●リプレイ本文
○出撃前、格納庫にて
「ほぅ、こいつは‥‥随分と男前じゃないか」
マニュアルにざっと目を通しながら夜十字・信人(
ga8235)が呟いた。
「わかってくれるか、同志傭兵!」
ブラヴィノフ局長は自慢げに息子を指差し、おおよそ研究者とは思えない笑いを響かせながらその背中を叩いた。
「同志って‥‥共産主義には興味ないんだけどねぇ」
夜十字の呟きをよそに、目の前‥‥格納庫では急ピッチで最終整備作業が行われていく。
「大丈夫。私の体にもこの国の血が流れてるんだ! あんなキメラに『同志』達を好きにさせやしない!!」
フロリア・クロラ(
gb2796)が格納庫に集まりT−96の最終チェックを行う職員に檄を飛ばし、職員たちもより正確に、より手早くなっていく‥‥
「ここに手すりとかつけれないか? 乗ってる時に落ちそうなんだが‥‥」
紅月・焔(
gb1386)が砲撃姿勢をとっているT−96の肩に当たる部分を指差しながら手近な女性職員に声をかけた。
「手すりですか? ねぇー! パイプってまだ余ってない?」
「コイツの食いカスで良かったらその辺に山ほど転がってんだろ」
「それもそうね」と一言漏らし、足元にあったパイプを手早く即席の手すりとして溶接してしまう。
「こいつぁ‥‥なんというか、そうだそいつもすえつけられないかい?」
紅月が苦笑しながら倉庫の隅に転がっていた物を指差し、女性職員は「相手は対戦車用の武器なんか使ってきませんから‥‥ホントは危ないんですけど」と肩を竦め、ついでに肩に延びていた紅月の手をはたいた。
「ホンモノはやっぱりカッコイー!」
目をきらきらさせながら紫藤 望(
gb2057)が呟き、エリク=ユスト=エンク(
ga1072)も何事か考えながら整備を続ける職員を見つめているなか‥‥一角から明らかに違う空気が流れ始めているのに気がついた。
「かつて赤い星を付け戦場を駆けた、ソビエト機甲部隊の末裔だと。そう私には見えますね」
「えっ、ええ、そう言ってもらえると光栄です‥‥」
アラン・レッドグレイブ(
gb3158)に声をかけられ、レイラの手は先ほどから止まっていた、昔から機械油が化粧品代わりだったレイラはこういった手合いに対しての耐性が無いといっていいのだ。
「寄せ集めのパーツを1つの物とするには、相当な技術が要ります。今度お時間があれば詳しくお話を聞かせて頂きたいですね、貴女から」
「その‥‥」
「その辺にしておいたほうがいいんじゃないですか?」
顔を真っ赤にしてうつむいたレイラに見かねたのかレールズ(
ga5293)と高坂聖(
ga4517)が助け舟を出した。
「この作戦さえひと段落すれば時間はいくらでもありますし、今は整備の手が一人でも多いほうがいいと‥‥」
「なるほど、いやはや‥‥最年長でルーキーとは困ったものですな」
頭をかきながら「すみませんね、魅力的な女性を見るとどうもいけません」と声をかけ歩き去ったが、その背中をレイラは熱の篭った目で見つめていた。
○激戦の地雷原
補給に使われていた幹線道路はアスファルトに所々亀裂が走っている以外は、静寂そのものといっても問題なかった‥‥いや、この場合、逆にその静寂さが不気味さを煽っているともいえる。
「動く対人地雷って厄介ですね‥‥」
研究所の片隅に放置されていた、競合地域から回収し補修した銃火器による掃射が行われているのだが、肝心のミーナは一向に姿を現さない。
「っと、予定通りコイツを叩き込んでみる‥‥か」
文字通り巨大な戦車に巨人の胴体を植え付けたような機体、T−96の主砲は粘着榴弾を装填、ズドンッと砲声を響かせ着弾点周辺の地面を吹き飛ばした。
「弾道修正、目標直接照準、集弾率も問題は無い‥‥仕掛ける!」
「ちょっ、急にぶっ放すなよ!」
肩の上、即ち砲身の真横に座っていた紅月が耳を押さえながら悲鳴のような抗議の声を上げるが、我関せずとばかりに次弾を装填し‥‥
「よっちーちょいまち! 俺の煩悩力は敵の位置が‥‥察知可能だ!」
「そうか、ではどこだ?」
その問いに紅月は、んー、と付近を睨んでいたが。
「あそこだ、前方50メートルの丘陵のし、つぁぁ!」
耳元で再び鳴り響いた轟音は砲兵用のヘッドセット越しでも鼓膜を振るわせる。
「てぇ〜、畜生、後で覚えてろよ‥‥つ〜か、間違えたかな?」
確かに掘り返した地面にはミーナの死骸も混ざっているようだったが明らかに数が少ない上に形が残っているものが多い、どうも直撃というよりは破片と爆風にやられたという感じだ。
「ちょっと〜、最新鋭機で遊ばないでよねぇ〜!」
メカフェチの気がある紫藤がリンドヴルムの機嫌を伺いながら抗議の声を上げる。
「そうね、遊んでる場合じゃないみたいよ」
クロラが武器を構え、他の者もそれに習う。
「さぁ来い‥‥出てきた奴から潰してやる!」
「やれるものならやって見やがれ!」と言ったかは分からないが付近の地面から次々とウミウシ、いや、ミーナが這い出てきた。
「これは、こんな状況になるまで気がつけないなんて‥‥たっぷり弾薬を持ってきてよかった」
レールズも地面から大量に湧き出してくるミーナを確実に処理しながら呟く。
「くそっ、まったくダメージは食らわんがこんなデカブツでは」
撃てば仲間に当たるというジレンマのなか待ってましたとばかりに肩に乗った友人からの無線連絡が入る。
「知らなかったか? 戦車ってのは現地改修を繰り返しながら強くなるのさ!」
ズドドドッと当初は搭載されていなかった車積の重機関銃を紅月が友軍の周囲にばら撒き、押し寄せようとしていたミーナの群れを食い止める。
「ドラグーン‥‥ナイスショット!」
フルスイングではなった一撃はミーナを空中高く舞い上げ‥‥ぎりぎり息のある個体を研究所の方向に打ち込んだ。
「あっ、やばっ!」
飛ばされた個体は空中で体勢を整え着地の衝撃に備えようとしていたが‥‥次の瞬間には矢に体を貫かれ絶命していた。
「鈍い、鈍すぎる‥‥いい的です」
レッドグレイブが長弓からスナイパーライフルに持ち替え研究所の敷地内へ忍び込もうとしていたミーナを貫くが、どうしても死角が存在してしまう。
「おっと、あまいよ」
ハンドガンの一撃で絶命するミーナに高坂は呟いたが、全体を見て眉をひそめた。
「数が‥‥」
戦闘を行っているミーナが約20、こちらに向かってきていたのが約6‥‥圧倒的に足りないのだ。
そして、その事実に気がついたのは彼だけではなかった。
「んー、数が足りませんね、やはりまだ相当数潜っていると見て間違いないでしょうか‥‥」
レールズは周囲を油断なく警戒していたが、ふと、露出しているミーナのなかで一箇所だけ、他と動きが違う連中がいた。
「まさか‥‥いえ、試してみるか‥‥」
呟き、T−96の中の夜十字に一言告げる、ただ直感的に「アレを狙え」と‥‥
そして、その小集団が吹き飛ばされた時、何もが変わった。
「‥‥急に力が?」
エリクがいぶかしげに周囲のミーナに視線をさまよわせるが、彼等は急に戦う意志をなくしたかのように、次々と地上に現れては散発的な攻撃をし始めたのである。
そして、集団としての統率力を失い、さらには地下に潜るということさえ止めてしまったミーナに、傭兵達が遅れをとるはずもなかった‥‥
○戦闘終了、格納庫にて‥‥
「班長〜、キャタピラにこびりついた死体が取れないんですけど?」
戦闘後の整備に当たっていた件の女性職員が泣き言のようなことを言うが、無理もない、彼女たちは整備兵ではなく研究員なのだ。
「‥‥てつだおう」
そう、言って声をかけたのはエリクだった。
「ほぉ、同志よ、若いのに関心じゃないか」
所長に声をかけられて、エリクは頷き、整備の手ほどきを受けたい旨を伝えた。
「息子も共に戦ったあんたの手なら安心だろ、しっかりしてやってくれよ」
「‥‥すまない」
「それで?」
「直感‥‥といったところだよ、時には冒険も必要かな?」
夜十字に指揮官を見破った理由を聞かれレールズはそう答えた。
「直感ねぇ‥‥」
高坂にそう苦笑され、話を続けようとした時、ニョキッと闇の中から腕が伸びた。
「俺、この戦闘が終わったらお前の墓参りに行くことにしてたんだ」
「そうか、いっぺん‥‥」
急に現れた紅月と仲のよさそうな二人を横目に見ながらレールズと高坂は所長に渡す意見書を纏めていた。
値段か性能か? ソレがこの研究所の課題になっていくのは間違いないだろう‥‥
「そうですねぇ、そこで彼女が「Tー96、キミに魂があるなら負け犬じゃないって証明して!」と、後は一方的でしたね 金髪の戦乙女が舞っているようでした」
誇らしげに武勲をかたるレッドグレイブの側には三人の女性が立っていた。
即ちレイラ、フロリア、望である。
「そ、そんなぁ‥‥」と照れる望に興味なさ気のフロリア、そしてレッドグレイブに熱い視線を送るレイラと三者三様であった。
「ありがとう、よく頑張ってくれたな」
呟き、装甲をなでる彼女の手には要塞型KVと書かれた意見書が握られていた。