●リプレイ本文
●フェイス・オフ
傭兵たちは、約束の時間にとある軍の訓練所へ到着する。
「おう。来たか。ま、見覚えのある顔も居るじゃねぇか」
部下たちを背に、軽い表情でデルカルロ軍曹が傭兵たちの方を見やる。
「ま、来て行き成りじゃ何だからな。とりあえず休憩しとけや。出番になったら、部下に呼びに来させるぜ」
そう言って、軍曹は副官の令に合図し、傭兵たちを待機室へ案内させた。
●範vs鳴神〜実戦と言う物〜
「よろしくお願いします」
緊張した面持ちで、フィールドの端のゲートから出てきた範 英。
模擬戦とは言え、実戦経験の少ない彼にとっては、十分に緊張するものであるらしい。
相対する鳴神 伊織(
ga0421)は―――
「緊張しないでください。別に取って食う訳ではありません」
と、範に微笑みかける。多少リラックスした範だったが、この後に待っている地獄を、彼は知らなかった―――
銃声が響く。範はそれを寸での所で回避し、左手で銃撃で応戦する。
だが、教本通りのなまじ正確な頭部狙いの銃撃であるがために、それは見事に伊織に回避される。
牽制攻撃で少しずつ範の行動を制限する伊織。銃撃の応戦の間に、二人の間の距離は少しずつ縮まっていく。
約8m程まで距離が縮まった頃、伊織は驚くべき行動に出た。なんと、銃を投げ捨て、素手になったのである。
挑発とも取れるこの行動に対し、範の心には武器のリーチの差と言う、僅かな油断が生まれた。その動きが鈍った一瞬の隙に、伊織は懐に入る事に成功する。
「こうも簡単に隙を見せますか、未熟‥‥ですね」
両手でそれぞれ範の両腕を打ち、がら空きになった胸部に向かい両手で掌底を叩き込む。覚醒した能力者にとっては、例え同じ能力者であろうと素手での攻撃は大きなダメージには至らなかったが、寧ろ今の範にとっては、精神的なダメージの方が大きい。ショックから防御が疎かになった範に対し、伊織は次々と関節などを狙い、攻撃を叩き込む。
「いい加減に‥‥ッ!」
流石に叩かれて目が覚めたのか、範は右手の剣を振り払い、伊織に回避行動を取らせる事で距離を離す事に成功した。
その間に伊織は銃を拾い上げ、更に刀を抜く。
「ふむ‥それなりの実力はあるようですね。では、ここからは少々本気を出す事に致しましょう」
体を低く屈め、殺気を放ち圧力を掛けようとする。だが、先ほどの連打によって範もその闘志を刺激されたのか、範は表情を変えず、キッと伊織を睨みつける。
「いい目です。では‥‥参ります」
低く構えた体勢から、伊織は猛然と範に向かってダッシュする。範は銃撃でそれを阻止しようとするが、悉く回避され、刀で弾かれる。
と、パンと一発だけ音がし、伊織の肩がペイント弾の赤に染められる。それを見て、勝ち誇った表情を浮かべた範であったが―――次の瞬間、それは驚愕に変わる。
「実戦でも‥利き腕さえ損傷しなければ、戦闘能力には問題はありません」
ペイント弾とは言え、銃から打ち出された弾丸はそれなりの衝撃力を持つ。それを‥伊織はまるで何事も無かったかのように、勢い衰えなく前進していた。
勝利を確信していた範は慌ててそれに対応しようとするが、歴戦の兵である伊織の攻撃を慌てた状態でいなせる可能性は断じてない。そのまま、伊織の刀が一閃した。
「中々いい試合だったぜ」
軍曹の声が響き渡る。伊織の刃は範の胴体横で寸止めされていた。幾らSESをとめた訓練用と言えど、まともに薙ぎ払われていれば範は気絶していただろう。
「範、てめぇはコイツを甘く見すぎた。相手が素手だって言うだけで嘗めちゃいけねぇ。何だって前回俺を素手で倒しかけたからな」
またもや範の顔に驚愕の色が浮かぶ事になる。対する伊織は、僅かに苦笑いを浮かべただけである。そう、伊織は前回、軍曹との非覚醒勝負で、軍曹を後一歩の所まで追い詰めたのだ。
「後はまぁ、実戦経験の違いだなぁ。これからは毎日、俺と模擬戦だぜ!」
武器を収めた伊織が、軍曹の罵声に小さくなっている範に語りかける。
「あなたはエクセレンターです。全ての距離に対応できる事を生かして戦うのが常套かと。後は‥個人的には超機械を持ってないのが気になります。知覚強化スキルもありますし‥」
「ご教授、ありがとうございます」
何か恐怖の表情を浮かべる範の後姿を見送る伊織。
(「軍曹と模擬戦できるのは、いいことだと思いますが‥」)
●章vs宿木〜暴走と暴走〜
章 文徳は、フィールドの自分側の入り口に立ち、両手のガントレットと剣の具合を確かめながら相手側を見る。
(「あのがきんちょ、開戦前にこっちジロジロ見てたけど、何だったんだ?」)
開戦前の一幕を思い出していた章の思考は、然し激しいバイクのエンジン音によって現実に引き戻される。
来たか、と身構える章が見たのは―――
「先手ひっしょおおおおおう!」
と叫びながら、バイク状態のリンドヴルムで猛然と突進してくる宿木 架(
gb7776)の姿である。
ここで、普通の人間なら、回避を選ぶはずであるのだが―――
「面白ぇ、やってやろうじゃねぇかがきんちょぉぉ!」
そう。期せずして、章も、『同じタイプ』の人間だったのである。
回避を選ばず、そのまま猛然と正面からバイクへ突進して行く。そして約7mの時点で、ジャンプした。
ガン、と言う音が1回、続いてガツン、と言う音が2回響く。
「「いってー!」」
―――最初の音は架のリンドが壁にぶつかった音、その後の2回はそれぞれ架がバイクのダッシュボードに頭をぶつけた音と、章が地面に落下した音である。
そう。章はジャンプしてそのままブレード部分で架にダイビングラリアットを仕掛けようとし、それを架は頭を下げてやり過ごすが、そのせいで停止のタイミングを誤り壁に衝突したのである。
お互い、頭をさすりながら立ち上がる。架はそのままリンドヴルムを変形させ、装着した。
「ちぇー……失敗。やっぱ地道にやんなきゃダメ?」
リンドフィンガーネイルを構え、低い獣の様な体勢で章に突進する。対する章は、両手の剣を蟹バサミのよう上下に構え、下からの切り上げの直後、上から振り下ろす。
架はそれを横にステップを踏んでかわし、更に横薙ぎで足を狙う。それを章は地面に剣を突き立てる事によって阻止する。だが、武器の動きが鈍ったこの一瞬が架の狙いであった。
「隙ありっとぉぉ!」
両手のリンドフィンガーネイルをそれぞれの剣に引っ掛け、強引にガードを抉じ開ける。そして頭突きを仕掛ける。
だが、考える事は両者同じであったようで、章も同様に頭突きを仕掛ける。
ガン、と言う音が響く。頭突き試合ではAU−KVの装甲の利がある架に分があったようだ。だが、章は怯まず、連続で頭突きを仕掛ける! ガンガンガン、と響く音。
「いいね! こういうの嫌いじゃないよ!」
「てめぇも中々やるじゃねぇか、がきんちょ!」
距離を取る両者。お互い、次で勝負を決めるつもりのようだ。
架は両手を地面に付き、まるでスタートダッシュでもするかのような構えを。章は両手の刀を逆手に持ち替え、脇下に持つ。―――そして、両者動いた。
竜の翼、竜の鱗、竜の爪を同時発動し、架は章の懐へ突っ込む。章はそのまま双剣の柄の部分で、挟み込むようにして架を強打する。
―――勝負は正しく一瞬であった。
リンドフィンガーネイルでのボディブローの直撃を受けた章は、そのまま壁に叩きつけられる。
「やったぁぁぁ! ‥‥あ、あれ?」
ドサリと、架もその場に倒れこむ。
「メディック呼んで来い!」
軍曹の叫びと共に、念のため待機していた従軍医が到着する‥‥‥
「いやー良かったなぁ。頭を連続強打された事による軽い脳震盪だそうだぜ。大した問題じゃねぇ」
豪快に軍曹が笑う。そう、架が倒れた原因は、最初のバイクでの突進で頭をぶつけた事に加え、連続で頭突きを受けた事、そして章の最後の強打が頭部にヒットしていた事である。
幾らAU−KVの装甲があっても、これだけの衝撃を完全に防ぎ切るのは無理だったのである。
「おめぇら両方とも攻撃一辺倒だなぁ。‥今回は、結果的には引き分けってとこか」
軍曹の宣言の直後、架は起き上がって笑顔で、
「おもしろかったよ。またやろうね!」
と伝える。対する章は‥‥
「あー。そうしようぜ」
と返した。
●福vs天城〜ドキドキ舞闘〜
「私、天城・アリスと申します。よろしくお願いします」
「え‥わ、私、福 夕来です。よろ、よろしくお願いします」
おどおどしている福ではあったが、天城・アリス(
gb6830)は決してそれを軽視せず、距離を取る。
だが、遠距離の方がサイエンティストにとって有利だと言うことを、アリスは失念していた。
「い、いきまーす!」
福の手に持った超機械から電撃が発射され、アリスの方へ向かっていく。だが、僅かに狙いがブレていたのか、回避するまでもなくその攻撃は逸れた。
「あれ?おかしいですねぇ」
手持ちの超機械を調べ始める福。隙だらけである。それをアリスが見逃すはずも無く‥‥‥
「隙、ありすぎです」
まるで舞を舞うように、鉄扇を投げつける。わわわーと言いながらそれを回避する福。そして、転んだ福の頭上ギリギリを鉄扇が通り過ぎる。
「危なかったです‥」
福が起き上がると、アリスの姿は直ぐ傍に現れていた。連続で雲隠で斬りつけるアリスに、福は防戦一方。
だが、何故かアリスの攻撃は何れも有効打とはなっていない。慌てたステップを踏む福は、何故か着実とアリスの攻撃を掻い潜っているのだ。
「やっぱ、アイツには幸運の女神か悪運の神が憑いてるんだろうな」
観客席からの、デルカルロ軍曹の評価である。
刀の攻撃が決定打に至らなかったのを確認したアリスは、今度は拾い上げた鉄扇で猛攻を仕掛ける。
福は予想していなかった攻撃に今まで以上に慌てるが‥‥これもまだ決定打には至らない。
少々苛立ったアリスは、攻撃パターンをランダムなものに変更する。
特に考えもせず、勘だけで攻撃を繰り出す。
「わーわーわー!!」
そのランダムな攻撃を避けようとして何故か何も無い所で転んでしまい、しりもちをつく福。だがその動きが幸いし、アリスの鉄扇での横薙ぎは頭上を掠める事になる。
‥が、その状態で動けるはずも無く、苦し紛れに超機械を掲げるが―――
「王手、ですね」
その首元には刀が突きつけられていた。
「アリスの勝利だなぁこりゃ。でも戦いにくかっただろ?」
「はい‥‥何だか殆ど先読みされているみたいで」
「コイツはなんつーか、悪運が異様につぇぇんだよ。だから戦いにくいんだよなぁ」
軍曹との会話の後、アリスは福に歩み寄り、手を差し出す。
「とてもいい経験になりました、ありがとうございました」
「あ、こ、こちらこそですっ」
と福はその手を握る。
そして二人は仲良く話しながら、退場した。
●鉄vsウラキ〜クールアンドクール〜
慌しく働く兵士らしき者たちを指揮するデルカルロ軍曹。それを見て傭兵たちが不審に思うと、
「ああ、こりゃ次の試合の準備だな。ウラキが障害物設置フィールドを申し込んで、鉄のやつも承諾したからな」
と答える。
暫くすると、フィールドが整い‥‥両側から、この一戦の参加者、ウラキ(
gb4922)と鉄 虹が現れる。
ウラキは愛用のスナイパーライフルを抱え、鉄は巨大な、端がブレードになっている盾を前にしている。
「僕はウラキ‥‥よろしく頼むよ、愛銃は‥‥ボルトアクションだ」
「あたしは鉄 虹だ。盾の戦い方ってのを、見せてやるよ」
両者、手短な自己紹介のみを済ませ―――
「んじゃ、始めい!!」
との軍曹の一声で、開戦した。
開戦直後、ウラキは素早く岩の後ろに隠れ、鉄の出方を伺う。
鉄はどうやら盾を前にして、少しずつこちらに進んでくるつもりの様だ。
(「相手に見つかっているという事自体が、狙撃手には圧倒的に不利‥‥精神戦を仕掛ける他ないね」)
狙撃銃で鉄を狙い、トリガーを引く。だが、巨大な盾に阻まれ、銃弾は鉄には届かなかった。
リロードをし、再度横から撃つ。だが今回もカンと言う音と共に盾に弾かれてしまう。
鉄が少しずつ弾を弾き、二人の距離が60m程まで近づいた頃‥ウラキの動きが、変わる。
「リロード中が弱点‥‥その先入観は、命取りになるよ」
即射を発動し、連続でトリガーを引く。鉄が盾で弾いた弾丸が岩などに当たり、土煙が上がる。
その直後、ウラキは狙撃銃を放棄し、機械剣とアーミーナイフを抜き、鉄に飛び掛る。
相手が予想外の連射に怯んだ所を叩くと言う戦法だったのだが―――
「あたしの防御は、そう簡単には破れないよ!」
土煙の中から、鉄が飛び出す。盾を前にしたシールドタックルの体勢で、である。
ウラキは咄嗟に右側に回りこみ、機械剣で盾を薙ぎ払い、攻撃を阻止すると共に盾を吹き飛ばした。
そして更に顔に向かってナイフを投擲するが―――
「盾は一枚じゃないよ」
カキーン、と言う音がし、ナイフが弾かれる。
‥右手の盾の巨大さに隠れ見えなかったが、鉄は左手にもバックラーのような小盾を装備していたのだ。
尚も隠密潜行を起動し、機械剣を振るおうとするウラキだったが、流石に目の前でみすみす見逃してくれるような相手ではない。
‥隠密潜行は、瞬間的に透明人間になるようなスキルではないのだ。そして、ウラキは、鉄の右袖から出ているチェーンを目の当たりにする。その先は、先ほど自分が機械剣で薙ぎ払った、巨大盾につながっていた。
「武器からは手を離すな。うちの軍曹の口癖だよ」
そう言って鉄はチェーンを引っ張る。まるで巨大ハンマーの如く大盾が飛来し、ウラキの正面から衝突する。
だが、そのままウラキは岩の後ろへ転がり込み、隠密潜行を起動する。
(「これで‥」)
そのままの状態で鉄の背後へ回り込む。完璧な首を狙っての一撃のはずだった。
―――が、その寸前でバックラーに阻まれる事となる。
「‥あたしの前は岩。両側は両腕の盾がある。襲ってくるとしたら、背後しかないだろう?」
そのまま巨大盾のブレードを突きつけられたウラキは、
「‥流石だね。追加戦を組まずに全力で挑んだのに勝てないとはね」
と、投降した。
「いや、お前さんも中々の物だったぜ」
軍曹の声が、観客席から響く。
「ただ、鉄は結構場数踏んでるからな。こいつの特徴は『不動』なのよ。相手がどう動こうと、自分が決めたパターンを貫き通す」
「今回は『盾を前に前進する』って最初から決めてたからね。リロードがどうであろうと、盾は下ろさないって決めてた」
鉄が、自分の行動理由を解説する。
「あんたは狙撃手としては中々の腕前だ。ただ、あたしとは、相性が悪かっただけのことだ」
手を差し出す鉄に、ウラキは僅かに微笑んで、その手を握った。
●武vsアセット〜力と技〜
「ダークファイターのアセット・アナスタシアだよ‥よろしくね。今回は非才ながら模擬戦の相手をさせてもらうよ」
元気に挨拶するアセット・アナスタシア(
gb0694)に対し、相対する武 飛は、
「おう、よろしくな」
と挨拶する。『気のいいお兄ちゃん』の様な見た目通りの性格である。
「それでは、始めちまえ!」
両者、接近戦タイプであるため、開始直後はどちらも攻撃範囲外。そのため、お互い相手に向かって走りだす。
先手を制したのはアセット。20m地点でソニックブームを武に向かい放つ。それを武は横にロールして回避するが、体勢が崩れる事となる。
その隙を突き、走り寄り地面に伏せている武に向かってキックを放つアセットだが、これを武は双剣で受け止め、逆にアセットの足首に双剣を繋いでいるチェーンを巻きつける事により動きを止める。
そしてそのまま片手を地面に付き立ち上がる事で、アセットを足から持ち上げるような格好になってしまう。
「この‥離してよ!」
アセットは大剣を地面に突き立て、それと掴まれた片足を支柱にして回転し、空いている足で武の横顔に猛烈な蹴りを叩き込む。例によって武器を用いない攻撃は大きなダメージにはならなかったが、それでもその衝撃は武に僅かな隙を生じさせ、チェーンを緩めさせる事に成功する。
そのまま着地したアセットは大剣を横薙ぎに振り払う。これを武は双剣で受け止めるが、如何せん武器の重量が違いすぎる。吹き飛ばされた武は然し、その距離を応用して、活性化でダメージを回復した。
(「手数はあちらのほうが多い‥その分それを圧倒する力で叩き伏せる」)
アセットの真剣そのものの顔に対し、
「かわいい顔の割りに、中々豪快な戦い方をするじゃないの、嬢ちゃん」
軽口を叩くと、武は双剣の片方を垂れ下がらせたまま、もう片方の剣を逆手に持ち、猛然とアセットに向かって突進する。
それに対しアセットは下段から土煙を巻きながら、大きく切り上げを繰り出す。だが、土煙が晴れた後、そこに武の姿は無かった。
「なっ!?」
「こっちだぜ、嬢ちゃん」
金属の擦れる音と共に、アセットの頭上から武が降下する。なんと、武はアセットが切り上げを放った一瞬にチェーンを大剣の上に引っ掛け、振り上げの勢いでアセットの頭上に飛んでいたのだ。
そのままチェーンでスライダーのように大剣を滑り降り、空いた両足でアセットの両肩に蹴りを入れる。
後退したアセットはそのまま勢いを利用し、回転斬りを放つが‥今度も先ほどと同様にチェーンを大剣に巻かれ、振りの勢いを利用されて背後に回りこまれてしまう。
「貰ったぜ‥!」
「くっ‥!」
そのまま双剣をクロスさせ、チェーンでアセットの首を締め付ける武。
このままでは失神まで追い込まれる、そう判断したアセットは、大剣を回し‥自分の横から後ろに居た武を強打した。
「ぐお‥!」
それでもチェーンを離さない武。それを更に乱打するアセット。
「がっ‥‥」
遂に、武の手が緩み、吹き飛ばされる。起き上がろうとする武は、目の前に迫り、咳き込みながらも武器を振り上げたアセットの姿を目の当たりにした―――
「そこまで!」
軍曹の声が響くと同時に、この一戦はアセットの勝利で終結した。
「あっちゃー。あのデカブツを振り回して、十分疲れたと思うんだけどなぁ。まだそんな余力が残ってたとは思わなかったぜ」
武が苦笑いを浮かべると、アセットは、
「穴の多い戦い方だと思うし‥色々聞いて経験してもっと強くなりたいんだ‥」
と感想を聞く。
「そうさな。嬢ちゃんはもう少し『かわされた時』を考えた方がいいぜ。そのデカブツじゃ、連撃は無理だからな。さっきの俺みたいに受け流されたり、力を利用されると防御もままならないぜ。‥後は、体術を交えるんだったら、軽めの武器にしとくべきだな。大剣を両手で持ったままじゃパンチもできんだろ」
それを聞いて、アセットは僅かに苦笑いすると、うなずいた。
●王vs紫藤〜ガン・マーシャルアーツ〜
「さすが噂のデルカルロ軍曹、部下の個性もインフレ気味だ」
お世辞にも一般的とは言えない王 天居の武器を見て、紫藤 文(
ga9763)が苦笑いする。
「こいつは私の特注品でね。まぁその分メンテナンスも大変なのだが」
と、やや自慢げに王が語る。
「さて、その威力はどんな感じだろうね」
ニヤリと文が笑うと、自分の二丁拳銃を取り出す。それに合わせて王は地面に狙撃銃をセットする。戦闘の始まりである。
王がトリガーを引く。然し、文はまるでそれを予測していたかのように横に体を逸らし、回避する。
「‥見えていた、か」
「スナイパーだからできる回避術ってヤツだな」
そう。文はスナイパーならではの視力で、王の銃口の向きやトリガーの動きを確認して回避していたのだ。
そのまま、リロードの隙を突いて接近し、射撃を回避する と言うパターンを繰り返す文。
だが、約60mに接近した時、リロードを待って接近した文は―――
「ッ!?」
「ワンパターンで済むと思うなよ?」
弾丸が肩を掠める。見れば、王は片手でリロードを行いながらもう片手で狙撃銃の横に装着していた拳銃を抜き放ち、文に向かって撃ち放ったのである。
(「慌てるな‥この距離なら拳銃の命中率は落ちる‥!」)
落ち着き、狙撃銃の動きに注意しながら文は確実に距離を詰めていく。そして至近距離に着いた時、両者にとっての本当の戦闘が開始した。
王はもう片方の拳銃をも抜き放ち、クリップ部分で自分に向けられた文の銃を叩き銃口を逸らす。文はそのまま叩かれた銃口を王の足に向け、もう片方の銃口を王の頭に向ける。
「さて、どっちが本物か分かるかな?」
「‥分かる必要も無いがな」
王はなんと、足を一歩引き僅かな差で足への射撃を回避し、その勢いで頭に向けられた銃ごと文の左目に向かって頭突きをしたのだ。覚醒した能力者にとっては大きなダメージではないが、それでも一時的に文の左目は見えなくなる事となる。一歩間違えればペイント弾は王の頭に直撃していた。相当な賭けだった一撃である。
「くっ‥」
(「相性が噛み合い過ぎてるな、攻め続けないと負ける‥!」)
左目の痛みをも気にせず、そのまま肘撃ちを王の右手に仕掛け、銃を吹き飛ばすと共にもう片方の手の銃を胸に向ける。
銃を飛ばされた王は然し、拾おうともせず
―――そのまま、足元にあった狙撃銃の後ろ半分を踏み込んだ。
梃子の原理で弾きあがる銃口が、胸に向けられた文の銃を弾き飛ばす。もう一度銃身を蹴り文の横腹に一撃を入れ、そのまま残った左手の銃を向けてトリガーを引く。だが然し、文は強打された勢いで横飛びに銃弾をかわし、そのまま弾き飛ばされた銃をキャッチする。
二丁の銃で王の腹部と顔面をそれぞれ狙って射撃する文。だが、頭を狙った一撃は拳銃を盾にして防がれ、拳銃を弾き飛ばすものの体には何ら損害を及ぼさなかった。腹を狙った一撃は今度は狙撃銃の前半分を踏み込んだ王により狙撃銃の銃身によって間一髪で防がれる。
その一瞬の隙に、王は伏せこみ、狙撃銃のトリガーを引いた。無理な体勢で射撃を行った文にそれが回避できるはずも無く、胸はペイント弾の赤に染められる事になる。
「私の勝利‥かな?」
「さすがは軍曹の部下、これは厳しいな」
然し、軍曹の判定は―――
「王、お前の負けだ。狙撃銃に当たったペイント弾の跡を良く見てみな」
言われた王が自らの狙撃銃を見ると―――最後の文が放った一発のペイントマークは、銃の機関部と銃身を繋ぐ場所に当たっていた。
「‥実戦でその状態で銃を撃とうとすれば、ほぼ確実に暴発してお前自身が吹き飛んでただろーな」
僅かにしょんぼりとした表情を浮かべる王。
だが、文は元気に、
「流石の腕前だった。‥‥次は戦場でな、頼りにしてるよ」
と手を差し出す。それを見て、王も、微笑んでその手を握った―――
●令vsレイヴァー〜刃の在処〜
「令、お前の出番だぜ」
にやにやしながら出場を促す軍曹とは対照的に、令 精武はやる気なさそうな感じで、ゆっくりとスタジアムに歩み出る。
その相手、レイヴァー(
gb0805)は、緊張した面持ちで令と相対している。
「よろしくお願いします」
「‥よろしく」
両者とも、簡単な挨拶と共に武器を構える。―――いや、訂正しよう。武器を構えたのはレイヴァーだけである。
(「‥‥‥?」)
不審に思いながら、レイヴァーはゆっくりと様子見をしながら、令に接近する。そして二人の距離が半分くらいまで縮まった頃、レイヴァーの姿が消えた。
「‥一気に、接近‥っ!」
疾風脚、限界突破を使用し、瞬天速で令の真横に移動し、蹴りと共に鞘から抜いた蛇剋を振るう。
だが、令の姿がぶれたかと思うと、次の瞬間、その姿は消えていた。
「‥同じ芸当は、私にも出来ますからね」
同様に迅雷を使用し、令はレイヴァーの背後へ回り込んだのだ。ジャキ、と言う音がし、令の武器が明らかになる。その腕の袖の手甲部分から、銀色に光る刃が二本延びていた。
令の背後からの攻撃を、レイヴァーは敢えて前へ一歩踏み込む事により回避する。そのまま瞬天速を前方に起動して距離を取り、くないをホルダーから抜いた勢いそのままに投げつける。
その攻撃は横に頭を逸らした令の頬を掠め、その隙にレイヴァーは瞬天速で踏み込む。上段に蛇剋を構え、フェイント攻撃を仕掛ける。本命は下段への蹴りだったのだが‥
「フッ」
大きく横に迅雷で移動し、令はそのまま迅雷を利用して壁を駆け上がり、レイヴァーの頭上から両手甲の刃を下へ向け落下する。素早くバックステップを取り、間一髪でそれを回避するレイヴァー。そして、着地後の硬直を狙い更に二本くないを投擲する。が、しかし、今度は両手甲の刃によって弾かれる結果となる。
(「‥そろそろ決めなくちゃ」)
瞬天速を後方に向けて使い、レイヴァーは大きく距離を取る。そして、先ほどピンを抜いておいた‥閃光手榴弾を、上方に投げると同時に、再度瞬天速で猛突進を仕掛けた。
「ッ!!」
閃光手榴弾により、令の目は一瞬眩んでしまう。
そこへレイヴァーは膝へ蹴りを入れたのだが―――
「何‥だって‥!?」
足に感じるのは、まるで鉄板を蹴りつけたような感触。
次の瞬間、膝の部分の布を破り、令の脛当てに仕込まれていた二本の刃が飛び出す。
急いで後方に下がったためダメージは受けなかったものの、先手を失ってしまう。
「見えない時は‥こうさせてもらうしかありませんね」
円閃と瞬天速を併用し、四方をまるでコマの様に回転しながら移動し、切り刻む。両手両膝から刃を出した状態での攻撃である。
レイヴァーは精一杯それを回避、隙を付いて背後へ回り込み、二本の蛇剋を振り上げる。
「返す刀や二刀で多少補えるが、構えた逆からその刀が来る事は無い‥!」
「その目測が‥どこに刀があるか、が誤っていたとしたら?」
シャキリ、と言う音がし、レイヴァーの胸に二本の刃が当たる。アームガードの反対側に仕込まれていた二本の刃が、肘部分の布を破り飛び出し、それが『後ろへの両肘撃ち』の構えを取った令により、レイヴァーに向けられていたのだ。
‥レイヴァーが武器を下ろすと同時に、シャキンと言う音と共に令の全ての刃が収納される。服は無論、ぼろぼろになっていたが‥
「がっはっは。まぁ惜しかったな。こいつの『全身に隠した十本の刀剣類』ってのは、文字通りの意味だったんだよ」
軍曹の豪快な笑い声が響くと共に、落ち着いた令の声も聞こえる。
「関節狙いは常套手段の一つですが、それを相手もわかっているからこそ、防御策をとられることがあります。その後に続く一手か、もっと意表を突く作戦を考えるべきでしょう」
そうして、お互いに一礼し、令とレイヴァーは退場した。
●デルカルロvs辰巳〜闘陣〜
「まさか、またお前さんとやりあうことになるったぁなぁ」
黒い手袋を装着し、具合を確かめながら、軍曹が辰巳 空(
ga4698)の方を見る。
握り締めると、パチリと火花を放つ。どうやら接触した瞬間電撃を放つの武装のようだ。
「ええ、今回は素手と同じ戦い方が出来る新武装を持ってきましたからね」
金属質のグローブを装着しながら、空が答える。
今回も、格闘技で勝負をつけるつもりであるようだ。
「そんじゃ、これで2度目だ‥手加減はしねぇぜ!?」
パチンと、打ち合わせた両手のグローブから火花が散る。お互い構えを取り‥そして、両者の姿は消えた。
瞬天速を使い、空の前に移動し掴もうとした軍曹の手は然し空振りする。空が瞬速縮地で後方に跳んだからである。
そこから更に真音獣斬を放ち、軍曹に一撃を与える。
「ちっ‥中々やるじゃねぇか」
軍曹は後退し、体勢を立て直す。更に真音獣斬を放つ空だったが‥
「二度も全く同じ手を食うわけにはいかねぇな!」
軍曹は、裏拳で飛来した衝撃破を正面から殴りつけ、軌道を逸らしたのである。
余波により多少ダメージを受けたものの、一度目に比べればずっと弱い物だ。
(「やはり、決定打を与えるには投げ、極め、締めなどでしょうか」)
そう考えると、空は急激に軍曹に詰め寄る。
軍曹の横から、腰を狙っての正拳を放つ。これは手に受け止められる、が、そのまま腕を掴まれる前に空は瞬速縮地で後方に脱出した。
‥然し、そこで空は驚愕する事になる。軍曹の姿が消えたからだ。
(「‥どこだっ!?」)
「お返しだぜ!」
限界まで体を前に傾け、高さを低くして瞬天速を発動する事により空の視界から消えた軍曹。そのままを腰へのタックルを仕掛け押し倒そうとする。
だが、臆せずに、空は軍曹の腹部分をそのまま掴む。
「前回の投げ技へのカウンター、そのままお返ししますよ!」
そのまま軍曹を持ち上げ投げようとする空の足が、がくんと崩れ落ちる。
‥軍曹の手袋から電撃が迸り、それが腰を通して足腰にダメージを与えていたのだ。
そして、それを見逃すほど軍曹は甘くない。
「‥武器の差ってぇとこか」
電撃を放ったまま空を持ち上げ、地面にたたきつける。そして片手を首に当てた。
「惜しかったな。もーちょいつーとこか。前回よりはずっと良かったぜ」
「まだまだ、力量差は大きいですね‥」
苦笑いしながら、空が服の埃を払い、立ち上がる。
その目には、今だ絶えぬ闘志があった。
●結果発表
「こっちは3勝4敗1分けか‥負けたやつらぁ反省しろよ!?」
軍曹の冗談交じりの罵声が響く。敗北を喫した部下は、ビクっと首をひそめる。
「今回は、傭兵のみんなにボーナス‥更に勝者には2万C追加ボーナスがでるぜ。ちと少ないが、まぁこれで我慢してくれや。今回はうちの奴らにもいい経験になったぜ」
苦笑いをする軍曹。そして、ここで令が軍曹に耳打する。
(「出動命令です」)
「あーっと、どうやら出なきゃいけねぇようだ。そんじゃ、またの機会に会おうぜ、みんな!」