●リプレイ本文
●到着
「大きなホテルですね‥‥」
入り口からホテルを見上げ、セレスタ・レネンティア(
gb1731)が感嘆のため息を漏らす。
流石は要人も利用している豪華ホテルの事だけあって、そのサイズも並みの比ではないのである。
「こんな所に爆弾を仕掛けるなんて‥‥全く、面倒な事をしてくれるわ‥‥」
風代 律子(
ga7966)は、違う意味でため息をついた。
そう。こと今回の作戦に関しては、このホテルのサイズは不利に働く。どこに仕掛けられているかも分からない爆弾を探す場合、施設が大きければ大きいほど、掛かる時間と労力は大きくなるのだ。
「んな事嘆いてもしゃーない。んじゃ、調査を開始しますか」
軽口を叩きながら、楽(
gb8064)はホテルの直ぐ外で従業員と共に待っていた、王文采―――このホテルの支配人である―――の元へと歩いていった。
●ビデオ調査
「うっわー‥‥‥‥‥これ全部、昨日の?」
昨日のビデオを調べるため、監視室に入った楽は、そこに積まれていたビデオテープの山を見て絶句していた。
「流石に、ホテルがこうも大きいと、廊下に設置してあるカメラだけでもこの様な数に‥‥」
苦笑いを浮かべてる王文采を横目に、楽はビデオの分別を始める。
(「とりあえずま、やばそうな所から片っ端、ってかなー? 倒壊に繋がる下とか、ガラス張りのホールも飛散したガラスで血の雨振り振り、になっちゃうから‥‥」)
ビデオをレコーダーに差し込むと同時に、トランシーバーを手に取る。
「皆、先ずは地下とか上層のガラスのある所とかを調べてねーん」
そして、ビデオレコーダーの「再生」のボタンをポチっと押した。
●調査開始
トランシーバーのスイッチをポチっと切り、ヒューイ・焔(
ga8434)はエレベーターに乗り込む。
彼の調査範囲には、エレベーター内も含まれているのだ。
「流石にこれを爆破されるとね」
内部各所を調べ、天井板を外して裏をも覗き込んでみる。客に怪しまれないためエレベーターが止まる度に天井板を元に戻す、まるでギャグのような作業であった。
そして、階毎の消火器、植木なども一階毎に下りて調査する。
エレベーターに乗ったり降りたりする姿は、普通ならば怪しまれる物であるが、ここは人の通りが多い高級ホテル。ボーイの一人が各階を走り回ろうと、誰もなんとも思わないのである。
ヒューイとは逆に、エレベーターに敢えて乗らず階段を下りていくのは律子。元よりエレベーターがあるため階段を利用する者は少なく、たとえばったり会ったとしても、
「ああ、少しトレーニングをしてるわ」
と言うのは、階段を使う非の打ち所の無い理由である。
各階の変電機器などをも調査するが‥やはり何の異変も見当たらない。
(「やはり‥支柱などが有力だわ」)
先ほどの楽からの連絡を思い出し、律子は下へと走っていった。
ホテルのフロントで、スーツ姿の女性が一人、まるで人探しをしているかのように歩いている。セレスタである。
その目が、不審な鞄を捉える。
「楽さん、フロントにある鞄を置いた方を調査してください」
「ほいよっと。えーっとそれは‥あー。ただの忘れ物っぽい。資料どっかに忘れていったって常連客から届出が出てるわな。映像も一致してる」
「それでは、後でホテルの従業員に届けさせるとしましょう」
トランシーバーを切り、セレスタは調査を続行する。
「そこの新入り! キリキリ働かんか!」
「は、はーい!」
セーラー服ながら、従業員さながらに働いているのは三島玲奈(
ga3848)。彼女は『帰りのチケットを財布と共に盗まれ、無銭宿泊となったためアルバイトとして働いている』事になっている。
‥‥無論、全部文采と口裏を合わせたでっち上げであるが。
「ごうるぁ! 何を食器棚を開けているんだ!!」
「す、すいませーん!」
おっちょこちょいで違う棚などを開けているように見せかけているが、実際はその中に爆弾が入れられていないか、チェックしているのである。
(「ここには何にもなし、っと」)
食器棚の扉を閉め、次の仕事に向かう。
「おう新入り。ちょいとこのメモを支配人にサインさせて来い。急げよ!」
「は、はーい!」
濡れた紙切れ‥‥‥失礼。メモを持って、玲奈は上の階へ駆け上がる。
●ガードマン
「支配人。その方は?」
「ああ、うちの親戚の子でな。身の回りの世話をさせているんだが」
「‥よろしくお願いします」
王文采の横に立つ鷹谷 隼人(
gb6184)が、ぺこりと一礼する。スーツを着込んだ姿は、執事その物である。
だが、その執事は時折、廊下の角などに隠れて、現在状況をモニター室に居る楽に報告していた。
「現時点異常なしです」
「りょーかい。後は火渡君の方っと‥‥」
「こっちも異常なしだぜ」
白衣を着て医者を装い、要人の居る階に一室を開けてもらって泊まっていた火渡 鉄次(
gb7981)が答える。
「あ、こんにちわ」
道行く人に丁寧に挨拶し、その反応を見る。
殆ど全員が丁寧に回答してくる。‥異状は、見当たらない。
●幕間〜とある爆弾魔の朝〜
マスクを着用し、白いエプロンの下に、灰色の服を着る。
清掃工のフリをするにはこれで十分だった。
「ホテルを爆破するって言ったが‥『どこ』は言ってないからなぁ?」
用具は既に清掃車のゴミ箱の下に詰め込んである。偽装も完璧。取り出すときにやや気持ち悪くなるが、それはまぁ、小さな問題だ。
‥エレベーターに乗り込む。これは楽しくなりそうだ。
●それは何か
「おや」
「皆ここに来たと言うことは‥」
「他の場所には無かったということでしょうか」
ホテルの1階。そこのホテルの主要支柱の一つがある場所に、ヒューイ、律子、セレスタの三人は集まった。
「と言う事はここの可能性が‥‥ッ!?」
辺りを見回した律子は、支柱に取り付けられているタイマーの様な物を目の当たりにする。それはバッグのような物に繋がっていた。
「ッ‥セレスタさん、楽さんに連絡して仕掛け人の行動を確認して! ヒューイさんは避難誘導を‥」
そして律子は解除に取り掛かる。だが‥
「‥‥これは‥火薬じゃない!?」
バッグの中身は―――『砂』であった。
直ぐにヒューイに連絡を入れ、無用なパニックを起こさないよう誘導を中断させる。
セレスタからの連絡を受けた楽は、急いで該当箇所のビデオの記録をチェックする。
(「昨日の記録だと、そこに入ったのは清掃工の一人だけやね。‥その清掃工は今朝エレベーターに入っていった。だけど、どの階からも出た映像はない。エレベーター内はさっきヒューイさんが調査済み‥‥どこだ‥?」)
そしてはっと気づく。
一箇所だけエレベーターの外が通路やレストランになっている場所。それは―――
「ヤツは支配人室やで!」
●待ち構える者
トランシーバーから楽の声が響いた瞬間、玲奈はちょうど支配人室の前で王文采にメモを届けようとし、文采本人は扉に手を掛け開けようとしていた所である。
「あぶねぇ!」
叫びと共に鉄次は王文采を突き飛ばす。次の瞬間、爆風によって鉄次は5mほど吹き飛ばされ、壁に激突した。
開いたドアの中では、支配人席に見知らぬ男が鎮座している。
「まさか能力者を雇うとはねぇ。ホテルの評判に響くからやらないかと思ったけどね」
「烈‥‥やはりお前か。火龍の名を聞いた時からもしや、とは思っていたが。」
「話をする程の仲でもないだろ?‥‥死ね」
次の瞬間、ダーツの様な物が王文采に向かって飛ぶ。
だが、それは、銃弾により撃ち落されていた。天井近くで爆発が起きる。どうやらダーツにも火薬が仕込んであったようだ。
「あの世に行くのはお前だ」
冷たく、玲奈は言い放つ。その隣、隼人は同様に武器を構える。
「‥火渡さん。支配人を‥連れて逃げて、皆に‥連絡して‥ください。あなたは‥最初の一撃で‥負傷してますし、その装備では‥」
「‥‥‥分かった」
流石にナイフ二本では勝てないのを悟ったのか、鉄次は王文采を連れて後ろを向ける。
「‥‥‥だが、ただじゃどかねぇぜ!」
一本のナイフを、振り向きざまに支配人席に座っている雷火龍に向け投げつける。
それを、右手でノックする雷火龍。グローブから突如爆炎が生じ、ナイフを弾き飛ばした。
――それが、開戦の合図だった。
●ウォー・ゲーム
戦闘開始と共に、玲奈は隠密潜行を起動し、それに合わせる様に隼人は拳銃を雷火龍に向かって撃つ。
だが、弾丸はその背後の椅子を貫いたに過ぎない。次の瞬間、雷火龍は隼人の頭上に出現し、頭に向かって掌底を突きつける。だが、その左腕を狙って隠れた玲奈が影撃ちで弾丸を叩き込む。
それはまたもや左腕の外部に突如起こった爆風に相殺されるが、その勢いで雷火龍の狙いは逸れ、隼人はその攻撃を回避する事が出来た。
(「動きの基本は‥拳法‥ですか」)
そのまま、弾かれた左腕の脇下を狙ってアーミーナイフで逆手に突き刺す。
「むやみに‥命を奪うなど‥僕は‥断じて許せません‥。絶対に‥死者は出させない‥。この身をもって‥阻止します‥」
―――だが、急所狙いのその一撃でさえ、爆破によって遮られた。
「ッ!?」
ナイフが爆発によって弾かれた一瞬、隼人はそのまま勢いを利用し体を回転させ、銃を雷火龍の顔に向ける。だが、その前に腹に裏拳がめり込んだ。
―――爆破により、廊下まで吹き飛ばされた隼人の影から、玲奈が飛び出し奇襲を仕掛ける。
「少し遅いが彼岸へ旅立て!」
両膝を狙って、銃弾を放とうとしたが――その前に、狙ったその膝が銃口に迫っていた。
膝蹴りによって爆発を起こし、玲奈を吹き飛ばした雷火龍は、そのままタックルを仕掛けた――――
玲奈と隼人が雷火龍と交戦していた間に、鉄次は階段を伝い降りていた。その途中で、通信を聞いていた楽からの連絡を受けたヒューイ、セレスタ、律子と合流する。
「先に一階ロビーへ。ここは私たちが食い止めます」
「おう、頼んだぜ」
鉄次の姿が消えた頃、ヒューイたちの目の前には、雷火龍が出現していた。
「おーおー。これはまた面倒な事になったねぇ。」
後退しようとする雷火龍に対し、
「逃がすか!」
セレスタがナイフを投擲すると同時に拳銃を撃つ。これは体をそらして回避される。そして律子が瞬天速で背後に寄り、ヒューイが壁と天井を蹴り、上方から奇襲するが―――
―――次の瞬間。爆発音と共に雷火龍の姿が消える。律子は体を逸らし、ヒューイは壁に手をついて、お互い衝突する事を避ける。
「アーマーもそれなりに破壊されたし、ブーツも使っちゃったし、これ以上付き合うのは避けたい所だけどねぇ」
そう言って、再度支配人室に駆け込む。
傭兵たちが追って入った時、そこには割れたガラス窓があっただけであった。
●その者の名は
「わぁい♪サマーサマー♪ ‥‥と行きたかったんだけどな」
プールサイド。玲奈は、体に包帯を巻いたまま、傘の下のロングチェアーで横になっている。隣では隼人も同様に、である。
この二名は雷火龍によって重傷を負ったのだが、それでもせめてホテル住まいの気分だけでも体験してもらおうと言う事で、王文采の計らいでプールサイドに居るのだ。
プール内で泳ぐ律子や、水上でなにやら水芸をしている楽。そんなプール組みを余所目に、鉄次はラウンジでセレスタと会話していた王文采の所にやってくる。
「結局‥‥アイツは? どうやら支配人と知り合いだったようだが」
王文采の表情がやや険しくなる。
「あいつの‥元の名前は、雷 烈。私の兄弟子だった男ですよ。私たちは同じ格闘技の流派に属していましたが‥ある日、忽然と‥消えたんです」
そして、目を閉じ、何かを思い出すように―――
「火龍。それは、俺たちの流派の名前でした。あいつが火薬を使うのは‥恐らく、流派の古い伝承を信じているからでしょう。」
それ以上、王文采は、この件については何も語らなかった。