●リプレイ本文
○奇襲戦術!
「落ち着いて! もう、落ち着いてったら!!」
クラヴェリ少尉はフランス製の自動小銃を振り回し、大声を張り上げていたが途切れない銃声と怒号にかき消され、彼女を守るように布陣している軍曹と分隊員でもほとんど聞き取れない状態だった。
「落ち着いてって言ってるでしょ!」
ヒステリーを起こしかけているように叫ぶ少尉の肩に背後から手が置かれた。
「お久しぶりです、大尉殿から頼まれまして」
戦場には不釣合いに微笑む、その男に彼女は見覚えがあった。
「ほ、ホアキンさん?」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)の背後にも見慣れない人影がいくつも立っていたが、ひと目で傭兵と見て取れた。
「此処の指揮官はあなたか‥‥ありったけの声で号令を掛けてくれ、皆を速やかに撤収させて欲しい」
白鐘剣一郎(
ga0184)の提案に少尉はふるふると首を振った。
軍人とはいえ乱戦状態のうえに極度に混乱した人間の群れを御するのは経験の浅い少尉には多少荷が重いかもしれない。
「無論、俺たちも協力する」
その喋り方と、腰の得物を見比べていた少尉はハッ、と我に返ったように。
「ぎょ、御意」
と返事を返し、傭兵たちに一瞬彼女の本領を見せ付けた。
「前のほうで車両が燃えてるけどなにかあったのかしら?」
呆けたように(もっとも彼女と何度か仕事をこなしているホアキンだけは失笑を浮かべていたが‥‥)固まった傭兵たちの中で緋室 神音(
ga3576)が口を開いた。
「電撃が燃料タンクに引火して、爆発したって言ってたけど‥‥」
よく見ると付近の車両も何台かは同じように火を噴いている、破片を撒き散らす本物地雷との違いかも知れなかった。
「どうしてリクウシはこのあたりを攻撃してこないんです?」
千光寺 巴(
ga1247)が付近を警戒しながら訪ねると、少尉も今気がついたといった感じで周囲に視線をめぐらせた。
「そういえば‥‥最初はこれでもか! って向かってきてたのに?」
きょろきょろと周辺を見渡し、首をひねるがとにかく後方に敵がいないというのは朗報だった。
数人の傭兵が目を合わせ頷くと前方へ向かって走り出す。
「まずあっちに逃げて! 自動車の速度にはついてこられないはずです」
乱戦状態の中で車両に取り付いたウミウシを処理していた隊員に声をかけ‥‥直後、瓜生 巴(
ga5119)は身をかがめた。
「ちょ、危なっ!」
振り返ったというより銃を振り回したと言ったほうが適切のような状態だったのだ。
「撃・つ・なって言ってるでしょ、ダァホ!」
憑かれたように弾切れの自動小銃を振り回す新兵を地面に投げたおし、電撃に顔をしかめながらも車に張りついたミーナを素手で弾き飛ばす。
「文句は山ほどあるけど今はいいわ! とにかく乗りなさい! 早くっ!!」
○再戦! リクウシの恐怖
「総員乗車! 指揮車両を先頭に後退して!! 使用不能の車両は放棄します」
傭兵の到着という情報が全員にいきわたったのに加え神無月 るな(
ga9580)らの活躍により徐々に落ち着きを取り戻してきたタイミングで無線ごしに現場指揮官の号令が流れた。
「うふふ、生け作りにしてさしあげますわ」
後退を始めた車両部隊になお、追いすがろうとしていたミーナが神無月の一撃を受けて絶命する。
追撃を防ぐかのように布陣する傭兵に進撃路を封鎖された形になるミーナは数の優位を頼りに散発的な攻撃や、地中に待機していた別働隊による攻撃を繰り返してきていたが、どれも決定力を欠いていた。
「前回は指揮を執る個体がいたそうだが‥‥どれだ?」
「さぁ、勘だけどあの辺?‥‥だそうだ」
そろそろ決着を‥‥と辺りを見渡しながらもらした白鐘の呟きにホアキンが肩をすくめながら答える。
「あの辺りを攻撃すればよろしいのですか?」
力任せにツーハンドソードでミーナをなぎ払いながら千光寺が問う。
「そう‥‥なら話は簡単かもね」
単体では勝ち目が薄いと見たのか一点に集中を始めたミーナを一瞥し優(
ga8480)が愛刀を構えなおした。
「そうね、反撃開始と行きましょうか」
アズメリア・カンス(
ga8233)の一声をうけ一点に集中するような形で傭兵達がミーナの群れに切り込んだ。
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影『ミラージュブレイド』」
一番槍で繰り出されたその一撃は横陣を敷き防御体制をとっていたミーナを嵐の前の落ち葉よろしく吹き飛ばし、後続の傭兵の進路を文字通り切り開いた。
「道をあけなさい!」
「貴方たちのお相手はこっち、1匹たりとも逃がしはしないわよぉ〜」
厚く狭く、数に頼った濃密な防御陣形は傭兵たちの前に徐々に、ではあるが確実に切り開かれていく。
「少ない戦力で分厚い防御陣形を引けばその奥に重要なものがあると敵に教えるようなもの‥‥所詮はこの程度、ラッキーは稀代の戦術家だったわけか」
「どうしても邪魔したいみたいだけど‥‥いい加減しつこいのよ!」
初撃で吹き飛ばされていたミーナの生存体やミーナ側の予備兵力(?)も少しでも防衛線を強化せんと合流し百年戦争もかくやという激しい戦いが両陣営の間で繰り広げられる。
「行ってください!」
乱戦のさなか偶然的にではあったがいち早く戦線を突破した千光寺が最後の一陣にとりつき、すぐ後方にいた白鐘に叫んだ。
「すまん! 例え軟体であろうとも穿つは一点! 天都神影流・狼牙閃っ!!」
その一撃は群の後方で体を丸め、まるで何かに怯えるように震えていたミーナを正確に貫きミーナの指揮系統を完全に崩壊させた‥‥
○嵐過ぎし後
「いやぁ、災難だったわ」
あはははっ、と無邪気に笑うベアトリスに苦笑を返しつつ白鐘は口を開いた。
「一つ聞きたいんだが」
「ん〜?」
なになに? とジェスチャーつきで聞き耳を立てる少尉殿から視線をはずし、死体の山を指差す。
「どうやって敵の指揮官を見分けた?」
「んー、あの子が一番可愛かったから‥‥かな?」
手をパタパタとふり、なんというか勘よ、勘! と続けるベアトリスにさしもの白鐘もため息をついた。
「やぁ、軍曹」
死体を回収していた軍曹に咥え煙草の男が声をかけた。
「作戦前にと思ったんだがね‥‥ストラップは愛用してるかい?」
軍曹は男、いやホアキンに「自分のお守りですよ」と認識票を引き出して見せた。
「‥‥ってわけで誤射の危険だってあるんだから絶対に銃口は向けない、逆に撃たれたいんなら止めないけど」
瓜生はさきほど、自分を射殺しようとした一等兵に注意を行っていた。
「す、すみません!」
最初は千光寺が「まぁまぁ、そのあたりで‥‥」と瓜生をなだめていたのだが、他の隊員から「写真お願いします!」とひっぱられていってしまっている。
「もうそろそろ許してさしあげればいいのに‥‥」
「なんだかんだ言ってけっこう気に入ってるんじゃない? 興味もない人間にあそこまで怒らないわ」
神無月のため息混じりのひとり言に緋室が答えた。
「そういうものでしょうか?」
「そういうものよ」
うんうんと一人満足げに頷く緋室に神無月は首を傾げてみせる。
「まぁ、色恋とかいう次元じゃなくてもあの新米君の今後の為にはいいわね」
アズメリアも肩を竦めながら呟き、ベアトリス隊の装甲車に腰掛け興味なさ気に天を仰いだ。
「とりあえず‥‥」
わかったような分からないような顔をしていた神無月だったが、ふと自分の体液まみれという惨状を見回しポツリと呟いた。
「べとべとして気持ち悪いです‥‥帰ったらシャワーですね」