●リプレイ本文
●ブリーフィング
事前の傭兵たちの相談により、今回の作戦に置いてはタワーの掃討を早くするために2グループに別れ、それぞれ奇数と偶数の階の掃討を担当する事になっている。
奇数階担当のA班には、
レヴィア ストレイカー(
ga5340)
犬神 一夜(
gb6521)
アーヴァス・レイン(
gb6961)
の3名が、偶数階担当のB班には、
アルヴァイム(
ga5051)
黒崎 アリス(
gb6944)
シャーリィ・アッシュ(
gb1884)
の3名が付く事になった。
傭兵たちが作戦について会話していた所で‥‥
「さーてと、人質の資料ってのは、そこのやつが要求した通り、持ってきた訳だがよ」
デルカルロ軍曹が、アルヴァイムの要求した資料を片手で持ってやってくる。意外と厚い。何か余計な物まで混ざっているのだろうか。
そしてアルヴァイムも、何食わぬ顔でその資料に目を通している。大丈夫なのか。
「貴重な休暇中にご苦労様、軍曹。貧乏くじってやつですか?」
アリスが軍曹に向かい軽口を叩くと、軍曹も気にせずに
「あー、もう毎度の事だかんな。慣れちまったよ」
と苦笑いで返した。
その後、各班ごとに、連絡用のシグナルを決めたが‥‥‥ここで、B班はアルヴァイムの提案した通り、軍事用符丁を。A班は、マイクを叩く回数による物を採用していた。
この混乱が、後ほどちょっとしたトラブルに発展する事となる。
●エントリー・アサルト
ビルの近くまで潜入した傭兵たちと軍曹は、付近の茂みに隠れ、ビルの入り口を見る。
見張りは1名のみ、但し付近にキメラが2体居た。
「ここで待ってて」
B班先行役のレヴィアが、隠密潜行を発動させて入り口に向かう。同様に、A班先行であるアルヴァイムも、その後に続く。
アルヴァイムが、レヴィアに対し、「先ずは見張りを片付けてからキメラ」のハンドサインをし、レヴィアは「了解」のアイコンタクトを返す。
レヴィアの鋭覚狙撃を使った一撃が、男の通信機を打ち落とす。そしてアルヴァイムの一撃が、男のもう片方の手を打ち抜き、無力化した。
「上だ!」
アーヴァスの叫びに二人が反応し、レヴィアは横に転び体を寝かせそのまま上方を狙撃、アルヴァイムは見もせずに気配だけを察知し、右腕を上に向けて、精確に飛び掛ったウサギキメラを打ち落とした。
だが、この一瞬の間に‥‥見張りの男は死んでいた。口から泡を吹いて‥‥
「あっちゃー。こりゃ歯に毒でも仕込んでやがったな?‥‥おおっと、お嬢ちゃんたちは見ない方がいい。後で飯食べられなくなっからな」
見張りの男の口を抉じ開け、覗き込んだ軍曹が言う。
通信機を破壊した以上、相手は定期連絡のなさから侵入に気づく可能性がある。そう判断した傭兵たちは、急いでビルに突入した。
「軍曹殿、どうかお気をつけて‥‥一人だからって『無策な無茶』はしないで下さいね」
「おじちゃん、突っ込みすぎないでね?」
「ああ、そうしておくよ」
そして、
「バイクの音出したら危ないよね‥‥」
とAU―KVの電源を切る一夜。流石にそれではドラグーンの能力は減るが、隠密活動には音を出すわけには行かないのだ。
傭兵たちを見送った軍曹は、
「然し、俺はどうしたら良いのやら‥‥」
と考えていたが、最後に入ったアーヴァスが
「軍曹。単独で突入し、遊撃としてください」
と伝えた。そして同じように中へ入ったアーヴァスの後ろで軍曹は‥
「単独で突入か。‥‥へっ、そうこなくっちゃな!」
タワーの頂上を見て、にやりと笑った。
●アルファ・ストライク
A班。7階を掃討していたレヴィアは、妙な焦りを覚えていた。
(おかしい‥‥テロリストは入り口の一人以外、誰も居なかった。B班からもテロリストを倒した連絡はない。こちらが遭遇したのは全部キメラだった。一体人質はどこだ‥‥?)
そしてその疑問は直ぐ後ろについてきているアーヴァスと、一夜も同じだった。
(‥ッ!)
直ぐ前にの曲がり角を覗き込むと、ウサギキメラが1体、そこで周囲の様子を伺っている事を発見する。
レヴィアは軽くマイクを叩き、後方のアーヴァスと一夜にこちらに来るよう合図する。
そしてお互いが視認範囲に入った所で、「一斉攻撃」のアイコンタクトをした。
先ず、レヴィアがサプレッサー付きのスコーピオンでウサギキメラを狙い打つ。だがその銃弾は、僅かな空気の振動を察知したのか、横にジャンプしたキメラによって回避される。
然し、その体勢のまま一夜の放った超音波をかわせるほど、このキメラの運は良くは無かった。
衝撃で弾かれた先では、アーヴァスが壱式を構え、力を溜めていた。
「人質が心配だ‥‥時間は無駄にできない」
スマッシュの力を込めた一撃は、呆気なくキメラを首から両断する。剣から血を振り払い、鞘に収める。
そして、3人が階をくまなく調査し、人質が居ないと判断した所で、階段を通り、B班が調査中であった8階をスルーして9階へ向かう。
その直ぐ後。ガラスの無い窓の前を、黒い影が重力に反し、下から上へ上っていた‥‥
●ベータ・スキャン
B班リーダー、アルヴァイムは不審に思っていた。8階を回っている時点でも、A班から、ほぼ全く連絡が無いのである。
実際はマイクを叩く事によって連絡は来ていたのだが、符丁での連絡を選択していたアルヴァイムにはそれを知る由も無い。
(罠にでもかかったのか?‥だとしても、全員が連絡不能になるはずは‥)
どうする?と言ったハンドサインを後方に待機していたアリスとシャーリィに送る。
相談の結果、A班が例え罠にかかっていたとして、「どの階か」を特定するのはほぼ不可能であるため、このまま作戦を続行する事にした。
B班の戦術は、極めて合理的な物であった。
(私は右足を狙う)
(それでは私は左を)
隠密状態のアルヴァイムがまず射撃で足を抜き動きを止め、その間にアリスが更に動きを制限し、
「人質確保までは余り時間をかけるわけにもいきませんね‥‥」
その後にシャーリィが確実に必殺の一撃を以って仕留めると言うものである。
この方法は極めて合理的であったが、一つだけ問題があった。
「ッ‥‥!」
それは、隠密もサプレッサーも持たないシャーリィが攻撃する瞬間のみ、付近の他の敵に気づかれる可能性がある、と言う事である。
ウサギキメラが、階段より素早くジャンプで駆け下り、シャーリィの脚に噛み付く。
だが、そのキメラは、一瞬にして蜂の巣と化し、その場に倒れる。
「ありがとう。アリスさん」
アリスが、瞬天速で移動し、素早く連射で、シャーリィに噛み付いたキメラを撃破したのである。
「‥‥次が最上階か」
3人は、この階にも人質もテロリストも居なかった事を確認し、最上階へ向かった。
無論、アルヴァイムは発見を遅らせるため、キメラの死体を物陰へ隠す事も忘れなかった。
●タワーズ・サミット
「おっと、そこで止まりたまえ」
最上階へ上がったB班の3人を待っていたのは、人質たちにマシンガンを向けていた二人のテロリスト、B班に銃を向けている一人と‥‥そして余裕のある微笑を浮かべていた、リーダーらしき男であった。
「チッ‥」
シャーリィが舌打ちする。重火器ならば兎も角、軽兵器のサブマシンガンでは能力者には大したダメージは与えられない。
だが‥人質は別である。龍の翼を起動しても、気づかれる前に倒せるのは一人。もう一人はそうは行かないのだ。
だがここでA班が同じ階段から到着する。全員、アイコンタクトで一瞬にして、作戦を決定した。
ガチャリと言う音がして、アルヴァイムが武器を置いて、両手を挙げて戦う意志が無い事を示す。
「私たちは話し合いに来たのでね。私はこういう者ですが‥」
と、名刺を差し出した。それを見て、傭兵たちに銃を向けていた一人が、名刺を取ろうと警戒しながらも近づくが―――
「君たちの死神です」
表情を変えずに笑顔のまま、名刺でテロリストの喉元を切り裂いていた。手に持っていた名刺は、特製の「名刺手裏剣」だったのだ。
この一瞬で、同時にシャーリィ、アーヴァスと、一夜が動いた。
龍の翼を起動させた一夜は素早く人質を掴んで逃げ、
「っと、危ないなぁ‥もう」
と、AU−KVを盾にして追撃の銃弾を防ぎ、シャーリィは武器を持たずに両手でテロリストの銃を弾き飛ばし、そのまま腹に両手の掌打を打ち込む。
「恨むのなら、愚考を犯した己を恨むがいい。即座に切り伏せないことが温情だ」
そのまま倒れたテロリストを、付近にあったワイヤーで縛り上げ一息つく。
そして、アーヴァスは――
「恨むな。人質の安全が優先だ」
迅雷でもう一人のテロリストの背後に忍び寄り、機械剣で首を一薙ぎにした。
「‥‥逃がさないよ」
「動かないで下さいね」
リーダー格の男が、指一本動かす前に‥‥ガチャリと音がし、アリスとレヴィアは同時にその男に銃を向けていた。
だが、男の顔から、余裕のある笑みは消えていない。
「撃ってみるといい。撃てる物ならね」
自らのコートの前を開くと、全身に巻きつけられている爆弾が、傭兵たちの前に現れた。
「このタワーを丸ごと吹き飛ばせなくても、上の2、3階くらいは軽いだろうな――おっと、兄ちゃん、人質を逃がそうとしても無駄だ。そいつらが俺の目の前から消えた瞬間、俺はスイッチを押す」
人質だけでも先に連れて安全場所に移動しようとした一夜の動きが止まる。9階の階段の位置は少し遠いため、龍の翼を以ってしても一瞬で2、3階スキップする事はできないのだ。
「親バグアなら自害くらい平気でやるとはいえ‥」
アリスが歯軋りする。それを男は、やや悲しそうな表情を浮かべ
「姉ちゃん、大人には事情ってもんがあるんだよ。」
とだけ、呟いた。
対峙する男と傭兵たち。レヴィアは、必死にスイッチを探していた。それさえ見つかれば、打ち抜いて爆弾を無力化できるからだ。
(どこだ‥‥どこに隠してある‥‥?)
だが、それは見つからない。だが、代わりに見えたのは、男の背後にある黒い影であった。
「ふん!!」
気迫の声と共に、黒い影は一瞬で傭兵たちの間を抜け、壁に衝突する‥いや、衝突したように、見えただけ、である。
爆発音と共に壁には深い「手の跡」だけが残り、その反作用を利用した黒い影―――ショーン・デルカルロ軍曹の渾身のドロップキックは、男の体を大きく吹き飛ばしていた。
カチっと言う音がする。次の瞬間、タワーの外には、大きな火球があがった。
「う‥っ‥‥」
人質の保護を行っていた一夜は、AU−KVを盾にして爆発から人質を保護する。
他の傭兵たちも、各々の防御方法で爆発を凌いでいた。
●ディ・ブリーフィング
「自分の下手な指揮で大変だったでしょう‥‥警官の養父から、もっと指揮や制圧の教えて貰うべきだったな‥」
「いや、十分に統制が取れていた。中々の物だったぞ」
反省などを話しながら休憩を取っていた傭兵たちの前に、デルカルロ軍曹が現れる。
「残念なニュースだ。シャーリィが捕らえた最後の一人も、見張りと同じように歯に仕込んだカプセルを噛んで自害した。‥流石に、あれは防ぎようが無い。」
苦笑いを浮かべる。
「だが、救われた人質たちは、お前さんたちに大層感謝していたよ。‥時間があったら、会ってくるといい。」
と、外を親指で指差す。
救えた人が居るのなら。そう考えて、傭兵たちは、また各々の行動に戻っていった。
ある者は人質に会いに。
ある者は次の任務に思いを馳せ。
また、ある者は、最後の爆発によるタワー破壊の責任を考えて悶絶していた。‥‥デルカルロ軍曹である。