●リプレイ本文
●嵐の前の静けさ
ロサンゼルス。ここは有数の大都市であるとは言え、それでも郊外に近づく程人影がまばらになって行く物である。
そんなLA郊外の化学工場の近く。明らかに荒野とは不釣合いな、軍用車‥ジーザリオが、2台泊まっていた。
「ステアーのパーツか。何とか回収しねぇとな」
「そう簡単にはいかないかもな」
作戦の目的について談義するのは砕牙 九郎(
ga7366)とカルマ・シュタット(
ga6302)。カルマは、 アンチシペイターライフルをロープで車に固定しながらの会話である。
「どうやらパーツは入り口から反対側‥ここのようですね」
事前に申請した地図で、パーツのあると思われる場所を指し示す鳴神 伊織(
ga0421)。それを確認した緑川安則(
ga4773)は、もう片方の車に連絡した。
「そろそろ作戦実行時間だが、準備は大丈夫か」
「はい」
M2(
ga8024)の簡潔な回答が伝わってくる。
「では‥‥時間合わせ。5、4、3、2、1、作戦開始」
安則の合図と共に、九郎とセレスタ・レネンティア(
gb1731)が同時にアクセルを踏み込む。
2台の車は併走しながら、前方にある化学工場へ、一直線に走って行った。
●障害物走
車の走行音を聞きつけたのか、はたまた他の何かの方法で傭兵たちの接近を察知したのか‥進路上に居た昆虫キメラは、一斉に車の方へとその顔を向けた。
そして、猛然とその8本の足を動かし、車に向けて突進してくる。
だが、車両2台のドライバー‥セレスタと九郎の表情は変わらない。ここまでは全て傭兵たちの予想通りだからだ。
「近づきたくはないな」
銃声が響き、押し寄せてきたキメラの中の一体が爆発する。それは周囲のキメラにも誘爆し、あっという間に大量のキメラが排除される。
そこを素早いハンドリングで抜ける九郎。だが、道が開いたのは一瞬で、九郎車が通りぬけた直後にそれは押し寄せるキメラによって再度塞がれる。
「ちょっとそこどいて! 邪魔!」
衝突する前に、2台目の車からM2(
ga8024)が腕を出し‥SMGを掃射する。爆発音と共にキメラ四散し、また道は開かれる。
「着きました。中がどうなっているか解りません、注意して下さい‥ッ!?」
後方のセレスタがブレーキを踏み車が完全停止したのと同時に、傭兵たちは車から飛び出す。
だがその直後、入り口に爆発が発生し、先頭に居た九郎車が吹き飛ばされることとなる。
間一髪で降車に間に合った傭兵たちの前に、ロングコートを着た男、雷火龍が立ち塞がった。
「派手にやってくれちゃってねぇ。ま、その為にワザワザ『爆薬を背負ったキメラ』なんだけどねぇ」
ハッとする。そう‥あの爆弾キメラは、寧ろ侵入者の接近を知らせる‥鳴子の様な物なのだ。
だが、雷火龍が話を終わらせる前に‥何か黒い物が、空を舞った。
「ハァイ、守護天使(アークエンジェル)が遊びに来たわよ♪」
「ちっ‥中々面白いことやってくれるじゃん?」
空中で冴城 アスカ(
gb4188)の投げた閃光手榴弾が爆発する。
「感謝する。無理はしないで頑張ってほしい!」
安則の台詞の直後、雷火龍の目を封じた隙に柊 沙雪(
gb4452)が迅雷を発動して雷火龍の背後から襲いかかり、セレスタが狙撃の準備に入る。その間に、強化人間対策班とパーツ奪取班の傭兵たちは一斉に内部へと突入した。
●鎮座せし鉄壁
「来たか」
装置の前には、全身鎧を纏ったバクア「フルアロイ」。手には金属質の長棍を持ち、門を守る将軍の如く風格で傭兵たちと相対する。
カルマ、伊織、九郎の3人が素早くバクアを取り囲み、安則とM2は装置に近づく隙を伺っている。
「先ずは引き剥がさないとな」
小銃「十六夜」でフルアロイに向かって射撃する九郎。だが、「カキーン」と言う金属音が鎧の各所から響いただけで、大した効果は出ていないようだ。
「なら‥鎧の隙間はどうだ!」
と、鎧の隙間を狙い、横薙ぎの足払いを繰り出すカルマだが―――
「‥鎧の隙間と言うのは動くことによってできる物。ならば最小限の動きしかしなければ、それは生まれんよ」
その一撃を察したフルアロイにより、上下の鎧のプレートを使って挟み込むようにして防がれる。そして上段から振り下ろした長棍を辛うじて槍の柄で受け止めるが、あまりのパワーに膝を着く事になる。
「この程度か‥」
「これが、狙いだからな」
「何っ!?」
カルマは思いっきり槍を回し、絡め取るようにして長棍を挟み込む。
フルアロイの横からは伊織が両手で剣を構え、迫っていた。両手で持っている長棍をカルマに抑えられたフルアロイにはそれを防ぐ術は無かった。
「鎧が邪魔ですね‥なら、鎧ごと打ち砕く‥!」
紅蓮衝撃を込めた全力の一閃。金属がぶつかりあう音と共に火花が飛び、フルアロイの背中の鎧が剥がれ、傷跡が走る。
「ぐお‥我の鎧を両断するとはな‥だが!! 一刀で体まで両断しなかったのが間違いだったぞ!」
怪力を駆使し、フルアロイはカルマごと長棍を持ち上げ、そのまま横薙ぎに振るってカルマを伊織にぶつけ吹き飛ばす。
吹き飛ばされた二人の影から九郎が接近し、伊織が鎧をはがした部分を狙って全力で『壱式』を突き刺す!
「がぁぁぁ!」
苦悶の叫びを上げるフルアロイ。だが、痛みが精神をも狂わせたのか、一歩も下がらず逆に九郎に向かい前進し、そのまま左手だけで棍を持ち、右手を鉄槌のように振り下ろす!
‥先ほどとは逆の状況で、今回は九郎の武器が既にフルアロイに刺さっている。故に防御が出来ず、拳打を喰らった勢いで武器を手放してしまう。
そして、傭兵たち3人が吹き飛ばされた場所へ向かって、下段に棍を引きずりながら猛然とフルアロイは突進。切り上げの様なスイングで傭兵たちを攻撃する。
武器を手放している状態の九郎は横にダイブし、カルマは後ろにローリングして回避しようとする。だが、何れも間に合わない!
そのため、伊織は‥強引に一撃を受け止める事を選んだ。
「ぐぅ‥‥っ!!」
盾扇と鬼蛍を交差させ、強引に棍の振り上げを止める。腕が痺れ、噛み締めた唇から一筋の血が流れるが‥それでも、バクアの全力の一撃を受け止めたのだ。
そして‥この動作によってフルアロイが打ち上げ装置から離れたのを、隙を伺っていた安則は見逃さなかった。
「せっかくの戦果、せっかくのサンプル。いただくぞ!」
安則は瞬速縮地を発動し、一瞬で装置まで詰め寄り、イアリスで斬り付ける。と同時に、M2も駆け寄り、パーツに手を伸ばす。
―――が、一歩先に、そのパーツは虫型キメラにより強奪されてしまう。
「それ持って行かれると、困るんだよねッ!」
怒ったM2は、ブレイクロッドを構え、超低空での薙ぎ払いでソニックブームを発動させる。それによって吹き飛んだキメラに、打ち上げ装置を破壊した安則が瞬速縮地で背後に移動する。
「全く、騒がせてくれたものだ」
パーツを掴み、更に剣で縦にキメラを殴り飛ばす。そこへ待ち構えていたM2が、ブレイクロッドを横にスイング。
―――まるでバットにボールぶつかったスイカのように、キメラが潰れ、爆発する。だが、ブレイクロッドのリーチのお陰で、M2はダメージを受けずに済んだ。
「パーツ確保だ! 逃げるぞ」
無線機で安則が全員に連絡し、入り口への後退を開始する。
●火龍乱舞
同一時間―――
「貴方にはここで止まっていてもらいます。ああ、冥土へならいつでもどうぞ」
他の傭兵たちが中へ侵入した直後、雷火龍の背後から襲い掛かった沙雪は二刀小太刀「疾風迅雷」を分離させ鋏の様に振るい、同時に首筋を両側から狙う。だが―――
「そんな攻撃で俺を止める気か?」
2箇所に僅かな時間差をつけた太刀筋は然し、雷火龍の表皮に触れた瞬間、猛烈な爆発により相殺される。
衝撃により手が痺れた沙雪はそのまま爆発の勢いに乗じて浮くようにして距離を離し、アスカが瓶を一つ、その爆炎めがけて投擲する。
「素敵な花火ね♪ これでもっとアツくしてあげるわ!」
瓶が爆風によって割れ、その中身‥高純度のアルコールを含むスブロフが、雷火龍に降りかかった。
一瞬にして、雷火龍の全身を炎が包み込む!
「貴方とはホテル爆破事件以来ですね。今度こそ‥逃がしません」
好機とばかりに、セレスタが援護射撃を加える。体の各所を狙った銃弾は爆発によって防がれるが、それはスブロフの火の勢いを更に強めることとなる。
「ほら、もっと楽しませて頂戴な」
下段からアスカがスライディングで滑り込み、連続蹴りからサマーソルトキックを加える。
「あなたも格闘を嗜んでるの? 奇遇ね、私もよ」
後ろへよろめく雷火龍の頭上で逆に縦回転し、かかと落しを叩き込むが―――
「やっと視界がはっきりしてきたねぇ」
足を、雷火龍に掴まれる。そして雷火龍はキッとセレスタを睨む。
「どうやら、アイツはお前に言ってなかった様だねぇ。『火龍』がどんな流派か、って事を」
「火龍‥まさか!?」
雷火龍はアスカを投げ飛ばし、そのまま拳を大きく引く。
「火つけてくれてありがとな! 火龍功壱式・『龍吼』」
そのまま正拳突きと共に火薬を誘爆させる。爆風により雷火龍の全身にかかった火が吹き飛ばされ、風圧と共にアスカに叩き付けられる!
落下し、地面に叩き付けられたアスカに駆け寄るセレスタ。だが、雷火龍にはそれに追撃を行う事はできなかった。
―――何故なら、爆発音と共に、雷火龍の脇下に小太刀が突き刺さっていたからである。
「やはりこういう事でしたか。賭けが当たりましたね」
無表情のまま小太刀の柄を掴んだ沙雪が言い放つ。彼女は雷火龍の爆発防御が2連続で同一箇所で発動できない事に賭け、小太刀突き刺して爆発を起こした直後にもう一本の刃で同じ場所を突き刺したのだ。
「ちっ‥見破られたか。流石だねぇ」
苦笑いを浮かべる雷火龍。だが、次の瞬間、その表情は獰猛な物に変わる。
「けど、これくらいで俺が倒れるってのはありえないねぇ」
右腕を回し、突き刺さった刃ごと、沙雪の腕を挟みこむ。
「ぐっ‥これが、俺の、『覚悟』だからなぁ!」
大きく後ろに引き、沙雪に向かい‥『頭突き』を仕掛けた。
響く爆発音。舞う砂塵。
―――砂塵の煙幕が引いた時、雷火龍は2階の窓に立っており、右脇を左手で抑えている。沙雪は、地面に倒れ伏していた。
「ぐお‥流石にここまでダメージをくらっちゃ、強引に守る意味もないねぇ」
と、窓を通し工場内に入ろうとする雷火龍。
「待てっ!」
と銃を構えるセレスタだが、仲間の様子を見て断念する。
‥そう。現状で沙雪は意識不明であり、アスカは負傷している。万が一自分が追っている間にキメラが襲ってきたら―――
そう考え、セレスタは銃を下ろした。
●ファイナル・ストライク
一方、工場内―――
安則とM2がパーツの奪取に成功したのを見て、フルアロイの目の色が変わる。
「それを持ち出させるわけには行かん‥!!」
まるで自分の周りに居る傭兵3人が目に入っていないかのように、パーツを持っている安則に向かって一直線に走る。
だが、フルアロイが自分で言った様に、「鎧は大きな動きをしなければ隙は殆ど出来ない」が‥逆に、走るなど大きな動きをすれば、隙間が生まれる。
「この隙間ならどうだ!」
チャンスとばかりに、カルマが槍でストレートで脇腹に突きを入れ、
「隙ができたな!今がチャンスだってばよ!」
剣を拾い上げた九郎が、胸と腹の鎧の繋ぎ目から剣を刺し込む。
――だが、フルアロイは、まるで痛覚が無いかのように、鎧で強引に槍と突剣を挟み込みながら安則に向かって突進する!
「くっ‥近づかせるわけには!」
M2がブレイクロッドを振るい、ソニックブームを起こしそれをフルアロイに叩きつける。だが、それは腕の鎧片で防がれてしまう。背後から追いついた伊織も飛びかかるが‥
「邪魔だ、女」
そう簡潔に吐き捨てると、棍で付近のパイプを突き刺す。たちまちそこからはガスが噴出し、視界を遮られ一瞬怯んだ伊織の刀は空を切った。
そして、フルアロイの片手が遂に安則の持っているパーツにかかる‥!
「ちっ‥離して貰おう‥!!」
安則は流し斬りを掛けたイアリスで二度ほど、先ほどの伊織の攻撃で剥がれたフルアロイの鎧の無い部分を斬りつける。だが、血を流しながらもフルアロイは動じなかった。
―――ただ一言、「今だ! 雷の小僧!!」と叫んだのみである。
それと共に、2階から雷火龍が顔を出す。
「‥本当にやるのか、フルアロイの旦那」
「ああ、打ち上げ装置が破壊され、俺もお前もこの状態だ。ならば俺に出来る事は‥これだけだ」
それを聞いた雷火龍は、唇を噛み‥そして叫んだ。
「あばよ、旦那ァァァァ!」
その言葉に、先ほどからフルアロイの体から漂っていた匂いの意味に安則は気づき、咄嗟にパーツから手を離し、M2を引っ張り急速に後退した。
―――昔から火薬と付き合う事となっていた経歴が、彼をこの場で助けたと言ってもいい。
次の瞬間、雷火龍が指を鳴らすのと同時に‥‥‥フルアロイの体が破裂し、爆発した。
武器を挟まれ、フルアロイの近距離に居たカルマと九郎はそのまま衝撃に意識を失って倒れ伏し、また咄嗟に受身を取った伊織と、火薬の匂いに察知して意図に気づき退避を選んだ安則、それに引っ張られたM2の3名は、重傷こそ受けなかったもののそれでも相当のダメージを受けた。
「貴様らの顔は絶対に忘れない‥! 絶対にな‥!」
一筋の雫を目から流し、雷火龍は吐き捨てる。そして、そのまま爆発音と共に窓を突き破り、遁走する。
傭兵たちも、カルマ、アスカ、伊織が持ってきた救急セットでそれそれ重傷者の手当てをし、化学工場から脱出する。
その直後、フルアロイの爆発が‥可燃性の薬品を着火させ、工場は爆発した。
●リザルト
今回の依頼は重傷者3名を出し、工場が全壊した物の、バクア1名を撃破し強化人間一名に重傷を負わせ、更に結果的にはパーツは破壊されたため、その功績を称え僅かながらボーナスを授与する。
UPC本部より