タイトル:【TG】戦車マスター:剣崎 宗二

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/02 01:18

●オープニング本文


「ふむ。君がこう言ったキメラに興味があるとは思わなかったが」
「‥‥いえ、私の好みではなく、上の命令ですのでね。拒む権利がありません」
「と言う事は‥‥」
「はい。制圧タイプのキメラの‥試作タイプの依頼が来ました」

――――――――――――――

 仏頂面のオペレーター、李 無驚(gz0271)が、その場に集まった傭兵たちを見ながら、スクリーンに作戦の情報を映し出す。

「戦車型のキメラが、市街地に接近していると言う情報が届いた」

 スクリーンには、おぼろげな戦車らしきシルエットが映し出されている。余り良くは見えないが、長い砲のようなものがついている。

「それなりに高精度の迎撃システムが付いているようで、接近する者は全て帰ってきてはいない。故にこのようなおぼろげな映像しかない事をご容赦願いたい」

 別の映像が映し出され、説明は続けられる。

「死者を解剖した所、迎撃システムは単発のようだ。特殊な形状をした40mm直径の弾なので、当たれば能力者と言えども重傷は免れないだろう」

 そして、静かに資料を閉じる。

「現在は60km/hの速度で走行しているが、これが市街地に入れば、‥言うまでもないだろうな」

 スクリーンには、別の画像が映し出される。

 「今回は敵が移動しているという事で、軍からジザーリオ2台が貸し出される。無改造ではあるが、な。しかし、自分で車を所持している者は、それを使ってもいい。そこはここに居る皆の判断である」

「ここから現場までの移動時間を加味すれば、あれが市街地を射程内に捉えるまでの時間は30分。なんとしてもその前に撃破してもらいたい。‥‥よろしくお願いする」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
エル・デイビッド(gb4145
17歳・♂・DG

●リプレイ本文

●カウントダウン
「それでは先に行って来る」
「ああ、こちらも直ぐに後から追いつく」

 白雪(gb2228)の運転するファミラーゼに乗り込む白鐘剣一郎(ga0184)が、レティ・クリムゾン(ga8679)に挨拶する。
 今回の作戦に於いて、レティとディッツァー・ライ(gb2224)は地雷の受け取り役を担っており、他の傭兵たちより10分ほど出発が遅れる事となっているのだ。
 残念ながらもう一つ申請した煙幕はストックの欠如により許可が下りなかったが、それでも地雷を使った作戦は続行される事となった。

(「‥‥相手が何でも関係ない、来るならとめる、来るなら壊す、何事も、早ければ早いほどいい‥‥何も、変わらない」)
 決意を示すエル・デイビッド(gb4145)がAU−KVに乗り込み、出発準備をする。その横では、依神 隼瀬(gb2747)が後ろに乗る三島玲奈(ga3848)の場所を調整しており、水無月 春奈(gb4000)は、
(「‥‥あの趣味の悪い男のやることですから、何があるかわかりませんからね。十分に注意しないと‥‥」)

 と、前回現れたタロットキメラの製作主について、考えていた。


●幕間 〜その自信〜
「戦車と言う物は、人間に開発された物だ。無論、その弱点も研究され尽くしているが、それはどうするのかね?」
「おやおや。そこまで私を嘗めておいでで? 作ると言った以上、私が『ただの』戦車を作る訳がないではありませんか」
「ほう‥‥それは楽しみにしていよう。ほら、迎撃の者たちがまた出てきたぞ?」

 そう言って、男の一人は、遠くの道を指差す。爆走するキメラの後ろから、接近する影がいた。


●迎撃準備
「ここら辺で良いかなー?」
「ああ、下ろしてくれ」

 玲奈を乗せた隼瀬のAU−KVは、街から出発し‥‥この作戦における小さな橋の、約200m手前で停止した。
 玲奈は得物であるアンチマテリアルライフルを担いで降り、そのまま付近にある手ごろな岩の裏に転がり込み、ライフルを設置する。
 そして隼瀬は再度バイク型になっているAU−KVに跨り、仲間たちと合流するため前進した。


●戦車の正体
「くっ‥‥これは‥‥」

 舌打ちしたエルが、AU−KVを思いっきり左に傾けたかと思うと、次の瞬間元居た場所では爆発音と共に砂塵が巻き起こっていた。
 ただ、その狙いは一人ずつであるようで、狙われていた人が回避行動を取る事により、傭兵たちは少しずつながらもキメラに接近する事に成功していた。
 そしてその事実に気づいた白雪は‥‥

「運転しながらの攻撃は危険だ。敵のパターンを把握するまでは運転に専念してくれ」
「なら、これを使ってください」

 と、剣一郎に照明銃を渡す。意味に気づいた剣一郎は、それを横側に撃つと、次の瞬間それは砲撃にかき消されていた。
 それを確認し、

「デコイは有効なようね」

 と、白雪は再度剣一郎に照明銃を渡した。

 この時点でキメラに接近していた機動車両は3機。春奈とエルのAU−KV、それと剣一郎を乗せた白雪のファミラーゼである。
 ブレーキとアクセルを使い分けて砲撃を回避しながら、一気に接近した春奈は、目の前にあった物を見て息を飲んだ。

「これは‥戦車じゃ‥ない!?」

 そう。春奈の目の前にあったのは、巨大な象型キメラである。
 違いは、その足が異様な形に曲がっており、それにそれぞれ二体のアルマジロキメラがくっついたことと、背中に巨大な砲台を背負っていた事である。
 普段は鼻を真っ直ぐ前に伸ばしているが故砲と重なって砲台に見え、キャタピラに見えたものはアルマジロキメラたちだったのだ。

 後方からその事実を同じように見た剣一郎は急いでトランシーバーで全員にそれを伝える。

「敵は戦車ではなく、その様に見せかけたキメラの集合体だ。繰り返す。敵はキメラの集合体だ」
「何だろうと‥変わらない」

 そう言って、エルはエネルギーガンを取り出し、タイヤ役であるアルマジロキメラに向け連射する。だが、揺れるバイクの上‥それも片手運転、AU−KVの補正がない状態で、小さいアルマジロキメラに当てるのは困難極まりない事である。
 ただ、流石に攻撃されると優先度が上がるのか、象キメラに装着された砲台は剣一郎が放った照明弾を無視し、エルの方へ回転する。

「っ!?」

 間一髪でブレーキを掛け減速する事により、エル目の前を砲撃が通り過ぎる。急な減速により、バランスを崩し転倒寸前に至ったエルは、大きくキメラと他2機から遅れる事となった。


●スリップ・スケート・スナイプ
 爆走を続けるキメラの前方から、迫る影が一つ。手にポリタンクを持ったその影は、玲奈を下ろした隼瀬のAU−KVだったのだ。

「案外原始的な方法が効いたりするんだよねー」

 AU−KVを傾け、その勢いで後方にポリタンクの中身をばら撒く。それは、石鹸水だったのだ。
 その区域に踏み込んだキメラはスリップを始める。

「よっしゃ‥‥っ!?」

 驚くのも無理はない。キメラは少しスリップしたかと思うと、足についていた全てのアルマジロキメラが丸まった状態から伏せた状態に戻り、まるでカーリングのように石鹸水の上を『滑って』行ったのだ。

「速度を落とせ! スリップするぞ!!」

 剣一郎の叫びに、軽めにブレーキを踏んだ白雪だが、時は既に遅し。大きくスリップし、キメラから遅れる事になってしまう。
 春奈は、AU−KVの小回りを生かし、やや公道から離れる事により、石鹸水によるスリップを回避した。

「まさか裏目に出るなんてね」

 唇を噛み締めながら、隼瀬は春奈と共に追撃を続行する。
 その前方には、先ほどから待ち伏せていた玲奈の姿があった。隠密潜行で姿を消し、じっとキメラの到着を待つ。

「射程内だな。もらった!」

 アンチマテリアルライフルを、タイヤであるアルマジロキメラに向け射出する。狙い済ました一撃は、見事に一体のアルマジロキメラに傷を負わせた。

「よし、このまま‥‥ッ!?」

 次の狙いを定めようとした玲奈は、自分に向かって光る砲口に気づく。射線から推測されたのか何故なのかは分からない。
 だが、その砲口が光り、砲弾が近くに着弾した事は確かだ。

「くっ‥」

 隠密潜行を使用していたため直撃ではなかったものの、巻き起こる爆風と土煙により玲奈は吹き飛ばされてしまう。
 だが、それでもタイヤの一つにダメージを与えたのは確かだ。

「まだ抵抗しますか‥。早く止まりなさいっ」

 春奈も、再度追いついたエルと共に猛攻を仕掛ける。
 春奈のS−01では、アルマジロキメラの装甲を貫ける可能性は低かったので、片手でエルのAU−KVを安定させ、その間にエルが両手で狙い済ましたエネルギーガンを叩き込んだ。
 エネルギーの流れは、見事にアルマジロキメラを焼き、ダメージを与える事に成功した。

「これでどうかしらね?」

 得意げに春奈が微笑んだ瞬間、カチャリと言う音が、キメラから響いた。
 キメラはダメージを受けたアルマジロキメラ二体を分離させ、まるで地を這う弾丸の様に飛ばしてきたのだ。
 バイク状態であり、しかも接近していたエルと春奈はそれを回避する事に失敗し、転倒する。幸い、キメラが既に手負いであったせいか、体当たり自体はそれほど大きなダメージになってはいないようだ。寧ろ『AU−KVを装着していない状態で』『地面に猛烈に叩きつけられた』事によるダメージの方が大きい。またこれにより、二名は大きくキメラに遅れる事となる。

 全力で車を飛ばし、キメラに追いつこうとしていた白雪の横で、剣一郎がトランシーバーを手に取った。


●橋上橋下の攻防
「剣一郎か。こっちの準備は終了した。いつでも実行できる」
「ああ、レティ、それじゃ指揮を頼む」
「了解。皆、2番の作戦を行う!」

 レティの号令と同時に、隼瀬は玲奈を再度後ろに乗せ後ろから、白雪車は剣一郎を乗せたままキメラの後方に迫り、春奈とエルもキメラの両側へ付く。
 この数に取り囲まれては、迎撃用の大砲も余り役には立たない。回頭に時間がかかり、目標を切り替えにくいからである。
 全員の攻撃によって、少しずつキメラの装甲が削られていく。
 そして、このグループが橋に差し掛かった時、傭兵たちは、急に減速し、キメラの後ろ側へつく。キメラは、その意味を察する事はできなかった。

「引っ掛かりやがったな」

 設置役であったディッツアーがにやりと微笑む。
 次の瞬間。戦車型キメラはレティとディッツァーが設置した地雷を踏んだ。その爆発自体はFFに阻まれ、大きなダメージには至らなかったが、キメラ自身は爆発に破壊された橋ごと下の川へ落下していったのだ。

「今だ!」

 ドラグーンの三人はAU−KVを装着し、橋下へと身を躍らせる。春奈は「竜の翼」を使用し、上から天剣「ラジエル」で砲塔の関節部を刺す。エルはアルマジロキメラたちに向かってエネルギーガンを乱射し、隼瀬は長弓で攻撃しながら接近、キメラの周囲を確認していた。

(「開ける場所はなし、と。人質はいないかな?」)

 捕獲されている人間が居ない事を確認した隼瀬が攻撃を続行する。その後方では、隠密潜行で目標にならないようにしながら、玲奈がライフルで援護射撃する。
 そして白雪がソニックブーム、両断剣を併用した渾身の一撃を3発叩き込んだ時、思いも寄らぬ事が起こった。

 ‥‥アルマジロキメラ部分を変形させ、今まで力を溜めていたらしいキメラは、その力を下に向かって開放し、『大ジャンプ』したのである。

「逃がすか!」

 到着が遅れ、岸上から『超機械「ブラックホール」』で攻撃していた剣一郎が、そのまま助走しキメラに飛び乗る。困難なこの行動を成し遂げたのは、一重に剣一郎の並外れた身体能力のお陰である。
 そして、地雷を設置してから橋の反対側に居たレティとディッツアーも、そのまま車に戻り追撃する。
 だが、川の中へ入ったドラグーンの3名と白雪、それに崖のこちら側から援護射撃を行っていた玲奈は、大きく迂回しなければ、追撃が出来ない状態にある。
 この事件により、傭兵たちは分断された形となる。


●タンク・レース
「レティ、寄せてくれ! 俺も飛び乗るぜ」
「ああ、分かった」

 レティの猛烈な加速直後のドリフトにより、一瞬だけながらディッツアーの乗っている側のドアがキメラの後方に接近する事になる。
 キメラも砲塔を回転させ迎撃しようとするが、先ほど春奈に刺されたせいか、砲塔の動きが僅かに遅れる。
 その間にレティはドリフトの勢いそのままにキメラの斜め後ろ側に付き、砲撃を回避した。
 ディッツアーは、先ず『獅子刀牙嵐』を象キメラの目に向け突き刺すが、まぶたに軽い傷を付けた程度である。

「やれやれ、文字通り刃が立たん。‥‥ハイテクに頼るのは流儀じゃないんだがな」

 『機械剣「莫邪宝剣」』を取り出し、改めてキメラの目に向けて突き刺す。そのレーザーの刃は今度はいとも簡単にまぶたを貫通し、キメラの目を潰した。
 痛みからか視界の不安定さからか、キメラの走るルートがジグザグな不規則なルートに変わる。無論、上に乗っているディッツアーと剣一郎も揺れの影響を受けるが―――

「その砲身、貰い受ける‥‥‥天都神影流奥義・白怒火」

 紅蓮衝撃、豪破斬撃、急所突き。全てのスキルを乗せた剣一郎の月詠での一閃は、足場が不安定な状態でも、レティ車に向けられた大砲の砲身を両断するのには十分だった。
 だが、両断された砲身の裏に、もう一つあった物を、ディッツアーは見た。

「逃げろ、白鐘ッ!」

 象の鼻が火炎放射器と同時に自分の側に向けられたのを見たディッツアーは一足先に飛び降り、レティ車の屋根に着地する。
 だが、全力での攻撃直後だった剣一郎は、そのまま砲身の後ろの武装‥『火炎放射器』の直撃を受ける事となる。象の鼻から噴出された風圧と火炎放射器の攻撃を同時に受けた剣一郎。重装備だったためそれほど大きなダメージは受けなかったが、風圧によって吹き飛ばされ、地面にたたきつけられる。
 それを見たレティは素早く減速し、ジーザリオのドアを開放する。剣一郎はそのドアに掴まる事により、更に後方へ離されるのを防いだ。

「くっ‥もう一回‥!」

 意気込んで、再度レティはアクセルを全力で踏み込む。だが、その前には、既に街が迫っていた――――


●幕終 〜その結果〜

 キメラが放った炎によって燃え盛る街を見下ろしながら、男たちは冷たく笑う。
 怒りに燃えた剣一郎、ディッツアーや、その後に追いついた春奈、隼瀬、白雪の集中攻撃によってキメラは完膚なきまでに破壊されたが、既に「街を破壊する」と言う目的は成されていたのだ。

「‥‥生物をうまく機械に見せかけるとは、考えたな」
「ええ、そのための高性能迎撃砲です。近くで解析すれば、種がばれてしまいますからね。まぁ、あちらさんの作戦に問題があったの一因ですが、ね」
「足止めを突破された場合、自身も足止めされるという事か‥‥よくやった。この結果は上に報告して置こう。これからも‥‥がんばってくれたまえ」
「ええ‥‥努力しますよ」
(「人間を、絶滅させるまでは、ね‥‥」)

 その場を離れようとした科学者風の男の眼に、春奈の姿が映る。

(「おやまぁ。こうも毎度、実験を邪魔にしに来るとは‥‥」)

 ふっと微笑み、その男は、「ご苦労様」と皮肉を精一杯込めた紙を春奈の方へ落とすと、姿を消した。
 その最後には、『栄光』を花言葉とする、トリカブトの紋章があった。