タイトル:【TG】隠者マスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/04 00:06

●オープニング本文


●幕間〜新たなる脅威〜
「先刻の『戦車』の一件、上が相当の興味を示したようだな」
「ええ、ですが‥反省点も見当たりましたので、現在改良を行っています」
「そうか‥後は‥『魔術師』にも上が興味を示した。だが、夜間にしか作戦を行えないのがネックだと指摘されているが?」
「ご心配なく。その点については、新たなるキメラの開発を進めております」
「ほう。それはどんな物だ?」
「コード『隠者』。‥『見えない者』ですよ」


●見えない恐怖

「おい‥キメラ発見された地域ってのは、本当にここなのか?」

 部隊長が、後方にいる副官に尋ねる。

「はい、この付近にキメラの物だと思われる死者が出ております。何とか逃げ帰った目撃者によりますと、『いきなり壁から鞭の様な物出てきたように思えた』と言う事だそうです」
「はぁ? なんだそりゃ。‥まぁ、警戒して進むしかないな」

 だが、その時点で、副官の返事はなかった。はっとして部隊長が振り返ると、ピンク色の鞭の様な物が、副官の胸を貫いていた。

「野郎‥っ!」

 銃を構え、舌の根元の部分に向かって連射する。だが、本体の移動速度は相当早いのか、弾丸は木に穴を開けただけに過ぎなかった。
 だが、その一瞬、まるで空気がぶれたかのように僅かな輪郭が現れたのを、この部隊長は見逃さなかった。

(「目を凝らせば見えるな‥」)

 集中し、目を凝らしてキメラが向かって行ったと思われる方向を見る部隊長。
 ‥だが、次の瞬間、後ろから飛来したピンク色の鞭の様な物が、その首を跳ね飛ばしていた。


●ブリーフィング
「待っていたぞ、諸君」

 何時もの仏頂面で、オペレーター、李 無驚が傭兵たちにブリーフィングを開始する。

「今回の目標は、森林地帯に出没するキメラの退治だ。どうやらカメレオンをベースにしているらしく、変色能力による一種のステルスを有している。既に付近の村人数名、及び退治に出かけた軍の一部隊が犠牲となっている。敵の能力は部隊のうち逃げ帰った生存者の報告による物だ」

 そして、画面を切り替えて、李は解説を続ける。

「今回は目を凝らせば見切れる程度の変色能力ではあるが、敵は複数体、若しくは複雑な攻撃軌道を有しているらしく、目を凝らして捜索していたら背後から攻撃された事例もある。十分に注意する事だ」

 そして、画面を消す。

「それでは‥諸君の無事と、作戦の成功を祈る」

●参加者一覧

霧雨仙人(ga8696
99歳・♂・EP
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
長門修也(gb5202
15歳・♂・FC
流 星刃(gb7704
22歳・♂・SN
ソウィル・ティワーズ(gb7878
21歳・♀・AA
楽(gb8064
31歳・♂・EP

●リプレイ本文

●ハイディング・フィールド

 静かな、動物の鳴き声さえ聞こえない森の中。
 今回のキメラ討伐に呼ばれた傭兵たちは、周囲を警戒しながらそこを探索していた。

「見えへんキメラか‥何やおもろいやんけ。気ぃ引き締めていくでぇ!」

 楽しそうに笑い、銃を構える流 星刃(gb7704)。冗談を飛ばしてはいるが、警戒は一刻も緩めていない。

「また実験体‥という訳ですか。見えないキメラ‥どれほどの小細工を仕掛けているのかしら‥」

 このタイプの『特殊能力キメラ』には見覚えがある。水無月 春奈(gb4000)の脳裏に、昔出会った強化人間の影が浮かぶ。

「‥‥これがあの悪魔に匹敵するものかどうか、見極める必要がありそうね」

 同様に、昔同タイプの強力なキメラと戦闘した事がある紅 アリカ(ga8708)は、唇を噛み締める。

「鉄砲が重すぎて敵と戦う前に死んでしまいそうじゃわい」

 見た目に似合わぬ、巨大なガトリング砲を担ぐご老人、霧雨仙人(ga8696)。
 他にも白衣やセーラー服など、突っ込み所満載の格好をしていたのだが、同行していた傭兵たちは敢えて誰もそこにはツッコまない。いや、ツッコむのに抵抗がある、と言うべきか―――

 ―――閑話休題。

「前に出ます。みなさんはキメラの位置を特定してください」

 一番前方を春奈とソウィル・ティワーズ(gb7878)が敵をおびき出す為囮として歩き、その後方では楽(gb8064)と霧雨が探査の目を起動して周囲を観察、依神 隼瀬(gb2747)、アリカ、長門修也(gb5202)の3人が後ろをカバーしていた。
星刃は、隠密潜行を起動しながら索敵を行っている。本来はキメラが出現してから覚醒する予定だった星刃だったが、覚醒なしでは隠密潜行は起動できない。なので、予定を早める結果となった。

「‥何かが来たわ」

 巨大な砲を引きずる事になった霧雨に合わせ、傭兵たちは非常に緩慢な速度で前進していたのだが、アリカが先ず一番最初に近寄る足音に気づく。
 僅かな兆候をも見逃さなかったのは、さすが歴戦の傭兵、と言うべきか。

「とりあえず‥確かめておかなきゃな」

 そう言うと、隼瀬は袋の中から、事前に申請した薄めの発煙筒を取り出す。着火させ、前方に投擲した。
 ‥だが、ここで一つ誤算があった。元々薄めの煙は、森の変わりやすいそよ風により、四方八方に散り、その役目を成さなかったのだ。

「やっぱりこっちの方が簡単か。皆目と耳注意なー!」

 閃光手榴弾のピンを抜き、投擲する。
 暫しした後、辺りは光と轟音に充満された。
 ‥‥この時若しもアリカが聞こえる状態だったならば、轟音に驚き逃げていくキメラたちの足音を判別できたかもしれない。
 だが、その足音は閃光手榴弾の轟音にかき消されていた。

 轟音がやんだと思えば、次に続いたのはペイント弾の雨。霧雨が、ペイント弾をガトリング砲に込め、乱射したのだ。

「反動凄いが‥‥カイカンじゃ!」

 ‥なにやら危なく聞こえる気がする台詞だが、気にしないでおこう。
 兎も角、辺り一帯を覆い尽くすペイント弾の雨と、隼瀬が大量にバッグから取り出したカラースプレーを噴射した後、霧雨と楽はじっと探査の目でエリアの一挙一動に注目する。

「‥動きがないようじゃな」
「その様だねーん」

 が、そこでゴスン、と言う音が響く。
 音の方に全員が振り向くと‥‥‥
 どうやら閃光手榴弾で驚いたカメレオンキメラが全力で逃走した所、目が見えないせいで木に激突したようだ。
 僅かに画像が歪んだようなその場所へ向け、

「ほら、ペイント弾だねー」
「姿現しよったなぁ」

 観察に徹していた楽と、その時点まで隠密潜行で隠れていた星刃が一斉にペイント弾を浴びせる。
 ペイント弾2発の直撃を受けたキメラに、ソウィルと修也が飛びかかった。

「‥そこッ!」

 両断剣を発動し、S−01を連射したソウィルの弾幕に隠れ、修也が迅雷を発動し猛進する。
 そして刹那、疾風を同時に発動し‥

「行きますぞ!必殺、疾風の太刀!」

 迅雷の速度を生かし、背後に回りこむ。蛍火を振るいカメレオンキメラ斬りつけ、更に逆手でシルフィードでまるで十字になるよう斬りつける。
 だが、浅い。傷を受けても尚も立ち上がり、逃げようとするキメラであるが‥

「逃げられると思ってる所が、ひよっこじゃな」

 次の瞬間、弾丸の雨によって地面に倒れ伏す。
 ‥霧雨がガトリング砲で掃射し、蜂の巣にしたのである。


●サドン・ストライクその1

 ここで、タイミングを計っていたのか、同時に2本のピンク色の鞭がそれぞれソウィルと修也を狙って飛来する。

「危ない!」

 春奈が竜の鱗を発動させ、エンジェルシールドを構えソウィルの代わりに一撃を受ける。
 衝撃に少し後ずさるが、ダメージはそれほど大きくないようだ。

「うぉ!? なんですか今のは!」

 と、修也も横の地面に手をついて、転がって鞭の攻撃をかわす。

「‥そこかな?」

 アリカが、地面の木の葉を蹴りで舞い上げる。舞う大量の木の葉の中で、おぼろげながら修也を狙ったカメレオンの姿が見えた。
 ‥そう。予想外に高速に背景が変化する場合、カメレオンの変色ではそれには追いつかないのだ。

「‥場所さえ分かればこっちのものよ。このまま三枚に下ろしてあげるわ」

 下からガラディーンを振り上げる。これは横に跳んで回避されてしまうが、それこそがアリカの狙いだった。
 振り上げた勢いで体を捻り、逆手で後ろへ名刀「羅刹」を突き出す。この一撃は見事にキメラの後ろ足に命中した。
 キメラはそのまま全速で後退し、また機を伺って奇襲を仕掛けようとするが‥

「血が滴ってる状態で隠れてもな」

 血の跡を追跡してきた隼瀬が、限りなく低い体勢で薙刀を構え――――キメラを、横に一閃した。
 辛うじて後ろに下がる事により鼻の部分を切り裂かれただけで済んだキメラだったが、下がった先ではアリカが待ち構えており、更に隼瀬は前方から大きく薙刀を振り上げていた。

「もう逃げられないわ」

 死刑宣告とも取れるアリカの一言の後。キメラは、3本の刃により解体された。


●サドン・ストライクその2

「‥まだおったか」

 春奈が鞭(キメラの舌)を盾で受けた直後、追撃を防ぐため星刃が鞭の根元へ影撃ちを使用したクルメタルP−38を乱射する。やはり完全に目視できなかったせいか当りはしなかった物の、キメラの攻撃を中断させる事に成功する。
 更にその後ろから楽もペイント弾を連射する。探査の目でおぼろげに見える輪郭を頼りにした射撃は、何発かキメラに直撃した。
 それに怯んだキメラは舌を巻き戻そうとするが‥‥‥
 それを見たソウィルが、舌を――――思いっきり掴み取ったのである。
 動けなくなったらしいキメラがじたばたするのが、像の歪みから見て取れる。

「今までの憂さ、晴らさせて貰うわよ?」

 にやりと笑いを浮かべたソウィルが、腕に巻きつけながらそのまま舌を引っ張る。ギリギリと、キメラが引きずられる音が聞こえる。

「せめて、回避能力は上げておくべきでしたね。動きが阻害されれば見えていなくても‥‥倒すことが出来ます」

 竜の翼を使いキメラに接近した春奈。跳躍してラジエルを投擲し、まるで槍のようにキメラの尻尾を地面に縫い付ける。
 更にそれを見たソウィルも、蛍火を投擲、キメラの横腹を貫通し地面に突き刺さる。

 そして春奈は、隠れたままフォルトゥナ・マヨールーを構え接近した星刃と共に――――

「動けなければ、どうと言う事はありません」
「これで終わりやな」

 銃声と電撃音が響く。キメラは、そのまま動かなくなった。


●リ・サーチ

 3体のキメラを殲滅した後も、まだ他にもキメラが隠れているかもしれないと言う可能性を考え、傭兵たちは警戒の手を緩めなかった。
 楽と霧雨は依然として探査の目を切らさずに両サイドを警戒し、星刃は再度隠密状態に入っている。
 だが、それなりの長時間が立っても‥音や空気の流れを集中して読んでいたアリカ含め、誰も異常な点を発見した様子は無い。
 殲滅完了と判断し、ULT本部からは帰還願いが出た。

「ま…無事何とか成ってよかったわ」

 ゆっくりとタバコで一服するソウィル。かなりの間精神を張っていたため、疲れるのも無理は無い。

「どんどん特殊なキメラが投入されていくのう。単体で出てくるうちはよいがまとめて出てきたら対応が厳しいワイ」

 と今回のキメラの能力を思い出す霧雨。
 それを聞いて、春奈は思いに耽った。

(「やはりあいつを倒さないと‥どんどん新しいキメラが開発されていくのでしょうね」)

「はぎとったら何か素材もらえますかね、コイツ‥って、あれ?」

 なにやら自分の世界に入っていたらしい修也は、然し‥先ほどまであった、キメラの死体が無くなっていた事に気づいた。
 一気に、傭兵たちの警戒のボルテージが上がる。
 そして、おぼろげながら覚えのある気配を感じた春奈は―――

「いつもの通り、高みの見物ですか。趣味の悪いことですね」

 エネルギーガンを向けたその先から、白衣を着た男が現れる。

「やれやれ。今回は気づかれずに回収したかったのですがねぇ」

 呆れた様子で、手を広げる。

「そろそろ名前くらい名乗っても良いと思いますよ。いつまでも名無しのバグアでは通りも悪いでしょう?」

 銃を下ろさず、春奈が迫る。
 ――同時に、ソウィルのS−01と、隼瀬のショットガンも男に向けられていた。
 その状況を見ても男は怯む様子はなく、「やれやれ‥手厳しいお嬢さん方ですね」と軽口を叩く。

「名乗る名はない‥と言いたい所ですが、それでは面白くはありませんからね。‥『フェルナンデス・グローリー』 ‥人間だった頃の名前ですが、ね」

 それを合図に、忍び寄っていた星刃がフォルトゥナ・マヨールーの引き金を引く。同時に他の皆も同時射撃を加えるが、男は脱いだ白衣を大きく空中に広げ視界を覆う。
 ‥射撃が止んだ後、男の姿は消えていた。

「どういう仕掛け‥‥なのかしら」

 不可解に思うアリカ。だが‥この時点では、結局その脱出の方法は判明できなかった。