腕を叩き付け衝撃波の壁を前方に起こし、傭兵たちが防御、回避行動を取った瞬間‥
‥後方に向かって、全力でジャンプしたのである。
「っ‥逃げる気か」
キメラの意図に気づいたアキラとエルが銃を構え、キメラに向かって撃つが、地面を撃った衝撃波で加速したキメラは、既に傭兵たちの武器の射程範囲外であった。
そのまま、遠くのビルの間を飛びながら、キメラの姿は‥遥か彼方に、消えていったのである。
「やれやれ‥これは、回収チームを出さなければいけませんね」
傭兵たちの横のビルから、声がする。見れば、白衣の男がビルの間の路地に立っていた。
「今日もいらっしゃったんですか? フェルナンデスさん。出来れば、そろそろ上のほうからの研究打ち切り‥みたいな話が出て欲しいところなのですが‥」
呟くと同時に、春奈の手に持っていた天剣「ラジエル」が、白衣の男に向かい投擲される。だがそれは、白衣の男が手に嵌めた金属製のグローブに掴まれる事となる。
「やれやれ。ここまで苦戦してもまだ余力が残っていましたか。全く、元気なお嬢さんですね」
そう言って、ラジエルを空中に投げ‥グローブの拳打で柄の部分を打つ。ラジエルは春奈に向かって飛び‥春奈の顔の右側の建物の壁に、突き刺さる。
「こう言った有効例もありますからね‥そう簡単に、私とあなた達の縁は切れそうにはありませんね‥フフフフフ‥‥」
気味の悪い笑いと共に、白衣の男――フェルナンデス・グローリアの姿は消える。
残された傭兵たちは、重傷者3名を、急いで救護施設に運び込んだのであった。