タイトル:『天使』の舞い降りた町マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/03 01:12

●オープニング本文


●死の微笑み
 欧州で暮らす人々が、心待ちにする日が近付いていた。
 例え競合地域にあり、バグアやキメラの襲撃に怯える日々が続く街でも、変わりはない。
 12月25日、クリスマス。
 キリストの生誕を祝う準備をしながら人々はその日が来る事を指折り数え、そして祈りを捧げる。
 ‥‥どうか、今年は平穏なクリスマスとなりますように。
 一日も早くバグアの脅威が去り、怯える日々から解放されますように、と。

「あれ‥‥天使様?」
 スペイン中部の山岳地にある、小さな町。競合地域で、日々バグアの襲撃に怯えるその町で、ソレに最初に気付いたのは、窓から外を見上げた子供だった。
 夜になると人々は光を外に漏らす事を控え、外は暗い。
 明るく月が輝く夜空の下、屋根の上に白い人影が見える。
 白い肌と、金色の髪。白いローブのような衣に身を包み、その背中からは蜻蛉(カゲロウ)のように長くて薄い、一対の羽が伸びている。
 なにより、屋根から町を見下ろすその表情は、とても優しく柔らかな笑みをたたえていて‥‥。
「お父さんお母さん、見て見て! 天使様が、いらっしゃったの!」
 窓からはなれると、少女は急いで両親を呼びに行く。幼い娘の言葉に半信半疑の大人達は、屋根の上の人影に驚き、思わず指を組んで跪いた。
 その姿に気付いた他の家々でも同様に、人々が窓辺で、あるいは外へ飛び出して平伏する。
 そんな人々へ微笑む『天使』は、すらりと腕を伸ばし。
 その手より、淡く光る玉を、放った。

●廃墟の町へ
 UPC本部の斡旋所にあるモニターには、今日も世界で起きる数々の『事件』内容が表示される。
 そのモニター群にまた一つ、新着の『事件』が加わった。
『スペイン中部の町が、キメラによって襲撃された模様。至急現地へ赴き、キメラの排除を請う。情報の仔細については、オペレータに確認する事‥‥』

「連絡は、電話であったらしいんです。よっぽど動転していたのか、要領を得なかったそうですだけど‥‥ただ、『天使が襲ってきた』って」
 カウンターの担当オペレータは、困った表情でモニターをつつく。
『襲撃』された町から最も近い隣町へ、助けを求める電話が入ったのは、真夜中というには少し早い時間帯。電話の内容は『天使が襲ってきた』というもので、状況を詳しく聞く前に通話が切れてしまった。
 不審に思った隣町の者達は夜が明けるのを待ち、朝一番に車で問題の町へと向かう。
 彼らが到着した時、そこは既に死の町と化していた。
 ただ不思議な事に、町の建物には全く破壊の痕跡がなく『無傷』であった。にも関わらず、家の中で息絶えた者がいた事だ。
 あまりの異常事態に驚いた者達は、すぐさま自分達の町へ取って返し、UPCへと通報したのだった。
「判っているのは、キメラと思われる敵が『天使』である事。建物に危害を加えず貫通する、何らかの力を持っていて、それで人々を死に至らしめた事。近隣の町には、まだ『天使』が現れていない事の、三つ。キメラはまだ被害のあった町の近くにいるか、助けを求める電話を受けた隣町に現れると推測されます。
 急ぎ現地へ飛んで、これの撃退を願います‥‥例え、相手が『天使』であっても」
 緊張気味に、オペレーターはそう伝えた。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
天上院・ロンド(ga0185
20歳・♂・SN
キーラン・ジェラルディ(ga0477
26歳・♂・SN
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
フォーカス・レミントン(ga2414
42歳・♂・SN
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
ルシフェル・ヴァティス(ga5140
23歳・♂・EL

●リプレイ本文

●抱く思い
「『天使』に襲われたって‥‥相手はキメラ、なんですよね?」
 眉根を寄せるルシフェル・ヴァティス(ga5140)に、座席の背へもたれたキーラン・ジェラルディ(ga0477)が頷いた。
「UPCに報告が来て、俺達へ依頼が来た以上、そうでしょう。実際、被害も出ていますし。しかし‥‥この時期に『天使』とは、随分と趣味が宜しいようですが」
 皮肉めかすキーランだが、声色には苦々しさが滲み出ている。抱く憤りは、天上院・ロンド(ga0185)も変わりなく。
「もうすぐクリスマスだというのに、暗い話ばかりで気が滅入りますね‥‥まったく。キメラに殺害された方々も、心待ちにしていたでしょうに‥‥許せません」
 クリスマスまで、あと数日。
 誰もがその日を、指折り数えて楽しみにしていた筈なのだ。
「人々は『天使』に襲われた時、何を思ったのかしら。希望から‥‥絶望に突き落とされて、神さえも呪ったかもしれない‥‥」
 呟きながらロッテ・ヴァステル(ga0066)が差し出す暗視ゴーグルを、ロンドが一礼してから受け取る。
「天使は天使でも、バグアが作り出したキメラです。天使の姿をしただけの‥‥むしろ、悪魔でしょう。容赦はしません‥‥ゴーグル、有難くお借りしますね」
「ま、天使にやられるのも、天使をやるのも、周りからすれば納得いかないだろうが」
 口髭を撫でながら、フォーカス・レミントン(ga2414)が思案した。
「でも、その町にあった沢山の幸せを思うと、何者の仕業でも許せません‥‥何としても、次の犠牲者となりかねない人達を、絶対に守り抜かないと」
 ゆっくりと左右に首を振り、決意を新たにする流 星之丞(ga1928)にフォーカスは「ああ」と賛同の意を示す。
「だが、この時期にそういう印象を与えるキメラが出るって事は、そう意識付けるために‥‥だろうか」
「バグアが、神様を気取ってるって事か?」
 セージ(ga3997)が肩を竦めれば、シャロン・エイヴァリー(ga1843)は瞳を伏せた。
「だとしても、怪物を真似るならともかく天使だなんて‥‥人間の心理を理解してやってるなら、絶対に許せないわね」
 静かに言葉を口にする彼女だが、祈るように組んだ指は関節が白くなるほどの強い力が込められている。
「これ以上、欧州の土地で好き勝手はさせないわ」
 現地へ飛ぶ高速移動艇の窓からは、雲海と冬の太陽が見えた。

 西へと陽が傾く中、八人は『襲撃』のあった町の近郊へと降り立った。
 一行を降ろした高速移動艇はすぐさま上昇し、危険空域から離脱する。それを見送った者達は、行く手に見える建物群へと足を向け。
 夜の帳が下りる頃、明かり一つない、ゴーストタウンと化した町へと辿り着いた。

●『天使』と呼ばれたモノを追って
「それでは、町の方はお願いします。こちらもターゲットを見つけ次第、連絡しますので」
 手にした通信機を示すキーランへ、ルシフェルは頷いて了解の意を示した。
「気をつけて下さいね」
「よほどの状況でない限り、正体不明の相手に無理はしないつもりです。そちらも‥‥」
 気遣うセージにシャロンが「ええ」と首を縦に振り、肩口から落ちた金髪をかき上げた。
「そろそろ行きますね。運転、大丈夫です?」
 ロンドが声をかければ、運転席に座ったロッテがぽんとハンドルを叩く。
「ええ、任せて」
 到着までに話し合った『作戦』で、キーランとセージ、そしてロンドとロッテは先に車で隣町へと向かう事となった。キメラが次の標的に、一番近い隣町を狙う可能性を考慮しての別行動だ。一方、残る四人−−シャロンとフォーカス、星之丞とルシフェルは町でキメラの手がかりを探してから、先行する者達の後を追う予定となっている。
「気をつけて下さい。何か判ったら、すぐ連絡しますから」
 星之丞の声に軽く片手をあげて、ロッテはアクセルを踏んだ。
 遠ざかるテールランプをフォーカスが見送り、それから仲間達へ目を向けた。
「じゃあ、こっちも仕事にかかるか」

 丸い明かりの輪が、動く者のない家の中を照らす。
 テーブルに置かれた皿や、キッチンで作りかけの料理。サイドテーブルで開かれた本や、床に散らばった玩具。生活の気配が今なお残る家々は、窓が割れたり、壁が崩され、穴が開くような物理的被害は、全くない。そして住んでいた人々も同様に、大きな外傷もないまま息絶えている。
「あ‥‥」
 注意深く歩を進めていた星之丞だが、足に何かが当たって小さく声をあげた。ライトを向ければ、床に落ちていたサッカーボールがころころと転がっていく。その先を追えば、白黒のボールはおそらく持ち主に当たって止まった。
「つい一昨日まで、幸せに暮らしていた場所なのに‥‥」
 老若男女を問わない惨状に、改めて星之丞は口唇を噛む。
「これ‥‥ベレンね」
 手を伸ばしたシャロンは、リビングに置かれた小さな人形−−キリスト生誕の場面を再現した、クリスマスの人形飾りの一つを指でなぞる。光の輪は、三賢者から白髭に赤帽子の人形を浮かび上がらせた。
「こっちはサンタの人形。ホントなら今頃‥‥」
 シャロンは瞑目して短く冥福の祈りを捧げる。
 死の静寂に、蝶つがいの軋む音が響く。
 扉へ目を向ければ、肩からアサルトライフルを提げたフォーカスが首を振った。
「確かに、人っ子一人生き残った様子はない。隣町の人達も、昨日の今日では遺体の埋葬にも手が回らなかったようだな」
「キメラが現れたばかりの場所ですから、仕方ないでしょうね」
 フォーカスと共に町を見て回ったルシフェルが、肩を落として深い息を吐く。それから再び顔を上げ、遺体を調べていた二人を見やった。
「ところで、そちらは何か判りましたか?」
「そうですね。どの遺体も、惨たらしい姿ではなかったというだけが‥‥妙であり、幸いという程度でしょうか」
 星之丞が口にした印象を聞いて、フォーカスは低く唸る。
「そっちもか」
「フォーカス達の方も?」
 怪訝な表情でシャロンが問い返せば、「はい」と眉根を寄せたルシフェルが答えた。
「建物が壊れていないのもそうですが、人も傷を負った様子がなくて。それから人だけでなく、犬や猫や‥‥家畜の類も、見境なく全て同じ様に死んでいました」
「おかしいだろう。何故、犬や猫まで殺す必要があったのか。殺した方法もわからないが、そこまでする理由も判らない」
「確かに‥‥」
 腕組みをして考え込むシャロンだが、生きる者のない町でなお規則正しく時を刻み続ける時計が目に入る。
「もう、行かないと追いつけないわね」
「現状で判っている情報を、向こうへ知らせておくか」
 別行動中の者達へ連絡を取る為に、フォーカスが通信機を取り出す。
 いま町に残っているのは、ここにいる四人だけ。残る者達は『天使』の発見と被害の拡散を防ぐ為に、隣の町へと向かっていた。
「車、お借りしますね」
 故人となった者へ星之丞が小さく断りを入れ、壁掛けのキーホルダーから車の鍵を取る。
 四人は足早に家を出ると、使う者のない自家用車へ乗り込んだ。
「遺体は斑紋もなく綺麗でしたから、ガスや細菌兵器を撒いたとも考えられません。となると、非物理攻撃を行なう手段を持っていると考えられます」
 エンジンをかける星之丞の後ろからルシフェルが推察を述べれば、ライフルのチャンバーへ弾丸を送り込んでからフォーカスは助手席に座る。
「つまり車に乗ってても、攻撃は食らうって事だな」
「向こうの攻撃範囲に入る前に、相手を見つけないといけないわね。万が一に備えて、後ろは注意してるわ。ね、ルシフェル」
「はい、任せて下さい」
 声をかけるシャロンに、ルシフェルは銀髪を揺らして頷いた。

 舗装されていない道に、轍を走る車は時おり左右へ振られる。
「はっきりと、キメラの能力が判った訳ではないそうですが‥‥」
 通信機を手にしたキーランが、襲撃された町に残った仲間からの情報を手短に伝えた。
 重要な情報は二点。死体の状況から、キメラは何らかの非物理攻撃の手段を持っているであろう事と、残った者達がキメラと遭遇していない事だ。
「これで隣町がまだ無事という点も合わせれば、問題の『天使』は夜行性という事になりますか。昼夜を問わず行動できるなら、隣町もとうに壊滅しているでしょうし」
「そうね。これ以上、被害を拡大させる訳にはいかないわ。『天使』らしき姿が見えたら、すぐに教えてね」
 隣の町へと走る車のハンドルは、ロッテが握っていた。
「判ってる。何とか、隣町につくまでに見つけないとな」
「それに戦いに向いた場所も、ですか」
 車のライトに照らされる光景に目を凝らしながらセージが答え、ロンドもまた敵の姿に加えて開けた場所を探す。山の中とはいえ、周りの風景は荒地に近く、見通しそのものは良好だ。
「キメラの移動手段は判りませんが、必ずしも道路に沿って移動していると言えないのが、難点ですね」
「『天使』なら、やっぱり羽根があって空を飛んでるのかもしれないな」
 セージが見上げた空は、一面の星と大きな月が浮かんでいる。赤い不気味なもう一つの『球体』は見えず、それだけで束の間、平和な空が戻ってきたような錯覚を覚えた。
 やがて山道を抜けた前方に、僅かだが人々の息吹を感じさせる暖かい明かりが見えてくる。
 隣町の無事を確認したロッテはハンドルを切り、車体をUターンさせてから前照灯を落とした。車が止まると、暗視ゴーグルを装着したキーランとロンドが車外に出て、警戒にあたる。

 やがて虫の声も聞こえぬ静かな夜の闇に、淡い光が一つ、浮かび上がった。
 ゆっくりゆらゆらと、光は蛍のようにしばし漂い。
 そして暖かい明かりに誘われるかの如く、町へ移動し始める。
 と同時に、銃声が響いた。

「どうやら、先行した連中がキメラと接触したようだ」
 連絡を聞いたフォーカスが告げれば、車内に緊張が走る。
「急ぎますね」
 星之丞はアクセルを踏み込み、四人を乗せた車はスピードを上げた。

●一夜の『悪夢』の終わり
 光へ向けて発砲したキーランは、スコープから顔を上げ、黒から昏い銀色へと変化した髪をかき上げて、喉の奥で唸った。
 隣でスナイパーライフルを構えたロンドも立ち上がり、目視で光を探す。
 肩口を狙った弾丸が着弾したと思った瞬間、標的は急に移動する速度を増して、視界から消えたのだ。
「あっちだ!」
 双眼鏡を片手に光を目で追っていたセージが、闇の一角を指差した。
 狙撃した場所から数十メートルほど離れた場所へ移動した光は、向きを変え。
 高速で向かってくる相手に、セージは照明銃を撃つ。
 身体の一部を失った『人影』は、光を受けても眩しさに怯む様子を見せず。
 標的とすれ違いざま、車を盾に身を隠したロッテは嘔吐感のようなものに襲われた。
「大丈夫ですか!?」
 ロンドが車へ走り寄り、声をかける。
 彼の目には、光に照らされたキメラが何か攻撃を仕掛けたようには見えなかった。しかしキメラが離脱した直後、見る間にロッテの顔色が悪くなったのだ。心配するロンドへ、彼女は左右に首を振って答える。
「ええ、何とか‥‥キメラは?」
 尋ねる彼女へ、セージは闇へ視線を向けた。
 その先を追うと、離れた場所に光点が見える。
「見た感じ、傷は負ったようだ」
「一撃で射落とせなかったのは、残念ですが」
 射程外まで離れたキメラを、キーランもまた油断なく目で追う。
 そこへ、別の方向から新たな二つの光が近付いてきた。
「どうやら、『パーティ』には間に合ったようだな」
 光は彼らの近くで止まると、その向こうからフォーカスが近付いてくる。彼に続いて、他の三人も車から降りて駆け寄った。
「状況は?」
 シャロンの問いに、ロンドは漂う光点へ顎をしゃくる。
「残念ですが、初撃では落とすに至ってはいません。こちらは、ロッテさんが‥‥」
「私なら、問題ないわ」
 ロンドの言葉を遮って、ロッテが運転席より立ち上がった。
「例の、非物理攻撃ですか」
 問いを重ねるルシフェルへ、曖昧ながらも彼女は首を振った。
「はっきり判らないけど、おそらくはね。それより、ここで倒して人々の無念に報わなければ」
「離脱する様子がないところを見ると‥‥退く気は、なさそうですね」
 動きを警戒するセージに倣い、星之丞もまた光点へ目をやった。
「奴の羽は鳥の翼ではなく、虫のソレに近いようです。急に素早く動く事もありますので、気をつけて」
「了解」
 最初の接触から得た情報からアドバイスをするキーランに、短くフォーカスが返事をした。

 暗闇を裂いて、光球が天へ上がった。
 光の下、再び銃声が響く。
 ロンドが覗くスコープの中で、透明に近い薄羽が引き千切られるように四散するのが見えた。
「標的、落ちました!」
 キーランが声を張り上げて知らせれば、直接攻撃に出る者達は『臨戦態勢』に入る。
「我は世界と共に在り、世界は我と共に在る」
 セージは呪文の様に小さく呟いて、『覚醒』し。
「俺の『無神流』は、神に抗いし人の流派。天使に遅れを取るワケにはいかねぇな」
 気合を入れる彼の背に、フォーカスがやれやれと肩を竦めた。
「考えすぎだ。もともと、天使なんて見える存在ではないし、あれは‥‥バグアが作り出した、キメラだ。忘れるな」

 明かりの下で見たソレは異形の怪物と違って、限りなく『人』に近い。
 だが、その顔に浮かんだ柔らかな女性を思わせる微笑は、僅かに変わる事もなく。それが逆に、不気味さを漂わせていた。
「この‥‥っ!」
 ソレが身を起こすより先んじた星之丞が、両手で掲げたツーハンドソードを深々と突き立てる。
 その直後、身体の芯を乱されるような不快な感覚が、全身を襲う。
 動きの鈍った星之丞の前に、ルシフェルが立った。
「動けますかっ?」
「すみません‥‥平気です」
 彼の答えれば肩越しにルシフェルは笑み、ロングスピアを構えてキメラを見据える。
「実戦で使うのは、初めてなんだから‥‥手加減きかないわよっ!」
 強い光の為か視認できない二撃目をものともせず、炎のような赤いオーラを纏ったシャロンがヴィアを振るう。
 長剣は、伸ばした腕を切り裂き。
 ファングの爪をロッテが深々と突き刺して、肉を抉る。
 止めに、セージの刀がキメラの首を刎ね。
 地面に落ちて転がった顔には、なおも微笑が張り付いていた。

「キメラは、一体だけか」
「そのようです」
 警戒を緩めず周囲を見回すフォーカスへ、短くキーランが答えた。
「隣町へ安全を伝えて‥‥念のために警戒を続けながら、犠牲者の埋葬、手伝いましょうか」
 提案するシャロンの手から、青白い覚醒の光が消えていく。彼女の意見に、ロッテもまた同意した。
「再び生まれ来る時は、穏やかな聖夜を迎えられると‥‥いいわね」
 車のヘッドライトに照らされるキメラへ目をやった星之丞には、胴に突き立った両手剣がまるで墓標の十字架のように見え。
 彼は無言で、それを引き抜いた。