タイトル:アナザー・オーダーマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/06/06 22:46

●オープニング本文


●テストケース
「呼び立てて、申し訳ない。何分にも大掛かりな作戦中で、忙しいものでね」
 UPC仏軍トゥールーズ駐留陸軍連隊司令レナルド・ヴェンデル大佐は、作りのよいソファに腰を下ろし、乱雑な書類の束をトンとテーブルに立てて揃えた。
「それは‥‥構いません。事の重要性は理解しているつもりですので、用件を手短に」
 言葉を選びながらリヌ・カナートが促し、揃え切らなかった書類をレナルドが押しやる。
「これが、君に頼みたい案件の資料だ。座らないのか、コール?」
「ああ、俺はここでいい」
 壁にもたれて煙草を吸うコール・ウォーロックをレナルドが見やれば、同行した男は憮然として答えた。
 フランス南部にあるトゥールーズ。
 その基地にまで呼びつけられたのは、リヌ一人だ。
 しかし彼女の抱えた『危険』を考慮してか、『監視役』としてコールも同行している。
 特に伏せる必要がある特殊な案件でもないのか、コールの同席にレナルドは異論もなく、本題に入った。

「現状、欧州には代表するメガ軍事コーポレーションとして、イタリアの『カプロイア社』、イギリスの『英国王立兵器工廠』、ドイツの『クルメタル社』、ロシアの『プチロフ』の四つがある事は、君も知っているだろう。
 だが、メガコーポ各社にもお家事情があるせいか‥‥実際にはいろいろと、小回りが難しい」
 資料を手に取りながら、リヌはちらと話す相手を見やる。
 テーブルに置かれたコーヒーにはどちらも手をつけず、レナルドは説明を続けた。
「そこでUPC仏軍は‥‥というより欧州軍は、独自に『開発屋』とでも言うべきチームの設立を考えていてね。
 君は一時スペイン全域が競合地域となる前から、ジャンク屋として長く現地で行動していた。その中で、それこそ無数の破損したKVを見てきた筈だ。また、傭兵達とも浅くない繋がりがある。
 KVの専門家ではなく技術者でもないが、言うなれば非常に‥‥変わった、面白い立場の人間だ」
 言葉を選ぶレナルドに、黙ったままリヌは苦い表情を返す。
 ジャンク屋としては、もう半年以上『まとも』に動いてはいない。
 スペインの情勢が沈静化したせいもあるし、彼女の周りで起こっていた『変化』にも由来するのだが。
 そんな状況を知ってか知らずか、膝に肘を置き、指を組んでレナルドはリヌの反応を窺い。
「用件を一言でまとめれば。壊された物を集める側から、新しい物を作る側にならないか‥‥と、いう誘いだ」
「『拾う』事には、変わりなさそうだけどね」
 皮肉めいた返事に、薄くフランス人の男は笑った。
「今回はテストケースとして、プチロフから『頑丈さ』というコンセプトを元に『電子戦機』の設計プランを作る事が決定している。
 その上で、新しい機体の設計案を目指す‥‥基礎的な性能や特殊能力、あるいは機体のデザイン的な部分も含めてな。
 とはいえ、メガコーポのカラーを無視するわけにはいかない。プチロフ『らしい』機体を。それがまず、第一条件だ」
「しかし‥‥これは、ある種の『機密事項』では? 受諾確認もせずにバラして‥‥ああ、それとも」
 自分の中で合点がいったのか、すぅとリヌは黒い目を細める。
「拒否権は、ない。と」
「協力要請だ。体裁上は、ね」
 友人の返事に、コールは溜め息混じりの紫煙を大きく吐いた。
「だから、リヌの『安全確認』を急がせた訳か」
「こちらが軍の外で使える駒は、少なくてね。それに軍からの要請では、メガコーポ各社が躍起になるだろう。イニシアチブは、五分が望ましい」
 そして他意はないと言うように、レナルドは両手を広げる。
「ただし、リヌ・カナート。安定しているとはいえ、おそらくバグアによる後催眠暗示の危険を内包する君に、『ラスト・ホープ』への入島は許可出来ない。
 能力者からの意見回収の場は、そちらに任せるよ。幸い、ここの場には『ブクリエ』のリーダーが同席している。協力を頼めるか、『魔法使い』?」
 白々しいレナルドの確認に、コールは片手をひらと振って肯定の意を伝えた。
「了解した、ヴェンデル大佐」

   ○

 ――かくして、フランス南部の街カルカッソンヌ郊外に位置するブラッスリ『アルシェ』にて、プチロフの新機体に関するプランを提案する場が設定された。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
ルクシーレ(ga2830
20歳・♂・GP
大河・剣(ga5065
24歳・♀・BM
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF

●リプレイ本文

●初夏の南仏
 フランス南部の街カルカッソンヌ郊外。
 ブラッスリ『アルシェ』では、一足先に来た鏑木 硯(ga0280)が厨房に立っていた。
 店の主コール・ウォーロックはサイフォンで珈琲を淹れ、カウンターではリヌ・カナートが面白そうに見物している。
「いないと思ったら‥‥何してるの、硯?」
 驚くシャロン・エイヴァリー(ga1843)に、エプロン姿の硯が顔を上げた。
「あ、シャロンさん。ケガしてるんですから、今日は大人しくしてて下さいね」
 気遣いながら硯は蓋を取り、鍋を覗き込む。
「全くだ‥‥無理するんじゃあないよ、とも言えないし」
 煙草を指で挟んだリヌが前と同じような事をぼやけば、シャロンは苦笑を返した。
「今回は、ゆっくりさせてもらうわよ」
「そうしとくれ」
 リヌは紫煙の息を吐き、どこか慣れぬ気配の者達へ目を向ける。
「変わってるだろ、ここが反バグア支援の民間組織『ブクリエ』の拠点だ。適当に座って、楽にね」
 促されたリチャード・ガーランド(ga1631)は、肩を竦めた。
「風変わりというか。プロジェクト自体も、少し‥‥変わっているみたいだけど」
「ロシアが電子戦機、か」
 しみじみとルクシーレ(ga2830)が呟き、夢守 ルキア(gb9436)はリヌへ進み出る。
「凛々しい瞳のレディ、お名前を伺っても?」
「リヌ・カナート、『聞き役』さ。本来はジャンク屋だけど、あんた達が頑張ってバグアをスペインから追っ払ったせいか、商売上がったりでね」
 冗談めかすリヌへ、困ったような笑みをクラリッサ・メディスン(ga0853)が返した。
「それは、申し訳ない事をしましたわ」
「ああ、気に障ったらごめんよ。感謝してるんだ、私の仕事なんざ暇な方がいいからね」
 くつりとリヌは笑って煙草を咥え、店内を見回した大河・剣(ga5065)が切り出す。
「ここって、飲める店? 話し合いが終ったら、プロジェクトの成功を祈って一杯やりたいトコだけど」
「ああ、飲めるよ。請求は、ULT宛でいいかい?」
 軽い返事に、カラカラと剣は明るく笑った。
「どうせなら、話しながら和やかにやりません? ロシアのイメージを広げるために、コールさんとビーフストロガノフやボルシチを作ってみたんです。給仕は起太、よろしく」
「相変わらずだなぁ、すずりんは」
 何年経っても愛称で呼ばない友人へ、何気なく鯨井起太(ga0984)は要求するが。
「よろしく、起太」
 再び硯が繰り返せば、目に見えて凹む。
「すまないね、気遣わせて」
「いえ。この前は無理させちゃって、すいませんでした。今日はゆっくり‥‥っていうのも変ですけど、よろしくお願いしますね」
 リヌが詫びれば、改めて硯はぺこりと頭を下げた。
「でもロシアが一部解放されたとはいえ、いまプチロフって‥‥ねぇ、同種かな。金の為に動く、そう思っていい?」
 猫の如く紫の目を細めたルキアが、不意に尋ねる。
「何が同種で、何をもって金の為ってな印象に捉えたかは、知らないが。ま、フランス人の私がロシアのKVの設計案をって辺りで、既におかしな話だけどね」
 煙草の煙を吐くリヌに、何故か剣が驚いた顔をし。
「え‥‥リヌって、ロシア人じゃないんだ?」
「残念だけど、ツンドラで木を数える趣味はないよ」
 確認した相手へ、フランス人のジャンク屋は笑った。

●NewWay/1
 ジュースとワインと軽い料理が並べば、場の空気も砕けた感になった。
 軽く自己紹介をし、まずは新しいKVのプロジェクトの為にグラスを掲げる。
「新しい電子戦機の参戦は、正直有り難いですわね」
 少しグラスを傾けて口を湿らせてから、クラリッサはくすりと笑んだ。
「電子戦機は激戦に向かないイメージがありますけれど、堅剛な機体を作るプチロフならば、きっと良いものが出来ると期待しております。良き機体の完成の為に微力を尽くさせていただきますわ」
「機体を1からか‥‥なんか、ドキドキするな。いい機体、作り上げようぜ!」
 意気込む剣は、友人である秋月 祐介がまとめた資料をテーブルへ置く。
 この場に参席する事は出来なかったが、祐介のプランは剣へ託されていた。
「あ〜。でもあんま事前に話せず、皆すまねえ‥‥だが、よろしくな。カナートさんも」
 わざわざ律儀にルクシーレが詫び、それから改めて挨拶をする。
「こちらこそ。今回は新型機に対するアイデア出しだから、そう気にする事もないさ」
 手にしたグラスを掲げた起太は、全く気にする素振りもなく。
「ちょっと苦手な話題なんだけど、『ラスト・ホープ』に縁のある整備部があって‥‥差し入れを持っていく代わりに、相談に乗ってもらってきたわ」
「それは、楽しみだね」
 小さくシャロンは肩を竦め、指を組んだリヌは揃った者達を目で促した。

「あ、じゃあ、最初に話していいかな?」
 口火を切ったのは、ルキア。
 美味そうにボルシチを食べていたが、フォークを置いて手を挙げる。
「でも難しいコトは、先輩に任せるね。私自身はまだ、ULT傭兵のキャリアも浅いし」
 話すだけ話したら、後は聞く側に集中する‥‥そんな心積もりらしかった。
「気兼ねなく、だ。まだ、デザインからの段階だからな」
 コールが視線を投げれば、リヌは首を縦に振る。
「それじゃあ、遠慮なく。目指すところは、長く戦場にいられるKVだよね」
 言葉を切って、ルキアはグラスの水を少し口に含んだ。
「アクセサリを多くして、カスタマイズ性を重視。代わりに、副兵装は少なくてもいいかも。
 性能的には、操縦者がカバー出来るトコはあんまりいらないよ。
 長くいて有利な状況を作れるのが、電子戦機だと思う。なるべく戦場にいれるよーに、耐久性が高くて、生存性も高くて、逆に回避性能とかその辺は低くてもいい‥‥かな?
 陸戦とかは、オミットしちゃってもいいや。飛行機みたいに、命中精度を上げてー、銃器ぶっ放せば! 砲撃のイメージ、なんだよね!」
「砲撃が出来る支援特化機体、それは俺も目指したいところだぜ!」
 勢いよく銀髪を揺らし、剣もルキアの提案に賛同する。
「機体の基礎的な性能も、同じ感じかな。防御の面を重視して‥‥ただ、コレだけは外せない。プチロフの実弾兵器を積めるだけの、キャパシティ!」
 びしっと、ナイフの先を剣はリヌへ向けた。
「武器やアイテムのスロットは並でいいから、後は機動力のあるヤツに付いていけるだけの足も重要だね。
 後は、変形機構を出来るだけ省略、簡略化して‥‥例えば、腕を折りたたむのみにする、離着陸用の車輪パーツを大きくして、そのまま脚とするってな感じで、変形に手間取る隙をなくすと同時に、装甲の継ぎ目を少なくする事で、装甲を強固にする。
 更に各パーツが分かりやすく作れるから、整備面やコスト面でも期待できるだろ。イメージとしては変形ロボじゃあなく、『兵器』への先祖返りってトコかな」
 一気に説明をした剣は、グラスを取るとひと息で中身を干す。
 それを見て、コールがワインを注ぎ足した。
「秋月の希望も『重装甲電子戦機で並の機動力があるヤツ』って事、加えとくぜ」
「コストを抑えるなら、既存のKVフレームを使うのも手だと思うんだけどね」
 リチャードはパンを小さく割ってボルシチへ浸し、口へ運ぶ。
 それを飲み込んでから、視線を向ける者達へアイデアを話し始めた。
「基本的には、ロジーナがプチロフの誇りだと思うんだ。で、考えたのが、ロジーナを改造した随伴可能な電子支援機さ。
 基本フレームは、ロジーナベースで頑丈。パーツの共有化で整備効率、生産性はアップする。しかもロジーナと同じ様に戦えるから、正規軍でも採用の可能性が出てくる。
 まぁ、電子戦用のユニット乗せるために、拡張性を犠牲にしないとダメかもしれないけどね」
 それからリチャードはフォークを取ると、ビーフストロガノフへ手をつける。
「電子戦という分類に分かれる機体は、最後の最後まで生き残ってナンボなんだ。
 でも現状は安物の岩龍、まだまともな斉天大聖、価格の高めなウーフー、紙装甲な骸龍ってトコロかな。
 ここで電子戦装備を持ったロジーナシリーズが出てくれば、最前線でガチで殴りあえるタイプの電子戦機が生まれるだろうね。
 例えば、強襲降下作戦で橋頭堡確保するみたいな作戦でも、最前線で支援機として参加できるんじゃないかな」
「確かに、現行の電子戦機は岩龍は足が遅く、脆くて戦闘力も付け足しでしかありません。骸龍、斉天大聖は足は速くとも脆く、兵装スロットの不足で継戦能力に乏しい。辛うじて、ウーフーが主力機と帯同出来る機体‥‥となっています」
 リチャードの言葉に同意したクラリッサは、口元を膝のナプキンで拭い、後を続けた。

●NewWay/2
「プチロフらしい頑丈さを生かし、主力機に帯同出来た上で、最前線にて生き残る事が出来る電子戦機。ウーフーはどちらかと言えば知覚よりの機体ですから、物理攻撃を重視する事で差別化が図れるのではないでしょうか。
 性能面は先の意見に同意しますが、現行の主力機の機動性を考えれば、そこは確保して欲しいですね」
「皆、いろいろ考えてるのね」
 クラリッサの案にシャロンが感心し、どんっとルクシーレはテーブルへ手を置いた。
「俺は、ジャンク屋のあんたにだからこそ、提案したい機体がある!」
「‥‥へ?」
 思わぬ方向からのアプローチに、リヌが片眉を上げる。
「『PT−034 ナーシャ』の電子戦機化だ。こいつがたぶん、ロジーナ系の機体に置き換えが進んでるみたいで、第一線を引き始めてると思うんだ。
 いわば、『壊れずしてジャンク』になりつつある機体。どうだ? これを復活させたいってな感じで、ジャンク屋の血が疼いてこないか!?」
 挑むように尋ねるルクシーレに、リヌは眉を寄せ、考え込む。
「既存機体の流用って事かい? ただ、私はジャンクのリサイクルには手を回してないからねぇ。機体の世代交代も、あって然るべきだろうし」
「そっかぁ。そういやテストケースらしいけど、この企画そのものは単独で完結してるん?」
「ああ。集めた案から、設計プランを引いて。ドレにするかはまた、意見を聞く事になるだろうけど」
「で、新型の電子戦KV誕生ってトコ?」
「だね。テストケースてのは、相手をする先と機体の方向性が決まってるからさ。本格的にチームが立てば、ソコの根っこから検討する事になる」
「なるほど‥‥本っ当に、ゼロからなんだな!」
 納得したように、ルクシーレは勢いよく背もたれに背中を預けた。
「う〜ん‥‥電子機って事で、フレームは新規でもいいかも。機能自体が違うので、通常機のフレームに無理に詰め込むより、そっちの方が逆に効率的かなと」
 皆の手が進む様子に安堵した硯が、また別の方向を提案する。
「基本性能としてはロジーナ同様に知覚の面は捨てて、IRSTと物理砲撃をメインにして。あとは、やはり頑丈さですかね」
 語る友人の隣で、起太はくつくつと不敵に笑い。
「甘いぞ、すずりん。新フレームならば、いっそ掲げるのは『世界最大のKV』! 西王母を超えるバカでかいKVを作り上げ、傭兵連中の度肝を抜くのさ!」
 思い切った力説に、場が一瞬、静寂に包まれた。
「多くのKVがリリースされている現状、売れるためには何かしらのインパクトが必要。そもそもプチロフファンは、使い勝手の良いマシンには期待していないだろう。
 なら、でかくて何が悪い! と開き直った巨大KVこそが今、必要なんだよ!」
「な、なんだって‥‥とか、言った方がいい?」
 突っ込みを硯が確認するも、軽快に起太はぶっ千切っていく。
「まず、大きくすれば『頑丈さ』を実現しやすい。コンパクトを目指せば相応の技術とコストが必要になるから、あえて逆転の発想さ。
 巨大化によって、新技術ナシで頑健さを獲得。イメージはとにかく堅くて落ちない、護衛いらずの空飛ぶ要塞的なモノ。重量級であるが故に消費練力は通常KVの倍というデメリットを有するのも、アリじゃないかな」
「‥‥標的になるのが早いか、制圧が早いかって感じね。でも単純な重装甲じゃ限界もあるし、品質や技術も必要でしょ?」
 起太へ挑戦するように、シャロンはウィンクを一つ。
「そこで特殊能力の出番。私が考えたのは‥‥耐久面の、回復よ」

●NewWay/3
「プチロフ社って、複数の生産ラインを使った短期間での大量生産を得意にしてて、品質はイマイチでも確実に動くのが強みって聞いたわ。
 で、考えたのは1機の機体に1機分以上の部品を組み込んだ機体。破損を受けることを前提にして、バイパスを用意しておくの」
 つまり‥‥とシャロンは紙を取り出し、二重の丸を書いた。
 円の中央にKVと書き、外からの衝撃が最初の円を破っても、内側の円で止まるイメージを書き加える。
「普段、バイパスの回路は使用しないんだけど、メイン回路が機能不全になるような損傷を受けた時、機能を代替して持ち直させる。
 人に例えるなら、生きるのに必要な臓器のスペアを先に用意する訳ね。技術的に可能かとかは、自信ないんだけど」
「それは、コストがかかるだろうね」
 低価格を目指すリチャードが指摘すれば、頷いたシャロンは目を伏せた。
「ただ‥‥ロシアで、一緒に戦った岩龍のパイロットを失ったことがあるの。電子戦機は敵に狙われやすい機体だし‥‥最高の生存性を目指して、ね」
 沈黙が、降りた。
 死者を悼むような無言の空隙に、ふぅとリヌは深く息を吐く。
「ま、パイロットが乗りたいと思う機体でなきゃあ、意味がない。そこは重要なトコさ」
 そして彼女は、中間意見をまとめる。
 性能のバランス傾向を確認し、IRSTの積極的な活用、アンチジャミング技術に関してはカテゴリCを強く要望する事が決まった。

「特殊能力は一つがジャミング中和装置になるから、残りは一つだね。シャロンのは、さっきのサブ構造として‥‥」
 促すように、リヌが次の段階を切り出す。
「傭兵には何故か、ドリル好きが多い! こいつの駆動方式を取り入れれば絶対に受けるし、ロシアらしい機体になると思うぜ! 電子戦まったく関係ないとか、細けえこたぁいいんだよっ!」
 先の起太に負けじとルクシーレが力説すれば、フロアへ和やかな空気が戻ってきた。
 ロジーナの『斜め45度』や、それに類するジンクス系にちなんだもの。
 あるいは敵の探知や、命中支援を行うシステム。
 既存技術である、垂直離着陸‥‥など。
 忌憚のない数々の能力案が、傭兵達の間から上がった。
「この意見を叩き台に、設計プランがおそらく2〜3案ほど出来上がるだろう。あんた達のプロジェクト・ネーミングは、それに使う事になりそうだね」
 全ての意見をまとめ終えたリヌは、「お疲れ様」と能力者達をねぎらう。
「じゃあここからは、本格的に飲むぜ!」
 気炎を上げる剣に仲間達は笑い、ウォッカやバリザムがテーブルに並べられて。
「プチロフの新機体に!」
 賑やかな音頭に、またグラスが高々と掲げられた。