タイトル:再戦、リクウシの恐怖マスター:剣崎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/15 00:22

●オープニング本文


「んー、気持ちいいっ!」
 晴れ渡る青空の下をUPC軍籍の車列が移動していく。
「前線っても平和なもんねー」
 外の風景を眺めながら呟いたのはなにを隠そう、着任して半年もたっていないのにもかかわらず師団司令部にまで名前が知れ渡ったベアトリス・クラヴェリ少尉その人だった‥‥もっともいい形で、というわけではなかったが‥‥
「まだ競合地域まで数10キロ近くありますよ‥‥」
 軍曹がため息をつき、小隊のメンバーが忍び笑いを漏らす。
 軍に入隊してからの期間をほとんど前線で過ごしてきた軍曹や、開戦から指揮を執っていた大尉と違い、自軍勢力内での小規模な掃討作戦のような作戦を行ってきたベアトリス少尉にとって最前線は未知の領域であるのだが‥‥彼女は怯えるどころかウキウキとはしゃぎ、まるで遠足に向かう少女のように車体に設置された小窓から外を眺めていた。
「っと、なになにー着いたの?」
 ベアトリスが運転をしていた隊員に訪ねるが、隊員も状況を把握しきっていないようで肩を竦めて答える。
「さぁ? 前方車両が停車したんですが、無線も要領を得なくって‥‥」
「少尉」
 なにー? と振り返ったベアトリスに軍曹が小銃を投げ渡した。
「護衛の戦闘車両が随分慌ててる、なにかあったみたいです」
 軍曹のその言葉に先ほど自分が覗いていた小窓から外を見渡すと、確かに周りを囲んでいた装甲車が慌しく前方に向かって走り去る。
「や、ヤバイの?」
 さすがに不安そうな表情で辺りを見渡してから車内に視線を戻すと、部下達は完全に戦闘体制を整えていた。
「確かに着いてたのかもしれませんね‥‥ここは前線だ」
 軍曹の発した言葉にもう一度外に視線を向けると地面から無数の何かが這い出してきていた。
「少尉っ!」
「そ、総員降車! その後は各自の判断での発砲、ちょっと!友軍に注意してよ!!」
 飛び出した部下が出口付近の隊員が下に向けて乱射しているように、少なくともベアトリスからは見えた。
「こいつらそこら中から沸いてきます!」
 悲鳴に近いその声に装甲車の爆発音がかぶる。
「まさか‥‥」
 周囲の惨状に躊躇していた部下を押しのけベアトリスが飛び降りると、そこには忘れようも無い一群が人類に対し攻撃を行っていた。

「諸君、大規模作戦で慌しい中よく来てくれた」
 依頼を受けスペインの基地に到着した傭兵達を、完全武装の一個中隊が出迎えた。
「我が隊の先発として出発した輸送部隊が現在、ミーナと呼ばれるキメラの攻撃を受け立ち往生している」
 状況を説明する指揮官、クラヴェリ大尉には明らかに焦りの色が見え隠れしていた。
「我々もすぐに向かうが、この人数を輸送できる手段となるとどうしても足が遅い‥‥だが幸い車両部隊が高機動車を貸してくれるそうだ」
 だが、台数が少ない、大尉は無言でそう告げていた。
「君たちはすぐに現地に向かって欲しい、我々も出来るだけ早く合流するつもりだが‥‥これ以上の支援は期待せんで欲しい」
 それだけ言うと日本人のように深々と頭を下げた。
「娘‥‥いや部下達をよろしく頼む」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
千光寺 巴(ga1247
17歳・♀・FT
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN

●リプレイ本文

○奇襲戦術!
「落ち着いて! もう、落ち着いてったら!!」
 クラヴェリ少尉はフランス製の自動小銃を振り回し、大声を張り上げていたが途切れない銃声と怒号にかき消され、彼女を守るように布陣している軍曹と分隊員でもほとんど聞き取れない状態だった。
「落ち着いてって言ってるでしょ!」
 ヒステリーを起こしかけているように叫ぶ少尉の肩に背後から手が置かれた。
「お久しぶりです、大尉殿から頼まれまして」
 戦場には不釣合いに微笑む、その男に彼女は見覚えがあった。
「ほ、ホアキンさん?」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)の背後にも見慣れない人影がいくつも立っていたが、ひと目で傭兵と見て取れた。
「此処の指揮官はあなたか‥‥ありったけの声で号令を掛けてくれ、皆を速やかに撤収させて欲しい」
 白鐘剣一郎(ga0184)の提案に少尉はふるふると首を振った。
 軍人とはいえ乱戦状態のうえに極度に混乱した人間の群れを御するのは経験の浅い少尉には多少荷が重いかもしれない。
「無論、俺たちも協力する」
 その喋り方と、腰の得物を見比べていた少尉はハッ、と我に返ったように。
「ぎょ、御意」
 と返事を返し、傭兵たちに一瞬彼女の本領を見せ付けた。
「前のほうで車両が燃えてるけどなにかあったのかしら?」
 呆けたように(もっとも彼女と何度か仕事をこなしているホアキンだけは失笑を浮かべていたが‥‥)固まった傭兵たちの中で緋室 神音(ga3576)が口を開いた。
「電撃が燃料タンクに引火して、爆発したって言ってたけど‥‥」
 よく見ると付近の車両も何台かは同じように火を噴いている、破片を撒き散らす本物地雷との違いかも知れなかった。
「どうしてリクウシはこのあたりを攻撃してこないんです?」
 千光寺 巴(ga1247)が付近を警戒しながら訪ねると、少尉も今気がついたといった感じで周囲に視線をめぐらせた。
「そういえば‥‥最初はこれでもか! って向かってきてたのに?」
 きょろきょろと周辺を見渡し、首をひねるがとにかく後方に敵がいないというのは朗報だった。
 数人の傭兵が目を合わせ頷くと前方へ向かって走り出す。
「まずあっちに逃げて! 自動車の速度にはついてこられないはずです」
 乱戦状態の中で車両に取り付いたウミウシを処理していた隊員に声をかけ‥‥直後、瓜生 巴(ga5119)は身をかがめた。
「ちょ、危なっ!」
 振り返ったというより銃を振り回したと言ったほうが適切のような状態だったのだ。
「撃・つ・なって言ってるでしょ、ダァホ!」
 憑かれたように弾切れの自動小銃を振り回す新兵を地面に投げたおし、電撃に顔をしかめながらも車に張りついたミーナを素手で弾き飛ばす。
「文句は山ほどあるけど今はいいわ! とにかく乗りなさい! 早くっ!!」

○再戦! リクウシの恐怖
「総員乗車! 指揮車両を先頭に後退して!! 使用不能の車両は放棄します」
 傭兵の到着という情報が全員にいきわたったのに加え神無月 るな(ga9580)らの活躍により徐々に落ち着きを取り戻してきたタイミングで無線ごしに現場指揮官の号令が流れた。
「うふふ、生け作りにしてさしあげますわ」
 後退を始めた車両部隊になお、追いすがろうとしていたミーナが神無月の一撃を受けて絶命する。
 追撃を防ぐかのように布陣する傭兵に進撃路を封鎖された形になるミーナは数の優位を頼りに散発的な攻撃や、地中に待機していた別働隊による攻撃を繰り返してきていたが、どれも決定力を欠いていた。
「前回は指揮を執る個体がいたそうだが‥‥どれだ?」
「さぁ、勘だけどあの辺?‥‥だそうだ」
 そろそろ決着を‥‥と辺りを見渡しながらもらした白鐘の呟きにホアキンが肩をすくめながら答える。
「あの辺りを攻撃すればよろしいのですか?」
 力任せにツーハンドソードでミーナをなぎ払いながら千光寺が問う。
「そう‥‥なら話は簡単かもね」
 単体では勝ち目が薄いと見たのか一点に集中を始めたミーナを一瞥し優(ga8480)が愛刀を構えなおした。
「そうね、反撃開始と行きましょうか」
 アズメリア・カンス(ga8233)の一声をうけ一点に集中するような形で傭兵達がミーナの群れに切り込んだ。
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影『ミラージュブレイド』」
 一番槍で繰り出されたその一撃は横陣を敷き防御体制をとっていたミーナを嵐の前の落ち葉よろしく吹き飛ばし、後続の傭兵の進路を文字通り切り開いた。
「道をあけなさい!」
「貴方たちのお相手はこっち、1匹たりとも逃がしはしないわよぉ〜」
 厚く狭く、数に頼った濃密な防御陣形は傭兵たちの前に徐々に、ではあるが確実に切り開かれていく。
「少ない戦力で分厚い防御陣形を引けばその奥に重要なものがあると敵に教えるようなもの‥‥所詮はこの程度、ラッキーは稀代の戦術家だったわけか」
「どうしても邪魔したいみたいだけど‥‥いい加減しつこいのよ!」
 初撃で吹き飛ばされていたミーナの生存体やミーナ側の予備兵力(?)も少しでも防衛線を強化せんと合流し百年戦争もかくやという激しい戦いが両陣営の間で繰り広げられる。
「行ってください!」
 乱戦のさなか偶然的にではあったがいち早く戦線を突破した千光寺が最後の一陣にとりつき、すぐ後方にいた白鐘に叫んだ。
「すまん! 例え軟体であろうとも穿つは一点! 天都神影流・狼牙閃っ!!」
 その一撃は群の後方で体を丸め、まるで何かに怯えるように震えていたミーナを正確に貫きミーナの指揮系統を完全に崩壊させた‥‥

○嵐過ぎし後
「いやぁ、災難だったわ」
 あはははっ、と無邪気に笑うベアトリスに苦笑を返しつつ白鐘は口を開いた。
「一つ聞きたいんだが」
「ん〜?」
 なになに? とジェスチャーつきで聞き耳を立てる少尉殿から視線をはずし、死体の山を指差す。
「どうやって敵の指揮官を見分けた?」
「んー、あの子が一番可愛かったから‥‥かな?」
 手をパタパタとふり、なんというか勘よ、勘! と続けるベアトリスにさしもの白鐘もため息をついた。

「やぁ、軍曹」
 死体を回収していた軍曹に咥え煙草の男が声をかけた。
「作戦前にと思ったんだがね‥‥ストラップは愛用してるかい?」
 軍曹は男、いやホアキンに「自分のお守りですよ」と認識票を引き出して見せた。 

「‥‥ってわけで誤射の危険だってあるんだから絶対に銃口は向けない、逆に撃たれたいんなら止めないけど」
 瓜生はさきほど、自分を射殺しようとした一等兵に注意を行っていた。
「す、すみません!」
 最初は千光寺が「まぁまぁ、そのあたりで‥‥」と瓜生をなだめていたのだが、他の隊員から「写真お願いします!」とひっぱられていってしまっている。
「もうそろそろ許してさしあげればいいのに‥‥」
「なんだかんだ言ってけっこう気に入ってるんじゃない? 興味もない人間にあそこまで怒らないわ」
 神無月のため息混じりのひとり言に緋室が答えた。
「そういうものでしょうか?」
「そういうものよ」
 うんうんと一人満足げに頷く緋室に神無月は首を傾げてみせる。
「まぁ、色恋とかいう次元じゃなくてもあの新米君の今後の為にはいいわね」
 アズメリアも肩を竦めながら呟き、ベアトリス隊の装甲車に腰掛け興味なさ気に天を仰いだ。
「とりあえず‥‥」
 わかったような分からないような顔をしていた神無月だったが、ふと自分の体液まみれという惨状を見回しポツリと呟いた。
「べとべとして気持ち悪いです‥‥帰ったらシャワーですね」