タイトル:Midsummer Air Fest−空マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/13 23:05

●オープニング本文


●ささやかな恩返しを
「エア・フェス?」
 怪訝な表情を浮かべる成層圏プラットフォーム・プロジェクトのスタッフ達に、ティラン・フリーデンは大きく「うむ」と首を縦に振った。
「我が社でも、協賛することとなってな」
「KV開発各社は、絡んでるんですか?」
 ティランの説明に、心配そうなアイネイアスが質問する。
 成層圏プラットフォーム・プロジェクトのスポンサーでもあり、ティランの家族が経営するフリーデン社は、積極的に軍需産業と関与しないという姿勢を取っていた。それから考えると、KVを用いての大々的なパフォーマンスや、商談目的が強いエア・ショーのようなイベントに協力する事自体が珍しい。
「いいや。フェスといっても、あくまでも能力者諸氏への慰労といった感の強いものらしいのだよ」
「慰労で、エア・フェスなのか?」
「まぁ、能力者の人にも、戦闘とかと関係なく空を飛びたいって人がいるもんなぁ。アクロバット飛行とか、純粋に腕を披露したいケースってのもあると思うし」
 いまいちピンとこないらしいチェザーレに、ドナートは何度かプロジェクトに協力した能力者達の顔を思い出していた。
「それで、具体的には何をするんです?」
「うむ。パフォーマンス飛行と、ライブだそうだ。特にライブに関しては、現在稼動中の成層圏プラットフォーム試験機を用いて、イギリス南部やフランス北部へ中継を行う予定である」
「それは、楽しそうですね」
 本国でのイベントという事もあってか、アイネイアスは心持ち嬉しそうだ。
「能力者の諸氏には、実に様々な事柄を協力してもらっているのもある。この祭典が彼らにとって休息となり、いささかの気晴らしとなって恩返しになるのであれば、それに越した事はないのだよ」
 しみじみとティランは珍しく真っ当な事を言いながら、アイネイアスの淹れたコーヒーを飲む。
「その為、現地へ赴く事となるが、留守の間はよろしくなのだよ」
「俺は調整係で同行するとして、アイネイアスかチェザーレが残るだろうから、ここは大丈夫だろうけどさ。でも能力者がくるって事は、こないだ来たフランス軍の人も来るんじゃない?」
「‥‥ぬあぁっ!?」
 ドナートの指摘に、ティランは今更ながら取り乱し。
 やれやれと、チェザーレは溜め息をついた。

●真夏の空と海へ
 数日後、ULTの依頼案内にエア・フェスの情報が掲載される。
 UPCが主催となり、アトラクションとしてKVによるアクロバット飛行や、能力者有志のライブも計画された祭典は、パフォーマンスを行う側にも、純粋に楽しむ側に回る事も出来るという。
 会場はイギリス南部に位置するリゾートタウン、ブライトン。
 もちろんイギリス海峡に面したビーチも能力者達に解放され、残り僅かな夏のひと時を楽しんで欲しいとの事だ。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
ハンナ・ルーベンス(ga5138
23歳・♀・ER
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
イレーヌ・キュヴィエ(gb2882
18歳・♀・ST
ルチア(gb3045
18歳・♀・ST
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

●空に抱く夢
 高く真っ青なカンバスに、ラインが引かれる。
 舞い降りた機体が低空で抜けると、見守る者達は轟音に耳を押さえながら飛び去る姿を一様に目で追った。

 大空を謳歌した翼が戻ると、同行した整備スタッフ達が走る。
 地上へ降りた水上・未早(ga0049)はうなじへ手をやり、長い黒髪をぱさりとかき上げた。
「成層圏を飛んだ時も思いましたけど、やっぱり戦争関係なく飛べるって良いなぁ‥‥」
 名残惜しげに紺碧の空を見る未早へ、こくこくとソーニャ(gb5824)が首を縦に振る。
「この空に戦いじゃなく、夢を描けるなんて最高だね」
「ええ。機体も、実戦じゃここまで思い切れないですものね」
 応えたヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)は、フレーム「オセロ」をセットした愛機F−201Aを振り返った。
 集った八機のKVは、エア・フェスに向けて特別に『ドレスアップ』し、装備も通常の実戦では出来ない『ひと工夫』を加えている。
「コールさん。内容、どうだった? 全体のバランスとか‥‥」
 モニターを確認する整備スタッフ達へイレーヌ・キュヴィエ(gb2882)は駆け寄り、彼らと話すコール・ウォーロックへ尋ねた。
「ああ。最初と比べれば、随分と呼吸が合ってきた。編隊飛行の方も、相互のブレがかなり減って‥‥見るか?」
「え、見ていいのっ?」
 うずうずしていた不知火真琴(ga7201)が、青い瞳を輝かせる。
「ボクも見たーい!」
 大きくクリア・サーレク(ga4864)も手を振り、興味津々なメンバー達が次々と集まってきた。
 賑やかな様子に微笑んで見守るハンナ・ルーベンス(ga5138)は指を組み、空を見上げ。
「例え僅かでも、この翼が希望を繋ぐ虹となり得るなら‥‥」
 誘導路を吹く風が、小さな祈りをふわりとさらう。
 風に乱される髪もそのままに、ハンナは駐機場を後にした。
「全員で見るには小さいな。施設内に、大型モニターはあったか?」
「確か、会議室に。用意します」
 コールの問いに整備スタッフが答え、準備に向かう。
「じゃあ移動して、その後は休憩とするか」
「そうですね。何か用意が必要なら、手伝いますよ」
 同意して、未早も整備スタッフの後に続いた。
「どんな風に飛べてるかな‥‥やるからには、絶対に成功させたいですね。イレーヌさん」
 ルチア(gb3045)が意気込みをみせ、彼女と同じ小隊に所属するイレーヌも大きく頷く。
「観る人みんなに、お空の夢を☆ なんてね。R−01も、こういう活躍の場があると嬉しいんじゃないかな」
 ウィンクしてから、イレーヌは愛機を振り返った。
 バグアとの熾烈な戦いの中、次々に登場する新鋭機に押され、後進に一歩譲った第一世代のKVだが、こだわりや愛着を持って乗り続ける者もいる。
 自身もS−01を所有するルチアは、そんなイレーヌの姿に「はい」と短く賛同した。
「今回は、誘っていただけて嬉しかったです。よろしくお願いしますねっ」
「こちらこそ、よろしくルチアさん」
 互いに笑みを交わした二人は、肩を並べて会議室へ向かう。

 録画した練習風景を見終えた者達は、すぐに意見を交わしていた。
 そんな中、ソーニャは少し眠そうに目をこする。
「大丈夫ですか?」
 彼女の様子に気付いたハンナが、そっと声をかけた。
「うん。昨夜フライトシミュレーターでおさらいしてたら、そのまま寝ちゃって」
「頑張り屋さんですね。でも、風邪を引きますよ」
 優しい微笑と共にハンナが気遣えば、ソーニャは頭を振る。
「平気。チームの中でボクが一番経験不足だし、みんなに迷惑かけたくない。それにエルシアンに乗ったら、頭も起きるから。伊達に空戦ばかり廻ってきたわけじゃないよ。エルシアンと一緒なら、何とかなる」
「それを言えば、うちもKVで戦うのは未だに慣れません。ただ、空を飛ぶ事ならば大好きですし」
 嬉しそうに真琴は、ぎゅっと拳を握った。
「練習、割とサマになってましたね。お客さんにも空を飛ぶ楽しさが伝わるような、素敵なショーに出来る様に頑張りましょう」
「そうですね。演目の開始やスモークのタイミングなど、詰める部分もまだあります」
 眼鏡のフレームを押し上げ、未早が録画ビデオを巻き戻す。
「水上副隊長。1番機、頑張って下さいね!」
 ヴェロニクが応援すれば、彼女は戸惑い気味にはにかんだ。
「責任、重大ですね‥‥そういえばコールさん、お願いがあるのですが」
「何か、頼み事か?」
 やや離れて煙草を吸っていたコールに、「はい」と笑顔で未早は即答する。
「実は演技中の実況や解説、メンバー紹介なんかを、是非コールさんにやって欲しいという声が出てまして」
「‥‥俺が、喋るのか?」
 困惑する相手に、八人の女性パイロットは揃って『いい笑顔』を返し。
 そのチームワークに、コールが肩を落として嘆息した。
「善処しよう。あと今夜は皆、寝床で寝る事。確かにエミタのお陰で無茶は出来るが、ロボットじゃあないからな。では、今から二時間休憩。各自、午後の練習に備えてくれ」
 解散を告げられても、彼女らは再びフライトを見返し始める。
 熱心さに目を細めたコールは静かに扉を閉め、廊下で一人、頭を抱えた。

●Takeoff
 澄み渡った早朝の空の下。
 滑走路に立つ未早は、片手を地面と水平に広げ、ゆっくりと宙を滑らせていた。
 中指が機首。放した親指と小指は翼。
 旋回し、上昇し、ループさせ。
 右手を機体に見立て、彼女は演目のイメージを何度も描く。
「編隊長、時間だぞ」
「あ、すみません。すぐ行きます!」
 様子を見に来たコールに呼ばれ、最後のイメージトレーニングをしていた未早は慌てて駆け出した。

「皆様、今日は宜しくお願いします」
 出発準備を終えた仲間達へ、改めてヴェロニクが一礼する。
「こちらこそ! 最高のフライト目指して、頑張るぞー!」
 元気よくクリアが拳を天へ突き上げれば、「おー!」とルチアや真琴が合わせた。
「では、先に行ってきます!」
 車で移動する整備スタッフ達へ、イレーヌは手を振る。
「嬢ちゃん達も、安全運転でな」
 冗談めかす老チーフにハンナは「はい」と微笑み、細い指を組んだ。
「主よ、このフライトの成功を‥‥」
 そして、轟音を残して八機のKVは小さな空港を発つ。
 ソーニャが地上へ目をやれば、眼下には緑の絨毯が敷き詰められ、その先に密集した建物群と薄青い海が広がっていた。

 現れたKVの編隊に人々は空を指差し、手にしたカメラのシャッターを切る。
 特設ステージが組まれた海岸を飛び越え、海上で旋回したKVは、順次着陸体勢を取り。
 一度限りの曲技飛行隊、『アルカンシエル』はブライトン入りした。

●天駆ける虹の乙女達
『これよりエア・フェスティバル特別プログラム、エアロバティック・チーム「アルカンシエル」の航空展示を開始致します』
 アナウンスに続き、海岸沿いの大通りに八人の女性能力者が現れると、観客は歓迎の拍手を送った。
 彼女らが着る揃いのユニフォームは、各自のパーソナル・カラー(PC)に合わせてアクセントのラインカラーが違う。
『機体番号AEC−1。EF−006搭乗、Holger。PCは白。
 AEC−2。R−01E搭乗、Klee。PCは黄。
 AEC−3。Mk−4D搭乗、エルシアン。PCは青。
 AEC−4。XN−01搭乗、不知火。PCは橙。
 AEC−5。R−01搭乗、キュヴィエ。PCは緑。
 AEC−6。ES−008搭乗、ルーベンス。PCは藍。
 AEC−7。F−201A搭乗、Ripple。PCは赤。
 AEC−8。F−201A搭乗、ヴァルタン。PCは紫。
『ラスト・ホープ」より虹をかける為に訪れた、華やかな八人のパイロットによる曲技飛行を、どうぞお楽しみ下さい』
 緊張した面持ちで彼女らは手を振り、各々の愛機へ向かう。
「大丈夫。あれだけ練習したんだもん‥‥飛べるよ、ボクたちは」
 大きく深呼吸をしたクリアに、「もちろんです」とヴェロニクが応えた。
「こういうイベントは初めてですが、頑張りましょうっ」
 頷くルチアは、キャノピーが閉まる前にイレーヌと目配せを交わす。
「ボクはたぶん、飛ぶために傭兵になったんだよ。まぁ、それ以外、生活手段がなかったんだけどね。だから絶対、このエア・フェスは成功させる」
「ええ。最高の演技を、致しましょう」
 呟くソーニャの言葉に、ハンナは小さく十字を切った。
「機体名とかはつけてませんし、戦闘ではロビンに変わりましたけれど‥‥」
 ハートマークに八色ラインとチーム名入りのノーズアートが描かれたナイチンゲールへ、誇らしげに真琴は言葉をかける。
「まだまだ、大事で大好きなのですよっ。だから、今日は一緒に楽しみましょう」
 ハートマークは搭乗者に合わせてPCが太く強調され、機体番号が入っていた。機体番号のはAECは、チーム名「arc−en−ciel(仏語で虹の意)」に由来する。
 白のラインにAEC−1と書かれたノーズアートのワイバーンに乗り込んだ未早は、『アルカンシエル』のフライトリーダーとして先頭を飛ぶ大役に、目を閉じて気持ちを落ち着かせた。
『AEC−1、Holgerより各機。これより、任務を開始します。楽しんで飛びましょう』
『『『了解』』』
 仲間へ呼びかければ、同時に返事が届く。
 小さく笑んで未早は操縦桿を握り直し、ワイバーンは地を蹴って、飛んだ。

 紹介された順に離陸したKVは、上昇して空へ消え。
 次に現れた時には、ワイバーンをトップに縦一列で並ぶトレイルの編隊を取っていた。
 会場から見える位置まで来ると、機体の後方から白い煙を同時に吐き。
 見上げる者の頭上で、八機揃って360度の水平旋回、チェンジオーバーターンを行う。
 ダイナミックなターンの終わりに、編隊は三角形に並ぶデルタへと移行。
 今度は、一気に急上昇した。
 反る様に高度を上げた編隊は、大きく宙返りして。
 空に描いた円を結ぶとスモークを止め、そのまま上空から離脱した。
 白煙が散った後、目を凝らし、耳をすませて次の演技の予兆を探す人々の不意をつくように。
 背後から、独特の音が急接近する。
 先程のデルタ編隊のまま、八機のKVは視界へ進入した。
 再び機首を上げ、スモークを引いて垂直上昇を始め。
 その先で、一斉にブレイクする。
 空中で大きく開いた一輪の花に、地上では拍手と歓声が沸き起こった。

 上向き空中開花を披露した後は、小編隊での演技へ移行する。
 まず4番機ナイチンゲールと6番機ウーフーが前方から現れ、並んで垂直上昇を始めた。
 ある程度高度を取ったところで、二機は揃ってスモークを出す。
 左右に分かれ、それぞれ縦に大きくループしてから交差すれば。
 残された白い軌跡は、綺麗なハート型を描いていた。
 ハートの中央を目指して、1番機ワイバーンが白煙を引いて飛ぶ。
 一瞬だけスモークを切って、ハートへ矢を射抜き。
 白煙のハートが消える前に、バーティカルキューピッドを完成させた。

 見事なスモークアートが、風に散らされる頃。
 別の方向では、新たな演技が始まっていた。
『大空に咲く幸運のクローバー、全力で描きますよっ』
『ええ!』
 意気込むルチアに、イレーヌも力強く応える。
 2番機イビルアイズと5番機R−01が、銀盤に刻むスケートのエッジ跡の如く、近づき離れながら、同じ動きを繰り広げていた。
 二機の機動は、8の字を描くキューバンエイト。
 それを一機が90度ずらして行えば、クローバーリーフが出来上がる。
 空に描いた幸運の象徴へ、3番機ロビンが仕上げの軸を白煙で加えた。

 和やかな空気を、剣戟の音が切り裂く。
 洋上では7番機と8番機、二機のフェニックスが『空中変形スタビライザー』の特性を生かし、特殊な演技を行っていた。
 別方向から飛行形態で接近し、すれ違いざま歩行形態へと変形して、機刀「玄双羽」と機槍「ドミネイター」で切り結ぶ。
 一瞬のうちに離脱して、再び飛行形態へと戻った。
 傍目には実戦さながらに見えるが、どちらも興を削がぬ程度の『対処』をしていた。
 まず、場所は観客に危険が及ばぬよう、海岸線から適度に離れた洋上で。
 出力を抑えた上で武器のみを狙い、相手KV本体へは兵装を直接――例え寸止めでも――向けないという条件下で、挑む。
『クリア・サーレクの五爪、小太刀五刀流を見せてあげる!』
『受けて立ちましょう。私も負けませんよ、クリアさん』
 任務では肩を並べる仲間へ、この機会、この場限りの闘気を二人はぶつけ合い。
「楽しそうですね、二人とも」
 通信を聞く未早は、仲間達の会話に思わず笑んだ。

 青い機体が90度バンクしたまま海面ギリギリを飛べば、遅れて後ろに波が立つ。
 機体を立てての水平直進飛行ナイフエッジから体勢を戻すと、未早は機首を一気に上げた。
 弾かれた様に駆け上った機体が、突然に静止し。
 失速しながら、真横に機首を反転させ。
 そのまま真っ逆さまに、落下する。
 描く白煙が似ているため、ハンマーヘッドという名のついた曲技の一つと知りながらも、人々は息を飲み。
 息を吹き返してロールする機体に、誰もがほっと胸を撫で下ろした。
 続くソーニャは、ロビンの性能を生かしたトリッキーとも言える機動を披露する。
 まず急激に機首を上げ、機体の尻を滑らせるように、くるりと縦に一回転し。
 もう一度機首上げをして、垂直の体勢にした後、何事もなかったように機首を戻す。
 クルビットに、コブラからテールスリップと、通常の戦闘機ならば失速して墜ちるか、エンジンがイカれる様な挙動を易々とこなすと、上空で旋回する仲間達の元へロビンは駆け上がった。

 再び八機一体となって現れたKVは、斜め一列に並ぶエシュロンの編隊を組み。
 ターンしつつ、それぞれのPCに合わせたカラースモークを流す。
 編隊を解散しつつロールを行えば、七色の軌跡が大空を彩った。

 編隊が作る煙の螺旋の中を、二機の機体が抜けるコークスクリュー。
 背面飛行で飛ぶデルタ隊列を、更に前と後ろに位置する三機の機体が大きな三角形を作り出す、オポジットトライアングル。
 息が合っていなければ難しい技を、彼女らは華麗にクリアして、最後のループに入る。
 上向き空中開花とは逆に、今度は上から下へとスモークを描き。
 水面に迫りながら、八方へ大きく散開する見事なレインフォールで、ショーを締め括った。

「楽しかったねー!」
「みんな、お疲れ様でした!」
 すべての演目を終えて帰還した者達が、お互いに声を掛け合う。
「主よ、感謝致します。私をこのフライトにお導き頂いた事に‥‥何よりも、この素晴らしき方達と共に飛べた事に‥‥」
 感謝の祈りをささげたハンナは、一緒に飛んだ仲間へ呼びかける。
「よければ、記念撮影しませんか?」
 その誘いを断る者など、勿論いなかった。

 その後、地上展示されたKVは終日まで観客に囲まれていた。
 女性だけの曲技飛行隊という珍しさもあって、ひっきりなしの記念撮影や握手に彼女らは戸惑いながらも快く応じる。
 美しく勇壮に空を翔る様は、神話のワルキューレさながらだったと、誰かが言った。