タイトル:シュテルン改良計画マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 3 人
リプレイ完成日時:
2010/04/05 05:05

●オープニング本文


●老兵と継ぐ者
「くるめたる‥‥とは、デスメタルか何かの親戚であるのか?」
 口には出しつつも、おそらくはそのデスメタルすら何か分かっていないティラン・フリーデンが首を傾げた。
「クルメタル社は、シュテルンを作ったメガコーポじゃよ」
 齢90も近かろうという老人が、面白そうに教えてやる。
「なるほど、そうであったのか。シュテルンという機体は中々に面白いナイトフォーゲルだと思う故、当方も好きなのだよ」
「そうか。じゃが、お前さんらにとってはメガコーポなど、縁がないものじゃろうな。フリーデンは戦闘機乗りとしてのセンスこそ良かったが、後で会うたびに戦争事はもうコリゴリだとボヤいておったからのう」
「そうであったのか。まぁ、じーさまも、あながち間違ってはおらぬと思うのであるよ」
 どこかしょんもりとティランは答えてから、テーブルのコーヒーカップを取って口へ運んだ。
「じゃが、やはり血は争えぬのう」
 言葉の意味が分からないのか、視線を上げてキョトンとした青年の表情に、からからと老人は笑う。
「お前さんも、空からは離れられん」
「そこは反論できぬのである。まったくもって、ハイデ氏のいう通りなのだよ」
 うんうんとティランは何度も首を縦に振りながら、頭上に広がる晴れた空を仰いだ。

 のんびりとした、三月も終わりの午後。
 キメラの脅威は相変わらずではあるが、ドイツの空はワームが飛び交う事もなく、戦火に巻き込まれる事もなく、ただ青かった。
 あの空の更に高い場所にある、成層圏。
 そこへ無線中継局を飛ばすのが、ティランが中心となって行っている『成層圏プラットフォーム・プロジェクト』だ。
 そして既に故人となっているティランの祖父も、かつてはあの空を飛んでいたという。
 第二次世界大戦の頃の話、である。
 当時の祖父とは戦友だった老ハイデは、ティランにとって他人ながらも祖父に近い存在といえた。
 だが老パイロットもとうの昔に現役を退き、今はクルメタル社に顧問として協力しているという。

「それで、氏は能力者諸氏のシュテルンが見たいのであるか?」
 不思議そうに尋ねるティランへ、足元に伏せたシェパードを撫でながら老ハイデが「うむ」と頷いた。
「老い先短い身となれば、自分達の子や孫らがどのように飛んでいるか、気になるものでな‥‥」
 しみじみと老ハイデが遠い目で語れば、なんとも言えない複雑な表情でティランは祖父の親友を見やり。
「などと、しおらしい事は言わんぞ」
「ちょえあぅっ!?」
 慌ててカップを取り落としかける孫の様な相手に、さも面白そうに老人は大笑いする。
「なぁに。最近『ラスト・ホープ』では闘技場とやらで、能力者同士がナイトフォーゲルで戦い、競い合っていると言うではないか。様子見をしておったクルメタルとしても、どうやら良いプレゼンの場になると考えたようじゃな。それに技術のクルメタルとしては、あの場に彼らの『星』が出ぬのが、どうやら癪(しゃく)らしい」
「それは、分からぬでもないのであるが‥‥」
 まだ悔しそうなティランの様子も気にせず、老ハイデは話の先を続けた。
「それに儂がシュテルンを見たいと言うのも、本当なのじゃがな。そこでと、シュテルンを見るついでに、改良プランについての意見を取ってくれと言ってきおった。だから、お前さんを呼んだのじゃよ。フリーデンの孫の中で、一番興味がありそうじゃからのう」
「改良、なのであるか?」
「シュテルンは性能バランスが取れておる、実によい機体じゃ。じゃが、PRMシステムが改良できぬという難点があってな。故に機体自身の伸びが、いささか乏しい。そこに、手を加える事となったのじゃよ。
 加えて、改良によって性能面も若干ながら見直しができる為で、今のシュテルンに何がほしいか、どこが足りないか、使用者としての希望を取りたいようなのじゃが‥‥理解できておるか?」
「うむ。氏には申し訳ないのであるが、実にサッパリ分からぬのである」
 無意味に胸を張って、笑顔でティランが自信満々な返答をすれば、また「はっは」と楽しげに老人は笑う。
「大丈夫じゃよ。細かい技術的な構造などは、儂も知らされておらんのじゃからな」
 それでも、若い者の話を聞いてやる事はできるじゃろうと、老ハイデはアゴにたくわえた白いヒゲを撫でた。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
風間・夕姫(ga8525
25歳・♀・DF
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

●舞い降りる星々
 遠い空から、独特の音が聞こえてくる。
 青空の果てに現れた小さな点は、見る間に近くなり。
 次々に轟音をあげて、空港の上を低空で通過していった。
 そして地平の先で機首を上げてループを描き、反転し。
 再び空港に、戻ってくる。
 高度を落とした機体は一機、また一機と四連バーニアをフル稼働させ、滑走路を使わずに真っ直ぐ地上へと着陸した。
 誘導路を滑り、駐機場へ移動すると、機体は静かに鼓動を止める。
 キャノピーが開く間に身体を固定するベルトを外すと、鳴神 伊織(ga0421)はシートから立ち上がった。
「ドイツはまだ、寒いですね」
 まだ冬の名残を含む外気に身を竦め、黒髪をかき上げる。
 誘導路へ目をやれば最後の一機が着陸したところで、やがて駐機場には11機のKVが機首を並べた。
 全てがクルメタル社のKV、CD−016シュテルンである。
「こうして見ると、壮観じゃな」
 滅多にない機会に車椅子に乗った老人は目を細め、陽光を弾く機体を懐かしそうに眺めていた。
「ハァイ、ティランさん ハイデさん♪ 今回は、よろしく頼むわね!」
 束ねた銀髪を左右に揺らし、冴城 アスカ(gb4188)は車椅子の老人とその後ろに立つ青年へ手を振る。
「年寄りの我が侭に付き合ってもらって、すまんのう‥‥こら、ティラン」
「あ、あわはぎゅっ!?」
 老ハイデが杖で小突けば、ぽかんと口を開けてシュテルンを眺めるティラン・フリーデンは奇声を発し、わたわたと慌てた。
「こ、こちらこそ、よろしくなのであるよ。しかしこうして間近で見ると、実に綺麗であるなぁ」
「好きなのね、シュテルン」
 感心仕切りのティランに笑ってアスカは握手を交わし、続いて節くれ立った老人の手を握る。
「『ラスト・ホープ』でなら幾らでも目にするが、戦域でなければ‥‥珍しくもなるか」
 子供の様に目を輝かせるティランの様子に、愛機の傍らでカララク(gb1394)は口の端へ僅かに苦笑を漂わせた。
「‥‥もうすぐ、だね」
 機体を見上げた赤崎羽矢子(gb2140)は手を伸ばし、ひんやりとした機首を撫でる。
「ええ、ついにバージョンアップですね。長い間、待ちました!」
 両手を青空へ伸ばし、ソード(ga6675)は背筋を伸ばした。
「使いにくかったPRMが少しでもいいものになるように、頑張りましょう」
「やや! ソード君と羽矢子君も、来たのであるな!」
 二人を見つけたティランが大きく手を振って、細い目を更に細めた笑顔でソードは軽く会釈をする。
「お久し振りです、ティランさん」
「コルシカの件では、ソード君にもフレイアにも随分とお世話になったのだよ。変わりなく、元気そうで何よりである」
「いえ、こちらこそ‥‥で」
「むむ?」
「‥‥何故?」
 言わなきゃいけない気がして、お約束をソードが『いい笑顔』で問いかけた。
「それは、当方にもよく分からぬのだよ!」
 無意味に胸を張って笑う玩具職人に、なんとなく反応を予想していたソードもやっぱり笑う。
「‥‥大丈夫、なのか? アレ」
 あまりにのん気な光景に、微妙な不安を風間・夕姫(ga8525)は覚えた。
 クルメタル社の顧問であり、ドッグファイターだった老ハイデはともかく。青年は軍人でもクルメタル社の社員でもなく、一介の民間人で玩具職人だという。
「大丈夫ですよ、たぶん。スマイル、スマイラー、スマイレージ、です♪」
 微妙に不安げな夕姫に、にこやかな顔で須磨井 礼二(gb2034)が答える。
 ‥‥なにげに憶測の言葉を付け加えておく事も、忘れなかったが。
「やっと来ましたバージョンアップのチャ〜ンス、ですしね☆」
 明るい礼二の表情に、夕姫も静かに首肯した。
「少し、いいだろうか?」
 ソードや羽矢子と話す背中へ、白鐘剣一郎が声をかける。
「むむ?」
 ティランが振り返ると、他にも二人‥‥セージとカルマ・シュタットが軽く片手を挙げ、あるいは会釈した。
「話の場に出たいのは山々だが、俺達はすぐ発たなければならない。そこでせめて意見だけでもと思い、まとめてきたんだが‥‥」
 セージの言葉に続いて、カルマも書類袋を差し出す。
「お手数をかける事になりますが。お願い、出来ますか?」
 事情を察したティランはぽむと手を打ち、すぐさま首を縦に振った。
「残念であるが、しかと預かるのであるよ」
「ありがとうございます」
 礼と共にカルマは書類を託し、ぐっと手を握り合う。
 セージと剣一郎もそれぞれに用意した意見書を手渡し、同様に握手をした。
「わざわざ、感謝なのである」
「こちらこそ。結果を、楽しみにしているよ」
 それから剣一郎は、仲間を見やる。
 仲間と視線を交わし、頷き合った三人は、背を向けて自分の機体へ向かう。
 そうして3機のシュテルンは短い滞在を終えて、空へと飛び立った。
「そろそろ、中に入りませんか? 身体を冷やして、ハイデさんが風邪などひかれては申し訳ないですし」
 機影を見送ったセラ・インフィールド(ga1889)が老体を気遣えば、振り返ったティランも頷く。
「ハイデ氏がよければ」
「うむ。名残惜しくはあるが、そうするとしよう」
 車椅子の向きをティランが変え、依頼者の後に続いて能力者達は事務所棟へと向かった。

●クルメタルの意向
「さて。詳しい話は既にULTから聞いておるじゃろうから、本題に入るかのう」
 事務所棟にある会議室で、簡単な自己紹介を終えた一同へ老ハイデが話を切り出す。
「クルメタル社が考えておるのは、諸君らの乗るシュテルンのバージョンアップじゃ。それに先立って、実際に搭乗する能力者諸君に現状でのプランを説明し、プラン内にある選択肢に対して意見を聞く事となったのじゃが」
 老人は言葉を切ると、束ねた参考用の資料を無造作に机の上へ放った。
「単純な数値上のデータより、これまで幾多の戦局を実際にくぐり抜けた諸君らの経験の方が、プランの方向性や必要と思われるものを熟知しておるじゃろうからな。その辺りを、聞いてみたいものじゃよ」
 膝の上で指を組んだ元パイロットは、灰色の目で能力者達を見やる。
 今回、クルメタル社が提示したバージョンアップのプランは、PRMシステムの見直しだ。今まで出来なかった『錬力の総消費量に対する改造』を可能にし、それに合わせて『錬力の総消費量』『瞬間最大出力』の設定についても、同時に調整を行うという。
 この調整比率に対し、実際にシュテルンへ搭乗する能力者達から意見を求めたい‥‥というのが、クルメタル社の意向だった。
「【A案】では双方の上昇率を同値にして、現状のバランスを引き継ぐ。これによって使用時間は従来と変わらないものの、瞬間最大出力が上昇するんですよね」
 先に受け取っていた資料を確かめながら、礼二が提示される内容を確かめる。
「で、【C案】はコレの逆で、瞬間最大出力は現状のまま。総消費量のみを増加して、PRMシステムの使用時間を伸ばす‥‥でしたよね」
「そして【B案】が、言わば【A案】と【C案】の中間的調整だな」
 礼二の『解説』の後をついで、ぽつりと夕姫が呟いた。
「後は機動性などの能力について、若干の強化が見込まれておる。PRMシステムを見直す事で、幾らかの伸びしろが出る可能性があるそうじゃ。それをドコとするかについても、諸君らから希望を取る」
「まぁ‥‥ぶっちゃければ、スロットを増やしてもらう方が有り難いんですけどね」
 ぽしぽしと頬を掻くソードに、アスカが手にしたジッポライターの蓋をカチンと閉めた。
「下手に何かの能力を伸ばすより、とは思うわね」
「ただスロットの件は、今は別問題だ。無茶も言えない」
 目を伏せる夕姫の言葉に、伊織もまた頷いた。
「優先度としては、PRMシステムの強化が最優先だと思います。私も、現状に満足している訳ではないですが」
「‥‥ひとつ、素朴な質問であるが」
 その表情に疑問マークを飛ばしていたティランが、おもむろに手を挙げる。
「能力者諸氏が皆、一様に最強のスペックを突っ込んだ最高かつ究極のマシンに乗り込めば、それで万事が解決し、バグアにお引き取り願えるのであるか?」
 きょとんとした顔で聞く『素人』に、どう説明すべきかを模索した能力者達は顔を見合わせた。
「それは、違うだろうな」
 腕組みをしたカララクが呟けば、笑顔のままでセラも髪を掻く。
「うん。残念ですが、私も無理だと思います。仮に、そんな機体があったとしても‥‥ソフト、つまり操縦者によっても性能は変わります。そしてスペックが最高であっても全てが同じ機体なら、同時に全てが同一の弱点を持っているという危険も内包しますから」
「そうであるなぁ。生物をみても、生き残りに多様性は不可欠というのが自然である故に」
 納得するティランへセラは頷き、羽矢子は紙コップの珈琲をすすった。
「足らない部分は確かに不自由かもしれないけれど、必ずしも弱点ではない。互いに欠けている部分を補ってこそ、見出せる策もある‥‥よね」
「信じられぬ様な劣悪な機体に乗って、信じられぬ様な戦果をあげる者が、昔はいた。じゃが、その陰で無数の撃墜された機体があるのも、また然り。勝利は生き残ってこそ得られるものであり、死んでは元も子もない」
 白い髭を撫でた老人は、60数年前に戦っていた空をちらと見てから一同へ向き直る。
「ともあれ、意見を聞こう。諸君らも忙しい身じゃろうからな」

●星の示す先
 先に去った三人を含めて意見を集めた結果、PRMシステムの見直しに関しては【A案】が8票、【B案】に2票が集まり、【C案】は0票、棄権1票となった。
 能力値の方は『練力』を強化する希望が一番多く、続いて『命中』『回避』の順番だ。
「A案が多い、か」
 書き出された集計に、B案を推した羽矢子は思案する。
「B案だと、中途半端になりそうな気がしましたので。C案は現状の初期練力を考えると、あまり意味がなさそうな気がします」
 選択の理由をセラが明かせば、彼の見解に夕姫も首肯した。
「ああ。防御や回避を強化するのなら、C案でも良いんだろうが‥‥この辺は、装備とかでどうとでもなってくる。インパクトの瞬間だけ対応できれば、効果の継続時間は問題ではないと思う。半端に強化するよりは、出力の強化一本に絞った方が良い‥‥と言った所か」
「なるほどね‥‥一理あるか」
 考え込んでいた羽矢子が、ふむと唸る。
「能力値の方は、練力が多くなりましたか」
 それを希望していた伊織に、笑顔で礼二も同意した。
「垂直離着陸やブーストが練力不足で使えないと、本末転倒ですしね。また、タロスの機動力に対応しやすい機体ながら、決定力がやや不足がちですし‥‥これは必須だと、僕は思います」
「むむぅ?」
 当然ながら疑問顔のティランへ、「えぇと」とアスカは説明する言葉を選ぶ。
「無改造の状態だと、PRMをフルパワーで使ったら練力が80しか残らないのが心許ないのよね。垂直離着陸能力を安定的に運用するためにも、練力の強化は外したくないっていうのが私の感想よ」
「後はやはり、命中などの『傾向を選ばずプラスになる能力』を伸ばすのも手だろう」
 じっとカララクは結果を眺め、ゆっくりと紙コップを傾けていたソードが苦笑した。
「ストレートに攻撃を上げるのも、捨てがたいと思いましたが」
「私は、シュテルンのステータスの中では一番低い回避を選んだ。まぁ、大幅な能力アップは期待できないながら、強化とは別に底上げができるなら、いずれにしても大きなプラスではある」
 ひと息つく夕姫に、とりあえずティランは各人よりまとめた意見を書き留めている。
「ともあれ、これで聞くべきことは全て‥‥であるな」
「ああ、選択を求められた案に関しては。こちらからクルメタルへの『提案』をしたいんだが、構わないか?」
 切り出すカララクにティランはきょとんとし、「どうであろう」と老ハイデを振り返った。
「意見は、聞こう。ただワシらは、クルメタルの技術者ではない。あくまで要望があったと、彼らに伝えるのみになるじゃろうがな」
 それでもよいならばと言う老ハイデに、カララクは仲間を見る。
 複雑な表情を夕姫が返したものの、他の者達は表情に緊張を漂わせて頷き。
 おもむろに、伊織が口を開いた。
「PRMシステムについて個人的な意見を言えば、提示されたバージョンアップ・プランの消費量云々よりは、能力値への変換効率を上げて欲しいです」
「もちろん、クルメタルから出されたプランとの同時強化は、機体の負荷を考えると困難だと思います。どちらかを選べというなら、私は効率上昇を希望させていただきます」
「今は上昇率が1.5倍ですので、これを‥‥2倍にして改造可能にする事が出来れば、と。これが可能なら、錬力の総消費量の改造はなくなってもかまいません」
 セラに続いて、ソードもいつになく強い語調で訴える。
「2倍、であるのか」
『書記』を勤める状態のティランが、他の者達へ問うように視線を向けた。
「できれば、ですね」
 その笑みを絶やさず、礼二はぽしぽしと髪を掻く。
「対象能力値と消費練力が選択可能な以上、『2倍』という数字が技術的に可能なものか、疑問はありますが」
「そうね。更に理想を言えば、このバージョンアップに上乗せしてほしいところだけれど‥‥」
「機体への負荷やバランスを考えたら、逆に今より最大出力を制限すべきかもしれないよ。それで複数回使えれば、少しは扱い易くなるしね」
 希望を出したアスカは小さく肩を竦め、また少し違った意見を羽矢子が述べ、老ハイデはただ黙ってそれらを聞いていた。
「ああ、コレも書き加えておいて。技術のクルメタルが、この位で満足してないでしょ? って」
「う、うぅむ? とりあえず、分かったのであるよ」
 表情に飛び交う疑問符を増やしながら、ティランはそれらを書き留める。
 更に各人よりの要望を取り終えた頃には、予定の時間を越えていた。

「ところでティラン、興味があるなら俺達の兵舎へこないか?」
 機体へ足を運びながら、カララクはティランへ誘いの声をかける。
 何のことやらと目を瞬かせた相手に兵舎の事を説明すれば、「ふむ」とティランは考え込んだ。
「誘いは嬉しいのであるが当方は民間人であり、足繁く『ラスト・ホープ』へ通う事も難しいのであるよ。それに、亡き祖父よりの家訓がある故に」
「家訓?」
「戦争事に関わるべきではない‥‥とな。こうして諸氏らと話す身で言うのも、おかしいな話かもしれぬが」
「いや、そういう事情ならば無理は言わない‥‥残念だがな。クルメタルへの『伝言』は、よろしく」
 一瞬、目を伏せてからカララクが頼めば、ティランは笑んで応える。

「かつて戦場では、より長く飛んでいた者が勝者となったが、時代も変わった‥‥彼らの『星』が、『流星』にならねばよいが。のう、フリーデン?」
 窓から外を眺めていた老ハイデは、亡き友人へと重く言葉を投げ。
 その空にシュテルンの編隊が軌跡を残し、遠く去っていった。