●リプレイ本文
●挨拶
「‥皆様、来ていただき感謝します。私が、第十三開発室室長、音桐 令斗(オトキリ レイト)です」
ずっと待っていた氷室 昴(
gb6282)が、ここで早速不満を口にする。
「傍から聞いてると投げ遣りにも聞こえるんだが、大丈夫なのか?此処」
然し、音桐は顔一つ変えず、冷静に答える。
「ここは社内でも厄介者の溜まり場ですから。‥色々とプランが出てはおりますが、殆どが一癖も二癖もある者です。そこで皆様の意見を頂きたく来ていただいたのですが‥雰囲気がご不満であれば帰って頂いて結構ですね。報酬は元通りお支払いいたしますので」
強かに答えた音桐に、昴は暫し押し黙る。
「そんなつもりはありません。色々と報告書を読んだり、勉強してきたんですよ?おかげでちょっと寝不足ですけどね‥」
間に割って入ったイーリス・立花(
gb6709)に、音桐はコーヒーを差し出す。
「会議中に集中力を欠かないよう、これでも飲んでおいてください。‥これでも、私が色々考えて選んだ物ですから」
と、コーヒーを差し出す。
「面白い物が見れると聞いてな。早速、会議を始めようぜ」
と、刃金 仁(
ga3052)を戦闘に、皆が会議室へ入る。
開発室側からは、音桐室長と‥若い男が書記役、そしてもう一人、ずぼらそうな中年の男が会議室へ入った。
●地形
「海戦支援機が無い現状、空海を薦めます」
先ず切り出したのは、アキ・ミスティリア(
gb1811)。この意見に対しては、傭兵全員がほぼ満場一致で頷いている。
その中、アキは話を続ける。
「無論、現状空海を両用できる主戦機がおりませんし、当初は『どちらにも出撃可能な支援機』とし、先を見据えた先駆者となるのが宜しいかと」
若い男がメモを取る中、追加意見を提出したのは仁。
「我輩のイメージ的には水中も航行出来る飛行挺だな。航空型で素早く現場上空へ、そのまま水中へ入れると。水上型は航空型ほど早くはないが水中よりは相当早く水上を移動出来る利点がある。回り込んだり小型艦艇の代わりにもなろうという感じだの」
だが、ここで音桐が口を挟む。
「実践できるかどうかはさて置くとしても、3段変形にする場合はコストが相当増える事になります。‥現在開発中のブースターは減速にも使えるため、そのまま航空型から水中に飛び込めばいいのではないでしょうか?」
「むう‥確かにそうじゃの。もう一つ付け加えるとすれば、水深200m間で潜行可能ならなお良しだな」
「それは恐らく出来ます。‥と言うのも、あの分厚い装甲は元々は水圧に耐えるための物ですから」
そして周りを見渡し‥
「どうやら、プランは空海で異存はないようですね。では、それで企画書を確定させておきましょう」
傭兵たちは、静かにうなずいた。
●サイド・ジャミング
「私は『空海対応のジャミング中和装置を持つ電子戦機』を希望します」
切り出したのは篠森 あすか(
ga0126)。
「それは我が社の過去に電子戦機はない事を承知の上の希望ですか?」
眉をしかめる音桐に、賢木 幸介(
gb5011)があすかの希望を後押しする。
「現状で水中キット無しで水中戦可能な電子戦機は存在しないからな。それだけでも十分アピールできるはずだ」
氷室は、ここでもう一つ提案する。
「どうせ電子戦機にするなら、ステルス機能もつけたらどうだろうか。過去のと重複しない新型アンチジャミング装置などもつけて、な」
「ジャミング中和装置は最低限でもカテゴリBもしくはCにしていただきたい」
とあすかも装置タイプについて相槌を打つ。
「あ、それ賛成です。味方の傍で隠れつつ、敵に気づかれずに支援攻撃を行う。見つかっても固くて避ける機体なら、また隠れるまで十分耐えられると思うっす!」
ステルス機能の話題となりいきなり湧き出たように見えるのは、薄井 姫里(
gb8518)である。
「あー、ひどいっす! 自分、ずっとここにいたっすよ!」
‥誰一人として気づいてなかったが。
―――閑話休題。音桐が、横に座っているずぼらな男に目線を送る。どうやら意見を言えとのことらしい。
「電子戦能力は兎も角として、ステルス機能は難しいでしょうなぁ。何せ、グライドルは機体のサイズの削減によってそれを実現してるらしいので‥うちらのブースター、それなりにでかいしねぇ」
頭を掻きながらゆったりまったりと話す男を、音桐がハンドサインで制する。
「個人的には電子戦機でなくともよいかと思う、今回はな。空海を自由に行き来できるなら、それで十分売りであろう」
それらを全て聞いた音桐は―――
「電子戦能力については、余り期待してほしくはないですが‥私が上層に掛け合い、どこかから技術提供が受けれないか見てましょう。ただステルスについては‥流石に、何かの新技術が発見されない限りは‥」
「そうっすか‥」
残念そうな顔をする姫里。
●サイド・アタック
「私個人としては、もっと攻撃能力を持たせた方が空海の往復が可能な機体としての特性を生かせるのではないかな、と思います。敵機を空海往復しながら追うことが出来るだけでも、今までとは違った対応ができるようになると思い‥ます」
イーリスの意見に乗り、昴もプランを提出する。
「回避を大幅犠牲にしての攻撃及び知覚の大幅向上‥後は通常兵器を水中で使用可能化する特殊能力の開発ができれば最高だな。もしくはは空海両用可能な固定武装の装備でもいい」
「残念ですが‥これはロケットサイエンスではありません。考えたからと言って、即刻その様な特殊能力が開発できる訳ではないのです。‥ただ、空海両用の固定武装については考えておきましょう」
「個人的には、こっちの方が電子戦機よりも好みだが」
と、昴は両手を広げて『やれやれ』のポーズを取る。
「ウーフーみたいに、両立させると言う手もあるね。それだと価額が高くなるだろうけど‥生存能力が十分に生かせるはずだ」
「それだと文字通り、シュテルン並みに価額が高騰すると思います。‥が、考えておきましょう」
と、音桐は隣に座っていた若い男に、記録を指示した。
●他の特殊能力
ここで、暫く静かにしていた姫里が、再度手を上げる。
「はーいはーい! これは‥‥完全に夢ロマンっす。出撃前に指定した人の機体にジョイントされた状態で出撃して、その機体の移動力や機動性を向上させる。もちろん積んでるミサイルとか武器は撃てるしね」
‥絶句するずぼらな男。
音桐室長は、優しく、
「確かに実現できれば良いアイデアですね。だが、機体形状はおろか、それぞれのKVではブースターの形状すら違います。それに接続しようと言うのは、流石に無理があるのではありませんか?」
またもやしょんぼりする姫里。
しかし、音桐の話は終わっていない。
「‥今は無理でも、何れ技術の進歩によって出来るかもしれない。その為に私たちは努力しています。」
と、優しく微笑みかけた。
「私からも2つ、よろしいでしょうか?」
そう言ってアキが提出した企画書には、幾らかの装備案が書いてあった。
それを、まるで魔法のように、一瞬で目を通す音桐。
「‥この中で実現できるのは『ダミー魚雷』でしょうね。搭載を検討してみましょう。ソナージャミングについてはまだ技術が確立されていませんし、変形機構の排除は‥元々水中形態の耐圧性を保つため、人形は存在しません。それ故に簡易変形と言っていいでしょう」
そして、コーヒーを一口飲んで、続ける。
「関連する装備についてはこちらでも研究を続けてみます。また、意見をいただく事になるかもしれませんが」
「うむ。それがいいじゃろう。出来れば水空両用でな」
茶を飲みながら、仁が念を押した。
ここで幸介が手を上げる。
「こいつは他の傭兵から聞いた意見だ‥」
と、メモをめくりながら―――
「長距離、視界状況の悪い場合に、こちらの攻撃がどの程度の精度で向こうに伝わったかってのを観測して次の攻撃に繋げる『見る事』に特化した機体はどうだ?夜間、雨天時でも高性能な光学カメラ、相手の動きを解析する高性能な演算装置が必要かもな」
「その演算装置が開発されていれば、検討しておきます。‥とりあえず、上層部に問い合わせましょう」
●コスト&スロット
「攻撃重視であれば副兵装スロットを重視すべきだな」
とは、昴の弁。
「逆に攻撃能力を削る電子戦コンセプトなら、アクセサリーを重視すべきでしょうね‥そういえば、価額帯はどうなります?」
あすかの質問に暫く考えて、答える音桐。
「元々はR−01E‥イビルアイズと同様の価額を想定していました。ですが、各種能力に追加、変更を加えるのであれば‥話は違ってきます」
「R−01Eよりは廉価にしたほうがいいだろう。ただ安かろう悪かろうでは意味が無いぞ」
「努力こそしてみますが、この世の中はそう甘くはないですから」
答える音桐に対して、あすかは質問の意味を解説する。
「中和装置を持つ電子戦機には、貸与料が100万台のものがない。中間価格層がないのは傭兵にとっても軍にとっても痛いところだ。そこを狙えば‥」
「‥ふむ」
少し、音桐は考えると、うなずいた。
「分かりました。それも併せて、上層部と相談してみましょう。他に意見はありませんか?」
周りを見渡すと、シーンとしている。
「それでは皆様、今回は貴重な意見をありがとうございました。‥この意見を元に、企画書を修正してみましょう。また、お願いするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「有用な機体にしてくれよ」
「プランの草案を考えるのがこんなにも困難だとはな。当分はやりたくない‥‥」
「お若いとはいえあまり無理などされませんように」
傭兵たちはそれぞれの感想を述べながら、銀河社を後にした。