●リプレイ本文
●インフォメーション
街のど真ん中にある、呉 方正の診療所に集まった傭兵たちは8人。
「最近医師という名の人と縁がありますね。偶然でしょうか?‥偶然でも見捨てるつもりはまったくありませんけど」
と考えるのは、ホゥラリア(
gb6032)。彼女はこれ以前にも性格が正反対である医師の依頼を受けた事があり、それを少し思い出していたようだ。
「病人を治しに、怪我人が山へ、って‥‥もうちょっとどうにかならなかったんですか?」
呆れているのはヴェロニク・ヴァルタン(
gb2488)。
だが兎も角、その残りの7人は、先ずは看護婦、胡から情報を聞く事にした。
「呉医師が今回通るルートは確定しているのか?」
と聞くのは、周太郎(
gb5584)。ルートが確定すれば探索も容易になると言うことで、彼とヴェロニクは、胡が広げた地図を見ていた。
その地図は手書きで出来たもののようで、地形などはやや歪んでいる。
「今回の患者の居る場所にたどり着けるルートは一つしかありません。こちらです」
「その地図、貸してもらえませんか?」
フィルト=リンク(
gb5706)が口を聞くと、胡は特に文句もなく地図を差し出した。
「この地図は呉先生が自分で書き記したものですので、何枚かコピーが残っています」
と、解説してくれた。
「‥無茶をする奴が居るもんだ」
と、周太郎はヴェロニクのAU―KVの後ろに乗りながら呟く。だが、ヴェロニクが「しっかり掴まって、舌噛まないようにして下さいね。少し飛ばします」と注意したため、素早く口を噤んだ。
「無茶をしている、とは思っています。でもそれが間違っているとも思いません‥こんな時代だからこそ、人は自分の信じた道を歩むべきです」
と、ナンナ・オンスロート(
gb5838)は己の感想を述べる。そして後部座席に御沙霧 茉静(
gb4448)を乗せると、ヴェロニクに続いてAU−KVを発進させる。
そして最後に、
「ちょっと狭いですが、我慢してください」
フィルトが、後ろに乗せた佐賀 剛鉄(
gb6897)に告げる。
そして、他の傭兵たちどうように、患者の家へ向かう唯一のルートへと出発した。
‥ここで困ったのは、ホゥラリア、ブレイズ・S・イーグル(
ga7498)のペアである。
他3ペアがやや強引にドラグーンのAU−KVで山道を走行して上がったのに対し、このペアは迅速な移動手段を持っていなかったのである。
「‥ったく、しゃぁない。ちょいと別ルートを通るとするか」
道の横の森林地帯に目をやったブレイズ。ホゥラリアは、そんなブレイズの表情を目にして、少し身震いした。
●サーチ・フォー・ドクター
程なくして、3組の傭兵たちは山へ上がる唯一のルートへたどり着いた。
ここはそれなりに険しい山道で、二人乗りで駆け上がるのは無理があったため、ドラグーンの3名はそれぞれAU−KVを変形させ装着し。歩行での捜索を開始した。暫くして、歩行で普段通りに追いついてきたホゥラリアもここに合流する。
「呉さーん! どちらですかー!?」
「呉医師、いますでしょうか?」
ホゥラリアとヴェロニクが呉医師の名を叫び、探索する中、茉静は双眼鏡で呉医師を探す。だが、呉医師が見つかる前に、その目には別の物が映った。
「来た‥!」
その直後、傭兵たちの周囲に、大量の犬キメラが出現した。
「早速来たか」
血の赤に光る『ロングソード「パラノイア」』を構え、周太郎は素早く近づいた犬キメラを切り捨てる。
「絶頂流奥義 その身に刻んでくれる」
剛鉄は、連続蹴りで怯ませた後、コメットナックルをキメラに叩き込んで倒す。その後ろから別の犬キメラが飛びかかるが―――
「戦闘は避けたいのですが、ここで足止めを食らうわけには行きません」
フィルトの小銃「ルナ」で、後ろから飛びかかった犬キメラが撃ち落される。
その一言に、フィルトの友人である周太郎は頷くと、一瞬で銃と剣を仕舞い大剣を抜き出す。
「吼えろThinker!」
轟音と共に回転するように大剣が振るわれ、犬キメラの包囲圏が割れる。
そこを狙い、ホゥラリアが2丁拳銃で射撃し、更に剛鉄が飛び蹴りで切れ目を抉じ開ける。
「乗ってください!」
前方の山道が少し平坦になったのを見たナンナが素早くAU−KVをバイクに変形させ、茉静をバイクに引き上げる。同様にフィルトがバイクで飛び蹴りから落下した剛鉄をキャッチする。そして最後にヴェロニクが周太郎、ホゥラリアを乗せ、傭兵たちは包囲圏の隙から脱出した。
‥後ろから迫り来る犬キメラの群れを遠距離武器を使い、ホゥラリアと周太郎が迎撃する。
「全く減りませんね‥」
「少しでも遅らせるんだ‥っ」
そして、ついに茉静が双眼鏡の中に血まみれの人間の姿を捉える―――
●幕間〜燃焼疾走〜
「オラオラオラァ!」
木々を剣でなぎ倒しながら、赤い光が疾走する。
犬キメラたちは別の方面に気を取られていたのか、極少数しか現れず、その極少数も赤く光る剣筋によってすれ違い様に切り倒されていた。
「どっちだろうな‥このまま迷って遭難でHEAVEN行き、と言うのは避けてぇな」
暫し回りを見渡す、赤い剣を構えた男、ブレイズ。
●到着
―――呉 方正の真前には、巨大な大蛇の姿があった。
闘志消えぬ方正は、倒れても尚大蛇を睨みつけていたが‥この傷では戦闘所かまともに移動することすらままならないだろう。そこへ‥
「お願い‥、これで退いて‥!」
迅雷で飛び込んだ茉静が剣で大蛇を叩きその注意を逸らし、ナンナが竜の翼で方正と大蛇の間に割り込み、竜の咆哮で吹き飛ばす!
「っ‥重いですね‥」
大蛇の大きさをしかと手ごたえで感じたナンナ。そこへフィルトが剛鉄を乗せ到着し、剛鉄がそのままバイクからジャンプして打撃をキメラに加えた。が、
「っ!」
空中で体を丸め回避行動を取った剛鉄の直ぐ上を、何かの液体が飛んでいく。それが地面に付着すると、見る間に周囲の植物が枯れていった。
「‥毒液、か‥」
現象を見た方正が呟く。
剛鉄が後退した直後、ヴェロニクも周太郎とホゥラリアを連れて到着する。‥が、その更に後ろからは、先ほどの犬キメラの群れが迫っていた。
傭兵たちはお互い目を見合わせると、それぞれの持ち場に着く。
ヴェロニク、ホゥラリアが救急セットを持って方正の手当てに。ナンナ、剛鉄、フィルトが大蛇を迎撃し、周太郎と茉静が後ろから迫る犬キメラの群れの相手をする。
●ヴァイパー&ヒーロー
流石に図体が大きいだけあって、大蛇キメラの耐久力は高かった。
現に、相当数の剛鉄の打撃と、ナンナとフィルトの掃射を受けているにも関わらず、未だ傭兵たちに向け毒液を発射している。
だが、然し、そこに意外な者が登場した。
「すまねぇ、待たせたな!」
ブレイズである。彼は別ルートで後から急いで駆けつけ、山道を使わず隣の森林地帯から駆け上がったのだ。
ダッシュの勢いそのままに、体を前に屈め、低い体勢で大蛇の下へ詰め寄る。そして‥‥!!
「喰らえ‥ヴォルカニック・ランチャァァァァァァァ!」
紅蓮衝撃を掛けた刃が赤く煌き、振り上げられる。バネを最大限に利用したジャンプ切り上げは、大蛇を思いっきり後方へ仰け反らせる。
そこへ待ち構えていたかのようにジャンプした剛鉄が―――
「わての番やな。絶頂流奥義、とくとみるがいい!」
空中に浮かんだまま、連続で踏みつけるような蹴りを繰り出す。
更にブレイズがジャンプして、体を捻るようにして逆手に持った剣で切り下ろす。大蛇の頭が地面に着いた瞬間―――
「チャンスですね」
「ええ」
貫通弾をロードしたナンナのSMGが大蛇キメラの片目を打ち抜き、フィルトの槍がもう片方の目に突き刺さる。そこへ、上空から落下してきたブレイズが、にやりと笑いを浮かべる。
「そろそろ死んちまいな!『灰燼へ誘う炎獄の刃(レーヴァテイン)』!!!」
赤く、燃えるような衝撃波がブレイズの縦に振った刃から放たれる。それは真っ直ぐ、大蛇キメラの中央部分を直撃し‥‥‥その体を、真っ二つに引き裂いた。
そして地面に降り立ったブレイズと剛鉄が―――
「やれやれだぜ‥‥」
「これぞ 絶頂流」
大蛇の死体を背にし、それぞれの決め台詞を言い放つ。‥‥‥この二人、意外と相性はいいのかもしれない。
●ドッグス&レスキュー
「障害を撤去する。…邪魔な物は取り除く、生物も無機物も、それは変わらん」
無慈悲なほどに冷酷に、周太郎は犬キメラを斬って行く。
だが、周囲の犬キメラはまるで兵力が無尽の如く、押し寄せてくるのだ。
「まだか‥」
後ろを見ずに、周太郎は問いかける。
「すまんな‥」
それに答えたのは、手当てされていた呉 方正本人であった。
手当てしているホゥラリアは、以前仮にも看護婦の手伝いをしていた経験を生かし、傷を塞いでいく。
その手伝いをしていたヴェロニクは的確な手つきで道具を渡していた。
「これで大丈夫なはずですよ。無理に戦闘しなければ、ですが」
ホゥラリアが立ち上がろうとしたそこへ、一匹の犬キメラが周太郎の迎撃を抜け、飛びかかる!
ヴェロニクも銃を抜こうとしたが、腰に仕舞ったままでは間に合わない‥っ!
「っ!」
そこへ、迅雷を使用した茉静が間に割ってはいる。‥だが、飽くまでも剣の横でキメラを叩き飛ばしたのみだった。
(「どんなに傷つこうと、私の剣は命を守る為のもの、そう決めたから‥」)
だが、次の瞬間銃声が響く。
手当てを受け、体力が幾分か回復した方正の握った拳銃から煙が立ち昇ると共に‥茉静に再度飛びかかろうとした犬キメラはその体に穴を2つ残し、その場に倒れ伏した。
「どんな事情があるのか知らないし、興味も無いのだが‥一つだけ聞きたい。‥例え、その甘さで自分の大切な人が傷つき、倒れようとも、あなたはその信念を持ち続けられるのか?」
「‥ッ!!」
反論しかけた茉静は、方正の目を見てはっとする。そして、敢えて、何も言わなかった‥‥
●命に賭ける物
「これで暫くは大丈夫ですね」
「ああ、ありがとう。中々いい手つきだったな」
方正は手当てしてくれたヴェロニクとホゥラリアに礼を言うと、そのまま立ち上がり山頂へ向かっていく。だが、それを止める者は誰もいない。
‥そう、傭兵たちは皆、「呉医師の好きにさせる」と言う意見で一致していたのだ。
幸いにも、その後の道でキメラが出現する事は無く、方正は無事に患者の家に到着し、診察を開始した。傭兵たちはその間、念のため家の外で警戒する。何時、またキメラが襲ってくるか‥分からないのだ。
そんな中、呉医師は家から出てくる。
「どうでしたか?」
「なんとか一命を取り留めたが‥診療所での入院観察が必要だ。交通手段の連絡を頼めるか?」
「はい!」
ホゥラリアが、ULTへ連絡を入れる。
‥最も、同じけが人として扱われた呉医師も、同様に診療所に運び込まれたのは、後の話である。
(「今日も、また救えたな‥なぁ、リリー」)
病室の中で、方正は天井を仰ぎ、目を閉じて‥思い出に耽った。