タイトル:懐かしの家路へ灯火をマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/18 22:20

●オープニング本文


●コルシカ住民帰島計画
「避難していたコルシカ住民の、帰還計画が決まった」
 南仏、カルカッソンヌ郊外にあるブラッスリ。
 訪れたレナルド・ヴェンデル‥‥UPC仏軍トゥールーズ駐留陸軍連隊の大佐がテーブルの上に封筒を投げ、コーヒーカップを置いたコール・ウォーロックはその手で分厚い資料を手に取った。
「洗脳の後遺症は問題ないのか?」
「経過観察の末、そう判断されての計画だ」
 スプーン一杯の砂糖を加え、混ぜてからレナルドはコーヒーを口へ運ぶ。
 封筒から取り出した計画書類と名簿をざっとコールは確認し、どこか安堵した表情を浮かべて呟いた。
「全員、無事に帰島か」
「これでコルシカの復興が終わる訳ではないが、一つの区切りではあるな。島の復興状況も、緩やかながら順調だ。山間部への食料・医療品の配給、ライフラインの整備。鉄道やバスはまだ最低限にしか動かせんし、都市部の破壊された建造物類に関しては、未だ手が着けられていないが」
 それでもバグアの影響下にあった頃と比べれば、遥かに好転したと言える状況だろう。
 穏やかな沈黙に、フロアで燃える暖炉からパチパチと木が爆ぜる音が聞こえてくる。
「‥‥で? そんな話をする為だけに、わざわざここへ足を運ぶお人好しに宗旨変えしたってなら、別だが」
 先をコールが促せば、カップを片手にレナルドは本題を切り出した。
「お前に帰還計画への同行を頼みたい。例の‥‥『首謀者』であるドイツ人も、来るからな」
「つまり、アレのストッパーをしろと」
「聞けば妙な人脈だけはあるようだが、あくまでも彼は一般人で‥‥コルシカ攻略の『スポンサー』だ。万が一があっては、困る。色々と」
「むしろ‥‥」
 書類の束を封筒へ戻したコールは、それを友人の方へ押しやる。
「万が一を、起こしかねない方だがな」
 渋い表情で残ったコーヒーをすすりながら、レナルドはコールの言葉を否定しなかった。

   ○

「そんな訳で、久し振りにコルシカまで行ってくるのであるよ」
 どこぞへハイキングに行く子供のような顔で、嬉しそうにティラン・フリーデンがプロジェクトのメンバーへ告げた。
「天候の方は崩れる事もなさそうですし、お気をつけて‥‥楽しんで下さいね」
「島に帰る人達にくっついていくんだから、楽しんでってのは変な気もするけどね」
 微笑ましそうなアイネイアスに、チョコレート・バーを頬張りながらドナートが指摘する。
「仮にも、彼らも戦争の『被害者』だからな。その辺りはまぁ、言っても‥‥効果は薄い気もするが」
 楽しげにクッキーやチョコレートにキャンディなど、お菓子を鞄へ詰めるティランを見て、チェザーレも微妙に嘆息した。
 それでもティランはティランなりに、色々と思うところはあるようだが。
「不在の間のデータの方は、よろしくお願いするのだ。そろそろ、無線中継局も老朽化の気配が窺える故に」
「ん、了解〜」
 プロジェクトの事も気にしつつ、ふとティランは机の上にごろごろ転がる手回しオルゴールを手に取った。
 台座についたハンドルを回すと、明るいメロディと共に木製の人形がカタコトと動き始める。
「‥‥故郷に帰れど、そこが荒れたままでは同じ事なのであるよ。陰ながら、彼らの支援となる事が何か出来れば良いのだがなぁ‥‥」
 自身の『専門分野』で出来る事はないかと、ぼんにゃりティランは思案にふけり。
「時間、なくなりますよー」
「はっ! ち、遅刻をしては、本末転倒なのである!」
 あわあわと準備を再開するティランを、プロジェクトメンバーの三人は苦笑しながら、どちらかと言えば生温かく見守った。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

●船出前
 朝の、そして真冬の風は冷たいが、潮の香りは懐かしく吹く。
 タラップを登る人々の表情には、一様に期待と不安が複雑に入り混じっていた。
「帰郷‥‥嬉しさ半分‥‥変化を受け入れる怖さ半分‥‥なんて、ね‥‥」
 見守る朧 幸乃(ga3078)は自分の故郷を思い起こしながら、ぽつりと呟いた。
「コルシカ、私は初めてだな‥‥」
「いいところよ。海でも山でも、遊べそうで」
 自身もどこか距離を置いた風な幸乃へ、シャロン・エイヴァリー(ga1843)が片目を瞑る。
「美味しい物も、いっぱいみたいですよね。いつか島が復興して、皆で遊びに来られる日が来るといいんですけど」
「いつか夏にでも、リゾートに来たいわね」
 楽しげな鏑木 硯(ga0280)にシャロンがうずうずと頷き、そんな賑わう友人達を少し離れた位置でアグレアーブル(ga0095)が眺めていた。眺めてはいるが、会話自体にはさして興味はない‥‥島の復興も住民達へのケアも、全て彼女の意識するところではなかった。
 潮風に赤い髪を遊ばせたまま、ふっと北の空を仰ぐ。
 先日まで朧と一緒に戦った戦地へも、戦闘行動が終わってから足を運んでいない。
(あの街はもう、あの街の住民達のテリトリーであるし、そうなる事を私は望んでた‥‥コルシカも、そう)
 先の戦いで彼女の内に刻まれたのは、作戦の成功と戦友の死。
 ゆっくりと、アグレアーブルは広げた手を見下ろした。
 この手の届きそうな範囲で、人が逝く‥‥その事、が。
 ――コルシカと、重なる。
 物憂げに、ともすれば潮風で吹き消えそうなアグレアーブルの気配に気付き、アンドレアス・ラーセン(ga6523)はそれから何気なく口元へ手をやる。
 それから、そもそも煙草を咥えていない事を思い出し、持て余した手でがしがしと金髪を掻いた。
「酷い目に遭った戦闘に、手探りの捜索。コールとも揉めたなぁ‥‥そういえば」
 ついた溜め息に混ぜて、言葉を落とす。
「それでもこの日を迎えられたなら、きっと意味があった筈なんだ」
 ‥‥流された、血にも。
 そうやって、自分の中で『不幸な出来事』に折り合いをつける。相変わらずそんな事ばかりが、上手くなっている気はするが。
 何気なく視線でコール・ウォーロックを探せば、仏軍の兵士と歩いてくる。
「『準備』は万端?」
 やり取りを見ていたアンドレアスの背をぽんと叩き、赤崎羽矢子(gb2140)が小首を傾げて聞いた。今回の護衛任務では、二人で空からの警戒にあたる。
「勿論。やるなら、ちゃんとキメてぇからな」
「そうだね、よろしく」
 親指を立ててみせるアンドレアスに、ニッと羽矢子は笑みを返し。
「船旅というのも、楽しみなのであるよ〜」
 そこへ不審者が両手にお菓子を抱え、狐尻尾を揺らしながらやってくる。
「‥‥アレは、いつでも変わらないなぁ」
「‥‥全く」
 へにょへにょ嬉しそうなティラン・フリーデンをアンドレアスがしみじみ見送り、羽矢子は額に手をやって嘆息した。

   ○

「‥‥空」
 指し示し、赤い髪を揺らしたアグレアーブルが率先して甲板から天を仰ぐ。
 乗り込んだ住民達も、追う様に示す先を辿り。
 雲ひとつない空を、二方向から轟音が横切った。
 飛び立ったアンドレアス機グリフォンと羽矢子機シュテルン・Gが、スモークを引きながら空を縦横無尽に飛ぶ。
 二機で織り成す軌跡は、見上げる人々への短いメッセージを描き出した。
『a Corsica』
 ‥‥コルシカへ。
 スモークアート故に、シンプルな単語しか空へ残す事は出来ないが。
 人々は空を見上げ、答えるように船の汽笛が鳴る。
「大丈夫。この船を、護っているのは‥‥とてもとても、強い人達‥‥」
 不安げな人々に混ざり、幸乃と空を仰ぐアグレアーブルが緩やかながら芯のある声で語った。
「だから‥‥久しぶりのホームで、何をするのか‥‥何をしていくのか。強い意志をもって、考えていて‥‥」
『しっかりと、皆さんをバスティアまでお送りしますね』
 硯機リヴァイアサンが大型フェリーの右舷に付き、反対の左舷にはシャロン機リヴァイアサンが並んで進む。
『OK、それじゃあ地中海のクルーズといきましょう!』
 進路をコルシカ島へ向けた一団は、約10時間強の船旅へと出発した。

●舵を故郷へ
「到着予定時刻は‥‥夕陽が沈んでからになるか」
 時計を確認したアンドレアスは髪をかき上げ、喫煙場所で搭乗前に『煙分』を補給していた。
 紫煙を吐き、何気なく窓へ目を向け、思わず咥えた煙草を落としそうになる。
「何‥‥してんだ、ありゃあ」
 波の合間では浮上したまま船の先を進むリヴァイアサンが、そのキャノピーを開こうとしていた。

「試したい事があるのよね。えーと、まず操縦をオートパイロットに‥‥」
 船舶より機体を先行させたシャロンは、速度と進路を維持したまま、身体をシートに固定するベルトを緩めた。
 それから、外界とコクピットを隔てるキャノピーのロックを解除する。
 途端に隙間から潮の香りがどっと吹き込み、金の髪を乱した。
『何してるんですか、シャロンさん!』
「だって密室に座りっぱなしだと、息が詰まっちゃうのよ」
 驚いて通信を入れた硯を他所に、彼女は身を乗り出す。
「このまま、機体の上に出れたらな‥‥それで海に落ちて、自分のKVに置いていかれたら笑いの種だけどね」
『シャロンさ〜んッ!』
 うろたえて訴える声に、髪を手で押さえたシャロンがくすりと笑った。
「大丈夫よ。残念だけど、厳しそうだもの」
 比較的、波は穏やかとはいえ、海水が若干コクピットへ入ってくる。無論、防水処理はされているが、量が多いと後で整備スタッフの愚痴と付き合う羽目になるだろう。
『まぁ、コルシカへ近付いたら、それどころじゃあないがな』
 諦めてキャノピーを閉じ直すシャロンに、コールが苦笑した。硯が呼んだのか、たまたま近くにいたのかは分からないが。
「そうなの?」
『地中海とはいえ、冬のコルシカ近辺は風が強い。波も、かなり荒れるからな』
「OK、これっきりにしておくわ」

 キャノピーが閉じるのを確認した硯はほっとし、改めて声をかけたコールへ向き直る。
「話の途中ですみませんでした、コールさん。それで、あいつら‥‥イヴン達から何か預かってません? 写真とか画像データとか」
 どこか照れくさそうに硯がこっそりと尋ねると、「ああ」とコールは思い出した様にポケットを探り始める。
「新年会にゴソゴソやってた奴だな‥‥あったぞ、ほら」
 取り出した小さな電子媒体を、コールは硯の手の平へ落とし。受け取った硯は嬉しそうにぎゅっと握ってから、それを大事そうにポケットへしまった。
「中身に気を取られないようにな」
「と、取られませんっ。そうだ、イヴン達へお礼の伝言をお願いしていいです? ありがとうって」
「了解した」
 応じるコールに硯はほっとして、大型船舶を見やる。
「今までの行動の結果が、ひとつ形になったのは嬉しいですね。危険は少ないようですけど、油断しないで向かいましょうか」
「ああ。水先案内は、任せたからな」
 ぽんと肩を叩くコールへ、大きく硯は頷いた。

   ○

 空の見守りをアンドレアスと交代し、フェリーへ駐機したシュテルン・Gから降りた羽矢子は、自分へ向けられる視線に気がついた。
「気になるなら、近くで見てもいいよ」
 笑顔で手招きをすれば、好奇心の強い子供達が恐る恐る寄ってくる。だが一定の距離まで近付くと、そこで足が止まった。
「‥‥どうかした?」
 しゃがんで聞いても、おっかなびっくりで顔を見合わせ。
「見慣れないものだと、そうなるのかな」
 ヘリポートの縁に羽矢子は腰を下ろし、お菓子を膝の上に広げる。
「島に帰れるのは嬉しい?」
「うんっ」
「お父さんとお母さんも、喜んでた」
「そっか。今日中には港へ着くからね」
 無邪気な笑顔や照れくさそうな返事に安心し、羽矢子はお菓子を手渡した。

「皆さんの撮影は、難しいですか‥‥」
 少し残念そうな幸乃が、談話室や食堂で時間を潰す人々を振り返った。
「残念ですが。刺激したくない、というのが第一にあるんです」
 応対をする船員も、やや申し訳なさそうな顔をする。
「いえ‥‥大丈夫、です‥‥。仲間が‥‥海や島のビデオを、撮っているんですが‥‥それは‥‥?」
「それなら。彼らも、帰郷を楽しみにしていますので」
 快い返事に、幸乃は胸を撫で下ろした。時おり賑やかな笑いが起きるのは、ティランが混ざっているせいか。
「ティランさん、か‥‥彼はこの件の事、島の人達の事を見ながら‥‥何を、思っているのかな‥‥なんて、踏み込む事じゃない、か‥‥お久し振りですし」
 元気な顔を見て、声を聴く事が出来ればそれで、と。楽しげな様子を遠目から見る彼女に気付き、木製のパズルピースを片手にティランがぶんぶん手を振る。
「幸乃君、幸乃君も一緒にどうであるか?」
「あ‥‥でも、護衛の交代がある、ので‥‥」
「それは無理を言えぬのであるな‥‥では、戻ってきたら皆と遊ぶのだよ」
 わくわくと誘うティランに笑い、時間を確かめた幸乃は甲板へ向かった。

   ○

「移動しながらでも食べられるように、準備してきたんです」
 昼時の食堂で、前もって準備してきた硯が大き目の重箱を取り出す。
「ゆっくりできそうな気もしたけど、どうなるか判らなかったので‥‥」
「鏑木くん、お弁当」
 ぽつりと、だが有無を言わさぬ表情で、アグレアーブルが声をかけた。
 言葉にはしないが、彼女の表情は「当然、私の分もあって、残しておくれるわよね?」と雄弁に語っている。
「ちゃんと多めに数人分、作ってきましたよ」
 答えながら硯が蓋を開ければ、一段目はハムや野菜メインのサンドイッチ、二段目には高菜や明太子などのおにぎりが並んでいる。それを見て、満足そうに表情を緩めるアグレアーブル。
「では、護衛に‥‥」
 行ってくると視線を寄越すアグレアーブルと、アンドレアスがすれ違った。
「お、気をつけてな」
 背へ声をかけても返事や仕草はないが、それもまた彼女なりの意思表示とアンドレアスは後ろ姿を見送る。
「ギター?」
 硯が小首を傾げれば、「ああ」と持参したアコースティックギターのボディを軽く叩いた。
「島民の集まってるところで、男どもにヴォーヂェを投げかけてみようと思ってさ。『調子はどう?』くらいの軽い内容でな」
 例え洗脳が解けても、故郷を荒らされ、家族や友人知人を失ったのは変わりない。少しでも、気力を取り戻す助けになれば‥‥ギターを持ってきたのは、そんな思いからだ。
「その前に、まずは腹ごしらえだな」
 ニッと笑ったアンドレアスは、軍の船なら不味くても常備しているであろう珈琲を厨房へ頼む。そして独特の香りに目を細め、何気なく旋律に言葉を乗せた。
「 ここの珈琲屋は大したモンだ 貴重な珈琲を不味く入れるなぞ 」
 アンドレアスの鼻歌から、一拍を置き。
「 それでも葉っぱを浸した湯より 煎り豆の煮汁が俺は好き 」
 全くの別の方向から、予期せぬ『続き』が飛んでくる。
 目を瞬かせて顔を上げれば、雑談に興じていた男達の数人が笑いながら、手にしたマグを高く掲げた。
 更に続きを、また別の男達が歌い‥‥気付けば食堂中の男達が「納屋に隠した酸っぱい豆がある」だの「どこぞの小父さんは煎れ方が上手い」だの、そんな歌を笑い交わしている。
「なに、この歌?」
「ヴォーヂェ、だ」
 驚く硯へ短く返したアンドレアスも、それ以上は説明のしようがなく。
 ただ何かがこみ上げてくる胸の辺りを、ぐっと握った。

●我家の灯
 家路も後半になると人々は落ち着かなくなり、波も徐々に荒れ、大型船舶でも揺れを感じ始めていた。
 気を紛らわせる為、能力者達が撮影した映像‥‥航路周辺の海中や、空から見たコルシカの『今の姿』を船内で放送する。
 冬の海は濁って魚も少なく、コルシカも中部の山々は雪に覆われているが、住民達はじっと映像に見入っていた。
 やがて、夕暮れた水平線の先に陸地が見え。
 KVに守られたフェリーは、数は少なくとも灯りが点るバスティアへ入港した。

「O Andre!」
 船を降りた男達はアンドレアスへコルシカ流の挨拶を投げ、友人や家族と家路につく。
 その背中を、アンドレアスは咥え煙草で見送った。
 ‥‥これは帰郷であり、鎮魂の旅であり、新しい困難の始まりでもあって、島に残さざるを得なかった住民の状況も気になる。
 目一杯の祈りと、具体的な手助けをこれからも‥‥そう、街の灯りに瞑目する。
「船を降りた後は、何故かふわふわするのであるよ」
 船旅の影響か、地上でも左右に揺れているティランをアグレアーブルが捕捉し。おもむろに、背後からがっしりと捕獲した。
「ひょへぇっ?!」
「‥‥少し、このままで」
 不安定な時に、人に触れる事で落ち着けるというのは‥‥不本意だが、覚えている。そして北での作戦の後、不安定な物を抱えている自覚があって。
 ふわふわした人なのに、妙に落ち着くのは何故だろうとかアグレアーブルは考えつつ、パーカーの狐耳をもふもふする。
 複雑な表情の羽矢子はもやもやした感情を掻き混ぜながら、ソレを眺めていた。
(あんな風に出来たら楽、なのかなぁ‥‥?)
 依頼で死ぬ様な目に、続けて遭遇して‥‥そんな生死の境界にいる自分が、思いを告げていいものか。
 そしてコルシカに帰り着いた人々も、島を脱出しなかった人々と軋轢なく暮らしていけるのかと。
 湧き上がる不安を心の内でぐるぐるさせる羽矢子へ、「はい」と幸乃がトリュフチョコの箱を差し出した。
「これ?」
「バレンタインも近いですし‥‥一段落の、お疲れ様とおめでとうも兼ねて。ティランさんにも、ね‥‥パーカーを貰って、何もお返ししてませんから‥‥」
「おぉ? 感謝なのであるよ!」
 わーいと喜色満面で、幸乃のチョコを受け取るティラン。
「さぁて、皆で晩御飯でも食べに行く?」
「帰りは明日の朝になりますしね」
 陽気にシャロンが誘えば、硯もそれに同意して。
「そういえば、玩具についても聞いてみたいのであるよ」
「ティランさんの専門分野で? うーん、ケモミミで復興ねぇ」
「けも‥‥であるか」
 わざとらしく考え込むシャロンに、ティランも真剣な顔をして。
「冗談よ、冗談!」
「玩具とは違うんだけどさ、島の模型とか作らねぇ?」
「それなら‥‥島の形のオルゴール、とか」
「コルシカ島の木材を使うのもいいわよね」
「ふむふむ?」
 アンドレアスや幸乃、シャロンの提案に耳を傾ける一方で。
「そういえば‥‥成層圏‥‥プラットフォームは、どうなってるの?」
 寒いのか『捕獲』したまま問うアグレアーブルに、ティランが答える。
「うむ。初期機体の老朽化が進んでいるので、世代交代を考えているのであるよ」
「ともかく飯にしようぜ。あと、酒」
 まだ自給自足が出来ようかという島の状況で、食事は復興施設の食堂か盛り場になるだろうが。
 賑やかな一行は、バスティアの夜へ繰り出した。