タイトル:汝は咎人なりや?マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/27 01:43

●オープニング本文


●寒い夜の出来事
 ガタンと音がして、思わず飛び上がり、物陰に隠れて身を竦めた。
 音自体は小さなものだったかもしれないが、静かな倉庫の中では妙に大きく聞こえる。
 そのまま、窓から差し込む月明かりの下で息をひそめて、どれくらいの時間がたったのか。
 音はそれっきりで、人影も現れず。
 白い息を吐きながら、強張っていた肩の力を少し抜く。
 気が緩むと、寒さが急に薄い外套の上から突き刺さってきた。

 ‥‥早くしないと、ここで凍えてしまう。

 隠れていた木箱の影から這い出そうとするが、何かの気配を感じて動きを止める。
 緊張し過ぎて感じる、気のせいではない。
 ひたり、ひたり、と。
 水っぽいような微かな音が、上の方から聞こえてくる。
 音は、徐々に自分の上へと近付いてきて。
 注意深く、そっと顔を上げてみる。
 暗い倉庫の中では、天井付近がよく見えない。
 思い切って、ずっと握り締めていた懐中電灯のスイッチを入れ、天井を照らしてみると。

 ソレと、目が、合った。

「‥‥ひっ!」
 思わず出そうになった叫び声を、何とか喉の奥へ押し込む。
 寒さが身体の芯にまで達したのか、震えが止まらない。
 目にしたソレは、倉庫の天井に張り付いていた。
 一瞬ヤモリを思い出したが、大きさはずっとデカい。
 それが頭をもたげ、大きく裂けた口からチラチラ見えていた赤い舌が、ひょろりと自分の方へ伸び。
「う、うわぁ‥‥っ!」
 それが、我慢の限界だった。
 情けない悲鳴をあげ、這う様に倉庫から逃げ出す。
 転がった懐中電灯がくるくると床の上で回り、不気味な影を壁へ投げかけ。
 屋根の上でも別の影が頭をもたげ、逃げる少年の後ろ姿を見送った。

   ○

「‥‥にーちゃん?」
 慌ただしく家へ駆け込む音がして、起き出した少女は眠たげに目を擦った。
 彼女の兄は自分のベットに潜り込み、頭からシーツを被って丸くなっている。
 声をかけても、兄は一向に顔を出す様子がなく。
 眠気に負けた少女は、重い瞼を閉じた。

●容疑者の主張
 翌日の早朝。
 兄妹二人だけが暮らす家に村の人々が乗り込み、兄を連れて行った。
『罪状』は村が食糧を備蓄する倉庫を荒らし、それを発見した村人を扼殺(やくさつ)した事。容疑者となった決め手は、少年が倉庫に落としてきた懐中電灯だ。
「俺はやってない! 確かに倉庫には入ったけど、中にキメラがいて逃げたんだ!」
 懸命に少年は訴えるが、かねてから倉庫を荒らしていた相手に村人達の疑いは晴れず。
 ただ『キメラ』という言葉に不安を覚え、万が一を考えてULTへ連絡を入れた。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
イレーヌ・キュヴィエ(gb2882
18歳・♀・ST
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
今給黎 伽織(gb5215
32歳・♂・JG

●リプレイ本文

●真偽
 一行を迎えたのは、住人達の不安げな視線だった。
 本当にキメラがいるのかという疑念と、実際に存在した場合の恐怖、そして住民の一人が死んだ事への憤り。それらが入り混じり、重い空気が漂っている。
「こんな小さな村にもキメラが出たとは、穏やかじゃないね。早速、目撃者の話を聞かせてもらえるかな?」
 進み出た鯨井起太(ga0984)に、誰ともなく人々は一軒の家を示した。
「念の為に来てもらって悪いが、キメラを見たと言っているのは村の者じゃない子供一人だけなんだ。本当かどうか判らないし、言い逃れかもしれない。もしかすると、無駄足かもしれないが‥‥」
 弁解めいた説明をする一人の男に、少し首を傾けてロジー・ビィ(ga1031)はにっこりと笑顔を返す。
「事情は伺っています。無駄足なら、それに越した事はありませんわ。本当にキメラがいて、野放しになっている方が危険ですもの」
「後で、『被害』があった場所に案内してもらえますか? 倉庫から何か食べ物が消えていれば、それも合わせて教えて下さい」
 柚井 ソラ(ga0187)の頼みに、村の者達は怪訝そうな顔をしながらも首肯した。

 家具も何もない空き家の一室で、『容疑者』の少年は手足を縛られていた。
「逃げられても、困るからな」
 眉を寄せた者達の気配を察したのか、案内した壮年の男が扱いの理由を話す。その間も少年は固く口を結び、見知らぬ顔ぶれを警戒する様に睨んでいた。
「キメラを見たと言うから、わざわざ能力者の人達に来てもらったんだ。もし、嘘なら‥‥」
「本当かどうか判断するには、まず話を聞いてからでないと」
 なじる男を起太が遮ってなだめ、イレーヌ・キュヴィエ(gb2882)もまた大きく頷いてみせた。
「現行犯でもないし、例えば遺痕と手の大きさも一致しなければ犯人と断定できないし、この子は容疑者なのだから、乱暴にしないでね。というより‥‥」
 男の傍へ近寄り、イレーヌはあえて声を落とす。
「この件、白黒はっきりするまで傭兵預かりというのはどうかしら?」
「うん。まだ、完全にその子がやったっていう証明はできないから、キメラの捜索が終わるまで待ってほしいな。縄も、解いてあげて」
 イレーヌの提案に、夢姫(gb5094)も拳を握って訴えた。
 少女達の言葉に男は微妙な表情を浮かべ、ちらと少年を一瞥する。
「だが、こいつが今まで村の食糧を盗んでいた事は変わらない。その辺、忘れない様に頼みます」
 険しい顔つきで言い含めた壮年の男は扉を開き、部屋には能力者達と少年が残った。
「何だか、随分と険悪ムードですね」
 閉じられた扉に、マヘル・ハシバス(gb3207)は表情を曇らせる。
 今回の件が一番の原因なのだろうが、それでも少年に対する村人の反応は冷たく思えた。
「だがそれも、キメラを見つけ出して倒せば少しは晴れるよな」
 彼らを睨む少年へ、今給黎 伽織(gb5215)が振り返る。
「話によれば、幼い妹さんもいるみたいだし‥‥妹さん、きっと寂しがっているよ」
 微笑んで話しかけた伽織に、強張った表情が少しだけ変わったように思えた。じっと見つめる瞳が、何かを思案するように揺れる。
 そんな少年の様子を、ドクター・ウェスト(ga0241)は無言で観察していた。

●事情聴取
「これでゆっくり、話が出来るな」
 少年の前へ腰を下ろした起太が、リラックスした風に大きく息を吐く。起太に続いてソラもまた、床に膝をついた。
「はじめまして、俺は柚井って言うんだ。見た事、教えてくれるかな? あ、先に縄を解いた方がいい?」
 尋ねるソラに、警戒する少年は小さく頭を振った。
「いい。あいつらウルサイから、難癖つけられるの面倒だろ」
「そうか‥‥じゃあ、いきなり本題というのも無粋だけど、どんなキメラを見たんだい」
 相手の意志を尊重し、起太はそれ以上の無理を言わずに話を促す。
「そうですわね‥‥具体的にどこにいたのか、どんな攻撃をしてきたのか、それは何時頃の出来事だったのか。思い出せる限りでいいですわよ」
 柔らかな口調でロジーが要点をまとめ、他のメンバーも思い思いに寛いだ姿勢を取りつつ真剣な目を向けた。そんな能力者達の姿に、14歳の少年は口をつぐんで何かを考え込み。やがて、ぽつりぽつりと口を開き始める。
 村の者が寝静まった深夜、食べ物を盗む為に食糧を貯蔵する倉庫へ忍び込んだ事。
 身を潜めていると何かの気配がして、見上げれば大きなヤモリの様な生き物が天井に張り付いていた事。
 ソイツが長い舌を伸ばしてきたので慌てて倉庫を飛び出し、妹と住む空き家へ逃げ帰った事。
「あんなデカいヤモリを見た事ないから、たぶんキメラだと思ったんだ。でもあの夜、俺は死んだ村のヤツと会ってないし、見てない」
「食糧を保管する倉庫ね‥‥キメラも、食べる物を探しに来たのかしら?」
 話を聞いていたイレーヌは腕組みをし、推測を口にした。
「キメラもロボットではないから普通の動物のように眠るし、腹が減れば食糧をあさる事もあるようだからね〜」
 個人的にキメラの調査を重ねているウェストが、私見を述べる。
「絞め殺した相手を捕食しなかったのなら、人間は口に合わないのだろう〜。人間を殺す事が目的なのかもしれないが、それなら食糧を摂取する必要が出てくるしね〜」
「なら、食糧がある倉庫に現れたのも納得できますね。倉庫の状態にもよりますが、餌で誘い出す事も可能でしょうか」
 仲間を見やるマヘルに、ふつふつとロジーが不敵に微笑んだ。
「念の為に持ってきた物が、役に立ちそうですわね」
 能力者達が行動の方向性を決める間、必要な事を話し終えた少年は足を寄せて身を縮め。
 その肩に、ふわりと毛糸のマフラーが掛けられる。
「話を聞かせてくれたお礼に。ここ、暖房もないみたいだから寒いだろう」
 口には出さないが訝しむ目の少年に、同じく妹を持つ兄は胸を張った。
「対キメラ戦において、その種別を判断する情報は何より貴重。だから、これは正当な報酬だ。妹さんにも、渡しておくよ」
 そして起太は、後ろ手に縛られた手に手袋をはめてやる。
「もう少しの辛抱だから、待っててね」
 励ます夢姫に、小さく少年は頷いた。

「あの子の言う事、本当だと思うな。食料を盗んで細々と生きている彼に、そんな力がある様に見えないですし‥‥」
『現場』となった荒れた倉庫で、物思いにふけっていたソラが真剣な表情で呟いた。
「僕もソラと同意見だね。小さな社会で生きてきた彼にとって、傭兵が駆けつけるなんて事件は大事のハズだろ。彼が嘘をついているなら、もっと動揺したり、しどろもどろになっていたと思う」
 梯子を借りてきた起太は、少年の証言を確かめる様に天井を重点的に調べている。
 仲間の見解に「うん」と賛同した夢姫は、無意識に自分の腕をもう片方の手で触れた。
「普通の14歳の子には、できないと思う‥‥体格差とか身長差とか、筋力差とか、大人とけっこう違うと思うし。殺そうと狙っていて、不意打ちで‥‥って事なら可能かもしれないけど。逆に見つかって慌ててって事なら、単純に逃げるしか出来ないような気がする」
 バグアとの戦いで両親を亡くしたという少年の境遇は、同じ理由で母親を失った彼女とよく似ていて。奇しくも少年と同じ14歳の夢姫には、他人事とは思えない。
「力になれるなら、なりたいな」
「ええ。大の大人を、少年が扼殺出来るか考えて欲しいですわ。冤罪なのだとしたら‥‥早急に解決して差上げたいですわね」
 びしっと、ロジーは人差し指を明後日の方向へつきつける。
「真実は、一つですわっ」
「その為にも、キメラは見つけ出さなければならないね〜」
 答える間もウェストは手を休めず、荒らされている箱の中身を確認していた。
「エキスパートの『眼』、頼りにしているよ〜」
「持てる力を全部出して、解決に貢献したいと思ってるよ」
 これが始めての『実戦』となる伽織はウェストの期待に頷き、落ち着いた素振りながらもどこか緊張をまとっている。
「こっちの作業、終わったわよ。後は、村の人を避難させる場所かしらね」
 壁で配線をいじっていたイレーヌが、手を払いながら仲間へ準備が終わった旨を告げた。

●真実の夜
 日が暮れる少し前。能力者達の呼びかけで、小さな集会所に全ての村人が集められた。
 村人から少し距離を置いた場所で、『容疑者』の少年と妹も寄り添う。孤児の二人に向けられる人々の目は相変わらず冷たく、不安げな妹は拘束された兄の服をぎゅっと掴んでいた。
「お兄さんと一緒に避難できて、よかったね」
 小さな不安を和らげるように、夢姫が声をかける。ソラから借りたライオンのぬいぐるみをぎゅっと抱いた少女は、夢姫を見上げてこっくり首を縦に振った。
「嘘か本当か判らない事の為に、こんな大掛かりな事をする必要があるのか?」
「まぁまぁ。嘘か本当かは、じきに判るさ。安全第一で、今晩のところは我慢してもらえるかな」
 不満を口にする者を、軽い口調で起太がいなしている。
「いるかもしれないなら、警戒はしておいた方がいいはずですから。それに一応、この場所は仲間が安全を確認していますので」
 エネルギーガンを手にしたマヘルもまた、外が見えるよう窓辺に立ちながら笑顔をみせた。
 集会所は日の高いうちに能力者達が協力して、安全確認を行っている。構造上、集会所も倉庫と同じく天井から侵入される危険があったが、それはどの家でも同じだった。
 不安げな人々は自然と声をひそめ、重い空気が漂う中でやがて夜が訪れる。

 五人の能力者達は散乱した倉庫を片付けて場所を作り、そこに文字通りの餌を仕掛けて『犯人』が現れるのを待っていた。
「何だか、気味悪いですわね〜」
「ええ。いるなら、さっさと来てくれるといいんですけどね‥‥」
 木箱の陰で腕をさするロジーに、白い息を吐きながら小声でソラが呟く。
 息を殺して漠然と待つ時間は、長い。
 長い時間の末、現れた気配に気付いたのは、『探査の眼』で警戒を続ける伽織だった。
 身振りで彼は、接近するキメラの存在を仲間へ伝える。
 各々が戦闘態勢に入った事を確認したイレーヌが、照明のスイッチへ手をかけ。
 一つ呼吸を置いて、倉庫に光が満ちた。
 閉じられた空間を、一瞬、風が抜ける。
 天井に張り付いたキメラは驚いたように、あるいは威嚇するように顔をもたげ。
 実弾とエネルギーの塊が、交差して飛ぶ。
 同時にキメラは伸ばした長い舌を振り、電球が音を立てて割れた。
 すぐにランタンを用意していた者が、覆いを上げて視界を確保する。
 壁や木箱へ投げられた長く黒い影が、右へ左へと踊った。
 天井にぴったりと張り付いたイモリ型キメラは、するすると逃げる様に壁の方へ移動し。
 ふわりと、白い髪が舞う。
 淡い青の闘気をまとったロジーが、木箱を足場に駆け上がり。
 振られる長い尾に、イレーヌはスパークマシンαで援護する。
 直後、ふた振りの白刃が光を反射した。
 ぬらりとした体表から血を噴き出しながら、もんどりうって標的は床へ落ち。
 押し潰された様な、ギュウギュウという奇妙な声で鳴く。
「ソラ! 今ですわ」
 ひっくり返ったキメラへ、ソラがスコーピオンで狙いを定め。
 遮る様に、胸の下で折りたたまれていた一対の肢が伸びる。
「往生際の悪い‥‥っ!」
 直刀を振るって、伽織は細い腕を薙ぎ払い。
 続いて、弾丸が撃ち込まれた。
 先端が丸くなった指を持つ前足と後ろ足を、イモリ型キメラがばたつかせる。
「どうやら、物理系攻撃は有効なようね」
 超機械を向けたイレーヌは、緊張を解かずそれを見下ろした。
 瀕死のキメラは、それでも鳴き声を発し続け。
「ふむ」
 その様子を観察していたウェストが、顔を上げて天井を仰ぐ。
「どうやら外に、仲間がいたようだね〜」
「追いますわよ」
 刀を拭って鞘へ納めたロジーは、離れた三人へ知らせる為に呼笛を取り出した。
「外は暗いから、不意を打たれないよう。我輩は調べたい事がある」
「じゃあ、こちらには僕も残ろう」
 ウェストは動かなくなったキメラの傍らに膝をつき、伽織が仲間を促す。
「何かあれば、すぐに連絡するよ」
「お願いします」
 ぴょこんとソラが頭を下げ、三人は残ったキメラを討つ為に外へ飛び出した。

●因果
 緊張した夜が明けた後、村人達は気味悪そうにキメラの死体を遠巻きにしていた。
「吸盤がある前足と後ろ足は移動用で、捕食に捕食用の足を使うんだろうね〜。大きさから、殺された村人の首を絞めたのはコレだろう〜」
 キメラを前にしたウェストの説明に、人々は複雑な表情で顔を見合せる。
(「しかし、ないものだね〜‥‥キメラにエミタは」)
 一方でウェストもまた、微妙に芳しくない顔でキメラの死体をつついていた。

「お兄さんの冤罪が晴れて、良かったね☆」
「うんっ」
 明るく話しかけた夢姫に、少女が勢いよく頷いた。
「キメラは実際にいたし、これで無罪放免かな。災難だったね」
 気遣う伽織に、淡々と少年は会釈する。
 そんな彼らの耳に、村人達と話すマヘルの声が届いた。
「じゃあ疑いが晴れても、あの子を村で働かせる気はないと? 私は‥‥兄妹と皆さんの双方に、非があると思っています。お互いが関わろうとしなければ、何も変わらない。きっかけがあれば、何かを変える事が出来たかもしれないというのに」
「確かに、人を殺めたのはあの子ではなかった。だが、原因である事に変わりない。そもそも、盗みなぞしなければ‥‥」
 暗い表情の人々を代表するかの如く、壮年の男が憤りを吐き捨てる。
「特に死んだ者の家族はこの先、顔を見るたび辛い思いをするだろう」
 重い沈黙が辺りに満ち、少年はマヘルへ首を振った。
「もう、いいよ。気持ちだけで‥‥」
「ならば、『ラスト・ホープ』に来るかね?」
 遠き日の自身の姿を二人へ重ねていたウェストが、兄妹を誘う。だが彼の誘いも、少年は辞退する。
「信じてくれた礼は、言うけどさ。会ったばっかの赤の他人、犬猫みたいに拾って歩いてる訳じゃないだろ?」
「じゃあどこか施設とか、二人が一緒に暮らせる場所、探そうよ!」
 うっすらと瞳を潤ませて、夢姫が訴えた。
「来る前に調べてきたわ。戦争で親を失った子供を、保護する教会があるの」
「ここから、少し離れた場所ですわ。どうします?」
 先に調査していたイレーヌに続いてロジーが静かに尋ね、ソラと起太もまた少年の決断を見守る。
 兄と妹は視線を交わし、繋いだ手に力を込める。
「連れてってくれる?」
「それくらい、させてもらうさ」
 彼らの頼みを、伽織はすかさず快諾した。
「盗みはいけませんわ‥‥でも、強く生きて下さいませ?」
「人の道を踏み外す事なく、兄妹ともに強く生きていくようにな」
 諭すロジーとウェストに、神妙な表情で少年が頷き。
「お兄ちゃん、コレありがと!」
 ぬいぐるみを返す少女の頭を、笑顔でソラは撫でた。