タイトル:【RR】無人機掃討マスター:風華弓弦

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/15 20:42

●オープニング本文


●動く要塞
 12月。UPCはロシアのバグアに対して、気のない降伏勧告を行いつつ、戦闘の準備を進めていた。
 度重なる撤退機会にも関わらず、いまだにこの地に残留する敵については、座視すべき状況ではないとUPCは判断。
 人類側の冬季攻勢を予期せず、春を待って方針を決めようとしていたバグア側に対して、人類側は南北から攻撃を開始する――。

 ――陸上戦艦。
 最大の大陸であるユーラシアでは、これまで複数の存在が確認されている。ギガワームと比して速度が遅く、展開力に難があるものの艦載戦力は同等、打撃力に関してはあるいは上回るやもしれない戦略兵器だ。
 ロシア方面で確認された陸上戦艦は、広範囲の通信妨害、アグリッパによる対空能力と多数の無人ヘルメットワームによる極めて強固な防空能力を特徴としていた。
 無人機とはいえ、喪失を恐れぬ連携は人類側エースにすら被弾、消耗を強いる。
 その対処にあたっている際に強力な対空ミサイルに狙われ、寒空に散った人類側機は少なくはなかった。
 UPCはこの難敵に対し、本星崩壊後に数度の降伏勧告を送ったが、返答はない。
 RR作戦決行に当たり、ロシア軍は正面から攻撃を行うことを決定した。
 空戦部隊が無人ヘルメットワームを陸上戦艦に近づきすぎないように引き付け、別働隊による爆撃を行い敵艦の能力を奪う第一段階が今回の依頼となる。
 その後に強襲部隊を送り込み、KVによる白兵戦でとどめを刺すという作戦だ。
 多数のKVおよび支援部隊、爆撃部隊がその為に移動を開始しつつあった。

●オレンブルク近郊にて
「戦況は」
 苛立たしさが募る中、司令室に戻った緒方は席に座らずに問う。
「はっ! 現在敵陸上戦艦の場所がほぼ確定し空撃作戦を展開する予定であります」
 地図はカザフスタンの北西部に目印がついていた。
「ふむ‥‥氷のベールが掃われ始めたか」
 既に作戦を開始してから1月近くたっており、次々と奇襲作戦の結果が形になってきたころでもある。思わず頬の筋肉が緩んだ。報告によれば自分たちはその中でも大きな当りを引いたようだ。
「しかし、周りにはレーダーに反応するモノも見られ」
 上官に対しての敬礼を崩さぬままも、声は小さくなる。
「多数か」
 この近辺ではまだ何が隠れているかわかっていない。そんな中の作戦に不安がよぎるのだろう。
「数の把握はできておりません」
「――空撃隊準備! 直ちに敵戦力を削ぎつつ大型陸上戦艦を攻撃する。各部隊戦闘配置。応援を要請しろ」

●空撃乱舞
「だから、なんで‥‥ただでさえ冬で寒いってのに、よりによってロシアで動き回る羽目になるんだ」
 過去、多くの能力者達が口にしてきたであろう愚痴を、誰かが呟いた。
「春まで待てば、残存バグアの動きも活発になるだろうからな。どこぞの害虫だって、冬の時期に寒さで一箇所に集まったところを駆除するだろ」
「害虫‥‥バグアだけに、虫‥‥」
「誰か、いま下らない事を言った奴を雪に埋めてこい。ただでさえ寒いってのに、これ以上の寒さは御免だ」
 八つ当たり的な放言に、乾いた笑いがブリーフィング・ルームのあちこちで起きる。
 そこへロシア軍の指揮官が軽く咳払いをし、適度に緩んだ空気を引き締めた。
「さて、本題だが。今回のメインディッシュとなる大型陸上戦艦の周辺には、多数のHWが展開している。諸君らの任務は護衛である100機程度のHW群を掃討し、本命へのアプローチをかけやすくする事だ」
 早い話が露払い、過去の戦いの中で何度も行われてきた任務だ。
 地上で、あるいは空を越えた宇宙にまで駆け上り、数々の戦線を乗り越えてきた傭兵達には『比較的容易な仕事』とも取れる。
 それでもロシア軍人は「だが」と、硬い口調で先を続けた。
「ただの無人機の集団と、油断するなよ。強化人間やバグアが直接の指揮を取っていなくても、戦闘経験を重ねているという事は、言い換えれば状況に対しての判断材料を多く蓄積している事に他ならないからな。加えて空の相手ばかり気にしていると、下からロクでもない対空ミサイルが飛んでくる。そちらを黙らせるのは同時に展開する別働隊の仕事だが、バグアの辞書に『分別』などないだろうからな」
 死線を潜り抜けた命を、今さら危険に曝す事はない。
 それでも、くすぶり続けるバグアの脅威を潰すために‥‥戦う意志をUPCは募る。
 あと幾たび愛機と空を舞い、湧き立つ血を焦がして地を駆ける事が出来るだろうか、と。
 そんな詮無い事を考えながら傭兵達は寒風に身を震わせ、急ぎ足でKVへ向かった。

●参加者一覧

/ 鏑木 硯(ga0280) / ケイ・リヒャルト(ga0598) / シャロン・エイヴァリー(ga1843) / 赤崎羽矢子(gb2140) / ソーニャ(gb5824) / 美具・ザム・ツバイ(gc0857) / クローカ・ルイシコフ(gc7747

●リプレイ本文

●凍て果てた時間へ
「寒っ‥‥!」
 どこかの隙間から吹き込んできた冷たい風に、思わず鏑木 硯(ga0280)が身を竦めた。
「だって、ロシアだものね‥‥」
「ロシアじゃあ、ねぇ」
 どこか達観したようにシャロン・エイヴァリー(ga1843)と赤崎羽矢子(gb2140)は腕組みをして互いに頷き合い、くすくすとケイ・リヒャルト(ga0598)が忍び笑う。
「冗談は抜きで、ロシアの冬はきついからな」
 その事を誰より理解しているクローカ・ルイシコフ(gc7747)は、格納庫で飛び立つ時を待つPT−100ラスヴィエートを見上げた。
「なかなか、お役御免ってわけにもいかないみたいですね」
 硯もまた長く苦楽を共にしてきた愛機のF−108ディアボロへ目をやり、しみじみと呟く。
 そこへ、急ぎ足で駆けて来る靴音が響いた。
「おや?」
 片方だけ顕わになった青い瞳を向け、遅れて現れた小柄な人影を美具・ザム・ツバイ(gc0857)は僅かに皮肉の混ざった笑みで迎える。
「ようこそ、死地の入り口へ」
「‥‥遅くなったけど、ブリーフィングには間に合ったようね」
 出撃を待つ機体と能力者達の顔ぶれに、少しだけソーニャ(gb5824)はほっとした表情を浮かべる。
「歓迎するよ。解ってはいたが、この人数だ‥‥しかし、やるしかあるまい」
「相手が多くて味方が少なければ、より長く飛んでいられるから」
「それを実現するには自軍の戦力が優勢である事、即ち自身を含めた傭兵が一人でも多く生き残るのが前提となるがな」
「それなら、単純な話ね‥‥まずは、落ちない事。次いで、落とされる前に落とせばいい事」
 落とされてはダメよ――と、言外にソーニャの瞳が美具へ要求していた。
「心配なら無用だ。覚悟はあるが、この命を残党程度にくれてやる気はない」
 鋭い視線を返す美具の答えに満足したのか、微かに首を縦に動かしてからソーニャはブリーフィング・ルームへ歩き出す。
「ああ、そうとも‥‥死んだ姉妹の為にも」
 誰の耳にも届かぬほどの呟きが落ち、HF−042天の傍らで目を伏せた美具も仲間達の後に続いた。

 確認されたバグアの陸上戦艦は、無人機の群れとキメラミサイルの厳重な防衛網で守られている。
 過去に幾度もUPCが攻略を試みたものの、いずれも撤退を余儀なくされた。めぼしい戦果は、激戦の最中に兵士達が身を以って得た僅かな戦力分析のデータのみといってもいいレベルだ。
 それでも、バグアの脅威を地上に残す訳にはいかない。
 UPCは陸上戦艦攻略に当たり、手を焼いた無人のヘルメットワーム編隊を相手にする部隊と迎撃施設の破壊する部隊について、傭兵に協力を求めた。
 要請に応じた傭兵達の数が妥当かどうか、それは大きな問題ではない。
 ――結果が、全てだ。
 戦力が少なければ、少ない上で最大の効果を。
 極寒の戦地に集ったのは、その重要性と手段を知る者達だった。

「それにしてもこの人数でHW編隊100機、しかも陸上戦艦の対空砲火付きを相手にしろとか、無茶させるよなぁ」
「でも羽矢子、真っ先に応募してたでしょ」
 戦況の説明を聞いて呆れた風な羽矢子へ、にっこりとシャロンが笑む。
「決戦も終わった後に、こういう依頼に一番で参加するトコ。私としては非常に好感が持てて、参加を申請しちゃったわ」
 味方として共に飛べる心強さもあるけれどと、大げさなほどシャロンは何度も頷き、何となく照れくさくなった羽矢子が指先でぽしぽしと頬を掻いた。
「だってさ。それでも、やるしかない‥‥だろ?」
「ええ、やるしかないわよ」
 不敵な笑みを交わす二人に、何事かを決意した硯も大きく首を縦に振る。
「もし俺達が失敗したら、爆撃を行う部隊や後に続く部隊の損害も増える事になるんですよね。だから一機でも多く落として、味方の助力となりましょう」
「そうね。作戦は‥‥成功させるわ。絶対に‥‥!」
 ケイもまた挑む視線を返すと、天井を仰いでから羽矢子は大きく息を吐き。
「‥‥羽矢子?」
「ううん。シャロンや皆が続いてくれて、こっちも助かったよ。作戦が終わるまでは、安心するのもお預けだけど」
「かつて冬の大地を攻めた軍は、ことごとく敗れた。名将冬将軍が寝返らなければいいと、願うばかりかな」
 ロシア人であるクローカの呟きに、それを称したイギリスを祖国とするシャロンが小さく肩を竦めた。
「でも今回は、こちらが攻め手になるのよね。ジェネラルの采配はどうかしら?」
「大丈夫、奴らも過去に侵攻した者達の後を追うさ。先に攻め込んだのはバグアなのだから」
「クローカがそう言うなら、問題ないかな。頼りにさせてもらうよ」
 小隊の仲間が押した太鼓判に、羽矢子は明るく笑う。
「‥‥そろそろ、時間よ」
 時計を確認したソーニャの一言は、作戦の開始が迫っている事を傭兵達に思い出させた。
 暖房の効いたブリーフィング・ルームから出ると、足早に愛機へと向かう。
「作戦がハイリスクである事に変わりはないし、明らかに数は足らない‥‥しかし」
 一時は戦力差に愕然とした美具だが、どうやら誰も己の命を凍土に埋める気はなく。また、他の者の命を終わらせる気もないらしい。
 精神論や根性論だけで戦況が引っくり返るものではないが、仮にやる気のない有象無象が数を揃えても、足手まといな標的になるのがオチだろう。
「それが、僅か数%の可能性だとしても‥‥」
 戦力差は確たるものだが、一縷(いちる)の望みを見出しても構わないかもしれない、と。

●火蓋
 接近する敵を探知した自動機械の群れが、次々と空へ舞い上がった。
 即座に三機ごとの小隊編成を組み、それが三つまとまって九機による中隊を構成する。
 遠目に見れば雲霞のような様相だが、UPC軍の部隊以上に一糸乱れぬ行動は不気味な無言の圧力を感じさせた。
『なるほど。流石にすごい数‥‥でも、乱戦は得意さ』
 空へ溶け込みそうな青いMk.4D改ロビンを駆るソーニャの横に、シャロンが標準的なカラーリングの同型機をつける。
『だけど、こちらには支援してくれる電子戦機がいない事を忘れないでね。全体の戦況をリアルタイムで詳細に把握するのは難しいわ』
『了解している。敵は無人機、体当たりや自爆もあるだろうね。不用意に近づかないでね、距離を取っていくよ』
『ええ。完全に破壊しないうちは反撃があるつもりで警戒、半端な倒し方で油断しないよう、注意しないとね』
『うん‥‥でも最近、ロビンはめっきり減ったね。同じロビンと飛ぶのは久しぶりだよ』
『私も王立兵器工廠の機体と飛べて、嬉しいわ』
 少し嬉しそうなニュアンスにキャノピー越しのシャロンは指でサインを送り、視界の隅で確認したソーニャが首肯を返した。
『それにしても、まさしく死地だな。空より、守っていてくれ‥‥』
 祈りの言葉のように、空で失った姉妹の名を美具の唇は小さく小さく紡ぎ。
 眼帯で覆った瞳の奥が、熱く痛むような感覚を覚える。
『この人数でHWの掃討は、現実的じゃない。ある程度HWを陸上戦艦から引き離し、手薄になった防衛線の一ヶ所を切り開いて、後発の爆撃役の為に穴を開ける‥‥作戦通りによろしく!』
 明るく羽矢子は仲間へ委ね、CD−016Gシュテルン・Gが速度を上げた。
『さぁ飛ぼう、エルシアン。誰よりも鮮やかに、艶やかに』
 秘めた思いを託した名をソーニャは愛機へ呟いて。
 ロビンもぴたりとシュテルン・Gの後に続き、先行して陸上戦艦へ接近する。
『さて、こういう時こそ派手に行くよ!』
 長距離ASM「トライデント」、対大型艦向けに想定された長距離空対艦ミサイルの射程に入るなり、羽矢子は一射目をぶっ放した。
 地上戦艦からも待ち構えていたように、「だわさだわさ」とペンギン型のキメラミサイルが文字通り騒々しく突っ込んでくる。
 幸いキメラ達の声は羽矢子の耳に届かないが、巻き起こる爆発は確実にシュテルン・Gの間近へ迫り、回避行動を取る機体を不気味に振動させた。
『くっ‥‥いきなり、大歓迎じゃないか』
 ひっくり返った天地で、独特の色をした光線が飛び交い。
 間を置かず発射したトライデント12発のうち何発かは迎撃の網に引っかかり、爆発と爆煙が空を埋める。
 僅かな時間、目視した全長約1500mの陸上戦艦にはアグリッパと思しき設備も見受けられた。
 しかし網を抜けても、標的への着弾に到った対艦ミサイルは無く。
 戦闘経験を蓄積した無人ワーム部隊と、管制装置による強固な防空網に守られた巨体‥‥ロシア軍の手を焼き続けていた相手のレベルを、数値ではなく肌で羽矢子は実感する。
『だからといって、「じゃあ、帰ります」ってモンでもないけどね!』
『手土産も、ちゃんと用意してあるから』
 立ち込める爆煙を裂き、展開される攻防の間隙を縫うように、シュテルン・Gより高度を取っていたソーニャ機ロビンが急降下をかけた。
 無論、ピッタリとHWの編隊にマークされている事を承知し、それでも彼女は不規則な機動をかいくぐり。
『遅い、クリスマス・プレゼントだよ』
 失速しない限界ギリギリまで機体を急減速させ、搭載したフレア弾を切り離す。
 当たれば幸い程度の狙いだったが、HWの攻撃をかわしながらの投下では陸上戦艦への直撃は叶わず。
 着弾した白い大地は地下から突き上げられたかのように、一瞬だけ盛り上がり。急激な地中の温度上昇が表面の雪を解かし、地面を顕わにした。
 その間に羽矢子機シュテルン・Gが上空からアプローチを試みるも、ワーム一小隊が真正面からプレッシャーをかける。加えて二小隊が左右をそれぞれ塞ぎ、シュテルン・Gは急上昇を余儀なくされた。
『これじゃあ、フリどころの話じゃないねっ』
 苦々しげに羽矢子は操縦桿を傾け、無人機の振り切りにかかる。
 そこへ『荷物』を減らしたソーニャ機ロビンが一気に駆け上がり、左翼側のワームにGプラズマミサイル50発を叩き込んだ。
 成果は確かめず二機のKVは真っ直ぐに上昇し、包囲の突破を試みる。
『釣れたかな?』
『それなりの数は、追ってきたみたいだけど‥‥予想より、相手の数が少ない感じがするよ』
 展開する無人機のうち何割を引きつけられたか、詳細な数は二人にも分からない。
 分からないが追跡するワームの群れを率い、飛び交う光線をかいくぐり、螺旋を描くようにKVは空を切った。
 その進路の先で複数の機影が円を描き、交差する軌跡の狭間を縫うようにあちこちで爆発が起きる。
 そこでは接近する囮の一群とは別のHW編隊が、二機のKVを包囲していた。
 ざっと見た数は、軽く40〜50機。
 八方を囲むようにKVの進路を塞ぎ、突破をかければ体当たりも辞さない相手に不利は明白だ。それでも硯機ディアブロとシャロン機ロビンは被弾を最小限にとどめるべく、回避に徹しているようだった。
『先回り?』
『単にこちらの後をつけていた‥‥という感じは、ないね』
 自然と羽矢子が眉根を寄せ、ソーニャは彼女なりに状況を分析する。
『妬かれてるのか、凄い人気だね。状況は?』
『警戒ラインの境界付近でワームを部隊ごとにおびき出す算段、だったんだけど』
『急に大挙して、仕掛けてきたんです』
 羽矢子の呼びかけに言葉を濁すシャロンの後を、硯が継いだ。
『ああ、それじゃあ‥‥』
 何かを納得したようなソーニャの口ぶりに、くすりとケイは小さく笑う。
『そうね、囮は無人機達にとって予想の範疇だったみたいだわ』
 感心するような口調で微笑むケイの機体、フェニックスの姿は戦域になかった‥‥天やラスヴィエートも、また。
『もっとも経験則からの予想も、こちらの想定内だがな。この数を除いては』
『出来れば、大群とは当たりたくなかったのだが‥‥そこは痛み分けといったところか』
 クローカの呟きに苦々しげな美具が応じ、今一度ケイはターゲットを確認する。
『トロイメライ、スタンバイOK! いつでもいいわよ』
『じゃあ、始めよう。AIと人の戦いってのを』
 美具機天が煙幕銃「スパートインク」より煙幕弾を発射した。
 猛烈な煙が空域を一気に覆い、KVを包囲していたHWの編隊も飲み込んでいく。
 その外側から包囲を砕くようにホーミングミサイルや機関砲が一斉に放たれた。

●命無き物、命有る者
 優美な曲線を描いて天駆ける鋼鉄の翼を、不規則に距離を取って複数のHWが追う。
 一機のKVに対し三機組一小隊という控えめのレベルではなく、中隊クラスの数で潰しにかかろうとしていた。
『いいか、教えてやる。数で押すのはこっちの十八番なんだよっ!』
 黒をベースとしたクローカ機ラスヴィエートがミサイルポッドより数十発のミサイルを吐き出し、進路を塞ごうとしていたHWが火を吹く。
 どれだけ被害を受けてもワームの群れに離脱する様子はなく。
『分断されないよう、注意を怠るな。囲まれれば、一気に不利になる』
 クローカが仲間へ警告を飛ばし、煙を引きながら突っ込む機体を美具機天の重機関砲が抉る。
『ああ、こちらに手間をかけさせる程、爆撃班の作戦成功率は上がる。とはいえ、やはり楽な仕事ではないな』
『そうだね。十分に分かっている事だけど』
 同意に苦い笑みを含み、羽矢子が接近するHWへプラズマライフルを撃つ。
 詮無い事だと判っていても、人間ってのはつい口に出してしまうものだ。相手は無人機で言っても仕方ない、聞く耳なぞないと承知していても‥‥それでもぶつけずにはいられない思いが、羽矢子の胸に湧き上がった。
『もう人とバグアの決着は着いてるのに、無駄に争いを続けようとするから!』
 時に急旋回をかけ、あるいはPRMシステムを駆使し、HWの機動に羽矢子機シュテルン・Gは不規則性で対抗する。

 陸上戦艦の方角でも爆煙が上がっているが仔細に状況を把握する暇もなく、無人機と乱戦状態となっていた。
 シュテルン・Gと共に囮を買って出たソーニャ機ロビンもまた、他のKVよりダメージを負っているが。
『ロイヤル・アーセナル、ナイチンゲールMk−4Dロビン‥‥駆逐型のDの称号が伊達じゃないことを見せてあげる』
 搭載したラージフレアをばら撒き、緊急用ブースターを起動する。
 包囲をものともせず突き破り、乱舞する交戦と追いすがるHWを置き去って飛ぶ姿は、さながら蒼穹を貫く矢の如く。
『‥‥今だよ』
『固まってないと何も出来ないの? 無人機が、女の子一人に寄ってたかって‥‥ねぇ』
 たしなめる様にケイは冗談めかし、交差するように進路を取ったフェニックスが射程へ踏み込んだHWにレーザーガトリング砲を放った。
 高速で連射されるレーザーはHWの横っ腹に穴を開け、左右にブレながら高度を下げたワームが爆発する。
 直前、他のHWは爆風に巻き込まれぬよう、即座に進路を変えた。
 一転したHWは、離脱するフェニックスを追撃し。
 回避し切らぬ衝撃に、ケイは眉をひそめる。
『この程度‥‥!』
『うん。まだ落ちるのは、駄目』
 反転したソーニャ機ロビンからミサイルの雨が降り注ぎ、レーザーが追い討ちをかけた。
 その間にケイ機フェニックスはスタビライザーAを起動し、B+にて歩行形態へ機体を変形させ。
『これはどう?』
 自爆を狙って突撃するワームの装甲を、擦れ違いざま練剣「オートクレール」の超圧縮レーザーが紙のように斬り裂く。
 巻き起こる爆風にあおられながらフェニックスは飛行形態へ戻り、離脱した。
『ケイ、損傷は?』
『システムなら正常よ。戦闘行動への支障は、すぐには出ないわ』
 安否を気遣ったシャロンは、機体をチェックする友人の返事にほっと息を吐く。
『よかった、でも無理しないでよ。ソーニャもありがとう』
『この状況で一機でも欠けると、戦力的に不利が大きいから。いま展開している位置なら対空ミサイルの影響は考慮しなくて済むし、後はちゃんと一人が十機落とせば、合わせて七十機になるよ』
『ふふっ。うんざりするほど簡単な話ね‥‥本当に』
 数機のHWを落としたところで状況が変わらないように見える戦況に、皮肉めいた笑みでケイは傷を受けた翼を翻した。
『向こうも編隊を組み直したみたいですね。再接近しています』
『硯、先頭のを叩いて引っ張り込みましょう! ケイ、無茶しない程度にフォローを頼んだわ!』
『あら、釘を差されちゃった。仕方ないわね』
 硯の警告にシャロン機ロビンが前へ出ると、その後方にケイ機フェニックスも位置を取る。
『やっと、平和な世界が目の前なんです。一人でも死なせない様、自分にできる限りの事を頑張りますよ』
 捉えたHWの編隊に、ブーストをかけながら硯機ディアブロがK−02小型ホーミングミサイルを発射した。
 避けるかと思われたHWはロックされたまま、追尾から逃れる気配もなく。
 直進して盾となり、残るHWが光線を撒き散らす。
 ミサイルを撃ちつくしたシャロンはレーザーライフルで対抗し、タイミングをずらしたケイがホーミングミサイルの第二波を解き放った。
『まるでボクシングね。拳で殴り合って、潰し合ってるみたい』
 突っ込むHWをレーザーカノンで迎撃しながら、互いに身を削り、少しでも相手に被害を与えようとする戦況にシャロンが眉をひそめる。
『消耗戦に持ち込む気、でしょうか。向こうだって、無制限にワームがいる訳じゃないと思うんですけど』
『そうね。こちらの動きに対しても、同じパターンを返してこないから‥‥厄介だけど、こっちも簡単にやられないわよ!』
 互いに見解を交わしながら、硯とシャロンは攻撃をかわし、味方の射程にワームを追い込む。

『現状の戦闘行動から考えると、どうやら指揮を取っている指揮官機に相当する存在はいないようだな。過去の戦闘経験を並列化し、周囲の戦局に合わせて最適、あるいは最大の効果をもたらすと思われる行動を選択しているのだろう』
『その結果が、数を武器にした戦闘方法や体当たり‥‥特攻なんてね』
 美具の分析に、羽矢子は歯痒さを覚える。
 それも戦術の一つなのは認めるが、目の前で繰り広げられている行動をそう呼びたくはなかった。
『いずれにしても、僕達のやる事に変わりはない。爆撃部隊が目標を達成するために、ワームの足を止める。それだけだ』
 相手が数で勝負をかけてくるなら、その数を上回ればいい‥‥それだけの話だ。
『余計な考えは、命取りになりかねないからな』
 頷いた美具機天は接近するHW中隊の中央を狙い、再び煙幕弾を射出した。
 一気に広がる煙に紛れ、明言したとおりクローカ機ラスヴィエートが惜しみなくミサイルを叩き込む。
 構わず煙中より光線を撃ってくる相手には、間隙を埋めるように機関砲が火を吹き続け。
 閉ざされた空域よりHWが飛び出せば、すかさず天が追撃をかけた。
 重機関砲が雨だれのような音を立てて、装甲に穴を穿ち。
 放たれたミサイルの群れは忠実な猟犬の様に獲物へ喰らいつき、標的を爆散させる。
 だが相手も最後の足掻きとばかりに、プロトン砲や収束フェザー砲から光線を撒き散らした。
『悪いが、美具はまだ落ちる訳には‥‥いかない!』
 天が唸り、翼をもごうとする死の影を振り切る。
 あらゆる機会とタイミングを自身の優勢に繋がるよう利用し、ワームの編隊を駆逐し。
 搭載したミサイルポッドが空になり、弾薬も撃ち尽くそうかという――その時に。
『陸上戦艦へ向かった部隊から、お待ちかねの連絡だよ。作戦は、概ね成功‥‥こちらのHW編隊も、だいぶ数を減らした。後は、最後のひと踏ん張りだ!』
 濃煙が切れる中、気力を振り絞るように羽矢子が笑み、仲間を鼓舞する。
 一方、迎撃に当たっていた無人機は戦闘行動を中止し始めていた。

 興味を失ったようにあっさりと反転し、損害を受けた陸上戦艦へ帰還していく残数は、全体の20%程度といったあたりか。
『向こうも引き上げるみたいです。八割がた落としたなら上出来、でしょうか?』
『ええ。極寒の歩行訓練は、せずに済むかしら』
 硯の言葉にシャロンが冗談めかし、ケイはくすりと笑う。
『それじゃあ、帰投ね。今は温かいロシアンティーが飲みたいわ‥‥出来れば、ジャムはローズジャムで』
『だけど基地に帰り着くまでが作戦、だよ』
『そうだな。ここで落ちては、格好がつかない』
 気を緩めないソーニャの指摘に美具も同意して頷き、被害状況を告げる警告のランプを再度チェックした。
『こちらは何とか一機も落とさず、しのぎ切れたか』
『それが一番の戦果、だね』
 安堵するクローカに、羽矢子もほっと胸を撫で下ろす。
『えぇと、それじゃあ‥‥せっかく、こうして一緒に迎えられる訳だから。みんな、Happy New Year!』
 軽く咳払いをしてから、仲間達をねぎらう様にシャロンが明るく新しい年の挨拶を告げた。

 唯の一機も欠ける事態にはならなかったが、それぞれ満身創痍となった七機のKVは基地を目指す。
 ふと、クローカが白い地平線を振り返れば。
 おそらくは陸上戦艦が位置する付近からは、狼煙のような黒い煙が遠く立ち上っていた。