タイトル:ラスト・ディガーマスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/03 23:54

●オープニング本文


●過ぎ去りし物
「‥‥ここも、もうおしまいか‥‥」
 筋骨隆々の男が、洞窟の入り口で一言感想を漏らす。
 中国は湖南省にあるとある炭鉱。ここは年々、石炭の産出量が低下しており、またバクアが付近に出没していると言う報告を受け、放棄される事になっていた。
「もう俺たち、十年もここで働いてたからな」
 もう一人の、やや痩せている男が相槌を打つ。
「最後に、もう一度ここで飲むか。‥‥この鉱山で、死んだ仲間たちのためにも」
「ったく、アレだけ事故に巻き込まれたってのによ、俺たちもしぶてぇもんだぜ‥‥」
 ふと、痩せ型の男の目に寂しそうな光がともる。
「ああ、鉱山が開いた時から入ってたヤツらの中で、生き残ってるのは俺とお前だもんな」
 話している間に、二人は鉱山の奥にたどり着いた。
 近くの岩にどっかりと座り、お互い一言も発さずに盃に酒を注ぐ。
「「俺たちの仲間に、乾杯」」
 二人は、盃を一気に飲み干す。安物の酒なのか、何故か味がしなかった。

●襲い来る物
「おい‥‥お前も気づいてるだろ?」
 3杯くらい飲んだ所で、筋骨隆々の男がもう一人の男に話しかける。
「ああ。ちっと揺れてるな。俺が酔ったせいかと思ってたが、お前も感じてるんなら間違いねぇな。」
 男たちが立ち上がった瞬間、壁の一部がもり上がり、それと同時に『ドリル』が飛び出してくる。
「うおっ!?」
 とっさに傍にあったピッケルで、ドリルを逸らす。火花を散らし、金属がぶつかり合う音が響く。
 ピッケルは折れてしまったが、何とかドリルで穴を開けられる事態は免れたようだ。
 目を凝らすと、その『ドリル』は、ミミズの両端にドリルがついた形をしていた。
「あぶねぇ!」
 天井からもう一体が飛び出し、筋肉質の男に襲い掛かるが、痩せ型の男が素早く筋肉質の男の腕を引き、それをかわす。
「ちっ‥‥こいつら‥‥」
 思いっきりシャベルを振り上げ、着地したミミズのど真ん中向かい振り下ろすが、ほのかに赤く光る『何か』に弾かれる。
「おい、コイツは『キメラ』ってもんじゃねぇか?」
「噂には聞いてたが、実物見んのはこれが初めてだな」
「もしかしたら、俺たちに離れてもらいたくねぇっていう山の意思かもな」
 にやりと、筋肉質の男が笑いを浮かべた。

●参加者一覧

御門 砕斗(gb1876
18歳・♂・DG
山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
姫咲 翼(gb2014
19歳・♂・DG
森居 夏葉(gb3755
25歳・♀・EP
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

●深き地の底へ
(「初仕事が救出任務って‥ちと荷が勝ち過ぎるんでないかい? オレ‥でもまぁ、目に入っちまったモン放っとくのは後味悪ィしなぁ‥」)
 そんな御守 剣清(gb6210)の心の呟きは知らずに、山崎・恵太郎(gb1902)と皇 流叶(gb6275)が今回の依頼者である鉱山のオーナーと話す。
「‥依頼を受けに参りました、未だ拙い腕ですが、宜しく頼む‥失礼、頼みます」
 流叶の口から一瞬かわいい顔には似合わない言葉が出たのは気にしないで置こう。
「この鉱山の見取り図をもらえないかな?」
「ああ、それなら問題ねぇよ。ただ、ちと古いかんな。細かい横道とかは書いてねぇかもしれねぇ」
「それでも、無いよりはマシさ」

「剣清さん、宜しくお願いしますね」
 その横では、フィルト=リンク(gb5706)が班分けの指示を行い、同グループになった剣清に挨拶をしていた。ファブニール(gb4785)は、ランタンの点検を行っている。

 暫くして、オーナーが見取り図を持ってくる。
「あいつらはこの10年間、この鉱山内の事故とかも全部生き延びて来たからな。そう簡単にくたばっちゃ居ねぇと思うが、よろしくお願いする」
 それに対し傭兵たちは静かに頷くと、それぞれが班分けに則ってドラグーンのバイクに乗り、出発した。
(「どうか、無事でいて下さい!」)
 恵太郎のこの思いは、恐らくは傭兵たち全員に共通した物だったのだろう。
「飛ばします、落ちない様に気をつけて」
 そうフィルトが告げると、傭兵たちは一斉に洞窟内に向かいバイクを走らせた。


●幕間〜生き延びるための死闘〜
「ちっ、どーすんだよこれ!?」
 筋肉質の男が、穴の開いたシャベルを引きながら悪態を付く。
 SESが装備されていないシャベルでは、フォースフィールドを破る事はできない。先ほどから2体目のキメラが何故か全く姿を見せなくなったとは言え、不利である事に変わりは無い。
 逃げようとすれば、素早く地に潜り先回りされ、追い返される。
 男たちの体力は少しずつ消耗していた。
「例えこれが山の意思だとしても、そう簡単に死んではやれねぇ。俺たちはこの山の数々の事故でも死な無かったんだからな!‥そうだろ? 相棒」
 細身の男が筋肉質の男に問うと、相方は静かに頷いた。
「そうと決まればやる事は一つ! こいつらを押しのけて出て行くだけだぜ!」


●第一のドリル
 傭兵たちが取った戦法は以下。
 道中でキメラに出くわした場合、フィルトと剣清のペア、そして恵太郎とファブニールのペアが囮としてキメラを引き付け、その間に姫咲 翼(gb2014)、流叶のペアと、森居 夏葉(gb3755)、御門 砕斗(gb1876)のペアが奥に向かい、鉱夫たちの救出を行うと言う物だった。
 それぞれのペアは、ドラグーンのバイクに二人乗りし、奥に向かうということだったのだが‥

(「うわ、これ絶対に後でお尻が痛くなるね」)
 デコボコした悪路に揺らされ、そんな考えが恵太郎の頭の中を過ぎる。
 鉱山内はデコボコしていてスピードが余り出せないだけでなく、その狭さからバイク二台が併走するのが限界だったのだ。
 そのため、傭兵たちは縦一列に並んで前進していた。

 その中で、探査の眼を展開し、周りを観察していた夏葉が僅かな壁の盛り上がりに気づく。
「危ないっ!」
 壁から、ミミズ型キメラがドリルを回転させながら砕斗に向かい突進する。
 車体を傾けて回避するには、この洞窟は余りにも狭かった。
「ぐっ‥‥!」
 左肩にドリルの一撃を喰らい、砕斗はバイクごと右に向かって倒れる。だが、洞窟が狭かったのを良い事に、壁に衝突しながらも右手を壁に付け、強引に体勢を立て直す。
 同乗していた夏葉も、壁にぶつけた頭を抑えながら、クルメタルP−38を抜き放ちキメラに向かって撃ち放つ!

「!!」
 キメラは砕斗に一撃を加えた後、そのままの勢いで反対側の壁に潜り込んでいた。その為、夏葉の放った弾はもぐりこんだ箇所の直ぐ隣の――鉱石に当たっていた。
 カキン、カキンと言う跳弾音が響く。幸いにも、誰にも当たらなかったようだ。

「これは、迂闊に銃は撃たない方が良さそうだね」
 夏葉がため息をつく。
 ここは鉱山である。無論、金属を含む鉱石もまだ埋まっている訳で、この狭さで銃を撃てば跳弾する可能性は十分にある。
「これは‥俺も、攻撃できなさそうですね」
 隣で恵太郎もため息を付く。彼も夏葉と同じで、銃以外の兵装を持ってきていないのだ。

「それに、バイクは使わないほうが良いみたいですね。乗っていると、武器で攻撃を受け止めても傾きます」
 フィルトがそれに付け加える。


●それぞれの道
「これで問題は無いですね」
 ファブニールが救急セットでで砕斗の止血を行った後、ドラグーンは、各自AU−KVを変形させ、装着する。
 周囲を警戒しながら、傭兵たちは鉱山の奥へと進んでいく。
 更に約10分間ほど進んだ所で、夏葉が床の僅かな盛り上がりに気づく。そして、急いで笛を1回、吹いた。

「来やがったな!」
 得物を構え、翼が臨戦状態に入る。1回鳴った笛は、キメラが近づいている事を意味していた。
 各々が得物を構える中、剣清の足元から突如ミミズがドリルを回転させながら飛び出し、一直線に剣清の心臓を狙う!

「予測通りです‥!」
 元々から注意を引き付け、足を止める事を目標としていた剣清にとって、キメラが自分を狙ってきたのは寧ろ好都合だった。
 刀でドリルを受け止める。一帯に、金属同士が擦れる音が響き、火花が散る。
「ここは、私達に任せて先へ」
 剣清の方へ駆け寄りながら、フィルトが深部に向かう手はずになっていた2ペアを促す。
 だが、武器を仕舞い、流叶が奥に駆け出そうとしていた時、夏葉の探査の眼が再度異変を捉えた。
「流叶さん、上!」
 武術の心得がある流叶はその一言で事態を察し、咄嗟にバックステップを取る。一瞬の後、流叶が立っていた場所には、真っ直ぐに体を伸ばしたミミズキメラが刺さっていた。
「ちっ‥‥奇襲とは卑怯な‥‥ごほん、卑怯ですね!」
 普通の人間が奇襲したのならば、奇襲者が体勢を立て直すまでに、流叶は武器を構えなおす事ができたはず。
 だが然し、このキメラは『両側』にドリルが付いていた。

「ぐあ‥‥っ」
 ミミズキメラは、前のドリルを地面に刺したまま、体を曲げ、後ろのドリルで流叶の足を貫いていた。
 痛みに耐えながら、流叶は剣を横に薙いでドリルをミミズから切り離す。
 それを見た翼が、キメラめがけて一直線に駆け寄る!
「うぉぉぉぉ――遅ぇ!!」
 手持ちの2本の刀を使い残り1つのドリルを受け流し、そのまま壁に刀をハサミのように突き刺し、ドリルを固定する。
 じたばたと暴れるキメラを前に、翼はもう2本の刀を抜き放つ。
「俺とやり合うなら、全身ドリルにして来るべきだったな―――竜の爪!!」
 竜の爪を発動させ、刀を振り下ろした。


●無孔不入
 一方、ドリルを刀で受けた剣清は――
「あっぶねぇ!?」
 片方のドリルは刀で受けたが、もう片方のドリルが顔面を狙って繰り出される。
 ギリギリで回避するが、剣清の顔にはうっすらと血の跡がついていた。
「全く面倒なことで!」
 思いっきり横に剣を振り、キメラと距離をとる。
 空中に浮き上がったキメラに、フィルトが竜の翼を使い一気に詰め寄る!
「時間が惜しい、邪魔です」
 シールドを使い、更に空中へキメラを吹き飛ばす。
 空中で無防備のキメラに対し、更に一撃を加えるはずだった、が――
「しまった!?」
 洞窟の天井へ吹き飛ばされたキメラは、そのままドリルを天井に突き刺し、穴を掘って遁走しようとしていた。
 フィルトは天井すれすれに沿ってイアリスを振るうが、それはキメラの尻尾のドリルを切り落としただけであった。
「逃しましたか」

「よし、これでもう大丈夫。剣清さんは?」
「大丈夫、割と頑丈ですから‥」
 ファブニールが、流叶の足を手当てする。完全回復には至らなかったが、とりあえず歩けるようにはなったようだ。
「感謝す‥ありがとうございます」
 礼を言い、流叶が立ち上がった瞬間である。
 ファブニールの背後の土がもり上がり、キメラが飛び出してくる!
 夏葉が別行動を取っており、探査の眼の援護が無かったのが発見が遅れた原因だ。
 キメラのドリルが、後少しでファブニールの背中に届こうとした時――

「甘いね」
 ハンドガンのクリップの一撃で、空中に居たキメラを地面に叩き落したその者の名前は、山崎 恵太郎。
 威力が低いといえども、空中で支えがなかったミミズキメラを地面に叩き落すのは十分であった。
 そのままキメラの方を向いていた流叶が、地面に叩きつけられたを両断した。


●守る者
「砕斗さん、右」
「了解」
 他の傭兵が交戦していた間に、先に奥に向かっていた夏葉、砕斗ペアは夏葉の探査の眼を頼りに鉱夫たちのいる場所に近づいていた。
「そこの十字路を左‥! 戦ってる痕跡があるわ」
 指示通りに、砕斗が左に曲がると、今まさにミミズキメラが片方のドリルを細身の鉱夫に突き刺そうとしている所だった。
「やらせはしない」
 機巧居合刀「真達」を抜刀し、そのまま横に薙ぐ。だが、肩の傷の痛みが影響しているのか、目標が逸れ、キメラのドリルに当たる。
 然し、それでも、キメラを吹き飛ばすのには十分だった。
 その間に夏葉は気絶していた鉱夫二人を確認すると、呼び笛を3度、鳴らした。

 砕斗とドリルキメラが何度も打ち合う。
 砕斗の方はやはり肩の傷が動作の素早さや精密さに影響しているのか、決定打が与えられず防戦が殆ど。
 また、夏葉も後ろに鉱夫たちがいる以上、跳弾の危険を冒してまで援護射撃はできない。
 戦闘は、持久戦になろうとしていた。

 この膠着状態を打ち破る声が、曲がり角の方から響く。
「皆さん、お怪我はありませんか?」

 そのフィルトの声を聞いた砕斗は、もう一度全力で横に薙ぐ。
 キメラはこれをドリルで受けるが、竜の爪の篭った一撃は、軽量のミミズキメラを空に舞わせた。
 目の前に飛び出してきたキメラを見て、一番早く反応したのは前を歩いていたファブニール。
 素早く盾を使用し、キメラを地面に押し付ける。
 そこへ剣清、流叶が飛び出し、両側のドリルを切り落とす。
「うわ‥ミミズにドリルが付くとこんなになるんだ‥」
 感嘆(?)の声を漏らしながら、ファブニールはグラジオラスをキメラの胴体に突き立て、その命を絶った。

 救急セットを使い、剣清と流叶が鉱夫二人に手当てを施す。
 二人ともキメラの体当たりを回りにある道具で防いだ時、その突進力を殺しきれずに壁に頭をぶつけていただけであったようで、それほど重傷ではなかった。
「おっさんたち、これ乗ってくか?」
 AU−KVのバイクに乗せて運ぶ、と言う傭兵たちの誘いに対し――

「ありがてぇけど、必要はねぇな」
「そうだな。この程度、5年前の落盤の時と比べたらどーってことはねぇわ。ガハハハ!」

 鉱夫たちは、まだまだ元気そうだった。


●見えた光
 戻り道に置いても、傭兵たちは臨戦態勢を取り、夏葉は探査の眼を継続して展開していた。
 と言うのも、まだキメラが残っているかどうかは確認できず、また逃げた一体がまた襲ってくる可能性もあったからだ。
 その甲斐あって、地面の僅かなもり上がりを夏葉が確認した直後、全員が攻撃の準備をしていた。

 キメラが頭を出した直後、フィルトと翼が動く。
 3本の剣がキメラに襲い掛かる。だが‥
「なっ!?」
 キメラは体を捻り、両方のドリルでフィルトの斬撃と翼の交差斬撃を受け止める。
‥だが、それまでである。
 両方のドリルを使ってしまったキメラに、大上段に構えた剣清の刀を受け止める術は残っていなかった。
「食らっとけ!」
 後には、真っ二つになったキメラだけが残されていた。

「おお、おめぇら帰ってきたか!」
 外に出た傭兵たちと二人の鉱夫を、オーナーが出迎えた。
「ったりめぇよ!俺たちゃ悪運つぇぇんだ。そう簡単にくたばるかよ!」
 鉱夫二人の無事を確認したオーナーが、改めて傭兵たちに頭を下げる。

「皆様、この二人を連れ帰ってもらっただけではなく、キメラまで退治してもらって‥ありがとうごぜぇます」
「いえ、1体だけ‥逃してしまいました。申し訳ありません」
「いや、それでもありがてぇ。残りは俺たちがどーにかしますさ。いざとなれば丸ごと埋めちまうってのもあるからな」
 にかっと、オーナーが豪快な笑みを浮かべる。

 その後ろでは、剣清が日光を満喫していた。
「オッサン達には悪ィけど、やっぱお日さんの下がいいです、オレは‥‥」
 逆に、紫外線に弱い流叶は‥‥
「私は、あの中の方が良かったかもしれん‥‥ごほん、しれないです」
 洞窟内の方がお気に入りだったようだ。
「皆さん、洞窟の中で埃まみれでしょうから、これで体でも拭いてー」
 恵太郎が、皆に熱々の濡れタオルを配る。
 体を拭いた翼が、ほっとため息を付く。

「はぁ‥‥どうにか終ったな。皆、お疲れさん」